青春ガールズロックと黄昏ティーチャー。   作:黒マメファナ

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二章のラスト(幕間あるけど)はやっぱり正妻しか勝たん。


⑪晴天フューチャー

 週末、予報外れの晴天が東京の空を覆った。太陽は差すような光を降らせて、もう湿度も気温もすっかり夏だな。

 暑すぎて半袖のカッターシャツで出勤したオレを待っていたのは校門で生徒たちにおはよう、と声を掛け突っ立ってるっつうありがたすぎて涙が止まらない仕事だった。ホントに無能に回ってくる仕事は立ってるだけなんて、上司は適材適所を選んでるわけだ。尊敬するからはよくたばれ。

 当たり前だが生徒のほとんどはオレの挨拶に会釈をして返すのがせいぜい、友人と話してるヤツなんかは完全にオレを無視して校門を潜っていく。身だしなみのチェック? そんなことするわけねぇだろ。第一制服改造でもしてなきゃ注意することもねぇし、アクセサリーとかも派手過ぎなきゃセーフだから、オレは基本的にスルーしてる。

 

「基本はスルーなんだけどな、さすがにそのアクセサリーは目立つだろ」

「は~い」

「つか今井は素行のほうは良すぎるくれぇなのに、なんで身だしなみだけは校則違反常連者なんだよ……」

「えーっと……オシャレ?」

「逆さのウサギはオシャレなのか、レベル高すぎるだろ」

「これはアタシのお気に入りなんですよ」

 

 知らんがな。とりあえず今は外しとけ、あとはスルーしといてやるから。隣で湊が、だから紗夜にも散々身だしなみを注意されるのよ、なんて溜息をついていた。そういや紗夜は花咲川の風紀委員なんだっけか。確かにアイツは本来そういうキャラだよな。

 ──あとはほかにも何人か注意して、瀬田の取り巻きをなんとか散らす仕事。はぁ、それにしても、こんなにあちいってのに、登校させられて、お前たちも災難だな。オレは車だからいいけど、歩きじゃそりゃ教師に会って挨拶する気力なんてねぇよな。

 

「おはよ、カズせんせっ!」

「よう、ヒナ」

「立たされてるの~? 罰ゲーム?」

「んなわけねーだろ仕事だよ」

「あはは、それもそっか」

 

 と思ったらいたよ暑いのにめちゃくちゃ元気なヤツ。元気すぎてオレが倒れそうだ。

 オレの顔を見た瞬間、めちゃくちゃ素早く近づいてきてガキどもが揃いも揃って一瞥していく超問題児、氷川日菜。コイツが普段からこんなに教師とテンション上げてしゃべるやつなんていねぇから、当たり前だけど注目の的になってんだよ、離れろ。

 

「朝からカズ先生に会えたんだもん、なんかるんってきた!」

「はいはい。今日も部活休みだからな、そうだな」

「うん、そーなんだぁ。でも、明日はするからね!」

「……わかったからはよ教室行け」

「はーい!」

 

 するからねの意味が、部活じゃなくてナニなのもよーくわかった。ただ一応目立つところでは、えっちしよ、とは言わねぇのはちょっとだけ感心した。アイツも少しは人間らしい分別がある、ってことなのか。

 

「……せんせー、その感想は日菜さんに甘々すぎじゃないかな~?」

「おはよう、が先だろモカ」

「あーうん、おは……ふぁ……よ~」

「途中で欠伸すんな」

 

 でけぇ口で欠伸をしながら形式上の挨拶すらもロクにしない、欲望に忠実な邪神、青葉モカ。ヒトの考えを読むことに長けた超絶美少女JK、という非常に頭の悪そうな自称を堂々と掲げるうざいヤツだが、超絶かはさておき残りは全部事実なのが余計にうざい。

 あとヒナに甘いのはこのくれぇ甘くしねぇとアイツはお前とは別方向でめんどくせぇからだよ。

 

「すーぐそーやって浮気する~」

「誤解を招く物言いはよくない、つか他のは?」

「せんせーばりあーを前に今日休む~って言ってる照れ屋さんをみんなで説得ちゅ~」

「……あっそう」

 

 オレのせいじゃないけどなんか悪い。オレのせいじゃないけどな、仕事なんだよ。

 でもなんでそんな嫌がる? とも思ったがその答えは空にあった。

 太陽は金の光を降り注がせるこの天気。アイツは晴れたら行くって連絡してたな。晴れたから行きたくねぇし、すっぽかそうとしたものの、当のオレがここに居たからキャパオーバーと。相変わらず、残りの二人に比べて、かわいらしいヤツだ。

 

「で、お前はなにをうずうずしてんの?」

「抱きつきたいしょーどーを抑えてるの〜」

「はいはい、幼馴染んとこへお帰り」

「いけず〜」

 

 その割には嬉しそうだな、まったく。人目があればたったこれくらいで満足してくれるんだもんな。普段からこれでリリースしたい。通ってる整体の逞しいお髭のオヤジに愚痴ったら豪快に笑われた。

 贅沢な悩みでもオレには十分に悩みなんだよ。ふざけんな。つか整体のオヤジに、知り合いの精神科医、あけすけに話せる大人には妙に医療関係者が多いのはなんでだろうな。仕事柄か、なんでだ教師もヒトのハナシを聴く職業だろ。

 ──そもそもなんであのジジイの息子にジジイを紹介されたんだっけか。やべ、きっかけが思い出せねぇ、もう歳かな。

 

「……おはよ」

「よう、蘭。元気か?」

「……フン」

「コラ、ちゃんと答えてやれよ」

「うっさい」

「この間から先生のことばっかり考えてたから恥ずかしいみたいです、ごめんなさい、先生」

「ひまり!」

 

 モヤモヤと記憶を辿っているとAfterglowの仲良し五人組が勢揃い。明らかに面白がってる宇田川と苦笑い気味に二言ほど余計なことを教えてくれる上原。こうして関係が変わっても相変わらずおもしれぇヤツだな、蘭は、いや、蘭たちは。

 この五人のまま永遠でありてぇって気持ち、わからなくはねぇよ。オレだって、ずっと一緒にいられると思ったメンツがあったわけだからな。

 

「蘭」

「なに?」

「いつもんとこで待ってるな」

「──っ、ば、バカ! こんなとこで!」

 

 涙目で耳まで赤くして叫ぶ蘭が面白くて、堪えきれずに笑えちまう。上原は、ひゅーひゅー、と雑な煽りを蘭に向け、宇田川は、おお、今のいいな! と目を輝かかせて、羽沢は、よかったね蘭ちゃん、と蘭の肩に手を乗せた。

 

「……むぅー」

「モカ、いつの間にそんなわかりやすいヤツにキャラ変しやがった?」

「ばーかばーか、クズ〜」

「雑なんだよ……」

 

 モカは嫉妬の炎を隠さない。全員が苦笑いなところを見ると事情は知ってるみてぇだな。それでいつも通りってことはまたよっぽど大喧嘩したな、お前ら。

 ──仲良きことは美しい。ホント、幸せな仲間を持ってんだな。羨ましいよ。

 

「あ、カズく……先生! 忘れてたことが──」

「日菜さん……」

「どーもっす〜」

 

 と、円団で纏まりかけたそこに元祖悪魔の再臨。そういやオレの前にヒナ、モカ、蘭が揃うのは初めてだな。ちょっとした修羅場だ。選択肢一つミスるとオレの首がとぶ、勿論物理的にな。

 

「ヒナ、忘れてたことってなんだ?」

「あー蘭ちゃんといちゃいちゃしてたならそっち先でいいよ?」

 

 よくない。全っ然よくない。ここでそっか、つったら即死だな。チラリと時計を見るとまだ予鈴には時間があるし。そもそもなんでコイツらこんなはえぇんだよ。特にヒナはもうちょいおせぇだろ。なんの勘が働いたらそうなるんだよ。

 

「それはあたしがせんせーがココにいることをリークしてますから」

 

 こんの、ストーカーはホントに。キャラ的にはお前が一番遅刻ギリギリまで寝てるヤツだろ。つかそれ、お前ひとりの力じゃねぇな?

 そんな視線を送るとモカはわざとらしい口笛でそっぽを向きやがった。

 

「ヒナが先でいいから、どした?」

「……! うんっ、あのね、もうすぐ文化祭でしょ? あたし一人じゃるんってこないから辞めようと思ってたんだけどさ」

 

 グッドコミュニケーション。どうやらヒナ的には大正解だったらしく明るい顔で要件を話始めた。文化祭か、確かにオレも面倒だよ、でも部活でなんかやるなら先生有志という名の手すき強制の出し物しなくてよくなるのか。よし、やろう。是非とも、例えそれでヒナと文化祭デートすることになっても。

 説明をしているヒナに肯定すると、ますます嬉しそうに跳ね始めた。

 

「じゃあせんせ、約束ね! 一緒に作ろうね!」

 

 そうやってまた教室の方へと走っていくヒナ。また無双しやがって、アイツは白鷺以外には負けなさそうだな。おかげでオレは残った二人の文句を聞く係だよ。はぁ、二人とも目が怖えよ。

 

「……子どもでも作るの〜?」

「やめろ、シャレになってねぇ」

「……なってないの? アンタ、なにしたの?」

 

 なんもしてねぇよ、やったのはヒナの方な。前にも言ったと思うが、こっそりヒトのカバン漁ってタバコでも探してんのかと思ったらコンドームに穴を開け始めたことがある。曰く気持ちよさに差があるのか知りたかったんだとか。それでデキたらどうすんの? っつったら、結婚しよーよ、と軽く言われた。さすがに引いたし、それ以来アイツは天然のメンヘラだと思ってる。

 ──ってそうじゃねぇよ。モカのせいで朝っぱらから嫌なもん思い出したじゃねぇか。ヒトには忘れといた方がいいことあると思うんだよ。

 

「ほら散った、モカは昼休みに例のヤツな」

「は〜い」

「蘭は後でちゃんと、話があるからな」

「……うん」

 

 頷いてくれて助かった。オレはまだ、お前に謝れてすらねぇからな。ヤってそのまま縁切れて逃げる、なんて大人として恥もいいとこだし、役立たずのクズ確定だよ。

 モカの昼休みの件は全く関係なく、アイツオススメのパンをくれるっつう約束だ。結局、沙綾っつうやまぶきベーカリーで手伝いしてたポニテの将来口うるせぇオカンになりそうなヤツに警戒されっぱなしだしな。

 花咲川の先生方はほのぼの系多いし、オレみたいなヤツは怪しく映るってのもわからなくねぇんだけどさ。

 ──っと、それは一先ず置いといてだな。問題は蘭だ。頷いてくれたものの、気まずいだろうな。本来助けてくれるはずのAfterglowはいない。

 羽沢は生徒会、上原は部活、宇田川はデートで、モカは用事、らしい。なら、オレができることは一つだな。授業が終わり、少しして教室棟が静かになったのを見計らって、オレはドアを開けた。

 

「……なっ、なんで」

「遅いから迎えに来てやったんだよ」

「今から……行くつもりだったし」

 

 わかりやすいウソだな。けどそんなウソを証明する戸惑いと、ほんの少しだけ嬉しそうなその顔が、季節外れのオレンジに照らされて、キレイだなと、素直にそう思った。誘われたとは言い訳したくねぇ。手を出したのはオレだから、蘭に傷を残したのは、オレだから。男としてじゃなくて、教師として、っつうクズだけど、責任は負うさ。

 

「まず謝って、いや土下座で済むとすら思ってねぇ。けど、謝らせてくれ。許されてぇわけじゃねぇけどそれでも、オレは、謝るべきことをしたんだ」

「アンタ……」

「悪かった。お前に、恐怖を思い出させちまった」

「……そう、だね。怖かった……アンタのこと、わかんなくなった。同じだと、思った」

 

 その言葉は胸に突き刺さった。けど、今回ばかりは断罪されるべきだ。ここで殺されても、オレは恨んだりしねぇ。もう二度と顔を合わせたくねぇってんなら、それで構わねぇ。そういう覚悟だ。

 一歩、また一歩蘭は近づいてくる。眉間に皺を寄せて、そして思いっきりオレの頬を張った。痛ぇ、めちゃくちゃ痛ぇ。けど、涙を流した蘭の顔を見たら、これもこの痛みも当然かと思えた。

 

「痛い?」

「ああ」

「当然だよね」

「……ああ」

「これはモカに手を出した分……それで、これはアタシに手を出した分」

 

 もう一度、手を振り上げた蘭を受け入れようと、オレはその場にとどまった。目を閉じて、蘭への謝罪をずっと胸に込めて、頬に爆ぜるであろう痛みを待つ。

 ──けど、いつまで経っても想像した痛みは来ることなく、ゆっくりと目を開けると、夕陽の色を顔半分に埋め、もう片方を赤色のメッシュを揺らして、微笑んでいた。疑問が空白の時間を生み出したその瞬間を、まるで待ち構えていたように、蘭は踵を浮かせて、目を閉じた。二人しかいない教室、差し込む夕焼けは、まるで世界からオレたちだけ、切り取られたみてぇだな、なんて考えながら、青春の味を数秒、唇にもらった。

 

「……怖かったはずなのに、アンタに……一成にいっぱい名前を呼ばれて、夢中になったあの日、幸せだった。アタシの青春は、一成と出逢うためにあったんだ、って、思えるくらいにさ」

「バーカ、オレはクズ教師。お前が青春を感じるようなヤツじゃねぇよ」

「それはアタシが決めることでしょ? もう青春もなく枯れちゃったクズ教師のアンタは、アンタのいつも通りでいいから……アタシの青春を、見ていて」

 

 ああ、見てるさ。お前の黄昏を、お前の青春を、お前の……ロックを。

 成ってみせる、留まってみせるさ、蘭が望むなら、オレはいつまでだって、クズ教師のまま。お前の青春を、見守ってるよ。

 

「お前ってさ」

「なに?」

「男の趣味悪いよな」

「はぁ? なんでアンタにそんなこと言われなきゃいけないわけ?」

「……キレんなよ」

「前のカレシならまだしも、今の好きなヒトを悪く言うからでしょ」

「オレなんだよな?」

「それが本人でも、アタシにとっては、だ、だいすき……だから」

 

 そこで照れるなよ。見てるこっちも照れるじゃねぇか。つか、ヒトのことクズ教師、クズ教師って言っといてオレが言ったらキレんのかよ。理不尽だって思わねぇのかね。けど、やっぱりお前はロックだよ。モカには悪いけど、ヒナには悪いけど、教師じゃなくなった時、オレが求めるのはきっと……蘭だ。

 

「蘭」

「なに?」

「オレはお前みてぇなロックな女が好きだよ」

「……っ! アンタ、教師としてとか言っといて……!」

「待て待て、そういう意味じゃねぇよ。ただ、オレの好みはお前みてぇなカッコいいヤツだってことを思い出しただけだ」

「……一成」

 

 本当は蘭に最期の瞬間まで手を握っていてほしい。それが、教師としてじゃねぇ、一人の男としての、オレの望みだ。けどこれは正解なんかじゃねぇ。少しの正しさもねぇオレのエゴだ。そしてオレは教師を最後まで降りるつもりはねぇから。

 

「じゃあ、アタシはそんな一成にとって教師であることを後悔するくらいカッコよくなりたい」

「そん時はアレだな……責任取るしかねぇかな」

「言ったね? 今更ナシって言ったら怒るから」

 

 けど、蘭の言葉は不思議と安心感がある。コイツはまっすぐだからな、オレがマジで後悔するくれぇの女になってくれるだろう。ただ、これを蘭と約束するにはちょっとだけ不都合なところもある。あの悪魔どものこと。

 

「あ、でもさ」

「なんだ?」

「これからもモカと日菜さんのことも、それからアタシとも今まで通りにすること。それは約束して」

「……は?」

 

 けどそんなオレの葛藤を察知したのか蘭の言葉は予想してたものと真逆だった。最後のはまだ分かるけど、モカとヒナとの関係を知らねぇわけでもねぇのに、何考えてんだよ。だがそれは一成が教師だからと言葉を付け足してくれる。

 

「教師なら教師として卒業まで責任は取れってこと。アンタのことだから、またどうせ断れないんでしょ?」

「……そうだろうな」

 

 ヒナと顔を合わせる機会が増える分、というかあの悪魔はそれを狙ってるフシもあるが、当然、終わり二言目にはキスしよ、それから次はえっちしよ、だ。それを許さなかったら際限なく負の感情に押し潰されるんだろうな。納得したところで、蘭は、ふたつめ、と条件を提示してくる。

 

「タバコ吸う本数、減らして」

「無くして、じゃなくてか」

「ホントはそうだけど、アンタにとっては無くなったら困るものだから」

 

 苦手なクセに、譲歩するのかよ。ホント、お前はオレの生徒には勿体ねぇ女だ。ああそうだな。ちゃんとオレは教師として踏み出さなくちゃいけないんだ。タバコばっか吸ってちゃダメだよな。

 

「それで、みっつめ。モカや日菜さんだけじゃなくて、アタシも一成と、その……え、えっち……したい」

「それでシて辛くなったのに?」

「だけど、モカも日菜さんもシてるのに、アタシだけ手を出してもらえないのは、ヤだ。それにさ」

「それに?」

「ゆっくり、ならたぶん平気だから」

 

 蘭のヤツはそんなことを言ってオレを赦しちまう。甘くて、カッコよくてオレはお前みたいな生徒に想われて幸せだと思った。それ以上に、お前の将来が欲しいだなんて贅沢なことも。

 ──その週末には、家に来た蘭と溶けるような一日を過ごした。恋人っぽいね、なんて微笑まれて、オレも釣られて笑っちまった。

 結局、オレは生徒三人とヤっちまうクズ教師のまま失敗続きだった六月が過ぎていった。雨は上がり、黄昏の空に虹がかかったような晴れやかな気分。この日、オレはまた一つ、教師としての自分を取り戻していった。

 




これで山を一つ乗り越えたかと思いますが、山はあと二つあるんだよなぁ。頑張れクズ。捕まれクズ。


※既読の方へ
気づいたヒトもそうでないヒトもいるかと思いますがこの話はどうしても展開を変えたかったので一部セリフが変わっていたりします。(前々から結構差し替えてるけど)
ここで清瀬一成とクズ教師、どちらの理想も取り戻してしまったという描写をすることで今後の展開への布石としてこうという狙いです。
具体的に言うとより鮮明にみみ(大学時代の元カノ)との未練が残ってるカタチになっています。じゃあもう連絡とれよお前さぁ
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