翼を千切られた鳥が再翔するまで   作:Hetzer愛好家

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初期プロットではバッドエンドを書こうとしてました。が、バッドエンドを書くのって案外簡単なんですよね……しかもいきなり落とされたら読者も離れそう(打算ではない。断じてない)


第三話 機械化

「改造手術?」

「そう。君の足をもしかしたら治せる……とまでは行かないけど、競技には復帰できるようになるかもしれない最後の手段だ」

 

翌日になって紘平は、医師から“改造手術”という謎の単語を聞かされていた。訝しがる紘平に医師は特に気にすることなく話を続ける。

 

「君の体で二度と普通の療法では治せない部分を機械化して機能を回復させる手術だよ。早い話がサイボーグになるということだ」

「……具体的にはどの部分を?」

「そうだね……君の体で無事な部分である脳や腕、性器は手術をしないよ。君の場合なら足二本と肺を機械化する。成功さえすれば以前よりも優れた体で競技に復帰できるよ」

「逆に失敗すれば死ぬ可能性だってある、と。当たり前か。足だけならまだしも、臓器まで機械化するんだから」

 

成功すれば競技に復帰でき、さらにはアドバンテージまで手に入れることができる。しかし万が一失敗すれば競技に復帰することは不可能になり、一生寝たきりか死ぬ可能性だってある。この決断によって自分の未来が大きく左右されると理解した紘平は、今一度考える時間を貰いたいと医師に告げた。おそらく命を賭けることになる手術を、今この場で快諾できるほど強い心は持ち合わせてないとも添えた。

 

「しかし左目は機械化しないんだな……」

「そこは申し訳ない。人間の体では三箇所を機械化するのが限界なんだ」

 

昨日愛生は気がつかなかったが、彼は左目の損傷が激しくて抽出している。普段から片目を隠すヘアスタイルで生活していたために、髪の下から包帯を巻いていても気がつかれなかったのである。

 

「そうだ。成功率はどんなもんで?」

「足一本の機械化で大体……そうだな、半々といったところだ。肺に関しては四割を切る手術になるかもしれない。仮に足二本と肺を一気に機械化させるとなれば、成功率は二割ぐらいになる」

「小分けで手術するならどうなる?」

「君の体頼みになる。一週間に一度のペースで手術をするとして、君は最低でも三回は全身麻酔に耐えなければいけないんだ。全身麻酔は体に大きな負担をかけるから、君の体が力尽きてしまった時点で失敗になる」

「なるほど。成功率は数値以上に低い手術になるってことか」

「三箇所も機械化するのは前例のないことだ。仮に機械化が成功しても、君の体が拒否反応を示してもアウト。医師が言うのは良くないが、極めて難しい手術と言えるよ。だが、成功した時の見返りはとても大きい。よく熟考して、最善の答えを導き出してくれ」

 

それでは、と最後に言い残して医師は紘平の滞在する病室から退出し、後には紘平のみが残された。彼の家族は彼が手術の説明を受ける一足前に医師から手術の内容が書かれた紙を渡されたので帰ってしまっている。彼の友人たちも平日であるが故に真昼間である現在は学校で昼飯を食べているところだろう、なんてことを考えながら生気のない瞳で窓の外を見つめる。

 

空はあんなに青いのに自分の心は曇天だ。きっと心の中では記録的豪雨が降っているだろうとぼんやりと考える紘平。昨日に愛生を泣かせてしまったのも相まって、彼のテンションは下の下を這いずりまっわっている。そんな彼のことが余りにも痛々しい姿に見えたのか、病院食を運んできた看護師がどうにかして話題を振ろうとしていた。

 

「えっと、結城くん。ご飯の時間だよ。それにしても今日はいい天気だね」

「あ、ご飯どうも。確かに、憎たらしいほど晴れてる」

「最近は秋晴れが多いよね。彼処まで青いと心が洗濯されていくような気分にならない?」

「かもな……って、最近の病院食は味が薄くないんだな。普通に美味しい」

「若い人が入院して病院食を始めて口にすると、みんなそう言うのよね。やっぱりお父さんやお母さんに病院食は味が薄くて美味しくないって教え込まれてるの?」

「ん……親というか、書籍というか。兎に角様々な場所で病院食は不味いって言われてる」

「あ、なるほどね。でも、私も亡くなったお父さんが“病院食は不味いんだ!”って散々聞かされてきたから自然と病院食は不味いものなんだと思っていたかな」

 

紘平も話し相手が欲しかったので病院食に関しての会話を始めた。一方で意思疎通の素振りを見せたことにホッとした看護師は、紘平から告げられた“病院食は不味い”という風潮に苦笑いしながらも共感する。どの世代でも、病院食は不味いという認識をされていることに“やっぱり”という感情を多少なりとも持っているのか、わりかし失礼な紘平の物言いにも怒ることなく接している。

 

「あ、でもね。病院食はここ数年で美味しくなったらしいよ。それまでは本当に薄い味付けで好まれる物ではなかったみたい」

「“健康的に”を追い求めた結果、味が薄くなったのかもしれないと思ってる。病人に塩分や糖分を摂らせすぎたら良くないから少なくしておこうっていうお節介から生まれたんじゃ……」

「き、君は随分とズケズケ言うね。まあでも、分からなくはないかなあ」

 

結局その後、紘平が病院食を完食してから約二時間にも渡って他愛のない話をした二人。最後は看護師がもう時間だからという理由であっさりお開きとなった。結構な時間を潰すことができた紘平は、ほんの少し心が晴れた気がするのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「あの、先輩……居ますか?」

「居るも何も動けないが……というかまだ学校は授業やってる時間だろ。何故ここに居るんだ」

 

午後二時半ごろ。平日のこの時間は睡魔と戦いながら最後の六時間目の授業を受けている時間のはずが、何故か愛生が病室にやってきたことに驚きと困惑を隠せない紘平。愛生は風の噂で真面目に授業を受けているという事を彼は聞いていただけに、余計困惑しているのだ。部活の練習も真面目に取り組む人間である。サボる姿は想像出来ないが、昨日のことがあって話しにくいと一人悶々としている紘平に愛生はお構いなしに話しかけた。

 

「先輩とどうしても話したくて……早退してきちゃいました」

「最悪の予想が的中したんだが」

「酷くないですか?!」

「はあ……早退したなら今から学校に連絡しても軽く突っぱねられるだけだろうな。送り返すのは不可能か」

「うう、先輩冷たすぎます。早退してでも会いたかったのに……」

「だからって六時間目サボる奴は初めて見たぞ。わざわざサボってでも来たってことは大切な話でもあるのか?」

 

愛生を送り返すのは不可能だと悟った紘平は諦めたのか、少し生気の戻った瞳で愛生を見つめながら授業をサボってまで会いにきた理由を尋ねた。多少の生気が戻った紘平に見惚れていた愛生が続きを催促されたことによってワタワタと慌てて居住まいを直すところを八割の慈愛の目、二割のジト目で見やりながら。

 

「はい、昨日の話でちょっと」

「ああ、昨日は強く言ってすまなかったな。二度と跳べないといきなり言われてショックだったんだ」

「いえ、私もしつこく謝ろうとしてすみませんでした。まさか謝ろうとしたことを謝るとは思っていませんでしたが……」

「お互い様だな。どうも昨日は相手のことを内面までしっかり見る余裕がなかったらしい」

「そうですね。家に帰ってからゆっくり考えたら、先輩の言いたいことがよく分かった気がして……明日にはちゃんと謝ろうと思ったんです。それにしても、昨日より生き生きとしてますね」

「ああ、それはな……」

 

紘平は、午前中に医師から話された“機械化”について話した。成功すればまた競技に復帰できること。アドバンテージを得ることも出来ること。失敗すれば命がなくなる可能性があること。成功率は数値より低いこと。全てを話した。愛生は紘平が競技に復帰できる可能性が出来たことに歓喜したものの、復帰するには危険な手術をしなければならないという事実に顔を曇らせた。

 

「先輩は手術を受けるんですか?」

「いや、まだ考えてる。競技に復帰はしたいが、手術が成功するということは人外になるということだ。生まれ持ったこの体を捨てないといけない。しかもアドバンテージを得るということは不正しているのに近い」

「私は……先輩が受けると言うなら止めはしません。でもどちらかと言えば反対です。危険な目に遭わせてしまった私が言うのもおこがましいですけど死んでしまったら元も子もないですからね」

 

先輩には生きて欲しいんです。でもまた跳んでる所は見たいんですよね。矛盾してます、と肩をすくめながら最後に付け加える愛生。

 

「なあ、愛生」

「は、はい?」

 

突然名前を呼ばれたことで少しドモりながら返事をする愛生。ほんのり頬は紅く染まっている。しかし紘平は特に気にすることもなく当たり障りのない質問を口にした。

 

「俺が跳ぶ姿、また見たいのか?」

「……出来ることなら。私は先輩の跳んでる姿が好きですから」

「それって……」

 

愛生から飛び出した言葉。いくら鈍感な紘平でもストレートに表現されれば気がつく。しかし愛生は天然気質であり、常日頃から男を勘違いさせる言葉を言っていた事を思い出した紘平は気を取り直して質問を続けた。

 

「仮に人外に変わり果てたとしても、本当に跳んでる姿を見たいのか?」

「トランポリンを跳んでる人は元から人外じゃないですか? あんな高く跳んでクルクル回って。傍から見れば先輩は既に人外ですよ」

「おいおい、随分な物言いだな」

 

キョトンとした表情で“元から人外だろう?”と口にした愛生に紘平は苦笑いする。しかしそれと同時にどういう訳か愛生の事を愛らしく思った紘平は、思わず手を伸ばして彼女の頬を一撫でした。

 

「先輩?」

「いや、何でもない。それより最後の質問だ。本当に、生きてて欲しいと思ってるか?」

「当たり前じゃないですか」

「……そうか」

 

滅多に見せない、苦笑いではない笑みを浮かべた紘平。愛生も片手で数えるぐらいしか見たことのない紘平の本当の笑顔に、心拍数が高まるのを感じた。

 

紘平は緩めていた目元を引き締めると、普段は左目を隠している前髪を払った。

 

「先輩、その目は……?!」

「吹き飛ばされて転がった時にやっちまった。治すことは出来ないから抽出したんだ」

「そんな……でしたら尚更反対です! 隻眼でトランポリンをやるなんて危険すぎます!」

「それぐらいなら何とか出来る。問題なのは跳ぶことすら不可能な体を治す事だ」

「確かにそうですが……!」

「俺の決めたことなら止めないと言ったのは誰だったかな?」

「それとこれとは話が別です!」

 

再びヒートアップしそうになる愛生。それにいち早く気がついた紘平は、彼女の震える手をそっと握った。

 

驚く愛生を気にすることなく、彼は告げる。

 

「いつか、帰ってくる」

「ッ――」

「それまでは待っていてくれ」

「でも……」

「心配するな。約束するよ、帰ってくるって」

 

昨日のような虚ろの瞳で言われれば信じることは出来なかった紘平の言葉。しかし今はどうだ。その瞳には確かな決意が宿っており、何者も動かせない不動転の意思を感じられる。

 

テコでも彼の心を動かすことは不可能だと悟った愛生は、俯いて唇を噛む。ほんの少し、しかし体感的には何十分にも感じる時の後に、愛生がポツリと呟いた。

 

「……絶対と約束してください」

「絶対、か?」

「絶対です。わがままなのは分かってますけど、そうじゃないと了承出来ません……」

 

絞り出すようにお願いをする愛生。彼女は不安なのだ。片思いながらも愛していて、さらには命の恩人である紘平が先立ってしまうのは何がなんでも止めたいのである。まだ気持ちを伝えられていないし、恩返しも出来ていない。このまま先立たれてしまったら、とても耐えられない。それが、彼女の切なる思いであった。

 

それを完全に、ではないがある程度は理解出来た紘平。無理やり体を起こすと、静止する愛生構わずその手に抱き寄せた。

 

「せ、せせせ先輩!?」

「分かった……絶対だ。絶対に帰ってくる」

「ひゃ、ひゃい!」

「だから、帰ってくるまで待っていてくれよ。その時は……」

「そ、その時は……なんですか?」

「……内緒だ」

「せ、先輩。意地悪すぎますって。というか急にどうしたんですか? 前までこんなことしなかったのに……」

「すまん。人肌が恋しかったんだ。しばらくはこのままでも良いか?」

 

勿論です! 私の方からお願いします! ……なんてことは言えない愛生は、コクコクと首を縦に振るだけで精一杯だった。

 




紘平も天然さんです。恋愛に興味がなさ過ぎてどこまで踏み込んでいいのが分かっていません。え、爆発しろ? ヤダナー()

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