【完結】【自己ベスト記録】過ぎ去りし時を求めてSS~聖竜の勇者ルートRTA:24時間31分44秒22   作:ryure

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閑話 在りし日の幸福

「なぁー、そんなに楽しいか?」

「楽しいよ」

「ならいいけどよ」

 

 カンカン、カンカン。カンカンカンカン。

 アイがハンマーを振り下ろす度に聞こえる音はもうすっかり聞き慣れた。

 そうか、そんなに夢中になるくらい楽しいか。

 ならアイにやったのは正解だったんだろうな。

 やったときはまさかこんなにハマるとは思ってなかったがなあ。

 

 荷物を積んで、背中にもたれられるようにして、だらしなく寝転がりながらオレはアイの「不思議な鍛治」を眺めていた。

 今日もアイは熱心だ。

 他のやつらはめいめいその辺で自分のやりたいことをしている。

 オレはといえば、今日はやりたいことを何も思いつかなかったからだらけながらアイに絡んでいるだけだったが、耳には双子のくすくす笑い合う声や、マルティナがサンドバッグを蹴る音や、誰かが本のページをめくる音なんかが聞こえていた。

 

 おーおー、平和なことで。

 こんなに穏やかな時間はアイと仲間になるまで味わったこともねぇや。

 明日の飯の心配も要らない、魔物や夜盗に怯えることなくぐっすり眠れる、その上、世間やデルカダールはアイのことをろくに知りもしないで「悪魔の子」なんて呼ぶが、アイの行いは「世界に巣食う闇を払う」なんていう高尚なことだ。

 空に頂く聖竜の大樹にさえ胸張って、堂々としていられる尊い行いってやつだ。

 まったく、ただの盗賊上がりに対してここまで場を整えてくれるなんてありがたいことだ。

 

 伏せていた目をあげてアイを見る。

 オレたちの少年勇者は変わらず熱心にたくさんの装備品を作ることにご執心だった。

 

「何作ってんだ?」

「防具」

「誰の?」

「カミュの。出来たら次はベロニカ。全員分作るから心配しないで」

「おー」

 

 トントントン。

 カンカンカン。

 

 一定のリズムは眠気を誘う。

 割と大きい音だったし、鉄を打ちつけるそれは腹の底に響くものだが、人は慣れるものだ。

 

 アイは独り言のように、ちょっとばかしぼそぼそと喋る。

 聞き取れないくらい小さくはないが。

 自己主張控えめのオレの相棒はこっちから話しかけなきゃあんまり話しもしてくれなかったし、最初の最初は表情さえなかなか変わらないものだから、何を考えているかさえ分からなかったが、最近は緩和したようだ。

 

 まぁ相変わらずアイは無表情気味な人間だが、淡い紫の目は顔以上に鮮やかに表情を語る。

 こっちが慣れちまえば問題ない。

 とんでもない田舎の、奇跡のようなお人好しの村で、大事に大事に育てられ、魔物の襲撃で村長の娘を亡くしてからも、アイまでは失うものかと仕舞い込まれて可愛がられてきたという箱入り息子は素直だった。

 

 気性は穏やか、おっとり、その上見たことねえくらいお優しい。

 困った人間を見たら分け隔てなくまずは手を差し伸べる。

 そばで寄り添ってやる。

 一緒に涙を流せるような、そんなお綺麗な人間。

 その上亡国の王子サマと来たら物語の主人公としては完璧だろ。

 

 だが、救世の「勇者サマ」にしては優しすぎるが。

 ならオレたちがその分頑張ればいい。

 差し伸べる手に力が足りなければオレたちも一緒に手を伸ばす。

 アイが傷つきそうならそれを阻止する。

 それだけのことだ。

 だからうまく、回っている。

 

 そうさ、アイは薄汚い盗賊とは真逆の人間。

 預言者の言葉がなければ絶対に知り合いにすらならなかっただろう人種。

 なのにどうしてアイの隣はこんなに心地いいのだろう。

 他のやつらは……まあ、実際の生活まで恵まれていたとは言い難いところはあるが、いいところの生まれの、素晴らしく高貴な出の、お上品な人間だろう。

 オレがここにいるのは相応しくないのかもしれない。

 だけど、だけどアイはオレの相棒で。

 その違いない事実があれば、後ろ指をさされてもいい。

 だって盗賊は強欲だ。

 打算にまみれ、手を貸して。

 気づけば戻れなくなっていた。

 

 あわよくばマヤを救ってほしい、最初はそんな気持ちで手を貸したはずだったのになあ。

 藁にも縋る思いで。

 なのに気に入っちまったんだ。

 気づけば。

 預言者の手の上で転がされているのかもしれないが、それすらどうでもよかった。

 

「この前の戦いで、カミュ、気絶していたからもっと強い防具を作らないといけないよね……」

「ん?」

「この前は僕の見通しが甘かったんだよね、だから新しいの作るから、着てね?」

「おー……」

 

 聞き捨てならないが事実なので。

 後ろから手元を覗くとまぁド派手な服が。

 明るい色遣いで……衣装としては悪くないんだろうが。

 着るのか。

 これを。

 オレが。

 これを?

 だが魔物にぶん殴られて情けなく気絶していたのも事実。

 アイの好意を断るのは悪いし、一生懸命作ってくれたのに断ったらアイの姉ちゃんが黙っちゃいないだろう。

 デザインはレシピ通りで悪くない。

 ただただド派手だ。

 目立つなこれ……。

 

 派手なシルビアの横にいたら多少目立たずに済むだろうか。

 いや、ダメだ。

 シルビアの横にいたら余計目立つか。

 で、着るのか。

 着ないわけにもいかないよなあ。

 これ、もうちょっとばかり地味な色にならね?

 ならないか。

 ならないよなあ。

 

 まあいいか。

 諦めも肝心だ。

 どれだけ派手だとしても変なものはよこしてこない信頼もあった。

 

「防具の後はアクセサリーを作るよ。いつでも対応できるように全員分、知っているだけの耐性のアクセサリーを……そうだ、新しい武器も作らなきゃ。武器も全部新調して、強そうなのは用意しておいて、確実にどんな相手でも大丈夫って言えるようにしなきゃね。慎重になりすぎて困ったことになるなんてないはず……」

「そうだなー」

「素材足りなかったら取りに行くからね。カミュ、魔物からぬすんできてね。だから寝ないでね」

「寝てたら起こせばいいだろ相棒……」

「そっか。そうだね。じゃあ寝てていいよ」

「んー」

 

 振り返って釘を刺していたアイがわずかに微笑み、すぐに鍛冶台に向かい合った。

 

 カンカンカン。

 トンテンカン。

 

 小気味いいリズムが鳴り響く。

 女神像の加護と、はぜる焚き火の熱、信頼出来る仲間たち、穏やかな満腹感。

 あー……でろでろに溶けてダメになっちまいそう。

 

 オレの中にある汚い感情も、打算も、後悔も、すべてとろかされる。

 日陰者がこんなところにいていいのか?

 という罪悪感も全部、全部どこかに行っちまう。

 

 あー、寝よう。

 今なら多分いい夢が見られるだろうよ。

 悪夢さえどっかに行っちまう。

 オレは思考を封じ込める。

 アイはまだ、オレの背負っている罪を知らない。

 知らないうちは黙っていたかった。

 ここは居心地が良すぎて、手放すことが戸惑われた。

 それがさらなる罪を重ねるのだとしても、赦しではなくても、オレはここにいたかった。

 

 それが調子のいい夢物語だとしても。

 罪から目を背けているだけなのだとしても。

 贖罪から逃れることは出来ないし、逃げたいとは思わなかったが、今は。

 今だけは。

 

 照らされる光、包み込むあたたかさのもとで眠る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カミュー、ねえー、起きてよお」

「ぐっすり寝ているわねえ」

「素材が足りないから取りに行きたいのに、ぜんぜん起きないじゃんカミュ……起こせばいいだろって言ってたのに」

「自分が思っていたよりもずっと疲れていたのよアイちゃん。今日はもうおしまいにしましょ」

「うん……」

 

 素直に聞き分けたアイちゃんは不思議な鍛冶台を片付けに行った。

 さっきまでかなり揺さぶられていたのに起きなかったカミュちゃんは変わらず穏やかな寝息を立てている。

 カミュちゃん、初めて見たときはこんなに無防備な人間だとは思わなかったものだけど。

 毛布もかぶらずに寝ているなんて風邪ひいちゃうかもしれないのに。

 

 すぐに戻ってきたアイちゃんがカミュちゃんの足を無造作につかんで焚き火のそばまで引きずっていって……あれで起きそうなものだけど起きないのね……毛布をかぶせた。

 

「そうだ、みんな今大丈夫? 作った防具とアクセサリー、できた分だけでも渡しておきたいんだ」

「大丈夫よ。でももうこんなにあるのにまだ作るの?」

「だって前カミュとセーニャが……」

「ごめんなさいアイさま……」

「ううん、セーニャが悪いんじゃなくて僕の采配だよ。カミュとか寝ちゃっているし心配しなくていいよ。それにほら、新調したらきっと身も引き締まるし、準備しすぎて損をするなんてことはないと思って。そうでしょう?」

「うむ。アイは慎重じゃな。慎重なのは良い。軽率よりも余程いいに違いないの」

「……えへへ」

 

 照れくさそうに笑ったアイちゃんはみんなに装備品を配り始めた。

 凝り性のアイちゃんは必ず作ったものは「+3」にするし、レシピにある装備品と店で売っている装備品を比較してその時点での最高なものを必ずみんなに用意した。

 お店で買ってもちゃんと打ち直してくれるんだから本当に丁寧よ。

 

 どれだけ手間がかかっても、どれだけ時間がかかっても、どれだけお金がかかっても、アイちゃんはやめなかった。

 想いを込めて、丁寧に丁寧に積み上げていく努力家。

 戦う時も……剣もそうね、毎日アイちゃんは鍛錬を欠かさないし。

 本当に立派な子だと思うわ。

 

 アイちゃんは素直でかわいらしい子だけど、分かりやすくニコニコ笑うタイプじゃない。

 でも、みんなを想う気持ちはまぶしいくらいに本物。

 まるで太陽のように周囲を照らし、惜しみなく注いでくれる優しい感情は誰もが居心地良いと思うもの。

 

 手渡されたアクセサリー。

 丁寧に打ち直された一級品。

 物もいいけど、込められた想いが嬉しくて、アタシはギュッと握りしめた。

 

 魔王ちゃんでも悪魔ちゃんでも、世界の人々の笑顔をくもらせるなら許さない。

 きっとこらしめてやるわ。

 アタシたちの勇者ちゃんがいるのにできないはずない。

 

 穏やかな時間は過ぎていき、夜は()けていく。

 

 そのうちみんなは寝静まり、火の番をしていたアタシはそっとみんなの顔を順々に覗き込んだ。

 みんな、多かれ少なかれ色んな経験をしてきたみたいで、本当に色んな表情を見せてくれる人たちだけど、寝ている時はとても穏やかだった。

 

 アイちゃんは亡き産みのお母さまの手紙に従ってデルカダールを頼ったら、突然「悪魔の子」だなんて言われて捕まえられたり追いかけ回されたりして。

 散々よ、アイちゃんはみんなを救うために何も惜しまないのに。

 でも、他の人間が何を言ったって、悪の策略に乗らずにかげることなく光を照らして。

 一心に突き進み。

 ……眠っている顔はまだまだあどけない子どもね。

 

 カミュちゃんはちっとも自分の過去のことは語らないけど、時に自分の身を守るよりも、身を投げ出してアイちゃんを庇ってしまうことがあるくらい……追い込まれていて。

 でも、そうね、最近は随分穏やかな顔をしているわ。

 最初の方はこんな風に口開けて寝てなかったじゃない。

 あとちょっと、かたくなな心が解けたら話してくれるのかも。

 

 ベロニカちゃんとセーニャちゃんはまだまだ若いのに勇者を護る使命を仰せつかって、それをこなす為にとっても真っ直ぐ。

 彼女たちの生まれ故郷である聖地には行ったことがないけれど、きっと見たことないくらい清廉な土地なんでしょうね。

 覚悟の出来が違うわ。

 勇者に従う者としてかくあるべき、と育てられたふたり。

 今も寄り添って、向かい合って眠っている。

 安らかな顔。

 

 ロウちゃんの苦労は言うまでもないわ。

 ユグノアの前王さま。

 自分の国が滅ぶのも、娘も婿も帰ってこないものも、孫と生き別れたのも経験して、それでも助かったマルティナちゃんをまっすぐに育てた本当に強いひと。

 アイちゃんとの奇跡のような再会でだんだん、張り詰めていた心が解きほぐされて行くみたいで、いい笑顔を見せてくれる。

 

 マルティナちゃんは大国のお姫さまだったのに、長い長い旅をすることになって、それでも本当に強く美しい人に育った芯のある人。

 父王の乱心、母親のような存在と弟のような存在を同時に失って、でも心に宿していた光は灯ったままで大きくなって。

 アイちゃんを見る目はとびきり優しくて、本当にいいお姉ちゃんなの。

 

 みんな、穏やかな顔をして眠っている。

 ぱちぱちとはぜる焚き火に照らされて。

 女神像の加護の元、静かな世界で。

 

 世界はまだ、平和そのものとは言えない。

 デルカダールは明らかに怪しい陣営の手の内にあるし、他の場所だって前よりも魔物が凶暴化していろんな事件が起きているんだもの。

 聖竜の大樹は、アタシには何も言いはしないけれど、もしかしたら世界の闇が深まっているのかもしれない。

 アイちゃんには大樹の声が聞こえているのかしら。

 

 そんな大樹が選んだ勇者ちゃんは今日もひたむきで、一生懸命で、なにも取りこぼすことがないように頑張っているわ。

 ならきっと大丈夫。

 アタシはそう信じているもの。

 

 アイちゃんの光は心地よくって。

 みんなを笑顔にしたいアタシの方こそ元気をもらっちゃっているのよね。

 アイちゃんは暗い顔なんてめったに見せないけど、ずっと笑っていられるようにアタシも頑張らなくちゃね。

 

 今のような平和な時がずっと続けばいい。

 アイちゃんの照らす、明るい光の元で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大樹へ向かって上へ、上へ、不思議な植物や変わった魔物たちの間を潜り抜けながら僕らは話す。

 

 ホムラの里のアツアツな蒸し風呂。

 サマディーでおっかなびっくり食べたサボテンステーキ。

 みんなで食べたダーハルーネのケーキの甘い味。

 ネルセンの宿屋名物の香ばしいパン。

 グロッタでの仮面武道大会は……あんなに人に見られるなんて初めてだったからドキドキしたね。

 

 空を見上げる。

 黒い葉を広げた大きな木。

 我ら光の子の命はあそこからきて、死ぬと大樹に戻っていくらしい。

 

 ナギムナーでは悲しい恋を見送ったね。

 怪鳥うごめくあの谷を越えるのには苦労したね。

 プチャラオの古代遺跡の向こう、奇怪な絵画世界ではね、本当は怖くって、でもみんながいたから怖くないふりをしていたんだよ。

 

 踏みしめる。

 一歩一歩。

 足元は滑るようなものじゃなかったけれど、僕はなんでも着実に積み上げていきたいと思ったから。

 すべてを、考えつく限り完全に準備しよう。

 できうる限りのことはしよう。

 想定できることは想定して、みんなが少しでも楽できるように。

 少しでも無事でいられるように、怪我が少なく、安全に過ごせるように。

 甘い考えでもう、誰も失いたくなかったから。

 僕は弱いんだ。

 それを理解していたから。

 

 ……みんながいれば、僕一人の時よりよっぽど強く、いられるけどね。

 みんながいるから。

 僕はここまでこられたんだし。

 

 魔女の呪いで凍り付いた門を見上げるのや、視界を奪い、体を凍りつかせるほどの吹雪は二度と経験したくないけど。

 それでもみんながいたから乗り切れたんだ。

 聖地ラムダであんな歓迎を受けたのにはすっごくびっくりしたよ。

 僕を信じてくれる人って仲間以外にもこんなにいたんだなぁって。

 今まで「勇者」だって気づかれたらおっそろしい顔をしたグレイグ将軍かホメロス将軍が追い掛け回してくるものだったから。

 

 僕はちょっと笑った。

 元気なマルティナを見て、グレイグ将軍はどう思ったんだろう。

 様子を見るに、昔の二人は結構親しかったんじゃないだろうか。

 マルティナを傷つけたくなくて、でも命令があって、揺れる姿。

 僕はあなたたちの言う「悪魔の子」なんかじゃないって気づいてくれないだろうか?

 

 ああ大樹よ。

 僕はあなたに選ばれた「勇者」らしいけど、あなたの声は聞こえない。

 どうしたらいいのかもわからないんだ。

 ねえ、そっちに行ったら教えてくれますか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空に戴く我らの根源。

 闇を抱く、聖竜の大樹。

 六色のオーブを集め、ついにたどりつけたのはみんなのおかげだ。

 僕一人じゃ、デルカダールに追い掛け回されなかったとしてもここに来ることさえできやしなかった。

 

 みんなは期待と希望に目をキラキラさせて僕を見た。

 僕も多分、同じような顔をしてみんなを見返した。

 

 やっとだ。

 たどりつけたんだ。

 これで、きっと、大樹の指し示す道がはっきりわかるはず。

 

 「勇者」が何をすべきか。

 どうすれば闇を払えるのか。

 みんなが悲しむことがない、魔物が暴れて誰かを失うことがない、……そんな世界にするにはどうしたらいいのかが。

 

「これが聖竜の大樹……チカラのみなもと……」

「球の中に剣があるな。なあベロニカ、あれが例の勇者の剣ってやつか?」

「えぇ。アイ、アレを抜けばきっと勇者のチカラが教えてくれるわ。大樹のご意志もね」

 

 勇者の紋章をかざす。

 大樹のチカラの源、まばゆい光球に巻き付いていた黒いツタが僕にまるで道を空けるように退いた。

 光球に触ろうとしたシルビアははじかれてしまったけれど、僕はどうだろう?

 おそるおそる表面に触れてみたけど僕は弾かれる気配はない。

 

 ふと、今までの冒険が脳裏によぎる。

 昨日、いっぱい話したからかな?

 それには悔しい思い出も、悲しい出来事もあった。

 先行きの見えない不安、暗黒の意志としか思えない出来事。

 魔物は手強く、でも僕が「勇者」のチカラをもってしてそれらを払い、光によって人々を救えるなら。

 それほど嬉しいことはない。

 僕は、エマを失ったあの日、母さんに僕が「勇者」だと告げられたあの日……もう、闇によって辛い目に遭う人が生まれないように、できることは全部しようって誓ったんだ。

 

 振り返る。

 みんながいる。

 僕は一人じゃない。

 心があたたかくなる。

 

 みんながうなずく。

 

 僕は手を伸ばす。

 

 心臓が高鳴る。

 あぁ、勇者の剣が僕を呼んでいる。

 不思議な高揚感が僕を包む。

 

 そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かえしてかえしてかえして!

 これ以上僕から奪わないで!

  ああああああああぁぁぁ! エマも母さんもベロニカも! 女王もおじいちゃんも! みんなの大事な人も! 僕が弱かったから、僕が、僕が、あぁ!!

 

 どんな手を使っても!

 どんなにこの手を汚したとしても!

 僕がどうなったって構わない!

 

 闇よ、闇よ闇よ闇よ! 闇のチカラよ! 僕に従え!

 喰らえ喰らえ喰らえ僕のすべてを喰らってチカラを寄越せ!

 復讐してやる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 過ぎ去りし時は戻らない。

 だから、あれはうたかたの夢。

 あたたかく、いとしい、幸福な旅路は僕の手で葬った。

 ありえざることになってしまったけれど、僕の中には存在する、決して消えない罪となって。

 あの日の弱い僕とは決別したよ。

 だってみんなを守れないんだ。

 

 剣は要らない。

 どんなに練習したって勝てないから。

 不測に備える?

 僕は未来を知っている。

 

 あぁ愛しい夢の果て、みんなは変わってしまった僕を軽蔑するだろうか? 

 何も知らないかつての「僕」は、変わり果てた僕を嫌うだろう。

 

 光の子?

 世界を照らす?

 光では勝てないよ。

 蝕む闇よ、根源の闇よ。

 (ことわり)よ、僕ごと魔王を飲みこんでしまえ。

 

 にごる。

 よどむ。

 混ざり合う。

 ちぐはぐさに、吐きそうだ。

 

 なくしたはずの胸の傷が酷く痛む。

 喉にひりつく、鉄の味。




メタ的にはRPGのリメイク版で追加ルートをRTAしてるだけの話ですが、かつての自分(の丁寧さ=進みの遅さ)を憎むアイくんからすれば「最短、最速」で世界を今度は「確実」に救う(クリアする)まで、それこそ何度でもリセットしてやり直してくれる超越的存在である走者とは利害が一致しているのです。認知しているわけではないですが。

どこ好き?

  • RTA部分:数値付き解説
  • RTA部分:ストーリー解説
  • RTA部分:走者の他作語り
  • 小説部分:アイ視点
  • 小説部分:カミュ視点
  • 小説部分:セーニャ視点
  • 小説部分:マルティナ視点
  • 小説部分:ロウ視点
  • 小説部分:シルビア視点
  • 小説部分:グレイグ視点
  • 小説部分:ホメロス視点
  • 小説部分:その他視点
  • 全般:再構成ストーリー
  • 全般:原作死亡キャラ生存
  • その他(感想・コメントへ)
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