青春ガールズロックと黄昏ティーチャー。   作:黒マメファナ

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⑨青春エピローグ

 蘭をフり、こころが断りにくいって聴いたわとかめちゃくちゃズルいこと言って打ち上げメンバー全員の前でしてきたプロポーズも断り、モカを合コンに送りだし半ば強制的に突き合わせて、そうやって送り出しに時間を費やした。正直、モカには殺されるかと思った。つかヒナとかに止めてもらわなかったら危なかった。

 

「なんだかんだでセンセーの近くにいるの紗夜だけじゃん?」

「あと紗夜なぁ……どうすっかなぁ」

「あはは、紗夜だもんね~」

 

 現在はリサに誘われてドライブとしゃれこんでる。この情報だけでもあのストーカーがまだストーカーしてたらスプラッタホラー間違いなしなんだろうなと思いながらも紗夜の情報収集のため、すっかり大学生が板についた見た目ギャル女を助手席に座らせていた。

 

「アイツ、男フりまくってるんだよな」

「ん、そだね」

「そのたびにオレんとこ来るんだよ」

 

 最近じゃセックスを求められることも少なくなってきたが、絶対に最後にはキスとハグを求めてくるんだよ。しかも一成さんよりいいヒトなんていませんとか殺し文句まで添えてくる始末だ。なんとかせねばとオレはようやく新しい年度のアレコレが落ち着いた六月に今井リサに連絡を取った。

 

「そーいえば、すごいギタリストがいてさ」

「ほう」

「紗夜はちょっと揺れてるとこあるっぽいよ」

「そりゃいいことを聴いた」

 

 やっぱ音楽に人生懸けてるヤツが惹かれるのは同じく音楽に人生懸けてるヤツってことなんだろうな。それまで何人にアプローチされても靡かなかったアイツの琴線がどういうものなのかはわからんがこれは千載一遇のチャンスと捉えるべきだろう。

 

「誰もいなくなって、センセーは寂しくないの?」

「そうだな。寂しくねぇって言えれば完璧なんだけどな」

 

 ヒナと蘭、モカの三人とはもうカラダの関係はねぇ。千聖ともようやくなくなってきたし、紗夜とも回数自体は減ってきた。寂しくねぇって言うのは嘘になっちまうけど、もう少し、もう少しでオレの理想が、夢への新しい一歩が始まろうとしてるんだ。間違いだらけだったこれまでの教師人生じゃなくて、これからの夢が始まろうとしてるんだからな。

 

「……うん、そだよね」

「どうした?」

「ううん、お節介なことゆっちゃいそうになっただけ」

「別にお節介だなんて思わねぇよ。リサもそういうとこ直してけてるといいんだがな」

 

 関わってきて知ったことだが、リサは自己肯定感がめちゃくちゃに低いんだよな。自分のことをお節介だとかなんだとかって遠慮しがちだけど、オレからすりゃリサの気配りはめちゃくちゃありがたいっていっつも伝えてるんだけど中々通じねぇんだよな。

 

「なんかさ、これは違うって感じするんだよ」

「どれ?」

「今の状況?」

 

 ゆっくりと言葉を選ぶように、リサはおどおどと声を出す。違うのか、オレはこれが正解だって信じてるところあるんだけど、リサ的にはどうやら何か居心地の悪いもんらしい。けどお前らがまだJKだった頃よりはマシになってると胸を張りたい。

 

「確かにね、ヒナとしゃべんない時は、ホントにどーしたらいいのかわかんなくて泣きそうになったもん」

「悪かったな。けど今は」

「うん、まぁヒナのカレシの愚痴訊いてるとため息吐きたくなるケドね」

 

 それはそうだろうな。オレも話を聞いてる限りじゃまた浮気しただなんだってばっかだからな。でもやっぱり元通りにラブラブに戻るらしいからホントよくわからんカップルだなぁとはオレも思うな。つかリサは浮気とかに敏感だよな。

 

「あ、まぁアタシはさ、前にもゆったケド」

「あーそれがフツーの恋愛じゃねぇからだっけ?」

「ん」

 

 それに対してオレはフツーってなんだろうなって返したけど、アイツらがフツーじゃねぇのはオレも思う。浮気してもされても、ああやってまた愛し合うってのはどういう思考回路してんだろうな。ヒナの思考を理解できるわけねぇとはずっと思ってたけど、やっぱりヒナはヒナのままだ。愚痴もなんかメンヘラっぽいしな。

 

「そういえば千聖とはまだ関係があるんでしょ?」

「まぁな。あのクソビッチ、全然カレシが手を出してきやがらねぇからって焦らされた分全部オレにムラムラ押し付けてきやがるんだよ」

「あ、あはは……じゃあ向こうはまだ」

「まだらしい」

 

 早く手を出せ押し倒せと思ってるんだけどな、あの魔王は変なところで乙女だからな。オレには欲しいって素直に言えるクセに、と愚痴っておいてそういやリサがそれに輪をかけて乙女だってことをすっかり忘れてた。なんか居づらそうな反応しやがって今年ハタチなんだからいい加減馴れてほしいところではあるな。

 

「だ、だって……アタシまだ……だし」

「つかお前も、大学にイイ男とかいねぇの?」

「んー、仲良い男子は割といるケド、なんかみんなチャラチャラしててさ」

 

 そりゃあリサの見た目的にチャラチャラしてるっぽいだろうからな、と言うのはやめておいた。なんかチャラチャラしたのが苦手なのか、そりゃあ結構、苦労しそうだな。男が精神的に落ち着くのはもっと後だから同年代じゃなくてたぶん年上の方がオススメだよ。そう言うとリサはオレをじっと見上げてきやがる。

 

「……なんだよ」

「いや、落ち着いた年上でまっさきに出てきたのがセンセーだから」

「オレはやめとけ、浮気する」

「自分で言うんだ……」

 

 こういうのはちゃんと自己申告できる方がいいだろ。マジオレ一途だから、マジマジ浮気とかしねぇし、とかマジマジうるせぇ嘘つきよりかはマシじゃねぇかなとは思うわけなんだがどうだろうか。

 

「でも、アタシさ、センセーなら平気かなって思うとこもあったりして」

「ガラにもなるドキっとしちまったよ。後十歳若けりゃソッコー手出してたくらいに」

「そんなに?」

「美人だしな」

 

 ただオレはリサがマジになったとしても応えられる自信はねぇ。落ち着いてるだなんて称してもらって悪いけどオレの根本はもっとわちゃわちゃしてて子どもっぽいとこあるからな。教師として、大人としての顔を保ってる時はいいが男女としてってなると間にある歳差はぐっと小さくなっちまうだろうよ。

 

「センセーロリコンっぽいもんね」

「言うなよ。オレとお前でも一周差だからな」

「そだね」

 

 そんな雑談をしながら、情報提供のお礼にってわけでもねぇけどこうしてちょいちょい買い物に付き合ってる。ヒナや紗夜とかも偶に来るし、驚きなのは白金がついてくることもあるってことなんだよな。

 

「ここ何年かで燐子もだいぶセンセーに馴れたよね」

「オレはまだ馴れねぇけどな」

 

 白金の何がアレってカレシとの関係が微妙にアレなところだよな。馴れ初めを何かで訊ねる機会があってご主人様として拾っていただいて云々とか言われた時には頭がどうにかなりそうだったしな。設定がぶっ飛びすぎてるだろ。詳しく訊くことも躊躇うような馴れ初めは生まれて初めての出来事だった。それ以来ちょっと苦手なところではある。

 

「でも燐子も高三の時よりかはマシになった方だよ?」

「……そうなのか?」

「うん、前はどこでも構わずカレシのことご主人様って紹介してたし首輪代わりにチョーカーつけてたよ」

「怖、カレシの性癖が怖いわ」

「カレシはフツーな感じ。だいたいコンビニバイトで一緒だったし」

 

 フツーって、いやフツーじゃねぇだろとツッコミをする。この話はこれ以上してるとマジで脳細胞を破壊されそうだからやめておこうな。会話内容はヒドいもんだが簡単なデートとしゃれこんでいく。興味を示すのがキッチン用品中心なところがまたリサの見た目イメージには合わねぇよな。

 

「そだ、また忙しい時はお弁当とか作ってあげよっか?」

「そりゃ嬉しいな」

「うんうん♪ とびきりかわいいのにしてあげる!」

 

 それは変な噂が立つからやめてくれ。最近なんか知らんがまた学内でオレが女誑しのクソ野郎って噂、まぁ事実ではあるが噂が立ち始めてるんだよ。一応これでも脱女誑しに向けて頑張ってるところなのにな。

 

「確かにねぇ」

「かわいい弁当じゃなきゃいいよ。それならオレ自分で弁当詰めてるしな」

 

 気合入れられすぎてたらさすがに怪しまれるかもしれんが、あんまり弁当の中身見られることもねぇしな。

 そこから羽丘の話をし始めていくけど、ふとオレはリサが()()()に会ったことがねぇことを思い出した。

 

「アイツって?」

「音羽、新入部員の」

「あー確かに、なんか会ってないね」

「たぶんリサとはすぐ仲良くなれるタイプの明るいヤツだよ」

 

 おっ、じゃあ千晴よりかはよさそうだねとか言いだしてオレは苦笑いをしてしまう。アイツはなぁ、ヒナのことは確かにめちゃくちゃ嫌いだけど実はリサのことは来るって知ったらそわそわするかわいらしい一面もあるんだけどな? 

 

「え、そうなの?」

「澤田はなぁリサに会うと緊張するらしい」

「好意的ってこと?」

「まぁな」

 

 まぁリサを嫌うようなヤツそうそういねぇしな。澤田のこと苦手かもしれねぇけどまぁ嫌わねぇでやってほしいところでもある。オレのことめっちゃ嫌いだしオレも時折ムカっとするところはあるけど悪いヤツじゃねぇからな。

 

「ふふ」

「なんだよ」

「んーん、やっぱりセンセーはセンセーだなーって」

「なんだよソレ」

「生徒のこと嫌ったりしないからさ」

「オレだって嫌いな生徒くれぇいるよ」

 

 いや正確に言うと嫌いな生徒がいたってくれぇだな。昔スゲーのがいてな、担任をしてたんだがまぁ性悪で最後には付き合いきれねぇって突き放して、ロクになんも教師らしいこともできずに終わったヤツがな。

 

「そうなんだ」

「たぶんお前も知ってるヤツだと思う。三つだから被ってねぇとは思うけど」

「んー? ああアレでしょ? 吹部の先輩」

「たぶんソイツだ」

 

 アイツだけはマジでオレの理解の外というか、今でも顔見たらムカっとしそうだな。そのくらい苦手っつうかオレにとってトラウマ級の女なんだよ。そもそもオレの悪い噂の大本はソイツが流してる疑惑まであったからな。

 

「千晴は違う、って思うよ」

「知ってる。オレの噂の一部に取り込まれるのが嫌なだけだろうよ」

「それを怖がらないみんながおかしいだけだって」

 

 それはお前もだろ。というかそういう流れで言うなら音羽も全く怖がる気配がないのがアレだけどな。ヒナとこころが求めていた自分たちについてきてくれるような面白い後輩ってヤツだからなぁ。澤田には悪いけど、天文部として活動するには音羽結良のような人材が必要だったってことだな。

 

「へぇ、その結良って子確かに面白そうだね♪」

「元気なヤツだよ」

「ヒナとこころに着いてくってところがもう面白そーだよねぇ」

 

 それなら今度の天体観測はアタシも行こうかな、とリサは嬉しそうに語ってくれる。なんだか音羽が来てくれたことでこころやヒナ、リサってメンツが集まりつつあるな。半分くらい無理やり遠ざけておいてなんだろうなとは思うけど、オレは今のこの教師としての在り方がすごく楽しい。

 

「あ、リサちー!」

「やっほーヒナ、とそっちが?」

「お、音羽結良です」

 

 音羽とリサはオレの予想した通りにすぐ仲良くなった。ただし、これはヒナやこころにもキツく言い含めてるところだけど、オレの過去はしゃべるなよ。せっかくの貴重なオレがお前らと同じようで違う生徒としてかかわれそうなヤツなんだから。そういう目で見てるって思われたら嫌だろうしな。

 

「ってゆーんだけど、リサちー」

「まぁそりゃあ黙っててあげるケド」

「なんだよ」

「すぐバレると思うよ?」

 

 わかってるよそんなこと、千聖や紗夜だって直接話したりはしねぇけどたびたび天文部に顔出してくるし、音羽が知らねぇオレの生徒は蘭モカくれぇだからな。でもそれをわざわざ吹聴したりカミングアウトする必要はねぇだろ。そう言うとヒナとリサは顔を見合わせてまぁいいかと苦笑いをしてきた。なんなんだよお前らは。

 

「カズくん先生」

「おう……って」

 

 その後、アイツらが別の教師と話しているところで天文部に戻ってくると音羽にそう呼ばれた。直前まで清瀬先生、もしくは先生だったのに。なんだよその呼び方と問うとヒナからオレが喜ぶと言われたらしい。あの先輩はロクなことを教えちゃくれねぇな。ならばとオレは結良と呼び捨ててやることにした。リサはリサ、ヒナはヒナで千聖も紗夜も呼び捨てなのに自分が音羽、なのをちょっと気にしてたフシがあるからな。

 

「やっぱり」

「なにが」

「ゆーらちゃんはカズくんにとって特別なんだなぁって」

「……そうかもな」

 

 ただ、お前らみたいな特別とは違う。ヒナや蘭みてぇに屋上で運命のような出逢いをしたわけでもなく、モカみてぇに三年間の万感を胸にオレに接触してきたわけでもねぇ。

 ──結良は()()()()()()()。天文部に興味があって、なんつうフツーすぎて面白みもなんともねぇ理由でオレの前に現れた面白いヤツ。そういう特別だ。

 

「あたしね」

「なんだ」

「もう浮気するのやめようと思うんだ」

「……そうか」

 

 その顔は、なんというか青春に満足した、そういう顔だった。向こうはまだまだその青春を謳歌してぇみてぇだけどなとこの間の愚痴の内容を言ってやるとちょっとだけ不満そうな顔をして、それからまた向日葵みてぇなキラキラの笑顔ででもねとオレを見上げてくる。

 

「ちゃんと好きって思えるんだ」

「なら、オレが言うことは一つだな」

「──幸せになる。あたし、カズくんじゃない相手と」

「……ああ」

 

 オレのセリフ取るんじゃねぇよバカヒナ。けどこれで紗夜も最後に会って話をしねぇとなって気分にもなることができた。爛れた関係としては最後、千聖もそろそろ焦れてきたらしいし、オレはこうして全員を送り出す決意が固まった。

 蘭は自分が掴み取りてぇ全てに全力でまっすぐにやり抜いた。モカはちゃんとオレ以外に目を向け始めてる。紗夜は追いかけるべき道をきちんと歩んでいった。千聖はごちゃごちゃだった関係をきちんと完結させることができた。ヒナはこうして青春を骨の髄までしゃぶりつくして、オレの前から去っていく。これが関係の終わりじゃねぇ。けどこれで終わりだ。アイツらのカラダを貪り、最低なクズ教師としての役割は、もうすぐ終わる。

 ──もう、エンディングはすぐそこにあった。

 

 




氷川紗夜――脱落。(出番ないけど)
これでフラグは成立、トゥルーエンドまで後、一年半。
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