翼を千切られた鳥が再翔するまで   作:Hetzer愛好家

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ソファベッドで寝ていたら天から舞い降りてきた作品です。エタるかもしれませんが頑張って続けます。ちなみに一次創作を作るのは久しぶりなので至らない所があるかもしれませんが、そこは指摘をして頂けるとありがたく思います。

※感想は出来ればお願いします。基本的に自分は感想=モチベです。


第一話 奪われた翼

「君、大丈夫か! しっかりしろ!」

「声が聞こえるかい? 大丈夫、すぐに救急車が来るよ。それまで頑張るんだ!」

 

霞んでいるであろう視界の外から聞こえる声に、少年は何の反応も示さない。どこまでも虚ろなその瞳は、見る者全てが無意識に一歩後退るぐらいには恐ろしい光景である。所謂“レイプ目”をした少年のことを助けようとしている勇気ある人間も、実際の所は一歩下がった状態だ。

 

アスファルトの道路に出来た血の池に倒れ伏す一人の少年は周囲が発する励ましの言葉など一切聞かず、ただ一つのことだけを思っているのだろう。“君が無事で良かった”と。

 

少年のことを意図せずに轢いてしまった軽トラックから現れた運転手は、顔を青ざめながらも少年が守った一人の少女の元へと駆け寄る。

 

悪魔的なタイミングで飛び込んできた軽トラックから少年の犠牲によって救われた少女は、放心しているのか運転手が肩を掴んで揺さぶっても反応しない。ただ、ひたすらに涙を零している。

 

けたたましく鳴り響く救急車のサイレン。たった今、目の前で起こった惨事によって引き起こされる人々の悲鳴。誰が見ても、“この場は地獄だ”と断言するだろう。

 

そんな中、一人の通行人が道端に落ちた財布を見つけた。人の物であると分かっていながらも、好奇心に負けた通行人が物体を拾い上げる。ごくありふれた財布を開いて保険証を見つけた通行人は今さっき轢かれてしまった少年の名前を把握し、放心している少女の元へと駆け寄ろうとした。しかしその時、ハラリと落ちた一枚の紙切れに書かれている一言に、通行人の視線は釘付けとなる。

 

“私は君のことが好きです。返事、待ってます”

 

通行人はガクガクと肩を震わせると、ガクリと膝をついて少女と同じように放心してしまった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「恐らく……もう二度と、彼は競技に復帰することは出来ないでしょう」

「そんなっ」

「命に別状はありません。あれだけ大量出血していたのに生きているだけでも奇跡ですよ」

 

翌日の夕方。少年に助けられた少女は、少年が運び込まれた病院で最悪に近い話を聞かされていた。

 

少年と少女は高校生だ。二人は部活で知り合い、良き関係を築きながら切磋琢磨してきた。少女は先輩である少年に憧れながらも、メキメキと力を付けていった。その先輩が、いきなり二度と競技には復帰することが出来ないと言われて受け入れられるはずがない。

 

「彼は……結城紘平(ゆうきこうへい)さんは前十字靱帯を酷く損傷しています。さらに半月板も損傷し、胸腹部を強く圧迫されたことによって呼吸障害が残ることは明白なんです。競技どころか、一般生活ですらも気を遣わないと生きていけないぐらい酷い怪我をなさっているんですよ」

「そんな……そんな簡単に信じられません! 現代の医療で何とかならないんですか!?」

 

僅かな希望を見いだす少女。しかし現実は無情であった。医師は目を閉じて、ゆっくりと首を横に振る。言葉を発するよりも遥かに絶望へ突き落とす医師の行動は、少女の心を折るのには十分過ぎる役割を持った。

 

「これが、私たちの出来る最大限の処置なんです。医師の私が言うのは良くないんですが、生きているだけでも御の字だと思って欲しいです」

「はい……」

「そういえば、貴女の名前を聞いてませんでしたね。本当に医師失格だ……」

「あ、いえ。いきなり部屋に入って先輩のことを聞いたのは私ですから。私の名前は……」

 

今中愛生(いまなかあき)です。少女は確かに、そう名乗った。

 

この時、彼女はまだ知らない。憧れの結城紘平が、既に愛生の知っている先輩ではないということを。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

寒い。紘平が目を覚まして第一に思った感情はそんな所だった。そして第二に思ったのは、苦しいという感情であった。

 

ぼやける視界の中、紘平は動かない体に鞭打って無理やり起き上がろうとする。が、緊急手術によって麻酔を打たれた体が言うことを聞いてくれる訳がない。結局、指一つ動かすことが出来ずに彼は諦めることにした。

 

「俺は……生きてる、のか」

 

彼は偶々目の前で死の危機に瀕していた愛生のため、命を投げ出すつもりで悪魔的なタイミングで飛び出した軽トラックの前に立ち塞がり、愛生のことを抱き抱えた状態で轢かれたのである。

 

彼はたかが一、二年早く生まれたからと言って威張ることは一切せず後輩にも平等に接しようとする人格者であり、その姿勢は男女問わず誰からも評価されていた。当然女子からの人気は高いのだが、その辺りには疎い性格なので告白されてもキョトンとしてしまう天然さんでもある。

 

ただし悪い癖として、常日頃から物事を最悪のケースで考えてしまう。傍から見ればただのネガティブ思考な人間なのだ。普段は黙っているのでバレることはなかったが……。

 

そんな彼が所属していた部活はトランポリン部である。高校二年生にしてレギュラーメンバーに入れるだけの実力を持っており、トランポリン界隈でも期待の新星として大いに注目を集めるだけの技術を持っていた。

 

彼は無事な愛生の事を確認してから意識を失っており、このまま死んでも構わないとまで思っていたのだ。しかし、こうして今は生きている。その事を確かに実感した紘平は、嬉しく思いつつも碌な事がないだろうとどこか悲観的に見ていた。

 

「失礼するよ」

「……」

「良かった。目が覚めたんだね」

 

目を覚ました時点で看護師が医師を呼びに行ったのだろうと理解した紘平は、目線だけ医師に合わせた。

 

「ふむ。今のところ呼吸は安定してるね。一時はどうなるかと思ったけど、本当に良かった」

「それだけ? まだ、何かあるはず」

 

どこまでも虚ろな瞳で医師を射貫く紘平。そんな紘平に医師は苦笑いしつつ、愛生を絶望の底へ突き落とした言葉を繰り返した。

 

「……鋭いね。そう、なんて言えば良いかな。君の足の事なんだけどね」

「二度と激しい運動は出来ない?」

「君は心眼でも持っているのかい? そうだね……君の足、もっと詳しく言えば前十字靱帯と半月板を損傷しているんだ。しかも胸腹部を強く圧迫されていたから呼吸障害も残る」

 

トランポリンに限らずどのスポーツでも怪我をしたら最後、競技に復帰することが難しくなる部位を怪我したと伝えられる紘平。更にはトランポリンでは何気に致命的な呼吸障害が残ると伝えられて虚ろな瞳がより一層光を失っていく。

 

「今はショックで何も考えられないかもしれない。兎に角ゆっくり休むんだ。それじゃあ……僕は一度業務に戻るよ。何かあればナースコールで看護師さんを呼んでね」

 

これ以上話すことはないと判断した医師が病室を退出する。ポツンと一人残された紘平は、仰向けに寝転がった状態で天井を見つめながら呟くのだった。

 

「どうしたら良いんだ……?」

 




キャラクター紹介は後書きでやります。今回は主人公からです。
・結城紘平
…今作の主人公。高校二年生トランポリン部所属。表情筋が硬く、嬉しいのか怒っているのか判断出来る人は少ない。しかしそんな表面とは裏腹に、死に瀕したヒロインを命を投げ捨ててまで助けようとする熱い心を持つ、クール系のテンプレを地で行く男。ちなみに片目隠れするほどの長髪であり、着痩せするが引き締まった体をしている。
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