単行本12巻の描きおろし頁より。
ウォール・マリアに辿り着いた彼らは疲れのあまり眠ってしまいます。ベルトルトは夢を見ました。夢の中の不思議なお話。
 作中では アルミンが少し悪く書かれている気もします。ので、一応警告のタグを付けておきます。 でも、勘違いしないでくださいね。眩草はアルミンが大好きです。
 別サイトの作品を推敲した後アップしております。

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 単行本12巻の続きを思い浮かべて書きました。アルミンが少し悪く書かれている気もします。ので、一応警告のタグを付けておきます。でも、勘違いしないでくださいね。眩草はアルミンが大好きです。
 彼らが一晩、安心して眠れる夜が訪れますように。


ininnocent lovers

 シガンシナの街、まさしく彼らが破壊した街を見下ろす壁の上で、3人は誰にも邪魔されずに眠っていた。

 調査兵団が追ってくるまでの短い微睡。生まれて初めてこんなにも傷ついて、その傷を抱えたまま、生まれたての子供のように眠っていた。

 ウォール・マリアは 高く、硬く、人間らしい部分は何1つなくて、まるで世界には彼らしかいないようだった。

 ベルトルトと、ライナーと、ユミル。

 万物に平等なる天は、しんと静かに、優しく、人類の裏切り者たちを見下ろしていた。

 ベルトルトは深くなっていく眠りの中で彼女について考えていた。

 恋人が何処かで拷問されている。

 苦しい、そう思う。自分の身体が痛むわけではないし、アニと感覚を共にしているわけでもない。それなのに、身体中が死にそうなくらい痛かった。

 果ての無い沈黙と痛みとの中で薄く眠り、ベルトルトは夢を見た。愛している人の夢。 アニ・レオンハートの夢。

 いつの間にか、暗い場所に彼はいた。目の前にはアニが立っている。幸いな事に、アニは拷問されてなどい なかった。彼女の身体と顔は今までのようにとても綺麗で、しかし目を閉じていた。

 彼女は眠っているんだ。

 ベルトルトは思った。夢であることにも気付かなかった。 ただ、彼女がそこにいる。それだけで充分だった。

 その時、彼女の身体は透明な水晶で覆われている事にベルトルトは気付いた。

 恐ろしく硬質で、なんと美しい透明さを持った物質。それが何なのか、彼にはわからない。恐らく、人類のなせる技ではないだろう。悪魔の末裔がどうしてこのような美しいものを作れるだろう。どうして、アニのように強い少女を閉じ込めておくことができるだろう。

 溜め息はどこにも届くことなく、地下室の空気に溶ける。

  アニは薄い瞼を閉じて、死んでいるよ うに眠っていた。 眠っているという事を、ベルトルトは疑わなかった。青白いその顔を見て、ベルトルトはふと、自分が夢を見ていることを思い出す。自分は今、ウォール・マリアの上でライナーとユミルと眠っているはずだ。それでも、その夢はあまりにも現実らしい。

「夢、だけれど嘘じゃないんだね。ア ニ」

 ベルトルトは眠る少女に語りかけた。

  アニはほんの少しだけ、頷いたように見えた。

「僕は、君に会いに来たんだ。君のこ とを考えて眠ったものだから…ほら、アルミンが訓練兵時代に行っていたじゃないか。なんだっけ、愛おしい人を想って眠ると、夢にきっとその人が現れるという…大昔の人類が沢山、詩に書いたという…」

 思い出そうとして、ベルトルトは言葉を切った。

 その言葉は、それ自体がまるで大粒の真珠のように美しかった気がする。しかし、それを教えたのはアルミンだ。アニが拷問されていると嘘をつき、エレンを自分たちから奪った悪魔の末裔だ。

 だから、そんなことは忘れてしまおう。

 それよりも、今はできるだけアニと共に居たい。訓練兵のころ、あんなに焦がれていたのだから。

 差し出されたベルトルトの手が、アニ を覆う物質に触れる。それは、かつて彼 が触れたことのあるアニの頬よりもずっ と冷たく、硬い。 それでも、確かに生きている。傷つけられないまま、彼らの秘密を持って。

「アルミンは、嘘をついた。君が拷問されたと。けれども、彼は本当のことも言った。だから、君に会えた」

  ベルトルトはため息をついた。自分たちの未来は短くても、彼女はきっと傷つ くことなく生きてゆくだろう。 この水晶の中でずっと美しいままだろう。

 その安堵感にふと、涙が零れ落ちた。

 

「…ルト、ベルトルト!」

 

 名前を呼ばれて気がつくと、目の前にはライナーの顔。寝転んだベルトルトを覗きこんでいる。

「あまり深く眠るなよ」

「…そうだね。ごめんね、ライナー」

 目を擦りながら呟く。

「うなされていたのか?」

ライナーが心配そうに、彼の頬に触れる。

「頬が濡れているぞ」

「本当だ。涙が出ている」

  指を濡らす塩からい水。

 もしかしたら、アニを包んでいた水晶も案外こんな悲しい味がするのかもしれない。

 ベルトルトは一つだけため息をつい た。

「心配させて、ごめんね。ライナー。でも、僕は、大丈夫。迷わないで進んでいけるよ。」

 ベルトルトはライナーの目をまっすぐ に見つめた。

「それから、アニも大丈夫だよ。アニは拷問されてなんかいないし、これからもずっと大丈夫。だから、僕らの故郷に帰ろうライナー」

 ライナーが少し困ったようにこちらを見つめる。

 無理矢理だけれど、笑い返した時にふと、アルミンが言っていた言葉を思い出した。

 夢の通ひ路

 その言葉はやはり、悪魔の末裔が考えたとは思えないほど澄んだ光を放っていた。

 




 読んでくれてありがとう!
 タイトルの ininnocent loversは眩草の造語です。日本語にするのなら、罪深き無垢な恋人達、といったところでしょうか。

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