青春ガールズロックと黄昏ティーチャー。   作:黒マメファナ

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第三章、フェスの始まり!


第三章:星空のフェス
①交渉エンプレス


 授業が終わり雨の天文部室、オレはヒナと文化祭でなにをするかというミーティングをしていた。学校内でのマトモな部活動なんて初めてで、ヒナとそれを笑いあいながら面白そうだと思うものを出し合ってた。

 

「でさ、進路相談ってだけでもるんってしないのに、脚をチラチラ見ながら話してくるし、カズ先生のこと悪く言うから、サイアクだったよー」

「まぁ、オレのこと悪く言わねぇ教師が少ねぇからな」

「確かにクズ教師だけどさー、なんかヤだなって」

「おい」

 

 ──マトモな部活動? してたよ、15分前まではな。ヒナが飽きてキスしたら、そんな気分じゃなくなったらしく、最近のお気に入りらしい膝枕で他愛のない会話を続けていく。脚云々は正直コメントに困る。コイツの脚は魅惑すぎるからな。今も頭を乗せていて、極上だと思っちまうし。

 

「あ、でもカズくんになら見られてもへーきだよ?」

「そりゃよかった」

「えっちしたくなっちゃうけど」

「へーきじゃねぇな、それは」

 

 そんだけでムラムラすんなよ。どんだけ持て余してんだよ。呆れてため息を吐いた時、机に置いてあったスマホが鳴った。ヒナは自分のだとわかると手を伸ばしてオレがいるのも構わず、通話ボタンを押した。

 

「もしもし、麻弥ちゃん? どしたの? うん、今部室だよー?」

 

 麻弥ちゃん、って大和か。ハナシには聞いたな。

 演劇部裏方のエース、大和麻弥。芸能事務所でも裏方をしていたヤツだが、白鷺にビジュアルを見込まれてPastel*Palettesに正式加入した、とはヒナから。人柄として、自信はやや足りないが、活動への真摯な態度とまた親しみやすい印象もあり、ファンからの人気も高い──と、演劇部の顧問の熱弁だ。もう慣れたな、このくだり。つかなんでアイドルとしての生徒も知ってんだよ。

 Pastel*Palettes……つまりオレを膝枕してご機嫌だった悪魔やオレにちょこちょこちょっかいかけてくる白鷺と同グループのメンバーってことだ。この二人のせいでアイドルの良い印象がねぇからちょっとばかしどうしていいのかわかんねぇけど。

 

「うん、うん……へー、そーなんだ。あ、それならいいヒト知ってるよー? うん、そうそう。お気に入りっぽいからさ」

 

 オトコのハナシ……みてぇだな。まさか大和もか、そうなのか。オレもうやだ。

 と、思ったところでヒナがオレを見て悪魔の笑みを浮かべた……え、なに怖、オレもそっちの話に巻き込む気かよ。

 

「……なんの話だよ」

「ん? ちょーっと、頼まれたことがあってね」

「頼まれごと?」

「うん。今回ね、演劇部の公演百回目なんだって、それで、客演を呼ぼうって決めたんだけど、その子が出ないーって言うからどうにかならないかーって、麻弥ちゃんから」

「……それで?」

「助っ人に先生を推薦しといた♪」

 

 意味わかんねぇよ。客演のヤツと知り合いでもねぇとそもそも交渉すら成り立たねぇだろ。

 ──ん? オレの知り合い? 客演、お気に入り。かつ大和とヒナ共通の認識がある……まさか。まさかな。

 

「あ、羽沢珈琲店で待ち合わせだって、行こっか」

「……おう」

 

 嫌な予感しかしねぇ。そう思って起き上がらずにいると、ヒナはまた、唐突にスカートを捲ってきやがった。今日は白に黒のレース。天使で悪魔なコイツっぽい、つかなんか気合い入ってるの、気のせいか? 

 

「……今日、泊まるね」

「紗夜に文句言われなきゃいいぞ」

「今日はカズくんに見てもらおうと思って選んだのに」

「……つか、初めから泊まる気だったろ」

 

 荷物多いんだよ。替えの下着とか入ってるだろ。ヒナだけじゃねぇけど、オレんちに寝巻きを置いてもお前ら、結局裸で寝るなら意味ねぇだろ。

 けど、大和が迎えに来るってことでオレは極上の枕から頭を離し、近くの駐車場から歩いて羽沢珈琲店まで向かった。

 

「……あら、今日は薫じゃなくて、貴方がネゴシエーターというわけね、先生?」

「やっぱりお前か……白鷺」

 

 そこにいたのは魔王、白鷺千聖。大和とヒナの会話はコイツのことだったんだな。そして白鷺の交渉にいいヒト、白鷺のお気に入り、それはオレのことだったと。身の危険を感じる。

 ──案の定、白鷺は下から上へ目線でオレを撫でると、うっとりしたような表情を浮かべた。

 

「ふふ♪ どうやら迷いは吹っ切れたみたいね。前より素敵な顔、してるわ♪」

「どうも……」

 

 寒気がした。蛇に睨まれた蛙の気分だな。というか、オレがコイツに対して持ってる交渉カードって一枚だけなんだが、そこんとこどうなんだよ。おい、知ってるか? カラダは売ったらダメだって教えるのが教師なんだが。なんでそんな教師が売らにゃならんのだ。

 

「千聖さん! 清瀬先生を好きにしていいですから、どうか客演、よろしくお願いします!」

「大和、お前のことぜってぇ恨むからな」

「恨まれたとしても、公演成功のためっス!」

 

 大和のやつ、思ってたのとなんか違う気がするけど。確かに真摯だ、でもやっぱ方向違うよな。この上原クラスのダイナマイトはあろうことかオレを生贄にしようとしてるからな。白鷺の前にエサを出せば釣れるだろうな。よかったな、おい。

 ──と、思ったものの白鷺はいつになくシリアスな雰囲気で首を横に振った。

 

「……いくら清瀬さんを自由にできても、その条件は呑めないわ」

「──!? ど、どうしてっスか!? 先生とヤりたい放題っスよ!?」

「ち、千聖ちゃんが……カズ先生をフるなんて」

 

 おいこらそこのパスパレ羽丘ガールズ。白鷺に対して幾らなんでも失礼だろ。コイツは、一応女優としての矜恃と誇りを持ってる。男でホイホイ釣れるような尻の軽いヤツではないと思うけどな。いや尻の軽いビッチではあるが。

 

「ふふ、清瀬さんは、どうやら理解してくれているようね」

「まぁな。白鷺が三つスマホを持ってる時にはなんとなくそうだと思ったよ」

「え、どうゆうこと?」

「多分、ヒナには一生わからんだろうな」

 

 白鷺には芸能人としての白鷺、ただのJKとしての白鷺、性行為を娯楽として楽しむ白鷺、三つの顔があるんだよ。望んでそうなったワケじゃねぇと思うけどな、そうやって分割することで、うっかりすると潰れちまいそうな世界でひとり、コイツは生きてきたんだ。

 端的に言えば、文化祭の客演、なんつう中途半端な仕事は引き受けたくねぇってことだ。

 

「簡単に言うとね、薫の前で、女優の顔を保っていられる自信がないのよ」

「……そんな」

 

 大和は落胆するが、そこは白鷺を分かってやらねぇお前らが悪い。まぁ、難解な女だとは思うから知らねぇ方が人生としては幸せだろうよ。知ったら食われかねねぇし。魔王だとか女帝だとかオレは表現するけど、コイツはまだ高校二年生のクソガキだ。大和や、ヒナと同じ歳なんだよ。だから、オレは大人として、ガキに言葉を向けてやるさ。

 

「だからこそ出たらどうだ」

「……どうして?」

「お前はたかが文化祭の公演ごときで揺らぐような安い女だと思ってねぇから」

「高く買ってくれるわね」

「そりゃ、ガキ相手に勝てねぇって思ったのはお前だけだからな」

「それはいいけれど、私が()ると言えば貴方は私とヤることになるのよ?」

「教師だからな。生徒の、しかもヒナがそうしてぇって思ったことはできるなら叶えてやりてぇんだよ」

 

 そりゃあ食われんで済むならそれに越したことはねぇけどヒナが、白鷺が出た方が面白ぇって思っちまってんだから、しょうがなくはないけどなんとかしてやりたいさ。それに同性殺しの王子様である瀬田と天使のような微笑で男女問わず騙してきた白鷺のダブル主演なんてわくわくするよな。オレだって、観てみてぇって思っちまうんだから。

 

「カズ先生……えへへ」

「……本気になってしまいそうだわ」

「カレシいんだろ」

「カレがいたら、本気になったらイケナイのかしら?」

 

 いやダメだろ。不思議そうな顔で訊くなっつうの。どこまで自由なんだよ。そう思った瞬間、白鷺の表情が変わった。

 うっとりと魅惑の表情。きっとファンには一生しねぇだろうなとわかる、そりゃもう甘すぎる毒を伴ったむせかえるほどの、情欲を見せてきた。

 

「清瀬さん……今からはどう?」

「ヒナとの用事があるから無理だな」

 

 コレは確かに男には抗いがたいな。魔王の魅了に踊らさせるのも悪くねぇと思うくれぇの雰囲気だ。けど、やっぱりお前かヒナか選ぶとしたらヒナだって即答するさ。なにせ、オレはクズである以上にクズ教師だからな。教え子の方がかわいいに決まってんだろ。

 

「そう……残念。それなら、文化祭準備中に借りるわね」

「うん、蘭ちゃんとモカちゃんがいいってゆーかわかんないけど」

「ふふ、そうね。あまり外向きでない蘭ちゃんとモカちゃんを魅了した清瀬さん……うふふ、どういうテクを持ってるのかますます興味が出てくるわ♪」

 

 やっぱり、コイツは魔王で、悪魔の女帝だ。特に嫉妬深く束縛癖のあるモカのこと、敵とすら思ってもねぇんだから。つか楽しそうだな。きっとオレと同年代ともヤったことのあるお前からしたら、オレなんか取るに足らないだろうに。それでも迫ってくるのは、やっぱりオレの肩書か? 

 

「お前は、オレのどこを見てそんなに誘ってきやがる?」

「先生だって言うのもあるけれど……なにより、日菜ちゃんがあんまりにも必死に教えようとしないから、かしら」

「だって千聖ちゃんはそーなると思ってたもん」

「寝取り、というのもやってみたい気持ちだわ」

 

 知らんし、それで本気になったら既にオレが寝取ってることになるから後味悪いしで最悪だな。オレにそっちの趣味はねぇ。特殊なプレイは見るだけで十分だってヒナに思い知らされてるからな。

 ヒナと白鷺は、それからなにやらオレのとある部位のサイズのハナシに花が咲いてる。咲かすな、つか具体的にサイズを手で表現するなヒナ。

 

「……えと、あんなにおっきいんですか」

「大和……」

「あ……すいません。カレ、あ、いえ、気にかけてくれてる男性はいるんスけど……フヘヘ」

 

 よかった。大和は純情系だったか。どうも先にヒナと白鷺を見ちまったせいで大和もそうなんじゃねぇかって思ってたんだよな。あまり他人には聞かせられないようなハナシで盛り上がる二人を見ながら、大和は苦笑いをしていた。

 

「なぁ、パスパレって五人だよな」

「え、あ、ハイ……あと、彩さん、イヴさんっスね」

「……大丈夫なのか?」

「イヴさんは、ハイ」

 

 なるほどな。けどヒナはメンヘラで白鷺はクソビッチ。それに加えて、大和も濁したもののカレシがいて丸山とやらにもどうやらソレっぽいのがいるらしい。アイドルっつっても中身はJKだもんな、よっぽどの覚悟じゃねぇと仕事は恋人にならねぇってことだ。そんな丸山彩と若宮イヴの印象の話をしていると、大和はポツリと呟いた。

 

「清瀬先生は、なんというか、授業とは印象が違いますね」

「まぁな。いつもは影薄くサラっとすませてるしな」

「……それじゃあやっぱり先輩から聴いた()()()は本当、なんですか?」

「さぁ、どうだろうな?」

 

 我ながら下手な誤魔化し方だな。これじゃあ肯定とそう変わりゃしねぇよ。ただ、肯定してやるからこれ以上その話題に触れるなっつう意味も込めてるからな、大和もそれを深く訊くことはしてこなかった。

 ウワサ、ウワサか。そうだよな。アレがあった時に高等部の生徒だったのは今の三年だけ。しかも先輩が吹聴したのを聞いた程度だろうからな。確定情報はもう出回ってはいねぇか。

 

「まぁ、ウワサがどうであれ、今日はありがとうございました。お陰様で千聖さんを客演に呼べました」

「おう、オレは大事なもんを失うんだから間違いなく成功させろよ? あ、あと天文部なにやるかとか決めてねぇけどそっちの宣伝もよろしくな」

「ええ! その辺りはご心配なく!」

 

 大和は賢いヤツだな。コイツも、テキトーにバイトして、時々サボったりしてドヤ顔で社会経験とか言うクチじゃなくて、スタジオミュージシャンとして、またアイドルとして、本物の社会っつうもんを感じてる。まぁ言わば大人に片足を突っ込んでるっとこだな。白鷺やヒナとは大違いだけど。やっぱコイツもどこか他のガキとは違うよな。

 

「それじゃあ、また文化祭準備中に……楽しみにしていますね♪」

「はぁ……んじゃ、またな」

「まったねー!」

 

 羽沢珈琲店と後にして、ヒナと商店街を歩いていく。色々話をしたが、なにはともあれ、当初の目的通りオレが大義のための犠牲になって、魔王の交渉に成功か。あーあ、あんなカッコつけといて蘭になんて説明するんだよ。モカにも、なんて言い訳すれば陽の光を浴びれるか考えとかねぇとな。

 

「……そういや、ヒナはよかったのか?」

「なにが?」

「いや、オレが白鷺とヤることになったことだよ」

「そりゃ、カズくんがとられちゃうのはヤだよ……でもね」

「ん?」

「千聖ちゃんが、今日って言った時に用事があるって言ってくれたのが、嬉しかったんだ。あたしは仕方なくじゃないんだ、ってわかったから、トクベツに許してあげることにしたんだ!」

 

 ──ヒナは、いつもと変わらない笑顔だ。傘を一回転させて、イタズラ好きなひまわりを咲かせて、オレの傘の中に素早く滑り込んできた。

 ヨメ、トオメ、カサのウチ……美人の条件として、半ば笑い話のように語られる原則。共通点は、明け透けに言えばヒトには見えにくいってことだ。そりゃ煙る視界じゃ、相合傘をする二人が唇を重ねていても、気づかねぇもんだ。

 

「ん、その代わり……さ、今日はいっぱい、シて?」

「泊まるんだろ?」

「うん」

「ヒナの好きにしろよ」

「……うん!」

 

 オレはとことんまでヒナに甘い。そんくれぇ自覚してるさ。けどコイツは教師を辞めようとしていたところに困った笑顔でやってきて、オレに新しい意味をくれた。性欲が強くて、メンヘラで、困ったヤツだけど……ヒナは、やっぱりオレの悪魔(てんし)だ。道に迷った時に現れて、示してくれる。そんなヤツのこと、甘くならねぇわけねぇんだよ。

 

「千聖ちゃんのこと、本気になっちゃダメだよ?」

「ならねぇよ」

「わかんないよ? 千聖ちゃんが本気で気に入ったヒトは毎日でもえっちするんだって」

「それは待て……ソースを提示しろ」

「千聖ちゃんのマネージャーさん」

「……マジかよ」

 

 そりゃあ確かな情報源だな。けど、やっぱりオレにはその二人のことをイマイチ理解しきれねぇ。その情報を知ってるマネージャーとやらは確か白鷺のカレシだよな。いくら自分も手を出してるとは言え、生徒たちが他の男にも腰を振ってると思うとなんとなくモヤモヤする。感覚が違うだけかもしれねぇけどさ、あの関係にはなんとなく違和感があるんだよな。

 そんな言い切れない感覚が顔に出てたのか、ヒナはシャツの袖を引いてきた。いつもよりも数段控えめな主張だな。

 

「難しく考えすぎだよ」

「そうか?」

「うん。カズくんは先生だもん。きっと千聖ちゃんのこと、さっきみたいにわかってあげられるよ」

「そうか。つかいつの間にか、ガキの相談に乗ること多くなっちまったな」

「それがホントのカズくんの先生としてのスタイルでしょ?」

 

 ヒナの言う通りだな。生徒が必要以上に抱える荷物を取り除いて、背中を押す。それが本来はあのクズ教師が取っていたスタンスだ。

 教師とは鏡であれ。目に映るその生徒を理解し、読み取り、より良き道を見つけられるようにしてやれ。クズ教師に教わったことはねぇけど、オレはあのヒトからそうするのがあるべき姿だと思った。オレは違う道を歩みてぇと思っていたけどどうやらちゃんとまだ、燻っていたみてぇだな。

 

「けど、まぁ全生徒は無理だな。オレにそんなキャパはねぇよ」

「でもさ、その分あたしもカズくんもオイシイ思いできてるから、アリだよー?」

「整体通い始めて薄い封筒がますます薄くなった」

「そんなかわいそうなカズくんをあたしが癒してあげるね?」

「それが原因なんだけどな?」

 

 オレの理想に照らし合わせるなら全員なんだが、関わった全員なんてとても不可能だ。オレはそこまで聖人にはなれねぇし特別な感情を抱けねぇ。けど、オレにはヒナがいて、モカがいて、蘭がいる。せめてその三人には高校の時にそんな教師がいたな、ってことを覚えてくれりゃ、オレはそれで満足だ。

 ──ヒナの記憶にも、残るんだろうか。コイツは記憶の取捨選択ができすぎるから、きっと忘れないでいるのか、それともいらない記憶としていつかは処理されるのか。訊いてみてぇと思うけど、怖くて訊けねぇな。大事なヒトに忘れられるのは、キツいからな。

 




忘れたのは果たしてどっちなんでしょうね。



ところでどうでもいいけど評価のガイドラインくらい理解してから評価してくれ。いちいち報告すんのめんどいからさぁ
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