【完結】【自己ベスト記録】過ぎ去りし時を求めてSS~聖竜の勇者ルートRTA:24時間31分44秒22 作:ryure
「おはよう、カミュ。おはよう、ベロニカ。おはよう、セーニャ。今日、晴れて良かったぁ」
久しぶりのベッドで、ぐっすりよく寝て満足したという風体でアイはにっこり笑って見せた。
初め、看守の若いデルカダール兵が飯の
性格は明るく、楽天家のようで激情家、だけど底知れないお人よし。
今時こんな人間がいるか? ってくらい人がいい。
そんなんじゃ、大樹の闇にさらわれて次の夜を迎えられないだろうってくらいいい人間だ。
世の中は甘くないとオレは知っているのに、そんなアイを見てもイライラしないのも不思議だった。
……甘い人間なのに、この世で一番闇の大樹に愛されている存在、「聖竜の勇者」だと。
大げさな肩書が付きまとっているが、実のところ、なんとも疑ったのが馬鹿らしくなってくるのどかな明るい人間だ。
実際、オレはこうして脱獄は成功し、デルカダール王国とは別の大陸まで逃げることまで成功した。
見てない間ムチャクチャしやがって、オレと合流するまでの二年もデルカダールで兵士をやっていたとかマジか? 情があったら話くらいは聞いてくれそうなグレイグのおっさんはともかく、あのホメロスの野郎がアイの正体に気づいたらどうするつもりだったんだ? 二年間の給料を貯めていたおかげでそうそう軍資金には困らないってそういう問題じゃないぜ相棒!
「聖竜の勇者」という……世間では悪魔の子だと呼ばれる奇跡の存在。
その割には手の届きそうな、……オレの相棒だと違和感なく名乗れる、田舎から出てきた、ごく普通の少年のように見えるが、「勇者」の名に恥じない闇の大樹の加護を受けた存在だとすでに実感している。
最初、ちょっと本当か?
と疑ったんだが、目を伏せたアイが勢いよく地面にドルマをめり込ませるのはちょっと怖かったもんだが……。
これが闇の大樹のご加護の力だよ、信じた? と軽く言っていたが、確かにその年齢でドルマを使いこなせるなんて相当な使い手で、まさしく闇の大樹に選ばれし勇者に相応しいと言えるが。
相棒だったはずのオレが、再会したはずの仲間が、よりにもよってもう一度旅をすると言ったオレが信じてくれないと思って焦ったんだよな?
「今日はサマディーに行くんだったね。まやみのきれはし、だっけ。サマディーにあるといいな」
「そうね。大樹の枝ならきっと勇者を導いてくれるはずよ」
アイはベロニカが無事な姿を見るのは嬉しかったんだろう不思議な目付きでベロニカを、次にセーニャを見ると、明るく笑った。
「大樹の枝! 大樹のお導きがありますようにって感じだよね! すっごく縁起良さそう! じゃあ行こうかカミュ!」
勇者の証を隠すためだろう、四六時中ガントレットのはめられた手がオレの腕を掴んで引っ張る。
まるで小さい子どもみたいだ。
たしか十四っていったか? 三つも下なら子どもだな。
あの時のマヤとあまり変わりもしない……。
そんな勇者サマを利用するために同行しているなんて知られたら軽蔑されるかもな。
いや、されないだろうという謎の確信があるが。
グイグイと腕を引っ張られ、おかしくって笑いながらついていく。
アイは天真爛漫でこっちまで笑顔がうつっちまう。
だがアイ、こんなに力が弱かったか? どうやって持っていんだってくらいデカい剣をいつも持っていたよな? 身長くらいあるドデカい大剣を魔物相手に振り回して、いつでも仲間を振り回すくらい元気いっぱいで、なんでも斬り伏せて見せていたのがアイじゃなかったか? 信じられない気持ちで腕を見ようとしたが、オレの体は、オレの意思では微塵も動きやしない。それどころか、この細い意識を保つことで精一杯だ。勇者の奇跡がなければ過去に遡るなんて奇跡を起こせるはずもなく、オレはただの時の残滓に過ぎないのだから。
「おいおいはしゃぐなよアイ。サマディーって言ったら四大王国……じゃなかった、三大王国のひとつだ。もしかしたらデルカダールの追っ手がいるかもしれないんだぞ?」
「いないよ。僕にはわかるんだ」
「へぇ?」
「なんとなくね。勇者のカンってやつ? 大丈夫だよ、それにデルカダールの知将のホメロスさま……ホメロスさまは、僕のこと勇者だって気づいていないと思うしね。悪魔の子を二年も雇い続けるなんて気づいてちゃしないでしょ? 捕まえたいならいつでも捕まえられたさ」
「確かにな」
「ホメロスさまは僕のことを、兵団の中で一番チビで、一番年下だったから、末っ子みたいに可愛がってくださったよ。僕、勇者じゃなかったら今頃脱獄したカミュをしょっぴいてホメロスさまに褒められていたかもなあ。よくやったアイ、流石ホメロス隊の兵士だな! 褒めてつかわす! って……」
「おいおい相棒」
「……入隊するキッカケのときに、僕は自分が勇者だって知ったんだ。入隊する理由は勇者だから、じゃないけどね。幼なじみを、魔物を倒せなくて怪我させちゃったから、村のみんなが次は倒せるようにチカラをつけて来いって送り出してくれたんだよ。
でもね、まさかデルカダールでは勇者のことを悪魔の子だなんて呼んで目の敵にしているなんて知らなかったから、咄嗟に隠しちゃった。それだけだよ。
勇者は世界を救うんだろう? 勇者は、きっと何かの間違いで勘違いしているデルカダールだって、グレイグさまだって、ホメロスさまだって救うんだろう? ならこれでいいんだよ。さっ行こう!」
そうやって、全部を救うんだろう。取りこぼした何もかもを救いあげようとするんだろう。ベロニカのことも、マヤのことも、ロウじいさんのことも、幼なじみのことも、……オレのことも。今度はなんだ? 敵だったホメロスの手も掴んだのか? なぁ、どうしたらお前自身を救える? もう一度、お前と旅をすることはできても、オレは、見ていることしか、できやしない。ひとりぼっちで時をさかのぼるなんて、させたくなかったのに。オレたちは、みんななにかを失い、後悔したが……後悔しても、アイを犠牲に世界を救ってほしいとは思ったりしなかった。ああ、今のオレはそのうち霧散する記憶の破片。忘れてしまった夢よりもおぼろげなオレの意識。
手を引かれる感触が少しくすぐったくって、どこか懐かしくって、オレは誤魔化して年上ぶる。
しょうがないな、と言わんばかりに。
ぐいっと引っ張られるので転ばないように踏ん張ったら、何故かアイは振り返って、あれ、行かないの? と首を傾げた。
いや別に……そんなに強い力で踏ん張ったわけじゃないんだが。
兵士だったわりには引っ張る力、弱くねえ?
気をつかってくれているのか?
不思議な違和感を覚えつつ、オレは手を引かれるまま歩き出した。
「お買い物終わり! 荷物整頓も終わり! 何があっても準備万端! じゃあお城に行こう!」
「薬草とブレスレットしか買ってないじゃない!」
「うーんいい意見だよベロニカ。でも考えてみて、あの皮のドレスや踊り子の服は僕やカミュには着られないだろ。でもブレスレットは使いまわせるんだ! アクセサリーで防御力を上げるべき!」
「あんたたちもう両腕にブレスレットしているじゃない!」
「いやまあそうなんだけどさ」
「大丈夫なのかしら……」
「大丈夫大丈夫! さあ、お城お城! お城に行こ!」
そのまま駆け出したアイを慌てて追いかける。
生き急ぐように、いや、「ように」な訳があるか。
生き急いでいるとしか思えない。
魔物の闊歩する外を馬で器用にぬって進み、一日で進む距離を大きく超えて移動する。
ホムラからサマディーは結構な距離があるってのに。
足をとめず、寝る時以外休まず、アイは進む。
オレたちがへばるようならアイは置いていくだろう。
冷たいからじゃない。
アイが止まれないからだ。
オレたちは何故かそれがわかっていて、必死でついていった。
オレは、オレたちはその背中を追っているとなんにも言えなくなってしまう。
休め、止まれと言いたいのに、心の底から言いたいのに、言ってはいけないとも思っていた。
アイは浮かべた明るい笑顔のまま王子の頼みとやらを聞き、珍しく夜までじっとしていたと思えば替え玉ウマレースの参加をあっさり決めてしまう。
僕は乗馬が得意なんだ、知っているだろう?
なんて笑いながら、パドックへ一人で向かったアイはそのまま一位をかっさらった。
「真闇のきれはし」の話がうやむやになりそうになりつつもお人好しにも魔物の討伐を引き受ける。
シルビアというサーカス芸人が魔物討伐についてこようとするのもあっさり受け入れる。
まぁこれはオレたちも頼れそうな人間が魔物退治についてくることだし、異論はないが……いろいろと素直に受け入れすぎじゃね?
ほいほい言われた通りにしているなんてよ……お人好しすぎて、これまで騙されたりしてこなかったか?
「ついでに砂漠の掃除とかしとこうか?」
なんて言って突然砂漠の魔物を狩り始めたのには驚いたが。
人畜無害そうな顔をして、闇の大樹から吸い取った闇のチカラを行使し、本来光の象徴である勇者が……とは聖地出身の双子の話だが……魔物をバッタバッタと闇へ送り返す。
いや、光に還している、だったか?
オレにはそのあたりのことはわからなかったが……かつてのアイはこんな戦い方をしなかったが、強いことには間違いない。
そうしてしばらく魔物を蹴散らしていたが、不意にアイは戦うのをやめた。
「こんなもんかなぁ。じゃあデスコピオン捜索も本腰入れようか。こっちにはいなさそうだね」
「じゃあさっきのは何だったっていうの?」
「捜索してないつもりはなかったけど……すごく強い魔物だって聞いているよね、デスコピオンって。人間を襲うらしいけど、多分普段は同じ魔物を食べていると思うよね?
ならほかの魔物だって死にたくないからそいつがいたら怯えて隠れたり、逃げたりしていてもおかしくないけど、このあたりの魔物は別に変な行動してないからいなそうだし、もういいかなって。いなそうなところを探すより、まだ見てない、もっと砂漠の奥の方行ってみようかなって。あの洞窟の方とかさ」
「なるほどね。言い分はわかったわ。でも……」
「うん。あの洞窟入り口のキャンプ地で王子一行が……ファーリス王子がもうへばっちゃっているから今日はここまでだろうね。明日に向けて休む感じかなぁ……みんな、早いけど今日はお疲れ様! ホムラからの移動もあったしゆっくり休もうね!」
遅れて近寄ってきた「まほうつかい」を顔色一つ変えずにドルマで消し飛ばしながら、アイはにっこり笑った。
そんなオレたちを……というよりアイを、一歩離れたところから見ている芸人シルビアは何を思っているのか。
見た目なら一番幼いのはベロニカだが、一番幼いような無邪気な振る舞いをしているのがアイで、だがオレたちを率いているのもアイで、最も強いのもアイで、最も経歴が謎なのもアイだ。
元兵士という話はしていないが、アイの戦闘は兵卒らしいきびきびした動きだし、剣の型もシルビアなら見抜いていそうだ。
シルビアにはもちろんアイが勇者だと話してはいないが、得体の知れないあいつならなにかを察していてもおかしくはない。
アイがこの前まで国をあげて「悪魔の子」を捜索し、忌み嫌っているデルカダールで二年も兵士をやっていたことまでは分かりそうにもないが……。
アイはベロニカの手をそっと取ると壊れ物でも扱うようにキャンプ地にエスコートした。
盗賊のオレには正しいエスコートの作法なんてわかりやしないが、多分アイも知らないんだろう。
ただ、優しく。
ただ、愛しげに。
だが、なんだろう。
アイのベロニカを見る目は多少特別だが、この中で死んじまったのはベロニカだけだから当然だったがアイはセーニャを見るときも、シルビアを見るときも、オレを見るときも似たような、何かまぶしいものを見るような、大切なものを見るような、くすぐったい目で見てくる。違いは分からないが、少なくともアイは同じ扱いをしているように思えた。
今日の朝はオレの腕を引っ張り、夜に近づいたらベロニカをエスコートする。
じゃあ明日はセーニャとシルビアか。
なんて、違和感なく想像できた。
アイは誰よりも仲間のことを大事に思っているから。
すとんとオレは納得した。
そういうものなんだと。
「たき火を囲んでするキャンプもいいもんだねえ……」
「砂漠の夜は寒いしなあ」
「昼は昼ですっごく暑いからカミュも兵士さんたちもへろへろになっていたじゃないか。昼はどっかで我慢して、夜に進んだ方が良かったんじゃない? まだ寒い方がマシな気がしてきたよ」
「違いないな」
すっかりバテて転がっているサマディーの連中を起こさないように小声で話し合う。
アイは全員を見回して、それから寝転んだ。
「しっかし……騎士の国の王子サマがあれで大丈夫なのか?」
「うーん。自国のことを愛する気持ちに嘘はないと思うけど。見栄っ張りで、ずいぶん大きいことを言っているけどさ。お調子者で、後先考えてない感じ?」
「散々な言いようだな」
「だって替え玉ウマレースを見ず知らずの旅人に頼むんだよ。国民や両親をガッカリさせたくなかった気持ちはあるんだろうけど……ねぇ? でも悪人じゃないさ、間違いなく」
アイは目を閉じる。
もう寝るよ、と手をひらひら振って話をやめる。
そのまますぅ、とすぐさま寝息を立てる。
寝ている姿を眺めていても仕方ないのでオレも寝転がった。
女神像の加護を疑う冒険者はいないだろう。
オレだって疑っていない。
盗賊の視点からもこんな大所帯から物をくすねるのはリスクが大きすぎるし、サマディーの一行は身分を隠そうともしていないからどのような集団なのかもバレバレだ。
だから見張りを立てるのも馬鹿らしく、オレも早々に眠ることにした。
体の意識が弱まっていくに従って、オレの曖昧な自我ははっきりする。とはいえ、もうオレの意識も長くはないだろう。オレが意識を保っていられたのはきっと、預言者の粋な計らいに過ぎない。アイのように特別な力を持たないただの人間なのだから。
……かつてのアイはこんな無邪気なやつじゃなかった。アイはこんなに表情のあるやつじゃなかった。アイはこんなに闇の魔法ばっかり使うやつじゃなかった。アイが無理をしているのをオレは知っていて、オレたちを不安にさせないようにしているのだと気づいて、だけど何も出来ないのが歯がゆかった。
なぁアイ。結構無理しているだろ。なぁ相棒。今度はマヤを助けてくれるつもりなんだろう。ベロニカやロウじいさんを死なせないように、幼なじみの死をあとから聞いて涙することのないように……あの悲劇を繰り返さないように。なぁアイ、お前は無理をしているんだぜ。オレなんかじゃ勇者の歩む道を止められやしないだろうが、何も知らないオレが助けになるかも分からないが、ただ思うことくらいは許してくれ。
お前だって死んじゃならないんだ。お前だって失っちゃならないんだ。闇に蝕まれてまで力を求め、前より弱い体に鞭打って前へ進むなんて、やめてくれ。闇の大樹の成り立ちなら孤児で学のないオレでも知っているぞ。遥かな昔、光と闇の大戦があり……光は闇に汚染されたという。しかし、確かに光は息づいていて、ある時聖竜の選んだ光の子、勇者が大いなる闇を払い除け、世界に平和が訪れた。光は闇に打ち勝つことが出来る……ってな。
なぁ、光の子が闇を受け入れたらどうなるんだ? アイ。現に今だって前よりお前の力は明らかに弱くなっている。平気そうにしているが、他にもなにか影響が出ているんじゃないか? オレは……妹が、マヤが大事だ。だからお前が救ってくれるって信じている。お前のことを信じているし、助けようと思ってくれたことが嬉しい。だけどな、同時に相棒が無茶するのを黙ってみているのも辛いことには違いないんだぜ。なぁアイ。お前が時のオーブを割って、過ぎ去りし時を求めた時……無理やり止めたらよかったかもしれないな。前のお前は、あの時……世界に唯一残った光そのものだった。闇を照らす、本当の勇者だったさ。今は、今にも闇の化身に成り果てそうなくらい自分を酷使しているのに……アイ、お前は、あの時とおんなじ顔をして、なんでもないような顔をして、……。
なぁ。勇者を選んだ聖竜め。聞けよ。アイが決して諦めず、自分を犠牲にする人間だって知っていて選んだんだな? 大樹にたどり着いたら文句の一つや二つくらいなら言ったって構わねぇだろ……。
アイ。勇者の盾がいない間はオレが盾になってやる。姉ちゃんがいない間、兄貴分でもなんでもやってやる。相棒ももちろん休まないぜ。だから、無理するな。そう声をかけることも出来ねぇけど、わずかばかりの既視感に取り憑かれた「オレ」ならやり遂げるさ。なんたってオレたちは相棒だからな。
だから、……思い出せもしないオレを決して許さないでくれ。
走者「RTAゆえの低レベル攻略でそろそろアイくん素殴りの与ダメが辛くなってきましたね」
どこ好き?
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小説部分:アイ視点
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小説部分:その他視点
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全般:再構成ストーリー
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全般:原作死亡キャラ生存
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