青春ガールズロックと黄昏ティーチャー。   作:黒マメファナ

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たぶん初公開だよねこの視点は。


幕間:三色菫バケーション

 私と千聖ちゃん、それから紗夜ちゃんは、水鉄砲を手に砂浜ではしゃぐ三人とちょっと疲れた顔をする人を眺めていた。

 横にいる二人のうち、千聖ちゃんはすごく楽しそうに一人のことをずっと見てる。その顔は一時期の千聖ちゃんとは大違いだった。

 

「あら、ああいうのもイマドキは売っているのかしら?」

「さぁ、あんな大きなもの。子どもが買ってもロクに撃てないんじゃないでしょうか」

「たぶん……売ってないかなぁ?」

 

 水鉄砲とは言いつつも、普通のものばかりじゃなかった。特に美咲ちゃんが持ってるものは絶対にどこにも売ってないスナイパーライフル仕様。どうやって作ったのかのかもわかんないそれは明らかに水鉄砲の威力をしてないよね。逆に日菜ちゃんが持ってるのもアサルトライフルみたいな形をしていて、どうやらトリガーを押しっぱなしにすると水が出続けるみたい。水鉄砲じゃなくてフツーのサバイバルゲームやってもいいんじゃないかなあって動きしてるね。

 

「それにしても楽しそうね、あのヒト」

「子どもに混ざって」

「元気なのはいいことなんじゃないかなあ?」

「あれだけ突き上げておいてまだ動けるだなんて、流石だわ、うふふ♪」

 

 うーん、千聖ちゃんは何か違うことを言ってるような……まあ千聖ちゃんだし。そんなことを考えてると蘭ちゃんがやってきてアイスコーヒーを飲みながらサングラスを上げた。

 髪には水が滴っていて、泳いできたんだなぁと思えるけどその仕草はなんだかカッコよかった。

 

「なにやってるんですか? というかなんで避妊具(アレ)投げてるの?」

「水風船の代わりね」

「……バカじゃないの」

「バカじゃなきゃできませんよ」

「確かに」

 

 そういえば、紗夜ちゃんはなんだか先生に対する風当たりが弱くなったというか、言葉が柔らかくなったような気がする。それは、二人がいいコンビネーションを発揮してるからなのか、それとも別の理由なのかわからないけれど。あのヒトはそういう力を持ってるのかな? 

 

「花音はあの男に近づいちゃダメよ」

「そうです。傾向的に男性経験の少ないヒトほど引っかかりやすいようですから」

「え、えっと」

「つまり処女ほど一成さんの毒牙にかかりやすいってことね」

「ふえぇ……しょ、処女……」

「いくらなんでも明け透けすぎじゃないですか?」

 

 そ、それはそうだけど、断定されちゃうと私としてもなんだかモヤモヤするよお? というか、それを言うなら紗夜ちゃんだってそうじゃないの? と問いかけるとそうですけどといつもの表情を崩さずに返事をされた。

 

「私があの男に靡くと?」

「可能性はありますね」

「フラグはもう立ってるものね」

「……なんとでも。私は生徒を何人も毒牙にかけるような男に救われるほど弱くはありませんから」

 

 わあフラグだあって流石に思ったけど誰も口にはしなかった。豆知識を披露するように一成さんが下の名前で呼ぶ子は毒牙対象よと笑い紗夜ちゃんが苦い顔をした。あ、私は松原って呼ばれてるからセーフなんだね、よかったあ。

 

「大丈夫よ。一成さんに花音のこと花音だなんて気安く呼ばせないから」

「千聖さんは時々二重人格じゃないかって疑うくらい一成のこと貶しますよね」

「ええ、あんなクズに花音を任せられるわけないじゃない! だって花音よ? こんな愛くるしくてかわいらしい可憐な花を根っこから千切ろうとするなんて許せないじゃない?」

「その言葉を返すと既に日菜や白鷺さんは根っこから千切られている気がしますが」

「アタシもなんですけど」

 

 でも、私は知ってる。千聖ちゃんがこんなに過激になるのは、()()()()があったから。

 去年の秋頃、ううん正確に言うとバイトを始めた直後からその事件は始まった。まず店長さんがややセクハラ気味なこと。これは別にカラダを触られちゃったとかそういうのはなかったからいいんだけど。お客さんの中に、ストーキングしてくる人が現れたことが一番の原因だった。幸運だったのは限界になる前にコンビニに立ち寄った時にたまたま会った千聖ちゃんに相談できたこと。そこで声を掛けてくれたリサちゃんとそのカレシさん……今は元カレさんだよね。そのヒトに解決してもらった。

 

「少なくとも、先生はああいう人たちとは……違う気がするけどなあ」

「違わないわよ」

「え?」

「きちんと手順を踏めるか踏めないかの違いよ」

「でも千聖ちゃんはそんな風にきちんと手順が踏める先生を好きになったんでしょ?」

 

 そうだけれど、と千聖ちゃんは首を横に振った。過保護というか、彼女は私が()()()()でいられなくなることを恐れてるような気がする。それは紛れもない千聖ちゃんにとっての傷であり、だから私はそっかあとそれ以上の言葉は諦めることにした。

 怖がりな千聖ちゃん、()()()()一緒にいられるといいね。

 

「ところできちんと手順を踏めるというところに疑問を挟んでもよろしいのでしょうか?」

「あら、私にとってはそうよ?」

「美竹さんは?」

「……まぁ、一成なりのルールには則ってるんじゃないんですかね」

「それは手順を踏めているのかしら……?」

 

 そもそも自分の働いてる学校の生徒さんに手を出しちゃう、しかも複数形ってのは……紗夜ちゃんには汚いものでも見るような感じなんだろうなあ。

 私はまだ、そういう恋をしたことはないけど、恋愛ってそんなキレイなものじゃあないんだなあというのはリサちゃんとの関わりで知ってる。

 ──私は、リサちゃんの元カレさんに抱きしめられたことがあるから。彼の愚痴もダメなところも全部、知ってるから。

 

「あ、美咲ちゃんとこころちゃんが勝ったみたいだよ」

「あら、流石の日菜ちゃんとは言えども、お荷物(せんせい)とコンビじゃダメだったのかしら?」

「見た感じこころもだいぶ、日菜さんに負けず劣らずの能力持ってる気がしますけど」

「じゃあやっぱり彼が敗因かしらね?」

 

 言いたい放題言ってるところにこころちゃんが勝ったことで先生にお願いを聞いてもらうことになった。その内容とは、なんとびっくりなことに花咲川に教師として来てほしいというものだった。

 

「ヘッドハンティング、ということかしら?」

「ヘッドハンティングは優秀な人材を引き抜くためのものだったはずですが」

「優秀じゃないの?」

「少なくとも下半身は非常に優秀ね♪」

 

 それは、たぶんダメなやつだよ千聖ちゃん。紗夜ちゃんもその言葉に対して風紀の乱れを花咲川(こちら)に持ち込むのは感心しませんね、と校内でえっちな……そういうことが行われるかもしれないということに対して敵意のようなものを見せた。

 

「とことん一成さんが嫌いなのね」

「好きになっているあなたたちが信じられませんが」

「紗夜ちゃんの敵意は羨望、ニュアンスを悪くすれば嫉妬でしょう?」

「……知ったようなことを」

 

 あ、あのケンカはダメだよお。この二人はいっつもこうだ。特に千聖ちゃんは以前に紗夜ちゃんの前でうっかりスマホの画面、今は先生専用らしい、アソビ相手の連絡先が詰まっていたスマホを見られてしまって以来、相容れないところがあるみたい。水と油っていうのかな、とにかく言い合いはしょっちゅうしてる印象があった。

 ──だけど千聖ちゃんの言葉はどうやらクリティカルだったみたいで、躊躇った後にゆっくりと口を開いた。

 

「あんな風にあんな方法で日菜に寄り添えるヒトがいるだなんて、考えもしなかったわ」

「ましてや過去が過去ですからね」

「ええ、そうよ。だから私の中で羨ましい、という気持ちは強いわ。日菜の笑顔を引きだせている、幸せそうに笑えているのはあのヒトなのだから……だからこそ」

 

 だからこそ、日菜ちゃんだけでなく蘭ちゃんやモカちゃん、挙句他校の千聖ちゃんまでそうやって不誠実に生徒を囲ってしまっているという事実に嫉妬しているんだとも紗夜ちゃんは語ってくれた。

 

「許せないのよ、あの男の手管が。許してしまったら私は日菜に接してきた態度はなんだったのよ……私は、どうすればよかったの?」

 

 悲しそうな声だった。千聖ちゃんもそれ以上からかうような言葉をかけずに少しだけマジメな顔でそうねとため息を吐いて蘭ちゃんにどうすればよかったと思う? とものすごいキラーパスを放っていた。

 

「えっ、えっと……そうですね。間違いを間違いって認めることから始めるしかない、んじゃないでしょうか」

「そうね。正しさの奴隷は、いつか間違いの前に膝を折るのよ」

「……何かの引用ですか?」

「そんなことするわけないでしょう。誰かさんじゃあるまいし」

 

 薫さんのことかな。確かに今の言い回しは薫さんがシェイクスピアの名言を引用してるみたいなニュアンスがあったけど。それは紗夜ちゃんにだけ向けられたものではなさそうだった。正しさの奴隷、その単語に蘭ちゃんも同じ人物を思い浮かべているみたい。

 

「間違いを認める……私にできるでしょうか」

「できますよ。人間は誰だって」

「そうね」

 

 それを聞きながら、私は一つの結論に辿り着いていた。正しい恋なんて誰にもわからない。リサちゃんが正しかったのか、彼が正しかったのか、あの時抱きしめられて、迫られて拒否した私が正しかったのか。今になってはわからないことかもしれない。もしかしたらこの先、誰かの好きな人を好きになっちゃうのかもしれない。それが親友の千聖ちゃんでも、ハロハピの仲間である美咲ちゃんでも、私はきっとその好きな人に夢中になってしまうから。

 ──私はもう、自分の好きを偽りたくない。ドラムも、ハロハピも、それから恋も。

 

「私も年上がいいなあ」

「年上なんて、ロクでもないですよ」

「そういえば美咲ちゃんのカレシさんも年上だっけ」

「特にタバコ吸うヤツはダメ、せめてあたしの前で吸わないでっていっつも言ってるんですけどね」

 

 夜になって美咲ちゃんとお話しているとそんな話題になった。そっか、だから美咲ちゃんは清瀬先生が苦手なんだねと笑うと、苦い顔をしながらまぁそうですねと頬を掻いた。ほらね、美咲ちゃんだって正しくない恋愛をしてる。正しくないことをわかっていながら、でも好きだからって離れられないでいる。

 

「でも時々、デート中にも脚とか触ってくるのは……イヤって思う自分が嫌だなとは思いますね」

「どうして?」

「ほらだって、一応カレシじゃないですか。日菜さんたちじゃないですけど、好きな人とはそーゆーことするもんでしょ?」

 

 好きだから触れてほしいのに、触られたくない。そんな二つの気持ちに美咲ちゃんの想いが伝わった。それに対して私はわからなくてごめんねと謝ることにした。好きな人とはそういうことをするものなのはそうなんだけど。

 

「私は、いっぱい触れてほしい。どこでもいいから……その人と触れていたいな」

「花音さんって、割と肉食的ですよね。やっぱクラゲ好きだから?」

「ふふ、そうなのかなあ?」

 

 クラゲさんは肉食だし、ペンギンさんも肉食だよ? なんて笑うと美咲ちゃんはまた苦笑いをする。でも美咲ちゃんのカレシさんはたぶん好みには引っかからないから安心してね。私もタバコは匂いがダメだから。

 

「それは、千聖さんも安心できますね」

「千聖ちゃんは千聖ちゃんで、安心はできないだろうけどね」

「まぁそうですね。ただ……」

 

 ただ? と首を傾げると美咲ちゃんは話に聞いてるだけではわからない清瀬先生のことをたくさん知ることができたから、こころちゃんの無茶振りに付き合ってよかったと笑った。変な先生ではあるけど、確かに悪いヒトじゃあないんだろうなあってのは伝わったかな。

 

「そうなんだろうけど」

「悪いヒトじゃないから、日菜ちゃんが好きになって、好きになってくれたヒトの想いに応えたいって気持ちがあるんだろうなあって」

「やり方が間違ってる気もしますけど」

 

 でも、間違ってたとしても私は先生に迷わず進んでほしいなあって思うよ。あの人は想いに応えすぎちゃう部分があることについて千聖ちゃんも優しすぎてヒドいヒトって言ってたし。傷だらけなんだよ、あの人は。

 

「だから傷だらけの人に傷ついてほしくない、って手を伸ばしちゃうんだよ。ぎゅーってして、守ってあげたくなっちゃうんだよ」

「父性、てきな?」

「わかんない」

 

 たぶんね、それが教師だからってせいでできなかったからだよ。そのせいで、逆に誰かを傷付けて、自分を傷付けた。

 ──教師のままじゃ、あの人の願いを叶えられなかった。だから不良教師なんだよ。

 

「よくわかりますね」

「ふふ、なんとなくね」

 

 なんとなくだけど、でもわかっちゃうのは、きっと千聖ちゃんやリサちゃんを知ってるから、なんだろうなぁ。後彩ちゃんとか、色んな人が傷ついていて、だからこそ私はこころちゃんの言う、世界を笑顔にしなきゃいけないって思うから。

 だから私もいつか、誰か一人の笑顔が見たいって思える日を待ってる。そういう素敵な出逢いは、まだないけれど。

 

 




――と言っても松原花音がサブヒロインポジなのはこれと世界観が一緒のもう一作品があったりするんですがどうでもいいですね。ただボクはこういうアソビが好きなのでたぶん手直し作業の際か書き下ろしでもう一人オリキャラが増えるかと思います。美咲のカレシ、なんで付き合ったんだろうね。ホント謎だよ作者的にも
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