殺戮のダンジョンマスター籠城記 ~ヒッキー美少女、ダンジョンマスターになってしまったので、引きこもり道を極める~   作:カゲムチャ(虎馬チキン)

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とある元勇者が見た未来

「……早いなぁ。もうこんなに経つのか」

 

 ふと、仕事場に設置したカレンダーを眺めて、俺はそう呟いた。

 クラスメイト達と共にこの世界に召喚されてから、早数十年。

 あの頃はピチピチの男子高校生だった俺も、今ではすっかりただのおっさん、もといナイスミドルだ。

 不思議なもんで、これだけの時間が経つと、あの悪夢のようだった記憶も薄れてきて、ただの思い出として思い出せるようになってきた。

 

 そんな俺は今、冒険者ギルドで鑑定屋をやっている。

 俺のユニークスキル『鑑定』は腐っても勇者のチートという事で、そこら辺の鑑定屋や鑑定石なんざ目じゃないくらい精密な情報を読み取れるからな。

 それを活かして、冒険者ギルドに持ち込まれるアイテムの鑑定を請け負ってる訳だ。

 正直、これが俺の天職だと思う。

 昔からの特技である人間観察を活かして職場の人間関係を良好に保ち、ユニークスキルを活かして収入を得る。

 何より、この仕事には命の危険がないってのが最高だ。

 

 こういう穏やかな日々を過ごしてると幸せを感じる。

 自分が生きてるって事に価値を感じる。

 薄情かもしれないけど、あの時、魔王との戦いの舞台から下りて、自分だけでも生き残れて良かったと、少しは思えるようになってきた。

 これでお嫁さんでもいれば最高なんだけど……この歳で独身な時点で察してくれ。

 

「……おい……おい! ケンジさん!」

「ん?」

 

 そうして、昔を思い出して黄昏ていた時。

 俺を呼ぶ少年の声が聞こえて、意識が現実に帰ってきた。

 やべぇ、やべぇ、仕事中にボーとしちまった。

 ギルマスに怒られる前に真面目にやらないと。

 

「おう、ラックじゃん。どうした?」

「冒険者の俺があんたの所に来たんだぜ? アイテムの持ち込みに決まってんだろ!」

「だろうなー」

 

 まあ、そんな事は聞かなくてもわかってたが、一応聞くのが様式美だろう。

 その直後、目の前の少年が「これだ!」と叫びながら鞄からアイテムを取り出して、買い取りカウンターに置いた。

 こいつの名前はラック。

 パーティーメンバーと一緒に、この近くにある弱めのダンジョンに潜ってる新米冒険者だ。

 この顔からして、どうやら今日は相当自信のあるアイテムを手に入れてきたらしい。

 

「どれどれ。お、良さげなもん見つけてきたなー。ええっと……」

 

ーーー

 

 エンドルフィンの杖 耐久値4000

 

 効果 魔力+900

 

 ダンジョンから発見された杖。

 高い魔力を秘めている。

 

ーーー

 

「大当たりじゃん! やったな、ラック! これなら金貨100枚は下らないぞ!」

「マジで!? やったぁ! これで貧乏生活脱却だ!」

 

 ラックは諸手を上げて喜んだ。

 まあ、新米冒険者って奴は大抵が貧乏だからなー。

 だって、金のある奴は冒険者なんかにならない。

 もっと堅実で命の危険のない職業につくだろうよ。

 俺みたいに。

 俺だって勇者の端くれとして、新米冒険者くらいなら片手で捻れるくらいには強いけど、冒険者やろうとも、ダンジョンに潜ろうとも思わねぇもん。

 特にダンジョンには嫌な思い出しかない。

 いや、実際に潜った事はないんだけど、魔王と本城さんという俺のトラウマが悉くダンジョン関連だからさぁ。

 

「……と、もうこんな時間か」

 

 ラックが持って来た杖の買い取り処理を終えた頃には、ギルドの外が薄暗くなっていた。

 そろそろ勤務時間終了だ。

 近頃は急な仕事とかないから、他のギルド職員のヘルプに行く事もない。

 定時で上がれる。

 ホワイト企業万歳。

 まあ、その代わり、修羅場の時は本気で転職を考えるレベルで辛いんだけど……。

 この前、この街の領主様とギルマスが、国の反対を押しきって魔の森を調査する為の部隊を設立しようとした時はキツかったなぁ。

 俺までヘルプに駆り出されて過労死しかけたわ。

 ……またブラックになる前に、定時退社生活を満喫しておこう、そうしよう。

 

「じゃあ、お疲れっす」

「お疲れ様でした~」

「お疲れ様です」

 

 他の職員に挨拶してから、俺はギルドを出て家路についた。

 何か晩飯買って帰らないとなー。

 独り身は辛いぜ。

 テクテクと大通りを歩き、食品を売ってる店を目指す。

 

「ん?」

 

 と、その時、反対方向から歩いてくる二人組の少女が目に入った。

 エルフの美少女二人組だ。

 片方は小学校高学年くらい、もう片方は高校生くらいに見える。

 二人とも結構な美人さんだけど、特筆すべき特徴はない。

 ない、筈だ。

 なのに、俺はこの二人から得体の知れないナニカを感じ取ってしまった。

 

 咄嗟に二人組に向けて鑑定を使う。

 これは殆ど条件反射だ。

 よくわからないものは即鑑定。

 これが危険を避けて長生きするコツ。

 少なくとも、俺はそう思っている。

 

 だが、俺は次の瞬間、鑑定を使ってしまった事を後悔した。

 

ーーー

 

 オートマタ Lvーー

 

 状態 魔鎧装備中

 

 HP 1500/1500

 MP 200/200

 

 攻撃 10000(1500)

 防御 11000(1500)

 魔力 200

 魔耐 11000(1500)

 速度 9000(1500)

 

 スキル

 

 『取得情報送信:Lvーー』『擬似ダンジョン領域作成:Lv1』

 

ーーー

 

 ハーフエルフ Lv35

 名前 リーフ

 

 状態異常 邪神の奴隷

 

 HP 10211/10211

 MP 11005/11005

 

 攻撃 10165

 防御 10147

 魔力 11450

 魔耐 10404

 速度 10322

 

 ユニークスキル

 

 『邪神の加護』

 

 スキル

 

 『MP自動回復:Lv2』『風魔法:Lv15』『回復魔法:Lv30』

 

ーーー

 

 邪神の加護

 

 邪神によって貸し与えられた力。

 全ステータス+10000

 老化停止

 

ーーー

 

「なっ……!?」

 

 出そうになった驚愕の声を必死で圧し殺した。

 見てしまったのだ。

 オートマタの精密鑑定結果の中に、『製作者 ホンジョウ・マモリ』という一文を。

 正直、このステータスに突っ込みどころは多々ある。

 邪神ってなんだとか、ステータス高過ぎやろとか。

 でも、そういうのを気にしてる余裕はない。

 

 逃げなければ……!

 一刻も早く、本城さんの視界から消えなければ殺される!

 幸いと言っていいのか、スキル『擬似ダンジョン領域作成:Lv1』の有効射程は半径10メートルだと鑑定が教えてくれた。

 驚愕と恐怖を隠し、さりげない足取りでその範囲から出れば助かるかもしれない!

 落ち着け。

 落ち着いて、自然な動きで、かつ迅速に離れろ!

 

「ご主人様、この街は放置してていいんですか? ウチに大分近いですよね?」

「問題ないよ。まだ魔の森の中にまで進出して来た訳じゃないから、潰す程の事じゃない。

 だから、今回は領主をはじめとした権力者に釘を刺すだけでいい。今はまだね」

 

 なんか物騒な会話が聞こえた。

 聞こえないふり!

 聞こえないふりをしろ!

 そして、明日には転属願いを出そう!

 その後は、魔の森から一番遠い国で余生を送るんだ!

 

 そうやって嵐の中心から必死で遠ざかる内に、オートマタ達の姿は見えなくなっていた。

 た、助かった……!

 遅れて冷や汗が出てくる。

 恐怖で呼吸が乱れて、膝がガクガクと笑い出す。

 よく頑張った!

 よく頑張ったよ、俺!

 

 とにかく、今日はもう帰ろう。

 帰って引っ越しの準備をして、転属願いを書くんだ!

 

 そうして、俺はまたしても幸運で拾った命を大事にするべく、逃げるようにその場を去った。

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