【完結】【自己ベスト記録】過ぎ去りし時を求めてSS~聖竜の勇者ルートRTA:24時間31分44秒22 作:ryure
その時は突然だった。
忘れもしない十四年前の嵐の日、ユグノア王国が魔物の襲撃で滅んだ日よりも、ずっと突然のことだった。
なにせその日は何ということもない、良く晴れた日だったのだから。
闇の気配を感じた時にはもう、始まっていた。
どこからともなく現れた暗雲が急速に太陽を覆い隠し、まだ昼間だというのに底冷えする夜のような様相に早変わりする。
空を走る稲光からは濃厚な闇の魔力が感じられ、異常事態に民は恐れおののくばかり。
無理もない、真に恐怖に晒されたとき、人間は悲鳴をあげたり走って逃げたりできないものなのだ。
しかし、我が兵士たちは違う。
よく訓練された世界一の兵士たち……泣く子も黙るデルカダール兵団である。
異変に恐れることなく私の指揮に従って町へ繰り出し、民家の扉を破壊してまで住民たちを城の旧地下牢へ誘導した。
居心地は最悪だろうが、安全性は折り紙付き。
ひっそりと整備しており、いつの間にかデルカダールの地下に住み着いていたドラゴンの魔物もとうに倒してあるのだ。
……あの忌まわしい思い出のある滝つぼの方には、いざという時のために緊急用の脱出口を建設し、地下の空間はいまやデルカダール国民のシェルターとなっている。
「太陽が! おお神よ!」
「デルカダールももうおしまいだ!」
「助けて、助かるのよね、ああ、ホメロスさま! お助けを!」
「あぁグレイグさま、どうか帰ってきてください……!」
「今グレイグさまがいれば……!」
兵士に誘導され、若干の正気を取り戻した民衆は口々に怯える。
今は心配することなくただ守られていればいいのだ。
民衆の安全さえ確保できればあとは分散しながら逃がし、私たち兵士は時間稼ぎにあの魔物を迎え撃つ。
勝てなくとも、最後の一人を逃がすまでは、戦い続けるのだ。
これはユグノアの襲撃の再来だろう。
あの時は我が王も自ら戦ったというではないか。
グレイグが英雄と呼ばれるようになった戦いである。
ならば、私が指揮しなくてはならない。
死ぬ間際まで指揮し、ユグノアのようにほとんど全ての民が死に絶えることのないように、兵は戦わなければならない。
これは撃退戦ではなく、防衛戦なのだ。
あぁそうだ、決して勝てる見込みはなくとも、国に命を捧げた者は戦わなければならない。
グレイグとて、ユグノアの民を救うことは叶わなかったのだから。
……人を救った功績だけではない。
あの熾烈な戦いから生きて戻ったから、グレイグは英雄と呼ばれたのだ。
あの場で勇敢に戦った者は数多くいただろう。
しかし、生きて戻れたのは少数なのだから。
「グレイグ隊は下層の民をデルカダールの丘の方から地下へ連れていけ! ホメロス隊は城下町の人間を正面口から連れていけ!」
民衆たちは揃って恐怖に足がすくみ、その場から動けなくなっているのはむしろ都合が良かった。
混乱や暴動が起きることなくシェルターに収容されていくのを見送りながら、私もどこかに取り残されている人間がいないか町を駆ける。
そして、私は見つけたのだ。
真っ白な顔色になり絶望しきった顔をして、石畳の地面に座り込んだ少年と、そんな彼を必死で正気に戻そうとする一行を。
あぁなんと運の悪い。
こんな時にデルカダールに帰還しているなんて、そんな不運があるだろうか。
せめて、この危機を後から遠くの地で聞き及んでいてくれば、アイたちは安全だったというのに。
民衆たちと同じく、突然現れた魔物に怯えたのだろうか。
それとも空を見て恐怖を感じたのだろうか。
哀れなアイは、すっかり自失しきっている様子だった。
無理もない。
アイは……誰がなんと定めようとも、十四歳の少年なのだ。
入隊から二年になるがそれでも兵士としては最年少の部類の、まだ子どもなのだ。
「アイ? アイや、どうしたのじゃ。わしに返事をしておくれ」
「アイ、アイ、ねぇどうしちゃったの? ……だめ、聞こえていないみたい」
不安げな実の祖父に抱きすくめられ、双賢の小さな少女に話しかけられてもなお、何も映さない瞳はうろうろと周囲を泳ぐ。
焦点の合っていないその目には何が見えているというのか。
兵士に先導されて城の方へ逃げていく民衆たちを悲痛な目で見やり、空に闇の雷が走るごとに怯えの色を濃くする。
私は、もちろんいついかなる時もデルカダール国民を救う義務があるから、足を止めた。
そうだ、アイの他にもマルティナ姫もグレイグもいるのだから、私の行動は間違いではない。
「アイ……?」
その状態でも全く聞こえていないわけではないのか、聞きつけたアイはこちらを向いた。
私を見るやいなやホメロス、と口が動く。
声は出ていないが、
仲間に声を掛けられてもまともに反応している様子はなかったのに、私のことは認識しているというのか?
そんな馬鹿な。
いや……その目はなんだ。
まるでひどく憎い誰かを睨むような、見たこともない、きつい眼差しだ。
ぼんやりと焦点が合わず、私越しに別の誰かを見ているような……しかし、確かに私の名前を呼んだはずなのだが。
呆然としたまま、アイは呪詛を吐く。
澱んだ紫の目には、激しい怒りと憎しみ、そして底知れぬ悲しみが宿る。
そんなアイは、知らない。
「ホメロス……返して……返して、返してよ……!」
とうとう、孫に呼びかけていたロウさままでも振り払ってアイは私に詰め寄った。
アイから何かを取り上げた覚えはもちろんない。
そもそも、私を見ているのに目が合っていないのだ。
明らかに様子がおかしかった。
仲間たちもそれはわかっているのか、私に心当たりを聞くことも出来ず、だからといって無理やり止めることもできずにおろおろとしながらこちらを見るばかり。
……アイがこの様子では、非戦闘要員の民衆たちと共にシェルターにやった方がいいのだろう。
全員を収容したあと、戦える者は防衛戦に参加してもらい、アイは誰かに任せて下がらせた方がいいのだろう。
何がアイをおかしくしてしまったのかわからなかったが、今は原因を究明している時間はない。
邪悪な気配はすぐそばまで来ているのだ。
だが、一縷の望みにかけて強くアイの肩を揺さぶりながら私は呼びかけた。
諦め半分に、これで目を覚まさなければ非戦闘要員扱いで逃がすしかない、と。
恐らく二度と生きては会えないだろうが、せめて部下を一人でも逃がしたのだ、最大限できることはしたのだと言い訳して……名誉を胸に、負け戦で死ぬために。
「アイ! アイ! しっかりしろ! 大丈夫か?!」
その時、奇跡は起きた。
私の声は正しく届いたのだ。
仇のように私を睨んでいたアイがふっと表情を緩め、不意にきょとんとして私を見る。
それは望んだ正気に見えたが、私はといえばアイの肩に触れた手が震えているのを抑えるのに必死だった。
震えのあまり手のしびれを錯覚する。
恐ろしいとしかいいようがない。
アイが怖いというのか、私は。
そんなはずはない。ひたむきな正義を胸に、大樹に選ばれし聖竜の勇者として戦っている我が部下の一体何が怖いというのか。
アイが怖いはずはない。
アイから感じられる闇の気配は以前よりもずっとずっと、濃いものだったから、私は恐ろしかっただけなのだ。
その闇が怖いのではない。
闇自体が、怖いのではなくて。
既に取り返しがつかなくなっていることを、私は悟ってしまったから。
いや、まだ、まだ引き返せるはずだと自分に言い聞かせる。
アイは、今も各地で人々を救っているのだ。
正義の行いを為す勇者に何の懸念がある?
聖竜は事を為すために大樹の闇を貸し与えているのにすぎない。
そのはずなのだ。
だから、アイは、まだ大丈夫だ。
「ホメロス……さま?」
「そうだ。大丈夫か? 町の人間は兵士たちが避難させている。だからアイも、」
「そうだ……みんなを助けなくちゃ。
「……デルカダールの人間は地下に作ったシェルターに避難させている。地下牢だった場所だ」
「? そうですか。なら安心ですね。ホメロスさまも、民衆の避難が完了しましたらそこにいてください。そしてちょっとだけ待っていてください。大丈夫ですよ、すぐに太陽を取り戻します。僕は聖竜の勇者なんですから!」
マルティナ姫が私の目を見て首を振った。
アイに何を言っても無駄だ、ということか。
「大丈夫かアイ! 町の人はみんな避難したみたいだ。何が起きてるんだかわからねえが、あの魔物がしでかしたってことは分かる。オレたちはいけるぜ!」
「このままじゃみんなの笑顔が曇っちゃうわ。成敗しましょ!」
仲間たちの言葉は、決して本心ではないのだろうが。
今はそう言った方が良い、と判断したのだろう。
仲間の言葉にうなずいたアイは勇者のつるぎを抜き放った。
美しい剣身がギラリと光る。
アイから感じられる息苦しいほどの闇の気配と裏腹に、聖なる息吹を感じる剣は……すでに闇のオーラを纏っていた。
――その身、勇者のつるぎあれば闇を受け入れる器となりましょう。
なんと忌まわしいことなのか。
その剣を折れば、あるいは。
その剣がなければ、あるいは。
ああ、聖竜よ。
我らの偉大なる根源よ。
あぁ我らの恐ろしき母よ。
私は自分より幼い命が、自分を一途に慕ってくれた幼い命が死に向かう姿を見たくないだけなのです。
その想いは罪なのでしょうか。
我らが聖竜よ、あなたはとても残酷です。
大樹の闇を纏って戦う幼い命を憂くことは自然なことではないでしょうか。
私はただ、その命が、健やかに長く、平穏に暮らせることを祈りたいのです。
世界を守るために。
闇を払うために。
邪神を討たせるために。
そんな大義名分のもとに、偉大なるあなたは、哀れな生け贄を選んだのですね。
「みんな、行こう!」
勇ましく駆け出すアイを慌てて追った仲間たちの気持ちが痛いほどに分かる。
だが、私だって止めることは叶わない。
止めたところできっと「勇者なのだから」と言って振り払われるのは目に見えているのだ。
だから、せめて無事を祈り、願掛けにと振り返ったグレイグに私の誓いのペンダントを投げて渡した。
我らの誓いは、違えることなくあるのだから。
……私がもし、闇の誘いを受け入れていれば今頃、踏みにじっていたのかもしれない誓いだった。
「そっちは任せたぞ!」
「任された、ホメロス!」
グレイグならばきっとアイを守るだろう。
奴より信頼できる存在はこの世にいないのだから。
そうだ、奴はこの国で一番勇敢で、最も強く、他国でも像まで作られて讃えられる英雄なのだからな!
そんなこと双頭の鷲ホメロスである私が一番知っているに決まっているだろう!
そう私は自分にそう言い聞かせる。
勇者の盾よ、勇者を守りたまえ、とただの民草のように私は祈る。
……祈る、か。
さて、私はこれから誰に祈れば良いのだろうな。
天にまします我らの神にか?
それとも天空におわします聖竜の大樹にか?
それとも我らを救ってくださる勇者にか?
ふん。
まだそれならばグレイグに夢でも見ていた方が良い。
グレイグならば、呑気に私が後始末は何とかしてくれると信じ込んでいるのだから、存分に馬鹿力で暴れてくれるだろう。
侵略者の引き起こした二度の大爆発は、城下町や城に壊滅的な被害をもたらしたが、人命の被害といえばデルカダールが偵察兵数人を失ったのみで済んだのは本当に幸運だったのだろう。
バンデルフォン王国、ユグノア王国の一夜の惨劇を知っている民衆たちはその絶望を見事跳ねのけた聖竜の勇者のチカラにそれはもう安心したことだろう。
城に避難した民衆たちは救国の英雄である聖竜の勇者一行を一目見ようと、玉座の間に向かうアイたちを諸手を挙げて歓迎した。
激しい戦いの痕跡を纏い、しかし力強く前を向いて歩く彼らは新たなるデルカダールの英雄として語り継がれることになるのだろう。
二度も英雄として讃えられたグレイグの名声に私が敵う日は最早来ないのだろうが、私はもう構いやしなかった。
そんなことはもうどうでもいいことだ。
グレイグは私より強い。
だから戦場で暴れ回るべきだ。
私は奴より賢い。
だからグレイグが暴れやすい策略を練るべきだ。
分担した方が我らは強い。
それだけの事だった。
見慣れた黒い甲冑姿のグレイグを見て口々に褒めそやす民衆。
双賢のまだ若い姉妹を見てその美貌に色めきたつ民衆。
いつぞやは指名手配されていた盗賊が一行に加わっていることに驚きの声を漏らす民衆。
マルティナ姫の立派に成長した姿を喜ぶ民衆。
ユグノア先王を知る存在は感嘆し、旅芸人としても有名な騎士ゴリアテには黄色い歓声があげられる。
しかし、彼らを率いて勇敢に戦った聖竜の勇者、アイのことを、心底歓迎したのは同僚だった兵士たちだけだった。
近寄り難い闇を纏い、応急処置を受けたとはいえ全身血みどろでぼろぼろの少年を、民衆は好き勝手に噂する。
「聖竜の勇者」についての流布が足りなかったか。
「聖竜の大樹」に選ばれし勇者がこの世の闇を払い、勇者の星と呼ばれていた天体から復活した邪神を滅ぼしてくれる、と流布していたが……そもそも聖竜の大樹というのは私たちにとって命を司る尊いものである以前に、本能的にすべての命に畏れられる存在だ……。
もちろんアイは名誉が欲しくて戦った訳ではないことを承知している。
自分に歓声を向けられなくとも、アイが気にする人間ではないとも知っている。
だが、あんまりではないか。
絶望を跳ね返し、この国を救ったアイは讃えられるべきなのだ。
語り継がれるべきなのだ。
せめて、せめてそれくらい報われるべきではないか。
私は歯噛みした。
「ユグノア王子にして聖竜の勇者アイよ、よくぞ戦ってくれた。一度ならず、二度までも我が国を救ってくれたことに礼を言おう。礼だけではない。褒美を取らせよう。なんなりと言うが良い」
「はっ、我が王よ、光栄の極みでございます。しかし私は生まれが何であれ、聖竜の勇者なれど、今もデルカダールの一兵士なれば、務めを果たしただけのこと。これは当然のことでございますから、デルカダール国民を迅速に避難させ、被害者を最低限に食い止めた我が同僚たちにも是非、同じく褒美を与えてください。私は務めを果たしたのみ。褒賞には及びません」
「ふむ。……要らないと。我が娘マルティナよ、どうにか出来ないか?」
「残念ですがお父さま、どうにもなりません。後でアイから私が聞き出しておきます。ですから今は手短に。必要なのは休息ですから」
「そうか……」
マルティナ姫の言葉は正しい。
この場は頭の固い貴族どもや利権に関わる者のための場だ。
本来なら何かと理由につけて明日にしてやりたかったが……何分、民衆が城に集っている今、絶好の勇者を讃える機会を逃す訳にはいかないと押し通されてしまった。
まったくもって忌々しいドブネズミどもが。
であれば私はそれを利用してやろう。
聖竜の勇者の存在を最大限に讃えに讃え、この日のことを吟遊詩人に語らせよう。
まぁ……私の自己満足に過ぎないのだろうが。
「私からも、聖竜の勇者アイに最大の謝辞を送ろう。聖竜の勇者の功績で国民の尊い命は守られたのだ! いつでも、なんなりと、知将ホメロスに褒美を申しつければ、叶えよう!」
貴族どもを満足させるためのパフォーマンスだったが、褒美に全く興味がないアイが既に話を聞いていない。
真面目な顔をしてこちらを見ているが、微妙に目が合わないので何も聞いてはいないのだろう。
私にはわかる。
横の盗賊にもバレていて脇腹をつつかれて頷いているではないか。
……後で来なければ宣言してしまった以上、実家に送るしかないのだが。
するとグレイグが口を開いた。
「……ホメロス、またいつ出発するのか読めないのでな、今誓いのペンダントを返させてくれ」
「あぁ。よく戦ってくれた、我が友よ」
「そちらこそよく国民を守ってくれた。ホメロスの指揮があったからこそ、俺たちは憂いなく戦うことが出来たのだ」
「双頭の鷲が揃えば不可能なことなど何もない。そうだろうグレイグ? ……それでは、そこを動くな」
誓いのペンダントを受け取り、返礼に呪文を唱える。
各地に散らばる勇者伝説を収集している時についでに見つけたエンチャントだ。
グレイグは見るからに一行の中で頑強な存在。
盾として絶対に倒れられては困る。
「我が王に託された『勇者の盾』としての役割! 我が友グレイグよ、これまでも見事に果たしているようだがこれからもさらに努力し、成し遂げ、必ずや世界を救ってくれ!」
「おぉホメロス。これは素晴らしい魔法だ。我が王より賜った盾、そしてホメロスがチカラを込めたこの鎧があれば百人力だ。必ずや平和を取り戻してみせよう!」
グレイグはそれでいいのだ。
おそらく、誰が殺しても死なない男だからな。
それで存分に、文字通り盾になるがいい。
そして、腹を括った私はアイの前に立った。
流石に目の前に立てばアイはしっかり私の目を見た。
あの、自失した様子とは違う、理性を宿した静かな目だった。
冷静に、勇者として薄く微笑みながらそこにいた。
では、早く休ませてやりたいところはやまやまだが……これから言うよそ行きの賛辞を聞き流しておくように。
貴族どもがこれで静かになることを期待したいのだ。
勇者に擦り寄りたいだけの利権など払いのけることができれば良かったのだが。
「改めて、聖竜の勇者アイの功績をここに讃えよう。我らがデルカダール王国はかつて邪悪なる魔道士ウルノーガにより存亡の危機にあった。これをいち早く察知した勇者アイは奴を撃退し、モーゼフ陛下をお救いした。そして此度の二度目の襲撃……暗黒の魔手は太陽を奪い、我らの美しい街並みを破壊しつくした悪逆の魔物を二体、勇者アイは葬り去った!
一方は空をも支配し太陽を奪った! 一方はその刃で我が兵を即死させ、町を破壊した! どちらも強敵である! 国の存亡の危機を救ったこの功績を讃えようぞ! 勇者アイ、万歳!」
万歳三唱の末、私は勢いそのまま、いかにも親しげにアイの肩に触れた。
もう何も恐ろしくなど、ない。
アイは首を傾げてまだ何かあるのか?
と言わんばかりだったが、いいか、今からの話が私の本音なのだ。
私は三等兵アイの直属の上官であり、個人的な激励があっても何らおかしくない立場だ。
だから、私自体が誰に何の噂をされようとも構わない。
どうせ私のことなど闇魔法使いの魔法剣士、とグレイグと比較すれば大した功績もないくせに将軍という同じ立場に置かれている人間、と見られているのだ。
今更何か変わることなどない。
比べられることも蔑まれることも慣れたことだ。
私ごときの後ろ盾でよければいくらでもくれてやる。
知将ホメロスは勇者アイの権威に惹かれたとでも噂しておけ。
私がアイを気に入っているということを存分にアピールしておく。
そうすれば下手な利権者は私の影がちらつくことだろう。
なにせ、私は好んで闇の魔法を使う得体の知れぬ存在だからな。
幼い頃から従軍していて、身元もはっきりしているのに何が「得体の知れぬ」なのか分からないが。
それでも多少の抑止になることは理解していた。
だから牽制の言葉を考えていたのだ。
「いいか、アイよ。必ず生きて帰ってこい。これは上官命令であり、個人的な、懇願だ。わかったな」
だが、アイの目を見ていると、そんなことはどうでもよくなっていた。
アイからはなんとしてでも生きて帰ろうという気概を感じられなかったのだ。
救いの手を差し伸べよう、と私を安心させるように微笑んで、ただそこにいる。
あの無邪気なアイはただの仮面だったのだろうか。
幼なじみを怪我させてしまったから強くなりたい、と自身の無力に落胆していた姿は幻だったのだろうか。
真面目な努力家の三等兵のアイは、相棒を見つけるための演技だったのだろうか。
私は、違うはずだ、と信じたかった。
本当は私の想像通りそうだったのかもしれない、あの日々のいくらかは演技だったのかもしれないとも実際は思っていたが。
だから、懇願した。
さあ利権者どもよ、あのホメロスが少年勇者に情けなく懇願した、といくらでも噂するがいい。
そしてアイの耳に入ってしまえ。
なんでもいい、それで生きて帰ってきたいと少しでも思えるならいくらでも、なんとでも言え。
だがアイは、相変わらず、完璧に微笑んだ。
「もちろんですともホメロスさま。兵士として過ごしてきた間に教えていただいた魔法を駆使して、きっと平和を取り戻して参りますから、何も憂いることなくお待ちください」
あぁ誰か。
救いの主はいないのか。
どうかこの少年を救ってくれ。
いや。
勇者こそが聖竜の遣わせた救いの主なのだ。
残酷な。
ああ、残酷な。
狡猾に誘う闇の方がまだ優しい。
光は、こんなに無慈悲に犠牲を強いる。
私は頼もしい限りだな、と声を絞り出すのが精一杯だった。
だんだん走者の見ている「画面」と聖竜世界が剥離してきました
この閑話に入れようと思ったけど入れられなかったもの
・HP削って魔法を唱えるアイくんをホメロスに目撃させる(状況的に無理なので没)
・仲間が命削って魔法使うなんて二度とするなと説教している場面にホメロスが鉢合わせる(謁見後まで場面を引き伸ばせなかったので没)
・どんな無茶しても後遺症なく回復魔法できっちり癒せてしまう勇者特権に擦り切れるまで戦えということなのですか?! と大樹にブチギレて放火を計画するセーニャ(前話で入れ忘れたので一緒に流れた)、「私、今なら炎の魔法を使えそうですわ(ゾーン状態)」
↑カミュ「生木は燃えにくいぜ、まず切り倒すか?(ノリノリの笑顔)」
↑ロウ「我らが力を合わせれば不可能なことはあるまい(やんわり助太刀を申し出る)」
↑シルビア「過激なのもたまにはいいわね。刺激的で(がっつり参加を表明)」
↑マルティナ「いい運動になりそうね!(シンプル殺意)」
↑グレイグ「ただ燃やすだけではもったいないと思うのだが(燃やすことに異論はない)」
↑ベロニカ「薪にするのはどうかしら?(ここまで止める仲間なし)」
↑アイくん「みんな楽しそうになんの話してるの?(ずっと自責ループしてるので基本話を聞いていない)」
↑カミュ「キャンプファイヤーの話だ。でっかい火を燃やしたら景気がいいってな」
↑セーニャ「えぇ、えぇいつかやりましょうね!」
形を変えてどこかで再利用するかもしれないので覚書です。
どこ好き?
-
RTA部分:数値付き解説
-
RTA部分:ストーリー解説
-
RTA部分:走者の他作語り
-
小説部分:アイ視点
-
小説部分:カミュ視点
-
小説部分:セーニャ視点
-
小説部分:マルティナ視点
-
小説部分:ロウ視点
-
小説部分:シルビア視点
-
小説部分:グレイグ視点
-
小説部分:ホメロス視点
-
小説部分:その他視点
-
全般:再構成ストーリー
-
全般:原作死亡キャラ生存
-
その他(感想・コメントへ)