青春ガールズロックと黄昏ティーチャー。   作:黒マメファナ

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※初見の方へ
作者はマジで原作の氷川日菜の属性がこう見えています。男いないんだから証明のしようがないだけ。


②小悪魔リビドー

 出逢いが劇的過ぎてもう二度と、会うこたぁねぇと思ってた。そんなわけねぇんだよな。ここは狭くて劣悪な環境を誇る監獄(がっこう)で、美竹蘭は囚人(せいと)、オレは看守(せんせい)だ。当たり前のようにオレと美竹は再会した。場所は夕焼けの屋上、なんて絵になる場所で、絵になるやつが来たから口からタバコが滑り落ちた。

 

「ぷっ、ダッサ、なにやってんの」

「うるへぇ、ったく、一本無駄にしちまったじゃねぇか」

「どう考えてもアンタの自業自得でしょ」

「生意気なガキだな。つうかオレ教師なんだけどもしかして敬語とか使えない系かお前?」

「は? ちゃんと尊敬できるヒトとか目上の人には敬語だけど」

 

 おいまてこのクソガキ。前者は諦めてるからいいとしても後者はオレもその括りに入ってるだろ。なんでさも当たり前のようにオレを目上から除外してんだよ。ちゃんとの意味間違ってんだろ。敬語使えない系は天文部の変態だけにしとけよ。

 

「この時間にいるってことは、なんかの顧問でもやってんの?」

「いちおうこれでも天文部なんだがな。オレはそこに巣食う天才ちゃんが部活動をするって言いだした時にこうして屋上でサビ残してるんだ」

「天才ちゃん……ああ、あの氷川って先輩」

「なんでも最近はギターが楽しいらしいから、もっぱら部活動もそれだけどな」

「……天文部なんだよね?」

 

 そんなあからさまにバカじゃないの、みてぇな顔されてもな。その問題児が羽丘唯一の天文部だから、何しようがそいつの勝手ってことになってんだよ。顧問も管理とか言いつつの屋上で一服吸って、缶コーヒー片手にテキトーに残業してるだけだからな。オレのことだけど。

 

「じゃあ……アンタ暇なんだ」

「不本意だがな……つかお前こそ、こんな時間になんでいるんだよ。帰宅部だろ」

「つぐみ……友達が生徒会だから」

「ふーん、前に言ってた仲間、ってヤツか」

「うん」

 

 つぐみ、ってあの羽沢つぐみか。職員会議で最近氷川、美竹、瀬田に続いて名前の挙がるヤツだ。上記三人とは違ってコッチはお偉いさま方もにっこりの頑張り屋だ。この間学年主任で生徒会の顧問でもあるハゲが、うちのつぐみがとか言い出して思わずスマホのディスプレイに110の数列を並べちまったから関連で覚えたんだよな。ほんとこの職場、変態とロリコンが多いな、やっぱ辞めた方がいいかもしれねぇ。そんな真面目ちゃんがこんな赤メッシュと一緒にガールズバンドか……イメージつかねぇな。

 

「……アンタ今、つぐみがこんな赤メッシュの不良と一緒にバンドとかイメージつかないって思ったでしょ」

「失敬な、そんなこと思っちゃいない」

 

 そこまで悪い意味を込めたわけじゃないからな。

 ──それにしてもコイツ、見た目はアレだが、会話のテンポが常識人の範囲内だからか、会話が弾むな。職員室ですらここまでテンポが合うやつは一人しかいねぇから、ついつい話し込む。

 

「それで? 今日は特に嫌なことがあったってわけじゃなさそうだな」

「……夕焼け、見に来ただけだから」

「夕焼け? ああ、今日は確かに眩しいな」

「この景色が、アタシたちの始まりだから」

「そう、かい」

 

 コイツらのバンドの名前はAfterglow……美竹が言った始まりでもある夕焼けの英語。単純で、実に結成当時中学生だったことを伺える安直なネーミングだ。カッコいいじゃん、嫌いじゃねぇ。

 歌詞をこねくり回して詩的に歌うのは、ポップの仕事だ。ロックはたぶん、もっとまっすぐで歪んでて、勢いと矛盾で構成されるもんなんだから、それでいいと思った。

 

「アンタの言う通り……って言うのは癪だけど、バンドも華道も、向き合うことにした」

「そっか、ま、できるだけ頑張れ。できねぇと思ったら、そん時はまた立ち止まって考えりゃいいんだよ」

「そうするつもり」

「オレのアドバイスは役に立ったみたいで、安心した」

「全然」

「おい」

 

 楽しそうに冗談を放つコイツは、以前の思いつめて眉間に皺が寄ってたヤツとはまるで別人だった。つか、そんな風に笑わないでくれよ、お前は顔が良すぎて心臓に悪い。思わず15歳と28歳っつう年の差を忘れちまうぐれぇにはな。男ってのは単純だ。美人の笑顔に弱すぎる。

 

「お前といると、オレがなんの仕事してんのか、忘れそうだよ」

「大して先生してないじゃん」

「てめ……」

「だから、あの日、アンタがいてくれて……その、よかったって思ってる」

 

 それはコッチのセリフだ。口には出さないが、オレだって、あの日美竹に会えてよかったと思ってる。だから、まるで無力に救われた側みたいな顔しないでくれ。恥ずかしいから絶対言わねーけど、オレはお前のおかげで、まだ、やり切ってない、って思えたんだから。

 

「あれ~、ら~ん~」

「……も、モカ!」

「……お前は」

「あらら~? 清瀬センセーだ~、こんにちは~」

 

 そんなときに、屋上の扉を開いて世界を割いて現れたのは間延びした口調にやたらと眠そうな女子生徒。美竹とは違うクラスで、オレの担当するクラスの一年生でもあった。知り合い……いや、コイツも羽沢同様、仲間ってわけか。名前はなんて言ったけか……あ、コイツいつも寝てるから知らねえわ。つか顔を真正面から見たのすら初めてだ。

 

「おやおや~、もしかして~、もしかするとですか~?」

「……なにその指」

「え~、伝わんないかな~」

 

 小指を立てるならオレにだろ。美竹には親指だったはずだ。どちらでも首を振られるのに変わりはないが、そんなの流行ってないのによく知ってるな、コイツ。と観察していたら半眼をこちらに向けてきやがる。安心しろ、別に付き合ってねぇよ。だから通報すんなよ。

 

「偶々ここで会っただけだ」

「なんか見つけたみたいだった蘭がそそくさと屋上行くから、てっきり密会の待ち合わせかと~」

「モカっ!」

 

 おー、なるほどな。仲間うちにはこんな顔すんのか、コイツ。あとこんなアクティブなコイツをオレは知らないからそれはそれで新鮮だ。寝てるか人の授業中に堂々とパン食ってるようなヤツだからな。よく近くの席に座ってる羽沢とかに止められてんだけど。

 ──でも、不思議と問題児には仲間入りしてねぇんだよな。なんでだ……ってたぶん注意されねぇ授業を選んでんな。

 

「モカ……このクズ教師、モカのことわかんないみたいだけど」

「えー、あたし~、センセーの授業にいますよね~?」

「いるだけだな。食欲に睡眠……欲求に忠実なヤツとしか認識してねぇ」

「あー、そーいえば~……青葉モカで~す」

 

 青葉モカ、と不本意なことにまた新しいガキの名前を脳に刻み付けちまった。しかもコイツは明らかにオレの苦手なタイプだ。何考えてんのかわかんねーし、表情読めねーし。言動すべてが不可解、ブラックボックスみてーな女は、総じて近寄らねぇことにしてるんだから、勘弁してくれ。

 ──けど、これはまだまだ後になってわかることだが、この女は特にやべーヤツだった。オレはきちんとコイツの行動原理の半分を理解してたのに、もう半分を意識するあまり、理解していた部分がすっぽりと抜け落ちることになるんだからな。

 

「……ふっふっふ~、蘭があたしたち以外と楽しそうにおしゃべりしてるの~、めずらしーよね~?」

「う、うるさいな!」

「やっぱり普段はむっつりしてんのか」

「むっつりさんですよ~」

「その言い方ヤなんだけど?」

 

 弄りすぎたか、そんな二対一になった美竹は顔を赤らめながら怒ったように足音荒く屋上を後にした。それに続いて青葉もそそくさと何も言わずに屋上をオレ独りの世界に戻した。もしかしたら……そんな予感をまさかと振り払って、タバコを吸おうと胸ポケットを漁って、一本取りだした。そんなとき、あ~! と、聞き慣れたくもねぇ声が聞こえて、また火もつけずに口から離した。

 

「先生いた!」

「氷川……部活は?」

「うん、もう終わりだよー」

 

 ──元祖敬語使えない系、氷川日菜。天文部唯一の部員にして、羽丘きっての天才兼、問題児。とにかく言動がぶっとんでるし、人間離れしてるし、正直同種だと定義することすら躊躇われる生物。フツーの人間じゃ感じえないことも平然となんでと口にする、そんな奴だ。

 

「今さ~、赤メッシュの女の子と灰色の女の子とすれ違ったけど、怪しいコジンシドーってやつ?」

「んなわけねーだろ、タバコ吸ってたら来ただけだ」

「えー、なんかるんってこないなー」

 

 なんだよるんって、理解できる言語でしゃべれよ。けど、オレの回答は些かコイツには不満だったみたいで、オレの胸ポケットからタバコをくすねやがった。あ、つかそれオレが口つけたやつ。最後の二本なんだが。

 

「先生、ライター」

「先生はライターじゃありません」

「先生、ライター貸して」

「はぁ? タバコ咥えた未成年に堂々とライター貸すバカがいると思うのか、お前は」

「ここにいるじゃん、早くしてよ」

 

 チッ、と舌打ちをしてライターを氷川に放り投げた。実は、これが初めての未成年喫煙じゃない。氷川は今年から顧問となったオレに、こうしてサビ残をサボる口実として部活動をしているという体裁を整えて、こうして対価とばかりにタバコを要求してきやがる。未成年の分際でイキった印象のない慣れた所作で紫煙を吐く姿は、とてもつい最近から吸い始めたとは思えなかった。

 

「先っぽ、ちょっと濡れてるんだけど」

「そりゃ、オレが咥えて吸いかけたヤツだからな」

「あは、間接チューだ♪」

「気持ち悪い表現をすんなボケ」

「あたしはそー思ってないもん」

 

 そんな更に気持ち悪いことを言いだした氷川はじりじりとオレに近寄ってくる。最初、一歩でも手が届かない距離から近づいてこなかった美竹とは大違いだ。こいつは最初から肘が当たるような距離で、あたしにもちょーだいって言ったんだからな。短い回想をしていると、コツンと氷川の肘が触れた。だがそれでも尚無言で距離を詰めようとしてくるアホの頭に、オレは手刀を繰り出した。

 

「氷川、いてぇからやめろ」

「その呼び方、ヤダって言ったけどなー」

「……ヒナ」

 

 呼び方を変えると満足そうにまた一歩詰めよってくる。ああ、そうそう。コイツはオレにちょっかいをかけてくる。タバコもたぶんその一環だろうな。けど、コイツとまともに会話が成立しない理由は、ちょっかいをかけてくることじゃない。コイツは、オレって道具を通して、本来自分が味わえないものを強請るだけの駄々っ子だからだ。

 

「カズ先生?」

「その呼び方はやめろと言った」

「ね、カズくん」

「誰が親しげにしろと言った」

「だって、カズナリ、って長いじゃん」

「清瀬って短くて読みやすい苗字があるんだがな」

「キスしよ」

「……断る」

「じゃあえっち」

「いい精神科紹介してやる。親兄弟を泣かす前に受診しろ」

「行くからえっちしよ?」

「クソビッチ」

「カズ先生にしか言ったことないし、カズ先生でしかイったことないよ?」

「……メンヘラかよ」

 

 ああもう、タバコが短くなって……フィルターじゃなくていつの間にか氷川の舌に吸い付く。とろける、倫理がとろけて宇宙に放り出されたように身体が浮く感覚がする。吸ったばっかだから唾液はタバコの味がするし、息を吸う間もねーんじゃねぇかってくらい口塞いでくるから苦しいし、頭がくらくらする。そのまま身体を支えきれなくなって、へたり込むと目の前の悪魔が舌なめずりをしながらスカートを捲って跨ってきやがる。

 

「あはっ、るんってきた♪ やっぱり部活の最後は、コレだよね~」

「恒例にしたくねぇからヒナからやめてくれると助かるんだがな……」

「……やばいってぇ……このタイミングで名前呼ばれたら、あたしもう……無理♪」

 

 夕焼けに背を向けて、背徳交わるランデブー。度し難いのは、氷川とはたったこれだけ、恋人同士として付き合ってるわけではなく、ただ突き合ってるだけのオトモダチ(セフレ)だってこと。

 ──ん? そうだな、オレも同僚のこと、笑えやしないレベルの度し難い変態ってわけだ。干支一周分離れた16歳のガキに流されて、部活という名の欲求の解消。これが何もかも忘れられるくらいに気持ちいのが悪いんだ、なんて口では言い訳して、また流される。美竹に知られたらまた、あの顔に逆戻りだろうに……ん? ふふ、ふはは、思った以上に、オレはアイツが話をしてくれたことを良く思ってたらしい。知られたくないんだな、コレを。

 

「……他の女のこと考えてた?」

「そもそも、お前をオレの女にした覚えはねぇけどな」

「こんなにあたしを汚して、そんなこと言うんだ」

「男はみんな狼だって知らねえのか、美人に誘われて腰振らねぇ男はいねぇよ」

「わぁ、先生の言葉じゃないよね~」

「悪いか」

「ううん、最っ高……♪ またきゅんってしちゃった」

 

 爛れた関係ってこういうのを言うんだろうな。これに比べたらきちんと薔薇色グレイブ直行したオレの同僚ってまだ良心的な気がしてきた。けどこの悪魔とだけは勘弁してほしい。何考えてんのかわかんねぇやつはお断りなんだ。

 

「あの赤メッシュの子、カズ先生好みだよね」

「んっ!? ……んなわけ」

「はい、ウソついたから、ペナルティーね、家まで送ってってよ、先生?」

 

 きちんと訳すとカーセックスしたい……だな。とんでもねぇ日本語が飛び出してきやがったな。ヒトの車汚すのは勘弁しろ。つか車はキレーにしたくてタバコ吸わねーようにしてんだから。そっちも禁止だからな、なんて文句を垂れると氷川はニヤっと意地の悪い笑みで、もってなにー? とわざとらしく訊いてきやがった。

 

「ったく、とんでもねぇ女に捕まっちまったもんだな、オレも」

「あははは、あの子だったらあたしも諦めてあげていいって言ったら……どうする?」

「ウソはペナルティーじゃねぇのか?」

「あ、うん。(くち)使う?」

「帰るんだよ、アホかお前どんだけだよ」

 

 そろそろ最終下校時刻だからバレるだろ、という意味も込めての手刀でようやくオレの上から氷川が退いた。部室のカギを返して、後はコイツと不本意な放課後デートか。

 ──ああ、ちくしょう、認めてやるよ。美竹が恋しい。アイツとただの教師と生徒の会話をしてる時間の、その合間にあるなんか許されてるって感じが、めちゃくちゃ居心地良かったんだよ。この悪魔に出逢う前に、お前と会いたかった、なんて思ってるくらいにはな。

 

「じゃ、あたし先に駐車場行ってるねー!」

「……はぁ」

 

 嵐のように去っていく氷川の後ろ姿を見送り、やっと独りになって、タバコ……はもう最後の一本アイツに取られたんだった、クソ。そうやって悪態を付きながら重い腰を上げて扉を開ける。そして階段を降りていく途中で、のんびりとした声を聴いた。

 ──もう一体の悪魔の声。眠そうな目には感情が映ってないくせに、笑みだけはやけに寒気のある、三日月。

 

「さっきのさ~、バレたらヤバいヤツですよね~?」

「あ……おば」

「はい、ちょーぜつびしょーじょのモカちゃんで~す」

「さっきの、って?」

「え~、ここで誤魔化すの無駄だと思うんすよ~、ほら」

「……チッ」

 

 さよならオレのティーチャーライフ。青葉の手に握られていたスマホには抱き合う教師と生徒、再生ボタンを押さなくとも、悪魔が恍惚の表情で身体を上下に振るのがわかりきっている動画。学校なんていう生ぬるい監獄の看守からモノホンの監獄の囚人にジョブチェンジ待ったなしだ。

 

「それで~、あたし、質問しましたよね~?」

「ああ、めちゃくちゃヤバい。お前が何か行動一つするだけで下手すると物理的に首が飛ぶ」

「いや、そこまでないと思いますし、日本の死刑は絞首っすよ~?」

 

 と、オレの首に大斧を構えた悪魔からの一言。そんな常識的なツッコミは今求めてない。オレの解にお前がどうするのか、ただそれだけなんだから、早く楽にしてくれ。オレは既に苦しんでる。

 

「……じゃあ、連絡先、こーかんしませんか?」

「は? いや、意味がわからん」

 

 青葉の真意がわからず、オレは死刑執行寸前にも関わらず、呆けた顔をしてしまったのだった。

 

 




とりあえず二話まで、ここからクズのクズ道が始まるのだった。
次回はブタ箱からの大脱出編です(大嘘)
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