詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか?   作:百男合

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 あらすじ
 勇者たちの満開がリボルケインで破壊されてヤバイ!
 リボルケインが無数に生えてきて投擲されてヤバイ!
 それに耐えて捨て身で天の神を説得(洗脳)する人型のバーテックスがヤバイ!
天の神(RX)「四国はこの俺が守って見せる!」
ヴァルゴ「うちの上司がなんか敵に回って同胞を容赦なく××してる件」
天の神(RX)「おのれバーテックス、ゆ゛る゛さ゛ん゛!」
ヴァルゴ「え、なにその光る棒…あっ、あっ、ヤバイ! 体の中からエネルギーがあふれて…あーっ!」
天の神(RX)一欠


【グッドエンドルート】希望に満ちた将来が待ってる少女たちの間に挟まった百合厨はどうすりゃいいんですか?【完結】

 天の神との最終決戦から一か月ほど経った。

 あれから園子と夏凜を除く勇者たちは勇者システムの入ったスマホを大赦へと返還し、勇者ではなくただの中学生となる道を選んだ。

 四国にやってくるバーテックスは天の神(RX)と人型のバーテックスが倒す。これ以上戦う必要はないとあの日伝えられたからだ。

 園子と夏凜は防人たちと共に新天地となった中国地方に行くためにスマホは返還しなかった。

 園子は防人システムに近いものを量産し、一般人でも四国の外へ行けるようにするための技術を開発しようとしているらしい。

 今は人型のバーテックスに精霊を分け与えてもらって精霊バリアを持った人間がいけるだけだが、将来はその精霊バリアがなくても人間1人1人が四国の外へ行けるようにするのが当面の目標だそうだ。

 それを散華により右目が治っていない状態で大赦の大人たちと実現させるためにあれやこれやと意見をぶつけ交渉している姿にはそばにいる丹羽は感心するしかなかった。

 その甲斐もあって大赦の技術部では四国の外で生きていけるような精霊バリアに代わるものを開発中だそうだ。開発には約3年ほどかかるらしい。

 そのころには本州のテラフォーミングもかなり進んでいるだろう。今から楽しみだと園子は語っていた。

 そんなこんなで丹羽の精霊を使った散華の治療も終わり、日常が戻って来たある日。

 銀が入学し8人に部員が増えた讃州中学勇者部は今日も今日とて依頼に奔走している…わけではなかった。

「で、説明してもらえるかしら丹羽?」

 風、夏凜、東郷が床に正座している丹羽をにらみつけている。

 そこにあるのは明確な敵意だ。その様子を見て同学年の樹は仕方ないなーというあきらめ顔。友奈と銀は理由がわからず頭に疑問符を浮かべている。

 そしてこの状況を作り出したある意味張本人である園子は「あははは~」と笑いながらバツの悪そうな顔をしていた。

「なんで、アンタの書いた小説に! アタシたちをモデルにした女の子たちが出てくるのよ!」

 風が噛みつくように言うとそれに続き夏凜も言う。

「それはいいのよ。別にあんたの趣味だからあたしたちももうあきらめてる。問題なのは」

「どうしてそれを不特定多数の人が見ることができる小説サイトに投稿したのか、ということなのよ。丹羽君」

「本当に、すみませんでしたー!」

 それはそれはみごとな土下座だったと、のちに園子は語る。

 全身から黒いオーラを出す東郷に向けて、丹羽は平身低頭して謝ることしかできない。

 10と0どころか100と0で自分が悪いからだ。

 きっかけは園子との会話だった。

 いつものように勇者部で花咲かせる百合イチャを観察していた2人は、「尊い、てぇてぇ」「ビュォオオオ!」とそれぞれのカップリングを見て会話に花を咲かせていたのだ。

「そういえばにわみん、新作読んだんだぜー。姉妹百合もの。鉄板だけどいいよねー」

「ああ、あれは犬吠埼先輩と犬吠埼さんの会話を元にしたんです。ふういつは大正義ですからねー」

 その言葉を偶然聞きつけた風がまず「ん?」と首を傾げた。

「この前の先輩後輩ものと同学年ものも好きだよー。受けの女の子がチョロかわいくて」

「あれは三好先輩をモデルにしました。この前の結城先輩と犬吠埼さんに挟まれたゆうにぼいつが最高だったので」

 その言葉におやつのにぼしを食べている途中だった夏凜が思わず手に持っていたにぼしを机の上に落とす。

「完全夫婦な同級生ものも好きだぜー。あれってやっぱり」

「結城先輩と東郷先輩です。いやー、お2人のエピソードは純度高いから過剰摂取には注意ですわー」

「だねー。わたしもはかどるんよー。ビュォオオオ!!」

「やはりゆうみもは夫婦ですからねー。本当に百合イチャエピソードには困りませんよ」

「ずいぶん楽しそうね? 丹羽君、そのっち?」

 にこにこと笑う2人に3つの影が落ちた。

 振り向くとそこには風、夏凜、東郷が目が笑っていない笑顔で2人を見下ろしていたのだ。

 それから3人が丹羽を正座させ、園子に詳しい情報を聞き出した結果発覚したのは1つの小説投稿サイトだった。

 そこにある誤眠ワニという作家の書いている小説を読んで、東郷は顔を真っ赤にする。

「これ、私と友奈ちゃんが屋上で話した…なんでこんなことまで!?」

「あたしと芽吹がなんかケンカップルってことにされてるんだけど!? ちょ、なにこれぇ!? あたしこんなこと言ってないわよ!」

「これなんて樹とアタシの会話をそのまま書き出しただけっぽいわね。あれ? でもこんなことアタシも樹も言ってないわよ? へ? ほ、ほあー⁉」

 すると出るわ出るわ。自分と友奈しか知らないはずの秘密の会話や戦うことでしかお互いの素直な気持ちを伝えられないもどかしい乙女心をつづった小説。仲のいい姉妹の日常かと思いきやかなり願望が入り捏造された過激な百合イチャなど本人のあずかり知らぬところで百合小説のネタにされていたのだ。

 そのことに怒り、しかもかなり人気でもう複数の人間に見られた後だということが発覚して冒頭へ至るのであった。

「本当に信じられない! どうしてこんな捏造…もとい百合小説を」

「だって仕方ないじゃないですか! 勇者部の皆かわいくて尊いんですから!」

「か、かわっ⁉」

 丹羽のストレートな言葉に何人かの部員が顔を赤くするが、気を取り直した夏凛が追及する。

「あたしたちが問題にしてるのは、小説にして大多数の人間が閲覧できるサイトに投稿したことよ。なんでこんなことしたのよ!?」

「そりゃ、こんな尊い出来事を俺1人で独り占めなんてできないからですよ。質のいい百合イチャはみんなで楽しむもんです」

「そうだよにぼっしー。わたしも入院中にはにわみんの小説に大分お世話になったんだよー。だから、にわみんを責めないで上げて―」

 園子の言葉に一瞬夏凜は言葉に詰まった。園子が長年入院していた境遇を思い、不憫に思ったのだ。

 その心を救ったというのなら業腹だが多少は見逃してもいいか。と思い直しかけたその時だった。

「騙されないで夏凛ちゃん。そのっちは昔からこんな感じだったわ。というか、そのっちも私たちをモデルにして丹羽君みたいな小説を書いてるんじゃないでしょうね?」

 東郷の鋭い指摘に、園子はあからさまに目を逸らす。

 さすが小学生のころからの付き合いだけはある。親友が何をしようとしているかはお見通しらしい。

「か、書いてないよー」

「嘘おっしゃい! ちゃんと私の目を見なさいそのっち!」

 東郷と園子が言い争っている中、他の勇者部部員たちは自分のスマホに(くだん)の小説サイトを表示させ、内容を確かめている。

「わー。本当に私と東郷さんが話したこと書いてあるー。それに夏凛ちゃんと遊んだことも」

「ほんとですねぇ。帰ったらうちに盗聴器がないか確認しないと」

「いや、犬吠埼さん。盗聴とか盗撮の類はしてないからね! 信じてもらえないかもしれないけど」

「あ、この小説のモデルあたしか? しずくとラーメン食べに行った時のことが書いてある。あの時は楽しかったなぁ」

 樹を除きのんきに小説を読みながらわいわい騒いでいる友奈と銀に、東郷は訴えた。

「友奈ちゃん! 友奈ちゃんも怒るべきなのよ! 丹羽君は私たちだけの大切な思い出を勝手に小説にして!」

「え~。でも私たちの大切な思い出をこういう形にしてすぐ思い出せるようにしてくれたのはすっごく嬉しいよ! それに、私たちの思い出がみんなを元気づけてるって考えるとそれって素敵なことじゃない?」

 さすが勇者部の攻略王。マイナスだと思われる物事への全肯定っぷりは相変わらずらしい。

「そうね、友奈ちゃんの言う通りだわ」

「折れるの早っ⁉」

 そして友奈ちゃん専用イエスマンの東郷はあっさり寝返った。その手のひら返しに思わず夏凜はツッコむ。

「あたしたちはプライバシーの心配をしてるのよ! 風、部長のあんたからもなんか言ってやりなさい!」

「えー。でも一応名前は変えてるし、わかってる人が見ないとわからないくらいの配慮はしてくれてるみたいだし、別にいいんじゃない?」

 帰ってきた言葉に思わず頭が痛いというように夏凛は額に手を当てる。しかもこいつ、よく見ると自分のスマホから小説を開いてさっきから樹とのイチャイチャシーンを何度も読み返している。

「それより夏凜、この小説呼んでみ? うちの妹マジ天使なの。ほら、いいねもいっぱい」

 こいつ駄目だ。改めて風のシスコンっぷりに辟易しながら夏凛はもう1人のモデルにされている樹に声をかけた。

「樹、あんたは? この百合イチャ馬鹿に言うことあるでしょ?」

「わたしも別に…。丹羽くんがそういう人なのは知ってますから。まあ、盗聴は正直困りますけど、そこさえ注意してくれれば」

「心が広すぎるでしょうあんたは!」

 丹羽と同じクラスにいるためか丹羽の性癖については誰よりも理解し半ばあきらめている樹からしたら今更のことだ。特に驚きはない。

 というか盗聴盗撮の類の犯罪にかかわることを丹羽は天地神明にかけて行っていない。

 ただ、ナツメやセッカなど勇者たちと仲がいい自分の精霊たちから極上の百合イチャエピソードを聞いたり、賄賂(わいろ)(主にお菓子や園芸用品などの嗜好品(しこうひん))を渡して教えてもらっているだけだったりする。

「銀! あんたは? 自分のこと小説に書かれるって嫌でしょ?」

「え? いや全然。園子が昔から普通にしてたことだし、それほど抵抗はないな。むしろ変な服を着せられたりとかしないし、全然オッケーだぞ」

 なんてことだ。勇者部に夏凜の味方はいないらしい。

 みんな丹羽に対して寛大すぎる。いつぞやの精霊の時もそうだが、もう少し疑問に思いなさいよと夏凜は憤っていた。

「あのー、三好先輩」

「なによこの百合厨!」

 相当怒っている夏凜に、おずおずと丹羽は言う。

「その、三好先輩がどうしても嫌って言うならこれからは三好先輩をモデルにした小説を書くのは控えますけど」

「え? やめちゃうの?」

「ちょっと、園子。なんであたしより先にあんたが反応するのよ」

 残念そうな顔をする園子に、夏凜は思わずツッコむ。

「だってにぼっしーがいるだけでお話はすっごく面白くなるんだよー。ほらほら、評価見てみてよー。にぼっしーがメインの話、星の数多いでしょ?」

 その言葉に小説の評価一覧を見て見ると、確かに園子の言う通りだった。夏凜がモデルと思われる人物が登場する話には高評価が付いている。

「わたし読みたいなー。にぼっしーとみんながイチャイチャしてる話」

 園子の言葉に夏凛は顔を真っ赤にして「しょ、しょうがないわねー」とまんざらでもない様子だ。

 チョロい。さすが公式チョロインにぼっしー。

「そういえばそのちゃんをモデルにした話はあるの?」

 友奈の言葉に丹羽はスマホを動かしいくつかの話を選択した。

「これとこれとこれ。あとこの3つですね。そのっち先輩は基本東郷先輩と三ノ輪先輩との組み合わせが多いです。あと三好先輩」

「東郷と銀はわかるけど、なんであたし?」

 丹羽の説明に首をかしげる夏凜に、丹羽と園子の言葉が重なる。

「「だって、三好先輩(にぼっしー)使いやすいし」」

「人をお助けアイテムみたいに言うな―!」

 ウガーッ! と怒る夏凛に、まあまあと友奈が落ち着かせようとしていた。

「でも、丹羽君が書いてる小説って結構人気なのね。そのっちと同じくらい評価されてるんじゃないの?」

「そういえばそのっち先輩もこのサイトに投稿してるんですっけ。よければペンネームを教えていただいても?」

 東郷の言葉に丹羽が尋ねる。

「うん。スペース・サンチョっていうペンネームで書いてるんよー」

「ファンです。サインください」

 深々と頭を下げどこかから取り出したサイン色紙を園子の前にペンと一緒に出した丹羽に勇者部全員が驚く。

 こいつ、いつの間にこんなもの準備をしていたんだ? しかも行動が早すぎだろと。

「いつも常人にはあり得ない発想で描かれる物語にもう夢中です。応援してます。大好きです!」

「そ、そんなにストレートに言われるのは照れるんよー。それに、サインなんて初めてだし」

 照れ照れしながらもサラサラとサインを色紙に書いていく園子。どうやらまんざらではないらしい。

「えーっと、マリア様がみてるっていうのが1番人気なのね。その後がやがて君になる。ARIA、桜TRICK、きんいろモザイク、私に天使が舞い降りた、まちカドまぞく……これ、何作品あるの?」

 列挙された丹羽が書いたとされる作品数の多さに東郷が驚いている。もっともそれは丹羽というか人型のバーテックスが持つこの世界にはない百合作品を文章に起こしただけなので丹羽自体が考えたわけではないのだが。

 それにふっふーんと得意げに園子が説明する。

「誤眠ワニさんは作品数も多いけど、そのどれもがクオリティーの高い作品ばっかりなんよー。特にマリア様がみてる、通称マリ見ては続きが気になるいいところで執筆が止まって多くの百合小説好きを阿鼻叫喚に陥れた作品。みんなもきっと気に入るよー」

「いや、阿鼻叫喚って…そんなの読みたくないわよ」

 園子の解説に冷静に指摘する風。そんな彼女が丹羽の投稿した作品を見ていると、1つおかしなことに気づいた。

「あれ、このその花びらに口づけをって小説、R-15よね?」

 その花びらに口づけをとは丹羽の知識の中では18禁の百合作品だ。それを多くの人に楽しんでもらえるように性的な描写は控えめにしてR-15作品にしていた。

「はい、文字通り15歳以上じゃないと読めない小説です。犬吠埼先輩は読めるけど、犬吠埼さんは読めない作品ですね」

 何でもないように言う丹羽に、ジトっとした目で風が問いかける。

「ちょっと待って。丹羽、今アンタ何歳?」

「12歳、学生です」

 沈黙が勇者部部室を包む。風の言わんとしていることに気づいたのか、丹羽は親指を突き出して言う。

「大丈夫! 18禁の官能小説を18歳以下が読んじゃいけないっていう法律はありますが、書いちゃいけないっていう法律はありません。それと一緒で俺がR-15小説を書いても何の問題もないんですよ」

「「問題ありまくりだこの大馬鹿!」」

 風と夏凜のツッコミが勇者部部室である家庭科準備室に響く。

 今日も讃州中学勇者部は平和だった。

 

 

 

 四国の壁の外。かつて本州と呼ばれていた場所のテラフォーミングは順調に進んでいた。

 中国地方の解放は終了し、今は三重の伊勢神宮があったあたりに向けて開拓を進めている。

 出雲を解放したことでたくさんの神霊が味方となり、人型のバーテックスのテラフォーミングに協力してくれていた。

 園子や防人隊の協力もあり、海に四国から運んできた魚を放ったり動植物を試験的に育ててみたりと新天地でも生命が生きていけるかという実験は、四国にいる専門家の指導の下続けられている。

 これによりテラフォーミングは次の段階へと進んだ。もう少しすれば四国の外で牧場や魚の養殖も行えるようになるかもしれない。

 さらに動物の糞や死骸を分解するバクテリアが生まれ、植物が育ちそれを動物が食べるという生命のサイクルも近いうちに発生するだろう。それはテラフォーミングされた大地にとって革命的な変化だった。

 なぜなら人型のバーテックスの手を借りず、新しい生命が生まれるという初めての出来事だからだ。

 人間型バーテックスが住む村も芽吹が持って来た資料により、より住みやすい町へと発展している。

 水洗トイレや井戸水に頼らない地下水道の整備。下水の設置に伴う浄水場の設置などがバーテックスの能力も使って急ピッチで進んでおり、すでに弥生時代から江戸時代ぐらいまで生活レベルが向上していた。

 さらに本州でもスマホが使えるように基地局も設けるつもりだ。これは四国から持ってきても問題はなかったが壊れた時に直せる人間がすぐには来れないという事態を想定してバーテックスと精霊の力を組み合わせたハイブリッド機材を作成した。

 これ1つで地方のどこにいても連絡が取れる代物なのでむしろ四国の方から是非1つ譲ってもらえないかと頼まれたほどだ。

 こんなかんじで中国地方のテラフォーミングは順調に進んでいる。

 そんな中、丹羽を呼び出した人型のバーテックスは1体の丹羽と同じ強化版人間型星屑を前にして言った。

『丹羽明吾、頼みがある。もう1度だけ満開して、ブラックホールを作ってくれないか?』

 その言葉に、丹羽はすべてを察した。伊達に同じ人間から生まれたわけではない。

「のわゆ次元…あるいは鏑矢世代の勇者まで救う気か? 上手くいくかわからんぞ」

 そう、人型のバーテックスはずっと考えていた。神歴勇者だけではなく、西暦勇者たちも救えないかと。

 そこで目を付けたのは丹羽が天の神の時に作って見せたブラックホールだ。あれを使えば時空を超えて西暦時代へ行けるかもしれない。

 かもしれないというだけで確実ではない方法だ。ひょっとしたら亜空間に飛ばされてバラバラになってしまうこともあるだろう。

 それにこれから神霊を解放していくうちに、時空を操る神様が現れるという希望もある。

 だが人型のバーテックスはそれを待つ時間も惜しかった。今すぐにでも西暦勇者たちを助けに行きたい。

 しかし自分には四国以外の土地を再生するという使命がある。

 そこで考えついたのが、丹羽と同じように強化版人間型星屑を精霊と一緒に西暦時代へ送り出すという方法だった。

 丹羽の言うようにうまくいくとは限らない。ひょっとしたら宇宙の片隅を永遠にさまようことになる可能性もあるだろう。

 だが何もしないよりはマシだ。西暦にいる勇者の少女たちを救いようのない物語から助けられる可能性があるのなら助けたい!

「言っても無駄っぽいな。決意は固い、か。まあ、それはいいんだが……どうして女性型なんだ?」

 自分と同じ白い勇者服だがショートボブな髪で胸が豊かな強化版人間型星屑を見て、丹羽は尋ねる。

『いやだって、お前の件で勇者の女の子と一緒にいると自我を持つってわかったし。それなら女の子送り込んで勇者の皆とキャッキャフフフしてるの見た方がいいなと』

「完全に私欲かよ! まあ、わかる。俺もお前ならそうしただろうし」

 さすが自分、話が分かる!

 思わずハイタッチする人型のバーテックスと丹羽。その様子を光のない目で見るショートボブの女性型強化版人間型星屑の肩には見覚えのある精霊がいた。

「で、なんで国防仮面? 東郷先輩じゃ駄目だったのか?」

『いや、迷ったんだけどな。どの時代のどの場所に飛ぶかわからないから、全く関係のない人物を参考にした方がいいかと』

 その言葉に「ああ~」と納得とも呆れとも取れる声を漏らす丹羽。それから丹羽の中にいる精霊8体が外に出てきて、見慣れない自分たちと同じ人型の精霊に興味津々といった様子で取り囲んだ。

『スミー? スミかー?』

『違うわ、私は憂国の戦士国防仮面! 断じて鷲尾須美ではないわ、銀』

『いや…どう見ても東郷だろう』

『うん。東郷だよねー』

 スミの言葉に否定する国防仮面だったが、ナツメとセッカにツッコまれていた。 

『レンち、レンち! あれカッコよくない?』

『フッ、勇者服とは違う軍服のような男装…アカミネはああいうのが好きなのかしら?』

『ロックもアカナにそういう格好して見せたったらええやん。まあ、ウチは着んけど』

『みーちゃん、私が着ても似合うかしら。ああいう服?』

『うたのんは何を着てもかっこいいから大丈夫だよー』

 イチャイチャしている鏑矢組と諏訪組に思わず「あら^~」と人型のバーテックスと丹羽の頬が緩む。

『アカレン、うたみーはいいな。精霊になってもイチャイチャしている姿を見せてくれて、満足』

「だな。まあ、それはそれとして…1つお前に確かめたい事があるんだよ」

 丹羽の言葉に思わず『ん?』と人型のバーテックスは首をかしげる。それに丹羽は小瓶の中に入った飴玉状の丸まったバーテックスの肉塊を見せた。

「お前、俺にこれを使うのは3つまでって言ったけど、本当はこれ全部食べても人型化しないんだろ? 俺だったらそうするし。それなのにああ言ったのは、俺に満開して戦ってほしくなかったからか?」

 その言葉に『さあな』とどこかとぼけたように言う人型のバーテックスの言葉に、丹羽は自分の考えが正しかったことを察した。

 まったく、自分が生み出したただの道具にどうしてそんな気を使っているのかこいつは。

 まるで勇者の少女たちと同じ…とまではいかないがそれと同等くらい大切に扱ってくれる創造主に、丹羽は呆れるしかない。自分の変わりはいくらでもいるのだから使いつぶせばいいのにと。

 勇者の少女たちを救うためなら人間だった頃の倫理なんて捨てようと最初は考えていたくせに、甘いというかなんというか。

「時には非情になる覚悟をしとけよって、本当は言うつもりだったんだ。お前がテラフォーミングをしに四国以外の土地に行くって話をした時に。でも、お前が予想外のことを言うから言えなかった」

 丹羽はその時のことを回想し、遠い目をする。

 あの時はいきなりそのことを告げられ残り7体の巨大バーテックスとの総力戦前に戦線を離脱するという行動に動転して自分の覚悟を告げることができなかった。

 いざというときは俺を使いつぶせ。勇者の皆を守るために死ねと命令しろと。

「まあ、そんなお前でよかったと思うよ。そういうお前だからこそそのっち先輩はお前を信じて、勇者の皆も信じてくれたんだろうな」

 人型のバーテックスの分身ではなく丹羽明吾として自我を得たバーテックスは、自分の創造主を誇りに思う。

 と同時にそんなことは絶対に言わないけどなと固く誓った。もし言ったらとんでもないナルシズムだ。

「じゃあ、やりましょうか皆さん! 偽神満開! 天津甕星!」

 小瓶の中の肉塊を口に入れて噛み砕き、8体の精霊と一体化し光に包まれる。

 様々な種類の百合が咲き誇ったあと、光が収まるとそこには神道の白い神官服に7色のラインが入って中央に燃えるような赤い宝玉がある勇者服を着た丹羽がいた。

 武器である白い巨大な茅の輪のような物を中空に放ち、意識を集中させる。すると空間に裂け目ができそこからねじれるように黒い穴が広がっていった。

「できたぞ」

『ああ。じゃあ、行って来てくれ』

 人型のバーテックスの言葉に国防仮面の精霊と一体化した女性型の人間型星屑はうなずき、空間の裂け目に飛び込む。

 体全部がブラックホールの中に消えたのを確認した後、丹羽は満開を解き精霊たちに礼を言うと自分の中に戻した。

「繋がるといいな、西暦に」

『ああ、あんタマやぐんたか、大正義わかひなを直で見たいけどなー。俺もなー』

 自分が送り出した人間型星屑の姿を見て言うことがそれかよ! と丹羽はげんなりする。まあ、気持ちはわかるが。

『さて、じゃあこれで心残りはなくなったし、俺は土地の再生に戻るわ。お前は勇者の章じゃない勇者部の皆が幸せになる物語を見届けて来いよ』

 ひらひらと手を振って星屑丸出しの顔で言う創造主に、丹羽は笑って言った。

「おう! ちゃんと見届けるよ。彼女たちが不幸になりそうになったら全力でそれを阻止する。必ず7人全員が幸せになるようにがんばるさ」

 明るく言う丹羽に、これなら任せて安心だなと人型のバーテックスは思う。

 勇者の章へ続くフラグもバッキバキに折った。神樹の祝福もあるし彼女たちを待ち受けているのは約束された幸せな未来だろう。

 それを丹羽の目を通して見ることができるということに喜びを感じる。

 あと精霊を通して百合イチャを間近で見られることも。

 こうしてこの世界最弱の敵、星屑に突然転生させられた「俺」こと人型のバーテックスの物語はここで終了する。

 この後続くのは、何でもない退屈とも思える幸福な「普通」の日常を送る女の子たちの物語。

 そう、この世界の「結城友奈は勇者である」のお話は、これでおしまい。

 

【詰みゲーみたいな島(四国)で人類の敵として転生させられた百合厨はどうすりゃいいんですか?】(了)

 

 

 

 おまけ

 

 天の神は歓喜した。

 自分の予想をはるかに超えた新たなる同胞。そして好敵手の誕生に。

 自分が操る天の神の端末を倒し、逆に支配して己の手駒とするなど考えもつかなかった。

 こいつは危険だ。神樹と組んで自分たちと戦う日がいずれ来るだろう。

 だが、今はその時が待ち遠しい。彼と出会い存分に語らう日が来る日を指折り数えていきたいと思う。

 百合のすばらしさに。女性のみが住むという彼の作った理想郷を訪れる日が来ることを。

 そう、天の神は端末とシンクロして人型のバーテックスの思考を探ろうとしていた。

 その結果人型のバーテックスが天の神(RX)を洗脳した時、同じようにシンクロしていた天の神本体にも少なからず影響が出たのだ。

 それは正義の心と人を愛する心。そして…偏った性癖。

 つまり、天の神本体は自分でも知らないうちに人型のバーテックスの嗜好と同調し、百合好きになっていた。

 この結果数百年後、天の神本体、神樹、そして造反神モードの人型のバーテックスは3体そろい四国や復興した日本列島について会議することになる。

 内容は人間をこれからどう扱うかという崇高なもの――の皮を借りたどういう百合シチュが好きという百合厨特有の濃いトークだったことを、人類は知らない。

 ただ、この時結ばれた約定により2柱の神と1体のバーテックスの手によって人類に永遠の祝福が与えられることになり(主に百合方面)、人類は長きにわたる天の神との戦いの終結に喜び合うのだった。




 トロフィー【2つの神を百合厨にさせた百合の伝道者】を獲得しました。
 トロフィー【その時、不思議なことが起こった】を獲得しました。
 トロフィー【夢の40人ドリームチーム】を獲得しました。

 実績:〈造反神〉を獲得しました。
 実績:〈偽神満開・天津甕星〉を獲得しました。
 実績:〈中国地方再生完了〉を獲得しました。
 実績:〈国防仮面の精霊誕生〉を獲得しました。


 四国と神樹の寿命も神婚以外の方法で伸ばすことに成功。
 バーテックスの脅威から四国の人々を守り、勇者たちを戦いから遠ざけた。
 四国以外の土地は再生され、人間や動物も住める環境になってきている。
 これでゆゆゆにおける詰み要素は全部改善されました。(公式「これから増えないとは言っていない」)
 以上を持って「詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか?」は終了となります。
 ここまで読んでくださった読者の方に感謝を。そして誤字報告してくださる方にはさらに感謝を。ありがてぇありがてぇ。
 さらにゆゆゆという作品を作ってくださった原作者のタカヒロ神とアニメ制作会社様とクリエイターの皆様には最大限の感謝を。起立、礼、タカヒロ神に、拝。
 春アニメの新作「ちゅるっと!」期待しております。早く動いてしゃべる西暦組が見たいよぉ!
 拙い作品ではありましたがゆゆゆ新作が始まるまでの暇つぶしに読んで楽しんでいただけたのなら幸いです。
 ご愛読ありがとうございました。

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