青春ガールズロックと黄昏ティーチャー。   作:黒マメファナ

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六人目はサブヒロイン、戦う前からの負けヒロインでございます


⑨緋椿ハッピーエンド

 それは今から数年前のこと。まだアイツが学生の頃の話だ。その時は少なくとも自分が生徒と恋仲になるなんて思いもしなかったな。けど出逢ったんだ。羽丘でオレは、今井リサと出逢い、恋をした。

 まぁ好きになったと言っても、最初の印象は、そうだな、ヒナの保護者って感じだな。

 

「あの……先生」

「ん、どうした?」

「実は……わかんないことがあって」

「えーっと、この赤線とこ?」

「はい、訳が変になっちゃって」

「なるほど」

 

 リサとのファーストコンタクトはこんな風になんというか生徒と教師の関係としてあまりにフツーだった。でも、オレはコイツもかとちょっとだけ落胆した記憶があった。なにせおっかなびっくりだったんだからな。

 

「なぁ今井」

「……なんですか」

「お前もオレの噂、知ってるのか」

「まぁ、はい……」

 

 まぁ信じるか信じないかなんて自由にしてほしい。そんなのはどうだっていい。当時のオレは無気力で不良教師だったから。でもリサは段々とオレに対する関わりにおっかなびっくりが消えていくのが目に見えてわかった。二度目はちょっと遠慮がちに、んで三度目からは遠慮も消えた。

 

「そういえばセンセって、ヒナの天文部、顔出してる印象ないんですけど」

「そりゃ、氷川の活動に関わると頭がおかしくなるからな」

「あ、あはは……確かに」

 

 フツーだった。なんつうか見た目は派手だし結構目立つ存在だしでオレとしては関わることなんてねぇんだろうと思っていただけに、リサとのフツーの生徒と教師の関係が続いているのが、オレの中ではリサはぶっちぎりに印象のいい生徒になっていた。だけどそれだけに、実際にヒナとは身体の関係があって、オレは評価通りのクズもいいところだってことがオレとリサの線を区切らせていた。

 

「それじゃ、カズくん! 約束したから絶対きてよ!」

「先生つけろっての、わかったよ……ったく」

 

 その線が壊れたのがGW前のことだった。いつものようにヒナと屋上で背徳交わるランデブーの後、流星群を見に行きてぇって引きずられる約束をしたところでオレは一人でなんだかなぁと空を見上げた。段々と紺色になっていく空で一人静かにタバコを吸ってから帰ろう、そんな風に考えていた時だった。

 

「あれ……うそ、清瀬センセー、いたんだ」

「今井?」

 

 屋上の扉が開いて誰がやってきたのかと思えば、そこにはジャージ姿で汗を拭くためか顔周辺にタオルで抑えるリサが来た。オレがここでタバコ吸ってるってことを忘れちまってるくらい、暗い顔でな。ここで()()()()()()()()()、気付かねぇフリをしただろうけど、流石そんな顔されてちゃ、オレだって訊かねぇわけにはいかない。

 

「どうしたんだよ。なんかあったのか?」

「え、あ……ううん、なんにも。大丈夫、だから」

「大丈夫って……そんな顔してねぇだろ」

 

 笑顔を無理やり作ろうとするリサだったが、明らかに大丈夫じゃねぇ。そうかよなんて引き下がるわけにもいかねぇからオレは逃げ出そうとするリサの手を取った。タオルが首から離れて、泣き腫らした顔がオレを捉えた。

 

「だいじょうぶ……アタシの、コレは、自分で、なんとかしなきゃ、だから……」

「ふざけんなよ。ここでオレに見つかったのが運のツキだよ」

「……なんで」

「そりゃそうだろ。お前はいつもいつも世話焼きで、スゲーヤツで、お前だったらこんな状況で放っておかねぇ──」

「──それがっ、それがダメ、なんだって! アタシの、どうしようもなく、ダメなトコだったんだって……」

「……は?」

 

 感極まったのか、それとも観念したのか。あのね、とポツリポツリとリサは語り始めた。自分には高校一年生でコンビニのバイト先で出逢って、付き合ってた二つ年上のカレシがいたこと。そのカレシに、浮気された挙句にフラれちまったことを話してくれた。お節介だ、なんて言われたこと。なんでも気が回りすぎる今井より、自分を立てて、尊敬してくれる女の子に、靡いたこと。

 浅はかだな。浅はかすぎる。それで、そんなことでお前は捨てられたってのか。こんなにいい女が、こんなに、気が利いて、それでいていつも小さなことで悩んで笑う、年相応のコイツが。なんでそんなくだらねぇことで捨てられなきゃならん。

 

「しっかしその男は、見る目ねぇな」

「……それ、もしかしてアタシを褒めてくれてます?」

「当たり前だろ。オレはお前のこと買ってるんだからな」

「……そっか」

「んじゃ送ってくよ。最近不審者が多いらしいし」

「え~、襲いませんか?」

「バカ」

「あはは、冗談ですって☆」

 

 これが転換点だった。それから、ヒナじゃなくてオレに会いに来てくれるようになった。ヒナがオレのとこまで突撃してくるまで屋上で他愛のないハナシをし続けたこともあった。

 それが、いつの間にか教師と生徒の枠を飛び越えた。ありきたりでつまんねぇ理由だけど、その時間はリサにとって、教師と生徒の関係以上に心に残ったんだと思う。

 ──ただ一番問題だったのはやっぱりオレがどうしようもねぇクズだったということ。ヒナやリサだけじゃなくて蘭にモカ、千聖に紗夜と抱く女が増えること増えること。しかもヒナのことずっと隠してたってことがバレた時には本気でヤバかった。

 

「それじゃあセンセーなんてアイツとおんなじじゃん! アタシは、アタシはキープなわけ!?」

「そうじゃねぇ」

「……そうだよね、ガキのことなんてみんなアソビなんでしょ? どうせ、身体が目当てなんでしょ?」

 

 思い出しただけでも胃が痛くなるな。だけどその日々こそが教師としてのオレをも成長させてくれる大事な機会になった。由美子との過去と向き合うきっかけにもなった。そして、時間が流れて、卒業してから一年が過ぎ、二年生になったリサと買い物に……デートに出かけた時のことだった。

 

「誰もいなくなって、センセーは寂しくないの?」

「誰も、じゃねぇだろ」

「え?」

「紗夜にもやっと相手が見つかったんだ。オレもようやく、()()に愛を届けられるってなもんだ」

「え……えっ?」

 

 そう、ずっと待ってたんだよ。つかアイツらも薄々は理解していたらしい。だからこそオレの言葉にわかったと笑って、泣いて、怒りながらも別の相手を選んでくれた。こうやって最後の一人になるまでの時間待たせて悪いなとか思いながらな。

 

「リサの言うフツーの恋、それができねぇといけねぇだろ?」

「う、浮気……しない?」

「自信はねぇけど、これからはガチで怒ってくれ。オレはリサの恋人になるんだからな」

 

 そんな数年の遠回りをしてからすぐ、オレとリサは同棲を始めた。体感的には三年の付き合いなんだ、もう今更曝け出すものもねぇオレたちはまるで最初からこうなる予定だったかのように二人の生活を続けていた。

 

「ただいま」

「あ、おかえり~、お疲れさま~♪」

「いい匂いだな」

「今日は自信作~♪」

 

 同棲から一年半、リサは大学三年生になりオレは未だ幸せなことに教師を続けていた。よくよく考えると捕まらずによくここまでこれたなと担任をしながら考えている時が増えた。それは、変えるとこうやって陽だまりの笑顔をくれるリサがいるからなんだろうな。

 

「あ、せっかくだし定番のアレ、やっとく?」

「なんだよ。風呂よりメシよりリサって言ってもいいのか?」

「……バーカ、えっち」

「自分で言ったくせに」

 

 こんな具合でバカップルをやらせてもらってる。順調すぎて、なんなら大学卒業くらいには結婚するかみたいなハナシもするようになった。ちょっと前には指輪も見に行ったり、式場のパンフレットを見たりして、リサはこれからの幸せに頬を緩ませる毎日だった。

 

「んじゃあまぁ、メシができそうならそっちを先にするよ」

「ん、もうできるから、先に着替えてきなよ」

「そうする」

 

 ネクタイを緩めてスーツを脱いでクローゼットにかけて、今日も終わったっつう感じだ。パタパタと食器を用意してくれるエプロン姿のリサが用意してくれる料理の匂いも、その感覚を増幅させてるな。

 そして、二人で机を囲んで、お互いのハナシをしながら食べるのが、リサが決めたルール。これは子どもができても続けるからね、と息巻いてたな。

 

「それで、来年はどうなりそう?」

「たぶん三年の担任だな。二度目だけど」

「そっかそっか」

「まぁ結良は喜びそうだよな」

「センセーのこと大好きだもんねぇゆーらって」

「久しぶりにそう呼ばれたな」

「あはは、確かにね、今は()()だもんね♪」

 

 ヒナはもちろんリサの不安の種だと思う。まぁなにせいつまでたってもアイツはかわんねぇからな。そうやって考えるのがフツーで、なにも感じねぇ方が不自然ってくれぇだ。

 それに結良も口には出してねぇけど、リサもオレも気持ちに気付いてる。一成は生徒って決めるととことん構っちゃうからねとリサは苦笑いで済ませてくれてるけど。

 

「つかそんなに不安なら、リサも来いよ」

「アタシ? アタシはなぁ……天文部じゃなかったしさ」

「けど、結良は絶対に喜ぶだろうけどな」

「そーかな」

 

 結良はオレと付き合ってるリサを敵視なんてしてねぇんだえけどな。アイツはオレの傍で部活を続けることが幸せなんだろうけど、それ以上に色んなことをしてみたい、世界はこんなに広いんだって思いたい、なんて言い出すようなヤツだからな。そんな小さなこと、気にしたりしねぇよ。

 

「……それはそれで、妬ける。負けてる感じするし」

「まぁ、リサちー先輩最近来ないな、って寂しそうに言ってたしな」

「そう言われると……もう、一成に似てずるい後輩だよ、ゆーらはさ」

 

 懐かれるとどうしても構いたくなるし世話を焼きたくなるってのがリサの性格だからな。無下にはできねぇと思ったよ。それに最近忙しそうだったし、偶には休んでもらわねぇとな。あの騒がしい後輩と同期の相手が休憩になるかはしらねぇけど。

 

「そういや、Roseliaはどうなんだ?」

「続けるつもりだって友希那は言ってた。みんなそれに賛成だって」

「そっか」

 

 どうやら色々あったがRoseliaはプロになるらしい。そのためには制限も色々とあるんだけど、湊はそれを受け入れたんだな。それもまた成長だ。アマチュアのままじゃダメなこともある。きっと事務所の方針みてぇなのには絶対に首を横に振るだろうけど、CDを出して、ライブを行って、もっともっと有名になっていくんだろうな。

 

「ん、でも忙しくなって、一成に会えなくなるのはイヤだなって」

「リサはそれを心配してたのか」

「……うん」

 

 リサらしいな。オレとしてはリサがずっと願ってた、湊の傍で、湊の力になるってことが叶った瞬間だから、もっと喜んでもいいと思うんだけどな。

 ──そういや思い出した。確か大学入りたての頃、リサのSNSが炎上した時のこと、コイツの今の表情はその時に似てるな。

 Roseliaに今井リサは必要ない。そんな話だ。孤高の歌姫として信奉するものが多い湊、超絶技巧をいとも容易く弾いてみせる紗夜、繊細に、だが大胆に弾きこなしてみせる白金、抜群のリズム感とパワフルさで圧倒する宇田川妹、そんなメンバーの中でリサだけは一部のファンにRoseliaの異物として扱われていた。

 そんな演奏だけ見てるヤツにリサの何がわかると言いたいところだが、ファンってのは演奏だけを見てるもんだ。コイツらの私生活は何ら関係ない。例え、リサの存在が、四人を支えてたとしても。

 

「あら、清瀬さん」

「よう湊、元気そうだな」

「そちらも……リサから聞いているわ」

 

 行きつけの羽沢珈琲店でのんびりしてた時、歌詞を考えていた湊に出くわし、オレはその事件のことを知った。

 珍しくため息の多い湊にどうした、と問い掛け、コレを見てくれるかしら、と白金からのメッセージを見せられた。

 

「随分と……会って話すのと印象と違うな」

「そうではなくて……コレを」

「……リサが」

 

 そこにあったのは、リサの投稿に心ない返事をぶつけるファンと思わしきアカウント。紗夜と一緒にお菓子を作ってた時の投稿に対して、もっと練習しろブス、だとか、Roseliaの、湊友希那のベースに相応しくない、だとか。思わず顔を歪ませる程の負の感情が、無機質な文章になって牙を向いていた。

 

「……やはり、知らなかったのね」

「ああ……リサはなんにも言って」

「心配かけたくなかった、ということでしょうね」

「ムカつくな……ああ、めちゃくちゃムカつく」

 

 なにも気づかなかったオレ自身に、素性がわからねぇからってなにも考えずに悪意を振りまいてリサが被害にあったっつう事実が、オレの心に火を点けた。

 ふざけてんだろ。なんでわざわざ、リサに見える形でそれを吐き出す。ああちくしょう、わかってるさ、人間の悪意や鬱憤なんて、自分だけで解決できたら苦労なんてしねぇってな。

 

「痛みをわからずとも、癒すことはできるわ。貴方にはリサの心の中に踏み込むだけの信頼を得ているのだから」

「……そりゃあお前だってそうだろ」

()()()。意味が違う……私の踏み込むリサの領域と、貴方が踏み込めるリサの領域は、別物だわ」

 

 幼馴染で、何をするのもいつも一緒で、そうやってお互いを尊敬し合ってきたリサと湊。だからリサは湊のことを気に掛けるし、湊は口に出さなくとも、リサのことを気にかけてるとわかる。湊がリサをベースに選んだのは、決してその友情だとか情けの問題じゃねぇ。オレは知らなかった事実だが、Roseliaを結成する以前、当時のアイツはネイルに凝ってたらしい。

 

「リサは、それを全部、剥がしてきたの。伸ばして、整えていた爪を深爪なくらいに切って、当然装飾は一切ない、そんな状態になっていたわ」

 

 それは、間違いなくリサの覚悟だった、湊は懐かしむように語った。だから私はリサがRoseliaに必要だと思った。そしてそれは、思っていた以上だったわ、とそこで初めて、微笑んだ。普段は無表情を貫く歌姫は、顔を綻ばせて、そう締めくくった。

 

「なんだそれ……カッコいいな、めちゃくちゃ」

 

 痺れた。しかもそれを、なんてことないように笑いとばしたってんだから、また痺れた。リサは、こんなところでオレにカッコいいところを教えてくれるんだな。そんな言葉に、湊は、でしょう? と誇ったような顔をしやがった。

 

「それが自慢の幼馴染(リサ)よ。だから、貴方は……」

「おう。サンキュな、湊。よくわかった」

「……ええ、リサのこと、よろしくお願いします」

 

 オレはリサを心配するのが仕事じゃねぇ。それでもRoseliaのベースであり続けるであろうリサの覚悟を、認めてやるのが湊のできることなら、支えてやるのがオレのできること、オレにしかできねぇことだ。だからオレは何も知らねぇフリをしてずっと傍にい続けた。それが正解かどうかは、知らぬまま。

 ──そしてRoseliaはもうすぐプロになる。そうしたらまた、あの時のようにリサは火を浴びることになるんだろうな。けど、リサはもう、自分を認めるっつう覚悟をした。だからもう、大丈夫だな。

 

「ねぇ一成?」

「なんだよ」

「さっきから一成が考えてること、当ててあげよっか?」

「なんだ急に、モカみたいだな」

「ふっふっふ~、ってカンジ? あはは、モカみたいにすごいヤツじゃなくて、一成だから使えるんだけど」

「んじゃあ、どんなこと考えてたのか、当ててもらおうか」

「んーとねぇ……アタシのこと」

「あーそうそう、さっすがー」

「当てずっぽうじゃないよ? アタシが炎上してた時のこと、考えてたんでしょ?」

 

 ──は? という間抜けな声がオレの口から出て、手から箸が滑り落ちた。マジかよお前、マジでモカと同等じゃねぇかそれ。

 なんでわかった。いやそもそもモカの時から思ってるけど、どうやって、そんな焦りにリサはしてやったりという顔で笑うだけ。悔しいんだけどな、そういうの。

 

「あはは、あの時、どんなに苦しいことを言われても、アタシを支えてくれてるんだなーってこと、実はわかってたんだ♪」

「……スゲーな」

「アタシは一成のカノジョだからね」

 

 負けた。負けだ負けだ。リサはオレの考えてるよりもスゲー女だよ。あの時、リサの覚悟を支えるために奔走したオレの頑張りをお前は知ってたっつうのか。んで、お前はオレの頑張りにいつも一輪の花をくれたっつうのか。

 

「アタシさ、世話を焼くのは好きだけど、逆はさ、あんまりってかケッコー苦手なんだよね……だから、アタシに世話を焼こうとする一成の世話を焼いたってワケ。どう?」

「バカだな、リサは」

「アタシにとっての癒しは、世話を焼くのを休むことじゃないんだ……我ながらめんどくさい女だと思うけど」

 

 リサにとっての癒しは、その世話を焼いた相手が、自分に笑顔を向けてくれること。ありがとう、と言葉にして、笑ってくれること、ってワケか。確かにめんどくさい女だな。

 ──好きになった自分じゃねぇ誰かの幸せこそ、今井リサの幸せなんだな。だから、リサは高校生の頃はいつもいつも、肝心なトコで一歩引いてたんだな。

 

「あはは~、バレてた?」

「まぁ、今気づいたけどな。でも今は……違うんだな」

「うん。だから言ったでしょ?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()ってか?」

「大正解♪ 流石は一成だねぇ」

 

 過去のセリフを参照にするのは悪いが得意技なんだ。ヒントになってなくとも、先に発言したのは全部ヒントだからな。

 そんなみみっちい特技は置いといてだからねとリサは微笑んだ。オレの幸せを自分の幸せとしてカウントする、優しくて残酷な女は、少しの不安を表情に出して、一言だけ、わがままを言った。

 

「もっと一成には幸せになってほしい」

「ホント、バカだなお前は。バカだよ」

「え?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 相手が幸せなら自分も幸せ? 相手の幸せが自分の幸せ? バカ野郎、そんなのオレだってそうだ。リサが笑顔なら、オレは今の選択に後悔なんかひとつだってねぇんだよ。リサが笑ってくれんなら、いつもみてぇに世話を焼いて、あはは、と朗らかに笑ってくれるお前がいれば、幸せなんだっつうの。

 いや、もうそうじゃねぇ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()。なんだっていいんだ。泣いててもそこに寄り添えるのが幸せだ。怒ってたら、宥めたり、謝ったりして許してもらうまで気に掛けれることが幸せだ。

 

「だからなんだよ。だからお前と、一緒に暮らしてぇって思ったのは」

「……恥ずかしいじゃん。そんなのベタ惚れじゃん」

「ああそうだよ。悪いかよ」

 

 ベタ惚れなんだよ。オレは今井リサを、どうしようもなく愛してるって胸を張って……は無理だな、お前相手くれぇなら遠回しに伝えられるんだよ。それはきっとリサも同じだってことだろ。

 だからな、一人で幸せを探すのはもう終わりなんだよ。オレとリサの幸せはもう、独りじゃ見つかりっこねぇんだから。

 

「恥ずかしいくらいに、ベタ惚れだね……アタシも、一成も」

「そうだな」

「アタシもね、一成のことが好きって言うのは、悪いところも全部含めての好きなんだ」

 

 悪いところも含めてか。それはスゲーことだよな。ちょっとすれ違ってケンカしたくれぇじゃ、崩れねぇくらいに、お互いがお互いを想い合ってるってことだもんな。

 じゃあやっぱり、心配は無用だな。なんだよ、最初から悩んだりすることねぇじゃん。ここまでバカップルなら、後の言葉は一つでいい。

 

「んじゃ明日役所行って書類でも書くか」

「そだね、やっぱもうそうだよね、って、えぇえ!? ちょ、急展開じゃない!?」

「そうか? チラホラそういう話してただろ?」

「それとこれとは別じゃない? どうしたの一成、バカになった!?」

「はぁ? バカがバカって言っていいと思ってんのかこのバカ」

「一成の頭がポンコツのバカだからバカって言ってるんだケド?」

「上等だ。もう今日は一緒に寝てやんねぇ」

「いいし、今日はもうアタシリビングで寝るから!」

「勝手にしろ」

 

 ──バカとバカでお似合いのバカップルだってんなら、もうずっと一緒にいさせてほしい。きっと、リサ以上に幸せになれるヤツは、もういねぇだろうから。こんな風に一回り年下のお前と同レベルで口喧嘩するようなオレでよければ、だけどな。

 その答えは、バーカとたった一言、うつらうつらとし始めたオレの腕の中で、暗闇の中でもわかるくらいの笑顔で甘えるように響いた。

 

「ホントさ、一成ってバカ」

「いいだろ。つかお前はもっとバカになれよ」

「……でも」

「でももクソもねぇ、オレはクズなんだからな」

「……バカ」

 

 ──緋色の椿はオレの肩にはらりと落ちていく。たまらなく幸せなこの一瞬を胸に。このもしもを知ったリサはなんて言うんだろうな。

 いや、なんか言う前にオレがバーカって言ってやる。お前はそうやっていつまでもいつまでも他人ばっか見てやがって。もう容赦しねぇ、お前も幸せにしてやるからな。覚えとけ。

 

 

 

 

 




既読だった方は驚いたでしょう。一人減っているわけじゃなくて明日投稿します。そしてイマジナリーじゃなくてフツーのハッピーエンドになりました。よかったねリサ。正史じゃ幸せになれなかったはずのリサがちゃんと幸せになれるのは作者としても変更したかったところなんです。
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