プロローグ:夢幻トラップ
大盛り上がりだった。成人式の二次会のようなものは、まさかのその先輩方によって散々に荒らされるという盛り上がりを見せた。つか店員に謝りに行こうとしたけどこころの貸し切りを受けていたせいで壊さなきゃ大丈夫ですよーみてぇな雰囲気だったし壊してもたぶん黒服さんがなにごともなかったかのように修復するから平気よ、らしい。ホントに弦巻家ってヤツは。
「こんにちは、先生!」
「よう」
そんな楽しい祭りから数日後、オレはこころに連絡をもらい
「ほいコーヒー。苦いのは飲めるようになったか?」
「ええ、一成と同じものも飲めるわよ?」
「ん……随分大人っぽくなられて、オレは緊張しちまうよ」
金髪キラキラの太陽サマなのには代わりねぇけど、かわいいっつうよりはとびきり美人になりやがったな。いや雰囲気はマジで変わることがねぇんだけど時折やってくる仕草や表情に気品が漂うんだよ。お前の成長は赤ん坊かってくれぇだな。
「赤ん坊といえば」
「どうせまたお前も香織んとこの、って言うんだろ」
「あら、のんちゃんとはもう会ったのかしらっ!」
「会ってねぇよヒナがめちゃくちゃしゃべるから知ってるだけだよ」
どうやら香織、オレの大学の後輩ちゃんは幸せいっぱいの家庭の象徴をあろうことかメンヘラクソ悪魔に触らせているらしい。やめとけって思うんだよな。アイツめちゃくちゃやりそうだもん。どうやらこころも何度か関わったことがあるらしくかわいいし会う度にめまぐるしく成長しているのよ! と嬉しそうに語ってくれた。
「乳幼児の一日はヒトの一年って通説があるくれぇだからな」
「ふふ、そうね」
つまりお前は半年前に比べて百八十年くらい成長してるわけだ。若さを保ったまま老いることなく生きるのもそれはそれで辛いらしいから悩みなら聴いてやれるよ。まぁ三十ちょいしか生きてねぇうえに精神年齢低めと定評のある若輩者でいいならだけどな。
「相談じゃないけれど」
「んじゃあ要件は?」
「──最後の勝負を持ち掛けに来たわ」
最後の勝負、三年くれぇ前に一度目の勝負を無理やり引き分けにされて二度目はオレの完全勝利だったな。このまま勝ち逃げできるかと思ったけどやっぱ三回勝負か。最後はどういうルールでいくんだよ。二度目はオレに有利だったから三度目は譲ってやる。大人の余裕ってヤツだ。
「ずばり、これよ!」
「……VR機器か?」
「まぁそんなところね」
でっかいヘッドギアみてぇな目まですっぽり覆い隠すごっつい機械が出てきてちょっと身構える。次はフルダイブ型ゲームで勝負でもすんのか? つか現代の技術でフルダイブってできなくありませんでした弦巻さん? いや弦巻家だし、そのくれぇならいけるか。
「これは、あたしがドリームキャッチャーと名付けてあたしが設計したの」
「……弦巻家はどこに行くつもりなんだ?」
ドリームキャッチャーってアレだろ? あの家とかに飾る魔除けアイテム。悪夢は真ん中の網目に捕らえられて、いい夢だけが装飾の羽を伝って……ってやつ。なんかで作った記憶があるから覚えてるよ。そういう伝承をSFチックに叶えようってもんなのか?
「そうね、具体的に説明すると、これには特定の思い出を捕まえる機能があって、それを装着したヒトに追体験をさせるものなの」
「んん……任意の夢を見せることのできる装置、って解釈でいいのか?」
「ええ!」
ええ! ってまたえらいもん作りだしたな。それって一種の走馬灯だろ。実用化、一般販売したら倫理上の問題で訴えられかねねぇだろうが。
誰だって幸せの記憶があって、それを後悔してたら、ヘタをすると一生帰ってこれなくなるっつう危険な代物になりかねない。安楽死のアイテムになるからな。
「だから使うのは先生よ」
「なるほど、オレのために創ったってことか」
まさかガチで自分の有利舞台に引きずりこもうとしてくるとは思わんかったな。それだけ本気ってことは伝わってくるから余計にオレは断ることができなくなってるんだが。
──追体験、思い出、走馬灯、幸せな記憶。なるほどな、つまりお前はオレに
「そうなるわね」
「んで?」
「一成はクズ教師のままでも幸せになれたはずよって、教えてあげたいの。笑顔にしてあげたいの」
「そういうことか」
もう蚊帳の外にしたのも時効だ。アイツらはそれぞれ別の相手を選んで幸せの道を歩いてる。それがわかったからこそのこころの逆転の一手っつうわけだな。やっぱコイツだけは手出されねぇように除外しておいてホントよかった。三年前にこれが出されてたらどうなってたことか。
「そんでコイツの捕まえる思い出ってのは?」
「もうもらってきたわ。
「本気だな」
「ええ、本気よ。あたしは世界を笑顔にするもの」
したいじゃなくてするか。強くなったなマジで。同時にお前のその成長性が怖くて遠ざけたんだよ。弦巻こころはそれをするだけの力を持てる。どんな手段を用いても、どんな無茶無謀だろうと世界を笑顔にしてくる。曖昧な言葉じゃなくて具体的な手段で、雨が降らねぇなら雨を降らせる勢いで。
「ここには、みんなの未練が詰まっているわ」
「未練、か」
「ええ未練よ。わかっているでしょう?」
わかってなんてねぇよ。どんだけでけぇ未練かなんてオレには想像もつかねぇ。ヒナが未だにオレを構おうとするのも、蘭がちょっと寂しそうに笑ってたのも、モカが結局食事会
に来なかったのも、千聖がオレを求めたくなっちまうのも、紗夜がオレを追いかけようとしちまうことも。それがどのくれぇ重くて大事な未練なのか、クズ教師でなくなったオレには理解できねぇ。理解できねぇし、それを見てやれるほどの関係もねぇから。
「なら知りたくはないの?」
「それで教師ができなくなるってんなら知りたくねぇな」
「でも、これならその心配はなく、知ることができるわ。記憶の一部制限とかもできるの」
「……スゲーな」
万が一の安全装置ってヤツか。夢としてもしもの世界を歩くときは現実を思い出さねぇように。んで帰ってきた時にはクズ教師にならなくていいようにか。スゲーよこころは。そう笑うと負けヒロインにすらなれなかったサブヒロインは、我慢が耐え兼ねたようにオレの隣にやってきて肩に頭を乗せてきた。
「お前も、未練ならあるんだろうな」
「幾らでもよ」
「オレは、まだ最後まであのバカどもを、お前を笑顔にはできてねぇんだろうな」
そんな顔させておいてオレは生徒を送りました! じゃあ納得できるわけがねぇ、オレが納得できねぇ。だから、ならせめてお前らの未練をオレが受け止めて笑顔に変えてやりたい。未練が晴れてすっきりして、真っ暗闇な未来だろうがなんだろうが少しでもアイツらが幸せそうな笑顔でいてくれて、今度はその顔でオレに話しかけに来てくれるなら。
「なんか、もう負けてるな」
「必勝よ? 一成の笑顔のためなら手段は選んでなんてあげないわ」
「そりゃ頼もしいな」
どんなに頑張ってももう結末は変わらねぇのかもしれねぇ。いや変わっちゃいけねぇもんだとすら思う。オレはクズには成り切れなかったし、だからといって何もかもを忘れることもできなかった。ああそうだ、中途半端なんだ。今のオレは中途半端で何かが足らない、
「あたしはずっと思ってたの。笑顔になれない原因にはかならず、こうだったらいいのに、もっとこうしておけばよかったのにっていう気持ちがあるということ」
「それが未練ってヤツだな」
「ええ、だからあたしはそれすらも笑顔にしたい。世界を笑顔にするために、それもなんとかしたいの」
要するにオレでうまくいったら実用化も考えるつもりだと。結局オレは実験動物か。モルモットになる気はねぇからな。
だけど被験者にならなきゃいけねぇ原因を作ったのも間違いなくオレだ。だから喜んでその装置を頭につけさせてもらうよ。
「ええ、一成は逃げたの。逃げ切ったわ……自分の幸せから」
「言ってくれるな」
「言うわよ、あたしは弦巻こころ。世界を笑顔にするハロハピの弦巻こころなのよ?」
そうだな。ところでコレ、命の保障はあるよな? 何かで故障してオレの頭ごと吹き飛ばすとかそういうクレイジーな結末だけはやめてくれよ? そこは大丈夫よといつもの太陽のスマイルが担保らしい。信用してやるけどこれで今後の生活に影響出たらふんだくってやるからな。
「アフターケアというなら、愛を以て応えてあげてもいいわよ?」
「誠意でほしいな」
「愛も誠意の一つだわ」
「お前の体温でなんでも解決するならそれほど素敵な魔法はねぇな」
──そんなこんなで早速、オレはこころにもらったマニュアル通りにコンセントに繋いで自宅のベッドに転がりながら自動で起動されるのを待つ。どうやら細かいのはまだこころ側が遠隔でモニタリングしながら操作しなきゃならんらしく、22時に必ずと言い含められていた。そういや千聖は大丈夫だろうか、連絡は、と思ったけど一日くれぇ我慢してほしいところだ。今からお前の未練とやらをオレが昇華させてやるんだからな。
「なんだかんだで、楽しみなところはあるな」
そりゃオレだって好きで美人をフってフってフりまくって独り身を選んだわけじゃねぇ。本気で愛してた、愛してたからこそオレはアイツらが教えてくれた、立たせてくれた恩に報いたかった。それがアイツらと卒業してもダラダラと背徳感に任せて爛れた生活を送ることじゃなかったってだけだ。
「ならオレは堪能させてもらうよ」
クズ教師として誰か一人の将来を奪っていいってんなら。その明日があの金ピカ太陽に担保されてるってんなら、オレは選んでやる。幸せになって、骨の髄までその幸せをしゃぶりつくしてアイツらをベタベタに愛してやる。オレはどっちかっていうと独占欲も束縛も強いタチなんだ。ほしいもんには全力でみっともなくほしがっちまう弱い男なんだよ。アイツらにはそこまで見せられなかったってだけで。
「そうだったとしても、アイツらは笑ってくれんのかな。はは、案外幻滅されたりしてな」
それがフツーだ。アイツらはフツーじゃあねぇけど、オレがもっともっとガキっぽくて一周差以上のクソガキどものことを本気で傍にいてほしいと感じたことを知ったらさすがに嫌われそうだな。それはそれで、まぁいいか。カッコつけるのも疲れるんだよな。そしたら休憩していいよって言ってくれたのは、ヒナだったか。
──思い出に浸りながらどういう
「おう」
そこまではいい。こころはオペレーターとして話しかけてくれてるんだなって思うからな。だが、その言葉に
「おっけー!」
「うん、大丈夫」
「あ、もいっこパン食べてもいーい?」
「ええ、準備はできてるわ」
「はい、こちらも問題ありません」
「はいはーい、こっちも以上ナシ! オールグリーンだよ~☆」
「わたしも、おっけー、です!」
「は? え、待てこころ、どういうことだ」
なんでだよと叫びたくなった。いや驚きの声はあげたな。なんで、アイツらの声が聴こえるんだよ。それだけじゃねぇ、オレが関わってきたガキどもがみんないやがる。まさか、待てこの装置は夢を操作するだけじゃなくて共有するもんなのか?
「今更気づいても遅いわよ、まったくアッチは早いのに」
「早くねぇよ」
「うるさ~い、ねぇはやく~おなかへってきた~」
「モカ、イライラしないで」
「だって久々に聞いたら楽しそうでムカ~っとくらいするでしょ~」
「ええっと、改めて場違いな気がしてきちゃった……どうしよ」
「だいじょーぶだよゆーらちゃん!」
「ヒナもマイペースなんじゃないカナ~と思うんだケドね?」
「まったくよ」
──ハメられた、と思う間もなくオレの意識はその装置に吸い取られていくように瞼が閉じていく。こころめ、本当に本気でオレにアイツらとのクズ教師としての生活をやり直せってのか。荒療治すぎるだろ、モカとか間違いなくキレてたしな。それ以外にもエキストラとしてオレと関わってきたヤツらが集合して、違う世界を、もしもの世界の輪郭を創り出していく。それは、オレがホンモノのクズだった世界。幸せになりたかっただけのおっさんと化した
というわけでトゥルーエンドの隠しルートアナザーエンドを進めていきます。(RTA風)
設定はごちゃごちゃこの話で語ったけど要するにメイン五人ルート、サブヒロインルートを辿っていくだけのものになります。楽しんでってね。