青春ガールズロックと黄昏ティーチャー。   作:黒マメファナ

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④悪魔グローイングと新生ヒロイン

 あたしは退屈が嫌いだ。だってつまんないと、その一分、一秒を無駄にしてるみたいだもん。イキモノである以上、時間は有限なのに、つまんないことに使うなんてそんなゼータクしてる余裕、ないじゃん? 

 ──だから、るんってすることを探すのが好き。カズくんはそういう意味で言うなら、価値観も趣味もなにもかもが違うから一緒にいて退屈しなかった。あと、好きなことをやらせてくれるし、好きなだけヤらせてくれるのもあたしには合ってたのかも。

 

「……ヒナ? あのー、ヒナ~?」

「ん……? どーしたの、リサちー?」

「いやどうしたのじゃなくて……ストロー」

「……あ」

 

 退屈を紛らわせるためにイロイロ思考してたら、リサちーに指摘されて気が付いた。ジュースのストローを噛んでて、もうグニャグニャになっちゃってたよ。カズくんが言ってたけど、ストロー噛むやつは性欲強くて欲求不満らしいなって、最初はなにそれ、とか思ったけど、そうかもって思った。だって今あたし、欲求不満だし。

 

「イライラしてる?」

「ん~、どっちかっていうとムラムラ?」

「……心配してソンした」

 

 あははうそうそ。イライラもしてるからそんな呆れた顔しないでよ、リサちー。どうせ今日も部活はサボるし、おねーちゃんとファストフード食べに行く約束してるから、それほど気になってないだけだよ。

 部活、そう部活。カズくんはなーんにも言わなかったのになぁ。なんにも言わないだけじゃつまらないけど、サボれればなんでもいいとか言っといてあたしのした活動に興味を示してくれたのが、すごくうれしかった。あと二週間()我慢しなきゃいけないなんて、やだなぁ。

 

「蘭が言ってたよ? センセーが心配してたって」

「……うん」

「あれ? もっと喜ぶのかと思ったのに、ホントにヒナ、どうしちゃったの?」

 

 どうもしてないよ、嬉しいけどねリサちー、それはカズくんが()()()()()()()()()なんだ。蘭ちゃんと出逢って、カズくんはすっごくカッコよくなった。あたしのことも受け止めてくれるようになったし、あたしといても笑ってくれるようになった。でもそれは、やっぱり悔しい。カズくんを変えたのは、あたしじゃなくて、蘭ちゃんなんだ。そう思うと胸がズキってする。

 

「……大丈夫だよ。あたしは、別に平気だから」

 

 こんな風に言うことがあるなんて自分でもビックリ。こんなの、誰が聞いても大丈夫じゃないってわかるのに、なんでか、口にしちゃうんだ。口にして、カズくんが早く帰ってくるわけでもないのに。

 そんなモヤモヤを抱えてると、ポケットに入ってるスマホが震えた。メッセージを送ってきたのはおねーちゃんで、ちょっとだけるんってしてロックを解除した。

 

「……そっか」

「ん? 紗夜から?」

「うん……カズくんに呼び出されたからちょっと遅くなるかも、だって」

「あ、あはは……」

 

 ──どうして? さっきの明るい気持ちに、冷や水を浴びせられたみたいに手が冷たくなっていった。カズくんに、呼び出された……おねーちゃんが。背筋がぞわっとして、あたしの中に潜んでる悪魔が鎌首をもたげた。もしかしたら、千聖ちゃんやモカちゃんみたいに、あたしみたいに、なっちゃった? そんなのやだ、やだやだ、なんであたしだけじゃダメだったの? あたしに何かダメなとこがあるなら言ってよ、あたしはカズくんが、こんなにも好きなのに。

 

「あちゃー、結構ヤバいかもな~……」

 

 そんなリサちーの声を無視して、あたしはガンガンする頭を押さえながら自問する。どうして、どうして、おねーちゃんとカズくんがそういう関係になったとはまだ決まってないのに、()()()が壊れていく。

 会いたいよ、カズくん。カズくん、カズくん……ダイスキなヒトの名前を呼んでも、ダイスキなヒトが教えてくれてた教科の時間になっても、ダイスキなヒトはいないんだ。

 けど、クラスの雰囲気は変わらない。むしろ、今の先生はきっちりしてて爽やかで、テキトーだったカズくんよりも受け入れられてる気がする。清瀬先生より今の方がいい、そんな声も聴こえた。他の先生たちも、きっとそうだ。無能なんていらないって、このままがいいなんて、思ってるんだ。

 

「せんせー。頭痛いから保健室行ってくるね」

 

 え、ちょっと、なんて戸惑う先生をよそに、リサちーを指名して一緒に保健室まで歩いてもらった。ウソはついてないよ、だってウソついたらペナルティだからね。

 リサちーと一緒にやってきた保健室でのんびりくつろいでた先生は、おや? と時計を見て、あたしとリサちーの顔を見てから、どうしたんだい? と声を掛けてきた。

 

「ヒナのヤツ、頭痛いみたいで」

「大変だね、痛み止め、持っているかい?」

「それはアタシが」

「ならよかった。コップならここにあるものを使いなさい」

 

 頭痛以外にもなにかがある、ということを察知してるみたいな先生は、それでは何かあったら内線を使って構わないから、と、リサちーにも、付き添ってあげなさい、と言い残してどこかへ行っちゃった。

 

「ヒナ、ホントに大丈夫?」

「……ううん、やっぱ無理そう」

「あのさ……ヒナ? アタシ的には、別に清瀬センセーに甘えても、大丈夫な状況だと思うんだケド?」

「嫌われたくない」

「いやいやゼッタイ嫌わないって、あのヒト、ヒナと蘭にだけは激甘じゃん!」

 

 モカちゃんもそう言ってたし、千聖ちゃんも。けどあたしには実感できないもん。カズくんは蘭、蘭、ってそればっかり。えっちしよって誘っても流されない時は大抵、蘭ちゃん絡みでなにかあった時だもん。

 あたしは二番、好きになった長さも、全部。一番になんてなれない。

 

「……ヒナ、らしくないって。何をそんなに怖がってるの?」

「怖いよ、怖いに決まってるよ! リサちーだって、自分がいらないのかも、って考えて怖くて泣いたことあるじゃん! それと一緒だよ……あたしは、あたしの価値を証明しないと、一生かかっても蘭ちゃんには勝てないんだもん!」

「それがらしくないって言ってんの、わかんないの? ヒナはさ、いっつも飄々としてて、余裕そうなカオで、よくわかんないコトに目を輝かせて! それがヒナじゃないの!?」

 

 リサちーとこんな口喧嘩、初めてした。ついこの間、おねーちゃんと喧嘩した時もすっごく感情的になっちゃったけど、最近、あたし自身ももしかしたら、変わり始めてるのかもしれない。カズくんが変わって、千聖ちゃんが変わって、おねーちゃんが変わってるみたいに。こんな嫌な気持ちなのに、そう思うと、なんだかストンと腑に落ちた。

 

「変わるっつうのはヒナだっていつかは大人になるってことだ。そん時はモヤモヤして気分サイアクだろうけど、タバコがうまく感じちまうように、痛かったのが気持ちよく……あ、これは一言余計か。んんっ、とにかくだ、成長痛みてぇなもんだからな、バッキバキに痛む心に戸惑ってもいいさ、そん時は抱え込まずに、大人を頼ってみてもいいんじゃねぇの?」

 

 カズくんは、いつかにそうやって笑ってた。夕陽を見ながら、そんな風に、あたしにもそんなのあるんだ、って聞いてた。

 ちゃんと、わかってたんだ。あたしがらしくなく悩むことも、痛くなって、嫌になって、リサちーを傷つけちゃうことも。だから、そんな言葉を残したんだ。

 やっぱり、カズくんは先生だなぁ……こんな嫌でどす黒い気持ちすら、受け止めてくれようとしてるなんてさ。

 

「……ヒナ?」

「ごめん……この気持ち、あたしじゃまだ、上手く言葉にも、感情にもできないんだ。だから……ごめん、なさい」

「……そっか」

 

 そうだよ。あたしはそんな風に価値を考えて評価してもらうなんてキャラじゃない。あたしはあたしとして自由に振舞って、あたしの興味のまま、大好きなヒトを振り回すんだ。だから、わがままでもいいんだ。わがままでも、カズくんはあたしを、氷川日菜を嫌いになんてならない。

 例え二番でも、一番になれなくても、氷川日菜は、あたししかいないんだから。

 

「……カズくんに電話する。リサちーも、もうちょっと、一緒にいて?」

「うん……もっちろん! ヒナだけじゃ状況説明できるか不安だしね~」

 

 そうやって、ウィンクするリサちーは、あたしよりもずっと大人に見えた。おねーちゃんもそうだけど、妹にはない視点が、一人っ子とか、姉にはあるのかも。

 やっぱり、あたしじゃないヒトのことを知ると、るんってする。そこはきっと、大人になっても変わらない。

 そう思いながら、暇じゃないかもしれないけど、電話を掛けた。コールは二回、すぐに、おう、どした? と何かを咥えながらのカズくんの声が、スマホから聞こえてきた。

 

「カズくん!」

「なんだよ、つか授業中だろ、どうかしたのかよ」

「……いやぁ、センセータバコ吸ってるっしょ」

「オレは休憩中だからいいんだよ。つか今井も一緒ってことは、マジになんかあったのか?」

 

 カズくんの声が、どこかダウナーな感じから一気に先生のソレに変わった。タバコも火を点ける前だったのか、もう何かを咥えながらのしゃべり方じゃなくて、その切り替わりに、ドキッとした。

 

「あー、ヒナがさ。限界っぽくて」

「だと思った。つかヒナ」

「なに?」

「なんでそんなギリギリまで連絡寄越さねぇんだよ。まさかマジでオレが花咲川いるからって遠慮してたわけじゃねぇよな?」

「うん、遠慮してたよ?」

「してたよ? じゃねぇんだよバカヒナ。確かに報連相を怠ったオレも悪い。けど、お前が音沙汰なしってのはそれだけで連絡しづれぇんだよ」

 

 報連相、今じゃ違う意味で使われてるけど、元々は上司が部下との関係を良好にするための合言葉。上司が部下たちのことを知るための、イマドキじゃない使い方。こういうとこも、なんだか()()()()っぽくて、ちょっと笑えた。

 

「ごめんね」

「まぁそこまで怒ってるわけじゃねぇからいいけど……詳しいハナシは、顔見ての方がよさそうだな」

「うん、会いたい。あたしさっきまでストロー噛んでボロボロにしちゃってたんだから」

「……どんな誘い文句だよクソメンヘラめ」

 

 その会話にリサちーが、どゆこと? って首を傾げた。ほら、やっぱりリサちーも知らないじゃん。まるで当たり前みたいに言うから、あたしが知らなかっただけかと思ってたんだから。

 

「まぁいいや。んじゃあ、またコッチから連絡する。紗夜と一緒にファストフードでいいか?」

「……おねーちゃんにまで手出したらダメだよ?」

「しねぇよバカ」

「おねーちゃんがカズくんに惚れちゃったらわかんないじゃん。すぐ流されるクセに」

「あーあー、電波悪いからもう切るな、それじゃあ今井、とりあえず放課後までヒナのこと頼んだ」

「あ、ちょ──切れたし」

 

 よかった。あたしの知ってるカズ先生で、あたしがるんってくるカズくんだ。リサちーの言う通り、ガマンなんかせずに、わがままでも、よかったんだ。

 でも、やっぱりいいな。おねーちゃんと一緒ってことはたぶん、助手席に座れるってことだもん。

 モヤモヤはすっきりしたけど、ムラムラはちょっとだけ強くなった。

 このまま五限はサボっちゃおっか、って苦笑いするリサちーに頷いて、あたしはモカちゃんが知らなさそうなカズくんのハナシをしてあげた。

 

「クズだよねホント、あのセンセー」

「クズだから、あたしはハマっちゃったんだけどねー」

「悪いヒトじゃないのにクズってトコが、アタシとしては、勿体ないんだケドな〜」

「あげないよ? あたしのカズくんだもん♪」

 

 いらないから大丈夫、って言って笑ったリサちーに釣られて、あたしも笑った。

 もう、頭は痛くない、悪魔もいない。だってあたしは、あのヒトにとってただ一人の氷川日菜だから! 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「……ったく」

 

 スマホをポケットに仕舞い、改めてライターとタバコを取り出し、火をつけた。揺蕩う煙を眺めて、思い浮かぶのはあの底抜けに明るい天才少女の底知れねぇ闇のような嫉妬。アイツの、殺意に似た恋愛感情。

 天才とか呼ばれてアイドルで、ぶっ飛んでるヤツだが、そんなヒナだって、結局はそこら辺にいるJKとなんら変わりはねぇ。

 その辺のと一緒にすんな、っつう言葉そのものが、ナンセンスなんだよな。アイツはまだ16のガキだ。そもそも、そこら辺にいるJKとやらにも、様々な個性があるっつうのにな。

 

「けど、ヒナのことをオレがわかってるかと言えば……そうでもねぇんだけどな」

 

 思わず口に出ちまう独り言。誰に聞かせるでもなく煙と一緒に溶ける空白の時間。

 いつもだったら隣にいて、一緒にタバコを吸って、よくわかんねぇことに興味を示してる。半年以上そんな関係を続けちゃいるが、アイツが何考えてるか、なんてわかっちゃいねぇ。つか理解できるヤツなんて、いるのかよってくれぇだろ。

 わかってんのは、アイツが今、大人になろうとしてるってこと。不安定になったそんな時期に、認めてやれる大人がいなくなったことで、少し壊れちまってるってことだけだ。

 

「他者を理解してぇ、自分じゃねぇ人間を知りてぇなんてさ、誰でも思ってんだよ。けど、誰にもできねぇのが、お前が追っかけてるもんなんだよ……ヒナ」

「日菜がどうかしましたか?」

「……グッドタイミングだな。ちっとにおいはしちまうだろうけど」

「本来ならば敷地内禁煙です。もう少し遠慮をしてください」

「悪い、ちょっとな」

 

 肩を竦めて謝意を示すと、それほど怒ってはいねぇようで、眉を吊り上げることなくため息と、少しだけ穏やかで、美人らしく絵になるような微笑みで、仕方ないヒトですね、とか言い始めた。

 なんだコイツ。先週と別キャラじゃねぇか気持ち悪い。ヒナと仲直りした途端姉キャラ気取んのやめてくれ。

 

「……今、失礼なことを考えていませんか?」

「おう。キャラ変更は徐々に行うもんだからな」

「わけのわからないことを言わないでください」

 

 ワケわかんねぇのはお前の精神状態だろ、精神科紹介してやるから連れてってやるよ。強制な。

 ──とまぁ、冗談は程々にっつうことで、こっからは、真剣なハナシだ。

 

「なぁ紗夜……ヒナの今の状態、知ってるか?」

「いえ……あ、今の天文部は、つまらない、という話は聞きました」

「それか、やっぱ……アイツ、なのに全然連絡して来ねぇから、ヤバくなっちまったみてぇなんだ」

「……あの子が不満を溜め込むなんて」

 

 紗夜は一転して心配そうな表情に変わった。だよな、オレの知ってるアイツも、不満と性欲は溜めこまねぇようなヤツだからな。

 ホント、教師ってのは大変だ。日々成長してくガキなんて、枯れた大人の感性じゃついていくのすらままならねぇっつうのに。

 

「つうわけで、紗夜もついてきてくれ」

「そうですけ……けれどその前に、先生に、いえ、()()()()()()()言いたいことがあります」

「おう、どうした」

 

 わざわざ言い直したっつうことは、クズ教師としてじゃなくて、ただのクズに用事ってことだな。紗夜の真剣な表情に、オレはゆっくりと頷いた。

 紗夜は言葉を探している様子だった。自分の伝えてぇ感情やモノを自分なりの言葉にしようとするのに苦労してる、そんな感じだ。そんなんフィーリングでいいだろ。ホントつくづく、姉妹でタイプの違うヤツらだな。

 

「……はぁ」

「まとまったか?」

「ええ……まぁ。少し、遠回りな言葉になってしまいますが、いいですか?」

「事前申告なら受け付ける」

「でしたら……」

 

 息を吸って、紗夜はゆっくりと言葉を紡ぎだした。まずは先週のこと、素直に聞くことができなくてごめんなさい、とそこは当然予想通りだが、これじゃあ遠回りとは言わねぇし、むしろ率直なんだが。まだなんかあんのか。

 

「……あの時の清瀬さんの言葉は、とてもまっすぐで……折れない芯のようなものを、感じました」

「オレは折れてばっかりだけどな」

「そうですか? けれど、折れても立ち直る……貴方は、素敵なヒトだと思えました」

 

 あ、このパターンヤバいやつだ。流石の流されやすいオレにだって、()()()()()()()()()()()()()、これは黄色信号だってのはわかる。つか最近ゼロかオーバーフローかしかねぇのかよ。もうちょい北沢とか、宇田川とか、今井とか、そういう生徒との関わりを目指してんだけどな、一応。今すぐダッシュで逃げたいところだが、訊くと決めた手前、逃げられない! ってテキストバーが見えるのがつらいところだ。ゲームジャンルにしたらオレの教師生活はRPGのボスラッシュか、せめてシュミレーションにしてくれ、頼むから選択肢を寄越せ。

 

「……清瀬さんをクズだと思う気持ちは変わりません。妹だけでなく、様々な生徒に流され、か、カラダを……重ねているのですから」

「だな、自覚あるから大丈夫だ」

「ええ、それでも教師でありたいという()()()()()、そしてなにより()()()()()()に触れて、離れたくない、流されてでもいいから傍にいたい、という生徒の気持ちを、理解することができました」

 

 気づいてたけどさ、コイツ、ポンコツだよな。ヒナとは別ベクトルでバカ。蘭が最近良い女になってポンコツ感なくなってきたから補充にでも走ってんのか、おい。

 しかも最悪なのは、モカや千聖と違って恋愛にもクレバーさをまったく、これっぽっちも感じないこと。なんだ高潔な精神って、オレは性根からクズって言われたし、なんなら名前とヤってることが合ってねぇって言われてんだからな、千聖に。

 

「清瀬さん……私にも、恋を教えてください」

「お断りしたいんだけど、全力で」

「……優しいんですね」

 

 なんでそうなった? どこに優しさあったんだよ教えて偉い人。コイツ本格的に精神科連れてったほうがいいんじゃねぇの、そう思っていたら、するりとオレのそばにやってきて、このポンコツくっころさんはここで抗いがたいほどの魅惑の表情でオレを見上げてきやがった。

 

「責任は……取ってくれるのですよね? 貴方のポリシーにつけこませてもらいますから──」

 

 めくるめくキャラ崩壊の末、恋に盲目になったピンク色の薔薇の花は、責任どころか唇を押し付けてきやがった。潤んだ瞳がゆっくり閉じられ、スレンダーで、きっとこっから更に女らしく成長するんだろうなとわかる肢体を惜しげもなく押し付けてきやがる。

 ──紗夜ちゃんは、固いだけで割とむっつりだと思うわ、だなんてビーチでヒトに跨りんがらそんな余計なコト言ってた女がいたなそういえば。耳年増ってことかって訊き返して、絶対に言ったらダメよ、と釘を刺された思い出が、唇の柔らかな感触の間に挟まってきた。

 

「……初めてのキスは甘酸っぱいと聞いていましたが、酸っぱさは、ありませんね」

「バカ野郎。こんなところで青春を無駄遣いすんじゃねぇよ」

「私は無駄だなんて思いません。こんなに充実しているのですから」

 

 その充実は、今だけなんだ。モカも千聖も、ヒナだって、一瞬の充実とそのあとの虚しさに、苦しんでるっつうのに。泣きながら、微笑んでるのが、その証拠だっつうのに。

 紗夜、お前は、どこまでも茨に身を置きたがるんだな。

 

「今日はこのくらいにしておきましょうか、日菜が待ってるわ」

「オレに明日があるといいんだけどな」

「自業自得、でしょう?」

 

 自業自得ってんならお前らも同罪だろって言葉は紗夜には出なかった。

 結局、ヒナが最後に残した言葉通り……つかお前言葉足らねぇんだよ確定情報ならそう言えっつうの。

 恋に恋する盲目乙女と化した紗夜を乗せて、ヒナの待つファストフード店へと向かう。

 仕方ねぇ。いつかは目覚めんだろ。それまでは多少だけでも相手してやるか。それより今は、ヒナのほうだからな。

 




Q.ああ~なんでここで堕ちるんじゃ~
A.作者は氷川紗夜のことをチョロいと思い込んでいるフシがあるから
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