バンドリだと思って読むとイライラすることになります。全てを受け入れる覚悟と全てを赦す心の余裕を持って読みましょう。
※既読の方へ
少し手直しする(なにぶん初回が昔すぎて色々おかしいところがある)ので投稿が遅くなりますがあの頃の気持ちで読んでいただけると嬉しいです。なんならどこぞのクズを補足した物語読んでくれてもええんやで。
※既読でかつ以前低評価をした方へ(追記)
わざわざ嫌いなもの見に来るの楽しいんですか? まさかこのパターンが存在することに驚きを感じ、そして配慮の至らなさを指摘されたようになりました。この度はお詫び申し上げます。二度と来るな。
①屋上エンカウンター
教師なんて仕事はロクなもんじゃない。オレはそんなことを、24ん時に私立の女子校に就職してから知ってしまった。中高一貫のそこは、部活に力を入れてるようで、上司の一人が、ウチのダンス部は全国的にも有名で、と声をでかくした瞬間にしまったと思ったのをよく覚えている。
──それから四年が経ち、若くて熱意のあったオレを過去っつう暗闇に置き去りにして、未だ未来なんて言葉だけはいっちょまえな暗闇をだらだらと行進中……やってられるかとやる気を失ったばかりにオレは不良教師のひとりってわけだ。唯一の救いは顧問をしてる天文部はよく分からん頭のイカれた天才がひとり、私的利用してるだけ。ろくな話をしたこともねぇけど、変人だってのはよく分かってた。同僚、上司もソイツの扱いにゃ困ってるからな。
んで、そんなことよりもっと問題なことがある。教師がロクなもんじゃねぇって証左が、オレの同僚の現文の教師なんだ。コイツがなまた爽やかなイケメンくんで、先日結婚式を挙げた。めでてぇよな? そうだな、フツーの反応ならそうだけどな……ってここまで前フリしてりゃ想像つくだろ。
元教え子、しかもつい先月卒業したばっかのピッチピッチで犯罪係数300オーバーで即抹殺クラスの18歳。二年前から付き合ってたんだと。いや、よくその首が落ちなかったな、と思わず、ロリで始まってコン、で終わる四文字の犯罪者予備軍の名称が頭に浮かんだもんだ。いやいや絶対に嫁探しに女子校就職しただろテメー。
「……はぁ、んだかなぁ……」
そんな人生薔薇色グレイブ直行が羨ましくないかと言われれば羨ましいし妬ましいから今すぐ事故って死なねぇかなってくらいだが、オレは対照的に嫁候補どころか大学時代以来カノジョが出来ない有様だった。それをソイツに愚痴ったところ、出逢いはいくらでも……そう、受け持ちクラス×約40人はいるんだからさ、と爽やかに言われ、お礼に良い精神科を紹介してやった。いいところだぞ、オレも世話んなったからな。とまぁ、冗談はさておき、見方を変えれば景色が変わるように、いっそ──
「その辺のJK落とせれば……オレの人生も黒から薔薇色へ……」
「……通報していい?」
紫煙とともに吐いた歌うような独り言に、鋭い声が突き刺さり屋上から真下へ転落していった。おかしいな、キレイな空模様なんだがな、オレには鉄格子が見えるんだが。
「ふぅー……はぁ……土下座したら見逃してもらえるか?」
「バカじゃないの」
「バカにすんなよ、本気の土下座だ」
「プライドないの?」
「ねぇよ。そんなもんちぎって猫の餌にしてやったよ」
鉄格子の未来より、10も年下のガキに頭下げたくれぇで済むなら安いもんだ。
──と、そこで初めてオレの断頭台のロープを持つ執行者の顔を見た。
目に入る情報は気の強そうな眼に、黒檀の髪に映える赤メッシュ。制服のネクタイやスカートが緑色ってことは、ぴっかぴかの一年生か、メッシュのインパクトもあったが、その割にはピアスとかは空けてなさそうだな……と、思考したところでそいつは目を細めて軽蔑の表情に変わった。
「……アンタ、やっぱり通報されたいわけ?」
おや、と思ったのも束の間、そりゃぁ最初の発言したうえで下から上まで視線という唾液でベッタベタに舐めたら、その反応も納得だ。
──さて、と。アレ使うか。禁じ手だが。
「お前、今は授業中だろう? サボりか?」
「うわ……コイツ」
土下座もダメなら立場を使う。お前は生徒でオレは教師、残念ながらどこまで行ってもこの学校という監獄じゃ、オレが上だ。
都合のいいことに今は授業中のハズで、屋上までわざわざサボりとはな、保健室で良いじゃねぇかよ。
「まぁなんだ、そこ座れよ」
「……嫌なんだけど」
「ウルセーな。見逃してやる代わりに弁明の機会を寄越せっつう意味だよ」
「いいけど……これ以上寄ってこないでよ」
「へいへい」
生返事をしながら我が仕事の相棒に火を点ける。手すりに肘を置き、吸って吐く動作を、大人二人分距離を空けたソイツはじっと見つめていた。見世物じゃねぇぞ、とも思ったけど、オレはさっき仕舞った相棒を再び取り出し、ソイツに向けた。
「吸うか?」
「……ハァ? アンタ本当に先生?」
「知らんようだから教えてやるよ、何やったって教員免許持って学校に雇われてりゃ教師なんだよ」
そう。教師なんてそんなもんだ。未成年にタバコを吸うかと問うても、教え子に手を出しても、オレたちはコイツらのセンセーだ。腹立たしいだろうけどな。
「信じらんない……」
「なんだ、吸ったことねぇの?」
「アタシ、未成年なんだけど」
「赤メッシュ入れてるくれぇだからそんなルール、破ってると思ったよ」
「そういう目でみないでくれる?」
「んだったら、いい加減オレをその目でみるの、やめようぜ?」
「それは無理」
「その気になれば力尽くで襲えるっつうの」
嘆息混じりにそう言うと、ソイツはしばらく難しい顔して黙っていたが、それもそうだね、と一歩近づいてきた。
「……ホントにロリコンじゃないよね?」
「さぁな、口で言って信用するか?」
「しない」
「かわいくねぇヤツ」
悪い? と睨みつけながら、ソイツはさっきよりも近い距離でオレに向けて言葉を紡いでいく。なんでだろうな、ガキとの会話なんて、正直徒労ぐらいにしか思っないのに、ソイツとは殴り合いのようなこのやり取りが成立する。
「……美竹蘭」
「は?」
「……アタシの名前」
「そうかい、覚えててほしいのか?」
「別に、アンタ、赤メッシュとか呼びそうだから」
おっと、その通りだったんだがな。どうやら赤メッシュを入れてるのは自分の意志でも、それを記号にされるのはヤなんだな。子どもらしい、矛盾だらけでバカげた思考回路だ。
「美竹、な。おぼえるだろうよ」
「なんで?」
「忘れるほど薄い印象じゃねぇからな」
「あっそ」
「……あとクッソ生意気だからな」
「アンタ、尊敬されるようなヤツだった?」
違うけど、それを口に出されるのはムカっとするな。っと、オレもまだまだ子どもっぽいところはあるらしい。特にコイツ、若干笑いながら言ってくるから余計に腹立たしい。けど、笑うその顔は美人で……共学だったら高嶺の花で、男どもに人気出るんだろうな。
「……で?」
「なんだよ」
「アタシ、名乗ったんだけど」
「……はぁ?」
どうやら名乗ったから名乗れってことらしい。狭いコミュニティなんだから知る方法いくらでもあんだろ。いや、それはオレにも言えたことか。
「名乗らないならいいよ。変態ロリコンクソ教師」
「……チッ、
「カズナリ、ね、たぶん、アタシも忘れない」
「おい呼び捨てはヤメロ、一応先生つけろ」
「はいはい……清瀬センセ」
こうしてオレは、出逢っちまった。妙にとんがったこの美竹蘭とか言う女に。担当でもねぇクラスのやつの名前を、覚えちまった。これが出逢い、なんてこれっぽっちも思っちゃいないけど、不良教師と不良生徒、この羽丘の不良債権は確かに縁を結んだ。それは、絆のように、簡単には切れない呪いのような気がして、オレは短くなったタバコを携帯灰皿に捩じ込んだ。
「ま、お前の青春を聴いてやるくれぇなら、付き合ってやるよ。偶には教師らしく生徒のカウンセリングをしてやる」
「頼んでないけど」
「わざわざ屋上までサボりに来て、なんか思うとことかあんだろ」
「うざ……」
うざい、か。子どもにとっての大人なんて、理屈っぽくて、矛盾して、無駄に偉そうだからな。けど、今のオレは大人としてガキに人生経験を振りかざす気にはとてもじゃないが、なかった。
「オレはある」
「……は?」
「思うところ、青春ではねぇけど、吐き出したい汚いものなんて幾らでもある」
それこそ文字にしたら優に800文字を超えるくれぇには、愚痴や教師なんていう仕事に対する文句が出てくる。けど、それは一人で処理しなきゃいけないもんだ。無理なこともあるだろうが、少なくともオレの胸中に巣食うこの無気力は、そういう類の、蚊みてーなもんだ。小さくて、鬱陶しくて、オマケに潰そうとすると避けて、ほっとけば痒くなる、そんなもん。そんな鬱陶しい感情に火をつけて吐くくらいなら、無駄に溜め込んでそうな美竹の、十代特有のくだらない悩みの方が、何百倍も耳に優しい、そう思っただけだ。
「じゃあ言えばいいじゃん」
「バーカ。ガキにゃ十年はえぇんだよ」
「子ども扱いすんな」
「うるせぇな。ガキじゃねぇってんなら、この問答が無駄だってことくれぇわかるだろ?」
「……はぁ、ホント、アンタって」
ああ言えばこう言う、ってか? それはオレが大人だからで、それが嫌に聴こえるのはテメーが子どもだからだよ……なんて反論は口には出さなかった。コイツの反骨心に火を点けて眺めんのは楽しいけどな。
「……笑わない?」
「保証はしかねる。けどスッキリする、ってのは間違いねぇだろうな」
嘘は言わねぇし言うつもりもねぇ。コイツは今、生ぬるい優しさのような嘘を求めてないから、冗談めいて言葉を吐くけど、そこに込められた意味は本当だ。それが分かったのか、躊躇いながら、美竹は声を絞り出した。
「……どうしたら、いいんだろう、って」
それはさっきまでの尖った印象はなく、弱々しい、十代の少女の幼い嘆きだった。
──美竹は、中学にも屋上で佇むことがあったらしい。そんな彼女を守るため、繋ぐため、コイツの仲間とやら……そう友達じゃなくて、仲間がバンドを提案した。それで孤独感は解消されたけど、今度は家を継ぐって親父さんとの話から始まり、揉めてるらしい。この見た目でいいとこ出かよ、とツッコミは抑えて、オレはタバコ……の代わりに飴を口に放り込み、聴いていた。
「継げばいいじゃねぇかよ。バンドと掛け持ちできねぇってわけじゃないんだろ?」
「そんな簡単に……!」
「カンタンだろ。逃げてるって思われたくねぇならどうする? 立ち向かえばいい。シンプルな解答だ」
華道の集まりに参加せずにバンドを続けるイコールバンドごっこに逃げてる、って式が成り立つなら、華道もバンドも両立できてれば逃げてねぇって証明になるわけだ、1+1は2になるなら答えが2にならなきゃ1+1じゃねぇ、なんて小学生でもわかる解だって言ってやった。けど、美竹はそれに反論する。
「……人間の心は、数字じゃない」
「そうだな。でも確定しないものを定義するのが数学でもある。公式はねぇけどな」
大人になれば嫌でも
「けど──!」
「本気なんだろ、バンド。だったら本気のひとつくらい出して、仲間や親父を安心させてやろうとか思ってみろよ」
「でもあの人は……父さんはバンドを認めてなんて……!」
「──バカだな、ホント」
美竹にとってみれば重大なことでも、バカだと思えるのはきっと、オレがこいつの親父さんの側だからだろうな。一通り話を聞いて、勘違いしてやがるからな。
「なんで」
「んなもん、テメーで考えろ。授業サボって屋上で腐ってる暇があったら、オレに愚痴ってる暇があったら、仲間とか親父に、素直になってみることだな。誰も斜に構えたお前を求めてない。本当の気持ちを知りたがってんだよ」
我ながら説教くさい。歳を取ると口臭体臭、挙句説教まで臭くなっちまったら、そりゃ、パパくさいから始まり、娘も寄ってこなくなるわけだ。ん、まぁオレには娘というものには縁がなさそうだけどな、クソったれ。
「アンタに、そんなこと言われなくても」
「分かってたら、そんな顔はしねぇだろ」
「──っ!」
眉間に皺を寄せて、オレを睨みつけるが……赤くなってちゃ、凄みがないんだよ。なんだか、思ったよりも表情が動くな、コイツ。まぁ、なんだ……
「……それに、大切な仲間、なんだろ? 当たり前とかじゃなくて、もっと大切に過ごせよ」
「……なに、それ」
「人間関係なんてな、思ったよりもカンタンなんだってコトだ。わかんねぇかもしれないけど」
高校生ん時はそんな気持ち、わからねぇし、わからなくてもいいと思う。けどな、高校時代に得た人間関係はそこまで長続きしない。なんたって中学卒業からたった五年で、殆どの人とする挨拶が、久しぶりなんだからな。中学は中学、高校は高校、大学は大学……そのあとも職場、と人間関係はその都度再構成される。
オレも、今は殆どココの教師とだけしか付き合いがない。大学時代に夜中までどんちゃん騒ぎして警察官に説教食らった日の友達も、代返し合って、下宿で泊まって、一緒にパチンコでバイト代すっからかんにした友達も、もうオレのスマホを鳴らすことはない。
──青春は一瞬。その楽しさも感傷も、人間関係さえも、な。
「アンタみたいなヤツなら……くだらない、とか言うと思ってた」
「ま、休み時間の職員室でこんな相談されたら、くだらねぇこと言うんじゃねぇ、オレの時間なんだと思ってんだタバコ吸わせろ、くらい言うだろうな」
「……だったら、なんで?」
「ここが屋上で、今が授業中だから、かな。あと、オレだってくだらない感傷に浸ってたからってのもあるな」
「そう……そっか」
お、表情が柔らかくなったな。なんかスッキリしたらしく、オレへの警戒もやや薄れてるみたいだ。よしよし、ちゃんとロリコンの危ないオッサンから先生には格上げされてるっぽいな、作戦成功。
「……ありがと」
「なに、オレが生徒に手を出すような変態じゃねぇことがわかってくれんなら、真摯にもなる」
「ふふ、まだ疑ってる」
「テメー……」
笑ってんじゃねぇか。声を上げるわけじゃないおしとやかな印象の笑顔。普段からコエー顔さえしてなきゃ、さぞクラスで浮くなんてないんだろうな。もっとも、それを変えられないから、コイツは不良生徒なわけだが。
──と、そこで授業が終わるチャイムが屋上の世界を裂いていった。それを合図に美竹は立ち上がり、スカートを払って、伸びをした。
「……じゃあね、センセイ」
「おう」
「アンタの授業なら、聴いてもいいかも、って思ったよ」
「説教くさいのがそんなに気に入ったのか?」
「全然……でも、退屈じゃなかったから」
「嬉しいね、タバコやろうか?」
「いらない、バカじゃないの?」
それを最後に屋上の扉が閉まり、もう一本吸うか、と手にしてからそれを仕舞った。吸う気にはならなかった。別に止めたくなったわけじゃないが、なんとなく、今はいい……自然とそう思った。
「美竹、蘭か」
青春を青春だって叫べるヤツ。でも素直じゃない。矛盾してる、してるからこそ、アイツはオレの知ってる誰よりも煌めいているように見えた。オレの同僚からしたらこれは運命か恋か……そうじゃないだろ。
そんなもんで塗りつぶすには勿体ない出逢いだと素直に感じた。確かにあの時、美竹が笑ったその瞬間、オレの独りで煙にしていた文句や愚痴が、全部空に溶けちまったんだからな。
──その日は久しぶりに大学時代のダチと飲みに行った。まるであの頃にタイムスリップしたかのように、オレとそいつは、バカみたいに笑って酒を飲んで、上機嫌のまま別れて、眠りについた。