詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか? 作:百男合
安達としまむらはいいぞ。
※結城勇者は友奈である花結のきらめき 花結の章 31話「あなたの微笑み」ネタバレあり
未見の方は注意されたし。
ようし、戻ったら気合い入れるぞ
「銀!!」
須美、園子。湿っぽいのはなしだ。
ズッ友同士、いつもの挨拶でしめるからな。
「うん、またねミノさん!」
「ま、また…ね…銀」
そこで固くなっちゃうのがお前らしいなぁ須美。
笑って笑って、な。
「……うん」
またね
身体が花びらになって、消え始めた。
光に包まれ、目の前の6人の姿も見えなくなっていく。
手を振って、再会を誓う。
最後に見た成長した姿の親友は、泣き虫だった。
三ノ輪銀は目を覚ました。
先ほどまでいた讃州中学勇者部の教室ではなく、そこは遠足の帰りのバス――ではなかった。
目の前に広がるのは赤一色の空。朝日か夕日が差し込んでいるのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
どうやら自分は眠っていたようだ。横になっていた場所を見ると土の上で、手を伸ばせば届く距離には枯れ草が生えている。
体を起こして周囲を見ると、ビルのような建物が地面から生えていた。いや、突き刺さっているのか?
自然と人工の建造物が奇妙に入り乱れている場所は、どこか樹海の中を思わせた。
いったいどこだなんだここは?
『起きた?』
疑問に思い立ち上がって散策しようとしていた銀は、直接頭に響いてきたように聞こえた声に驚き周囲をうかがう。
そこにいたのはお面をかぶった真っ白い人間だった。面は目と鼻と口の位置に穴が開いているだけの子供が作ったようなデザインで、作った人間は相当不器用なのがうかがえた。
「あー、えっと。すみません、ここどこだかわかりますか?」
我ながら間抜けな質問だと思う。だがわからないのだから仕方ない。
こんな場所、今まで見たこともない。少なくとも四国でないことは明らかだった。
『ここは壁の外。西暦時代の自然や遺物が奇跡的に集まって、人間でも生存できる場所だよ』
「へぇ、そうなんですか…ん? 壁の外って」
そういえばバーテックスと戦っているときに見る景色にそっくりだ。
樹海の景色に似ていると思ったのはそのせいか。
だが樹海の外、人類の住めない世界で活動できるのはバーテックスか銀のような勇者以外いないはずだ。
『最初に言っておくがこちらには敵意はない。むしろ君たちを助けたいと思っている』
銀の考えていることに気づいたのか、仮面をかぶった男とも女ともわからない人間は言ってきた。
「あんた、いったい」
『それを踏まえたうえで、協力してほしい』
仮面を取る。
本来耳のある位置まで裂けた大きな口。唇のないむき出しの歯。口の端には1対の十字をかたどった飾りが左右についている。
「バーテックス!?」
驚いた銀はそいつから距離をとり変身しようとして…スマホがないことに気づいた。
「お前、何者だ⁉ アタシのスマホ」
いや、それよりも。
「須美と園子…アタシと一緒にいた仲間をどこにやった!」
2人の姿が見えないことを、先に気にするべきだった。ひょっとしたらこいつにもう…。
そう考えて瞳が怒りに染まろうとしたとき、裾を引っ張られた。
「え?」
視線を下すと、そこにいた存在に目を疑った。
鈴鹿御前。自分と一緒に
眉と髪の毛の色が白いが、確かに鈴鹿御前の精霊だ。
どうしてここに? と思う。もしかしてあの世界からついてきたのか?
『その子は白静。俺が作った鈴鹿御前の疑似精霊だ』
作った、という言葉に耳を疑った。精霊は神樹様の力によって生まれ、勇者に力を貸す存在ではないのか?
混乱する銀に、白静という精霊は腕をぐいぐい引っ張っている。
ちょっと考えて引かれるままに任せてみると人型のバーテックスの元まで近づき、銀を引っ張る手と反対の手で人型の白い指を掴んだ。
「か、かわええ」
表情に乏しいと思っていた精霊がむっふーと息を吐きご満悦という表情でいる姿は、控えめに言ってもかわいかった。
というか、疑似精霊とか言っていたが本物の精霊よりも感情表現が豊かなんじゃないだろうか。
『とりあえず、君に見せたいものがある。行こうか』
人型バーテックスは仮面をかぶり直し、白静の手を引いて歩きだす。動こうとしない銀に「こないの?」と首をかしげる白静。
ああ、もうかわいいなぁ! 行ってやるよ畜生!
仕方なく銀もついていく。目指す場所は、それほど時間がかからなかった。
空中に、巨大な水球が浮いている。
まるで人間1人くらい収まるくらい大きい。というか、中に誰か入っているように見える。
あれは……。
「これ、アタシ!?」
水の中では勇者服の銀が胎児のようなポーズで丸まっていた。
人型バーテックスによるとこの水球は特別なもので、中に居る者の傷を癒すらしい。
そのおかげで擦り傷などの軽い怪我はすでに治り、今はキャンサーやサジタリウス、レオから受けた傷を治療している最中なのだという。
だが、それより銀は別のことが気になっていた。
「水の中にアタシがいるってことは、今しゃべっているアタシって誰だ?」
尋ねると、そう聞かれるのはわかっていたというように人型のバーテックスは円形の薄い鏡のような水球を出し、銀の姿を映す。
そこには、真っ白の髪で血の気の通っていないような白い肌の三ノ輪銀がいた。
『今の君は、三ノ輪銀であって三ノ輪銀じゃない』
人型バーテックスの言葉に、なぜかとてつもなく嫌な予感がした。
『君は、そこにいる三ノ輪銀の記憶を抽出して身体に埋め込まれた…いわば三ノ輪銀の記憶を持つバーテックスだ』
足元が崩れる感覚を、銀は味わった。
「はは、なんだよそれ」
乾いた笑いがデブリに響くことなく消えていく。
「バーテックス? なんの冗談だよそれ。人類の敵だぞ」
水球の中で眠りについている人間の自分。コポコポと水槽に酸素を注ぐポンプのような音が、銀の苛立ちを上昇させる。
「アタシは! 人間だ!! バーテックスじゃない! 人類を守る、勇者だ!!」
だが、水球に映る真っ白な髪が、肌の色が違うと告げている。
自分はこんな髪の色ではなかったはずだ。瞳も紫ではなかった。
身体にある特徴のどれもが、人間だったころの自分とは違うと明確に告げていた。
『もちろんわかっている。だが、こちらも緊急事態だったんだ』
人型のバーテックスの声には、苦しみがあった。本来ならこんなことはしたくない。そう言いたいのだろう。
『どうしても君に2人を説得してほしかった。だが君は一向に目を覚まさない。だから不本意だろうけどバーテックスの身体に意識を移させてもらった。協力してほしい』
説得? こいつは何を言っているのだろう。
勇者の自分が、バーテックスの手先に成り下がると本当に思っているのだろうか?
『これから先、君の友達の2人は非常に危険な目に合う』
「友達、須美と園子か!?」
それから聞いた話は、どれも到底信じられるものではなかった。
銀を失った状態で最後の戦いに出た須美と園子は満開と呼ばれる力でパワーアップして残った星座級の巨大バーテックスを倒す。
しかしその満開には代償が必要で、須美は記憶と足を。園子は20回以上満開をして身体のあらゆる部分を供物として神樹様に捧げ失うのだという。
それを止めるために人型のバーテックスは行動していたが、レオの登場でその計画が狂ったのだという。
本来ならこの前の戦いではキャンサー、スコーピオン、サジタリウスの3体と戦うはずだった。
だが人型のバーテックスがスコーピオンを倒したことで、最終決戦に出てくるはずだったレオが出てきてしまった。
一応前回倒したキャンサー、サジタリウス、レオと須美と園子が倒したヴァルゴは現在行動不能であること。
最終決戦で残る星座級、牡羊座、牡牛座、双子座、魚座。さらに御霊なしの星座級12体が出てくるのは間違いないということであった。
「ふざけんな!」
話を聞き終わった銀の胸の内を満たしたのは、怒りだった。
「そんな展開に、アタシはしない! いや、させない。2人に満開なんかさせてたまるか!!」
満開のことはあの世界で聞いていた。とても強い力を使える勇者にとって奥の手だと。
だが、そんな代償があるとは聞いていない。
3人で過ごした記憶を失う? 全身不随で過ごす?
そんなふざけた話があるか! 皆を守るために戦ってきた2人に対する仕打ちがこれだなんて。
この世界には神も仏もいないのか。
『
だから、この物語の結末を変えに来たんだ。
人型のバーテックスはそう言った。
「でも、あんたの話が本当だって証拠は」
あの世界で一緒に過ごしていた2人の姿を思い出す。
とても記憶喪失や全身不随だったなんて信じられなかった。
ひょっとしたらこいつの言っていることは全部嘘っぱちで、ただ自分を協力させたいがための嘘じゃないのか。
『こればっかりは信じてもらうしかないよ。だけど、君が何もしなければ須美ちゃ…友人2人が俺の言った通りの未来を歩むのはほぼ間違いないと思う』
何もしなければ、という言葉に引っ掛かりを感じ、問いかける。
「アタシになにをさせたいんだ?」
『戦わなくていい。なにもしなくていい。バーテックスは俺が倒すから。ただ、彼女たちに満開させないよう説得してほしい。何も失うことなく、笑顔で過ごせるような世界を守るために』
言葉は、真剣だった。直感で嘘はついていないと感じる。
てっきり戦ってくれと言われると思っていた銀は肩透かしを食らった気分だ。こいつ、本当にアタシをだます気じゃないのか?
「それによって、あんたになにかメリットがあるのか? あんたバーテックスだろ」
『バーテックスがどうとか、人間がどうとか、そんなに重要かな?』
こともなげに、そいつは言った。
『種族や性別に関係なく、美しい。尊いと感じるものがある。俺はただそういう尊さに満ち溢れた世界を見守っていたいだけなんだ』
バーテックスに目はないがあったらきっとキラキラしてただろう。そんな気がする。
それはたぶん、こいつにとって当たり前で本心からの言葉だ。
銀が親友2人を助けたいと思うように。
「あんたが嘘をついてないかはわからない。でも本音を言ってるのはわかった。アタシだって須美と園子を助けたい」
でも、と続ける。
「アタシは自分がバーテックスってことは、受け入れない。アタシは勇者の三ノ輪銀だ」
『ああ、もちろんだ。彼女たちの親友として。キミはキミとして俺を利用してくれ』
実をいうと、と前置きして人型バーテックスは言う。
『彼女たちの俺に対する好感度、というか認識は最悪でね。どんなに無害な存在で敵じゃないとアピールしても聞いてくれなそうなんだよ』
「何やったんだよ一体」
話を聞くと銀はおぼえていないが、水球で治療中の銀を説明もなしに神樹の結界から拉致同然に連れだしたらしい。
「いや、そりゃ言い訳できねーよ。いくらバーテックスでも喋れるんだろ? 説明くらいしなって」
『だってその時須美ちゃん弓構えて殺意マンマンだったし、結界の外にまだレオいたし、会話できる精霊連れてくの忘れてたし…」
話しているうちに段々声が沈んでいく。最後にいたっては自分のミスだとわかっているのか目に見えて落ち込んでいた。
あ、白静が頭ポンポンして慰めてる。かわいい。
「そういやなんでバーテックスが喋れるんだ?」
『ああ、この子のおかげだよ』
虚空から紫色した狐のぬいぐるみみたいなものが現れる。
そいつはコシンプという精霊らしい。話を聞くとその精霊にテレパシー能力があり、本来喋ることができないバーテックスでも人間と意思疎通できるんだとか。
もっと早くこいつで話してたらよかったのにと言うと、最近生まれたばかりらしい。それはまたタイミングが悪い。
『とりあえず、手伝ってくれるってことでいいかな?』
「いや、アタシは須美と園子を助けるだけだ。バーテックスは今まで通り倒すし、アンタが悪い奴だって思ったら容赦なく倒す」
まぁ、そんな心配はなさそうだけどな。と白静を見ながら銀は思う。
精霊がこんなになついている奴が悪い奴なわけない。きっとそうだろう。
『それで構わない。同盟成立だね』
人型のバーテックスは、手を差し伸べてきた。握手ということだろう。
銀はビビったっと思われたくなかったから、本当はちょっと怖かったけどきっちり握ってやった。
よかった。うまくいって。
俺は3回目にしてようやく成功した作戦に、胸をなでおろした。
最初はバーテックスである自分に敵意を向けるばかりで会話が成立せずやむなく■した。
2度目は自分がバーテックスだと認められず発狂したので■した。
そして3度目になってようやく会話が成立し、バーテックスであることも認められる精神力を持つ個体が完成した。
作戦に協力してくれるのは彼女の性格からわかっていたことだ。
親友を助けるためなら己が身すら犠牲にしてでも戦う娘だから、彼女たちの名前を出したのはある意味卑怯な手ともいえた。
だが、ヒーリングウォーターで傷をいやしている本物の三ノ輪銀が目を覚まさない以上、この作戦は彼女の働きにかかっているともいえる。
アジトの奥、強化型の人間型星屑を制作する場所。
そこには、三ノ輪銀の姿をした型にドロドロに溶けた強化版人間型星屑が入れられ変態している最中だった。
これも、もう必要ないか。
俺はそれ以上の作業をストップさせ、残りは精霊星屑の材料に回すよう指示を出す。
三ノ輪銀の型は水球のなかにいる本物のデータを参考にさせてもらった。
神樹の体液を加えて質量を圧縮させた星屑を変態させることで髪の毛1本にいたるまで本人そっくりの個体を作ることができたのだ。
そしてさっきはああ言ったが三ノ輪銀の記憶は、水球の中にいる本物のものではない。
俺がゆゆゆいで知っている。ゆゆゆい世界の三ノ輪銀の記憶だ。
そもそも本物から記憶を抽出してバーテックスの肉体に移すなんて芸当はできない。俺ができるのはこの世界で得たバーテックスの能力を使い、俺が知っている知識を使うことだけなのだ。
だから、アニメとゆゆゆいのエピソードから
それは多分、どんなに似ていてもこの世界の三ノ輪銀とは別人だろう。
決して倫理的に許されない行為だ。
本当のことを知ったら、彼女は俺に協力してくれないだろう。
だが、俺は決めたのだ。彼女たちを救うためには人間だったころの倫理観など捨てると。
彼女たちが笑顔で暮らせるなら、俺はヒトデナシで構わない。
たとえ最後にその手で消滅させられることになったとしても。
バーテックス銀ちゃん
身体はバーテックス、心は人間のダークヒーロー。
星座級の巨大バーテックスの質量を圧縮して神樹の体液を注入して作られた強化版人間型星屑の身体なので、実は素の能力で人間の本物より勝っている。
ただし身体は星屑と同じなので神樹の力、勇者の力には弱い。
記憶はこの世界のものではなく、ゆゆゆい時空の物。ただし親友2人を思う気持ちは本人と変わらない。
戦闘センスは本物より高い。(ゆゆゆい時空だと実戦経験は3年以上)
勇者服は赤ではなく星屑カラーの白。武器は神樹の力がコーティングされた2丁斧(星屑製)。
鷲尾須美の章終盤に実装された精霊ガード、西暦勇者の【切り札】を穢れのマイナス効果なく使える。