【完結】【自己ベスト記録】過ぎ去りし時を求めてSS~聖竜の勇者ルートRTA:24時間31分44秒22   作:ryure

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閑話 諦念の果てに、犠牲

 かつての私は諦めてしまった。

 アイが過ぎ去りし時を求めて、私のもとからいなくなってしまうことを受け入れて、ただ見送ったの。

 泣いても縋っても聞き入れてくれなかったんだから、と言い訳して。

 でも今は違う。

 今度は絶対に諦めたりしない。

 

 「勇者」という以前にアイは小さな私の弟なんだもの。

 私の罪の証で、私の幸せの証明。

 絶対に、誰にも殺させやしない、死なせやしないわ。

 それに今度は離さないの、行かせやしないわ。

 今度こそ。

 キミが誰を救いたくとも、どんなに後悔をしようとも、どこにもひとりぼっちで行かせはしないわ。

 だって、だって、私がまた手を離して、行かせてしまったから、キミはこんなにすり減ってしまったのだもの。

 

 誰にも言えない悲劇を胸の内で抱えるひとりぼっちな「孤高の勇者」になんてもうさせない。

 キミが望まなくとも、私はさせない。

 

 失敗した「マルティナ」が私の中で笑っている。

 まるで哀しい魔物になってしまったように、昏く、昏く笑っている。

 アイと過ごすことのできる私を妬んで、みじめにすすり泣いている。

 私はそんな彼女の怨嗟の声を聞きながら、あんなむごい過ちを繰り返すものかと決意する。

 どうせこの決意は目を覚ましたら消えてしまう儚いものだけど、少しくらいは胸の内に引っかかってくれると信じて。

 

 さぁ、「私」。

 言いなさい、悲劇の一切合切を。

 私はアイを失わないためなら何でもやるわ。

 

 この身を魔物にしてでもね。

 誰に後ろ指を指されようとも構いはしないわ。

 もう、後悔したくないの。

 「私」ならわかるでしょう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイは私の罪の証だった。

 嵐の日に離してしまった託された命。

 幸運なことに優しい人に拾われたアイは立派に大きくなって、もう一人でどこへでも行けるし、もう守ってくれる存在がいなくても生きていけるようになっていた。

 それでも守りたい存在ということには変わりないけれど。

 

 随分大きくなったけれど、私よりまだ小さな背中を追いながら。

 私は執拗に周囲を警戒する。

 アイに降りかかる一切合切が恐ろしくて、危険を見逃さないように警戒する。

 すべてを払いのけられるわけではないでしょうけど、それでも。

 

 アイは「聖竜の勇者」として生まれたけれど、それ以前に生まれる前から私の弟なのだから。

 古き王国、ユグノアの王子として平穏に暮らせるはずだったのに、特に子どもの今の時期なんて、穏やかな幸せ以外知らないはずだったのに、どうしてこんなに世界はアイに戦いを強いるのだろう。

 戦うなら私がやるわ。

 今度こそ私に守らせて。

 ね、私が姉なのだから当然でしょう?

 どうか私に守らせて。

 今度は絶対に離さないから。

 だって、私はもう子どもじゃない。

 あの時とは違うの。

 立派に戦えるのよ、小さな弟を守ることもできるの。

 何があろうとも離さないでいられるはずなの。

 

 だから、アイを戦わせないで。

 優しいアイが犠牲になろうとする姿を見たくない。

 

「姫さま、夜分遅くに失礼いたします」

「あらホメロス……こうして話すのは随分久しぶりね」

「はい。ご機嫌麗しく。マルティナ殿下は……高貴な生まれの娘たちが好む美辞麗句などお好みではないでしょうね」

「良く分かっているじゃない。ますます見直したわ。私たちには時間がないの」

「光栄です。では、端的に用件を」

 

 デルカダールを襲った二体の魔物を倒した後、アイは名実ともにデルカダールを救った英雄として歓迎された。

 本当なら、こうしてアイが認められるのは嬉しいはずだけど、今はそんなことをしている時間もないのに、といういらだちの方が募っていた。

 王国の姫として必要な儀礼であると理解していながら、後々のアイの為にはなるはずだと分かっておきながら、十四年間各地を旅して出来上がった、ただのマルティナという女は非効率に見える儀礼行為に眉を寄せる。

 だからさっきようやく、アイを休める場所に押し込んだばかりだった。

 流石にないとは思うけれど、今日という日をちゃんと休めないなら、万が一の襲撃の可能性を考慮して同室を買って出たロウさまとカミュが決して許しはしないでしょうからとりあえずは安心できる。

 

 さて。

 久しぶりに会った父の忠臣は、相変わらず食えない顔をしてうすく微笑んでいる。

 化粧で巧妙に隠した目の下の隈、本当はどれくらいどす黒いのかしら。

 

 アイの正体を知らずに、私の知らない二年間を過ごしたホメロスは、まぁ随分と丸くなって見えた。

 知っていた時よりもずっと歳を重ねたからかしら。

 それでトゲが丸くなって見えるのかしら。

 それはお互い様だけどね。

 でも、グレイグはいくつになっても相変わらずだったけど。

 

 私はホメロスの変貌にこれでも驚いたつもりだった。

 もっと鋭く、冷たく、食えない……そんな人物だと思っていたから、こんなに人情がある人間だと思っていなかった。

 こんなに誰かに心を砕き、それを人前で隠し通せないような……人間らしい姿を見せるなんて知らなかった。

 私の知っているホメロスはお父さまに見せる忠誠は本物に見えたけれど、グレイグとの友情だって嘘だとは思わなかったけれど、どこか影のある、冷酷で合理的な人物に見えていたから。

 

 今のホメロスは隠し通せないほど疲れ切っていたけれど、アイの前でつい心中を吐露してしまった時と同じく……人間らしい感情が見え隠れしていた。私も似たようなものなのかしら。

 

「ご覧ください、姫殿下」

 

 さっとガントレットを外したホメロスの手。

 すぐに周囲を気にして隠してしまったその手には、どす黒く変色した、魔力の火傷が手のひらから甲にかけての大部分を覆っている。それはあの戦いで負ったもの?

 でも私に見せる理由なんてないはず。

 それならむしろ公式には名誉の傷でしょう、あの歓待っぷりなんだから、表向きにはそういうものになってしまうはず。

 なら、なぜ見せてきたのか。

 理由があるはず。

 

「……こんなところで油を売っていないで、はやく医務室に行った方がいいわよ」

「お気遣いなく。これは治療した跡ですとも。詳しくはこちらの紙に記してあります」

「分かったわ。あなたのことだからこの行動にはすべて意味があるのでしょうね。

ねぇホメロス、デルカダールを任せたわよ」

「そのことにつきましてもそちらにあります。それではマルティナ姫、良き夜をお過ごしください。不足があればメイドにお申し付け頂ければ」

「あなたこそ早く……寝たほうがいいわね」

「痛み入ります」

 

 見た目は取り繕っていたけれどちっとも冷静じゃないらしい。

 むしろ今夜、誰よりも焦っているように見えた。

 見ようによれば怯えているようにさえ。だってホメロスの十八番(おはこ)のはずの言葉すらちっとも安定していないもの。一体何回私のことを言い換えるつもり。

 

 焦っていることを隠そうともせず、かなり強引に紙束を押し付けて、足早に去って行く後ろ姿。

 不意に、ホメロスの後ろ姿が華美な道化のような格好と重なる。

 ……道化?

 ホメロスは昔からずっと兵士じゃないの。

 甲冑を着ている姿か、私が小さかった頃の兵服の姿しか覚えがないはずなのに。

 なんだかくらくらする。

 なにか、知っているような。

 私の見間違えに理由があるような。

 

 でも、あんな格好ちっとも似合わないわ。

 我ながら想像するにしてもへたくそ。

 だって、だって()()()()()()は違うもの。

 

 何かを知っているような気がして、でも分からなくて。

 気づけない「何か」にくらくらする。

 ホメロスがこうして「勇者」のために何かをしているのに違和感があるのは間違いないこと。

 ホメロスからしてみれば、決して名誉や「勇者」のために動いているのでは無いのだろうけど。

 だって私の弟は真正の人たらしだ。

 人の心に入り込んで、決して消えない愛の形をしている。

 普段の人懐っこい態度がそうさせているのか、自己犠牲さえ疎まない献身がそうさせているのか分からないけれど……全力いっぱいで私たちのことを好いてくれることは伝わってくるもの。

 

 私はしばらく紙束を手にしていたけれど、外で見るのははばかられて、風に当たるのをやめて部屋に戻る。

 廊下には兵士たちだけがいて、私を見て敬礼した。

 静かだった。

 

 先に部屋に引っ込んでいたセーニャとベロニカはひそひそと話し合いに夢中みたい。

 扉を開けた音に気づく気配もない。

 

 私の部屋にはもともと私の分しかベッドがなかったけれど、城下町に魔物の襲撃があったばかりだとあれこれ理由をつけて客室からベッドを運ばせ、数人ずつで固まって眠ることにして正解だったわ。

 勝手知ったる自室のはずだけど、デルカダール王国の姫として過ごしていた頃はもう遠い夢みたいなものだからちっとも馴染めない。

 二人がいてくれなければ広い部屋できっと不安だった。

 

 テーブルに紙束を乗せる。

 慎重にめくると、そこにあったのは丁寧とは言い難い、あまりにらしくない走り書き。

 知将ホメロスの推論と、列挙された事実が書き連ねられていた。

 

 仲間の視点ではわからない、客観的なアイを取り巻く現状、同じ闇魔法の使い手としての推測。

 将として国を守れないこと、現状を放り出すにひとしい行いに許しを乞いながら、決して引く気のない決意が書き連ねてある。

 

 すっかり絆されて、すっかり変わって、そして失い難いものを得たホメロスは……勇者のつるぎがアイをあんな風に変えてしまったと強く思っているみたい。

 私には否定も肯定もできない事だった。

 だって、再会した時から既にアイは深淵の闇を纏い、私たちを遠くから慈しむように笑っていたのだもの。

 親が子を慈しむような大きな愛で包み込む。

 

 小さな体をめいっぱい無茶させて、戦いが終わると私たちを恐る恐る振り返る。

 無事でいることを理解したら瞳を潤ませて微笑む。

 どこかへ消えてしまうんじゃないかと恐れるほど儚い姿に手を伸ばす。

 アイは確かにそこにいるのに、どこかへ去ってしまうのではないかと恐れて。

 

 アイ、アイは今も誰かに想われている。

 私はそれがとても嬉しいの。

 きっとホメロスは手を打つでしょう、セーニャもベロニカも別の方向から何かをやってみせるでしょう、ロウさまやシルビアさん、カミュもグレイグもきっと私たちとは違う方法の何かを考えているはず。

 アイが育ったイシの村ではペルラさんと幼なじみの女の子がいて、みんな無事を祈ってくれているはずなの。

 

 なのにキミはちっとも分かってない。

 私たちの感情も。

 大きすぎる慈愛を持って私たちを守ろうと必死。

 私たちは両想いなのに、アイは私たちの方を向きながら何にも見えていないの。

 でも仕方ないわ。

 まだアイはいろいろ周囲を見られるほど大きくないのだもの。

 

 もしアイが「勇者」でなければ。

 あんな闇のチカラがアイに取り憑き、そのせいで望まぬ畏怖を浴びずに済んだのに。

 もしアイが「勇者」でなければ。

 こんな熾烈な戦いを知らずにいれたかもしれないし、魔物を恐れて自失した次の瞬間に剣を握る必要もなかったかもしれない。

 真剣の戦いを知らない、ただの私の弟でいられたかもしれない。

 

 あぁ、アイが「勇者」でさえなければ!

 自己犠牲が過ぎるアイが、自分の命を削ってまで魔法を唱えて戦う姿を見なくてよかったかもしれないのに!

 闇のチカラを使役して、自分が戦いに身を投じるきっかけになった闇の大樹に祈りを捧げて、敬虔なまでに愚直に戦う姿を見なくてよかったのに!

 ボロボロの体で敵を打ち倒し、私たちを見上げてこっちの心配をする。

 いつも怖がっている。

 いつも、何かに怖がっているアイ。

 自分が傷つくことを恐れないのに私たちが傷つくと、心底辛そうな顔をするアイ!

 

 あぁ神さま!

 あぁ大樹よ!

 私は代わってあげたいのです!

 たったひとりの私の弟なのです!

 守らなきゃいけないのです、今度こそは!

 今はもう、エレノアさまに託されたからじゃない、奇跡的に再会できたからこそ、私が本心から願っていることなのです!

 

 アイに宿る、勇者のチカラ。

 あれはとてもとても尊いもの。

 世界にただ一人だけが持つ、聖なる証。世界の希望。

 それは分かっているのに。

 

 尊敬するアーウィンさまが、お母さまのように優しかったエレノアさまが、尊い命を賭して守った一人息子が平穏に過ごせないことがこんなにも歯痒い。私が代わってあげられたら!

 

 なんとかして勇者のチカラをアイから引き剥がせないかしら。

 私は……それが出来てしまうことを()()()()()はずよ。

 勇者のチカラ自体はきっとそんなことで失われたりはしないけれど、アイの勇気が失われることはないけれど、ほんのちょっとの間でいい、私が「勇者」に成り変わることができたら……アイはただの少年として、ただの私の弟として過ごせるかもしれない。

 

 「勇者」としてのしがらみも、闇のチカラの侵蝕も、全部「その瞬間」だけ肩代わりできるかもしれない。

 全部、夢物語の仮定だけど……可能性は、ある。

 アイがただの少年として過ごすことができる可能性があるなら。

 

「ねぇ、セーニャ、ベロニカ。勇者のチカラって……」

「ですからお姉さま! 全部、大樹が原因ではありませんこと?」

「セーニャ、ちょっと落ち着きなさい。ごめんなさいマルティナさん。何かしら」

「いいえ、お取り込み中だったのね」

「そんなことないわ。ただセーニャが私の隣でぼーっとしているばかりじゃなくて主張するようになって嬉しいくらい。でもちょっと……妙に過激なのは何故かしら」

「マルティナさまもそう思いますよね?」

「えぇと……何の話かしら」

「あら……私、すっかり夢中になって話してしまっているつもりでした。ごめんなさい。私、思い当たってしまったので、その考えに夢中になっていました。もう少し考えを整理してからお話致しますわ。我ながら突飛でもないことでした」

「そうね、それがいいわ。双子の私はともかく他の人から聞いたらかなり突拍子もないわよそれ。ラムダの人間に聞かれたら気が狂ったとでも思われそう。分かっているなら大丈夫だと思うけど……」

「はい……そうですわね……」

 

 何の話かは分からなかったけれど。

 こんなに必死なセーニャは、きっともう何も失いたくない。

 私も、もう誰も失いたくない。

 ベロニカは……失う覚悟が、とうに出来ているかもしれないけれど。

 

 セーニャの、どこかあやうい、だけど強い光を宿した目を見て思う。

 小さいベロニカの手をひしと握りながらセーニャは誰から見てもわかるくらい震えていた。

 そうよね、今日の戦いは、かなり堪えたもの。

 破壊されていく町、逃げ惑う人々、奪われた太陽、禍々しい気配、襲い来る魔物、そして……すっかり光を失ったアイの瞳。

 

 セーニャは聖地ラムダで「勇者」の導き手として育ったのだから……私とはまた違う意味で幼い頃からアイと因縁があると言っていい存在。

 拠り所であり、アイデンティティであり、失ってしまったら彼女自体も不安定になってもおかしくない。

 そうでなくても繊細で優しい子なのだもの。

 

 私はといえば、とうとう()()失ってしまったかと思ったわ。

 幸い、アイはホメロスの喝でまたちゃんと私たちの方を見てくれたけれど、今度私の弟が恐怖した時はどうなるかなんて分からない。

 アイは「勇者」で、故郷では大人として認められているのかもしれないけれど……でも、私にとってはずっと年下の子どもなの。

 だったら守ってあげたいと考えても何もおかしくないわ。

 私はアイの強さを見ないふりして、そう思い込む。

 

 ……小さくとも強いキミ。

 先陣を切って進む、勇ましい背中を知っている。

 傷ついても決して倒れないキミは、カミュのように気遣って、ベロニカのように高潔で、セーニャのように優しくて、シルビアさんのように思い遣り、ロウさまそっくりに知恵を蓄え、グレイグのように頑強で、みんなのいいところを目一杯吸収して強くなったアイは、アイらしくいつでも丁寧で、みんなのことが大好きで、そして……だから、私の前からいなくなってしまう。

 アイは、いつだって穏やかに私たちの平穏を祈っている。

 祈って、願って、叶える手段を見つけたら止まらない。

 世界を救う「勇者」たれ、と定められたから?

 いいえ、アイこそ慈しまれて育ち、それを返せる人間だから。

 

 この時ばかりはアイの穏やかな育ちを恨む。

 アイが、ごく普通に自己愛が肥大したただの人間だったら。

 自分の死を恐れ、自分が傷つくことを疎んでくれたら私の前からいなくならないのに。

 アイが私たちのことをこんなに愛してくれなければ……アイはきっと私の前からいなくならなかったのに。

 幸せに育ったアイはごく自然に私たちの平穏を願ってしまう。

 

 アイ、自分勝手になって。

 自分を一番可愛く思って、傷つきたくないって願って。

 私はそう思っているのよ。

 

「勇者のチカラって……別の人間が横から奪ってしまうなんて出来ると思う?」

「……?」

 

 落ち着いた二人に向けて言い直した言葉を、今度ははっきり聞いたベロニカは訝しげに首を傾げた。

 セーニャも鏡のように首を傾げていたけれど、今回は彼女の方が理解が早かった。

 

「マルティナさま。チカラというものは目に見えません。触れることの出来る物質と違って、手で奪えるものではありません。仮に勇者のチカラが肉体に埋め込まれた……例えば核、というべきなにかから生成されていたとしても『勇気』というのは心の持ちようですから、完全に奪うなどできるはずがありません。

私の肉体は……今は見た目の年齢こそ違いますが、お姉さまとそっくり同じなのです。流れる血も、髪も、皮膚も、魔力さえも。こんなにそっくり似ていても違いますでしょう? 心が、魂が違うから異なります。チカラの根源は心のありようなのです。ですから私には炎の魔法は使えません。本当なら……双子なら、素養は同じはずなので出来るはずなのですが、お姉さまがベロニカで私がセーニャである以上は異なるチカラの持ち主なのです。

私は、勇者のチカラを奪うことなど出来ないと考えます。仮に一時的に奪われたように見えても、本当の意味で失われることはないでしょう。大樹の方がどうにかなってしまえばあるいは、……いえ、これは忘れてください」

「ありがとう。……つまり、仮に、一時的にはチカラが奪われたようには出来るのよね?」

「確定的なことではありませんが、そもそもチカラというのは無から湧いてくるものではありませんから。例えば私の魔力をすべて奪い尽くす何かがあったとしても私はそのうち魔力を取り戻します。私が気力を失うような出来事に遭遇しても、いつか立ち直ります。死、以外の何物にも、私たちは本当に奪われることはないと考えます。打ちのめされたとしても、立ち上がることはできます。しかし魔力を奪われた私は一時的には魔法が使えないでしょうし、打ちのめされた人間は少しの間は落ち込むでしょう? あるいは立ち直れないかもしれないのです」

「そうね、そうよね。それだけ分かれば十分だわ。要は一瞬の目くらましになればいいんだから……」

「あの、マルティナさん? 一体何の話なの?」

「あらごめんなさい。私もすっかり自分の世界に入っちゃって。難しいことじゃないの、ただ、私は姉として……いざと言う時があったなら、アイの痛苦を代わってやれないかな、と思っただけ」

「……」

「決して褒められることじゃないわ。私だってほかの誰が画策しようが止めるもの。もちろん私だって痛い目に遭いたくなんてないし、アイは望まない。だけど方法があるかどうかを知っているか知らないかは大きな差になるはず。

良く言うでしょう。代わってあげられるものならって……勇者のチカラを、奪えたら。きっと『勇者』としての苦痛も重荷も肩代わりしてあげられるでしょう?」

 

 「代わってあげたい」。

 重い病気、あるいは酷い怪我をした親しい者に叶わないと知りながら思う常套句。

 でも、私の願いは叶う可能性が、僅かでもあるなら、賭けたい。

 

「マルティナさん。あなたは、本当に……いいえ。その覚悟に口を挟もうだなんて思わないわ。私は不可能だなんて言わない。それに、自己犠牲に対してかける言葉も持たないもの。

マルティナさん、ウルノーガはどうして大樹に現れたと思う? あれはウルノーガの野望を叶えるために勇者のつるぎと、勇者のチカラを狙っていたからとしか考えられないわ。だから、不可能だなんて私は言わない。方法がなければ慎重に『勇者』を『悪魔の子』なんて呼んで、ありもしない悪評を広げて待ち構えていたウルノーガが現れるはずなかったもの。しもべの一人も連れずにね」

「ありがとう。否定しないでいてくれて」

「ううん、だって、マルティナさんは糾弾される所以も、選ぶべきでないということも分かって言ってくれたんだもの」

 

 私は決して戸惑わない。

 その方法を探さないといけないわ。

 それがアイを貶める結果になったとしても。キミがこの世界に生きていて、キミがそこにいてくれるなら安い代償だわ。

 私はもう離さない。

 もう別れたくない。

 もう、見送りたくないの。

 もうひとりぼっちになんてさせない。

 決して離さない。

 今度は、離さない。

 

 ホメロスは勇者のつるぎを奪い、私は勇者のチカラを奪う。

 それでアイがただの少年に戻れるならこれ以上嬉しいことはないのよ。

 一方通行の感情だけど、私の姉としての想いをどうか受け取ってほしいの。

 世界中から糾弾される結果になろうとも、キミが()()泣いてしまうのだとしても、私は今度こそ、絶対に離さない。




悲劇の再現その2 勇者のチカラを奪う

この間アイくんはグレイグに部屋まで運搬され、カミュにベッドに突っこまれている

どこ好き?

  • RTA部分:数値付き解説
  • RTA部分:ストーリー解説
  • RTA部分:走者の他作語り
  • 小説部分:アイ視点
  • 小説部分:カミュ視点
  • 小説部分:セーニャ視点
  • 小説部分:マルティナ視点
  • 小説部分:ロウ視点
  • 小説部分:シルビア視点
  • 小説部分:グレイグ視点
  • 小説部分:ホメロス視点
  • 小説部分:その他視点
  • 全般:再構成ストーリー
  • 全般:原作死亡キャラ生存
  • その他(感想・コメントへ)
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