隻腕の狼、大正に忍ぶ。   作:橡樹一

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 私的多忙により、今後も更新は不定期となります。
 ご了承ください。


藤襲山に潜む影

 鱗滝からの呼び出しを受けた狼は、幸い緊急性の高い任務が無かったため翌々日には鱗滝の家へと向かうことができた。

 狭霧山へと到着した狼を迎えた鱗滝は、普段の気丈さからは考えられないほどに憔悴していた。

 

「狼か。よく来てくれた」

 

 声には張りがなく、つい先日までの活力すら失われている。

 

「鱗滝殿、いったい……」

「立ち話でする話ではない。そもそも、儂もすべてを聞いているわけではないのだ」

 

 そう言いながら、鱗滝は狼を小屋へと先導した。入ってすぐ、狼も寝室として使用していた部屋に広がっていた光景に、思わず目を見開く。

 

「こ、れは」

 

 そこには感情が抜け落ちた顔の義勇と、今にも死にそうなほどに思いつめた表情を浮かべた錆兎が布団で横になっていたのだ。

 

「見ての通りだ狼。儂とおぬしが共に教えた子供たちは選別から帰っては来られたのだが、無事とは言えん。話を聞いてやってはくれんか」

 

 弱々しく告げる鱗滝は、自分がいては話しにくいだろうと小屋を離れた。鱗滝の気配が小屋から十分に遠ざかったことを確認した狼は、錆兎の前にしゃがみこむ。

 

「狼、さん」

「あの山でなにがあった」

 

 弱々しい錆兎の声に重ねるようにして、狼は問いを投げた。

 返答は沈黙。未熟ながらも確かな実力に裏打ちされた、どこか不敵な笑みを浮かべることすらしないままに錆兎は俯いたままだ。錆兎の心情の変化を敏感に感じ取り、すぐさま励ましていたはずの義勇も動く気配すらない。

 

「最後に見た時点で、2人の実力はあの山の鬼程度にどうこうされるものではなかった。実戦での恐れなど、たかがしれている。ならば考えられるのは、よほど想定外の何かがあの山でおきているのだろう。

 もう一度聞く。あの山で、なにがあった。いや、なにが潜んでいる」

 

 重ねて問いかける狼へ、錆兎は油の切れた人形のような動きで布団から起き上がり正面から向き合った。

 

「……この身の不甲斐なさを曝すことになります。言い訳にも聞こえますでしょうが、それでもよいのであれば話しましょう」

「かまわん、話せ」

 

 一切の間を置かない返答に、錆兎は力なく微笑む。そして、最終選別で何が起こったのかを語り始めた。

 

 

 

 藤の花が狂い咲く山の中腹に、錆兎と義勇を含めた隊士志望の若者たちが集まり女性の話を聞いていた。

 

「それでは、いってらっしゃいませ」

 

 簡潔な説明を終えた女性が優雅にお辞儀をしたことを確認し、錆兎と義勇は山中へと駆け込む。藤の花が途切れるやいなや、数匹の鬼が我先にと肉を求め襲いかかってきた。並の人間ならば即座に肉塊と化す襲撃にも、鬼殺の隊士となるべく訓練を重ねた若者にとっては大した脅威とはなりえない。

 

「水の呼吸参ノ型、流流舞い」

「水の呼吸肆ノ型、打ち潮」

 

 義勇の清流のような剣筋が、錆兎の荒々しい波のような斬撃が瞬時に鬼を解体し、急所である首を断たれた鬼たちは自身に何が起きたのかを把握する間もなく灰と化した。

 一呼吸おいて刀を収めようとした錆兎の視界に、木陰から跳躍した鬼の姿が映った。狙いは無事襲撃を切り抜け気が緩んでいる義勇。獲物を狩った瞬間である、最も気が抜ける瞬間をつかれたのだ。

 鬼の襲撃に対処したため義勇と錆兎の距離は離れており、庇うには遠すぎる。未だ刀を収めていない義勇に対し、錆兎は咄嗟に叫んだ。

 

「義勇、弾け(・・)!」

 

 錆兎と義勇が師と仰ぐ鱗滝が、ある日突然連れてきた鬼殺の隊士。無駄を嫌う鱗滝がわざわざ呼んだだけはあり、未熟な錆兎から見ても尋常ならざる実力を秘めた男に叩き込まれたその技は、期待通りの効果を発揮した。粗雑な鬼の一撃を、義勇は体に染みついた動きで弾き飛ばしたのだ。

 

「水の呼吸壱ノ型、水面斬り」

 

 予想外の反撃に大きく体勢を崩した鬼目掛け振るわれた錆兎の一刀は、一切の障害無しにその首を切り落とした。

 

「さ、びと、ありがとう」

「倒した後だからこそ気を抜くな。狼さんにも言われただろう」

 

 油断なく周囲を警戒しつつ、錆兎は義勇が立ち上がるのを待った。先ほどの戦闘音を聞きつけ、すぐにでも飢えた鬼が押し寄せてくるだろうことは想像に難くない。

 本来であれば避けるべきその状況は、錆兎と義勇にとってはむしろ願ってもいない機会だった。

 

「修行の成果がこれでわかるな。

 義勇、遅れるなよ」

「錆兎、あまり無茶はしないように。怪我をすれば鱗滝さんが悲しむよ」

「それか怒って修行のやり直しかもな。

 流石にそれは嫌だから、引き際は見極めるさ!」

 

 好戦的な笑みと共に、錆兎は真っ先に飛び出してきた鬼の首を力強く切り落とした。それをきっかけに、木々の間から溢れるようにして鬼が押し寄せてくる。

 この状況を作り上げた錆兎がいまさら怯えるような胆力であるはずがなく、すでに引くことができない状態でなお弱音を吐くほど義勇は軟弱者ではない。

 2人の剣士は互いに背を預け、闇から襲い来る人食い鬼へと刃を向けた。

 

 

 

 異変が起きたのは、選別最後の夜だった。この7日間飛び回るようにして山を駆け巡り鬼を狩ってきた錆兎と義勇にとって、山に起きた異常事態を感じ取ることはあまりに容易く、だからこそ2人の体に緊張が奔る。

 

「さ、錆兎。今日の山は……」

「ああ、静かすぎる。鬼はまだしも、夜に動く獣の気配すら全くしないぞ。

 義勇、警戒を切らせるなよ。何かが起きている」

 

 この選別の最中途切れることのなかった夜の森のざわめきが、パタリと止んでいるのだ。

 鬼が殺気を飛ばしても、それに反応した鳥や獣が周囲から逃げ去ることはあってもその範囲外ではたいした騒ぎにはならない。鬼が首を狩られれば、森の住人は何事もなかったかのように元の縄張りへ戻るのだ。

 しかし、この夜は違った。黒く染まった山中は静まり返り、どれだけ歩いても虫の声すらしない。

 

「錆兎、いくらなんでもおかしいよ。これだけ動いても虫一匹出ないなんて。鬼に襲われているときならわかるけど、今俺たちは歩いているだけだよ?」

 

 義勇の疑問を受けた錆兎は、突然立ち止まり顎に手を当てた。

 

「錆兎?」

 

 相棒の行動に疑問を覚えた義勇が首をかしげるが、思考を走らせることを優先した友は答えない。

 しばしの沈黙を挟み、錆兎はゆっくりと周囲を見渡した。

 

「そうだ、考えれば簡単なことだ。

 義勇、俺たちが鬼と闘っていた時、周囲から獣や虫は逃げていたな?」

 

 錆兎が発した突然の確認に、義勇は訝しみながら頷く。

 

「それで、戦いが終われば……つまり殺気の元が消えれば生き物は戻ってきていた」

「錆兎、さっきから何が言いたいの?」

「簡単な話だ。この夜の間、俺たちはずっと鬼の殺気に晒されていたんだ」

 

 義勇の問いかけに簡潔に答えた錆兎は、刀を構えながら声を張り上げた。

 

「どこにいるのか知らないが、気づいた以上不意打ちが通じるとは思わないことだ!」

 

 夜の闇に錆兎の声が吸い込まれる。わずかな沈黙の後、先ほどまでの静けさが嘘のように木々がざわめきはじめた。

 

「さ、錆兎?」

「義勇、構えろ。俺たちをつけ回していたやつが来るぞ」

 

 慌てて日輪刀を構えた義勇の眼前で、一本の木があっさりとへし折られた。そうして生まれた隙間から、異形の鬼が姿を現す。

 その身長は人を2人縦に重ねたよりもなお高く、3人の人間を超えるほどの体躯を誇る。そしてなによりも目につくのは、全身を覆うかのような無数の手だった。見方によっては手の鎧を身につけたような姿は、錆兎と義勇が今まで見てきた鬼の中で最も人から外れた姿だ。

 

「おい小僧、今は明治何年だ?」

 

 突然、鬼が問いを投げかけてきた。しかし鬼の異様に怯んだ義勇は声を出せず、錆兎はそもそも相手にせず一呼吸の内に斬りかかる。

 完全な不意打ちだったそれは、しかし手の鎧を切り落としただけで躱されてしまった。錆兎は忌々しげに舌を打ち、手鬼はどこか愉快そうに目を細める。

 

「なんだ、ずいぶんと礼儀知らずなガキだなぁ。教え子に躾すらまともにできないありさまとは、鱗滝も耄碌したか?」

 

 その一言に、錆兎と義勇の時間が止まる。

 

「貴様、なぜ鱗滝さんの名前を知っている!」

 

 錆兎の詰問に、手鬼はクスクスと邪悪な笑みを溢しながら答えた。

 

「知っているに決まっているだろう。俺をこの藤の牢獄に閉じ込めたのはあいつなんだからな」

 

 その一言に、錆兎と義勇は眉を顰めた。彼らが知る限り、鱗滝は何年も前に鬼殺隊の隊士を引退しているのだ。にもかかわらず、眼前の鬼は鱗滝がまるで現役のように話している。

 

「選別に使われる鬼は共食いと参加者の斬首で数年と生きられないはずだ。第一、おまえのような異形の鬼を捕らえるわけがない。

 言え、どんな手を使ってこの選別会場に入り込んだ」

 

 錆兎が刀を突きつけ問いただすが、手鬼は意に介さない。

 

「俺がここに閉じ込められたとき、まだ俺は鬼になりたてだったからな。この藤の牢獄で、俺は鱗滝への恨みを支えに生き延びてきたんだよ。

 この長い間40人は喰ったなぁガキ共を。で、お前たち2人で12だ」

 

 人を食い殺したという事実を平然と語る手鬼へ錆兎は怒りに刀を震わせ、義勇は恐怖から息を呑む。そんな2人へ、異形の鬼は見せつけるように指を差し出した。

 

「おまえたち鱗滝の弟子たちはちゃんと別に覚えてるからな。あいつは育てた子供たちが一人も帰ってこないのにまだ弟子を育て続けてる。

 みんな俺が喰ってやるって決めているんだ。俺をこんなところに閉じこめたあいつにはふさわしいだろう。その狐面が俺に教えてくれるんだ、あの憎たらしい鱗滝の弟子だと」

 

 手鬼の言葉を最後まで聞くことなく、錆兎は地を蹴って跳びだした。背後から聞こえる義勇の声を無視し、ただまっすぐに手鬼の首めがけて突き進む。

 当然手鬼が黙って首を差し出すはずがなく、歪み膨れ上がった体のあちこちから腕を伸ばして錆兎を捕らえんとする。

 

「水の呼吸拾の型、生々流転!」

 

 この状況下で錆兎が選択したのは、水の呼吸における奥の手とも呼べる型だった。まるで独楽のように体を回転させながら、若き剣士は迫る手を次々と切り落としていく。そしてその斬撃は、回転を重ねるごとに鋭さと威力を増すのだ。

 飛沫を上げ舞い踊る龍のような型に、流石の手鬼も気圧される。そしてそれを誤魔化すように手を増やすが、錆兎は一切の例外なくそれらを切り捨て手鬼本体へと肉薄した。

 それは、並の隊士から見ても勝ちは揺るがないと確信する光景だったであろう。しかし、共に修練を積んだ義勇は錆兎めがけて弾かれたように走り出した。彼の目には、錆兎の生々流転がひどく歪んでいる様子がはっきりと捉えられていたのだ。

 7日に及ぶ選別で、2人の剣士は毎日鬼を斬り続けた。日が昇るたびに刀の手入れを繰り返してはいたが、限られた道具しかない山中で素人が行う手入れにどれだけの効果が見込めるというのか。

 そして生々流転は強力な型だが、威力に比例して刀にかかる負担も大きい。ただでさえ痛んだ刀身を、高威力の斬撃を連続した直後、しかも怒りのあまり乱れた太刀筋で岩とも例えられる鬼の首へと叩きつければどうなるか。答えは、とてもわかりやすい結末として訪れた。

 

「――えっ?」

 

 必殺の意思と共に鬼の首へと叩きつけられた瞬間、澄んだ音と共に、錆兎の日輪刀はその生涯を終えたのだ。

 眼前の光景を受け入れられずに硬直する錆兎。命を拾った手鬼は、その致命的な隙を逃さなかった。伸ばされきった利き腕ではなく、死角でありどうしても優先対象から外れてしまう錆兎の左腕を、手鬼の巨大な肉塊が包み込む。警戒の外から伸ばされた腕に、ただでさえ思考停止している錆兎は一切の反応ができなかった。

 ぱきり、と、枯れ枝が折れるような音が響いた。

 

「あ、があああぁぁぁぁっ!」

「ああ、いい声だ」

 

 辺り一面に響き渡る錆兎の悲鳴に気を良くした手鬼は、左腕を包む肉塊にさらなる力を込める。同時に抵抗手段を奪うため残りの四肢へと手を伸ばすが、その目論見が達されることはなかった。

 

「水の呼吸肆ノ型、打ち潮!」

 

 錆兎の腕を握りつぶしていた肉塊ごと、その身に迫る手が一息の内に切り落とされたのだ。驚きのあまり動きが乱れた手鬼から錆兎を助け出したのは、助けが間に合わなかった悔しさを滲ませた義勇だった。

 出会ったときの怯えた様子から未熟者と侮り、彼を意識の外へと追いやっていた手鬼は、太刀筋と身のこなしから警戒を高め一度伸ばしていた手を戻した。

 わずかな沈黙の後、手鬼が先手を取った。背後に怪我人を庇った状態では、どうしても動きが限られる。下手に出を伺うよりも圧殺した方が手早いとの判断だったが、その判断が大きな失敗だった。

 

「な、にい!?」

 

 義勇に襲いかかった手が、すべて弾き返されたのだ。はじめに襲いかかった腕が壁となり、後から襲う手が押し止められた。しかも手が重なり合ってしまい、手鬼の視界から義勇と錆兎が完全に覆い隠されてしまったのだ。

 

「水の呼吸陸ノ型、ねじれ渦!」

 

 さらに義勇は重なり合った手を渦の動きで切り落とし、手鬼に操られないよう処理をした。手鬼からすれば、自らの肉を利用した塀が築かれたようなものだ。

 このまま縮こまられていては余計な知恵を働かせられると考え、手鬼は単純な手段に訴えることに決めた。上へ伸ばされた一本の腕へ、次々と手が絡み合っていく。

 

「浅知恵だったなぁ。さあ、おまえたちも俺が喰ってやる!」

 

 巨木と見まがうまでに太く膨れあがった手の集合塊を、手鬼は全力で振り下ろした。地面が揺れるほどの一撃に満足げな笑みを浮かべた手鬼だったが、すぐさま首をかしげることとなる。

 血の匂いがしないのだ。ならば生きているのかと耳を澄ませると、鬼の聴覚は予想外の音を聞き取った。

 

「逃げた、だと?」

 

 遠ざかる足音へと手鬼が視界を巡らせれば、木々の隙間に錆兎を背負って一心不乱に走り去る義勇の姿があった。

 今まで、鱗滝の弟子達を話題にして激高しない子狐は1人としていなかった。誰もが我を忘れ、鍛えた技を乱すほどの怒りを滾らせて襲いかかってきたのだ。

 その経験からすればありえない光景に、手鬼の思考が止まる。その間にも義勇の姿は遠ざかり続け、我に返ったときにはすでに手が届かない距離が互いの間を隔てていた。

 

「待て、戻ってこい! 狐えええぇぇぇぇ!」

 

 手鬼はその巨体から想像できるように、移動が苦手だ。接近戦から中距離戦ならば伸縮自在の手で対応できるものの、逃げる相手を仕留める手段は無数の手による投擲以外に持たない。それも、木々の間を縫うように逃げる義勇には意味を成さないだろう。いくら感情を爆発させ吠えようとも、手鬼は朝焼けが迫る森の中で地団駄を踏むことしかできなかった。

 

 

 話の補足を義勇に求めながらの説明を終えた錆兎は、布団に隠れていた左腕を狼の眼前に曝け出した。手鬼に握り潰されたそれは、生々しい傷跡を表面に刻みながら酷く歪んでしまっている。

 

「日が昇るまで義勇に助けられ、集合場所で処置は受けました。しかし、今の医術ではこれが限界だと。剣士となるのは難しいと、告げられました。

 義勇に助けられておきながら、情けない話です」

 

 迅速な処置に加えて呼吸を修めた者特有の回復力が合わさった結果、肘関節を辛うじて動かすことができる程度にまで負傷の影響を押さえ込むことができたのだ。しかしその動作は非常に緩慢であり、関節の可動域もひどく狭まってしまっている。掴まれた部分が肘を中心としていたため、指の稼働にはそれほど大きな影響がない点が救いといえるだろう。

 このありさまでは、錆兎が言うように剣士への復帰は絶望的と言える。

 

「……ごめん、錆兎。俺が、もっと早く鬼の腕を切り落とせていたら。鬼に怯えないで、錆兎と立ち向かっていけば!」

 

 今まで沈黙を貫いていた義勇が、血を吐くような表情で感情を吐露した。

 

「義勇、それは違う。お前があの鬼の手を切ってくれたから、俺はこうしてここにいられるんだ。お前がいなければ、たぶんあの鬼に殺されてた。

 ありがとう、義勇。あの鬼は俺たちよりも強かった。そんな相手に俺を助けるために立ち向かってくれたんだ。すごい男だよ、お前は」

 

 錆兎の励ましにも、義勇は顔を上げない。重苦しい空気の中、錆兎は狼へと強い視線を向けた。

 

「狼さん、お願いです。藤襲山に潜む、鱗滝さんの弟子を襲う鬼を切ってください。鬼殺隊のお館様直属の隊を率いるあなたなら、許可を得て山狩りができるはずです」

「錆兎、なにを言って!」

「義勇、聞いてくれ。あの鬼は選別に参加する隊士の卵がどうにかできる相手じゃない。本当なら俺たち鱗滝さんの門下生でどうにかしたいさ。でも、そんなこだわりに弟弟子をつき合わせるのか?

 そもそも、選別に存在してはいけない存在がいる時点で俺たちはそれを報告する必要がある。鬼殺の隊士なら、勝てない相手に背を向けてでも情報を持ち帰る義務があるだろう。これを報告すれば、選別に相応しくない鬼として遠くないうちにあの鬼は首を切られる。なら俺は、せめて鱗滝さんと縁の深い狼さんに切ってほしいと思う。

 狼さん。勝手なお願いですが、聞き入れていただけないでしょうか」

 

 動揺する義勇を一括し、錆兎は深々と頭を下げた。それを見た義勇も、慌てて頭を下げる。

 僅かな沈黙の後、狼が口を開いた。

 

「すぐにお館様に願い出てみよう。この身とて鱗滝殿に世話になった。それに、逆恨みから人を喰らう鬼を見逃す義理はない。狼衆の訓練と願えば、無下にはされないだろう。

 今は傷を癒すことだ」

 

 そう言い残し、狼は腰を上げ踵を返した。振り返る様子すら見せず、小屋の扉に手をかける。

 

「あの、ありがとうございます!」

「おこがましいですが、気をつけてください!」

 

 錆兎と義勇の声を背に受け、狼は鱗滝の家を後にした。




 鬼滅の刃 用語集

 人物

 手鬼 ておに
 藤襲山に潜み、鱗滝が育てた隊士を狙い喰らい続けている鬼。
 元は鬼に成り立てのころに捕縛された子供の鬼だったのだが、鱗滝への怨みを糧に藤襲山の中で生き延び異形の鬼と化した。
 無数に生み出した手は、はたして何を掴みたかったのか。本人ですら、知りうる術はすでにない。
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