エーリヒが珈琲を淹れるおはなし。


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むしゃくしゃして4日くらいで書き上げた。後悔はしていない。
乱文ですがよかったら。誤字脱字あるかもしれません。


ヘンダーソン氏の福音を 二次創作SS「珈琲」

ヘンダーソンスケール 0.1

 

話の本筋から逸れたちょっとした脱線。TRPGのお約束。


「珈琲?」

 それは荷物を片付けている時に不意に見つかった。時間のある時に定期的な旅装の整備でもしようと思い立ち、各装備の点検を行う中で空にしたはずの荷物袋の小ポケット奥に引っかかるような形でそれは出てきた。

 

 記憶を掘り起こしてみれば怠惰な長命種の師匠に届く贈り物にコレがあり、この世界にも珈琲があったのかとしげしげと眺めていたら「興味あるの?別にいらないから、持ってっていいわよ」との御言葉を賜り、頂いたものだったかと朧気な記憶が脳の奥底を刺激している。

 

 抽出器具が手元に無かったためいつか淹れよう、と考えたまま雑多な物と一緒にしておいた覚えはあるので、よく無くさなかったなとひとりで感心した。やはりというかこの地方の市場に出回ることはないらしく、ついぞ器具を見つけることは無かった。だが今これを見つけてしまった以上、ここでアクションを起こさないと次が無い気がする。

 

 雑多な消耗品を手近な宿場街の露店で買いつつ、ちょうどよい近場の空き地に移動して火種から小さな焚き火を熾す。風も無く、絶好の野営(キャンプ)日和だ。

 使うものはいつもの野営用薬缶と清潔な濾し布。まあ布はあり合わせの安物だが、問題はあるまい。

 豆の量はギリギリ二杯程度だ、使い切ってしまった方が良いだろう。

 先ずは薬缶に水を入れて火に掛ける。煮立つまで当然時間がかかるので、布に包んだ珈琲豆を手頃な石でひたすら砕く。高い習熟度(スケール)に裏打ちされた器用が輝き、薬缶が音を立て始める前に前世でよく見た中挽き豆位まで砕くことが出来た。本当は拠点のキッチン料理場から擂り粉木棒を借りてこようかと思ったが、匂いが強く残る可能性を鑑みやめておいた。

 

 さて、湯気がいい感じに上がってきたのでさっそく粉を蓋を開け投入する。これだけでこの若い体にはかなり刺激の強い、しかし懐かしさのある独特な香りが鼻を擽る。そうそうこの香りだった。豆の鮮度まではいかんせん判らなかったが、拘らなければ別に大したことではない。このまま少しだけ火に掛け、あとは暫くの余熱で抽出を終わらせる。

 

 さてコップはと、振り返った時に何時もの刺さるような<気配探知>の感覚。もう慣れっこになってしまったな。

「何してるのかしら」

 小さな幼馴染(マルギット)が何時の間にか背後に居た。まるで仕留めた、とでもいうような表情で。どうも今日の出目はあまり良くなかったようである。先制(アドバンテージ)を取られてしまったぞ。

「ちょっと息抜きでもね、そっちは?」

 驚きは悟られないように表情に出さない。なんだか悔しい気がするし。

 

 今日は休養日である。パーティーに必要な道具を買いに行くならともかく、仕事以外でも時には別々に行動することだってある。今日はそんな日であったが、彼女は市場に向かったはずだったかと思い返す。

「偶々あなたが普段向かわない道へ歩くのを見ていたから気になりましたの」

 気になった所で話しかけるタイミングを計っていたあたり、平常運転だな。聞けば市場で何やら揉め事があったらしく、陰鬱な雰囲気が蔓延していたので、早々に切り上げたとか。

「ちょっとした嗜好品お茶の代わりが見つかってね、試しに淹れようとしたところさ」

「へえ、それならご同伴してもいいかしら?」

「仰せのままに」

 恭しく頭を垂れる。まあこういう楽しみは共有するのも有りだろう。

 

 さて、それならばと小さな布の両端を持ってもらい、即席の濾し器(フィルター)として器の上に弛ませてもらう。そこに薬缶から中の黒い液体を注ぎ込む。もちろん零れないよう跳ねないよう細心の注意を払いながら。

 

 そうしてどうにか二杯の、自分がよく知っていた珈琲が出来た。あえて抽出器具を木材で制作しなかったのは、この世界にあるものだけで作るーー別の世界の物をあんまりにも持ち出すのは無粋だと思ったからである。え、燃料気化爆弾?うるさい気分だよ気分。

 

 まずはブラック無糖で一口。まだ成熟しきってない舌にはややえぐみが強いが、それでもあの頃を思い出す味わいが十分に感じられた。マンデリン系かな?

「うぇっ」

 聞き慣れない妙な声が上がったのでちらと幼なじみを見やると、珍しく渋面を全力で表していた。私がそのままぐいっと飲んだからそれに習ったのだろうが、久し振りに年相応の反応を見た気がする。スクリーンショットを心で撮っておこうか。

 

 あえて忠告しなかったのは昔の、あの頃の私の気持ちを味わって欲しいという老婆心(いたずら心)であるが、流石に可哀想なのですぐに助け船を出すことにした。

 

「このままでも飲む人はいるらしいけど、コレを入れると飲みやすくなると聞いたよ」

 差し出したのは先程露店で購入しておいたミルクである。安いが癖のある山羊乳ではなく乳牛の物だ。可愛い淑女(フロイライン)はばつが悪そうな顔で水袋に入れたそれを受け取り、混ぜ始める。

 

「もう、先に言ってくれればいいのに」

「つい魔が刺してしまったのです。何卒お許しを」

 

 仰々しく懺悔の真似事をしつつ、自分も少し混ぜさせて貰う。こうやって一度に何遍も違いを味わえる事のなんと贅沢だろうか。どうやら幼なじみはたっぷりとミルクを入れた物がお気に召したご様子で、ひさびさにリラックスした休日を楽しむのだった。

 

 …失敗した。

 何処かの白衣のように連呼はしないが、それでも失敗したことに変わりはない。思えば最初に合流した時点で何か引っかかりがあったが、その時点で知識判定に致命的失敗(ファンブル)だったのだろう。まさかこんな事態になるとは思ってもいなかった。

 

「エーリヒぃ…」

 自分の胸の高さから、そんな声がする。完全に顔をうずめている感覚にムズムズするが、平常心をたもつことに全力を注ぐ。

 

「参った、蜘蛛だったよなぁ」

 そうなのだ、彼女は蜘蛛なのだ。たとえ体の一部分でも。

 どこかのバラエティ番組か何かだったか、実験として珈琲を色んな生物に飲ませるという奴があったような覚えがある。そこでは蜘蛛に珈琲を飲ませると酩酊し、まともに巣を作れなくなるという結果が出ていた。

 

 蜘蛛の相がどれだけ影響しているかは分からないが、間違いなく我らが幼なじみは酩酊していた。

「いいにおい…」

 酒であれば無理に呑むことはせず、少なくとも前後不覚になることは無かった彼女だが、埒外からの一撃は間違いなく彼女の理性にクリティカルヒット(かいしんのいちげき)を与えていた。

 

 まるで幼子のように抱きつき、何時もの狩人の気配は影もなく。まるで外見年齢相応の小さなお姫様だ。人通りがほぼ無い場所で本当に良かった…。

 もうどれだけ経ったろうか、うつらうつらと船をこぎ始めている。地面へ落とさぬよう体勢を整えていると、ふと眼が、合った。

 

「エーリヒ」

 

 普段とは違う吸い込まれるようなそれに見入られた一瞬、その小さな口がまるで熱に浮かされたかのように言葉を紡いだ。

 

「わたしの、ゆいいつのーー」

 

 そう言った瞬間、糸が切れたように伏してしまい、慌てて支える。

 唯一の。

「唯一の…なんだろうな」

 私とて未来の事を考えることはある。可能性があり得たことに思いを馳せるのも面白い。あり得ない未来はそれはそれで楽しく有るのだろう。だが私は私の選択肢を選び、生き抜き、此処まで進んできたつもりだ。だから将来がどうなるか分からないし分かりたくもない。ただひたすらこの世界に生きている一人プレイヤーとして、事実を受け止めながら前に行くのだ。例えがこれからどんな選択をしようとも。それに私の持つ縁はいささか多い気がする。巨躯の鬼人、妖精達。魔術師志望の聴講生、宵闇の僧や百足人に…改めて数えると数がおかしい気がするが、それは置いておこう。また巡り合わせで合間見えた時には私は更に変わっていくのだろう。

 

 ともかく、私は後悔しようが苦しもうが、冒険者として生き抜くだけだ。笑顔でキャラクターシートを書き終えてルールブックを閉じるまで…。

 

 

だがまずは、この状況からどうやって帰るかを考えようかーー

 


 

【Tips】人ではない相を持つ者は、習性や食性などで気を付けなければならない。故郷なら問題なくとも、他国では習慣に驚かれたり、ゲテモノ食いに思われるかもしれない。生活環境のすり合わせは、早めにやっておくべきだ。

 

 




この後、なんとか背負いながらなるべく誰にも出会わないように寝床に戻ったそうな。
後日何とかご機嫌を取りつつ起こったことをごまかすのに半日を費やした模様。


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