ちなみに鬱エンドではありません。というか鬱エンドを書くつもりもございません。書いてる自分のメンタルが死にます()
「あの……失礼します」
「……」
面会謝絶が解けた数日後、愛生が紘平の御見舞にやってきた。彼女は小瓶に花を入れると、窓際の縁に小瓶をコトリと置いた。窓からは憎たらしい程の青空が顔を覗かせている。
「えっと、いい天気ですね。正に快晴というか」
「……そうだな」
青空を虚ろな瞳で見やる紘平。青空を自由に翔ける白い鳥を見た瞬間、ほんの少しだけ紘平の表情が曇ったのを愛生は見逃さなかった。
紘平がこうなってしまったのは全て自分の責任だと感じている愛生は、青空から目を離して土下座するぐらいの勢いで頭を下げた。
「……本当に、すみませんでした!」
「……」
「私がボーッとしてたせいで……先輩にこんな大怪我を負わせてしまって、本当にすみませんでした!」
今にも泣きそうになるのを我慢しながらひたすらに謝り倒す愛生。それを紘平は、感情の篭もらない目で見つめていた。元々表情が出てこない紘平だが、今まで以上に無表情である。人によっては心底どうでもいいと思われていると勘違いしてしまうぐらいに紘平は無表情だ。
「俺が勝手にやったことだ。君が気負う必要は一切ない」
「でも……!」
「最悪の事象が形になって俺の身に降りかかった。ただそれだけのことだ」
「それだけって……! なんでそこまで冷静なんですか!? 先輩が命を懸けてやっていたトランポリンが、二度と出来ない体にしてしまったのは私です! 恨み言の一つや二つはあるでしょう?!」
「ない。自業自得なんだからな。むしろ謝るのはこっちの方だ。俺のせいで、ここまで悩ませてしまって申し訳ない」
何処までも他人事な紘平。常日頃から物事を最悪のケースで考えていたからか、絶望こそしても自業自得だと勝手に納得してしまっている。
対して命を助けられた愛生は納得がいくはずもない。彼女は紘平が大怪我を負ってしまった原因は自分にあると思っている。世間的に見ても、何方が悪いかと聞けば十中八九“愛生が悪い”と答えるだろう。その事を自覚しているからこそ、紘平の態度に思わず噛み付いてしまうのだ。
「そこまでして謝りたいのか? 被害者が良いと言うならそれで終わりだろう。わざわざ心を削ってまで頭を下げ続ける必要があるか?」
「悪いと思うなら頭を下げるのが当たり前でしょう!?」
「そこまで来ると、ただの自己満足に見えてくる。頼むから、謝るのは止してくれ」
ポツリ、ポツリと紡がれる紘平の言葉。しかし愛生にとっては大きな釘を数秒毎に打ち込まれている気分だろう。愛生に自己満足という感覚は一切なく、ただ純粋に自分が悪かったと謝りたいだけなのだ。それをいとも簡単に“自己満足だろ?”とバッサリ切って捨てられてしまうのだ。
しかし、紘平に悪気があるわけでもない。彼もまた、心から自分が悪かったのだと思っている。それ故に頭を下げ続けて心を削る愛生の姿を見たくはないのだ。しかし彼の不器用な気遣いが、より一層愛生の心を傷つけてしまっていることまでは流石に把握出来ていない。
すれ違いから生まれるマリアナ海溝よりも深い溝。絶対零度の如く冷え切っている紘平と、太陽の如くヒートアップして深く考える余裕のない愛生。両者共に歩み寄るのが難しい状況なのは想像に難くない。
「ヒートアップしすぎてるんだ。一回家に帰って頭を冷やしてこい」
「私は冷静です! ヒートアップなんてしてません!」
「ムキになるからそう思われるんだ。兎に角、一度家に帰れ。これ以上ここに滞在しても君が苦しくなるだけだ。それでも居座るなら看護師呼んで強制的に退出させる」
「っ……! 先輩のバカぁ!!」
有無を言わせない紘平の物言いに愛生は紘平からクルリと背を向けて病室から退出した。顔を背けた瞬間に飛び散った水滴は誰かが流した涙だと紘平は理解し、深くため息をつく。その顔には、「やってしまった」という表情が浮かび上がっていた。
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「ぐすっ……先輩……」
カラスがもの悲しく鳴く夕刻の闇。愛生は涙を流しながらトボトボと帰路についていた。彼女は紘平に嫌われてしまったのかと勝手に勘違いし、痛む心を隠しもせずに涙を流している。
たまにすれ違う人間が何事かと気になりながらも深く関わりたくないのか、そそくさと立ち去っていることを知らないまま愛生は歩き続けた。
通行人が拾った紘平の財布から零れ落ちた一切れの紙。あの紙は他でもない愛生が紘平に送った物だ。名前を書いてないが故、紘平は誰が送ったのか分かっていないというオチが付くが。
言うまでもなくあの紙切れはラブレターであり、愛生の嘘偽りのない気持ちを綴った物である。彼女は紘平の全てに惹かれていた。
しかし面と向かって伝えられるほどの勇気は持ち合わせていない。なら手紙で思いを伝えよう。
だが手紙を紘平が見ているところを覗き見たところで名前を書き忘れたという事に気がついて意気消沈するという、甘酸っぱい恋を彼女はしていた。
「ひっぐ……嫌われちゃった、かなあ……」
そんな彼女からすれば、突き放すような発言をした紘平に嫌われてしまったという思考に陥ってしまうのもごく自然のことなのである。乙女に限らず、恋する人間はその相手の一言一句で喜んだり悲しんだりする物なのだ。
「なんで、責めないんだろう。私が悪いのに。先輩の未来を奪ってしまったのは私なのに……」
一方その頃。紘平も窓の外を見ながらポツリと呟いた。
「素直に謝罪を聞き入れれば良かったのか? いや、悪いのは俺だからわざわざ愛生に謝らせる必要はないと思うが……」
彼もまた、愛生を泣かせてしまったことを深く悔やんでいた。いくら鈍感だとしても、女を泣かせることが良くない事ぐらい彼だって把握してるのだ。
しかし同時に、何故彼処までして彼女が謝り倒すのが分からずにもいた。愛生を助けたのは自己満足であるし、それで大怪我したのは自業自得。なのに何故、愛生はそこまでして謝る? と疑問に思っているのだ。
「……俺も結局、自己満足の塊じゃないか。人のこと言えないな」
紘平の呟きに答える者は誰一人として居ない。愛生の疑問に答える者も存在しない。二人の疑問は夕刻の闇に吸い込まれて、やがて消えていってしまった。
今回はヒロインを簡単に紹介します。
・今中愛生
…ヒロイン。ぶっちゃければ準主人公。高校一年生トランポリン部。純粋だけど奥手な恋する女子高生。明るく素直で真面目。あと天然さん。体型はスレンダーで髪型はセミロングヘアかハーフアップ、またはポニテ。ちなみに身長は紘平より10cmぐらい低い。