【完結】【自己ベスト記録】過ぎ去りし時を求めてSS~聖竜の勇者ルートRTA:24時間31分44秒22   作:ryure

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閑話 あるいは聖なる献身とも〈前編〉

 「勇者のつるぎを破壊する」。

 言葉にするだけならば私の目論見は単純至極なことではあったが、この世にそれを為せる存在はどれだけいるのだろうか。

 勇者のつるぎのチカラを考えてみればそれはまさしく神をも恐れぬ所業であり、「勇者」を選定し、力を与えてきた母なる大樹に真っ向から歯向かう「悪行」である。

 結果的にはあの魔導士ウルノーガすら行わなかった……もし奴の計画にあったとしても阻止したのだが……おぞましいことなのだ。

 

 成すべきは神をも恐れぬ悪逆であり、目指すは「勇者」の失墜と言っても過言ではない。

 魔導士ウルノーガによる一国の堕落、誤った「勇者」の迫害、それらを解決した先に発生した邪神の復活。

 アイを「勇者」として選定し、使命を与えた大樹の判断は間違いなく正確だ。

 これほどまでに「勇者」が必要とされている時代もないだろう、だというのにその「勇者の器」となったただの少年を救うために反逆の牙を剥こうとしているのだから私も……そしておのおの画策しているはずの他の者たちも「大樹」、いや「世界」からしてみれば余計なことをしているわけだ。

 

 その先には世界の滅びがあるのかもしれない。

 今、邪神と戦おうとしている「勇者」をその座から引きずりおろそうとしていいわけもない。

 だがなんだ、私は自分よりもずっと幼い少年の自己犠牲の果ての聖なる献身を否定し、甘んじて受け入れている使命を何もかも穢し、その神聖なる役目を奪い去り。

 ただの、なんということもない、どこにでもいる少年であってほしいと願っているだけのこと。

 それはホメロスという男があの二年間の果てに見つけた願いであり、ひとりの大人としての真っ当な感情であり、……そして、極めて利己的な、非合理的な欲望だ。

 

 今もホメロスはデルカダールの将である。

 優先すべきは君主たるモーゼフ王の命令であり、護るべきは自国の民であり、多くの無辜の民を救うために少数の部下を犠牲にしなくてはならないときは状況を鑑みて合理的な決断を下さなければならない立場である。

 であるというのに、私は今!

 たったひとりのためにすべての責務を放り出して、たったひとりのために私の持てるすべてを動員しようとしているのだ!

 

 アイたち一行と邪神の手先との激戦の舞台となったデルカダールは今や瓦礫の山である。

 被害の規模の割に死傷者こそ我が兵三名にとどまったが、生活を営むのに苦労するようなありさまであり……凶暴化した魔物が混乱に乗じて国を脅かす可能性さえある。

 我が父は健在である。

 私の想いを汲み取ってくださり、ゆえに私を送り出してくれたが、理性で考えれば取ってよい行動ではなかった。

 それは今も分かっていた。

 

 しかし、理性がどうすべきか囁いていても……後悔はない。

 私のすべきことは、あとでも取り返しがつくことなのだ。

 我が父がそう担保してくれた。

 そうだ、すべて成し遂げた後に、復興の指揮を引き継げばよいのだ。

 致命的ではない。

 デルカダールの民は強い。

 我らの君主は強い。

 ゆえにホメロスという男が不在であっても、グレイグという男が遠き地で戦っていても平気なのだ。

 

 だが何もしなければアイは死ぬだろう。

 使命を果たしたその先に、私の半分も生きていない少年は。

 

 それもこれも、忌まわしい勇者のつるぎが存在するからだ。

 「勇者」のチカラを十全に発揮する触媒にして、古代の勇者ローシュより伝わる貴い遺物。

 そして私の仮説においては邪魔で仕方のない、アイを蝕む呪いの剣だ。

 大樹に備わる光と闇のチカラを触媒し、ただの少年を侵蝕する魔剣。

 

 その刀身は伝説の金属たるオリハルコンで出来ていて、「勇者」と同等の大樹の加護を受けているとも、この世が始まるときには既に存在していただの、最初に「勇者」が生まれた時に同時にこの世に出現しただの、世界各地に散らばっている伝承には事欠かないあの剣。

 

 とはいえどう見ても魔力で編まれた虚ろなものではなく、物質的な剣であるし、オリハルコンがいくら伝説上の金属と言っても一金属であることには変わりない。どこかに破壊の方法はあるはずだ。

 いくら神秘のチカラを帯びていても、強大な魔力に編まれていようとも物質であることには変わりなく、金属である以上金属の性質を宿しているはずなのだから。

 オリハルコンとて熱せれば溶け、叩けば延びるはずだ。

 ……少なくとも、伝説の金属が「伝説」であるゆえに金属でありながら金属的ではないという意味で伝説になっているという可能性を無視して私は思考する。

 

 オリハルコンは伝説の金属だ。

 それが伝わっているということはオリハルコン製の勇者のつるぎ以外の物品が過去に存在したことを意味する。

 勇者のつるぎ以外にオリハルコンがこの世に存在しないのであれば「オリハルコン」という言葉は勇者のつるぎと同義のはずだ。

 しかし、現実にはそうではない。

 あれはあくまでオリハルコン製の剣だ。

 アイが剣術の腕を上回る強烈な闇魔法の使い手であるだけで、あれ自体にも相応の切れ味が備わっているだろう。

 冷たい金属の光沢を思い出しながらも、方法を脳内で模索する。

 

 つまり、過去には神や大樹以外にも加工が可能な素材だったということだ。

 オリハルコンを人や魔物が加工し、武具や装飾品にしていたのであれば。

 その方法の一端を知ることさえできればあの剣をただの金属塊にすることも可能だろう。

 

 さて、今、私の手元には鍛冶屋の使い古された金属やすりと食用の塩くらいしか手札がない。

 金属に対してはある意味十二分な手段かもしれないが、相手が相手である。

 これでどうにかできるはずもなく。

 どこへ行けば手掛かりを得られるだろうか。

 世界各地に残された勇者伝説を頼りに「答え」を私は作らねばならないのだ。

 勇者のつるぎが破壊されたことは……あのように大樹に収まっていた様子を見るに、ロトゼタシアの歴史上存在しないことなのだから。

 

 ひとまずは「勇者」のゆかりの地の情報をたどりたかったが、今も大樹が私を「見ている」可能性は否定できない。

 聖地ラムダやドゥルダ郷に真っ先に赴けば狙いなどすぐにばれるだろう。

 部下を派遣したとはいえ、まだまだ調べたいことがあったが……危険な橋をわざわざ渡ることはない。

 

 「勇者」などという使命によりアイの肉体が闇に蝕まれ、周囲を闇で害するほどに肉体が変質してしまってもなお放置し、むしろあの小さい体に闇の魔力を無尽蔵に注ぎ込む大樹のことだから私が邪魔であると認識されてしまえばこの命、簡単に吹けば飛ぶほど軽いものだ。

 今は「ただのホメロス」として行動しているが、それでもホメロスはデルカダールの知将であり、国を建て直すために必ずや帰還しなくてはならない。

 安直に命を張るのは愚かだ。

 

 四大国、いや三大国であるデルカダールには奇妙なほど「勇者」に関する伝承が少ない。

 それはかつて我が父モーゼフ王に憑りついていた魔導士ウルノーガが焚書を行い、「勇者」の情報を抹殺したからである。

 しかしデルカダールには「勇者」ゆかりのレッドオーブが残されていた。

 六色の宝玉は「勇者」が大樹に渡るのに必要であったし、あれ自体にも莫大な神秘のエネルギーが宿る代物だった。

 であれば、他にもあのオーブが伝わっていたところであれば古来より「勇者」の伝承が多少なりとも残っているのではないか。

 私はそう予想した。

 

 つまり、目指すべくはクレイモラン王国である。

 わずかな休息の合間を縫ってマルティナ姫より簡単に聞いただけではあるが、六色のオーブはそれぞれデルカダール、グロッタ、海底、バンデルフォン、メダチャット地方、クレイモランに存在した。この中でデルカダール以外に長らく所有していたと判明しているのはバンデルフォンとクレイモランであり、であれば実質選択肢は一つである。

 もう少し詳しい情報共有ができれば良かったのだが、詳しいいきさつについては聞く時間を取れなかったのが悔やまれる。

 

 ……アイよ、必要ならば亡国の宝物庫を荒らすほど逞しく生きていることは喜んでいいのだな?

 大樹の指示である種盗賊まがいのことをやらされているのなら、私でなくていいから近くの大人に言うのだ。

 決して、いいように使われるな。

 相手が大樹だろうと。

 

 行き先を決めたところで私にはアイたちのように古代呪文ルーラのような便利な移動手段はなかったが、クレイモランが登録されたキメラの翼を融通させるくらいの伝手ならある。

 私は瓦礫の山と化した故郷に背を向けると、ひとり旅立つこととなった。

 行き先は同じだが幼年期、クレイモランへ留学した時のような胸の高鳴りは感じない。

 ある種の使命感と、冷たい後ろめたさ、そして強烈な焦燥感が胸をつく。

 脳裏に浮かぶのは今よりも幼い無邪気な笑顔を浮かべて駆け寄ってくる三等兵のアイと、高貴なほほ笑みを浮かべて、暗に他者すべてを拒絶する「勇者」アイの姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

「……この期に及んで疑うべくもありません。デルカダールの知将ホメロス、あなたのことは遠く離れたこの地でも名を聞いたことがあります。あなたを信じましょう」

「ありがたき幸せにございます、シャール陛下」

「もちろん、この世界の危機ですからクレイモランも全面的に協力致します。平時であれば我が国の機密であろうとも何なりと調べられるとよいでしょう。すべて許可いたします。……その前に、ひとつだけ質問しても?」

「なんなりと」

「あなたは……魔女リーズレットのことをご存じでしょうか?」

 

 クレイモランの女王シャールは、若いながらも知識の国の頂点としての貫禄をすでに備えているように見えたが。

 私にそう尋ねる姿は年相応の娘のように見えた。不安に揺れる瞳を必死で抑え込むのは女王の矜持か。

 

「魔女リーズレットについては同盟国たるクレイモランより一切の連絡、貿易が途絶えた際に救援に向かいました我が国の将軍グレイグより報告にあがっています。なんでも、以前クレイモランを氷漬けにした犯人であり、クレイモラン領の遺物、古代図書館に存在していた古い本に封印されていた邪悪なる魔女とか。

ふむ、私の独自の調査では魔女リーズレットの封印を解いたのは魔導士ウルノーガ……ご存知かもしれませんが、闇の大樹にて勇者を襲撃した男でございます。かの男が封印を解いたと結論付けていますが、それ以外はそちらが持っている以上の情報はないかと思いますが」

「……リーズレットの封印を解いたのは魔導士だった……」

「はい。申し上げます。その現場をこの目で見たわけではなく、状況証拠から判断したものですから動かぬ証拠を押さえたわけではないことを付け加えさせていただきますが、古代図書館より魔道士ウルノーガらしき男が目撃されたという確かな筋の情報を掴んでおります」

「いえ。知将ホメロスが言うことですから間違いはないと考えております。情報、ありがとうございます。

関係のない質問でしたね。さあホメロスよ、あなたの求めるものはどのような英知でしょう?」

「古代の口伝でございます。伝説の金属にして勇者のつるぎを形作るオリハルコンについて……口伝にて今に残るものすべてを。本来でしたら古代図書館の使用許可も頂きたいところですが、もはや、本の内容をひとつひとつ精査する時間はありませんので……」

 

 女王シャールはすぐに国中の学者を呼び、私の願いを叶えてくれた。

 流石は知識の国というだけあってデルカダールとは比べ物にならないほどの口伝が残されていた……だが、期待していたような……オリハルコン製の剣を鋳造できるような、ましてや人の手で破壊できるような情報はない。

 せいぜいが「オリハルコンは地上には存在しない鉱物である」「かつてこの伝説の金属のために熾烈な争いが起き、オリハルコンの採掘地は戦場とまで呼ばれた」「オリハルコンは鉱物として非常に硬く、またその色は蒼い。古来ではオリハルコンの代用品として見た目の似た傷を癒す魔法鉱物ブルーメタルが用いられることもあった」というような、わずかな由来だけが収穫だった。

 

「どうやらお力になれなかったようですね……」

「いいえ、これらの情報を精査し、糸口をつかむのは私の役目でございましょう。ご協力感謝いたします」

「そう言っていただけると我が国の危機を救ってくださった勇者アイとその一行に少しは報いることが出来たように思います。また何かございましたらクレイモランは総力を挙げてかの者への恩返しをしていきます」

「ご厚意、ありがとうございます」

 

 終始女王シャールは古びた本を膝の上に置いたままであったし、私の顔を見て何か言いたげに口を開こうとしたが。

 しかし、私はこれ以上の情報が期待できない以上急ぐ身であり、あちらから何か言われなければ応える余裕はなかった。

 彼女はまた、聡明であり、私の焦燥を理解していたから止めることなく、ただ私を見送ったわけだが。

 

 はて、当然ながら顔も知らない古代の魔女リーズレットなる強力な魔物と一皮むけばただの人間に過ぎないホメロスではどこに接点があるものか。

 何故女王があぁも思い詰めてまで私に尋ねてきたのか、そこまで推測することは出来なかったが。

 

 互いにウルノーガに甘言を囁かれてきた者同士、と考えれば多少の共通点があったのかもしれなかったが、長らくの封印を解かれ誘いに乗って一国を危機に貶めた悪逆なる魔物と……ふた周りも年下の部下可愛さに闇に手を伸ばさず持ちこたえたただの人間では共通点とは言っても希薄なものだろう。

 自国民に多大なる危険が及んだのだ、再び封印はなされたとはいえ魔女リーズレットに対していっそうの警戒をするのはただしいことだと分かってはいたが……何か腑に落ちない。

 とはいえ、私が関わることではないだろう。

 

 さて、情報が足りない。

 次に向かうべきはサマディーだろうか。デルカダール、クレイモラン、バンデルフォン、ユグノアに勇者ゆかりの何某が存在した以上、サマディーにも何かしらが存在してもおかしくはない。

 バンデルフォンの城跡にも何か情報がある可能性はあったが……今はひとつひとつ調査している時間はないのだ。

 

 サマディー。

 忌々しい大樹の枝を後生大事に所持していた国とはいえ、だ。

 騎士道精神の根付くあの国ならばやましくもないことを隠し立てもしないだろうし、いざとなればかの国で名高いグレイグの名前でもなんでも使ってやる。

 きっと何か情報があるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

「これはこれは、あなたはデルカダールの双頭の鷲、ホメロスどのではないですか! ようこそサマディーにおいでくださいました!」

「一介の騎士に対して、このような歓迎感謝致します。国王陛下に取り次いでいただいても?」

「えぇえぇもちろんですとも。ささ、どうぞこちらへ」

 

 数か月前、盗賊カミュに誘拐されたアイの捜索……もといレッドオーブを盗んだ国賊の指名手配の際に何度か足を運んだサマディー王国では以前よりも私の面は割れている。

 それでは民間の伝承の聞き込みをするのは不向きだろうし、悠長に話を聞いて回る時間の余裕はない。

 よってクレイモランと同じく初手から最高権力者に頼むことにした。

 

 我が王より、もしものために親書を預かってきたのだが今のところ出番はなさそうだ。

 私もそれなりに顔が売れていると見ても自惚れではないだろう。

 どこかの誰かはグロッタの町にでかでかと像をつくられて晒し者、もとい顔情報の全世界公開がなされているがあれと比べても羨ましくはない。

 強がりなどではなく本心から。

 

 今、グレイグは「勇者」の盾として戦うべきだ。

 グレイグより頑強で、忠誠心に厚く、武功をあげてきた上に……滅びの喪失と悲しみを知る者はいないだろう。

 私にはない経験を持つグレイグは「勇者」と共に戦うからこそ真価を発揮できるのだ。

 対して私は知略を巡らせる方が得手であり、それすなわちアイたちに同行して少しでも戦闘面で貢献するよりも別所から解決策を探し、死角より光明を掴んで目的を達成することこそ私の真価である。

 策というものは目には見えない。

 布石も、気づかれてしまえば効果が薄いだろう。

 

 こうして得意な分野を分担することで我らは双頭として一層のチカラを発揮できるのだ。

 

 とはいえだ、これまで一応真っ当に生きてきた人生で、真っ当に良い意味で他者に知られているというのは、私が築いてきた信頼の表れなのだろうか。それは素直に受け取っておく。

 それはそれとして今はそれを切り売りしてでも成し遂げたいことがあるわけだが。

 

「両陛下におかれましてはご機嫌麗しゅう」

「うむ、ホメロスどのもお元気そうでなによりですな」

 

 白磁の王妃がわずかに微笑む。

 刻まれた心労が目につく。

 

「じきにファーリスも来ます」

 

 赤き「勇者」の星の爆心地に最も近い人間の居住地であれば、如何にサマディー王国が陽気な国民性を持つとはいえひりつくような緊張感があるのは当然か。

 以前のような朗らかな笑顔ではなく、どことなく影のある王夫妻の顔を見ながら私は他人事のように思った。

 

 ある意味絶望を舐め尽くした私には、彼らのように怯え恐れることさえもう飽いたことだった。

 正確には、私はそのようなことが許される立場ではなかったし、無為に時間を消費することこそ恐れていた。

 私は誤った感情の発露の末路を知っている。

 執心し、目をくらませ、甘言に乗り、破滅した男の影を見ていたのだから、私はそうはならないのだ。

 正しき方へチカラを振るうために、立ち止まるわけにはいかないのだ。

 

 ほどなくしてファーリス王子が現れ、前に見た時よりも幾分か大人びた顔つきで王夫妻の横に立った。さて。

 

「単刀直入に申し上げます。サマディー王国につきましては、勇者伝説、特に勇者のつるぎについて如何ほどまで伝承されていることでしょうか。邪神との戦いに赴いている勇者アイへ影ながら一助するために、どうかお力添えを頂けますでしょうか」

「勇者伝説、か……恥ずかしながら、わが国では勇者についての伝承は少ない。勇者の星に最も近くに存在していたというのに詳しい事情も伝わってはいなかったのだよ。学者を呼ぶが、そなたが期待しているような情報を提供できるかどうかは怪しいものだ……」

「父上、申し上げてもよろしいでしょうか?」

「ファーリス、何か知っているのか?」

「はい。父上、先日勇者アイ一行はサマディーに来訪し、我が国の国宝であるガイアのハンマーを所望しました。ガイアのハンマーについては昔から伝わるものですが、見た目にもそう華やかな品でもありませんし真闇のきれはしほど有名ではないでしょう。どこで我が国の国宝としていたのかを知ったのかは定かではありませんが……少なくとも、勇者が所望したということは何か関係があることかと。

ホメロスさん、あなたは今『特に勇者のつるぎについて』と言いましたね。あなたの意図していることは分かりませんが、僕が最初に出会った時のアイさんは勇者のつるぎを持っていませんでした。そして前に来た時には光の現身のようなつるぎを持っていました。

なんでアイさんはハンマーを欲しがったのかちょっと疑問で。なんだかおかしいですよね、ガイアのハンマーはグレイグさんのような人が武器に使えるようなものでもありませんし、いくら古代より伝わるものとはいえ、あのハンマーはちゃんと重くて使えるものですから、用途が分からないんですよ。ハンマーには僕のような『勇者』ではない者には秘めたる力があるのかもしれませんが、僕は素直にハンマーとして使ったんだと思います。あれはどこまでも大地の精霊の名前を冠した、冠しているけれど、実用的なハンマーです。

じゃあ、何に? 僕は鍛冶のことはよく分かりませんけど、剣を作るときには金属を熱して、ハンマーで打ち据えて鍛えることくらいは知っています。アイさんはもう勇者のつるぎを持っているのに新しい武器を作る道具を所望したんですかね? それもちょっとおかしいですよね。何か心当たりはありませんか?」

 

 砂の王国、古代より引き継いできた大地のハンマー、双賢の姉ベロニカにより情報があった闇色に染まったというもう一本の勇者のつるぎ……。

 私の脳裏によぎったあの忌々しいつるぎの片方は、大樹のチカラによって与えられたものではなく、アイ自身が造りあげたものなのか?

 

「勇者アイは現在二本の勇者のつるぎを所有しております。一本は闇の大樹にて入手したもの。その場におりましたので間違いありません。王子は勇者アイが一本の勇者のつるぎを所持していた姿をご覧になっていたのですね?」

「あぁ! そうか! 二本目をガイアのハンマーで造ったのか! そうです、ホメロスさん。アイさんは一本の勇者のつるぎを持っていました。そしてそれからホムラの里の様子がおかしいという話をして……アイさんはたぶん向かわれたんだと思います」

「ホムラの里……古来より鍛冶で有名と聞いております」

「そうですね。土地が荒れているので鍛冶が里をあげての産業です。しかし最近は以前のような活気がなく、……あくまで噂ですが、ホムラの長は人が変わったようになってしまったと聞き及んでいます。しかしアイさんはホムラの里に向かった後、すぐじゃないでしょうけど勇者のつるぎを二本持ってホメロスさんに会っているんですよね」

 

 私が闇に染まった勇者のつるぎについて知っているのは伝書鳩により伝えられたからだ。

 だから直接見たわけではないのだが、ここは話を合わせておこう。

 

「はい。ホムラか、それともその先か、どこかは定かではありませんがガイアのハンマーを用いて勇者のつるぎを打ったのでしょう。ありがとうございます、ファーリス王子。とても有力な情報を得ることが出来ました」

 

 火山のふもと、ホムラの里。

 そうだ、火山だ。

 それも世界有数の火山である。

 これ以上勇者のつるぎを造り上げるのに向いている場所もないだろう。

 

 オリハルコンの入手先も、加工方法もわかっていないというのに私は大きな前進があったと感じた。

 

「ホメロスさん、……僕はあなたにこうしてちゃんと話せる機会に会うのは二回目です。一度目はレッドオーブを盗んだ国賊についての警戒を伝えに来た時でしたね。あの時、盗賊カミュが連れ去った三等兵アイの話をしてくれました。

僕は……すでにアイとカミュという旅人について知っていました」

「……」

「でも、あの時は何も言いませんでしたね。恐らく二人があなたの言う二人であると確信していたのに。僕の目にはとても仲のいい二人だと思っていましたし、他にも仲間がいて、旅芸人のシルビアさんまで彼らの一行に加わったようでしたし、どうにも悪いことをする人たちに見えなかったから、きっと同名の別人だろうって自分に言い聞かせて、黙っていたんです。

 ホメロス将軍は……こんなことを言うと気が引けますが、同盟国の将軍で、いくつもの功績を打ち立てた稀代の軍師だと知っていながら、僕はちょっと怖かった。()()()()()()ように思っていました。まったく違いました、全然、僕は人を見る目がなかった」

「いいえファーリス王子、あなたはとても正しい。詳細を語ると長くなりますが、あの頃の私は自覚なく巨悪の手先として『勇者』を『悪魔の子』として捕えようとしていたのです。私は……真相を知らずに勇者アイを部下としていましたが、それでも闇になんの疑いもなく差し出したでしょう。その結果、悪意も何もなく、信用と平和をいっぺんに失う悲劇的な結果となりましたでしょう。あなたは無意識にそれを感じ取ったのかもしれません」

「それは違いますよ、僕だってあの時アイさんが『勇者』だって知っていたら迷うことなくデルカダールやクレイモランに連絡したでしょうし、サマディーとしても彼らを捕縛しようとしたでしょう。あの時は何だか……詳しくは言い表せませんけど、あの時の僕はあなたのことを心底悪の手先か何かだと思っていたのかもしれません。けじめとして、僕はあなたに言っておきたかった。これからは絶対にそうは思わないことも」

「ありがたいことです。王子から見て私は他国の軍師ですからね、そのように思われてもむしろ当然でありますよ。軍師とはそういうものです。どうかお気になさらないように。王子の勘は正しかった、何を咎めることがあるでしょう? 分かりあえたなら、これから親交を深めていけば良いのですよ」

 

 あの日、私の運命が変わらなかったら。

 ファーリス王子の言う通り、私は本当にウルノーガの手先だった可能性がある。

 「勇者」を捕らえるために躍起になり、その果てにきっと悲しい最期を迎えていたはずだ。

 なれば、私は気を引き締める材料とできる。

 闇の甘言に乗った末路を見据えるために、そして報いるために。

 

「ありがとう、ホメロスさん。

あと伝えられることとすれば……ガイアは……大地の精霊といえば、正確な地名は分かりませんがどこかの地方では信仰の対象とか。もしかしたらそこも勇者ゆかりの地かもしれません。それくらいです」

「調べはついています。勇者アイがその正体を知られないまま拾われ、育った村こそ、大地の精霊信仰にあつい土地でした。王子の推測通りでしたら……何とも数奇なことですね」

「……本当におとぎ話の主人公のようだ、アイさんって」

「ええ、贔屓目抜きにも彼はいつか新たな伝説になるでしょう」

「歴史の転換点を目の当たりにしているんですね、僕たちは。

ホメロスさん、僕はあなたが動きやすくあるためにもあなたの真の目的を根掘り葉掘り聞いたり、この先の目的地を尋ねたりしません。でもきっと、デルカダールの鎧もなく、屈強な部下たちも連れずに、ホメロスさんがひとりで来られた姿を見たら……それはひたむきな献身なのだと思いました。どうか成し遂げてください」

「えぇ、必ずや、成してみせますよ」

 

 王子が真剣な顔をして手を差し出す。

 私はその手を握った。

 

 砂漠の熱い血潮を感じる、あたたかなその手と握手したのは間違いなく初めてだった。

どこ好き?

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