青春ガールズロックと黄昏ティーチャー。   作:黒マメファナ

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⑦雪柳ハッピーエンド・後編

 モカを幸せにするってどういうことだろうか。千聖との電話からオレは必死で考えた。考えて、考えて、色々な記憶を辿った。絶対にアイツと関わってきた時間の中にヒントがあるはずだ。

 目をつぶって、暗い部屋の中で記憶の海に潜っていく。モカとした会話、モカのことを話した会話、リアクション、膨大な情報がオレの頭を通り過ぎていく。

 ──もう、モカはホント、何考えてるのかわかんないんだから~。そんな風に上原がからかわれて口にしていたな。確かにそうだ。アイツは何を考えてんのかわかんねぇ。そのせいで最初は苦手だったんだよな。

 けど、やがてシンプルな行動原理で、その苦手意識を払拭させてくれた。それ以来、モカはオレに対しては猫を被ることがなくなったな。モカは自分を理解して、求めてくれるヤツが必要ってことだ。それは、モカが高校一年生の時に嫌っつうほど実感した。

 そんな記憶の海の中で印象的なことがあった。あれはモカが高三の頃のなんでもねぇフツーの日にあったことだ。

 

「青葉さんと一成さんは……見ていて不思議な関係ですね」

「ふしぎですか~?」

「ええ、とても」

 

 そうだ。紗夜がそんなことを前に呟いてたな。オレとモカがリバーシをやってる時に天文部に遊びに来た紗夜は、じっと様子を観察してから、やはりそうですね、と言葉を続けた。パチ、パチ、とシロとクロが入れ替わる盤上の無機質な音に、紗夜の淡々とした声が重なる。

 

「……大なり小なり、私たちは一成さんに対する態度が一定です。二人きりでも周囲にいても」

「紗夜さんは違うんでしょ~?」

「確かにそうですね。しかし、それ以上に青葉さんは、恐らく一成さんしか知らないような、それも白が黒になってしまうような事実が多い気がします」

「ほうほう。さすがですな~」

 

 モカの声にピリっとした敵意を感じて、オレは相槌を多少打つ程度にしておく。思えばモカと紗夜の会話って珍しい状況だしな。ズバズバ言っちまう紗夜との相性はなんとなく悪い気がしてたんだよな。

 そんな止める気のねぇオレに文句ありげな目線を送ってから、モカはあのですね、とやや普段に近い口調で話し始めた。

 

「大体、両面とも白なヒトなんているワケないじゃないですか~。紗夜さんだって、甘えまくって、その上すぐえっちしたがるような性格、他のヒトにも見せてないですよね?」

「そうですね。だからあなたのソレは私のソレがかわいく見えるようなものだと予想しているのです」

「かわいいって自分でゆっちゃうんだ~、へぇ~」

「言葉の綾です」

 

 ピリピリ、久々の修羅場な雰囲気にオレは無言を貫いて盤上に裏表のある石を置いていく。オレが蒔いた種ってこの言い方別の意味に聴こえるからヤなんだけど、まぁ意味的にもオレが蒔いた種だから、ホントはもっとなんか口出したりするんだろうけど、この時のオレはどこまでも蚊帳の外に逃げ出していた。

 

「例えば、そうですね。一成さんの少し前のことを知っている、とか」

「……だから?」

「それを優越感にしているのでしょう? 百聞は一見に如かず、という言葉通り、あなたが高校生になる以前からの一成さんを知っていると仮定すれば、一つの結論が導けます」

 

 鋭いなんてもんじゃねぇな。大当たりだ。モカはオレのストーカーだった。コイツのスマホのフォルダは中学一年の時から積み重ねたオレでいっぱいだからな。そのおかげで由美子のことに向き合うきっかけにもなったんだからオレとしては何も悪く言う要素がねぇけど。問題は、モカ自身にある。それを紗夜は指摘してるんだな。

 

「青葉さんは、どこかで自分こそが一番、と思っていませんか? あるいは、自分こそが一成さんを理解できる存在であると」

「ありゃ、あんまりにもらぶらぶで~鼻につきますか?」

「いいえ。しかし一成さんは停滞を良しとしないヒトです。今は私たちがいて、見送るまで休憩をしているだけ、本当ならすぐにでも理想に走り出せるヒトですから」

「……ご高説、どうもです」

 

 そんな一触即発の雰囲気の時があったな。紗夜は、その時にモカは維持に固執するようなヤツだってことを見抜いていたんだな。ずっと永遠に、モカは青春で口走ってしまいそうなソレを、本気で信じてる。だから、傷つきやすいんだってことを、紗夜は知ってたんだな。そしてモカは排他主義だ。あんまり交友関係が広いヤツじゃねぇことは知ってたけど、この一件を思い出したことで明確に分かったコトがある。コイツは千聖と紗夜が嫌いだったってことに。

 

「……あ。待て、待てよ」

 

 じゃあオレに、千聖さんにはカッコつけない素朴な、そういうヒトの方がいいかもねと言ったのは誰だった? 紗夜さんって、片想いさせた方がいいタイプだよねと言ったのは誰だった? 逆に、浮気状態だったヒナに今のままほーちしていいの? と訊いてきたのも、アイツじゃなかったか? 

 ああなるほどな。モカは、アイツは今日までなに一切幸せになんてなってなかったのか。アイツは、最初から何も、何も変わってなかったんだ。変わったように見せかけて、全く、これっぽっちも。

 

「……ミスってたのか、()()()()()()()

「そうだね。だからアタシは、日菜さんと相談んして一成から離れることにしたんだよ」

「……え」

 

 朝が来て、どうせならと羽沢珈琲店で、ぐるぐると最悪の想定で回る頭を整理していると、その向かいにヒトが座ってきた。最後に会った時よりはるかに美人になって、一瞬誰かと思ったけど、声と左の一部を染めた赤メッシュだけは変わらねぇ。だからすぐにわかった。

 久しぶり、なんて軽く声をかけようと思ったけど、うまく声が出ねぇ。そうしていると、蘭は……美竹蘭はぷっと噴き出した。

 

「あははは、なにそのカオ。アタシがこんなに美人になって、驚いてるの?」

「……あ、いや……驚いてるっつうか、久々にお前の顔みたら、ほっとしたっつうか……」

「ふふ、一成は変わんないね、ちゃんとトシ取ってるの?」

「なんだそれ、つかいいことだろ。老け込んだら困るしな」

 

 そんなやり取りに漸く肩の力が抜けてきた。羽沢もどうやら顔を見たのは久しぶりだったようで、嬉しそうな顔で蘭にいつも通りのブラックのコーヒーを置いて行った。

 久々で、話してぇこといっぱいあんのに、借りちまって悪いな、羽沢。

 

「千聖さんから聞いた。モカのこと、悩んでるんだって?」

「アイツ、世話焼いてきやがって」

「まぁモカは昔っから何考えてるのかわかんないコト多かったし、一成はモカに甘いから」

「そうか?」

「うん」

 

 確かにあんまモカに厳しく当たったことねぇかもな。そんなこと言うとヒナや蘭にもそうそうなかった気がするんだけど、そう言うと、蘭はそうじゃなくて、アタシや日菜さんとは違う態度を取ってたってこと、と指摘され、なんとも言えなくなっちまった。

 ──確かに、そうだな。モカはオレを知ってるからって、そういう態度で接してたのかもしれねぇな。

 

「だから、モカは変わらなかった。変われなかった」

「……オレのせいだって言いてぇのか」

()()()()()()()。モカを変えられるのは一成なんだから」

「……なに?」

 

 薄々感じていたコトをハッキリと指摘されたオレは、思わず口調が怒りに変わっちまった。ふざけんな、と言いたいけど言えねぇっつうもどかしさは、八つ当たりに似た言葉を口から吐き出す。

 

「……じゃあなんだよ。モカは変われなかったってんならタイムマシンでも創って変われるようにルート変更でもしろってのかよ。そんな過去のこと言うためにわざわざオレんとこに出てきたのかよ、連絡も、なんもしねぇで、今まで」

 

 我ながらなんつうカッコ悪いセリフ吐いてんだろうな。蘭はそんなことを言いに来たんじゃねぇことも、そんな性格じゃねぇことも、わかってんのに。でも、オレが感じていた後悔を、誰かに吐き出すことをしなきゃ、どうにもならなかった。

 それだけ、今のオレは弱ってたっつう証明でもあり、オレが弱い男だっつう証でもあった。

 

「まだ遅くないよ。モカはまだ変われる。一成なら変えられるから」

 

 けど、反対に蘭は強い眼差しで、過去じゃなくて未来を指す。かつて大切だった、夕焼けを一緒に見た幼馴染を、仲間を、幸せにするために。

 今度こそ、あの黄昏を過去にしないために。蘭はここにやってきたんだな。

 

「……連絡しなくて、ゴメン。アタシも、ケジメをつけなくちゃって思って。連絡したら、会いたくなるから」

「そうだな。もう()()()()()()()()()()()()()()

「うん」

「蘭は今、幸せか?」

「ぶつかることもあるけど……幸せだよ」

「なら良し。よく頑張ったな」

 

 前のままじゃいられねぇ。そうだ、その当たり前のことが、モカを苦しめてるんだ。それをオレは奇しくもかつての生徒たちに教えてもらった。

 星はいつでも見てる。欠けたピースには私がいる。見送るまで休憩をしている。まだ遅くない。

 やっぱりオレは、モカにとっての間違いしか選択できそうにねぇな。この正解を口にするには、そこに辿り着く過程が、あまりにも正解からかけ離れてるんだよ。千聖もヒナも紗夜だって、それも多分わかっての言葉だったんだろうな。

 

「こっちですよ、モカちゃん先輩!」

「え~、あ、一成、と~蘭……だよね?」

「モカ……久しぶり」

「……そーだね~、ひさしぶり~」

 

 というわけでオレは結良にモカの息抜きをしてやってくれと頼んだ。午後は空いてるの知ってたからな。多分食いまくって、んでココまでやってきたんだろうけど、細かく連絡をしてたとは言え、ナイスタイミングだな。

 今のモカは素の顔をしない。当然だな。蘭に結良、羽沢もいるし、そこでオレに見せるのと同じ黒は見せたりはしねぇ。でも、引きずり出すのは、案外簡単だ。

 

「それで~? 一成はなんでそんな真剣な顔なの~?」

「真剣なハナシがあるからな」

「え~、モカちゃんぴんちだ~、ゆーたんたすけて~」

「……別れよう」

「──え?」

 

 蘭も結良も驚いた顔をした。そりゃそうだろうな。切り口がいきなりすぎるよな。けど、これは本気で考えたことでもある。今のまま、モカが幸せにならねぇくれぇなら、それも、一つの手段だと、オレは思う。

 

「ど、どーして……? あたし、なにかした……?」

()()()。オレもお前も、お互いになにもしてやれてねぇから」

「そんな……こと」

「あるだろ。つかお前は二人きりで将来、とかそういうの考えてなかったんだから」

 

 連絡をしなかったヒナに対する反応、そして蘭のこと、思い起こせばヒントはいくらでもあった。モカの望みは、幸せは、オレとの家庭を持つことでもなく、オレを独占することでもなかった。蘭がいて、ヒナがいて、んでモカがいて、そうやってオレを取り合ってんのか共有してんのかよくわかんねぇ、状況が、モカにとっての幸せだった。

 青葉モカは、あの黄昏の日々をずっと過ごしていたかったんだ。まるで、進まない時を永遠に過ごすように。

 

「蘭から離れた理由、教えてもらってなかったけどコイツが変わろうとしたからだろ? ヒナも同じだ。お前はヒナを追いかけてほしいってオレを誘導してた」

「……そんなの、でたらめで……」

「逆に千聖と紗夜は引き離したんだろ? まぁノっちまったオレも悪いけど。でもそれでもオレとの関係は切れないと踏んでの計画だ」

「それって……ホントに、あの頃のままでいたかった、ってこと?」

 

 そう、モカは羽丘にいた頃、それもヒナたちが高二で、モカと蘭が高一だった頃が、ずっと続けばいいと願ってたんだ。明日を一番信じてねぇのはオレだと思ってた。けど、その明日を嫌ってたのは他でもねぇ、モカだったんだ。

 でも、みんな大人になって、オレから離れていってどんどんと変わっていくことにモカは苦しんでた。それが完全に壊れたのは、結良の存在だ。

 

「え、わたし?」

「結良はモカの中でいちゃいけねぇ存在なんだよ。自分たちがいなくなった後の()()()()だからな」

「……そっか」

 

 だからモカは結良のことを気にして、警戒してた。オレがこれからも教師としての理想を追いかけていくのに、結良は絶対に必要になる。つまり結良はモカが嫌う明日に繋がるヤツだからな。そう結論づけていると、違う! と叫ぶ声が響いた。モカが、叫んだ。

 

「みんなあたしを置いて行ったんだ……蘭も、日菜さんも、一成も、先に進むことばっかりで……」

「モカ、でもそれが……」

「あんなに楽しかったのに? あんなに、いっぱい笑えたいつも通りを捨てた蘭に、なにも言われたくないよ! なんでダメなの? なんであの日をずっとって思っちゃダメなの? 一成、ねぇ……せんせー……」

「そんなの……」

 

 ダメに決まってんだろ。水が流れ続けてねぇと淀むように、それこそ、黄昏はいつか夜に沈むように、オレんちに置いてあったお前のマグカップが割れたように、同じものがソコに永遠にあり続ける、なんてことはねぇんだよ。だから変えてかなきゃいけねぇ、それは避けられねぇことなんだよ。

 それでも駄々をこねるようにかぶりを振り続けるモカに、ポツリと言葉を発したのは、結良だった。

 

「……ダメだよ、モカちゃん先輩。カズくん先生だって、ヒナちゃん先輩だって、()()()()()()もみんな、それがずっと続くなら続いてほしいって、思ったハズだよ。でも、続かないから、イヤでも前に進んだ。幸せは、ずっと続くものじゃないから。新しい幸せを、どんどん、見つけてかなきゃいけないから」

「結良……」

「わたしね、モカちゃん先輩。好きなヒトがいるんだ。でもそのヒトは今、他のヒトを幸せにするので精一杯で振り向いてなんてくれないけど、それでも幸せで……ずっと続いたらいいのに、っていつも思ってるよ」

「なら……」

「うん。だからね、卒業したら、もっと幸せになれること、探したいんだ。幸せを探す度をしたい。わたしはそういうのが、人生だなって思うよ」

 

 ──その言葉に茫然としたのは、モカよりオレだった。いつの間にか、ただのお気楽ものじゃなくなってたんだな、お前は。ホント、結良はオレにはデキが良すぎる生徒だよ。

 んで、悪いな。その気持ちに応えてやれなくて。その寂しそうな顔をさせちまった責任はとるさ。後は、オレがモカに言葉をかけてやる番だ。

 

「……でもな、変わんなくていいこともある」

「……え?」

「例えばお前の気持ちとかな。ずっとオレを見てくれたこととか、食う時にめちゃくちゃ幸せそうな顔するとことか、寂しがりで、一緒に寝る時に抱きしめてやらねぇと嫌がるとことか」

「ちょ、ま……最後の、いる?」

「今までの仕返しだ」

 

 黄昏はいつか紺碧の夜空に変わる。けど、その夜空は朝焼けに変わって、太陽が昇る蒼天になって、また黄昏がやってくる。そのサイクルは変わらないもの。変わっちゃいけねぇもので、それはオレが愛してるモカの根本と同じってことだ。

 もう、ヒナと蘭はいなくなっちまった。結良の言う新しい幸せってヤツを見つけちまったからな。だったらモカも、新しい幸せを探してほしい。それができるんなら、別れなくて済みそうなんだけどな。

 

「……新しい幸せ」

「モカ、それこそ……一成と付き合って、思うところもあったんじゃない?」

「……あった。あったよ、せんせー、じゃなくて、一成って呼ぶようになって、たくさん一成の先生じゃない一面を見たもん」

 

 教師じゃねぇオレと過ごして、やっぱりモカも変わるきっかけは見つけてたんだな。そういやお前、いつの間にかせんせーって呼ばなくなったな。それも変わったことじゃねぇか。涙で腫れた目で、モカはじっとオレを見る。そして、うん、と納得したように頷いた。

 

「あたしのこと、本気で愛してくれて、色んなところに連れてってくれた。すごいんだよ。テレビで見たご当地のグルメをおいしそーだな~、って言うと、じゃあ、って連れてってくれるの。最初はびっくりしちゃった。けど、それはあたしが恋人だから、だよね」

「ああ、生徒にはそんなことしねぇよ」

「あと、意外と手を繋ぎたがるんだ。歩くときとか、バスに乗っても、車で助手席座ってる時も」

「そうだな。割とモカに触れていてぇって思ってるな」

「あと、あとね……えっちの時は、すごく求めてくれる。それが、すごくきもちよくて……幸せ」

 

 バカ、そんなことまで言わなくていいんだよ。と思ったらモカは舌を出して微笑んだ。さっきの仕返しのつもりかよ。

 次から次へと出てくる、教師じゃなくて一人の男としての清瀬一成を語るモカの表情はホントに幸せそうで、結良も、蘭も、笑顔に変わっていく。

 

「……だから、あたしの次の幸せはきっと、一成の一緒にいることなんだと思う」

「うん。独り占めしていいから」

「そーする。蘭にはもうあげないからね~……えへへ」

「いらない」

 

 いらない、は傷つくんだけど。お前の卒業式の涙は何処に行った。そんな和やかになっていく、漸く苦し気な空気から脱却していく中で、モカは結良に深々と頭を下げ、ごめんなさい、と謝罪をした。

 唐突のことで結良は、へ、は? と言葉にならない声を上げてる。そうだな、結良は本人の意思云々は関係なく、謝罪してもらうべきだろうな。

 

「あたしね、ゆーたんのこと、敵だと思ってた……あたしのいつも通りを崩す敵だって。でも、一成を支えてくれてるんだって知って……ホントにごめんなさい」

「わたしとモカちゃん先輩はいわば同志だから。幸せになってくれないと、わたしも幸せになれないから」

 

 どうやら結良とモカもわかり合うことができたみてぇだ、よかった。そんな感慨に浸ってると、蘭に、ほら、と促された。わかってるよ。今日はこれで帰るけど、わかってんだろうな。今度またココに集まるからな。お前だけは現状を何一切聞いてねぇんだから、根掘り葉掘り聞いてやる、覚悟しろよ。目線でそんな恨みに近い視線を送って、オレは手を繋いでモカと羽沢珈琲店を後にした。

 

「……別れない、よね?」

「安心しろ。第一それはオレの意思に反してる」

「うん……ごめんなさい」

「いいんだよ、もう。オレこそ、いきなり別れようなんて言って悪かった」

「あたしも、もういいんだ……別れるって思ったから、気づけたってゆーのもあるしさ……一成があたしをこんなにも愛してくれてることにも、ちゃんと気づけたから」

 

 なんつうか、やっと始まりって感じだな。二年近くに及ぶ恋人ごっこを経て、オレとモカはやっと新しい幸せに向かって歩き出した。そうなれば今度はまだまだ経験してなかった苦しいことが待ってるハズだ。

 けど、もうモカは変われる。オレも、変われた。だから、きっと、大丈夫だ。()()()()()()、今日より幸せになれるからな。

 

「お腹減った~」

「お前……結良とクレープ食ったんだろ?」

「だって~、泣いたらお腹減っちゃったんだも~ん」

「……ったく。なんか食いに行くか」

「やった~、焼肉たべほーだいだ~」

「なんかって言ったよな?」

 

 取り敢えず、頃合いを見て同棲から始めてみるか。ぐうたらモカのことだ、家事とかはオレが結構やんねぇといけねぇだろうけど、まぁそんなこと、些細な問題だよな。

 オレにはモカがいる。モカにはオレがいる。今はそれで、それだけで幸せだからな。

 

「ねぇせんせー? あたしは、まだ幸せになれるかな?」

「当たり前だろ、なにせオレがいるんだからな」

「……うん」

 

 ──雪柳は慎ましく風に揺れる。たまらなく幸せなこの一瞬を胸に。このもしもを知ったモカはなんて言うんだろうな。

 いや、その前に今どういう状況か教えてもらうところからだな。もう恨んでくれるなよって祈りながらオレから電話をしてやるのも手か。とりあえず、幸せならそれでいいけどそうじゃねぇんなら、オレを頼ってくれよ。オレがいるんだからな。

 

 




明日を信じてやれないクズは、モカを通じて信じてあげること、信じさせてあげることの大切さを取り戻しました。
どんどんと笑顔が増えていく。未練の先にある、幸せへの道を。
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