青春ガールズロックと黄昏ティーチャー。   作:黒マメファナ

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天体観測編終了でございます。


⑥夜空フォーリンスターと特別ミッドナイト

 なんで、こうなったんだっけか? 自問は意味を成さず、気まずそうな羽沢となんか思い詰めてる風の美竹、お構い無しのヒナに、弦巻、あとネコミミの初対面。星空の下に集ったメンバーにオレは思わず頭を掻きむしった。キャパオーバーだっつーの。ホント、上手くいかねぇことが多すぎて、新しいライターをポケットの中で弄る。原因はギターの音。猫耳娘の持つ赤いギターの音を聞いた弦巻とヒナが顔を見合わせて山を降りていった。

 

「あ、あはは……偶然ですね」

「そう、だな……お前らは天体観測か?」

「はい」

「うん、ツアーでさ」

 

 そういうことらしい。そんな中、あれよあれよという間に女子高生五人と天体観測ということになってしまった。あーあ、お守りの人数が増えたよ。全く……とため息をついてそんな面倒も火に点けてやり過ごそうと寒空のテラスにやってきた。すると、そこには先客がいて、オレを見た瞬間に二度ほど表情が変わった。

 

「アンタ……こんなとこまで来てタバコ吸うつもり? こんなに空気が澄んでるのに、もったいない」

「空気が澄んでるから、より美味いんだよ」

「バカみたい」

 

 一瞬、あっと驚いたような顔をして、次いで鋭い表情になった美竹はそれでもどこか歌うように息を吐いた。なんだかな、コイツが隣にいるとあんまり吸う気になれなくて、出しかけたタバコを仕舞って、代わりに車に積んであったタオルケットを手に持って投げて渡した。

 

「わ……なに?」

「肩掛けるだけでもマシだろ」

「……別に、寒くないし」

「つかカイロとか持ってきてねぇのかよ、ほら」

「あっつ……これ、アンタの使いかけじゃん」

「今からあっためるよりいいだろ」

「……まぁ、あったかい、けど」

 

 大体世のJKどもはどうしてそう足を出すかな……まぁ、腿まで出せるのは今だけだろうし、そんな若い青春の一瞬に枯れた格好をしろとは言わないけどな。寒い時くれぇもうちょいあったかそうな格好をしてほしいな。

 と、そんなオレの思考と視線に気付いた美竹は、タオルケットで身体を覆いながら睨みつけてくる。

 

「アンタ、視線が下すぎなんだけど……通報するよ?」

「おっと、そんなつもりじゃなかった」

「はぁ……どうせ足出して寒そう、とか思ってたんでしょ。タイツって意外とあったかいんだよ」

「それは知らなかった」

 

 ふふ、と悪戯めいた笑いをする美竹に、最初だったらしばらく話しかけてすらくれなかったんだろうと思った。コイツは、生徒に欲情したり手を出すようなクズじゃないって信じてる目……罪悪感に圧し潰されちまいそうだ。本当に羽沢や青葉は美竹には言ってないんだな。何考えてんだあのガキ。そんな居心地悪さを感じてると隣から白い息が吐き出された。

 

「……あのさ」

「ん? なんか悩み事か?」

「まぁ……そんな感じ」

 

 少しだけ期待してるけど二度も頼るのは恥ずかしい、そんな雰囲気がする美竹にオレは堪えきれずに笑いを漏らした。別に恥じることねぇだろ。青春はいつだって、悩みの連続なんだからな。つか、ヒナに爪の垢を煎じて飲ませてやりてぇよ。アイツも、コイツみたいにもっと青い春を過ごしてほしいところだ。アイツは目を離すと春を売りそうで困る。

 

「氷川……日菜さんと、仲よかったんだね」

「顧問だしな。さすがに」

「いっつもあんなところでサボってるのに?」

「……部活が終わると屋上でちょっと話してたりするうちにな」

「そう」

 

 まず探りを入れるような、悩みを切り出す勇気を充電するような、他愛のない会話。オレは背中に汗掻いてるけどな、寒いはずなのにおかしいなぁ。まぁ、一般人の思考でその屋上に部活の終了を顧問に報告に来た生徒がタバコとついでにカラダをおねだりしてるなんて想像しねぇだろ。そこに思考が行き着くのは本人だからで、美竹は純粋に不思議がってるだけだ。

 

「……アンタさ、もうタバコやめなよ」

「どうした、急に」

「別に、ただそう思っただけ……やめたくなきゃ聞き流してくれていいよ」

「嫌いか?」

「うん」

 

 意外……でもないか。華道の家元で育ったコイツのことだ、あんまりそういうとは縁がなかったのかもな、もしかしたら厳しい親父さんがタバコは花によくないからと教育してたのかもしれない。けど、なんかそれだけじゃない、暗い目を、憎悪を込めてる。ただそれには気づかないフリをしておこう。触れたら、戻ってこれなくなりそうだ。

 

「お前の前じゃ吸ってねぇからセーフってわけにはいかねぇか」

「うん。わがままかもしれないけど」

「いや、美竹が正しいよ」

「……ありがと」

 

 テラスの木製の手すりに頭を預け、弱々しい感謝の言葉、らしくない感謝をされた。お前の前で吸ってねぇのは気分じゃねぇってだけなんだがな。火に点けなくても、コイツと言葉を交わして、教師としての時間を過ごしてれば、ある程度気は晴れる。そうじゃなきゃヒナの前でも吸ったりしてねぇよ。

 

「……あ、流れ星」

「見逃しててたな……んで、なんか願い事でもしたか?」

「そんなの間に合わないからいいよ」

 

 流れ星が燃え尽きる間に三回、願いを繰り返せば願いは叶う。ヒトの感覚時間じゃ無理だろうな。けど、それを無理だからって諦めるのは大人の反応だ。そんなの勿体ねぇだろ。

 ──ほら見ろ、そんなことを無駄だとも思わないお子様が飛び出してきた。オッサンのオレからするとお前らの瞳の中にこの星空とおんなじものが輝いてるっつうの。

 

「ああ、また流れた! ええと、うわー難しいよ~」

「香澄、もう一回挑戦するわよ!」

「すっごいよーつぐちゃん、キラキラだ~!」

「はい! すごくキラキラしてます……!」

 

 必死に願いを叶えようと流れ星を追いかけるお子様二名と満天の星空に目を奪われる子どもが二名。遮るもののない広い空は雑踏の屋上じゃ見れない、正に息を呑むほどの景色をオレたちの前に見せてくれていた。オレだって、内心は童心に還ってしまうくらいドキドキしてるよ。

 

「行ってこいよ、美竹」

「え……アンタは」

「オレは引率。ここならあの暗い中はしゃぎまわるガキどもを見てられるからな」

「……そう、そっか、アンタは先生だもんね」

「ああ……オレは、教師だ」

 

 そう、オレは教師(おとな)、お前らは生徒(こども)なんだから、遠慮するんじゃねぇよ。混ざってはしゃぐようなエネルギーはオレにはねぇし、弦巻と猫耳娘……戸山がほんっとに危なっかしいからな。黒服どもがいるからよっぽどのことにはならねぇだろうけど、引率ってことになってるんだからな。

 

「ねぇねぇ、カズくん! すごいよね! もうね、星座とかもぜんっぜんわかんないくらい、星ばっかり!」

「わかったわかった、落ち着けヒナ」

 

 なにせヒナもこんな感じだ。いつもの悪魔のような雰囲気ってより、元々の小悪魔、悪戯好きのひまわりが、オレの視界をいっぱいにしてくる。つか、邪魔なんだよ、とぼやきながらそのライトブルーの頭をどかして、白い息、紫煙じゃなくてただの白い息を濃紺に溶かしていった。オレにもお前の頭じゃなくて星を観察させろっての。

 

「カズくんはこっち来ないの?」

「オレは引率だからな」

「……来てくれたらいいのに」

「引率が終わったらそうだな、美竹たちを送って帰ってきてからなら一緒に観てやってもいい」

「ホントっ!? 絶対だからね~!」

「約束は守ってやるよ……けどその前に寝そうだな」

 

 こんな夜にはしゃぎまわってるからな、すぐに電池が切れたように動かなくなるから安心しろ、お前が望んでるような夜は来ねぇよ。さて、腰の心配もしなくてよさそうだし、黒服さんを探して毛布を用意してもらうとするかな。あと栄養ドリンク、オレが眠るわけにはいかねぇしな。

 やれやれ、オレもガキの頃の体力がほしいよ。ホントさ、あ、体力ねぇのはタバコのせいもあるのか。やめねぇけど、やめられない止まらないニコチン依存症なもんでな。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 よかった、よかった……! 嬉しくて、安心して、アタシは暗闇の中つぐみに抱き着いた。つぐみはびっくりしてるけど、もうそんな恥ずかしさも、つぐみへの説明もなにもかもがどうだってよくて、優しい声を出して頭を撫でてくれるつぐみに顔を埋めた。

 ──アイツは先生に戻ってた。先週になにがあって揺らいで、なにがあって元に戻ったのかわからないけど、アイツは前の教師(おとな)の顔でアタシに応えてくれた。いつものテノール、遠目で見たことしかないけど煙を吐く、その煙のように穏やかな口調。なんでか自分でもわからない程、安心して気付いたらちょっとだけ涙も出た。流石に恥ずかしくてつぐみにも顔を見せられないけど。

 だけどその感情の暴走ですっかり忘れてた。つぐみの近くに誰がいたのか、そのヒトが、暗闇でもわかるくらい、アブナイ光を瞳から放っていたから。

 

「ねぇ蘭ちゃん? 蘭ちゃんは……カズ、先生のなに?」

 

 ぞっとした。声に抑揚がないから、よく聞く日菜さんの声とは似ても似つかない暗い声だから、アタシは縫い留められたように振り向けなかった。まるで言葉のナイフを背中に突き付けられたみたいで振り向いたら、ナイフが身体を貫通する気さえした。

 

「蘭ちゃんはカズ先生の授業の担当クラスじゃないよねなんで先生と仲良さそうに並んでたのねぇなんでなんで答えてよ蘭ちゃんねぇ、ねぇ?」

「……たまたま、屋上で会っただけ、ですけど」

「ふーん、そっかそっかぁ……ふうん?」

「一度、屋上に行く日菜さんとすれ違ったことも、あったと思うんですが……」

「あれ? あ、そーだったね、忘れてたよ~」

 

 それを最後に嘘みたいに元の表情に戻った日菜さんはアイツのところへ行った。あのヒト、あんなにぶっ壊れてたっけ? いやぶっ飛んだヒトだってのは知ってた。羽丘の氷川日菜は、中学の頃から変人ってことで有名だから。けど、これは変人じゃなくて確実に病んでるだけでしょ。正直、殺されるかとすら思ったんだけど。

 リサさんすらわからないわけだ。日菜さんは、たぶんアイツを先生だと……教師だと思ってないんだ。あのヒトがアイツを教師から引きずり降ろして、思うがままにしようとしてる。アイツはずっと、教師として何かを成し遂げたいって叫んでるのに。それを無視してまで。

 

「ら、蘭ちゃん……?」

「ねぇ、つぐみ。アタシさ、もっと、欲張ってもいいかな?」

「え?」

「目標ができた。そのためなら、なんだってやる覚悟も」

「蘭ちゃん……」

 

 恥ずかしいから誰にも言わないけど。今度はアタシが、アンタの叫びを聴いてあげること、それだけ。黄昏の中で朽ちようとしてる先生を、アタシが教師のまま留めるんだ。

 どうして拒絶されたんだろうっていうくだらない悩みはもうおしまい。今までは日菜さんのことを隠していて、知られたら今度こそ教師としてダメになりそうで、苦しんで黙ってるしかなかったんだ。

 

「わ、私も……私にも、手伝わせて!」

「つぐみ?」

「やっぱり私ね、先生がモカちゃんの言うようなヒトには思えなくて、先生も否定しなかったけど、やっぱり疑いきれないよ」

 

 なんにも言ってないのに。つぐみはアタシが見てる方向くらいお見通しってことだ。そして、頑張り屋な幼馴染らしくアタシの背中を押してくれる。アタシの恥ずかしいくらいのこの衝動こそが、青春っていうのかな。もしかしたら大人になって後悔するかも、もしかしたらあんな風に屋上で独りそのことを思い出してなにやってんだ、なんて吐き出すかも。けど、アイツはいつも、いずれそうなるんだから青春なんてくだらない、なんてつまんないことは言わない。いずれそうなるからこそ、くだらないことに一生懸命になる青春は、大切なんだって言ってくれる。

 

「……でも、蘭ちゃん。その、大丈夫?」

「大丈夫。アイツのことが大丈夫なことは、もう最初の時にわかってるから」

 

 心配してくれてありがとつぐみ。けどもう怖くないんだ。アイツはいつも、あの雑踏が見下ろせて、そのくせやたらと広い空が見える屋上と、アタシがいつも通りを信じるきっかけになったあの日見た景色と一緒だから。つぐみの手を握って頷いて、そこで漸く気付いた。今、何時だろう? 

 

「ってか、時間やばくない?」

「あ! そろそろ帰らなきゃ! 香澄ちゃーん!」

 

 そうして星が瞬く空に別れを告げて、アタシたちはこころの世話役みたいな黒服の人が運転する車に乗せてもらった。中は広くて、シンクやソファーなんかもあって全員が乗っても広々できるスペースがある。そこにアタシとつぐみ、香澄とこころ、日菜さんと先生で座って五人で談笑していた。

 ──暖かく少し揺れる車内のせいか、星空の興奮で忘れていた睡魔があっという間に瞼を重くしていく。隣を見ると、つぐみは既にアタシの左肩に頭を預けて寝息を立てていた。

 

「そっか、戸山は寝れねぇのか」

「はいっ! なんかもう、キラキラでドキドキで!」

「でも見ろ、みんな寝てるから静かにな。つかヒナ、狸寝入りはやめろ」

「眠いのはホントだよ~」

 

 そんな香澄と先生、そして日菜さんがアイツに密着してるところで、アタシも限界が来た。それから車に揺られる間、アタシはついさっきの星の夢を見た。溢れる星はそれらをつなぐ線なんてわかるはずなくて、けど、確かにそこにあるってことはちゃんとわかった。きっとこれからはあんな数の星を見ることなんてないだろうけど、この景色もあの日の夕焼けとおんなじ、忘れたくない、忘れない景色。

 そんな夢から醒めた頃、アイツの声に目を開くと香澄ももう寝ていて、日菜さんもアイツの膝枕でちょっとだけ幸せそうに寝ていた。

 

「美竹」

「なに?」

「月曜にな」

「……うん」

 

 合言葉みたいな短いやり取り、月曜に、またアイツは屋上でタバコを吸ってるっていう、意思表示。アタシは胸に宿った、やったという思いを頑張って堪えて返事をした。そうしたら、先生はあっと声を上げて、小さな声でそっと囁いてきた。

 

「課題、ちゃんとやっとけよ」

「わかってる……まだやってないけど」

「一年の主任、職員会議ですぐお前の愚痴が出てくるからな」

「いいよ。提出するヤツは、ちゃんとやってるから」

 

 つぐみとか巴に手伝ってもらいながらだけど。素行が悪いとか、赤のメッシュが目立つとか、そういうのは返せないからそれだけでもちゃんとしといた方がいい、っていうのが巴の言葉。逆にひまりは愛想がいいからあんまりやらなくても目立たないって。

 

「コイツとか全然提出しねぇからな」

「そんな感じします」

「けど考査は学年一位だし、それが逆に問題になってるんだよな」

 

 困ったように笑う先生。問題になってる、って言っていた声が何処か他人事に聞こえるのは、本人は問題だって思ってないから。そういうところはホント、教師っぽくない。けどコイツらしいとは思った。流石、不良教師だ。普通の先生が評価するような基準とは、違うんだよね。

 

「アンタさ、日菜さんのことあんまり構いすぎると他の先生に嫌われるかもよ?」

「それは困るけど、それでヒナを構わなかった後が怖いからなぁ」

「生徒の尻に敷かれてるから……?」

「おい、なんか言ったか?」

 

 日菜さんはあの騒がしさがどこに行っちゃったのかなってくらいに凄く静かに眠ってて、やっぱり日菜さんと先生は教師と生徒じゃない繋がりがあるんだなってわかる。少なくとも日菜さんは先生のこと、恋愛感情があるんじゃないかな。

 

「日菜さんのこと、好きになってたりしない?」

「ないな」

「ないんだ」

 

 何故か少し、ほっとした。懐いてくれる日菜さんのことはやっぱり特別なんだろう、とは思うけどそれ以上はない、って感じの否定だった。先生は平等じゃない。そもそも平等な先生はいないけど、訊けば平等に評価してる、なんて口を揃えて言う。じゃあ、このヒトはどうだろう。

 

「アンタはさ、生徒を平等に扱ってる?」

「いや全然。ヒナがいい例だろ。ほかにも、羽沢や今井はいつも授業で率先してくれるから、印象もいいしすぐに名前を覚えた。逆に青葉なんて最近まで全く印象なかったしな」

「……そっか」

「他にも、美竹とか、オレは個人的に話して好印象を持ってる。きっと授業を受け持てば、それだけ悪い評価は付きにくいだろうな」

「そういうのは、隠した方がいいんじゃないの?」

「でも、オレはどうしても平等にはできねぇ。できねぇことは、隠してもイミねぇだろ」

 

 ──そういうところが、安心する。ダメなヒトだけど、どうしようもない不良教師だけど。このヒトは大人として子どもに誠実であろうとしてるのかな。

 大丈夫、やっぱりこのヒトのことは、強がりなんかじゃなくて、本当に大丈夫だ。

 その会話が最後で、黒服の人が声を掛けてくれて、眠たそうに目を擦るつぐみと香澄をなんとか引っ張って、じゃあとだけ言った。おやすみは言えなかったけど、また月曜になったら屋上にいてよ、先生。

 

 

 

 

 




こう見ると二年前(前回投稿のリアル日時)に比べてクズもちゃんと物語の中で成長してるんだなぁと感じる作者であった。手癖で書くとこのころよりマッチョになっちゃうもんね。
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