青春ガールズロックと黄昏ティーチャー。   作:黒マメファナ

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大団円! よくぞここまで辿り着きました!


エピローグB:太陽ハッピーメイカー

 未練の世界、終わりの瞬間に、あたしは羽丘学園の屋上にいた。昇華されたあたしの未練は、すごくすごく幸せで、思わず切なくなるくらいのものだった。もしも一成がプロポーズを受けてくれたら、あんな風に甘くて幸せな家庭が待っていたことを知った。知ってしまった。

 

「これは、失敗ね……一成が気づいていなければいいけれど」

 

 一成がみんなの未練を通じて、自分には足らないものがあったことを知ってもらう。それは成功したわ。大成功して、彼にクズ教師としての過去が決して今の教師の幸せに干渉しないことを教えることができた。けれど想定外だったことが一つだけあった。

 ──()()()()()()()()()()。先生としてではない、一人の男性としての一成があたしたちにくれる幸せは、あまりにも大きすぎた。

 

「ん、そうだね……あたしもそう思う」

「日菜」

「そっかぁってなるよね。あたしたちがもっともっと、大好きだーって言えて、自分のためじゃなくてカズくんのために頑張れたら、あんな風に愛してもらえたなんて知ったら」

 

 そうね、そうよね。その言葉に応えるようにあたしの周りには一成が愛してきた人たちがそこに集まっていた。蘭もモカも、紗夜も千聖も、リサまでみんな同じ顔をする。ごめんなさい、あたしみんなを笑顔にできなかったわ。

 

「ううん、こころんは……あたしたちを笑顔にできてる」

「うん、これはもうしょうがないことなんだよ」

「そんな、そんなこと……そんなことを認めていたらダメなのよ」

 

 今のみんなの表情を笑顔だわ! だなんて無邪気に喜ぶことは、とてもできない。未練を昇華するのだと息巻いてみんなを巻き込んでしまったのに、後悔が残ってしまうなんて考えてもなかった。後悔は笑顔を奪うものだわ、ああしていれば、こうしていれば、そんなもしもがこんな幸せだったなんて。

 

「一成さんらしいけれど」

「ええ、とっても」

「……本当に、バカなんだから」

「アタシ、センセーのこと好きだったんだなぁって思い知らされちゃった。あんなに、愛してくれるかもしれなかったってことも」

「でも、人生は後悔の連続なのだから」

「おねーちゃんのゆー通りだよ。カズくんを責めるのは禁止!」

「わかってま~す」

「アタシも、そう思います。一成を傷付けるのはナシにした方がいい」

 

 だけど半年経ったら、きちんと各々でこの後悔をすっきりさせよう。そういう予定を立てた。結良との関係が始まって落ち着くまでの間は待ってあげて、それからは感情のままにしてもいいという約束をした。全員がそれに頷いて、あたしの世界は眠りについた。

 

「……おはよう、今日も世界を笑顔に」

 

 ──そして来るのは目覚めの時。長い長い夜が明けた本当の朝、あたしは大学には行かずに少しだけ散歩をしようと日菜に断りの連絡をした。今日はどうしようかしら、そんな風にのんびりと考えていると一成から、先生から連絡がきた。()()()()()()()()()()()()というものでなにかしらと首を傾げながらあたしは気分が向いた場所へと足を運んだ。

 短いようで、とっても長い半年という間、みんなが壊れてしまわないようにしないと。特にモカや千聖、リサは脆いところがあるから一成と結良の幸せを邪魔しちゃわないようにしないと。

 

「あら、美咲!」

「こころ、ってなんでここにいんの?」

「散歩してたの、美咲は?」

「あたしはお昼からだし」

 

 考え事をしながら散歩をしていたら、いつの間にか美咲のおうちの前に来ていたみたい。ということはと期待に目を輝かせていたのがバレたのか、ちょっとだけヤキモチ妬いたような顔をした美咲に仕事行ったからいませーんと言われてしまった。

 

「言い方がいじわるだわ!」

「自分の好きなヒトに会えないからってヒトのカレシで穴埋めようってこころの方がよっぽど意地が悪い気がするんですけど」

「そういうんじゃ……ないわ」

 

 彼の言葉はあったかくて、今のあたしの笑顔の源になってくれるだけ。でもそれが嫌なのと美咲は手でバッテンを作った。そう、そうよね。きっとそうしたら、結良にも同じような顔をされてしまうわね、あたしは。

 

「らしくないこと考えてる顔だね」

「らしくない、そうかしら?」

「そ、らしくない。こころはさ、ヒトを笑顔にする時いっつもどういう顔してるのか忘れてる」

「……どういう顔?」

「まずはこころが笑ってないと。笑顔はあげるもの、でしょ?」

 

 美咲はそんな風に優しく笑ってくれて、その顔につられたようにあたしも思わず笑みがこぼれて、あたしはあたしを取り戻した。会えないかって言われてらしくなく不安になってしまっていたみたい! そうよね、なにごともポジティブに考えないと!

 

「それでこそあたしたちのリーダーだ」

「ええ! それじゃあ彼やお姉さんによろしくね!」

「ん、伝えとく。ウチのお姉ちゃんは会えなくて悔しがるだろーけど」

 

 やっぱり笑顔のパワーはすごい! 笑顔を忘れてしまったあたしを、笑顔にするってどういうことなのか忘れちゃったあたしを一瞬で、元に戻してしまったのだもの! 晴れることがあって、曇ることがあって、時々は雨も降る。だからこそあたしはみーんなにとっての太陽で、笑顔を与える存在でいたい。だっていつだってあのヒトは、あたしのことをピカピカの太陽サマって言っていたから! 

 ──あたしは足取り軽やかに次の笑顔をあげるために歩き始めた。終着点は羽丘学園になるように、色んなところで笑顔をあげて、笑顔をもらうために。そうしたらきっと一成に会う頃には素敵な笑顔を彼に見せてあげられるから! 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 放課後になり階段を上がっていつもの扉を開ける。そこにはもう先客がいて、オレは屋上でゆらゆらと金色の光を揺らす太陽サマに声を掛けた。振り返りながら光があふれるような顔でその太陽サマ、弦巻こころは至極自慢げにどうだったかしら! と一夜の夢にしてはボリューム満載だったオレをハメよう計画の感想を訊ねてきた。

 

「寝起きが悪くてしょうがなかったよ。大切な部分しか残らねぇっつっても、何回だ? わかんねぇくれぇ人生歩まされたんだからな」

「でも、その分自分がいかに逃げたかは理解できたでしょう?」

「そりゃあもう。オレってヤツはどうしようもねぇ男だよ」

 

 ああでもまだ終わりじゃねぇよな。オレが間違え続けた過去はまだ終わってねぇ。もしものアイツらを幸せにできたからこそ、現在のアイツらのこともきちんと幸せにしてやらなきゃならねぇ。未練は解消されたけど、オレにはまだまだやることがあるからな。

 

「そうね、それを……これから一成はあの子と手を取っていくのね」

「あの子? 結良のことか」

「ええ!」

 

 そういや結良の存在もこころには織り込み済みだったんだな。そうか、ようやくお前の計画の全貌がわかった。未練を解消して、オレがダメダメだってことを突き付けた上でそれを今引き継いでいる結良に託す。オレが結良を幸せにしてそれでハッピーエンドってところか。なるほどスゲーなお前は。それでお前の完全勝利ってわけか。

 ──ふざけんな。そこまで思い通りになると思うなよ。オレはお前が描いたもう一つの結末ってヤツに泥を塗りつけるために来たんだよ。

 

「……どういうこと?」

「これはオレとお前の勝負だろ? それを忘れてねぇんだよこれが」

「ええ、だけどこれは」

 

 そう、だけどこれは本来なら勝負にすらならねぇ勝負。オレが油断したことによってこころが必勝のパターンを持っていた勝負でもあった。当然オレは必ず負ける。そう仕組まれてるからな。残念なことにレフェリーはおらず明確な反則もねぇから、オレは負けてこころが勝ち逃げをする。そういうシナリオだった。そう、()()()()()()()()()()()んだよ。

 

「まだわかんねぇのかこころ」

「え、ええ……一成は、ここから逆転しようというの?」

「おう、まだ必殺の一手は残ってたんでな」

 

 お前はきっと想定してなかったんだろ。ありゃいくらなんでも()()()()()。何回も何回もしゃぶりつくしたオレですら、逃げずにいればアイツらをちゃんと幸せにできたんだなぁって後悔しちまうくれぇにはな。それをアイツら、そしてお前も含めて後悔してねぇって考えるのはムシがよすぎるだろ? だからこそオレはそこに付け入らせてもらうことにしたよ。

 

「なぁこころ? 変なこと訊ねるが、結婚の予定とかあるか?」

「ないわ。まだあたしはあたしの全てを預けるヒトを、探している最中なの」

「だろうな。じゃなきゃあんな未練は残してかねぇよな」

「……え?」

 

 なんだよその今更気づきましたみたいなリアクションは。こころにしてはえらく察しが悪いな、体調崩してるってんならまた日を改めてもいいけどな。もう焦ったり急いだりはしねぇよ。オレは、失ってたもん全部取り戻したんだからな。

 

「オレはさ、意地っ張りで不安を吐露できねぇくれぇに強がりで、肝心なところで本心隠すバカで、寂しがりのクズで、大事なところで逃げグセのあるヤツで、明日も信じられねぇどうしようもねぇヤツだった」

「そうね、そうだったわ」

 

 けどそんなオレは何度も何度も幸せになる度にいなくなっていった。ヒナとの幸せが、千聖との幸せが、紗夜と、モカと、蘭とリサと、そしてこころ、お前との幸せを通してオレは本当の意味でのクズ教師で、誰かの明日のために、自分の明日のために全力になれる男になれるきっかけをくれた。そんなお前を、じゃあ今の生徒は結良だから結良とめでたしめでたしのハッピーエンドで捨てられるようなオレじゃねぇんだ。いや気付かねぇんなら別だけど、とにかくオレは気づいた。お前らの心残りってヤツにさ。

 

「──ってわけだ。もうわかるよな?」

「い、いいの……? だって、他にも」

「他? 弦巻こころに他はねぇだろ?」

「か、カッコ……つけるわね」

「じゃねぇと面と向かって言えなさそうなもんでな」

 

 こころの瞳が揺れる。悪い、随分と遠回りをしちまったけど、オレは決めた。あの未練の旅を続けて、ヒトを笑顔にする魔法ってもんがマジにあるんだって知ることができたからこそ、オレはその旅を続けてぇって思ったんだ。幸せに逃げるためじゃなくて、名前だけはいっちょまえだが、実のところは真っ暗な未来ってヤツを照らしてくれるお前の傍で、ずっと。

 

「オレを、世界を笑顔にする旅に、お前の人生の一員に加えてほしい。曇った時や雨が降った時にはオレがお前を支えてやるから」

「……かず、なり。あたしは……あたしは、ずっと」

「ああずっと、お前はずっと愛してくれてた。だからオレは、その分お前を抱きしめる。愛してるって言葉にし続けるから」

 

 そうずっとだ。まだまだ世界を笑顔にするってだけでなんにもできてなかった頃からずっと、お前はオレを愛してくれていた。具体的に何をしていくか道筋がわかってもずっと愛してくれていた。笑顔の魔法、お前が世界に向けて唱えるそれを、オレはこころ一人に唱えるよ。そうすりゃホラ、世界全部が笑顔だ。

 

「素敵ね、素敵な魔法だわ……だけど」

「ん? なにかダメか?」

「あなたも、笑顔の魔法を世界にも向けて。あたしだけじゃなくてその魔法で、一成に関わる全てのヒトを、笑顔にしてあげて」

「……ああ、そうする」

 

 言葉はそこまでだった。もう我慢の限界がきたようでこころはまるでオレに突進でもしてくるように首に腕を巻き付けて、オレの腕の中へと納まった。愛人関係とかなんとかふざけた関係を結んだ時から思ってたけど、ホントに温もりを感じるのが好きなヤツだ。だけど違いは、躊躇うことなく唇を重ねてきやがるってことだけかな。

 

「これから」

「ん?」

「これからいーっぱい、愛してるって伝えるわ!」

「じゃあオレはその数倍は愛してるって伝えるよ」

 

 こころが口にするこれから、という言葉はオレにとっては信じることができなかったはずの言葉たちだ。ずっと、これから、明日、未来、オレにはコイツらに裏切られた気がしてならねぇからな。だけどもう裏切られることもねぇだろう。なにせ今日から、そのこれからを照らしてくれるのはピカピカの太陽サマなんだから。

 ──なぁこころ。オレはどこまでもお前の傍で笑ってやるよ。海の果てでも宇宙でも、どこでだってオレとこころなら、無敵になれる気がするからな。

 

「これからデートしましょう!」

「急だな、どこに?」

「気の向くまま、あたしと一成の笑顔の源を探すのよ!」

「早速幸せ作りか、好きだなお前も」

「当然よ、あたしは太陽ハッピーメイカーなんだから!」

 

 そうかよ。じゃあオレはそんなお前のハッピーを創るとしますかね。誰かじゃなくて、誰でもねぇオレが弦巻こころにとっての一番のスマイルの素になれるように。あとはもしもの世界でできなかった盛大な結婚式とかもしてぇしな。よし、行先は決まったな。オレはお前と将来を誓う場所を探しに行きたいんだ。ついてきてくれるよな、こころ? 

 

 

 




――というわけで前話のあとがきに気づいてくれた方はありがとうございます、気付かなかった方は段落頭の文字を並べてみてください。
このルートは本来ないはずでした。そう前投稿は結良エンドで終わりなんですよね。でも、ここでこころをここまで活躍させておいて、そりゃないわと思ったので救済しました。リサは別の投稿でちゃんと救済してるんで。
というわけで本当にここで終わりです。終わり終わり詐欺を二回もしておいて何を言うかと思いますがマジでここで終わりですお疲れ様でした! あなたの人生に、少しでも読み物としての価値がありますように。それではまたどこかで。

――本醸醤油味の黒豆。
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