モカの解釈は、ずーっとガルパのモカの口調が作り物に聴こえたからというものです。まぁあの間延びしたしゃべりかたを強要されたらそうなるよね。別に中のヒトが嫌いではないです。というか本心しゃべらずに道化を務めるのは原作もそうじゃない?
※既読(低評価者へ)
好き嫌いって個人の自由なので何度見ても嫌いなものは嫌いでしかないと思います。僕もあなたたちが嫌いですしお互い見たくもないなら除外しといた方が精神衛生のためになるかと思います。
なんで、氷川とこんな関係になったのか。認識されるようになったのは2ヶ月前のこと、たったそれだけの期間でオレは教師として最悪の展開である、ガキと関係を持つようになった。2月の冬の寒さでも、オレはちょっとした時間に屋上でタバコを吸う。つーか散々吸っといて今更だが、もちろん学校敷地は全面禁煙だ。けどまぁ、場所は選んでられなかった。失ったもんがでかすぎて、遣る瀬無くて。それを
「ねぇ、そこのヒト」
「……ん? なんだ、氷川か」
「うん……というか、あたしのこと知ってるんだ?」
「いいや。お前がクソみたいに問題児だって会議で話をしてるから覚えただけだよ」
そんな息も凍り……はしねぇけど、ホットのコーヒーも一瞬で温くなっちまうような日に、屋上で羽丘一の問題児と初めて言葉を交わした。青緑の髪を三つ編みにした、いかにも活発そうな輝く瞳と健康的な肉体。そして、人事異動でオレが顧問をやる部活の……唯一の部員。タイミング良すぎて戸惑っていたオレに氷川は肘がぶつかる距離にやってきた。
「……名前、なんて言うの?」
「なんで教えなきゃならん」
「だって、天文部の顧問になるんでしょ?」
「……やっぱり、フツーは四月になるまでわからねーはずなんだがな」
「前の先生が辞めちゃって、次は清瀬先生って人だよって言ってたから」
「そーかい」
前任の天文部は良い女性であり、先生だった。普段はふわっとしたお嬢様みてーな雰囲気のあるがきちんと教師としてのメリハリを持って生徒と接していて、大学では地学を専攻してたオレのふたつ歳下。ただ、良い女性でもあった彼女はあっという間に寿退職しちまった。私立はホント、教師の回転が早いんだなと実感したよ。つーか、あんな女を嫁に貰った旦那が羨ましくてタバコが進む進む。なんせ去り際にそのわたがしみたいな優しくて甘いスマイルで、オレにこの厄災をこう表現したんだからな。
「氷川さんのこと……よろしくお願いしますね。簡単にはいかないとは思いますけど、あの子は誰よりも認められることに飢えてる……そんな気がします。だから、助けてあげてください、清瀬先生」
そんな羽丘で誰よりも氷川を正当に評価してた大人がいなくなって、コイツも多少の寂しさはあるんだろう、とアタリをつけて接する。ここで信頼を勝ち取って飴を与えておけば、子どもは大人しくなる。世の常だ。
「ってか知りてぇのって、下の名前ってことか」
「うん。清瀬先生、しか知らないもん」
「一成、まぁ、呼ぶことはねーだろ」
「え、カズくんって呼んじゃだめ?」
ダメですと即座に却下するとじゃあカズ先生と更に返ってくる。辛うじて先生ついてるけど渾名だよな、それ。コイツのヒトに対する距離感どうなってんだよ。そんな文句が口から出そうになってなんとか飲み込んだ。認められることに飢えてる……か。
「普段は禁止だが、オレがタバコ吸ってる間はなんも言わん……ってのはどうだ」
「いいねっ!」
パッと夜空に星が瞬くみてーな笑顔に、なんだ、かわいいやつじゃんか、とか思った。思っちまった、お陰で、警戒心が緩んだ。その瞬間を、悪魔は見逃さなかった。
オレが手に持ってたライターを引ったくりやがった。なにしやがる、という言葉は、最初の一文字だけが空気に溶けて、あとは全部氷川が自分の口の中に飲み込んだ。
「……ねぇ、ソレもちょーだい、カズくん」
「お前、未成年だろうが」
「いーじゃん。それとも、屋上で無理やりキスされましたーって言って欲しい?」
お前からしてきたくせに、とは思うが目撃者はなし。どちらの言葉が信用されるかと言うと……まぁ少なくともオレではないだろうな。選択肢のねぇ悪魔の契約。そうだとしてもオレにノーと言える余地は、なかった。
「んっ、ぅ、え……まっずい……っけほ」
「大人の味だから、ガキにゃまだはえーっての」
「あでも、なんか……いいね、るんってする……のかな?」
──あーあ、こんだけダラダラしゃべってなんだけど、くだらねぇ言い訳だな。オレは教師に成りたかった。オレだって誰かに認められたかった。だから相手が子どもだろうと、法を犯してようと、あと5年もしないうちに美人になるだろうコイツが共犯者であってくれることに、甘えちまった。
「カズくん、あたしのことはヒナ、って呼んで」
「
「じゃあ、吸ってる間だけでいいから名前で呼んで」
「……ヒナ」
こんな風にグイグイ来る悪魔に流されたオレは、程なくして押し倒され襲われることになる。それからは生徒と先生の枠なんて感じることもなく、最近までは倫理観すら忘れ去って
──笑えねぇよな? 美竹に初めて会うまで、オレは先生とすら呼ばれる価値のないゴミクズカスロリコン性犯罪者のまま、教壇に立ってたんだからな。そんなオレを教師に戻してくれた。いやまぁ、結局氷川のこと拒絶できなかったけどさ。それを悪いんだって思うことはできるようになった。なのに……なのに、どうやら手遅れだったみてぇだ。いずれはこうなるんだろうな。屋上でヤってりゃ他の生徒の目は当然あるってのに。
「……あ、きたきた〜、おそいな〜」
「……うるせー」
第二の悪魔にオレの悪行はバレ、貴重な休日にその悪魔はあろうことかオレを呼び出してきやがった。場所は学校近くの商店街の一角。喫茶店の前だった。人気も少ねぇし、どうやらその喫茶店に入るみたいだが、扉にはデカデカと全面禁煙とな……はぁ、憂鬱だ。
「だってあたし〜、タバコの臭い、すきじゃないもーん」
「あっそ」
そんな嫌そうに青葉の後をついて歩いていると、的確に人の内心に返事をしやがる。思った通り店内はガラガラ……つか、オレと青葉しかいやがらねぇ。焦燥感がすげぇし、誤魔化す意味でもやっぱ吸いたい。
「さて、座って座って~」
「……んで? 呼び出しの要件は?」
「蘭にもああゆうこと、してるの?」
ピリッとした言葉。のんびりマイペースな雰囲気も、間延びしていた口調も、全部が霧散した。剥き出しの敵意、憎しみのような感情……そんな、痛い視線にオレはなんとか首を横に振る。
「いや、氷川だけだ……信じてもらおうとか思ってねぇけど、アイツが望んだから流されてるだけだよ」
「そりゃあ信じられないよ。氷川先輩とすれ違って、その表情を見たらさ」
「ヒナめ……」
「下の名前なんだ、先輩のこと」
「だったらなんだよ、お前にゃなんのカンケーもねぇだろ」
ああ、やっぱオレはダメだわ。吸えねぇとイライラする。それにコイツはいちいち回りくどい。別に相手が大人ならそれでもいい。大人には体裁と前置きが必要で、オレもそういう話し方をしてるしな。
けどな、ガキが大人ぶった顔でありもしない体裁を作って話すのが嫌いなんだ。美竹みたいに素直に言葉を発するのが苦手なやつは別だし、開けっぴろげに言葉をマシンガンに装填してオレを穴だらけにする氷川はもうちょいなんとかしてほしいとは思うがな。
「そうかも知れないけど、それが蘭も、だったらカンケーあると思うな」
「安心しろ、杞憂ってヤツだ」
「ふうん」
なら安心、はいさようなら……ってワケじゃねぇんだろ。コエー顔だ。いつもオレの授業で安らかな寝息を立てたり、お気に入りらしいパン屋の袋を堂々と机に置いたりとやりたい放題のやつと同一人物とは思えねぇな。だからこそ、オレは余計にコイツが嫌いだ。
「……だったら手遅れになる前に、蘭には近づかないで」
「あ? 頭おかしいのかお前。いい精神科紹介してやるよ」
今回ばかりは本気で知り合いを紹介してやろうかと思った。コイツは正真正銘本物のバカだ。世間にバレたら標本にされるレベルの稀少バカだ。よかったな発見者がオレで。
流石の青葉もそれは予想外だったようで、いつもなら眠そうな半開きの目を見開き、怒気を孕んだ口調で睨みつけられた。
「なんでそんな言い方って顔だな。でもお前この間言ってただろ? 美竹が何かを見つけて屋上に行った、ってな」
「……それが?」
「カンケーあるだろ。オレは屋上で天才ちゃんにあやかってサボタージュしてるだけで、美竹はそんなオレを見つけて勝手に寄っただけ、ってことだろ?」
なんせオレはなんか勝手に美竹とはあれ以降会えないみたいな雰囲気出てたしな。けど、美竹は屋上にいたオレにわざわざ報告に来た。律儀でかわいい教え子的なやつだ。当然、オレは教師として構ってるだけ。青葉に何を言われても美竹蘭がオレを先生と呼んでる限り、コイツが望むようにはならねぇよ。つかガキが脅しをかけたぐれぇで思い通りになると思うなよ。
「蘭は、蘭は大事な仲間……だから」
「……美竹もそう言ってた。羨ましいよ」
「そうやって煙に巻こうとする!」
ガチャン、と水の入ったコップが無表情のオレの代わりに驚いたように跳ねた。いいな。それでいいんだよ。さっきよりも随分と好感が持てるな。剥き出しの感情、怒り、嫉妬、それに素直になれるのが子どもの特権だ。そして大人はそれを無償で受け止める義務がある。そうやって子どもを大人にしていかなければならないんだからな。
「悪いけど本日教師はお休み、ただの28歳独身の寂しい男としてここにいるんだ。ガキに理不尽突き付けられて無言でいられるかってんだ」
「子ども扱いしないで!」
「ガキだろ、感情的になって、体裁なんて、こうあるべきなんて鋳型もねぇ、クソガキだろうが」
「──っ!」
胸倉を掴まれる、そう思った。だが、それは第三者の手に止められた。焦ったような顔が、それでも絵になるワインレッドの流れるような髪、パンクな服装はかわいい、美人というフェミニンな印象よりも、かっこいい、と形容すべき容姿と立ち姿。コイツも青葉や羽沢と同じクラス……んで、いつもその二人と更にひとりと一緒につるんでるヤツだ。名前は、確か宇田川だったか。
「トモち~ん……止めるのはソッチの性犯罪者でしょ~?」
「悪いけど、アタシには暴走してるのはモカのほうだと思ったからな」
どうやら助けてくれたようだ。慌てて飛び出してきたのか余裕のない様子だが、あくまでニッと笑顔で青葉に言葉を向けてやがる、やだイケメン。
そんなオレの王子様……もとい宇田川に続いて青葉とつるんでるメンバー二人が更に青葉と宇田川を止めに来た。つか、三人を忍ばせてたのか。まぁ、明らかに自分よりも力が強い男と二人きりなんてバカ、そうそういないか。そういう賢いところは、まぁ及第点ってとこだな。
「ご、ごめんなさい……モカちゃんが」
「いや、宇田川のおかげで実害はねぇからな」
「はぁ……先生にケガがなくてよかったです!」
安堵の吐息を漏らす羽沢は素直でいいヤツ過ぎるな。オレよりも青葉の心配してやった方がいいと思うけどな。結局手を上げようとしたのは青葉だが、オレが氷川と関係を持っていて、更に美竹とも二人きりで会話をしていたようなヤツなのには変わりはねぇんだからな。宇田川も上原も、青葉を宥めつつ、そこには警戒してるし。
「お前、誰にも言わねぇんじゃねぇのかよ」
「……そんな約束はしてないな~」
「あ? って……そういやそうだったな」
コイツとはバレたらヤバいってことと、連絡先を交換して指定された場所に来ただけ、その代わりにバラさない、とは一言も発してなかったことを今更思い出した。明日から鉄格子の空か、そんなんだったらもっと出掛ける時に見上げときゃよかった。
「ひーちゃん、こっちのおっぱいの大きなひまりちゃん以外は口が堅い方なんでご安心を……あたしからはなにもしません」
「信用できねぇし、上原が爆弾すぎるだろ」
「おっぱい的な意味で~? セクハラですか~?」
「……やめてやれ、上原、泣きそうだから」
違う、とは言えねぇのが悲しいところではあるが。人物説明に悪意がありすぎる。まぁ確かに青葉、宇田川、羽沢……ついで美竹に比べて上原の胸部には著しい成長がみられ、ダイナマイトと呼称しても問題ないが、本人はコンプレックスなんじゃないか? いっつも授業前後、体重の話してるイメージあるしな。
「モカのばかぁ~」
「あーもう、モカのやつ……落ち着くためとは言え、めちゃくちゃですんません……」
「こっちこそ、いらんことする不良教師だからこうなった、ってだけだ。多少のめちゃくちゃやブタ箱生活は問題ないさ」
いや悪い、よく考えなくてもブタ箱生活になったら氷川を恨むわ。お前、前科持ちは二度と教師になれねぇんだぞ。だが、口約束とはいえ、青葉は確かになにもしない、って言ったな。これで上原が口を滑らせなきゃオレの教師人生は続くってことか。
「い、言いませんっ、絶対っ」
「……オレ、そんなコエー顔してたか?」
上原に少し視線を合わせただけだが、涙目で必死に否定されてしまい困ってしまうが、それに答えてくれるやつはおらず、ただ羽沢が申し訳なさそうに苦笑いをするだけだった。
そのまま、会話もなくなり解散。来週からの授業はつつがなく憂鬱に過ぎていった。オレの授業を聞いてるやつの四人がオレのロクでもないところを知ってるという痛さ、オレの授業を聞いてるやつの内一人にオレが手を出したヤツがいるという痛さ、自己嫌悪と被害妄想で針のムシロで土下座させられてる気分だ。
──本当に、教師なんてロクな仕事じゃねぇし、ロクなやつがいねぇよ。アンタの言ってた通りだったな。ホントにオレもアンタも含めてろくでなしだ。
「はぁ……」
「なんで、そんな風になってまで先生やってんの?」
「よう美竹。また羽沢待ちか?」
「まぁね」
コイツも、もう知ってるのか。そうだろうな、と思ったところでスマホが震えた。氷川か、と美竹に断ってからディスプレイを見ると、意外なことに青葉からのメッセージが届いていた。中には蘭にはしゃべってないから、というイマドキの女子高生らしくない飾り気もなにも存在しない簡素な文字が躍っていた。思わず、隣で手すりに背中を預けて下を向く美竹に視線を送った。
「……なに?」
「いや……なんでもない」
「返事、しなくていいの?」
「スパムだよ」
「あっそ」
──ダメだな。動揺してるせいか、今日のオレは教師としての言葉を紡げない。余計なウソまで吐いて、美竹からの言葉を待ってる。教師じゃねぇオレは全国のろくでなしの皆様に西から東へ東奔西走、謝罪してった方がいいレベルだ。そんな無言になったクズに向かって、美竹は不安そうな顔をして言葉を続けた、続けてくれた。
「……質問」
「ん?」
「最初の質問に、答えてない」
「ああ……なんで教師やってるのか、か?」
「うん」
メッシュを指で弄りながら、美竹はそんな質問を再度ぶつけてきた。オレがこんなクズでも教師をやってる理由、か……そうだな、辞めた方がいいのかもな。仕事をロクでもないと呼称して、それに従事するヤツを貶すオレがここに居続ける意味なんて、美竹には見えねぇのかもしれない。
「そりゃココに雇われてるからな」
「真面目に答えて」
「免許持ってるから」
「ああもう、なんで教師になろうと思ったのかって訊いてんだけど」
「……なんでそんなこと気にするんだよ」
「アンタ……全然、楽しそうじゃないのに、他にもできること、あると思うのに……なんで教師なの?」
──それには、オレの話をしなくちゃいけない。自分語りは教師の仕事と飲み会じゃバッドコミュニケーションって言われる会話の一つなんだ。前向き後ろ向き、どっちに転んでも自慢になる。幸運自慢も不幸自慢も気持ちいのは、てめぇだけ。オナニーとなんら変わんねぇ独り善がりだからな。
だから、美竹には話せない。オレが、唯一、教師として接することのできるコイツには、絶対に。
「さぁな。そんな昔のこと忘れちまったよ」
「……バカ」
「さ、そろそろ生徒会も終わりだろ、また青葉にからかわれたくなきゃさっさと帰れ」
「わかった……」
今日は少しだけ強めに、それ以上は何も言わずに扉を閉めていった。失望させちまったかな。今度こそ、もうオレを見つけて来ることもねぇかもな。なんならそのまま、二度とオレはアイツの顔を見ずに……なんてな。
「……まず」
こんなに不味い味だったか、と紫煙を吐きながらぼやいた。思い出までオレを責めるかのような味。だが、吸うのはやめない。不味い煙を吸い込んで、吐き出す。肺を汚すことがもう、目的とでもいうように。
「悪いな。オレはクズなんだ。失ってもなお忘れられねぇ、黄昏を背負ってる」
少なくとも、羽丘の屋上を照らす夕焼けを瞳に刻み付けている限り……思い出の中にある大切な景色を、誰かとではなくオレが独り占めしている限りは、クズだろうともなんだろうとも、美竹蘭の前で嘘を吐き続けなきゃいけねぇんだ。
直すのだりー