【完結】【自己ベスト記録】過ぎ去りし時を求めてSS~聖竜の勇者ルートRTA:24時間31分44秒22   作:ryure

9 / 45
閑話 賢者ロウの哀惜/アイの恩讐

「旅人ならきっと腕も立つだろう? 参加しなくてもきっとほかの観客よりも戦いに持つ感想は違うはずだ。無理にとは言わないが、是非この後闘技場に試合を見に来てくれ!」

「時間が合いましたら行こうと思います。度々丁寧にありがとうございます、ハンフリーさん」

 

 この街で起きている連続闘士失踪事件の犯人として怪しんでいるチャンピオン「ハンフリー」。

 奴の動向を不審にならない程度に見張っていた時に、不意に視線が吸い寄せられた。

 

 そこにいたのは五人の若者。

 旅人らしく、重装備ではないが武器や防具を装備し、荷物を持っている。

 ハンフリーはその旅人のひとりに向かって熱心に大会の宣伝をしていたらしいのだが……ハンフリーと別れた旅人の少年がふいとこちらに顔を向けたのだ。

 わしたちを見た、というよりはわしたちのいるグロッタ下層の方を見やった、というだけのことだろうが。

 

 やや伸ばされた茶色の髪を後ろにまとめた少年の姿は、つい名前を呼んでしまいそうになるほどエレノアにそっくりで……。

 いいや、分かっている。

 エレノアはあの惨劇の日に死んだのだ。

 それにこの少年は「少年」だ。

 背格好から目の色まで違う。

 髪色と顔立ちが似ているだけの赤の他人だろう。

 

 事実、あの日死んでしまったと思われていた孫のアイは、空のような青い目の赤ん坊だったのだ。

 成長による瞳の色の変化の例はないわけではないが、ごく稀。

 さらにあの目は赤ん坊の時のエレノアにもそっくりだったのだ。

 だから、アイであるはずがない。

 

 ……本当に?

 

 ハンフリーを笑顔で見送っていた少年だったが、彼が見えなくなるとふっと無表情になった。

 その光の宿らない、虚ろな濃紫の目がぼんやりとグロッタ下層を見やる。

 それから教会の方角を見、仲間たちと歩き始めた。

 一見、年若い彼はメンバーの一人にも思えるが、よく観察すれば彼こそが一行のリーダーなのだろう。

 一行を先導している。

 青い髪の青年と和気あいあいと喋りながら歩く姿は先程までの虚ろな目とは違う、明るい輝きを宿し、年齢相応の少年らしいものに見えたが……果たしてどちらが本物なのか。

 

 しかし、彼らの雰囲気は非常に良く、正しく信頼しきった仲間といったもの。

 それはどこか懐かしいような、そんな雰囲気があるような……。

 

「ロウさま……あの少年……」

「うむ」

「すみません、ロウさま。私には彼がエレノアさまの生き写しに見えてならないのです。それに初めて会った気もしません。他人の空似かもしれないのに、どうしてか不思議なほど胸の内がざわつくのです。彼だけではなく、彼の仲間たちにもなにか、懐かしいものを感じます。あんな個性的な面々と知り合いならば覚えているはずなのに、全く覚えがないはずなのに……どこか懐かしいような、親しさを感じます」

 

 気丈な姫の瞳が、揺れていた。

 

「ははは、何言ってんだアイ! 大会に参加していたら、オレたち相棒なら優勝できたさ、弱気になるなよ! オレたちの連携はあのサソリだってぶちのめしたんだろ? ……まあトドメの時オレの意識はなかったが……こら、笑うな! あんなキツイの食らったら意識くらいぶっ飛ぶぜ! ちゃんと倒せたからいいだろ、オレの陣も役に立ったんだろ?」

「そうだけどさ、気絶したのはカミュだけだったよ!」

「それを言うなって!」

 

 笑いあっている青年が親しげに少年……アイの背を叩いた。

 少年はくすぐったそうに笑った。

 いや、それよりも。

 少年の名前が亡くしたと思っていた孫と同じ名前とは。

 エレノアにそっくりな面立ち、妙な既視感、孫と同じ名前。

 これを偶然とどうして片付けられようか。

 

「アイ……あの少年の名前はアイというのか……?」

「ロウさま、防具で手の紋章は確認出来ませんが……やはり、他人の空似というには似すぎています」

「うむ。話を聞くに仮面武道大会に参加はしないようじゃ……しかし、旅人ならばしばらく観光として滞在していてもおかしくあるまい」

「はい」

「彼が『アイ』だと仮定したとして、あの嵐ではエレノアの手紙まで無事だったかどうかはわからぬ。手紙があったとしても、それが伝わったかどうか……あのように五体満足で育っているということは、むしろ真実を知っている方が危険として自身の生まれを知らないことだってありうるのじゃ。

確実に紋章を目にするまでは……確信はできん。しかし、根拠もなくわしも彼に親しみと懐かしさ、それから妙な既視感を覚えておる。このような出会いがかつてあったのではないか、と。あの少年を知っているような……」 

 

 一行は下層に用があるらしい。

 開会式まであまり時間もないが、接触するまたとないチャンスだった。

 グロッタ目玉の仮面武道大会を観戦するためにしばらく滞在すると予想出来ても、確実に、とは言えない。

 娘の忘れ形見を逃してはならない。

 

 互いに旅人だ。

 それを利用したもっともらしい言葉を考えていたが、いざアイの前に立つと、すっかり考えていたセリフは吹き飛んでしまったのだが、それは姫も同じだったらしい。

 

「すみません、旅の方……」

「はい、なんでしょう?」

 

 振り返ってにっこりと笑ったアイの顔はやはりエレノアの生き写しとしか思えず。

 姫がつい、アイの手を握って訴えかけたのも無理からぬことだろう。

 あぁ、泣きたくなるほど少女だった頃のエレノアによく似ていた。

 姫から見てもエレノアの子どもの頃の姿だとしか思えなかっただろう。

 筋肉の付き方や骨格は間違いなく少年のものだったが、それでもだ。

 

「やっぱり似ている……あぁ! すみません、初対面なのに! どうか、どうか何かあったら相談に乗らせてください、あなたはとても、昔お世話になった人によく似ていて、放っておけない気持ちになって……初対面でこんなこと言われて意味がわからないでしょう、私もこんなこと言うつもりじゃなかったのに、あなたがあまりにも生き写しで、あなたを前にしたらとても懐かしくて……つい話しかけてしまったんです」

「わしからも、ぜひ何か助けが必要ならば、武道大会開催期間中は町におるでな、遠慮なくなんなりと言って欲しい。お主が亡くした娘にあまりにもよく似ているので気になってな、話しかけたのじゃ。気を悪くしたらすまんの。どうも……やはり、見れば見るほどよく似ておって、他人の気がせん。娘を亡くしたのはもう十四年も前のことなのじゃ。しかしお主の歳の頃が、娘と共に一緒に行方知れずになった孫と同じくらいなのも運命を感じる。出来すぎた話に思えるじゃろう。こんな偶然、作り話にしか思えないことじゃろうが……。

もちろん他人の空似だろうの、それも分かっておるが、それでも構わん。主が娘に似ているだけの他人でも、構わんのだ。変なじじいに時間を取らせてすまんかったな……」

 

 目を見開いて話を聞いていたアイは、こんな与太話にしか思えない内容に気を悪くした様子もなく、穏やかにわしたちに笑いかけた。

 

「いえ、少しびっくりしましたが、恩人の方や亡くなった娘さんに僕がそんなにも似ているならそちらこそ、きっと驚かれたのでしょう?

奇跡というのは、きっと起きるものですから。僕たちもしばらくグロッタに滞在しますからまたお会いすることもあるでしょう。これもご縁です。あなた方に聖竜の大樹の御加護がありますように。武道大会に参加されるのでしたらご武運、お祈りしております」

 

 そして彼らは去っていった。

 しかし、いきなりリーダーが意味のわからないことを言われ、知らない人間に接近されて不信を抱いて当然だろうに彼の仲間たちもこちらに不信感を持っている様子はなく、愛想良く、軽く会釈までして立ち去っていく。

 

 アイの仲間たちにも、確かに姫の言った通り奇妙な既視感を覚えていた。

 大きな杖を持った赤い帽子の幼い少女、その姉に見えるよく似た顔立ちの少女。

 どうしてか、幼い方が姉だと思ったのは赤い帽子の少女が歳の割に大人びてみえるからか。

 青い髪の青年はどことなく一行とは関わりのなさそうな人種に見えたがよく馴染んでいて、旅芸人風の男は昔どこかで似た人間を見たことがあるような……一見ちぐはぐな組み合わせだが、どうしてこうもしっくりとするのだろう。

 彼らが再び出会えたことに喜びを感じるのだろう?

 

 ……再び出会えた?

 どうしてそう思ったのか。

 初対面なのは間違いないというのに。

 

「……」

「姫や、どうした」

「アイから、今まで感じたこともないくらい深い闇の気配を感じました。手を握ったのは手甲越しでしたが、それでもロウさまの闇の魔法と同じ、いえ、もっと濃い、まるで聖竜の大樹から直接染み出しているような闇を……勇者は光の子です。あの子がアイだとして、アイは闇に傾倒しているのでしょうか?」

「さて。わからんの。アイが闇魔法の使い手だから闇の気配を感じたと仮定して、いくつか考えられよう。

まずわしが闇魔法の使い手だから、孫のアイも同じように闇魔法を使える、ということじゃ」

「あら、祖父に似ているから使えるだけだと考えているのを忘れておりました。それならばなんて……微笑ましいことですね」

「そうじゃろう。次に、先代勇者ローシュも闇の剣技を使えたらしいと記述が歴史書に残っておる。最も光の濃い場所にいる『勇者』が最も濃い闇に近いのは当然の理。光が強ければ強いほど、その影は濃く、強くなっていくものじゃ。

光の魔法は強力だと聞くが、いかんせん大樹は光と同時に闇を抱く存在。大樹の加護を受け、光よりも闇のチカラの方が濃い、と考えてもおかしくはないのじゃ……まぁ、真相はわからん。ともかく闇が濃いならば同じだけ光も濃いということ。

ただアイが五体満足で健康で、ひとりぼっちでもないことを祝おうぞ」

「はい、ロウさま」

 

 気がかりなことが増えたが、今はハンフリーの疑惑を解き明かさなければならない。

 行方不明になった闘士たちは今も戻らず、恐らくは亡くなっていることだろう。

 表向きは仮面武道大会無敗のチャンピオンにして、武道大会で得た賞金や賞品を売った金をすべて孤児院の経営に使い、自身の育った孤児院にひたむきな恩返ししている善人であるハンフリーだが……裏の顔が本当であれば、孤児院で養っている子どもの数よりもよほど多くの人を殺しているのだ。

 それも毎年、毎年、仮面武道大会ごとに、何人も。

 

 怪しいのは大会で必ず飲んでいるらしい謎の液体。

 聞き込み調査でわかったグロッタにかつてあったという地下空間。

 

 それではハンフリーが闘士をさらっているとして、闘士をどうしているのか?

 大会に参加する闘士をさらっているのは闘士たちの半数以上が町の外から来た人間であり、足が付きにくいからか?

 さらったのは殺し、その持ち物を売り払うためか?

 ならば観戦目的の観光客に犠牲者がいないのは不可解なことだ。

 無敗のチャンピオンであるのもどこか怪しい。

 一度くらいは負けることだってあるだろう。

 しかし彼の負けの記録は最初期のみ。

 以降、頭角を現しチャンピオンになりつづけたとあるが……疑心暗鬼になりすぎたか?

 

 ハンフリーは見るからに筋骨たくましく、闘士らしい人間ではあるし、その動きのキレもなかなかのもの。

 しかし、健康的とはどうにも思えなかった。

 見えているのはハリボテなのではないか?

 回復魔法のエキスパートが近寄って確認しなくてははっきりとわかるまいが、わしの目にはすでにハンフリーという男の体は老人よりもボロボロに思えた。

 無理やり何者からかチカラを与えられているように考えられたのだ。

 

 ほぼ、ハンフリーという男の力は彼自身のものではないだろうということにはすでに確信が持てていた。

 

 はてさて、グロッタの町では一波乱ありそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仮面武道大会前日、宿屋にて。

 夜もすがら、ベッドの中で目をつぶりながらグロッタの町で起きることを思い出していた。

 特別観光客が多いこの日には個別の部屋なんて到底取れなくて、大部屋に五人男女問わず一緒くたになり、無理やり部屋に詰め込まれた仮のベッドをみんなで分け合って眠ることになった。

 以前は参加者だったからもう少し待遇が良く、参加者の証である仮面を持っていた僕とカミュはちょっといい部屋の、備え付けのベッドに眠ったっけ……。

 

 よぎるかつての記憶。

 グロッタ。

 仮面武道大会。

 パートナーはチャンピオンハンフリー。

 地下遺構に潜んだ魔蜘蛛アラクラトロ。

 さらわれた闘士たち……。

 強敵だったマルティナ。

 そして、ロウじいちゃんとの出会い。

 いや、本当は再会と言うべきなのだけど。

 

 僕は、今回大会に参加しないことを選んだ。

 アラクラトロを倒すのは早い方がいい。

 もしかしたら犠牲者が増えるかもしれなかったし、早ければ早いほど前救うことの出来なかった犠牲者を救えるかもしれなかったから。

 前回、仮面武道大会で僕は優勝し、アラクラトロの甘言に操られていたハンフリーは更生した。

 彼の動機は私欲を肥やすためではなく、資金難の孤児院を何とか救うための苦肉の策だったさ。

 でも、僕は今回彼の更生の道を断ち切るだろう。

 

 落ち着かなくて、寝返りを打つ。

 

 アラクラトロを普通に倒すくらいでは、いつか奴は目を覚ます。

 そう確信していた。

 この世にはびこる闇のチカラがいつ封印を解くかなんてわかりはしない。

 闇の存在は、時間をかければ蘇るんだ。

 しぶとく、根強く、叩き潰してもなかなか根絶できないもの。

 わざわざ懸念を残すなんてしたくなかった。

 

 そうでなければ光はもっと繁栄し、穏やかな世界になっていてもおかしくないじゃないか。

 アラクラトロのチカラを何年もかけて取り込み、ともすれば復活の鍵となるかもしれないハンフリーを再起不能にし、地下遺構のアラクラトロ居住地一帯を僕の闇で上書きする。

 聖竜の大樹から引きずり出した闇だ。

 いくら同じ闇とは言っても魔物の闇とは相性が悪いだろう。

 多少の抑止になることを期待する。

 

 服越しに、心臓に手を当てる。

 僕の鼓動は大樹の闇を汲み出すポンプだ。

 聖竜の勇者であること、すなわち大樹に選ばれし者であること。

 光の子であるならば、闇に最も近いことの証明でもある。

 この世の闇を払うために生まれ、チカラを与えられたが……同時にたくさんの犠牲の上に成り立っている罪深い命でもある。

 

 最初の犠牲は産みの母親エレノア妃だったという。そこまでは、戻れなかったけれど。

 赤ん坊に戻っても、ユグノアが滅ぶ日に、魔法すら使えない赤ん坊に何ができるか想像も出来なかったから、……僕は次の後悔である、成人の儀式の日に戻ったのかもしれない。

 自信がなくって、無意識に見たこともない母親を見捨てたのかもしれない。

 遡ったあの日、エマの死を、僕は止めることが出来たのだ。

 エマの怪我まで無くすことは出来なかったけれど。

 こっちは止められると確信できたから戻れたのかな。

 

 滅びゆくウルノーガの最後の一撃から僕を庇い、死んでいったロウじいちゃんの最期を思い出す。

 迷うことなく僕の前に立ちはだかり、娘の忘れ形見だと愛しく語った孫を、全霊を持って守り抜いた死を。

 あの悲しみを僕は繰り返さない。

 ロウじいちゃんは死に間際、笑っていた。

 僕が生きていることが嬉しくて、僕に生きろと言っていたのだ。

 

 大樹の暴走から僕らを逃がし、肉体ごと蒸発したベロニカの最期を想う。

 その魂は死してなお高潔で、セーニャにその遺志を宿し、死後も僕らを助けてくれた賢い人。

 僕は、繰り返さない。

 双子がわかたれるなんて二度と繰り返さない。

 ベロニカは、高潔な人で、きっと僕らを救うために命を落とすことに迷いがなかったのだろうけど、なら今度は僕が迷うことなくベロニカを救うのだ。

 

 なあ大樹よ。

 そのチカラを寄越せ。

 その闇を僕が振るおう。

 魔王より僕の方が上手く使えるさ、だって僕は大樹のチカラを振るうために生まれたお前の愛し子なんだろう?

 生まれながらの、特別製の、悪魔の子だ。

 僕以上に大樹の闇のチカラを扱える存在がどこにいる?

 動けもしない木よりも僕の方が上手く使えるに決まっている。

 

 僕は、自分がどうなってしまっても……きっと世界を救うまでは死にはしないし、そのチカラに飲み込まれてしまう日は来ないのさ。

 だから寄越せ、闇のチカラを。

 

 さぁ、明日に備えてチカラを蓄えよう。

 肉体の隅々まで魔力を研ぎ澄ませよう。

 根源の闇にかかれば一匹の魔物を完全に消滅させることだってきっと出来るだろう。

 

 だからはやく、はやく、あの悲劇の日へ。

 六つのオーブを揃え、大樹に至ったあの日へ。

 

 だけどあの時とは違う。

 前回と違い、闇に魅入られなかったホメロスはきっと襲撃してこない。

 グレイグはかつてと同じ疑念を抱くだろう。

 二人は、今度は協力すらするかもしれない。

 モーゼフ王の肉体を乗っ取ったウルノーガは再び大樹でその体を捨てるだろうか?

 劣勢と見たら正体を隠すかもしれないし、確実なことは分からないけれど、目の前でおめおめと大樹のチカラを勇者に奪われるのをよしとはしないはず。

 あぁ、目の前で勇者の剣を握って、抜きはなって、使いこなしてやるよ。

 それだけじゃない。

 大樹に宿る命のチカラ……ではなく、大樹に染み付いた、根源の闇のチカラを目の前で全部宿してやろう。

 

 聖竜の抱く、世界の命のみなもとに手を出し、チカラを得るならばそれは魔王と同じさ。

 だけど、大樹はもうひとつチカラを宿している。

 闇のチカラも色濃く、根源の理として宿しているんだ。

 

 僕はそのチカラを貰おうか。

 闇のチカラが削がれても世界に影響はないどころか、うずまく闇の加護が少しでも収まれば光の子である人間は暮らしやすくなるかもしれないな。

 今はどうみたって魔物の方が優勢だ。

 

 なぁウルノーガ。

 魔術師、それとも魔王か?

 なんだっていい。

 少なくとも暗黒の使い手として、闇の権化みたいな顔をしていたあいつに闇を叩き込んで消えてもらうのは痛快だろうね。

 未だに僕の心臓を……傷もないのにじくじくと蝕む、チカラを奪われ、鈍い痛みを発する苦しみを味わってもらわなきゃ溜飲が下がらないさ。

 もしも奴から闇のチカラを奪い去ったら、その下から顔を見せるのはなんだろうか?

 それとも、闇にすっかり染まりきったウルノーガは……もう形なき亡霊なのかもしれないけれど。

 妄執だけが肉体を動かしている可能性だってある。

 なんにせよ、僕はウルノーガを肉体から解き放つという点においては違いないさ。

 生かしてはおかない。

 

 あぁはやく。

 はやく、はやく、はやく!

 かつての軌跡をなぞるのすら、気が()くのさ。

 大切な仲間たち、美しい世界が汚されるのが我慢ならないのさ。

 

 だから、はやく!

 少しでもはやく!

 手を伸ばせ、足掻け、駆け抜けろ!

 

 僕が挑むのはかつての再演じゃない。

 勇敢なる者の冒険譚でもない。

 光の子の軌跡ですらない!

 望むのは血みどろの復讐劇。

 最適化され、一切の偶然の挟まることの無い、必至の結末。

 悪は滅び、命は失われず、犠牲もなく……みんなが笑いあえる世界へ。

 そこに僕は必要ない。

 僕の魂は置いてきたあの世界のものなんだから。

 だから、だから、僕は急く。

 

 かつて鍛えた剣の腕などいらない。

 剣では、勝てなかったのだから。

 吸い上げた闇のチカラで全てをのみこめ。

 僕が闇そのものになったって構いやしない。

 闇の大樹の宿す根源を飲み干せ。

 チカラを寄越せ!

 闇を振るおう、そっちの土俵で戦ってやる。

 闇のチカラで蝕まれるのは苦しいから、光に焼かれて溶け消えるよりきっともがき苦しむから。

 

 こんな邪悪な行為、きっと勇者として相応しくないだろうな?

 きっと何か犠牲を払わなければいけないだろうね?

 なら、僕の肉体ごときで対価になるならくれてやる、だから、大樹よ。

 すべてのチカラを僕に寄越せ。

 憎い、憎い、憎い!

 あの魔王を殺すためなら僕はなんの犠牲を払っても、誰を騙しても、いくらか不幸になる無辜の人々がいても、気にもとめないだろう。

 

 大樹よ、僕を勇者として選んだんだから今更文句を言うんじゃないぞ。

 魔王を倒し、かつてを繰り返さなかった安堵を手に入れたら……とっとと闇のチカラを抱いたまま消えてやるから。

 持っていってやるよ、それくらい。

 

 ねぇ、あっちに置いてきてしまったみんな。

 すぐに僕もそっちに行くから。

 だからあとちょっとだけ待っていて。

 すぐに決着をつけて、みんなの元へ行くんだ。

 

 愛しいみんなを、あの時の君たちじゃなくても、今度は死なせるなんてしないし、悲しませないように、頑張るから。




知将の光明、盗賊の悲哀、賢者の哀惜
アイの恩讐

どこ好き?

  • RTA部分:数値付き解説
  • RTA部分:ストーリー解説
  • RTA部分:走者の他作語り
  • 小説部分:アイ視点
  • 小説部分:カミュ視点
  • 小説部分:セーニャ視点
  • 小説部分:マルティナ視点
  • 小説部分:ロウ視点
  • 小説部分:シルビア視点
  • 小説部分:グレイグ視点
  • 小説部分:ホメロス視点
  • 小説部分:その他視点
  • 全般:再構成ストーリー
  • 全般:原作死亡キャラ生存
  • その他(感想・コメントへ)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。