青春ガールズロックと黄昏ティーチャー。   作:黒マメファナ

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※ここから先は、前までの話をすべて無駄にするクソの塊のような蛇足です。前回までギリギリで保っていた「バンドリ」の体裁を全てぶち壊して、この物語はバンドリの二次創作から、「清瀬一成」の物語へとすり替わっていくからです。

バンドリとして読んでいた方、本当にありがとうございました。ブラウザバック推奨しています。


幕間:太陽メモリーズ③

 結局、青春なんて自分勝手で独り善がりで周囲に気を配るほどの余裕なんてないから、誰も一成の幸せに目を向けることはなかった。いいえ、先生にも責任があるしむしろ先生の責任の方がとっても重くて、そんな悲しい義務感みたいな言葉で表現しないなら、あたしの想像を遥かに越える意地っ張りだった、ってことね。

 

「あー、そうだよね~」

 

 一番真実に近かったのは、やっぱり日菜と蘭、そしてモカだった。あの二人が先生を先生として以上に、一人の男性として見ていた時期があったからかしら? でも、それも自分の青春と彼の意地っ張りに押し流されてしまうかたちで、違う人とお付き合いを始めてしまった。日菜はタバコの煙を吐き出しながら、まるであの頃の先生のように苦笑いをした。

 

「……まぁもう、あたしにはカンケーないし、キョーミもないから」

「嘘はよくないわよ、日菜」

「だって、それくらいじゃないとカズくんに未練が残っちゃうじゃん」

 

 未練、その言葉がしっくりハマる気がした。そしてまだ紗夜と千聖がギリギリ、縁が切れそうで切れてないというこの最悪の状況をひっくり返すには、その未練すら利用しないといけない。それは、みんなの傷口を開くような行為でもあった。けれどもう、この手しかない。そのためにあたしは頑張るしかない。

 

「え、そんなことできるのこころ?」

「やるだけよ! だってあたしは、世界を……ううん、一成を笑顔にしなきゃいけないもの」

 

 かくいうあたしも二度目の勝負には負けた。結局あたしの愛は届かずにこうして高校を卒業して、でも特定の誰かを選ぶこともできずにこうしてあのヒトのことばかりを考えている。これも、未練のうちでしょう? そう問うと美咲はそうだねと髪を揺らして頷いた。

 

「みんなの未練を集めて、集めて一成に伝えるの。あたしたちが本当に、本当に望んだことを、先生はちっとも理解してくれないんだもの!」

「なるほどね、じゃああたしたちにもできることは手伝うよ」

 

 あたしだってあのヒトには感謝してるから。そんな風に美咲は協力してくれることを約束

 して、早速と言った様子でハロハピのみんなに連絡していく。花音も、薫も、はぐみも、先生のためならとすぐに集まってくれた。

 

「伝えるって言っても直接口で、じゃあ伝わらないんだろうね」

「うん、たぶん……先生はそういうのじゃ動かないんじゃないかなぁ?」

「それじゃあもう見せるしかなくないかなっ?」

「なるほど、百聞は一見に如かず、というわけか。実際にその姿を見せることで気づくこともある……ああ、儚い」

「いやでもそれは、流石に無理じゃない?」

 

 なにが無理なのかしら? と美咲に問いかけるとなんて言ったらいいんだろうと悩みながらホワイトボードにペンを走らせていく。まとめてくれたことによるとあのヒトがその未練に気づいてくれる方法は、逃げてしまった選択こそが幸せになれたはずだというのを知ること。つまりはその未来を歩ませなければいけないということ。

 

「だから一旦過去に戻ってその幸せを見せなきゃいけない。それは……難しくない?」

「そうだよね、タイムマシンとかないと難しいかも」

 

 流石にタイムマシンは難しいわね。それにタイムマシンを使ったとしても先生がそれを選んでくれる保証はないわ。問題点はまだまだある。意固地になっている先生を解きほぐすには今の教師としての幸せが必要、ということもわかる。その上で、あたしが蛇足を付け加えることで完成するわ。

 

「それは問題ないでしょ。今も天文部は面白い子いるんじゃなかったっけ?」

「結良ね!」

 

 音羽結良。文化祭で予算をオーバーさせたプラネタリウムで大盛り上がりした時に来てくれて、それがきっかけで羽丘の天文部にやってきてくれた子。あたしや日菜の正統な意味での後輩ね。その子がいることで先生はちゃんと教師としての幸せを歩んでいけているみたい。

 

「先生が本当に前を向くためには、千聖たち、あの子たちの未練を集めてその未練を叶えるに相応しい舞台を用意する必要があるね。例えそれが一夜の幻であったとしても」

「舞台、幻……」

 

 みんなが頭を悩ませているところでぽつりと出てきた薫の言葉が、あたしの中で一つの映像として再生されていく。全員の未練をいっぺんに叶えることはできないけれど、例えば一人一人に舞台を設えてあげたら? 教師としてではなく一人の男としての幸せという未来を、いつも名前ばかりキラキラしている真っ暗な道を太陽(あたし)が照らせる未来を創りだしたら? 

 

「一人の未来に一つの世界を創り出すしかないわ」

「え、待ってそれある意味タイムマシンより難しくない?」

「でも、夢を操るようなものなら……できる?」

 

 可能かはどうかわからない。けれど夢は記憶の整理であるとともに違う世界を窓から覗いているようなものとも言うじゃない? それをあたしが調整してあげるの。一夜の幻、例え幻想だったとしても、あなたには幸せになれる未来がもっとあったはずよと答え合わせをしてあげられる。

 

「どうですか黒服さん」

「時間をいただければ、理論上は」

「……できるんだ」

 

 大丈夫よ! だってあたしは一成が蚊帳の外にしようとした、ご都合主義というものだから。あたしにできないことはない。少なくとも一成を無理やりにでも幸せにすることができたという証明なのだから。三度目の勝負は、必ず勝ってみせる。それでも引き分けではあるけれど、あたしとしては最後に勝った方が勝ちだと思うからあたしの勝ちね! 

 

「なになにそれ! 面白そうじゃん! あのわかった顔ばっかりするカズくんに一泡吹かせられるってこと?」

「ええそうよ! 協力してくれるかしら?」

「もっちろん! あはは、あたしの恨み(みれん)でいいなら全部こころちゃんに預けてあげる! あたしにヒドいことゆったの、後悔させてやるんだから!」

 

 そのことを伝えると日菜はとっても素敵な笑顔で協力してくれることになった。日菜は今のカレシとは浮気で、一成の気を引くための装置でしかなかったということを教えてくれた。けれど、彼はヒドいことに嫉妬するどころかほっとしたような顔をした。よかったなとまるで子ども扱いをしたのだと語ってくれた。

 

「ええ、もちろんいいわよ。私がどれだけあのヒトを恨んで……それ以上にあのヒトのことをまだ忘れられないか思い知らせるにはちょうどいいわ」

「やっぱり千聖もまだ、一成が好きなのね?」

「今のヒトではダメというわけではないわ。あのヒトも飾らなくて素敵なところがある。私にとっての光のようなカレも愛おしいけれど」

 

 愛おしいからこそ、そうやってマジメで素敵なヒトをあてがってきた一成のことが許せるわけではないと千聖は怒っているような泣いているような、どちらとも取れない笑顔で未練を語ってくれた。突如として紹介され、義理立てと彼に嫌われたくないという乙女の一心で始まった千聖、本当は心の底から幸せにしてくれると信じた先生からの裏切りに、怒りたかったのに。

 

「……そうですね。私があのヒトの負担になるだなんて、考えたくはないですが。それ以上に、私にも捨てられた女としてのプライドがあるものよ」

「そうね、幸せになりたくないだなんてわがまま、許せないわよね?」

「ええ、もちろん。幸せになってほしいというのなら、一成さんも幸せになっていただかないと……あんな寂しそうな彼を見るのは、あの一度で十分です」

 

 紗夜はつい最近に会ったと言っていた。最後の別れとして告白を終えたばかりで、悲しそうに目を伏せて、それ以上に彼の寂しそうな後ろ姿を見ていたからこその言葉だった。追われるよりも追う方が好きな紗夜にとって、追ってくる男に妥協しろというのは許せるものじゃないわね。

 

「──なんであんなヒトにきょーりょくしなきゃなんないの? こころん、あのヒトは地獄に堕ちるべきだよ」

「モカ……でも」

「とゆーかさ~、こころんもどーざいだけど? だってあたしの今のカレシしょーかいしたのこころんだし~?」

 

 ──三人は比較的すんなりと頷いてくれたけれど、問題はモカと蘭だった。二人は先生と同じくらい意地っ張りで、それ以上に一成への愛にあふれていた。だからこそ許せないんだと思う。特にモカはカレと付き合い始めて以来、一度も連絡も会いに行くこともなかったことを蘭から教えてもらった。

 

「モカ」

「蘭も嫌い」

「なんで」

「蘭たちの誰かならまだ納得できたのに。今あのヒトに近いのなんだっけ? おとわゆーらだっけ? だって一成のパターン的にくっつくのソイツでしょ?」

「ソイツって」

 

 そうねとあたしは素直に頷いておく。未練としての一舞台のヒロインとして幸せな夢は見られるけれど、それはあくまで夢でしかない。だからきっと、一成は結良を選んでしまうわ。あの子が一番、あの頃のあたしたちに近いのだから。

 

「アタシも、正直納得はできない。二度も裏切られて、結局手近にいた後輩に一成を幸せにしてもらうっていうのは」

「なんならもういっそ殺した方がマシだよ。もういいでしょ、みんないなくなったんだしとっとと辞めさせるか殺すかした方がいいよ」

「アタシはモカほど過激にはなれないけど、あのまま一成を肯定するのは無理」

 

 だったら、とあたしは一つの条件を出した。あたしは結良に託すことにした。日菜も千聖も、結良にならって言ってくれた。だから彼女のことを知ってほしい。その未練の世界にはあの子も連れていくから。許せないのなら夢の中で満足するまで殺せばいい。先生も結良も、なにもかもを壊してそれでモカの未練が解消されるならそれでいいと。

 

「……そこまで言うなら、モカは?」

「あたしは徹底的に幸せ邪魔してやるから」

「だって」

「わかったわ」

 

 順風満帆、とはいかなかったけれどこれで未練は揃ったんじゃないかしら? あとは結良に、と思っていたら丁度結良はリサとお話をしていた。あの二人は初対面だったみたいで日菜の後輩ということでリサが話し掛けたらしい。

 

「へぇ、おもしろそーなことしてるね~」

「わ、わたしが? その中に……いいのかな?」

「いーじゃんいーじゃん! 結良だってさ、センセーの生徒なわけじゃん?」

「そ、それなら……いい、ですか?」

「ええ!」

「ってかリサちーも、いいんじゃないそろそろ? 素直になっちゃえば?」

「え、アタシ!?」

 

 話が纏まりかけたところで、日菜の言葉にリサが素っ頓狂な声を上げた。リサにそんな未練があるだなんて把握していなかったけれど確かに先生の生徒、という意味ではリサもその一員よね。参加資格は十分あるけれど、日菜の言葉はどういう意味なのかしら? 

 

「リサちー、三年の間とか結構好きになってたでしょ?」

「え、えーっとそれは……」

「そうだったのね!」

「あ、あはは……あんまり自分でも自覚ないんだケドね」

 

 そういえばリサは卒業後に一成とお出かけもしていたのよね? わたしも一緒に何度か買い物とかしたよと結良の言葉もあって、みるみるうちにリサの顔が赤くなって肯定が小さく萎んでいく。そして一番小さな声で、けれどかろうじて聴こえる声で呟いた。

 

「……いつ気づいたの?」

「んー、カズくんから離れてちょっとしてから」

「も、もう二年以上前のことじゃん。そのころアタシも無自覚なんだケド」

「きっかけはなんだったのかしら?」

「特にはないけど……自覚がないきっかけは知ってるよ」

 

 リサとしては複数のヒトと身体の関係がある一成のことはそれなりに苦手だったらしい。浮気をされて、挙句それを指摘したところで別れを切り出されてしまったから。その恐怖がリサの心を縛りつけてしまった。気づかせることを遅らせてしまっていたのね。

 

「ま、まぁホラ! アタシとセンセーがもしそーゆーカンケーになってもさ、うまくいくとは限んないじゃん!」

「けど、うまくいったかもですよ!」

「……結良って、ときどーき無邪気だよね」

「時々!?」

 

 ヒナみたいでこころみたい、なんて笑われて困り交じりに照れが入っている結良の横顔をじっと見て、なるほどとあたしは彼女の奥底にあるものを見た。モカはエスパーみたいだとは感じていたけれど、一成を見る目は本当に確かなのだということはわかった。彼女は確かな意味での先生の()()()()なのね。あってほしくなかった次、次世代。あたしたちの誰かで終わるはずだった、先生の黄昏の被害者。

 

「記憶弄れるの!?」

「順番に未練を消化していくのよ。未練が無くなるとそこにいるだけになっちゃうから気をつけて」

「つまり?」

「ヒナが未練を消化したら、その後は記憶があるってこと?」

「そうよ!」

「えー邪魔し放題ってこと?」

「やめてちょうだい」

「日菜?」

「わかってるよー!」

 

 ここにはいないモカの分も蘭の分も、未練の充電は完了した。後はこれを一成に渡して夢を見てもらうだけ。あたしたちみんなの夢は繋がって一つの、いいえいくつもの世界を生み出してくれる。そしてあたしは、その結末を予想していたモカの言葉を紗夜や千聖にも教えた。

 

「……えっと? わたし、ですか?」

「そうなるのね……一成さんは」

「ふふ、いいじゃない。私たちは所詮負けヒロイン、でしょう?」

「ゆーらちゃん、カズくんのこと、よろしくね」

「その前にアタシたちがバッチリ幸せにしといてアゲルから!」

「もちろん、その結果が違っても恨みっこなしよ! いいわね?」

 

 それぞれが頷く。エキストラも巻き込ませてもらうわね。Afterglowやハロハピ、一成が関わってきた全ての生徒があなたの夢を、幸せな夢を見せてあげるわ。そして、思い出してほしいの。あなたは、幸せにならなくちゃいけない。あたしたちを送り出して独りになろうとするなら、あたしたちはとことんまで追い詰めるわ。

 ──あたしたちの青春全てを懸けた違った結末(アナザーエンディング)で、あなたを笑顔にするわね、先生! 

 

 

 

 




次回第八章は、彼女たちの未練を詰め込んだ、もしもの世界。
清瀬一成が、クズのまま幸せになる世界へと。
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