青春ガールズロックと黄昏ティーチャー。   作:黒マメファナ

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大団円!


エピローグA:蒲公英ネバーフューチャー

 出逢い、なんてそんな劇的なものはなかった。ヒナちゃん先輩のようにキスとタバコで始まったりもしなかったし、蘭ちゃん先輩みたいにきれいな黄昏の中、特別授業を受けたわけでもなかった。

 ましてや、モカちゃん先輩みたいに中高連携で特別な思い出になる言葉はなかったし、そもそも来てなかったっけ。ちーちゃん先輩や紗夜ちゃん先輩みたいに、救われたわけでもなかった。なんでもない、ただ純粋に天文部に入部したらいた、ってそれだけ。むしろ天文部に出逢ったきっかけの方が劇的だよ。

 

「キレイ、演奏カッコいい、すごい……!」

 

 中学一年生の時、高等部の文化祭でヒナちゃん先輩がやっていたプロジェクションマッピングで映し出された満天の星空に魅せられた、ヒナちゃん先輩の演奏に魅せられた。それまでは夜になっても空なんて見上げもしなかったのに、わたしは天体の虜になった。星座の物語、ロマンチックなものからちょっと怖いもの、悲しいもの、色々あって、きっと昔のヒトも、この星を見上げて、色んな想像をしたんだな、って思えた。だから、わたしは高等部に進学して迷うことなく、天文部に入った。

 

「ども」

「あ……初めまして」

 

 そこには三年生の先輩が一人いて、後輩ができてよかったな、と笑う顧問の先生がいた。それはわたしのクラスの担任で、高等部に姉のいたヒトはあんまりいい噂を聞かないヒトだって言ってたヒト。

 ──わたしがどうしようもなく好きになる、清瀬一成先生との、初対面だった。

 

「わぁ、ハルちゃん、後輩だね!」

「そうですね、これでヒナ先輩のプレッシャーに胃を痛めることもなくなったわけですね」

「あはは~、そんなに追い詰めてないよ~?」

「……ぜったいうそだ」

 

 ハルちゃん先輩……澤田千晴先輩は、元々は宇田川あこ先輩の知り合いでダンス部にしようと思ってたんだって、そこをリサちー先輩とヒナちゃん先輩、モカちゃん先輩で共謀して、天文部に入れたらしい。ただ、そのせいかハルちゃん先輩はもっぱら天文部に持ち込んでたパソコンでゲームばっかり。わたしとしてはちょっと退屈だった。

 

「おい澤田、活動報告は?」

「まだです」

「まだですって、手つけてねぇだろ」

「イベント中ですので」

「この野郎……」

 

 カズくん先生のことも、さっきの噂を知っていて、あんまり近づこうとはしなかった。かくいうわたしも、清瀬先生に不用意に近づくと大変なことになるから、と念を押された。今思えば、天文部に来るちーちゃん先輩とか紗夜ちゃん先輩とかといい雰囲気出してるのに、噂をただの噂、なんて思うわけないよね。

 

「わたし、もう生徒会に提出しましたよ?」

「え、マジか」

「マジです」

「おお、澤田よりも頼りになるヤツだな、音羽は」

 

 けど、わたしはわたしの居場所を手に入れて、ヒナちゃん先輩たちと天体観測に出かけることを選んだ。三年ぶりに会った先輩はますますキレイになってて、そんなヒトに先生は意味ありげな言葉をかけて、少しだけ寂しそうにする。不思議な関係だなって思った。

 

「カズくん先生」

「おう、ってなんだその呼び方は」

「ヒナちゃん先輩がカズくんって呼んであげると喜ぶよって」

「いらんことを吹き込んだな、バカヒナめ……でも、結局は先生をつけちまうんだな」

「先生ですからね?」

「そっか。んじゃあ、オレは結良って呼んでも?」

「よろしくてよ」

「なんだそれ」

「ふふ、カズくん先生は面白くて、なんか退屈しなさそうだなぁ」

 

 そんな気持ちが恋に変わったのはハルちゃん先輩が卒業した次の年の夏、つい半年くらい前のことだった。

 二年生になったわたしは、一人の部員としてこころん先輩とヒナちゃん先輩に振り回され続けた。そこで沢山恋のハナシも聞いて、わたしもカズくん先生に感じてる気持ちが、ヒナちゃん先輩とおんなじだって気づいて、始まった恋だった。

 

「カズくんはね選んでくれなかったんだ。急かしすぎちゃって、結局、あたしにもカレシができちゃって……」

「ヒナちゃん先輩は、カレシさんのこと好きじゃないの?」

「浮気のつもりだったんだ。カズくんが振り向いてくれないなら、嫉妬してほしいって思って。よかったな、なんて言われちゃったけど」

 

 あ、今はちゃんと好きだよ。優しいし、どこかカズくんみたいなトコもあるから、と笑うヒナちゃん先輩の眼は、やっぱり先生のことばっかり追ってて、未練があることなんて訊かなくてもわかっちゃった。

 蘭ちゃん先輩とモカちゃん先輩たちには会えなくて、紗夜ちゃん先輩にはついこの間初めましてで、その先輩たちとも、なんだか言い方がおかしいけど夢の中で出会ってすごく仲良くなれた。それもこころん先輩があなたは先生にとって大事なヒトだからってあの未練の世界に連れてってくれたから。

 

「……結良ちゃん?」

「なに?」

「ふふ、ここ数年知り合って、わかったわ。こころちゃんがあなたを連れてきた理由」

「そ、そうかな?」

「そうよ。そうやってどこの世界でも一成さんの生徒でいてあげてね。あなたは私たちと一成さんに足りなかったものを繋いでくれる、橋なのだから」

 

 ちーちゃん先輩にはそんなことを言われた。先輩と先生が恋人の世界ではちーちゃん先輩はわたしにとってお洒落とかを教えてくれるお姉ちゃんみたいな先輩だった。いっぱい甘えたし、ちーちゃん先輩も甘やかしてくれた。大好きになった。あとちーちゃん先輩はいつも、わたしにまだ出逢ってない先輩のことも教えてくれた。

 

「きっと、音羽さんがいなければ、私はあのヒトに大切なことを伝えられなかったわ、ありがとう」

「ううん。紗夜ちゃん先輩の未練なんだから、先輩が一番、幸せにならないとね」

「……なら、私はいつかの未来に、音羽さんが幸せであることを願っているわ」

 

 紗夜ちゃん先輩はカッコいいヒトだった。クールビューティーで、でもカズくん先生のことが絡むとかわいくなる。だから先生と恋人の世界でわたしは未練が解消されたヒナちゃん先輩と共謀して先生と先輩に足らないものを教えた。それと同時に、紗夜ちゃん先輩の不器用なところがどうしようもなく好きになれた。

 

「ゆーたん、元の世界に帰っても友達になろーね」

「うん。そのためにはまず天文部に来てね!」

「りょーか~い、ふふ……」

 

 モカちゃん先輩は最初、すごく敵視してきて、怖かったけど、それを元の世界じゃなくて先生と恋人の世界で解消できたのはすごく助かった。実は、あまりにも拗れすぎてた二人が仲違いしたせいでみんなが焦ってたんだけど。なんとかちーちゃん先輩が口を出して止めてくれたんだって。あのセリフはあまりにグレーだったわ、と苦笑いをしてた。

 

「何年もあったのに、こんな風にゆっくり、結良とあんまりちゃんとしゃべれなかったね」

「まぁ、こころん先輩とヒナちゃん先輩がすぐ絡んでくるからね」

「ふふ、あの二人はすっかり結良のことが気に入ってるよね」

「楽しいから、わたしも好きだよ。もちろん、蘭ちゃん先輩も!」

「……う、うん、ありがと……なんか、その言い方、ちょっと一成っぽい」

 

 蘭ちゃん先輩はすごく沢山のことを話せた。いつも天文部に遊びに来てくれたし、というかここの時点ではもうみんなそれぞれ未練が解消されて楽しそうに笑ってた。お互いの文句とか言い合って、それが本当にみんなが望んでたことだったんだな、ってすぐわかった。みんな一緒にいられなかったこと、それもみんなの未練だったんだって。

 

「アタシって、ホントバカだなー」

「リサちー先輩」

「アタシのことあんなにしっかり見てくれるヒト、ちゃんと近くにいたのに……あはは」

「いるんだよ。カズくん先生はまだいるから……だから」

「うん、そうだよね……ありがと、ゆーら」

 

 リサちー先輩とは前から関わっていたけど、あんな苦しい恋をしていたなんて知らくて、未練の世界で先生に教えてもらった。あんなに幸せになれたことにびっくりしてるのはたぶんリサちー先輩が一番なんだろうなって、みんなはそんなリサちー先輩の肩を叩くような感覚だったことをよく覚えてる。

 そんな風に、わたしは恋人たちと先生の橋であり、幸せになっていく姿を見る係だった。でもハーレムの時にやっと言えた。わたしも仲間に入れてほしいって。

 ──それをカズくん先生は、どう捉えたのかな。そうドキドキしながら、わたしとカズくん先生の、みんなの本当の夜明けが、やってきた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 戻ってきた。戻ってきちまった。現実の朝に戻ってきちまった。とはいえ音沙汰がなかった蘭やモカからはまるで昨日までの方が夢だったかのように連絡がきて。成人式の打ち上げでもロクに話さずに帰っちまったからな。特にその場にいなかったモカとはゆっくり話したいところだな。

 

「すげぇな、こころって」

 

 夢の出来事とはいえ結婚してみてわかった。アイツは笑顔のためのプロセスを弾き出す天才だ。大がかりなこのまるで数年っつうか実際数年かかってるんだけど数年に感じる一夜で、オレたちのギクシャクしちまってたもんも、全部とっぱらって、笑顔に変えやがったんだからな。

 ──けど、今日のヒロインは蘭でも、ヒナでも、モカでも、千聖でも、紗夜でも、ましてやこころやリサでもねぇ。

 オレを天文部で待ってくれてる、アイツが、今日のメインヒロインだ。

 

「あ、先生」

「よう、結良。ちょっと遅くなった」

「ううん、わたしも今来たとこだよー」

 

 音羽結良。どこの世界でも常に生徒として、オレに惚れた一人として、みんなと縁を繋いできたヤツ。変わらねぇんだ、コイツだけは、どこにいても。お気楽で、面白いことが好きで、オレの恋人になったヤツとも良好な関係を結んで、オレのことが好きで、ヒナやこころに振り回されるところもあって……オレは、いかに結良が大切な存在なのかを、教えられた。

 

「……ねぇ、先生。屋上行かない?」

「屋上? 一服吸ってもいいなら」

()()()()()()()()()、先生の思い出の場所なんだもん。話すならソコがいいよ」

「……そっか。そうだったな」

 

 久しぶりに吸うからお前に見せたことは、あるけどなかったハズだけどな。それに、お前に屋上のことを話した記憶は、あるけどないんだよな。なんか変な感覚で、余計にあれがただの夢じゃねぇってことを思い知らされる。

 

「……まだ、黄昏には早いね」

「そりゃな……さて、んじゃあ、なにから話そうか」

「うーん。あ、そうだ。モカちゃん先輩から連絡来たよ。今度遊びに来るから、初めましてだけどよろしくね、ゆーたん、だって……ふふ」

「よくよく考えると変な言葉だな」

「ホントに」

 

 そっか。結良はオレの生徒たちにほとんど会ったことがねぇのか。ヒナとリサは前から知り合いだったけど、紗夜と千聖とは一度きり、こころとも夏休みにちらっと顔を合わせただけ、残りは会ったことすらなかったんだな。

 それが、もうすっかり顔馴染みみてぇだな。一夜にして、結良はアイツらにも受け入れられたってわけか。

 

「……わたしの夢、あれ、ホントだよ?」

「旅してぇってヤツか」

「うん。進学とか就職とか考えないなら、今すぐ、どこかに飛び出して星をみたいんだ……でも、今は大学かな? こころん先輩に誘われちゃったし」

「……じゃあ、もう一つの方は?」

「……ホントだよ。先生に、生徒ってだけじゃなくて大切なヒトになりたいのも、ホントの夢なんだ」

 

 そうか。やっぱり、そうなんだな。知らず知らずのうちに、オレは結良を堕としてたってわけだ。ヒナたちみてぇに劇的な何かがあるわけじゃなくて、一緒にいた時間を大切にしてくれた結果、結良はアイツらと同じ感情を手に入れた。

 多分、昨日までのオレなら逃げちまうんだろうな。オレは生徒としてお前を大切にしてきたんだ、って。けど、そんな言葉で片づけられるほど浅い気持ちじゃねぇことも、それが結良のためでもなんでもねぇことも、今のオレは知ってるんだ。散々、アイツらに教えてもらったからな。

 

「なぁ、結良。あの後、お前が引っ越してきた後さ、オレはお前になんて言うと思う?」

「え……うーん……そうだなぁ。あ、なんとなくわかっちゃったかも」

「お、なら言ってみろ」

「えーっとね、ココに引っ越してくるのを認めたってことは、答えは一つだろ、ってとこかな?」

「だいたい合ってるな」

「わーい」

 

 オレが用意してたのは、引っ越してくるんだから、お前の想いは認めてるってことだから安心しろ、っつうまぁ意味はなんにも変わらねぇ言葉だな。結良の予想したオレのセリフはめちゃくちゃカッコつけてるオレじゃねぇか、わざとか。

 それはさておき、その意味は、あのハーレムがねぇ今だと、別の意味を持つ。それを結良はわかってるんだろうか。

 

「なぁ、結良」

「うん?」

「……カッコつけても、いいか? 素じゃ言えそうにもなさそうだ」

「ぷっ、ダサ」

「てめぇ」

「ジョーダンだよ、ほらほらいいからさ、とびきりカッコつけてみて?」

 

 結良に促されて息を大きく吸った。慣れねぇな。何人に告白したのか、わかんねぇけど、慣れるもんじゃねぇ。けど、これで今の黄昏ティーチャー以外の何かに、誰かの一番に成れるんなら、オレはオレのロックを奏でるよ。

 

「沢山見てきた、そのどれでもねぇ未来を、一緒に見てくれねぇか。これからも、ずっと、恋人として」

「……はい。これでやっと、カズくんって呼べるね……えへへ」

「学校では先生つけろよ。ちゃんと」

「はーい、先生」

 

 音羽結良は、言うならタンポポだ。一輪花として咲く逞しい花だけど、それはつまりは雑草だ。アイツらのような見目麗しい花たちとは違って店にも売られてねぇし、路傍に咲いて、踏まれて、注目されずに一生を終える、悲しい花だ。

 こころはそんな日陰に咲いていたタンポポに太陽を当てて、気づかせてくれた。大輪の花を枯らしてしまったオレに、最後に残った花があることを。

 これから、結良はオレの生徒たちとまた一から関わっていくんだろうな。モカと近くのおいしいもの探しをして、千聖にメイクやファッションの流行なんてものを教えてもらって、紗夜にため息をつかれつつも構われて、蘭と花のハナシを、ヒナと星のハナシをするんだろう。

 離れていったアイツらを、結良が、また結んでくれる。今度こそ、最良の幸せに。教師としても、一人の男としても、足りないものを埋めたオレにふわふわと幸せを届けてくれる。

 

「わたしのこと、ホントにちゃんと好き?」

「ん? バーカ、愛してるに決まってんだろ?」

「あっ、あい……そ、ソデスカ……」

「わかりやすく真っ赤になってるけどな」

「ゆ、ゆーやけのせいだもん」

 

 あれだけ未来を見て、幸せをしゃぶりつくしたオレにも、この先がどうなるかなんてわからねぇ。結良との未来は、未練がねぇせいで見れなかったからな。だけど、だからこそ楽しみだ。これからの毎日が、これからの明日が。きっとめんどくさいことも多いだろう。アイツらは未練を昇華されたものの、オレへの気持ちが宙ぶらりんだったっつう過去はかわらねぇんだから。きっとそれに対してまた奔走していく日々が始まりそうな気がしてならねぇしな。でもオレには明日があるんだ。もう、それを信じるに足るヤツが傍にいるんだからな。

 

「とりあえず今週末デートしよ、隣県にある夢の国」

「初デートがえらく金がかかりそうな場所だな」

「いやぁ、カレシとキャラクターの耳つけて回ってみたかったんだよねぇ、わたしの小さな夢」

「夢多いんだよお前」

「夢見る青春ドリーマーですから~」

 

 はいはい。それならお前の青春に思う夢をどんな手を使ってでも叶えさせてもらいますよ。叶えて、そんで、どうせ最後の夢はアレだろ? ウェディングドレスって言いだすんだろ? そう言うと結良はにひ、といたずらっぽく笑った。

 

「着せてくれるの?」

「卒業したらな」

「やった、約束ね!」

 

 別にタキシードがオレじゃなくてもいい、なんて言うつもりはもうねぇからな。アイツらに祝福してもらいながら、お前とこの手を繋いでった方が、ちゃんと幸せだからな。だから、これからもよろしくな、結良。

 そして、オレの大事な生徒たち。オレが傷つけちまったアイツらとも、これからも笑い合っていくんだ。未練のない幸せな人生を、これからも。

 ──また、明日も過ごしていけると信じてるから。

 




 こうして、未練を昇華したクズは最良の縁を結んでいくのでしょう。めでたしめでたしというわけです!
 ここまで読了していただいたかたありがとうございました! ハッキリ言って加筆するだけでも相当な労力になってしまったのですが、見事ここまでたどり着きました。
 ろくにバンドリ要素も出せずにではありますが最早ストーリーだけでこれたことすら奇跡と言っても過言ではないでしょうか。いやこれはあまりに自信過剰ですね。
 ルール破りのエピローグ、というか旧題のアナザーエンディングをくっつけたことは所感として大きな挑戦だったかと思います。
 うわ、この作者やったわとか思わないでいてくださるととてもありがたいのですが、やはりオリキャラとくっつけるのはどうなのかなと今でも感じています。
 と、まぁグチグチ言っても仕方ないですね、終わったことをひとまずは喜びつつ、次はどうしようかなぁと考えている次第です。
 アナザーエンディングの続きだった「黄昏ティーチャーと夢見る青春ドリーマー」と設定が矛盾してるのですが、それもおいおい直していこうかなぁと。とりあえずはあのまま出しておきますが。
 ルート違いとか、イフルートとか、色々書いてて長く続けていくとふと思いますよね。
 よく、エタらないなぁと。それでは、またお会いしましょう!


――本醸醤油味の黒豆。
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