青春ガールズロックと黄昏ティーチャー。   作:黒マメファナ

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時の進みが非常に早くなりますが、ごめんねついてきてくれると嬉しいです。
前回より一年以上経っております。


⑦黄昏トゥモロー

 オレはなんにもわかってなかった。ヒナのことを理解できるはずがねぇって思ってた。思ってたのにもかかわらずオレは、アイツのことを理解した気でいた。だからアイツが()()()()()()()()()()にイライラしたし、それを突き放した。あの頃のまま、生徒と教師でいればそんなこともなかったのに。

 ──あの騒動から一年、それこそヒナたちが卒業してくその一年の間にオレはヒナを抱くことはなかった。まるでその前の一年が夢だったように。だが、アイツは何かを開き直ったように新しい天文部の後輩にちょっかいをかけてくるようになった。澤田は随分と迷惑そうにしているが。

 

「へぇ、んじゃあお前今フリーなのか」

「そうなんですよ、清瀬さんは相変わらず女の噂が絶えませんね」

「ほっとけ」

 

 そんなこんなでまた新しい一年が始まってしばらくしたころ、飲み屋で偶々出くわした大学の頃のダチの弟と近況報告をしていた。ちょいちょい顔を合わせてはいたけどまさかこんなイケメンになってるとは、と驚きがあるが。まさか同棲まで考えてた彼女と別れてたとはな。

 

「……あのさ、お前ってなんの仕事してたっけ?」

「裏方っす。演劇の舞台とかの」

「ああそういや近くの劇場で……ん?」

 

 その劇場の名前、オレはちょっと前に聴いた記憶があった。そうそう、千聖だ。千聖のヤツ、やっと立ち直ってきたばっかだけど結局マネージャーと丸山との三角関係が完全に修復しきれずにボロボロになってたんだよな。それでここんところかかりっきりっぽくなってモカとか蘭には怒られてたんだが、その時に電話で舞台の仕事もするのよって言ってた。

 

「これは運命と捉えるべきか、否か」

「なんの話ですか?」

「いや、コッチに優良、かはどうかは各自の判別に従うとして、顔と一部の中身だけはめちゃくちゃにいい女がちょうど傷心なんだよ」

「えっと? それをボクに紹介ってことですか?」

「まぁ単純に言うとそうなる。つかお前は近いうちにソイツに会うから」

 

 まるで胡散臭い預言者みてぇにオレはそう言った。この男は千聖が求めていた理想そのものだ。裏表のねぇありのまま自然体の素朴で、けどカッコいい王子様とかナイト様タイプ。モテるっちゃモテるけど別れた最近はそういうのにガツガツしてなかったらしいが、アイツの傷を癒すのはこういうちょい朴念仁くれぇが丁度いい気がする。朴念仁って言ったら失礼だけど。

 

「ソイツのこと、気にしてやってくれねぇか? 不審がるようだったらオレの名前を出してもいい。お前も傷心のとこ悪いけど、頼まれてくれねぇか?」

「いいですよ。清瀬さんにはあの子も紹介してくれた恩がありますから」

 

 そうやって爽やかに笑うと、マジで王子サマって雰囲気だな。これで気取ってねぇんだから、オレなんかよりよっぽど超絶優良物件だ。

 ──そんな暢気に笑って別れて一週間ほどしてから、オレはいつもの羽沢珈琲店でのんびりしてるところで女子大生に壁ドンをされることになる。

 

「……ねえ清瀬先生?」

「な、なんだよ松原……怖い顔だな」

「心当たりがあるんじゃあないですか?」

 

 おかしいな。オレが知ってる松原花音ってヤツはおっとりにこにこ顔がデフォルトでほんわか守ってあげたい系だったはずなんだが、こんなアブナイ光を目に宿すヤツだったか? 誰だキャラ変させたやつは。

 

「お前がオレに向かってくるときは千聖系列だろうってことくれぇなら」

「なんだあ、わかってるならちゃんと口にしてくれないと……ふふ♪」

 

 怖、いやなに怖くね? 確かに千聖でやらかすとキレてきそうだってのは予想はしてた。友情重めなヤツ多いなオレの周辺、レズしかおらんのかこの界隈。

 ──じゃなくて、オレは千聖を送り出してホクホク顔なんだけどなんかした? お前にキレられるようなことしましたっけ? 

 

「わかんないんですか?」

「わからねぇな。オレは千聖を幸せにしてやるつもりなんだが」

「──ふうん?」

 

 おっと目からハイライトが消滅しやがった。ガキ相手に命の危険を感じるのは久しぶりすぎて全身から汗を掻くほどだ。もう夏だしすっかり松原も夏の装いだしな。ただいつそのアイスティーがオレの顔にぶちまけられるのかドキドキするくれぇにホラーな気分だよ。

 

「私は、そういうつもりで、先生に約束してもらったんじゃ……ないんです」

「どういうことだよ」

「確かに、千聖ちゃんはあのヒトと相性がいい……って言ったら変かもしれないですけど、カップルになったら素敵だなって思います。だけど」

 

 だけど、松原はオレを見つめた。悪いけどオレにそれ以上はねぇよ。なんならお前に紅茶を掛けられる覚悟で言ってやる。()()()幸せにしてやるとは言った。けど()()()()()()()()()()()()()()()幸せにするとは言ってねぇ。そもそも()()()()()()()()()()

 

「……っ、そ、それじゃあ、今までのは……今まで先生が千聖ちゃんを抱いて、愛していたのは? なんだったんですか?」

「気の迷い、とかじゃねぇの? 美人だし、手は出したくなるだろ」

「え……」

「オレは千聖が求め続けた男じゃねぇ。松原が思うような男でもねぇ。ただのクズ教師だ。それ以外にはなんも持ってねぇよ」

 

 それじゃあどうして急にとでも言いたそうな顔だな松原? 飽きただけだよ、バカだな。どんな美人だっていつかは飽きる。んでどうしようかと思ってたところに偶々よさげな男がいたからソイツにあげただけ。連れ込んでヤってんだろ? だからお前はこうしてオレに突っかかってるわけだしな。

 

「言ってる、言ってる意味が……わかりません」

「そりゃ可哀想にな。まぁしょ──」

「──それ以上は、怒るわよ」

 

 涙を目いっぱいに溜めた松原を、クズ男から救うために現れたヒーローは、金色の髪を靡かせるオレの()()、真夏の太陽サマこと弦巻こころだった。

 怒りの炎を燃やすそのツラはいいけど、お前オレと約束した言葉は忘れたのか? 

 

「なんのことかしら?」

「おい」

「あたしは、()()()()に関しての手伝いを禁止されているだけよ。花音はどうだったかしら?」

「口が達者だな」

「……こころちゃん」

「花音、先生の相手はあたしに任せて千聖を呼んでもらえるかしら?」

「う、うん」

 

 おい待て待て、そりゃ卑怯だろと言いたいけどこころはそんなことを許してくれそうな雰囲気じゃなかった。ようやく言いくるめられそうになって締めに外野から罵詈雑言を浴びるようなことを言ってやろうと思ったのに邪魔すんなよ。

 

「悪者のフリは、楽しそうね」

「楽しいね。つか正義の味方になったつもりもねぇよ」

「イライラしているなら花音に当たるのはやめて素直になったらどうかしら? きっとすっきりするわよ?」

「ガキにか? 勘弁しろよ」

 

 まぁこころにこのテの煽りは通用しねぇだろうなってのはよくわかる。けどここでスタンスを変えるのは主義に反するからな。オレは断固としてこのクズムーブを崩すことはしねぇ、できねぇんだけど。

 

「あたしは世界を笑顔にするの。花音も千聖も、先生も」

「オレはオレっつう関わりで壊れたもんを直してるんだよ。邪魔すんなよ」

 

 そうね、邪魔はしないわよとこころはくるりと優雅にターンしてやってきた千聖と交代していった。アイツと関わったのが運のツキってことだな。つかハロハピが関わると容赦なく冷たい顔するんだからな。アレでサブヒロイン気取りなんだから恐ろしいもんだ。

 

「一成さん」

「よ、千聖」

「……やっぱり、私ではダメなの?」

 

 ダメかダメじゃねぇかで言えばダメじゃねぇよ。千聖はなんにも悪くねぇしお前は自分の関係をなんとかしようとこれまで必死が頑張った。頑張って、失敗はしたけど次の幸せに手を届かせる段階に入った。そのためにお前の背中を押してるんじゃねぇか。

 

「もうお前は幸せになっていいんだよ。それくれぇ十分に頑張った」

 

 その頑張りをオレが食うわけにはいかねぇな。頑張ったな、なんつって腰振って気持ちよくなって、その先に何がある? なんもねぇよ。結局アイツの心の傷を癒すもんが身体の関係ってことになっちまう。オレが相手じゃどう頑張ってもそうなっちまうんだよ。

 ──千聖はもうそろそろ、()()()()()()()()()()()。同年代のガキみてぇにカレシのことに一喜一憂して、たまのデートでは夜の街をホテルから見下ろしてみたり、お互いの家で愛を語らってみたり。そういう、青春で味わうべき恋を知らねぇのはダメなことだろ。

 

「オレじゃあ、それは味わえねぇだろ?」

「そうね。あなたはいつだって浮気者で、クズで、あのヒトとは全然違うわ」

「だろ? まぁちょっとスパイスのある浮気も青春のうちだ。そのくれぇなら偶に付き合ってやるよ」

「……そうね、そうよね。あなたは、いつだって私の二番目よ」

 

 ああ、それでいいさ。それでいい。ちょっとケンカした時に愚痴る相手にはなる。浮気がしたくなるようなクソビッチの相手はしてやる。ただアイツはめっちゃいいヤツだから泣かすんじゃねぇよ。それだけは約束してほしい。

 

「嫌よ」

「イヤってなぁ」

「浮気するのは知っていてほしいの。浮気をされるくらい不満なのよって、振り回してみたいわ」

「ああそうかよ、それは万人受けするもんじゃねぇけどな?」

「いいのよ。一人に伝わればそれで。それが恋なのでしょう?」

 

 最後まで、千聖は泣くことも怒ることもしなかった。白鷺千聖はいずれオレとの関係が切れるその日まで、いつだって鉄の微笑を浮かべていた。

 ──千聖の涙を見ることはもうねぇだろうな。そういう確信もあった。

 

「それで最近千聖ちゃんはデートとか楽しそうなんだね~」

「おう」

「それでカズくん、あたしとのデートは?」

「は? 頭湧いてんのか。カレシとしてこい」

「だってアイツ浮気したもん」

「何回目だよ」

「知らない。カズくんくらい浮気性だし」

「お前のカレシになった覚えは一度もねぇけどな?」

 

 天文部の部室にて、澤田はヘッドホンでオレとヒナの会話を意図的にシャットアウトしていた。悪い悪い、このクソメンヘラ悪魔はそういうヤツなんだ。たぶんオレとお前が実はデキてるとかなんじゃねぇか疑ってるだけだから気にすんなよ。

 

「つか、ヒナ」

「ん?」

「去年のほぼ関わりなかったの、なんだったんだってくれぇお前はコッチに来るよな」

「だってカズくんはカズくんなんだもん。もう怒ってないし」

 

 やっぱ怒ってたのか。つかオレが突き放したのは元はと言えばてめぇがカレシ作ったクセにいつものノリで話かけてくるからだろ。そもそも、カレシ作るんだったらオレとの関係ちゃんと清算しろよお前は千聖か。

 

「浮気だったし」

「は? だからオレはお前の──」

「カレシの方が浮気相手だよ」

「……はぁ?」

 

 わかんないならいーもんとヒナはオレに抱き着いてきやがる。澤田がいる、いるからな? そう言いつつもオレは拒否することなく受け止めちまうんだが。もしかしてお前結構ヘコんでんのか。

 

「だってさ、あたしがちょーっと海外ロケとかでいない間に二人だよ!? しかもサンピーしてんの!」

「生々しいハナシはやめてもらえますセンパイ?」

「あ、ゴメーン、千晴ちゃん」

「謝る気ないじゃん……この女」

 

 ところでお前もめちゃくちゃに嫌われたもんだな。一応お前ひとりだった天文部を廃部の危機から救ったヤツなんだから優しくしてやれよヒナ。そう言ったけど本人はダンス部希望だったんだっけ。宇田川妹とゲーム友達らしいからな。

 

「屋上行こーカズくん!」

「はいはい、一服だけ付き合ってやる」

「えー、えっちしよ~」

「シねぇ」

「死ね」

 

 おい小さく後ろから罵倒が飛んできたから。ホントに仲良くしろよヒナ。だけどヒナはだってるんってこないもんとか言い出す。後輩に対してひどい先輩だな。ただまぁ、その気持ちはわからんでもねぇからいいんだけど。

 

「ほとんど活動してないでしょ?」

「こころがいくら呼びかけても無視だな」

「そーゆーとこ、嫌いだからいい。来年面白い新入部員獲得するもん!」

「はいはい」

 

 つまりお前は来年も天文部に我が物顔でやってくるんだな? まぁいいけど、オレとしてはお前といると堂々と一服できるし。ただ、ホントにセックスはしねぇからな。オレはお前のカレシに恨まれんのだけは嫌なの。ただでさえこの間千聖とシたんだから。

 

「じゃあ一緒じゃん」

「一緒じゃねぇ」

「あたし、カズくんのハナシめっちゃしてるよ?」

「カレシに?」

「うん」

 

 前言撤回、もう既に恨まれてそうだな。いや相手も大概のクズだからいいのか? ううんわからん。お前が語る人物像だとどんな男かもわからんからな。そろそろヒトに伝える日本語を習得してくれると助かるんだがな。

 

「んー、カズくんにちょっと似てる」

「オレがオレのことをヒャクパーわかると思うなよ」

「けど若いからかな? えっちが上手、腰も壊さないし」

「めちゃくちゃムカっときたんだが」

「ムラっと?」

「ムカっとだよ」

 

 ただし性欲が有り余ってるのと女が複数ほしいタチらしく浮気したら殺すって言ってんのに度々ヒナがアイドルや女優活動でいなくなると新しい女を連れ込むらしい。つかお前らもう同棲してんのか、気がはえーなおい。

 

「まぁいいよ。これも青春でしょ!」

「爛れた青春だな」

「カズくんと一緒でも変わんないよ、そこはね」

「確かに」

「でも青春だからさ。いつか大人になって、あたしもアイツも浮気しなくなって……そしたら結婚するのかなぁ、なんて!」

 

 ヒナはその指で空に明日(みらい)を描いていく。眩しい、青春の明日。オレが信じられなかった真っ暗な世界を、ヒナは昔とちっとも変わらねぇ、あのクズ教師と同じ系統のおひさまスマイルで照らしていく。

 

「その前にアイツのもいどこうかな」

「子どもはいらねぇの?」

「んー、どうだろ。あ、子どもといえば最近ね、香織センセが赤ちゃんできたって」

「そりゃ知らなかったな」

「おなかおっきくなってたからもうそろそろだったと思うよ!」

 

 一年しか空いてねぇのに、ひどく懐かしいやりとりをして、んでついでにタバコが短くなったタイミングでいつもの展開を挟んで、オレは少し大人になったヒナと会話を重ねた。卒業してもやっぱ逃れられねぇんだなぁと思うと同時に、だがこれが当たり前の日常じゃねぇんだという実感も湧いた。

 

 

 

 




白鷺千聖――脱落。トゥルーエンドまであと三人
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