青春ガールズロックと黄昏ティーチャー。   作:黒マメファナ

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これいる? とか思ってしまってすまん。ちゃんと必要でしょうな。だってこれは。


⑪繚乱ハーレムエンド

 ハーレムってのは、この国では唾棄すべき悪だ。一人の男が女を複数囲んで、なんて異常にもほどがある。きっとそうやって大衆の悪としてオレは認知されちまうんだろうな。

 そうだな、オレは大衆の悪だよ。でも、どうしたらわかんねぇまま、オレは全員を幸せにしたかった。その時、なんでか知らねぇけどオレの頭に浮かんだ選択肢の内、一番バカげてるのを選んじまっただけで。

 一つ、誰も選ばない。誰も選ばず、オレは黄昏ティーチャーとして、アイツらを生徒として見送ることで、アイツらにオレ以外の幸せを押し付けて逃げる。

 一つ、誰か一人を選ぶ。そうすることで、未練は残るだろうけど、アイツらが納得するだろう誰かとの幸せを最優先にする。

 そして、最後の一つ……それが、全員を選ぶこと。みんなオレが幸せにしてやる、なんつう頭の悪い選択肢。これがノベルゲームなら間違ってもこの選択肢は上二つの選択を一通りし終わらねぇと選びたくねぇものを、オレは一度しかねぇ人生で、選んじまった。

 

「いいのではありませんか? 貴方がそうだと言うなら、突き進むことも必要で、そのための補助なら、私がしますから」

「ん~、なーんか違う気がするんだけどな~、まー、あたし的には~、みんながいるならへーきかな~って」

 

 最初に賛同してくれたのはこの二人。通称負けヒロイン同盟の紗夜とモカ。千聖は正直この時点でマネージャーとのゴタゴタがあるため確認は後回しだった。まぁそれも、オレ一人よりは紗夜やモカに手伝ってもらった方がいいなっつう感じだったしな。

 

「は? ナメてんの?」

「あは、カズくんおもしろいねー、冗談だよね、ねぇ?」

 

 に対して敵はモカの名づけに従うと勝ちヒロインズ。おかしくね? なんで勝ちヒロインが敵で負けヒロインが味方なんだよ。逆だろフツー。

 けど、怒りに燃える蘭と頭のおかしくなったオレに遂に病みが頂点に達したヒナっつうどう考えてもパワーバランスのおかしな戦争は始まっちまった。

 中立、というより今からでも遅くないから誰か一人を選びなさい、と途中から参戦した千聖も含めて冷戦状態が続いた。それがなんと進級から半年経過の秋だった。見かねた我らの太陽サマが、その選択肢を突き付けた。

 

「一成が選べる手はもう一つよ。ルールを創る側に回ること、それだけよ」

「それだな、そうするしかねぇか」

 

 かくして、全員との関係を惰性のように続けながら、卒業してからそれぞれの幸せも模索しつつ、オレが全員囲って幸せにしてやる宣言をバラ撒いた。不思議なことにその幸せの模索をしていた間に気付いちまったらしい。案外、居心地が悪くなかったことに。

 

「そりゃあさ、ヤキモチも妬くけど、モカちゃんとか千聖ちゃんとずるいとか、あたしもそんなデートしたい、とか言い合ってるの、なんかるんってくるんだよね」

「わかるわ。結局、一成さんは私のことを構ってくれるし、不満はないのよね」

「……おかしい。おかしいけど、アタシも、みんながいてほっとする。これがいつも通りなんだなって思えちゃうんだよね」

 

 こころの一言と時間が反対派を篭絡し、なぁなぁの関係はいつしかこころとリサをも巻き込んでハーレムとしてオレの日常になった。

 それでこそね、と言いだしっぺはなんとめちゃくちゃ豪華な寮をオレに寄こしやがった。そんな大きなのいらねぇよって拒否したのに、駅からそこそこ近いし騒音もそもそも近所ってもんがない上に防音完備とかいう流石にご都合主義じゃ済まねぇぞこの野郎ってくらいのものを、もらっちまった。

 まず家主特権ってんで屋上テラスの真下、三階の何部屋かをぶち抜きでオレがもらってまるでラブホのような寝室をもらって、全員がそれぞれ暮らす部屋がある。んで共有の部屋があって、楽器の練習室やトレーニングルームなんてもんもあって、みんな好き勝手に、けど一つの家族のように暮らしている。料理担当とか決めて、怒ったり笑ったり、バカみてぇに楽しく、異常だってことも忘れてな。

 

「……カズくん先生は結局、みんなに優劣をつけたくなかったんじゃない?」

「なるほどな……じゃなきゃこんな騒がしい日を過ごしたりしねぇだろうな」

 

 そんなこんなで引っ越すことになったと事情を説明した結良には苦笑いでそう言われて初めて気づいた。無自覚だったんだ、と呆れる結良は、でもそっちの方が先生らしいよ、と笑ってくれた。結良が認めてくれて、オレはこれでもいいんだなって自信になった。

 ──それが漸く日常となっていた土曜日、パソコンと睨めっこをしているオレは、電話の音で作業を中断した。部屋にひとつずつ置いてある内線を鳴らしたのはヒナだった。

 

「カズくん暇ー?」

「暇だと思うかこのメンヘラ女」

「え~、構って~構ってくれないとヘラっちゃうよ」

 

 うぜぇ、とオレは目頭を抑えながらヒナに我慢しろと伝えた。するとその電話口からリサのが一成~と切実な声を出した。すまん、今日はガチでオレも手が離せねぇんだよ。そこでオレは紗夜を頼れと言っておいた。幸い今日は珍しく全員家にいるだろと言ったらおねーちゃん練習中なんだもん。とか抜かしやがった。

 

「ああもうじゃあ後で手伝えよこのクソ悪魔!」

「わかった!」

 

 わかったじゃねぇと思いながらも約束を取り付けてオレは共有スペースへと向かっていく。オレの部屋に来るとあの悪魔が言うことはキスしよから始まるいつもの肉体的コミュニケーションだからな。

 

「カズくん!」

「ごめん一成、アタシじゃ止められなかった」

「いや、止めれるやつなんてそうそういねぇよ」

 

 抱き着いてくるヒナを受け止めると、ちょっとだけ遠慮がちにリサも近づいてきやがる。お前はもうちょいでいいからヒナとかモカくれぇの強引さを身に着けてほしいな。甘えてぇなら素直でいいだろ。

 

「え、えと……じゃあ」

「──か、ずなり~!」

「わっ、びっくりしたぁ」

 

 おずおずと甘えようとしていたリサだったが、突如としてオレの後ろからやってきた太陽に邪魔をされてぱっと離れていってしまった。そういやお前も強引な側だったな。おいこら、せっかくコッチは珍しく甘えてくれるリサを見れそうだったのに。

 

「そうだったの!」

「元気そうに言うな。申し訳なさそうに言え」

「後で、後で甘える……から」

 

 その後でってのは全く信用できねぇから取り立てに行くとして、つかこころもいたのか。今日はマジで珍しく全員集合してる気がするな。そろそろ昼になりそうな時間だってのに出かけてるヤツがいねぇのはほぼ奇跡だろ。そう言いながら六人くらい座れるソファーに座ると早速ヒトの膝に頭を乗せてネコかなにかみてぇに甘えてくるヒナを撫でながらリサを招いた。

 

「あたしの場所がないわ」

「オレは一人しかいねぇからとりあえずは我慢してくれ」

 

 異様な光景だけどこれが日常なんだよな。この状態で千聖が来れば甘えてこられるし紗夜でも一緒、蘭はちょっと構ってほしそうにコッチをチラリとみて、オレが呼ぶと嬉しそうに甘えてくる。モカは独りの時を狙って膝の上に乗ってくるって感じだ。

 

「ん……ふふ、一成の手はきもちいな~♪」

「んん……すぅ」

 

 ネコ科動物と化したリサとヒナを構っているとやがてヒナが寝息を立て始めた。なんなんだと思ったらこころが更に隣にやってきて、昨日遅くまで星を観ていたからねと優しく微笑んでみせた。それはもうリサが驚くくれぇの母性にあふれた瞳で、なんだかオレもドキっとしたよ。

 

「つか屋上にいるなとは思ってたけど星を観てたのか」

「ええ、とーってもキレイだったわ」

 

 都会なのにキレイだったのか、そりゃあ羨ましいことで。だが、盛り上がったという発言を聞いてオレはおかしいなと思っていたらヒナの部屋からバタンと音がして、ヒナちゃん先輩どこ~? と寝ぼけ交じりのヤツがオレを見つけて顔を真っ赤にした。

 

「おはよ結良」

「お、おはよ……ゴザイマス、先生」

「ヒナはおやすみしてるケドね~」

 

 いつの間にかリサがオレから離れてるのは最早プロの技だな。ところで別にオレはお前の寝間着姿なんて今更気にしねぇけどな。と言ってもやはり結良側が気にするようで着替えてくるとやや速足にヒナの部屋に戻っていった。そのタイミングで朝ご飯食べるヒト~とリサが声を掛けた。お、食べる食べる。つかいい加減起きろヒナ。

 

「そういえば結良ちゃんはまだ抱いてないの?」

「ぶっ! ちょ、ちーちゃん先輩!?」

「お前なぁ」

「おねーちゃんは?」

「あとでパン食べますって」

 

 ここはオレたちの家ではあるけど、今日の結良みてぇにAfterglowの連中が泊まりに来たり、パスパレが避難所兼隠れ家代わりに遊びに来たり、ハロハピの会議場所に何故か使われたり、ポピパのメンツが差し入れがてら雑談したり、Roseliaが個人練習にやってきたり、そうやっていつも誰かしらが誰かしらを連れてやってくる。

 

「カズくん先生の部屋は広めなんだよね」

「そうなんだよ。管理人はオレってことになってるからな」

「まぁ実際はこころと黒服さんだけど」

「そうだよね~、こころんがいなきゃ成り立たないもんね~」

 

 まぁ家政婦を雇う金なんてねぇからな。一応各自部屋の掃除はちゃんとしろってことになってるし、土日のどっちかは共同スペースの掃除をみんなでしてる。けどそれでも手の届かないところは、偶に来ては黒服さんがやってくれる。申し訳ねぇけどこころ様のご住居ですからと言われたらどうしようもねぇしな。

 

「ん、リサの味噌汁は天下一だな」

「ありがとっ☆」

「私の時はそんなこと言ってくれないのに」

「いや千聖はとりあえず味噌入れてから沸騰させるのやめような」

「うまみが~、ってなっちゃいますよ~?」

「なるほど」

 

 そこから始まり、蘭の話やモカの話、ヒナの話を聞いていく。するといつの間にか紗夜がきてみんないるならいると言ってくださいと盛大に拗ねられ、後で構ってやるからということろでひとまずは落ち着いたところだった。

 ──その様子を間近で見ていた結良がポツリとこぼした。

 

「カズくん先生は、どこにいてもカズくん先生だね」

「そりゃあな。オレは割と素のままいさせてもらってるからな」

「そっか、素なんだね……そっか」

 

 なんだその意味深な言葉と安堵したような顔は。今のリアクションがもう答えだろ、と言いかけてやめた。別にここで結良の真意とか想いとか、そういう青春のごちゃごちゃした感情を暴いたってオレも結良も痛ぇだけだ。けど、こんな風によそよそしい結良ってのは、なんだか昔を思い出すな。出逢ったばかりのことを。

 

「わ、忘れてよ……先生はいじわるだ」

「生憎、よっぽど嫌なことじゃなきゃそうそう忘れねぇもんでな」

「だからクラスでも、実は女誑しとかって噂が立つんだよ」

「……そんな噂が」

 

 否定できねぇのが悔しいな。オレの現状の女性関係を世間的に分析すれば女誑し、っつう言葉すらマイルドに感じるだろうし、女の敵だと軽蔑されてもおかしくはねぇ。

 その点、結良は知ってもいいっつうオーラがあったからな。信頼に足る生徒だし。なによりたった独りになってもずっと天文部の活動を続けてくれてたようなヤツだからな。

 そんな結良がココに来た目的は多分二つ。ヒナの返事から逆算すると、教師と生徒として大事なのは、その二つ目の理由だ。結良は、雑談が途切れたところで、意を決したように打ち明けてくれた。

 

「ねぇ先生? わたしね、大学行こうか、迷ってるんだ」

「……そうか」

「先生ゆってたもん。自分のやりてぇことにまっすぐな方が、フツーを意識するよりも案外うまくいくんじゃねぇのって」

「結良にとってそれは、進学じゃねぇってことだな」

 

 三者面談では絶対に口に出さずに、模試の判定は上々だから、このまま勉強を続けていれば志望校に入るのは難しくねぇっつうことだけを、オレも親御さんに伝えた。けど、結良の望みはソレじゃねぇ。結良の望みはあんまりにもフツーからはかけ離れてるからだ。

 

「でもさ、就職でもないんだよ。わたしは世界中を旅してみたい。世界の色んなところで星を観たい。オーロラとか南半球の星とか、見たことのない星空をこの目で見てみたい」

「世界中を、か」

「うん、変だよねこんなの。絶対にパパとかママには、反対される」

 

 そりゃそうだ。青春の妄想だと思うさ。一過性の流行り病みてぇなもんで、ちゃんと大学に行って、就職して、結婚して、子どもを産んで、そうやって順を踏んでいく方が幸せだって、思うのが当然だ。教師としても、そっちに誘導してやんのが、正しさだろうな。正解がどっちかなんて自問するまでもねぇし、それは結良もわかってる。

 

「なんだそれ」

「……あ、あはは、だよね」

()()()()()()()()()()()()()()()

「……へ?」

 

 だからオレは間違えるんだ。敢えて見えてる正解よりも一寸先も見えねぇ暗夜の先にある夢を、オレは面白そうだって感じるんだからな。

 そもそも土曜日の、今のオレは教師を休憩中だしココは進路相談室でもなんでもなくオレの家。何言っても自由で、職務じゃなくて興味で語るのは間違いですらねぇんだけどな。

 

「やっぱ結良は最高に面白いな。いいじゃねぇか。めちゃくちゃイイカメラでも買ってさ、みんながその写真に思わず息を呑んで見惚れる景色をお前は、肉眼で、独り占めできるんだからな」

「……先生、わたし……」

 

 夢を嗤うヤツを、オレは信じねぇ。夢は必ず叶うと謳うヤツを、オレは信じねぇ。オレが信じるのはバカみてぇに大きな夢を叶わないかもしれねぇとわかっていながらも、その夢にキラキラと瞳に星空を浮かべるようなヤツだ。

 現実を見るのなんてな、そんなの大人になってからでいいんだよ。青春を生きるお前に現実なんて見えてなくていい。現実的にだとかそんな言葉で諦めちまう、それはクレバーじゃなくて、斜に構えてるっつうんだよ。

 

「でも、こんなの……叶うわけ」

「なんでだ?」

「へ? なんでって……お金とか、イロイロあるじゃん」

「バカだな。なんでやってもねぇのに叶わねぇってわかるんだよ、なぁこころ?」

「ええそうね! ()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 ピカピカの太陽サマなら間違いなくそうやって言い出すだろうと思ってたよ。なにせオレの幸せに尽力してくれたヤツだからな。それに続いて、結良のでっけぇ夢を知った住人はそれぞれの反応を示す。

 蘭は、いいんじゃない? と微笑んだ。自分のやりたいことに目いっぱい手を広げた蘭華は、端的に結良の夢を後押しした。

 ヒナは、あたしも一緒に行きたい! と目を輝かせた。星を観ることが好きなお気楽天才肌の向日葵は、結良の夢が一人のものじゃねぇってことを言葉にした。

 モカは、せーしゅんですな~、と笑った。かつて停滞を望んだ雪柳は、前に進もうとする結良を眩しそうに見つめていた。

 千聖は、いいわねそういうの、と素の笑顔を見せた。ありのままの自分に苦しんだ鷺草は、結良のありのままを認めていた。

 紗夜は、どうすればいいのでしょうか、と顔をしかめた。正しさを突き詰めていた青薔薇は、結良の間違いを間違いでなく正解にしようと思案していた。

 リサは、アタシにも手伝わせてよと頼もしい言葉を向けた。お節介で自分の幸せを見つけられなかった緋色の椿は、迷うことなく結良に手を差し伸べた。

 

「な? これがオレの生徒たちだ。オレが選べなかった、最高のヤツらだ」

「……うん。すごいね」

 

 世界の星、という言葉にこころが興味を示し、ヒナと結良が説明していく。見る場所によって星空は違う、ということにこころはすごいわ! と興味が惹かれたようで……あ、やべぇ。これはアレだな、結良捕まったな。

 

「それなら、あたしと同じ大学に入ったらいいわ! ヒナは卒業してしまうけれど、一年でできるだけ、世界中の星空を観に行きましょう?」

「え、い、いいの? お金とかそういうのは?」

「あたしに任せてちょうだい!」

 

 まぁ、そうなるよな。あたしもー、とヒナが手を上げ、全員が苦笑いをする。お前は今の芸能事務所に残るんだろうが、またとやかく言われるからな絶対に。

 けど、雰囲気は暖かくて、まぁいいか、という感じだった。

 

「こんな簡単でいいんだ。わたしの夢って、あっさり叶っちゃって、いいんだ……」

「そりゃそうだろ。だってこころだからな」

「こころん先輩だもんね……あ、じゃあさ、こころん先輩、もう一つの夢も叶えちゃっていいかな?」

「なにかしら? あたしにできることなら!」

 

 結良はそうやってこころに耳打ちした。おいおい気になるんだけどなんだその面白いことを思いついた、みてぇな表情は。その言葉にこころはぱっと笑顔を咲かせて、いいわね! と肯定した。え、もう叶ったの? 

 

「うん」

「それじゃあ、準備しておくわね!」

「お願いします!」

 

 なんだかイヤな予感と蘭が呟き、モカは黙々と食事を摂っていてさしたる興味はないようで、ヒナはどんなことだったのか予想できたようで楽しそうだ。紗夜と千聖、リサは、顔を見合わせて、また大変になりそうだと話し合っていた。

 ──それがわたしもハーレムに入れてね、と結良がココに引っ越してくる、という相談だったのを知るのは、少し先のことだった。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 ──さて、と一日を振り返るようにオレは屋上でタバコを吸いながら星を観ていた。結良が来ることになって、ココはますます大騒ぎだ。でも結良が言った高校卒業したらもう我慢しないからというのは、やっぱりそういうイミなんだよな。そして、それがまた新しい幸せを呼ぶのも。

 

「さて、もういいかしら?」

「もうちょい余韻に浸らせてくれてもいいんじゃねぇの?」

「ダメよ。もうそろそろ、時間切れだもの」

 

 後ろにやってきたこころとそんな会話をしていく。自然に、思い出した。多分こころはちゃんとそういう機能を付けてくれてたんだろうな。記憶が残ってたら、面倒なことになるから。それにしても、ココは甘すぎるな。ざっと思い出すだけで、腰が痛くなりそうだ。

 

「それだけ、未練があったのよ」

「……そうだな」

 

 未練がもしもの世界を開く、今までのがアイツらの未練だったとしたらこれはオレの未練か? バカらしいな、オレが心の奥底でこんな浅ましい未練を持ってたとはな。

 けど、満足して、消滅しようとしてる。作り上げた砂の城のように、あっけなく正に一夜の幻のように。

 

「幸せだったかしら?」

「ふざけてるくれぇにな」

 

 オレはそれが幸せじゃねぇとは言えねぇ。だって、めちゃくちゃ幸せなもしもを体験しちまったから。ヒナとバカみてぇに言い争って、結婚する未来も、千聖がオレに必要なもんを分けてくれる未来も、紗夜が厳しくも優しく、オレの欲しいものを引き出してくれる未来も、モカが痛い想いをしてでも、オレに大事なことを思い出させてくれる未来も、蘭と甘く、どこまでも一緒にいる未来も、全部がオレの幸せだった。こころやリサとの未来も、そうだ。今だって、めちゃくちゃ幸せだったさ。

 

「だから、一成は幸せになるための道、もう見えたでしょ?」

「今からでも遅くないよー、あたしと一緒に幸せになる?」

「それとも、こうやってハーレムでも作りますか?」

「ふふ、まだ幸せになる道はたくさんあるわよ?」

「せんせーの好きにしていーんだよ~?」

 

 やり直せるのか。まだやり直せるんだったら、オレはこころのおかげで、そしてお前らのおかげで気づけたことがある。自分もちゃんと幸せにならなきゃいけねぇってことにな。 ありがとう、最高の生徒たち。オレは、お前らといられて幸せだった。だから今度こそ、オレが幸せになっていくのを見守っていてほしい。

 ──そんな宣言を最後に、オレは、オレたちは夢から目覚めていく。全ての未練を消化して、全ての幸せをしゃぶりつくして、新しい朝を、本当の朝を迎えるために。

 




――選べないんだったらルールを創る側になりたかった。これが一成の本音だったということですね。みっともなく弦巻こころを頼ることができたら、彼女たちと創る明日があれば、もしかしたらこうなっていたのかもしれない、と。

そして明日は最終話が投稿されますので、どうぞお楽しみに!
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