青春ガールズロックと黄昏ティーチャー。   作:黒マメファナ

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祭りの最後といえば打ち上げだよね。楽しかったなぁ……打ち上げ(遠い目)


⑦焼肉フェスティバル

 祭りは終わり、オレは片づけをするために振り替えの休みにもかかわらず休日出勤をしていた。

 とは言うものの、振り替え休日なんてその日のうちに片づけちまったヤツにしかなく、基本的には文化祭に関わったほぼ全員が学校へとやってきて、各々片づけをしていた。

 

「さすがに花咲の二人は来れないか~」

「そりゃそうだろ、あっちは通常授業だろうからな」

「アタシたち四人で、なんとかなるの、これ」

「ピアノ動かすの大変だよね~」

 

 千聖とこころは今頃通常授業、今井はダンス部の方に顔を出してる。となれば残るは顧問のオレと唯一の正規部員であるヒナ、あとは仮入部扱いの蘭とモカしかいない。あ、あとオレは説教が待ってたな。教頭が昨日見に来ていただき、その素晴らしいセットに青筋を立ててらっしゃった。そんだけで昼に呼び出しとは高血圧は怖いね、オレも気ぃつけるとするかな。

 

「あのさ、カズ先生」

「ん?」

「お昼に呼び出しがあるって、あたしが無茶なこと言ったから、だよね」

 

 そんなことを気にするなら構想段階で気を遣っていてくれると助かったんだが、まぁオレもやってみて、お客さんの反応がよくて楽しかったからな。帰る時によかった、次も観に行きたいって笑顔で去っていくヒトを見送るのは、悪くなかった。初めて聴いたヒナの本気の演奏は息を呑むほどだったしな。お前が悪いわけじゃねぇよ。

 だからオレは殊勝なことを言ってくる悪魔の項垂れる頭に手刀を入れてやった。しょんぼりすんな気持ち悪い。

 

「いた……」

「無茶じゃねぇよ。実際、大成功だったろうが。アレなら1000円でもヒトは集まっただろうな」

「ん……えへへ、だってあたしプロだし~?」

「チョーシ乗んな」

 

 因みに初期設定の500円で、集めた金は焼肉に使う予定だ。つか二日目は噂を聞きつけたパスパレのヒナを目当てのヤツとAfterglowの蘭を目的にしたヤツがいたな。音響云々があるとは言え、普段コイツらの演奏を聴くにはもっと金がかかるから、ハードル的にも低かったらしい。まぁ、だからって倍にしたらそれこそ高血圧に雷を落とされるけどな。

 ──いざとなったらこころに頼るか。まさか弦巻家のお嬢様が関与してるなんて思ってないだろうしな。そう思って授業中で悪いとは思いながら万が一を考えてメッセージを送っておいた。これで、焼肉代が巻き上げられるようなことはないな。

 

「あんなキレイだったら、あたしもさ~、蘭たちと同じ景色、見たかったな~」

「モカ、連絡しても返事なかったじゃん」

「だって~、せんせーが別ルートでいて、引率だとはさすがに予想つかないって~」

「……あ、理由そっちなんだ」

 

 蘭もドン引きしてるけど、このストーカーはホント怖いな。まだ今は姿を現してくれるだけ幸せだ。羽沢たちから聞いたハナシによるとモカのスマホの写真フォルダには三年前の二学期からのオレの写真が詰まってるらしい。一度スマホを変えてもどうにかして引き継いだらしいことも、羽沢と上原が苦笑い気味に教えてくれた。オレが担任をしてた頃も、辞めてぇと毎日思ってた頃も全部知っていた、っつう衝撃の真実に言葉を失ったのは言うまでもねぇ。

 

「一成? どうかした?」

「あ、いや、なんでもない」

 

 だけど一個だけ腑に落ちねぇところもある。オレの記憶では、とある問題がクラスで起こって、最悪の展開になってそこで、封印してたタバコを吸い始めた、っつうものが残っていた。繋がってると思いきや、モカの言葉がホントなら、オレはそこの一週間がまるっと抜け落ち、無理やりつなげてるってことだな。なにがあった。大学時代と同じだ。はぁ、知り合いの精神科医のお世話になるしかねぇようだな。幸い、親子そろってオレの愚痴を親身に聞いてくれるしな。

 

「疲れてるなら、休んでていいよ。オッサンなんだし」

「オッサンって言うなっつうの。まだ20代はオニーサンで通じる」

「……アンタは今年で幾つだったっけ?」

「……29だよ」

「もう30じゃん」

「うるせーまだ20代だろうが」

 

 そんな精神の難解さはプロに丸投げするとして、今は外に追い出したピアノやら机やらを運ぶ作業に戻る。蘭の言葉はいつも通りトゲだらけだが、これはきっとオレの身体を気遣ってくれてるんだろう。そう思うといじらしくてかわいいヤツだと思えてヒトをオッサン呼ばわりしたことは許せるから不思議だ。知ってるか蘭。オレみたいな年代はな、オッサンを自称することは許容できても、オッサンと他人に言われるのは絶対に嫌っつう、複雑な年頃なんだよ。覚えとけ。

 

「そーいえばさ、焼肉っていつ行くの? 今日?」

「まぁ、今日でもいいな。予約取ってねぇけど」

「平日なら今からでもよゆーだと思うな~」

「あ、でも千聖さん。この後仕事とかないんですか?」

「ええ、ないわよ?」

「んじゃあ、こころと今井に確認を取って……って、あ?」

「どうかしたのかしら?」

「……なんでココにいるんだよ、千聖」

 

 いつの間にやら制服姿のガキの中に私服姿のガキが混ざっていた。どこか清楚さを感じさせる服装に、ふふ、と笑う姿は品が漂う。中身はとんだ性欲を持て余す魔王だけどな。千聖はオレの疑問に甘ったるい声で返事をしてくる。

 

「なんで? わかるでしょう? あなたに会いに来たのよ?」

「学校はどうした、つかよく私服で通れたな」

「恋の翼で飛び越えてきたのよ♪」

 

 それロミオのセリフだろ。随分逞しいジュリエットなことで。これにはさすがのモカやヒナも苦笑いだ。つかブレーキのいねぇ状況でコイツらが揃うのは腰への危機を感じさせるんだが。

 

「ダメだよ千聖ちゃん? 片付けの後、カズ先生は教頭先生のお説教があるんだから」

「それは残念、それじゃあ今日は、手伝いと焼肉で我慢するしかなさそうね?」

「とか言いつつくっついてくんな」

 

 まぁ、それは蘭以外の二人にも言えることだけどな。お前らホントボディタッチ多いっつうの。おかげで蘭には睨まれるし、ちょっと二人きりになると甘え出すから勘弁してほしい。祭りは終わったんだから、そろそろ教師でいさせてくれ。

 けど、まぁ千聖がいてくれて助かった。人手が増えたことで思ったよりもスムーズに文化祭の前の景色に元通りになった。ここで星空のリサイタルがあったなんて、夢だったように、音楽室は音楽室の姿を取り戻していた。

 

「……祭りの後って、さみしーよね」

「ヒナ」

「あーんなに楽しかったのに、それも明日からはないんだもん」

「そうだな」

 

 けどな、ヒナ。祭りはそれが日常じゃねぇから、楽しいんだよ。いつもは整然としてた廊下が、賑やかなストリートになって、机とイスの味気ねぇ教室が、彩り豊かな店に変わる。それが楽しいんだ。低い天井がどこまでも高い夜空になったから、来てくれたみんなが笑顔になって、お前も笑顔になったんだよ。

 

「……さてと、オレは怒られに行ってくるかな」

「じゃああたしリサちー呼びに行ってくるね~」

「私も一緒に行くわ。ついでにお昼も食べてしまいましょうか」

「ら~ん~、ひーちゃんたちがご飯食べよーって」

「ホントだ……行こ、モカ」

 

 音楽室をそれぞれ離れていく。祭りは終わりだと言うように。けど最後に大きな祭りがある。楽しかった文化祭のシメとして、また、日常へと戻れるように、色々な話をしながら、肉を食うっつう楽しい打ち上げが、待ってんだからな。

 ──それはそれとして、教頭の雷はそれほど強くなく、学校の文化祭という枠を超えることはよろしくない、今後はそういった逸脱はないように、との注意で済まされちまった。苦笑いの同僚が言うには、なんと、こころの親父さんが学校に電話をかけてきたらしい。天文部の出し物について、ウチの娘がすまない、と。当然、教頭どころか学長様すら腰を折り続ける冷や汗もんだ。まさか弦巻家の令嬢が関わってるなんて思わねぇもんな。結果、一切使わなかった部費を一部返納したうえでお咎めなしということになった。いやマジで敵に回したくねぇな、弦巻家。

 

「笑顔になれるものに、制限なんているのかしら?」

「お偉いさま方は楽しいことよりも面子を保ってることのほうが笑顔になれるもんだからな」

「難しいのね」

「大人だからな」

 

 放課後にいつも通り屋上でサボっているところにやってきたこころは少しだけ納得のいかないという顔をしていた。そりゃあ、教頭だって学園の外で同じことをして誘われたら笑顔になるかもしれねぇけど、学校って空間を守らなきゃいけねぇって立場がある以上、そう簡単にはいかねぇさ。ルールは守るためにある。世界を笑顔にするんなら、知っておかねぇとな。

 

「ゲームなんかと一緒、ということよね。決められたルールがあって、それを守らないと成り立たないのね」

「まぁ、そうだな。社会ってのは決められたルールがねぇと成り立たねぇからな」

 

 極端なハナシをすると世の中にはヒトを殺して笑顔になれるヤツがいるとして、そいつに銃を手渡すかっつうことだ。それを平気で手渡すヤツがいるから人間は争うことをやめられねぇのかもしれねぇけど。

 まぁ間違いなく、こころはルールを創る側の存在だから、それすらも自由なんだろうが。自分本位のルールは、衰退の原因にもなるんだよな。

 

「争いの種を生むのは避ける。お前が考えるべきことはそこだな」

「争いの……」

「そうだ。例えばだな、金を積んだヤツのところにお前のバンドが演奏するとしたらどうだ?」

「そんなの、不公平だわ」

 

 こころは賢い。理解すんのが早いからついつい教師として熱が入る。前は必死で勉強していた、つまらなくない話し方を意識して、授業をするようにこころの野望でもある世界を笑顔にするための方法を模索させていく。まずは小さな目標からかなえていくスモールステップでの導入や、どうしたら世界中が笑顔になったのか、っつうゴールの明確化。そこに至る過程をどう評価していくか。

 熱く語り合っているうちに今井とヒナと千聖が来て、モカと蘭がきて、それでもしばらく授業は続いた。

 

「いやー、センセーってこんな授業できるんだね~」

「真摯に向き合って語っている姿、とってもぬれ……素敵だったわ」

 

 なんだか久しぶりにここまで真面目に講義をした気がして、終わると少しだけ恥ずかしいな。やっぱり大人数より少人数のほうが教えることも凝縮できるし目も届く。辞めることになったら塾講師ってのもよさそうだな、相当ブラックらしいけど。あと千聖は今すぐ帰っていいからな。

 

「ヒナ、あなたとーってもいい先生に教わっているのね!」

「ん~、普段はあんまりだけどね~」

「たしかに~、テキトーだもんね~」

「一成は説教臭いだけかと思ってた」

「おい蘭」

 

 そうして授業の時間は終わり、延長は焼肉店で、ということになった。揉めないようにと今井が予め作っておいてくれたくじ引きで席を決めた。決めたのはいいんだけどこの決め方なんか合コンみたいで余計ヤんなるんだが。

 

「あ~、友達とかバイトの先輩に頼まれてたまに行くからさ~、数合わせで」

「あたしも一回一緒にいったよね、リサちー」

「……あれはもう思い出したくないな~」

 

 今井なら確かにありそうだな。手慣れてるっつうことは数合わせなのに幹事やってたのか、大変だな。つかそれよりなにやらかしたんだよヒナ。一年のハナシだよな、二年以降だとなんとなく予想がつくからお前は怖えんだよ。

 

「えっとぉ……ヒナ、紗夜とセンセーのハナシしかしてなくて……あとつまんないって途中で帰ったから」

「だってるんってしなかったもん」

「もん、じゃねぇよ」

「合コンは嫌でもついていったのなら最後まで責任を負うべきよ、日菜ちゃん」

 

 オレの隣はヒナと蘭が両隣、そしてヒナの隣に今井。向かいがモカ、千聖、こころっつう配置だ。なぁ、合コンよろしく仕組んでねぇよな。今井じゃなくて運命サマが意地悪なだけだよな。恨みの視線を今井に向けると舌を出してウィンクしてきやがった。ここでいらん運を発動するんじゃねぇよ。それとヒナ、脚さするな。お触り禁止だって言ってるだろうが。

 

「日菜さん、最初から無視する気でしたか、もしかして」

「え、うん」

「さも当たり前のように言うわね……」

「だってカズくんが隣なのに我慢できるわけないじゃん!」

「じまんげにゆーことじゃないと思うな~」

 

 原始的欲求に素直なモカに言われてちゃ世話ねぇな。あとそんな悪魔のせいで蘭が地味に甘えてくるのも悩みの種なんだから察してくれ。さらに言うとこころの真後ろ、オレからはバッチリ見える席には黒い服のおねぇさま方が焼肉を食べていた。いやその恰好は目立つだろう。せめて私服でカモフラージュする気はないんですかね。

 

「自分でお肉を焼くのね! すごいわ!」

「やってみるか?」

「ええ!」

 

 二つあった肉焼きトングの一つを渡し、千聖がサポートをしながらこころに肉を焼かせた。黒服さん、ちょっと心配そうにガン見すんのはやめてくれませんかね。これには蘭もため息をついていた。もう一つのトングは今井が握っており、廊下側に座っていることもありテキパキと肉を焼いていく。さすがは世話焼きギャル、ついでにモカが、ママ~、とか言いながら口を開けているところにツッコミを入れていた。ハイスペックすぎだろ。

 

「カズくん、はいあ~ん」

「……蘭、そこのタレとってくれ」

「ん」

「あ~ん」

「って、あっつ! お前バカじゃねぇの!?」

「だって」

「どこの世界に、だって、で熱々の肉をヒトの頬に押し当てるバカがいるんだよ……」

「日菜さんならやるよね~」

「次から口移しにする~」

「こころの教育に悪いからやめろっつうの、バカヒナ」

「あ、アタシの目にも毒なんだケドな~?」

 

 なんというかカオスだ。モカは注文できる端末を手放すことなくひたすらに肉を頼んでいくし、めちゃくちゃ食べてやがる。ホントに色気より食い気なのは昔から変わらねぇんだな。

 真向いに座る千聖はこころやリサ、ヒナと話しながら時折流し目を送ったり、靴を脱いだ脚でオレの脚をさすってくる。お前も我慢できねぇクチか。

 こころは蘭と千聖に手伝ってもらいながら初めての経験に目を輝かせていた。普段ならコイツの相手なんざゴメンだが、今日に限ってはなんてヒーリングスポットなんだろうな。食べることも忘れないあたりもちゃんとしてる。つか食べ方めっちゃ上品だな、お嬢様かよ。お嬢様か。

 蘭はヒナがオレに向かって甘えたりむちゃくちゃしたりするたびにこそっと左手を握ってくる。なんだよ、今すぐ持ち帰りたくなるから我慢してほしいんだけどな。

 

「一成」

「ん?」

「楽しいね」

「……おう」

 

 確かに、めちゃくちゃだし、個性的すぎて収拾つかねぇけど、蘭の言う通り楽しい。この場にいる全員が笑顔だ。それは文化祭っつう時間を共有したからこその、笑顔でもあるような気がした。

 

「ん~、おにく~、しあわせ~……」

「大発見よ千聖! 自分で焼くととーってもおいしいわ!」

「ふふ、そうね。自分で味をつけたものは……おいしいわよね?」

「オレを見て言うな、味付けされた記憶はねぇ」

「あら、そうだったかしら」

「あー、今更だけどココ、センセーのハーレムじゃん」

「今井、その言い方は誤解を招くからやめてくれ」

「モカちゃんはお肉に寝取られてるけどね~」

「おにく~」

「モカの語彙が消滅してるんだけど」

 

 文化祭で楽しむだけ楽しんだボーナスステージ。まぁ、今日までは教師は休みでいいか。左手の指から伝わる蘭の温かさと、右腕にまとわりつくヒナの温かさを感じながら、オレは大人であることを諦めることにした。そうするとなんだか肉がより美味く感じるんだから、人間の精神ってのは案外テキトーだよな。

 

「蘭、甘えられると食いにくいんだけど」

「甘えてないし」

「わかったわかった。後でいくらでも構ってやるから、な?」

「……すぐ子ども扱いする」

「ガキだろ」

「うっさいロリコン」

 

 にやけられながら言われてもな。けど、今日楽しかったこと、文化祭で楽しかったこと、お前らの口から沢山聞きてぇんだから、しょうがねぇだろ。

 ──これが終わったらすぐ、夏休み。お前らにはなかなか会えねぇ期間が始まっちまうからな。

 

 

 




というわけで文化祭編これにて終了となります! あとはいつも通り幕間投稿したら次は夏休み編が始まるよ!






※前投稿最終話まで既読者向け。ネタバレ注意








編集してて思ったけどこの時の気持ち、クズ教師じゃなくて清瀬一成として二日間+α楽しんどいて何も気づかなかったのかと思うと本当に成長がねぇなこのクズと思うわけですよ。
ここにヒントが眠ってて、この時に幸せだなぁってちゃんと思ってたら少なくとも黄昏ティーチャーとして云々とかいう発言は出てこなかったきがしなくはない。
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