ちなみにこの小説の終着点はある程度決まってます。大連載するほどの長さにはしませんので、多分年内には完結すると思います。、
ガシャン ガシャン
トランポリンのベッドを踏む度にバネが弾ける音が響き渡る。人によって様々な音色を奏でるトランポリンだが、上手い人が踏むほどトランポリンも良い音色を奏でたりする。
「うん、今日もいい音鳴るね」
地上から四メートルぐらいの高さまで跳び上がりながら愛生が呟く。彼女はトランポリンが好きだが、それ以上に飛び跳ねる度に鳴り響くトランポリンの音色が大好きだった。
彼女は目で見てトランポリンを跳ばず、耳で聞いて跳ぶという非常に珍しい人間だ。それ故に器具の不調や手抜きのセッティングはすぐ彼女によって看過される。
傍から見れば薄気味悪い光景とも取れるのだが、彼女の能力のおかげで事前に怪我を防げた例が何件もあるため、トランポリン部の部員は彼女に感謝してもしきれないと言う。
「愛生、今日はどんな感じ?」
「何も問題ないよ。器具のせいで怪我をする、なんてことはないと思う」
「了解。本当に助かるわ」
一度跳ぶのを止めてトランポリンから飛び降りる愛生に、真衣は入れ替わるように飛び移りながら礼を言う。彼女をきっかけとして、愛生に礼を言う人が増えてきたところで部活の顧問がやって来た。
トランポリン部の顧問は女子の体育の先生である。腰辺りまで伸びている長髪を軽く束ねており、真衣よりも遥かに大人の女性という雰囲気を醸し出している。しかし性格は底抜けに明るく、生徒の目線に立って物事を考えるため部員は勿論のこと、他の生徒たちも過半数の人間が好いているという、かなり珍しい先生である。
「先生、今日は早いですね」
「あ、普段は遅れてきてるみたいな言い方は良くないよ~! それに今日はお知らせがあったから普段より三十分早く来たんだ」
「お知らせ……ですか?」
何のことかサッパリな愛生。しかしお知らせがあるとなればボーッとしている訳にもいかないため、彼女を筆頭に何人かが集合をかけて顧問を囲む形で集まることになった。
「さて、今日は大切なお知らせがあるので早く来たよ。お知らせの内容は、一ヶ月近く学校に来ていない結城紘平くんについて」
「先輩についてですか?」
「彼が大手術を受ける、というのは知ってると思う。で、手術後のリハビリのために来年まで休学すると今日連絡が来たの」
「リハビリ……! 先生、結城先輩は無事なんですね!」
「そう、無事に手術は全て成功したみたい。今日の昼過ぎに連絡が来たよ」
愛する先輩が無事だと聞いて目の色を輝かせる愛生と真衣。しかしすぐに落ち着きを取り戻すと、愛生は疑問に思った単語を思い出して顧問に尋ねた。
「あの、来年まで休学ってことは……学年は私たちと同じになるんですか?」
「そうだね。まあ今回の事例は仕方ないから一も二もなく承諾したよ。ちょっと変わった関係になると思うけど、以前と変わらずに接してあげると先生は嬉しいかな」
「先輩だけど同級生……不思議な感じですね」
「時間があるならお見舞いに行ってあげてね。あ、でも面会謝絶が解けるのは三日後だから、それだけは頭に入れておいてね。それじゃあ、練習を本格的に開始して!」
パンっと心地よい拍手を鳴らして練習開始の旨を伝える顧問のことを笑いながら見つつ、愛生は三日後絶対にお見舞いに行こうと心に決めるのだった。
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三日後
「ぐう……ぎぎっ」
病室に紘平の悲鳴が響き渡る。手術は確かに成功したものの、彼の体には凄惨では言い表せないほど強烈な痛みが残されていた。鎮痛剤を飲んでも殆ど効果は表れていない。鎮痛剤の効力を完全に貫通しているのである。
しかし大声を出そうとするならば、手術時に新しく出来た胸の傷が開いてしまう。しかも下手に力めばまた凄まじい痛みが体を駆け巡る。のたうち回ることも麻酔が切れていないため不可能だ。痛みをどう足掻いても発散させることが出来ない紘平は、目が覚めてはすぐに気絶するというサイクルを繰り返していた。
「負けられねえ……絶対に帰ると約束をしたんだ。こんな痛みに、負けてられねえ……」
うわごとのように呟き続けるその姿は、誰が見ても目元を濡らすであろう光景である。赤の他人が見たとしても、彼の凄まじい決意の強さに気圧されてしまうに違いない。
「面会時間は午後三時までになります。それ以降滞在するのはお控え願います」
「分かりました。先輩……お見舞いに来ましたよ」
「うわ、病室って本当に味気ないんだ……あ、先輩。お久しぶりです」
「……愛生と真衣か」
痛みに顔を歪めながら声の主の名前を出す紘平。二人にはなるべく心配をかけないように、痛みは無理やり抑え込みながら。
流石に弱々しさまでは隠せなかったが、愛生と真衣は多少安心したのか、普段は絶対に見せない破壊力のある笑みを浮かべた。
「よ、良かった……先輩、乗り越えてくれたんですね」
「どこかの誰かさんと約束したからな。死ぬわけにはいかない」
「ほほう? 愛生、やるじゃない」
「べ、別にそんなんじゃないよ? 私は単純に先輩に死んで欲しくなかったから……」
真衣に生まれた疑惑を振り払うかのようにワタワタと腕を振る愛生。微笑ましい光景を見た紘平は、ほんの少しだけ痛みが和らいだ気がした。
「しかしまあ、本当に隻眼になったんですね。傷も相まって幕末の剣士みたいでカッコいいですけど、義眼は入れないんですか?」
「入れない。眼帯ならするかもしれないが、義眼は入れない。目に異物を入れるのは怖いんだ」
「なるほど、把握しました。それにしても……見た目は普通の足なんですね。もっと機械らしくゴツゴツしてるのかと思ってましたけど」
毛布をかけることもままならないために、短パンから露わになっている紘平の機械化された足は丸見えである。見た目はどこからどう見ても普通の足だ。
股関節には醜い傷跡が残っているが、大抵はズボンによって隠れてしまうので一般生活を送るだけなら言い出さない限りは気がつかれることもないだろう。
「医学の進歩は目覚ましい。成功率は低いが、体全て機械化して不死身になることだって可能らしい。禁忌に人間は触れてるんだ」
「な、なんか先輩変わりましたね。以前よりも達観してるというか」
「先輩が大人びてるのは今更じゃなくて?」
「それは……そうだね」
「お前らなんか酷いな……あ、真衣。机の上に鞄があるだろ。そこに俺のスマホが入ってるから取ってくれないか?」
「あ、了解です」
少しの間真衣が紘平から目を離す。その隙を愛生は見逃さなかった。すかさず彼の近くにそそくさと近寄り、力なく開かれている紘平の手のひらを握った。
しかし視線は合わせない。紘平が特に感情の宿らない瞳で見つめているが、愛生は必死に目を逸らしている。無論、顔を真っ赤にしながら。
ニギニギ サッ ジーッ チラッチラッ
「……愛生もやるわね。抜け駆けするなんて」
「ま、ままま真衣!? これは……違うの! ただ、何というか……!」
「言い訳は聞かないよ。ねえ先輩。私も先輩の手を握っても良いですか?」
「勝手にしろ」
無言で、しかし激しい視線のバトルを繰り広げる愛生と真衣。それを意に介さず、痛みに耐えながら天井を見つめる紘平。
死ぬ危険性のある手術を乗り越えた人間の傍とは思えないような光景を、窓から射し込む日光が優しく照らすのだった。
次回はリハビリに視点を置きます。一概にリハビリと言っても様々なシチュエーションを考えられるので、楽しみにして頂けると幸いです。
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