青春ガールズロックと黄昏ティーチャー。   作:黒マメファナ

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③黄昏ウォーズと青春メモリーズ

「はぁ……それは、まんまと日菜ちゃんの策にハマってしまったわね」

「……はい」

「それで、焦った蘭ちゃんは、日菜ちゃんに近くかつ口で対抗できる私を頼ろう、というわけね? 少し浅はかではないかしら?」

「……ごもっともです」

 

 早速、一成の様子を知りたいと連絡を取ってきた千聖さんにあらかたの事情を説明した。反応は以下の通り、わかってる、わかってるけど、日菜さんを出し抜こうなんて考えたらそれこそ、全部が手遅れになっちゃうから浅はかだろうとなんだろうと、むしろ他力本願だろうと、アタシには千聖さんのチカラが必要なんだから。

 

「……ふぅ、まぁ、普段ココは利用させてもらっているし、芸能人だとか、アイドルだとか、そういう面倒なしがらみから抜けられる環境ということで、つぐみちゃんのお店は重宝してるわ。そこに付随するなら、蘭ちゃんやモカちゃんがあのヒトとのかかわりがあったからこそ、ココでカレと出逢えたのだから、私としては協力を惜しむ理由はないけれど」

 

 長い。前置きと言い訳で一瞬寝るかと思いました。そんな言葉は間違っても出せないから、ありがとうございますとだけ言っておく。それにしてもこのヒト正直めちゃくちゃ面倒だな。ツンデレの素養もあったなんて聞いてないし。

 けど、アタシに協力してくれるって言質は取りましたからね、なんならモカにICレコーダーも借りた方がいいかな。まぁ、そこまでしなくてももう一度同じ手順を踏めばいいか。最悪、日菜さんに与するか否かの二択に迫ればいいし。

 

「……あの、蘭ちゃん?」

「なんですか?」

「何を考えたのか、読めたうえで先回りさせてもらうわね。その考え方、一成さん(どこかのクズ)みたいよ?」

 

 心外ですよ、千聖さん。完全に無意識に日菜さんを上回るために何ができるかを考えてるだけなんだけどな。もしかしてそれが悪魔たる日菜さんを扱ってきた一成の思考に似るのかな。一成とおんなじ、か……そっか。

 

「つぐみちゃん、このポンコツ赤メッシュ……いえ、蘭ちゃんが壊れたから替えを頼むわ」

「あの、流石にウチに蘭ちゃんの替えは置いてないんです……というか今サラっと蘭ちゃんのこと酷い呼び方しませんでしたか?」

「気のせいよ」

「え、でも」

「気のせいよ♪」

「は、はぁ……」

 

 一成と同じ、というところに嬉しさを感じている間に、なにやらつぐみが丸め込まれてた。しっかりして、蘭ちゃんと言われ、アタシは正気に戻って、千聖さんに再び相対する。モカにも助力というか集まって、と言ったのに、結局既読すらつかずに連絡は来ず、ドコに行ったんだろう。それとも、モカはモカでまた、違う目的のために動いてるのかな。

 

「……話を戻しましょうか。私は()()一成さんが好きよ。それを都合の良い方向に変えてしまおうとするなら、私は敵になるだけよ」

「つまり、敵の敵は味方、ってことですか」

「そうなるわね」

 

 千聖さんはこの間までの温さになにかを見出したみたいで、どっちつかずではあるけど曖昧ながらも日菜さんの考えを支持しないことを明言した。

 なんだか、背中を預けたら裏切ってきそうなヒトだけど、これでモカ以外のヒトの戦争スタンスは明確になった。

 

「日菜さんは、このまま一成を教師じゃなくて、ただのクズとして閉じ込めようとしてます」

「それはいただけないわね。それで、日菜ちゃんはそれを受け入れられない蘭ちゃんを排除しようとしているのね?」

「排除……とまではいかないですけど」

 

 日菜さんが求めるものは停滞。明日を信じないのなら、明日ではなく今日を永遠にしていく。風の吹かない日々っていうのかな。

 千聖さんが求めるものは平穏。似ているようだけど、それは一成が教師であるという前提に成り立ってる。だから日菜さんとは敵対する意見を持ってる。

 アタシは一成の本懐を大事にしてあげたい。明日が信じなくても、理想だけは信じていてほしい。その理想の先にあるのが、一成の幸せであってほしいから。

 あとは、紗夜さん。あのヒトの求めるものは、日菜さんと似て非なるものだった。日菜さんに同意をしながらも、永遠の今日がないことを口にした。

 

「紗夜ちゃんは……いえ、予想はつくけれど」

「……あのヒトは、一成の停滞を認めたうえで、キモチイことだけが全てなら、与える、と」

「置物にしてあげるというのね、あの紗夜ちゃんがそんなことを」

 

 向上心の鬼みたいなヒトだと思ってたのに、けど、あのヒトは本気だった。本気で一成を閉じ込めてしまおうとしているみたい。それだけは間違いなくダメだってのに。

 出そろったところで、千聖さんは目をパチパチと二度、瞬きさせてから、甘いわね、と紅茶をすすった。多分、紅茶じゃないよね、アタシの認識のハナシだよね。

 

「……もう一人、いるのよ」

「もう一人?」

 

 え、アイツ、更に一人に手を出してたの? それは全然、聞いてないんだけど。そんな驚きの表情をくみ取ってくれた千聖さんが、はぁ、とどんな大きな幸せも尻尾を巻いて逃げそうな、魔王の大きなため息を吐いて、三週間の最後の日にあったことを、全部聞いた。

 

「だから、カラダで繋がってなくても、こころちゃんのスタンスは今後を左右するわ」

「……そうですね」

 

 けど、諸々の事情を聞いた限りだとこころが取るスタンスはアタシに近い気もする。けど確かに千聖さんの言うことはわからなくもない。

 こころにはヒトを惹きつける才がある。そりゃあ普段はぶっ飛んでて、なるべくなら近づきたくないって思うけど、その反面、実は意外とヒトをよく見てる。そしてその影響力は未熟で歪だった一成を魔法使いに変える程。無視はできなさそうだ。

 

「……けれど、こころちゃんは恐らく、もう動いてるわ。そういう子だもの」

「そうですね。我が強そうっていうのはわかります」

 

 それは、みんな同じだ。本来、一成に対する考え方も、関わり方も、全部が違うはずなのに曲りなりにも、表面上は仲良くやっていけていたのは、全員を一成がフォローしてたから。ホントなら恋敵で、こんな風に話し合うことすらままならない、敵同士だから。

 

「とりあえず、このくだらない争いに参加するのは、あなたと日菜ちゃん、それと紗夜ちゃんというわけね」

「千聖さんは参加しないんですか?」

「放置したら、それこそ日菜ちゃんたちは調子でしょうけど、仮にもあのヒトの言葉に絆された一員として、一成さんにも申し訳が立たないもの」

 

 そんな義務感のような言葉を、と思ったけれど、億劫そうなこのヒトは何か怯えているような感覚もあるように思えた。ああ、もう、こんな時にモカがいてくれたらな。そう思っても、アタシが一番頼りにしてる幼馴染は、ここにはいない。

 けれど、千聖さんはアタシが探ってきていることに気付いたようで、また大きなため息をついてから、肘を机に乗せて、その手の上に顎を乗せてから眉根を寄せ、呟くのだった。

 

「私としては、いい加減腹を割って話した方がいいところではあるわね。私は蘭ちゃんのことをなにも知らないし、逆に蘭ちゃんは私のことをなにも知らない。それで協力しよう、だなんてムシのいいハナシだわ」

「……そうですね」

「少し、身の上話のようなものをしましょうか」

 

 そうやって、千聖さんは少しだけ自分が一成に惹かれた理由を語り始めた。そんな明確に理由がある、というのは少しびっくりしたけど、ああアイツならそうするな、とも思えた。千聖さんは人間関係が縺れるのを怖がってる。だから、消極的なんだ。

 

「アタシには、そんなハッキリとした理由なんてないけど……ただアイツが教師として、笑う姿を、ずっと見ていたいって思っただけで」

「十二分に大した理由よ。そもそも恋に落ちる理由なんて、些細なことでいいのよ」

 

 千聖さんはそうやって大人びた笑みで、素敵な青春だわ、と言葉を続けた。

 羨ましい。このヒトは、こうやって、時には厳しく、時には優しく、一成の後ろ姿を見てきたんだ。花が咲くような笑顔で、アイツの腕に収まっていくんだ。

 

「不思議ね。本来ならいがみあってもおかしくないハズなのに」

「確かに、そうですね。千聖さんと話して、逆にすっきりしました」

「ふふ、それが一成さんの魔法、かしら?」

 

 そんな大層なものじゃないですよ、きっと。アイツは生徒を大切で特別だと思ってる。だから、そんなアイツのことを大切に思ってるアタシたちが、わざわざアイツの大切なものを傷つけるわけない。ただ、それだけだ。だからこそ、日菜さんも一成がいる間は、おとなしかったんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 あー、暇だ。なんでこう、忙しい時は一日中でもゴロゴロしててぇって思うのに、いざそうなると暇で、あの忙しい日が恋しくなっちまうんだろうな。

 部屋なんてもう片付けて、キレイにしちまったし、これなら女を上げても文句を言われることはねぇってくれぇだ。まぁ、そうじゃなくても女の方から文句も言わずに上がってくるんだけどな。

 そんな独り言に近い思考に、ホントに暇だということを再確認したオレは時計に目を向けた。時間はもう夕方。普段なら仕事にひと段落つけて部活があるとかテキトーなことを抜かして屋上で一服吸ってる頃だな。

 だってのに自分の部屋にいる虚しさとか、色々な感情が渦巻いて、ため息として処理されたのと同じタイミングで、呼び鈴が鳴った。さて、誰が一番乗りかなっと。

 

「はいはいって、お前か」

「そーですよ~、ちょーぜつびしょーじょじぇーけーのモカちゃんでーす」

「お前は相変わらず……ってワケでもなさそうだな。入るか?」

「うん、おじゃまします」

 

 そうやって制服姿の超絶美少女JKこと青葉モカを部屋に招きいれる。つい一昨日会ったばかりな気がするんだが、なんか随分前にも感じるな。

 モカに、お茶でも出そうか、とは訊くが、やっぱり首を横に振られ、その沈んだ頭に手を置いて丸机の反対側に座った。

 

「にしてもよくオレがここにいるってわかったな」

「そりゃ、ただショックで倒れただけなのに、入院なんてしてるわけないって、考えればすぐわかるもん」

「考えれば、な」

 

 そうそう。オレは日曜の午前中は、確かに病院にいた。起きなかったらしく泊めてくれたっつう方が正しいか。けど、お前らが来たすぐ後、オレは腹が減ったってこともあり、丁度出くわしたこころと奥沢と一緒にメシに行って、そのまま帰ってきたってワケだ。勿論、ケアとカウンセリングのために通院はしてるし、仕事は休んでる。今日も午前中に行ってきたトコだしな。

 

「……わざと、連絡してないんでしょ」

「まぁ、な。色々考えて、そうしてる」

 

 ちゃんと出くわした二人にも口止めはしておいた。これはアイツらのためだって言いくるめてな。

 その真意もモカはわかってんだろうな。流石だ。まぁ、予想通り一番最初に、オレのところに来たしな。

 

「それで、どうだ?」

「せんせーの考えてる通り、蘭と日菜さんが決裂したよ。目下戦争中って感じ」

「お前は参加しないのか?」

「あたしはせんせーのストーカーだもん」

「そうだったな」

 

 オレの隣を争う戦争、か。美人二人に取り合ってもらえるなんて光栄だな。モテる男はつらい。んで、そんな自分勝手な二人を差し置いて、ストーカーを名乗るこの悪魔は、知りたいことを訊き出す、っつう構図だな。アイツらなら、そうなるだろうとは思ったけど、楽しそうでなによりだ。

 

「んじゃあ、最初にやってきたモカにはご褒美をやらねぇとな。カラダ以外で」

「全部、聞かせて。せんせーの自分語り。高校生の時、なにがあって、結局せんせーは今のせんせーになったのか、聞かせて」

「それだけか?」

「他にもあるけど、一番最初は、ソレ」

 

 真剣な表情で、モカはオレから全部を訊き出そうとしてくる。仕方ねぇな。ここで引っ張って隠してても、設定忘れてたんじゃねぇかとかあらぬ疑いがかかりそうだしな。時が来たら、は今がそんときだな。

 

「どっから話したらいいのか……そうだな、高校一年の秋だな。まぁ、その前からあのクズ教師のことは知ってたんだけどな」

「……うん」

 

 今はもう、いなくなっちまった。オレにとって何物にも代えがたい日々。高校一年の秋に屋上で夕陽を見ながら、タバコを吸うクズに出逢った。

 オレが今愛用してるソレの先端に口紅の色を残しながら、オレに気づいたソイツは、一瞬だけ、うわぁとでも言いたげな顔をしてから、咳払いをしやがった。

 

「……どうしたの? 屋上は許可がないと立ち入り禁止だったハズだったけど」

「はぁ? 禁煙のハズの学校で堂々とタバコ吸ってるクセに教師ヅラすんのかよ、うぜぇ」

「ウザくてもなんでも、キミは生徒で私は教師……まぁ、コッチおいで」

「なんで」

「そりゃあ、生徒に何か悩みがあったらハナシを聴くのが、教師の仕事だからさ。それで屋上に来たのは不問にしてあげよう」

 

 ソイツの名前は川澄由美子。快活そうな肩に届かねぇくれぇの髪にスタイルは正直思春期の男に女性を意識させんのには充分な凹凸のあって、なにより雰囲気は独特ながら親しみやすさもあって、男子生徒にゆみちゃんの愛称で呼ばれる、美人だった。

 

「川澄センセって不良だったんだな」

「認識の違いだね。不良のようにカッコいいからタバコ吸ってるんじゃなくてストレスから逃げるために吸ってるから」

「……ダメ人間、クズじゃんか」

「まぁ、ソレは否定できないかな、あはは、私はクズ教師ってワケだ!」

 

 由美子は、まぁそういうヤツだった。挙句オレにキミも吸ってみる? とタバコを差し出しやがるかな。コイツ、通報した方がいいんじゃねぇかとも思ったワケで。第一印象で受けた美人で才媛って評価はカンタンに覆された。けど、それがオレの悩みを、バカバカしいもんに変えてくれた。

 

「それで、清瀬くんはどうして黄昏に現れたのかな?」

「キザな言い方すんじゃねぇよ」

「というか敬語は?」

「は? 頭沸いてんのか。尊敬できねぇのに使うかよ」

「敬語は目上に使うものだよー?」

 

 こん時のオレは青春真っ只中で、そりゃあもう盛ん……じゃなくて多感な時期だったもんだから。由美子の妙な大人の色香にドギマギしながら、目下の悩みを吐露した。

 中学ん時に惚れたヤツがいたこと、そんな相手の気持ちがわかんなくてどうしたらいいのかわかんねぇってな。

 

「……ふふ、若いねぇ」

「茶化すんだったら校長にでも言いつけてやるよ」

「茶化してなんかないよ。キミは素敵なヒトだなぁって思っただけ。好かれた子が羨ましいくらいに」

「……は、はぁ?」

 

 楽しそうに笑うその顔は正しく花が、ひまわりの花が咲いたみてぇで。

 肯定なんてしてほしいわけじゃなかったのに、その時雲が晴れたみてぇに、するりと由美子はオレの心に潜り込んできた。

 

「そんな素敵なキミには代わりに、アメちゃんをあげよう。私のお気に入りだよ?」

「……やっぱうぜぇ」

「ええー、ハナシを聞いてあげたのに、冷たいなぁ。センセーは悲しい」

「あーはいはい。悪かった悪かった」

「悪かったと思うなら、またココに来てよ」

「はぁ? なんでだよ」

「私だって話し相手が欲しいんだよ? 一人で一服してるより、キミといた方が私も楽しいから」

「うわ、逆ナン? 悪いけどオレ好きなヤツいるんで勘弁してもらえませんかね?」

「自意識過剰だなー」

 

 殴り合いみてぇな、けど絶妙にかみ合ってねぇ会話。これが、オレとクズ教師の始まりだった。黄昏に出逢った、オレの全ての始まりでもある女。

 オレの理想は、ココから始まることになるんだ。

 

「……やっぱり、そっか。あたしの予想は、正しかったんだ」

「ん? どういうことだ?」

「全部話したら教えたげるね」

 

 モカはここまで聞いてそっと呟いてみせた。まぁ、お前が、何かに気付いてることは知ってたけど、ここで確信に変わったってんなら良いことだな。

 オレはまだ理想を失ってなんかねぇ。何かきっかけがねぇと立ち上がれはしねぇけど、そのきっかけを、モカが確信として発してくれそうな予感がするからな。

 

「それにしても、高校生のせんせーはむっつりさんでしたか」

「うるせぇ、むっつりっつうか知識と性欲だけあっただけのドーテーだな」

「あはは~、今のせんせーからは考えられないねぇ」

「まぁ、あのクズ教師……由美子に変えられたっつうのが正しいけどな」

 

 そんな余計なやり取りをしながら、オレはもう喪ってしまった過去を回想していく。幸せで、ただ毎日がバラ色だった、あどけない日常を。黄昏に照らされた、輝かしいあの日々を。

 

 

 

 

 

 




バンドリってなんだっけ?
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