青春ガールズロックと黄昏ティーチャー。   作:黒マメファナ

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失敗の連続、復活してもまだまだ失敗は続きます。


⑤屋上ニューデイズ

 腰が痛え。こんな愚痴、今年度に入って何度零したんだろうな。原因はもちろん、ヒナで授業中に無意識にさすっていたら舌を出して、ノートにMe too.と無駄にキレイな字で書いてある部分をペンで示された。そういや昨日帰るとき散々腰がだるいってたなお前。誰のせいだとムカついたが、どっちも悪いからお互い腰を痛めてるんだよな。けどやっぱりムカついたから当ててやった。

 そうそう、ムカついた、といえばもう一人、こっちはマジでイラっとした。青葉モカ、珍しく目を開けて何も口に入れずに机に向かっていると思ったら、オレに刺すような視線を送ってきた。知るか、オレはお前のために美竹を構ってんじゃねぇんだよ。

 後の変化はやや怖がっていた上原が元通りの元気な声で挨拶してくれたこと。どうやら土曜の遭遇はオレにとってまたいい方に転がったらしい、悪運の強いヤツだ、我ながらな。だが駆け寄ると素敵なダイナマイトが揺れるのは勘弁してほしい。ガキに興味はねぇけどあのおっぱいは別なのよ、特にあそこまででけぇと男は自然と視線を誘導されるから、なるべくならかかわりになりたくない。だって美竹の顔コエーんだもん。

 

「変態、サイテー、クズ教師、なに今朝のやつ。ひまりの胸見て、鼻の下伸ばして」

「うるせぇな好みのサイズの胸を見た男の反応は生理現象と大差ねぇから蔑まれてもなんともできねぇんだよ」

 

 屋上で、その時の話を持ち出した美竹の罵倒の数々にそんな暴論で反論していく。つか真顔は維持できてるから鼻の下が伸びてるように見えんのは目線が下を向いちまったことによる見間違いだっつうの。あんまり否定できてないかもしれねぇけど。とにかく制服ってのはそもそも身体のラインをでにくくするために出来てんだよ。昨今のスカートは短いけどもともとは長くて、んでふわっとしてるから脚のラインがわかりにくいし、上もそのため。だからそんなものを破壊する上原が悪い、オレは悪くない。

 

「通報するから」

「ど、土下座でいいか?」

「第一、生徒と、その……え、えっち、してんだから否定する意味ないじゃん、ロリコン」

「……お前、ほんっと初心だな」

「うっさい!」

 

 顔を真っ赤にされるとこっちも反応に困るんだよな。最近性行為を連想させる単語を平然と放つ存在に出会い過ぎてるせいで感覚がマヒしてるのかもしれんが、それにしたってもうちょっと耐性をつけてもいいんじゃねぇの? あんまり口に出すとアレだからツッコミは控えるが、お前カレシいたことあんだろ。

 それにしても殴り合いのような会話、懐かしすぎて涙出そうだ。少し関係は変わっちまったけど、これはこれでオレとコイツの距離なんだろうな。

 

「ってかアンタ、モカがめちゃくちゃキレてたけど、なにしたの?」

「知ってる。そしてなにしたのかは知らねぇ」

「……モカは、アタシや仲間と同じくらいにアンタに対して導火線短いんだから」

「それも知ってる。そして再度言うが、心当たりはねぇよ」

 

 まぁ予想されるパターンとしては、青葉は徐々に自分の望んだ仲間たちから外れてってるお前らが気に入らねぇだけで、それをオレのせいにしてるだけ。

 だからそんな不安そうな顔でオレに抱き着いてくるんじゃねぇよ。さっきまでタバコ吸ってたっての。

 

「……タバコ」

「あんまり近づくと臭い移るから、離れとけよ」

「ううん、それはイヤ」

 

 ガキのわがままと虎のような鋭さのなくなった美竹は、オレから表情を隠すように顔を埋めてきた。

 月曜から、美竹はこんな調子だ。まぁ隠すような想いもなくなった上でオレがここにいるってのは、どこかで認められたと思ってんだろうな。オレも吹っ切れちまったせいで髪に指を通すことを躊躇わなくなってきたけど。これがまたサラサラでクセになるんだよなぁ。

 

「生徒に手出すような変態に抱き着いていいのかよ?」

「いい、別にアタシになら、襲ってきても」

 

 ウソはペナルティ……はヒナだけだが。肩震えてるくせに、呼吸が浅くなってきてるのにそんなこと言うなよ。矛盾してる。オレを好きだとか言っておいてそのくせ、触れられるのに恐怖してやがる。触れるとウソみてぇに鋭さがなくなるのは、コイツが委縮しちまってるからだ。こんなところ青葉には見せられねぇな。

 

「襲わねぇよ。教師のオレが生徒のお前を恐怖させてどうする」

「うん……ごめん」

「謝るとこじゃねぇ」

「じゃあ……好き……?」

「告白するところでもねぇよ、バカに頭侵されたか」

 

 オレがなぜコイツがこんなに近づいてくるのを拒否しないか……まぁ色々あんだよ。クズ教師として、特別になっちまった生徒くれぇ、笑って卒業させてやろうというオレの壮大で、ちっぽけな計画がな。そのために美竹にはコレが必要なんだ。

 ──ヒナの欲よりもずっとかわいらしいから、全然問題ない。メンヘラに比べられる美竹がかわいそうな気もするが。

 

「だって、怖いんだ……これでもしもアンタじゃなかったら、どうしようって……思うと」

「オレはオレだけどな。顔を見上げて確認するまで、オレではないかもしれないけど」

「……なにそれ」

「シュレディンガーの猫」

 

 名前は聞いたことあんだろ、と思ったら、まっすぐな視線がオレの視界に飛び込んで、ついでに首に手が回されて、唇が飛び込んできた。キスをしながら心中なんてドラマチックな最期を迎えるつもりはねぇから、なんとか手すりに背中を預けて、その背中……もう腰だな、腰に手をまわして受け止めた。

 

「……うん、アンタはアンタだった」

「キスは、初めてじゃなかったのか」

「うん、二回目、初めては……」

「悪い、変なこと言った」

 

 しまった、と思ったものの束の間、また唇が重なった。艶のある、リップがいらなさそうなピンクの唇。長い睫毛が間近に見えて、赤メッシュがオレの視界の右側を覆って、思わず見惚れてしまう。

 ──でもやっぱり唇はリップの味がする。バンドのボーカルだから、そういうのには気を払って当然か。

 

「……初めてはあんまり良い思い出じゃないから、代わりにアンタで埋めさせて」

「忘れるよ、大人になればな」

 

 残念ながらオレは覚えてるけどな。なにせ全部クズ教師に奪われたもんで。強烈な青春の思い出は大人になっても残る、遺ってしまう。きっと、コイツのファーストキスも、元カレも、そしてオレのことも。

 

「日菜さんとは……舌入れてるって、聞いたんだけど」

「するのか?」

「……それはムリ、まだ」

 

 まだってなんだよ。オレは一生しなくてもいいんだけどな。つかヒナが舌入れてくるときはヤるって合図だから覚えてほしくはない。アイツのせいで条件反射レベルまでオレの愚息が調教されてやがるからな。さすがのオレもその状態で平静を保てるほど枯れてねぇんだよ。

 

「その代わり……アンタから、キス……して」

「……やめとけ。ぶっ倒れられんのは困るんだよ」

 

 美竹はオレから触れることはしない。つかできねぇ。美竹自身はそれを望んでいるが、コイツの身体は激しい拒絶を示してる。ただ、自分からキスをしても平気だと知ったのは嬉しかったようで今度は頬に押し付けて蕩けるような乙女の顔で笑いやがった。

 

「ありがと」

「満足そうな顔しやがって」

「ふふ、アンタに襲われそうだからこのくらいにしとく」

「オレが襲われそうでビクビクしてんだよ」

 

 当初とは大きく逸れちまってるが、美竹はこうして逃げずに前に進んでる。オレも美竹から逃げずに、教師というものから逃げずに向き合ってる。正しいとは言えねぇけど、キレイさとか正しさが生徒を救うことには直接必要ねぇってことを、オレは美竹とヒナに教えてもらった。汚れちまったら、もう正しくはなれねぇんだってことも、同時に。

 

「だんだんと、夕日が遅くなってくな」

「……梅雨になったらあんまり見れなくなるから、アタシはあんまり六月が好きじゃないけど」

「でも、晴れ間に見える夕焼けはめちゃくちゃキレイなんだよな」

「そうだね」

 

 けどオレもあんまり六月ってかそもそも夏は好きじゃねぇからな。夏の空はオレを殺しにくるように屋上にいるだけで死ねるからな。あと雲の主張がやたらと激しくて好きじゃねぇ。

 やっぱ、オレが好きなのは秋の空だな。夕焼けもキレイで空も高くてなにより、オレにとっては思い出の季節だからな。

 

「それじゃあ、アタシは練習行ってくるね」

「おう……あ、そうだ」

「なに?」

「ちょうど来週末、暇になったんだよ。いい暇潰しがあったら教えてくれ」

「バカじゃないの、そんなの自分で考えなよ」

「うるせぇ」

「……明日、チケット持ってくるね」

「サンキュ」

 

 ギターを背負って、美竹は嬉しそうに扉を閉めた。練習ってことは少なくとも今日は青葉に会わなくて済みそうだな。まぁ面倒事を先延ばしにはしたくねぇし、その内メッセージでも送ってやるか。

 ──美竹が、あの先になにを求めてるのかなんて、そんなことはわかってる。けど、アイツが委縮してるだけで虚勢だけで生きていくのを見るのは嫌なんだよな。だったら、オレが悪役になってもいいから克服してほしい。それがヒナと同じになっても、それでヒナや青葉たちを傷つけることになっても。

 仕事の相棒に火を点けて、そろそろか、と時計を見た。夕焼けの語らいが終わり、少しの独りの時間が終われば、悪魔がオレを見つけてやってくる。

 

()()()っ!」

「ヒナ、もう部活は終わりか?」

「うん!」

 

 輝くような瞳でオレに飛びついてきたのはもちろんヒナ。土日にあれほどあった溶けてしまいそうな二日間がウソのようにヒナは変わらない。昨日はあんだけ泣かせたのに、その上都合のいい関係なんてのを押し付けてんのに、コイツはなんにも変わらねぇ。相変わらず日本語が通じない。

 

「えっちしよ~」

「そればっかりだな、つか腰痛いんだけど」

「あたしも~、だる~い」

「なのにシたい、と?」

「うん」

「なんで?」

「先生の顔見たらシたくなったから」

 

 ホントに刺激的な言語を使うヤツだ。意味が分からないし下半身に脳ついてんのかテメーは。けど、もうコイツの目の奥にはオレしか映ってなかった。そして、美竹が美竹にしかねぇ特別を行使するように、ヒナはヒナだけの特権をオレに向かって振りかざしてくる。

 

「今日も、蘭ちゃんと話してたんでしょ?」

「そうだな」

「ん」

「ん、じゃわからん」

「ライターとタバコ」

「オレはライターでもタバコでもねぇ」

「あたしも吸う」

 

 ヒナに手渡し、同じ紫煙を吐く未成年にため息をつく。土曜に珈琲店で美竹に会った日、ヒナはどこにも行かないでと嫉妬を全開にして求めてきた。おかげでお互い腰が痛い上に、シャツをめくると噛みアトまであった。見えるところは絶対にやめろ、という制止はさすがに聞き届けてくれたのだが、その行為はオレとヒナからまた倫理観を一つ奪ってみせた。

 

「つか、今日は遅かったな」

「リサちーとしゃべってたからね」

「そっか。あんまり時間ねぇけど?」

「じゃあ先生んち行く」

「……言うと思った。今日はさすがに泊まらずに帰れよ?」

「わかってるもん」

 

 腕を組んでくるのに抵抗感がなくなった。髪に触れることに躊躇いがなくなった。つか全体的に、ヒナに触れている時間が多くなった。狂気じゃなくて嫉妬を覚えたヒナはそんなオレの手に甘ったるい顔で喜ぶ。触れられてる独占している、それらを実感するとき、ヒナは笑うようになった。

 ──触れ合うことで愛情が生まれるらしい。だから同じ空間を共有すると恋愛感情に発展しやすいのだとか。絆されるってのはこういうことらしいな。携帯灰皿を手渡し、そこで火を消していくヒナに吸い込まれていく。

 

「ヒナ……」

「あ……カズくん」

 

 さすがに勿体ないとは言え、短くなったタバコの代わりにヒナの舌を求めるのは違うよな。けど、コイツの熱い吐息が、必死に吸い付いてくる顔が、タバコの味がする唾液が、息のできないくれぇに求められるその感覚が、オレを狂わせていく。美竹とキスをしたときにはなかった感情が、ヒナを、そしてオレ自身を襲っていた。

 

「家まで……我慢しよ? あたしも、我慢するから」

「……だな、悪い」

「ううん、きゅんってしたから、嫌じゃないよ♪」

 

 ヒナの特権は教師じゃねぇオレを呼び出すこと。コイツに条件が揃った状態で、コイツしか呼んでこねぇ名前を呼ばれると、どうしても溶けていくようなカラダの関係に身を浸したくなる。完全にヒナの魅力に敗北しちまった形なのが非常に癪だが、オレだって、お前が言うように嫌だなんて思ってねぇよ。

 

「……断言してやるよヒナ。お前はいい女だ」

「抱きがいあるでしょ?」

「そうだな」

「あはは、じゃあ……卒業までに心まで奪ってみせるね♪」

 

 ──それが、今のヒナの目標らしい。オレを惚れさせること。そりゃムリだと何回言っても聞かねぇから好きにしろって言ってやったら、余計にたくましくなりやがった。痛感したよ、コイツに好きにしろっつったら言葉通り好きにシてくる。日本語通じてねぇから、そこに投げやりとか認めたわけじゃねぇとかは、通用しなくなるってな。

 

「エサをくれたのはカズくんでしょ? 責任持って飼ってね?」

「懐いたから仕方なくエサをやるが、飼うつもりはねぇ」

「わ、サイテーだ」

「嫌なら諦めるか?」

「ううん」

 

 ヒナは強かだ。美竹は弱くて、その弱さを肯定して克服しながらオレを求めてくるのに対して、コイツは自分の強さを武器にオレの弱いところにつけ込んで、求めてくる。教師としてのオレが弱くねぇって認められた嬉しさ以上に、だからこそ毒の回りが早いわけだと納得しちまった。

 

「そうだ、今度ねー、パスパレのミニイベントやるんだー」

「ライブハウスでか?」

「うん。ガールズバンド専門のライブハウスがあってね、蘭ちゃんたちもそこでライブしてるんだ」

「ガールズバンド専門……か」

 

 そりゃあ確かにアイツら向きだな。スタッフのヒトも女性だろうし、アイドルバンドとしてもそれはありがてぇよな。

 パスパレ……コイツが所属してるPastel*Palettesってバンドは、知名度はまだまだ、白鷺曰く地下アイドルみてぇな扱いらしいが、当初の話題性からも、絶対にいつか全国区になる、って言われてるらしい。

 ──じゃあヒナがココの生徒の間にそうなったら、コイツとはどうなるんだろうか。屋上でヤんのはムリそうだし、オレんちなんてもってのほかだろうな。

 

「どーしたの?」

「いや、ヒナがもし有名になったら気軽に送ってくこともできそうにねぇなと思ってな」

「あはは、気にし過ぎだよー。千聖ちゃんなんてパスパレより前から有名なのに、アレなんだよ?」

 

 だがヒナは全く気にした様子はない。女優とアイドルって違う気もする……とは思うが、清純派の元子役がその実ビッチってのは週刊誌的には美味しいのか。アイツも、きっとイロイロあんだよな。つかマジで電話してくるんだから怖えんだよあの女。しかも風呂に入ってんだよ。おかげさんで知りたくもねぇ白鷺千聖を知って、オレはビミョーな気分だよ。

 

「……あ、でも、来週からあんまりえっちできないかも」

「レッスン、忙しくなるのか?」

「うん。腰だるいの千聖ちゃんにバレちゃったし。しばらく部活も休むね」

「好きにしろよ。天文部は今やお前のためだけにあるんだからな」

「ありがと、先生♪」

 

 車に乗り込みながら先生とか言うなよ。腰が痛えとか愚痴るけどな、オレはお前に欲情してんだから。乱れるヒナの顔に、くらっと来ちまうんだからさ。そんな杞憂は当然のようにカズくんちにれっつごー! という声で霧散した。

 

 

 

 

 

 

 




少し三人の関係が変わって、変化もありつつクズはクズのままのうのうと生きています。早く誰か裁けよこのクズ。
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