詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか? 作:百男合
友奈ちゃんが丹羽君を攻略するお話、はーじまーるよー。
時間はさかのぼり、夏休みである。
園子が加わり7人で夏祭りの屋台を巡っていた勇者部だったが、友奈は人ごみに流されてはぐれてしまう。
同じように人ごみに流されはぐれた丹羽と合流した友奈は、そこで自分の内面を見抜いていた丹羽に驚き、今まで勇者部の皆にも隠していた内心を吐露したのだった。
「格好悪いね、私。先輩なのに、丹羽君にしっかりしたところ見せないといけないのに」
困ったなぁというような顔をする友奈に、そんなことはないですよと丹羽は告げた。
「俺は弱音を漏らして助けてって言ってくれる結城先輩の方が助かります…いや、好きです。そっちのほうが人間らしくて」
それは丹羽が友奈の自己犠牲的な考えや自己評価の低さが改善されればいいなと思って言った何気ない言葉だったが、当の友奈は違った意味で受け取る。
(え? 好き? 丹羽君、私のこと好きなの!?)
結城友奈14歳。恋愛に関する免疫はゼロ。
さらに言えば異性に告白された経験もゼロだった。
無論、勇者部の活動でボランティアで向かった保育園や幼稚園で男の子に好意を向けられることはある。
だがそれも東郷の目で厳選され、問題なしと判断された子だけだった。
つまり、明確な行動や言葉によって好意を示されたのは今回が初めてだったのだ。
(ど、どうしよう!? 今返事した方がいいのかな? でも、もし勘違いだったら? 今後丹羽君と顔を合わせるのが恥ずかしくなっちゃうよー。助けて東郷さん!)
その東郷ははぐれた友奈を探すために祭りがおこなわれている境内を爆走中である。風と夏凜の制止も聞かずに。
「友奈ちゃんどこぉおおおおお!?」
「あれ? 今東郷さんの声が…」
「結城先輩、今犬吠埼先輩と連絡つきました。鳥居のところでみんな待ってるみたいです」
ドップラー効果を残して去っていく東郷の声が一瞬聞こえ耳を澄ませた友奈に丹羽は声をかける。
「じゃあ、行きましょうか」
そう言って丹羽はうかつにもいい人ムーブを忘れ、友奈の手を握ってしまった。
「あっ」
手のひらから感じる自分とは違う体温。女の子とは違うごつごつとした手。意外と長い指。
(手をつないでしまった…これはもう結婚するしか)
結城友奈14歳。もう1度言うが恋愛に関する免疫はゼロだった。
なので考え方は極端で、手をつなぐ=結婚。キス=赤ちゃんができるというお花畑的な思考だったりするのだが…それを明確に指摘してくれる人間は残念なことにこの場にいなかった。
というか、誰も友奈がこの時丹羽に恋心を抱いていると気づかなかったのである。
それは神樹様による丹羽が四国を滅ぼす敵という神託やその後に続いたごたごたが原因だ。
ちなみにこのルートの友奈はノーマルルート以上に病み、友奈の自己犠牲精神を否定して大嫌いと宣った丹羽に対し、「そんなこと言うのは本当の丹羽君じゃない!」と本気で殺しにかかっていたりする。
その後は丹羽を傷つけたことに涙を流しながら謝り、「ごめんね、ごめんね」と見ている方が気の毒になるほど謝罪していた。
その時は勇者部の全員が大切な仲間を勇者という責任感から傷つけてしまったことに対して謝っているのだと思っている。
誰も気づかなかったのだ。この時の友奈の危うさに。
戦いが終わった後、男子寮の部屋から犬吠埼家の隣の部屋にまた引越しし直した丹羽は、早朝のチャイムの音にドアを開けた。
「おはようございます、犬吠埼先ぱ…あれ? 結城先輩?」
そこにいたのは隣の部屋にいる風ではなく友奈だった。丹羽が開けたドアに足を挟み、にっこりと笑う。
「おはよう明吾君。朝ごはんまだでしょ? 作って来たんだー」
そう言って手提げ袋に入った弁当箱を見せる友奈。
「え? なんで? いや、俺はいつも犬吠埼先輩に朝食にお呼ばれしてナツメさんと一緒に食べてるんですけど」
「知ってるよ。でも、今日から私が朝ごはん当番。風先輩にも了解もらったよー」
明るく言う友奈に丹羽は困惑しているようだった。
「えっと、どうしたんですか急に? 俺、なにか結城先輩にしましたっけ?」
「いつも親切にしてくれてるよ! それにその…それも含めて日頃のお返しをしたくて」
玄関先でもじもじする友奈に、とりあえず丹羽は中に入るように促す。
「わぁ…ここが丹羽君の部屋なんだ。パソコン以外何もないね」
「男の1人暮らしなんてこんなもんですよ。それよりお返しって一体…」
そんなの、今まで彼女らしいことができなかったことに決まってると友奈は思う。
2人は恋人同士なのだから朝起きるのも一緒。寝るのも一緒な毎日が当たり前だが自分たちは学生の身。そこは我慢すべきだろう。
だが、恋人としてせめて料理くらいは一緒に食べたい。友奈なりの乙女心に風は快くうんと言ってくれた。
「はい、どうぞ。お口に合うかな?」
「これ…すごいごちそうじゃないですか! 朝からこんなに…大変だったでしょう」
友奈が広げた弁当箱にはおにぎりや厚焼き玉子、肉団子に揚げ物と男の子が好きなおかずがいっぱい詰まっていた。
東郷や風のように一流ではない。だが、それゆえ心がこもっているとわかる料理の品々。
友奈が促すと丹羽はおいしそうに食べてくれた。
「どう…かな?」
「ええ、すごいおいしいですよ。これなら東郷先輩もイチコロですね!」
丹羽の言葉に友奈の顔は曇る。どうしてそこで東郷の名前が出るのか。
やっぱり自分なんかより東郷の方が好きなのだろうか? きれいだし、丹羽と東郷しかわからないことをよく話して一緒に盛り上がっているし。
「いや、東郷先輩もこのお弁当を食べたら大喜びするっていう意味ですよ! こんなの俺にはもったいないっていう意味で」
なんだか知らないが慌てた様子の丹羽がフォローしてくれた。どうやら知らぬ間に口に出してしまったらしかった。恥ずかしい。
「なんだ、そうだったんだ。いいんだよ、これは丹羽君のために作ったんだから丹羽君が全部食べて」
にっこりと笑ってどうぞどうぞとお弁当を勧める。
男の子向けにたくさん作ったが足りるだろうか? 丹羽はバーテックスなのだから重箱3つでは足りないかもしれない。
「結城先輩は食べないんですか?」
「うん。もう食べてきたから」
自分のことを心配してくれる丹羽に、改めて友奈は惚れ直す。
やっぱり明吾君は優しいな。
その後丹羽は友奈の持って来た弁当(重箱におにぎりを3合分敷き詰めた1の段。おかずが2段)を食べ終え、満足そうにごちそうさまといってくれた。
「じゃあ、俺は学校に行きますから」
「うん。一緒に行こうね」
にっこりと笑うと丹羽は変な顔をする。
「え、一緒に?」
恋人なら当然なのに。きょとんとした顔をすると「まあ、そうですよね」とつぶやき一緒に登校することにした。
学校につくまで彼女の特権として腕を組んだ。恥ずかしかったがこうやって自分のものと周囲に喧伝するのは基本だと樹に借りた少女漫画には書いてあったし普通だろう。
ぴったりと丹羽の腕にくっついて歩くのは少し動きずらかったがなんだか心の距離まで縮まったようで嬉しかった。
「犬吠埼風、樹、丹羽、入るわよー」
昼休み。既に弁当を広げている2年生組に挨拶して3人が部室に入って来る。
「いらっしゃい、風先輩、樹ちゃん、明吾君」
「お先にいただいてるわよー」
「明吾君、いらっしゃい。風先輩と樹ちゃんも」
入って来た3人に向けて東郷、夏凜、友奈がそれぞれ声をかけた。
本当は友奈も昼休みに家庭科準備室に行くのも丹羽と一緒に行きたかったのだが、夏凜と東郷に誘われていつものように3人で来てしまったのだ。
だがそのせいで3年生の風が丹羽と一緒に部室まで一緒に来るとは想定外だ。風先輩にはちゃんと丹羽とお付き合いしているって言ったのに。
これは油断できないかもしれない。風が人の恋人をとろうとする泥棒猫のような人物でないことは知っているが油断は禁物だ。次からは自分が1番に丹羽のクラスに行き部室まで一緒に来ようと友奈は決意する。
「乃木は今日も大赦? それともお見舞い?」
「両方よ。いろいろ忙しいからね。そうよね丹羽」
「そうですね。新天地の調査とか防人の人たちとの連絡や調整とか忙しいですから」
夏凛の言葉に丹羽もうなずく。実際大赦への報告と防人と共に丹羽や夏凛と新天地へ行ったりと園子は忙しい毎日を送っている。
大赦のフォローが入るのだろうが、出席日数が足りるのかと心配だ。丹羽は普通の中学生生活を満喫してほしいと思っているようだが、そうもいかないらしい。
「明吾君、私お弁当作って来たんだ。一緒に食べよう」
友奈の言葉と行動に、勇者部の部室内はおかしな空気になる。
「え? 友奈、あんたなにを?」
「友奈ちゃん?」
丹羽が風に弁当を作ってもらっているのは勇者部では周知の事実だ。
それを知りながらも丹羽に対して弁当を作って来た友奈に、東郷と夏凜は困惑しているのだ。
「え、えっと結城先輩。今朝もですけどどうして急に俺にお弁当を? そういうのは東郷先輩にした方が喜んでくれると思いますよ?」
百合イチャを求める丹羽の発言に、一瞬友奈の瞳が曇る。
「やっぱり東郷さんのことを…。丹羽君、私のことを好きって言ったのにどうしてそんなに東郷さんのことを気にするの? 手だってつないでくれたのに」
「え、どうしたんですか結城先輩。急にぶつぶつ言って」
どうやらまた口に出していたらしい。反省しなくてはと友奈は首を振った。
「なんでもないよ。それに風先輩には今日から私が明吾君のお弁当も作るって連絡したから問題ないよ」
その言葉に全員が風を見る。
「え、だって友奈がそうしたいって言うから」
「何考えてるんですか風先輩!」
「そうよ、一体どうしたの風」
「どうしたって…ねえ?」
食って掛かる東郷と夏凜を見て風は友奈を見た。
むしろ恋人としては当たり前の行動だと風は思う。いつまでもお世話になっている先輩とはいえ恋人に他の女が作った弁当など食べてほしくないだろう。
と、そこで風は東郷と夏凜にはまだ内緒にしているという友奈の言葉を思い出した。
たしかに今の反応を見るに夏凜はともかく東郷には黙っていた方がいいように思う。じゃないと今度は東郷が精神崩壊しそうだ。
「そういうわけで、これから丹羽の朝食と弁当は友奈が作るから。まあ、夕食は今まで通りアタシが作るけど、それは我慢してね友奈」
グッと親指を突き出す風に友奈は感謝する。話の分かる先輩でよかった。
一方丹羽はどういうことかわからず当惑している。
なにか風の気に触ることをしただろうか?
ふういつ関係の百合イチャを見るためにしでかしたことが多すぎて、心当たりがありすぎる。
あれでもないこれでもないと考えていると友奈がいつも樹が座る丹羽の隣の席に座り直し、丹羽の分の弁当を広げた。
ちなみに樹にも風に報告するときに一緒に報告済みである。最初は驚かれたが2人とも自分たちの恋を応援してくれている。
「じゃあ明吾君、お弁当食べよ。ちゃんと朝のとは中身が違うよ」
「説明なさい、丹羽君」
「お、俺にもなにがなんだか」
友奈のことを無視して丹羽が冷や汗をかきながら東郷に必死に弁解していた。
それが何となく面白くなくて、友奈は東郷に少し意地悪してしまう。
「東郷さん、今は食事中だよ。それに私の明吾君にひどいことするなら…嫌いになるよ?」
嫌いになるよ…嫌いになるよ…東郷さん嫌い…東郷さんなんて嫌い、もう知らない!
脳内で勝手に友奈の言葉が絶縁宣言に変換され、東郷がフリーズする。
その様子に「おーい、東郷?」「東郷先輩?」と犬吠埼姉妹が心配そうにしているが聞こえていないようだ。
「ちょっと丹羽、あんたと友奈何があったのよ? なんかただ事じゃないんだけど」
こっそりと丹羽に近づいて耳打ちしている夏凜に、距離が近いなぁと友奈は目を細める。
「夏凜ちゃん。今はご飯中だよ。お話なら食べ終わった後にできるでしょ?」
視線を受けた夏凜はビクッとしてすぐさま自分の席に帰り食事を再開した。
一瞬感じた明確な殺意。それに目が、友奈の目が全然笑っていなかった。
唐突な友奈の変化になにがあったかは気になるが、触らぬ神に祟りなしだ。とりあえずしばらくは静観しようと夏凜は決意した。
全員が弁当を食べ終わるとまだフリーズしている東郷に友奈は声をかける。
「ねえ東郷さん。教えてほしいことがあるんだけど」
「はっ! 友奈ちゃんが私に教えてほしい事ですって!? なになに、なんでも言って!」
「あのね、丹羽君とよく東郷さんが話してる戦艦? とかについてわたしにも教えてほしいんだけど」
友奈の言葉に東郷は感極まった顔をして涙を流す。
「うう、ついに友奈ちゃんも国防の心に目覚めてくれたのね…。いいわ、私の持てる限りの知識を注ぎ込むわ」
「ああ、東郷の目がまたグルグル状態に。どうすんのよこれ」
護国思想モードになった彼女は誰にも止められない。これは今日1日使い物にならないだろう。
どうしたものかと考え込む風はちらりと友奈と付き合っているという勇者部唯一の男子を見る。
「やはりゆうみもは夫婦。キテマスワー」
「丹羽くん、顔」
「はい、すみません」
友奈と付き合っているというのに相変わらずな百合厨にこいつは一生変わらないのかなとため息をついた。
それから東郷の教えもあり友奈も東郷と丹羽との軍オタトークに交じれるようになった。
ついでに東郷には丹羽と付き合っていると伝えたところ「そうなの、それは素敵なことね」と笑顔で言われる。
「ハァ、ハァ、ぷぎゃー! どぴゅー! ぬー! どぴゅぅん!! どぴゅぅん!! ひーっ! 知ってるゆー! お〇ほのぷれい、お〇ほとイナゴのブレンド! ウーッ」
親友の祝福に喜んだ友奈だったが、友奈が東郷邸から帰った後勝手にオンラインゲームのデータを消された子供みたいに自室で泣き叫ぶ東郷の声は隣の家の友奈の部屋にまで響き丸聞こえだった。
夏凜にも丹羽と付き合っていることを伝えると優しい顔で祝福してくれる。
「そう、あんたと丹羽がね。おめでとう! あの百合イチャ好き相手だと大変かもしれないけど、疲れたら愚痴くらい聞くわよ」
と同時に最近の友奈らしからぬ…いやある意味友奈らしい丹羽に対しての攻略ムーブに得心したらしい。
その後讃州中学に入学した銀とその親友の園子にもそのことを告げると2人とも驚いた後祝福してくれた。
「おう、そりゃめでたいな。おめでとう、結城さん」
「へー、そうなんだー」
「うん。だからとっちゃやだよ」
にこりと笑って言うと、2人ともうなずいてくれたので手を振って別れる。
「……すっげぇ気迫だったな、結城さん。あたしらが丹羽に手を出したら承知しないっていうのがありありとわかったぜ」
「あんなに愛されるなんて、にわみんも幸せ者なんよー。まあ、本当ににわみんと付き合ってるかどうかはわかんないけど」
園子の言葉に「ん?」と首をかしげる銀に、あははと園子は笑う。
「にわみんもとんでもない娘に好かれたもんなんよー。にわみんに被害が及ばない限りは静観するけど、一線を超えたら容赦しないんよー」
「園子、お前もとんでもない覇気を放ってるぞ……やべーよ」
友奈と同等のオーラを放つ親友を見ながら、銀はこれから入る勇者部でうまくやっていけるだろうかと一抹の不安を抱いた。
それから丹羽の生活は一変した。
朝は友奈の朝食をいただき、昼も友奈のお弁当をいただく。
それは休日も変わらない。さすがに悪いと断ったのだが、友奈は聞いてくれなかった。
料理の腕は着実にうまくなっており、東郷に協力してもらっているらしい。
「これでいつでも明吾君のお嫁さんになれるよ」と言われた時は思わず自分が百合厨であることも忘れてキュンとしてしまった。
訓練された百合厨でなければ堕ちていただろう。恐ろしい破壊力だった。
勇者部の攻略王の名は伊達ではない。
それから休日は積極的に遊びに誘われ、公園や映画館などに一緒に行った。部活動でもペアになることが多く、一緒にいる時間が増えた。
ただ、困ったことができた。
それはある日の早朝。チャイムが鳴る前に丹羽の部屋のドアが開いたのだ。
思わず隠れて警戒していた丹羽だったが、入って来たのは朝食が入った弁当を持って来た友奈だった。
後で話を聞くと丹羽の寝顔を見たくて合い鍵を内緒で作っていたらしい。普通に犯罪ですと説教しておいた。
東郷からよくない影響を受けているのではないかと風に相談したので再発することはないと思ったのだが、その後も週2ぐらいで早朝の不法侵入は続いていたりする。
それとどうやら丹羽がどういう百合イチャシチュが好きなのか園子に教わり研究しているらしく、いろいろなことをしてくれた。
目の前で東郷とイチャイチャしたり夏凜を後ろから急に抱きしめたりなど丹羽からしたら眼福な光景を見せてくれたのだ。
まあ、そのあと東郷と夏凜に無茶苦茶丹羽だけ怒られたのだが。理不尽。
「結城先輩。そろそろ満足したんじゃないですかね?」
「ううん。まだまだだよ明吾君。それに、私のことは友奈って呼んでっていってるよね?」
もう勘弁してくださいと遠回しに言ってもこの鋼メンタルには効果がないらしい。しかもカウンターでグイグイ距離を縮めてくる。
「それよりお昼食べて眠くなったでしょ。ほら、いつもの」
部室のひだまりに座り、スカートの膝をパンパンと叩く友奈。その姿に丹羽はちらりと他のメンバーを見るが「やれ!」と告げている。
「じゃあ、お邪魔…します」
「うん。おいでおいで」
昼食後の膝枕。風がGOサインを出してから恒例となった友奈の丹羽に対するお礼だ。
その光景に誰よりも悔しがっていたのは東郷だった。顔が般若の面のようになっている。
「くっ、友奈ちゃんの太ももの上なんていう楽園に頭を預けるなんて…羨ましい!」
「東郷、どうどう」
「まあ、やりすぎかと思うけどあの2人だからね」
「そうですよ東郷先輩。邪魔しちゃダメです」
夏凛と風と樹に止められ、ぐぬぬと東郷は悔しがる。殺意めいた視線を送ってくるので丹羽としては生きた心地がしない。
自分は友奈と東郷がイチャイチャしていた方が嬉しいのだが…そう思っていると友奈の手が丹羽の髪を梳いた。
「ふふっ。明吾君の重さ、ちょうどいいな。いつまでも私の上にいてもらいたいよ」
「それだと足がしびれちゃいますよ結城先輩」
軽口を返すと友奈はにっこりと笑い、太ももで丹羽の頭を軽く挟んだ。
「ねえ、丹羽君。私、君のことが好きだよ」
この時がターニングポイントだった。
「? はい、俺も結城先輩のこと好きですよ」
だが丹羽は深く考えず、友奈による丹羽君攻略フラグを立ててしまった。
「そっかぁ。わたしたち好き同志だね。嬉しいな」
友奈の中で丹羽ルートが確定した瞬間である。
それからさらに月日は流れ、友奈と丹羽の仲は深まって行く。
それこそ互いに隣にいないと物足りなく感じるほどに2人はいつも一緒だった。
「ねえ、明吾君。さっきそのちゃんと一緒にずいぶん楽しそうに話してたね。どんな話してたの?」
「え? 普通に小説の話ですけど」
「そっかー。寂しいなー。私と話してる時より楽しそうで、ちょっと妬けちゃう」
「あいつら部室で相変わらずイチャイチャしてるわね」
「見えない聞こえない見えない聞こえない」
「須美、いい加減現実を受け入れろよ」
夏凜の言葉に必死に自己暗示をしている東郷に若干引きつつも銀は現実を直視するように説得する。
また別の日。
「明吾君。風先輩をお姫様抱っこしたんだって? 私もされたいなー」
「いや、あれはお化けの話を聞いた犬吠埼先輩が腰を抜かしたからで。緊急手段だったんです!」
「抱っこがダメならぎゅってしようか。はい、どーぞ」
手を広げてウェルカム状態の友奈に、丹羽はため息をついて友奈の身体をお姫様抱っこした。
「部室まで運ばせていただきます。結城先輩」
「わーい」
「風先輩」
「ごめんなさい、東郷先輩。今お姉ちゃん限界みたいで」
恐怖から気絶している風にこりゃ駄目だとお手上げ状態の樹の言葉を受け、東郷はため息をつく。
どうしよう。日に日に2人のバカップルぶりが加速している。
付き合っているとはいえ節度は持つべきではないだろうか。まだ中学生なんだし。
「お困りのようだねわっしー」
「そのっち」
どうするべきか悩んでいた東郷の前に現れたのは園子だった。防人との新天地調査が終わり帰って来たらしい。
「ちょっと相談したいことがあってねー。まずはわっしーの意見を聞きたくて」
そう言って連れてこられたのは大赦のモニター室だった。
「ここは?」
「にわみんの監視映像がある部屋。一応立場が立場だからねー。大赦もこういうことしてるだろうと思ったけど、そこに面白いものが映ってたんよー」
「再生して」という園子の言葉に大赦仮面が機材を動かしモニターに映像が映る。そこには見覚えのある少女の姿があった。
「友奈ちゃん!?」
映像の時刻は午後11時をさしている。モニターの中の友奈はじっとマンションの一室の灯りを見つめ、その光が消えた後にっこりと笑いその場から去った。
「今のが10月1日から10月8日まで続く。で、その後の映像がこれね」
映像にはマンションから出てきた女性2名が映っている。片方は中年でもう1人は若い女性だ。
親子だろうか? そう思った東郷の目に信じられない光景が入って来た。
「なっ、嘘でしょ⁉」
なんと血相を変えた友奈がその女性2人組と言い争っていたのだ。音は拾っていないので内容はわからないが、普段の彼女を知る自分からしたら信じられない。
友奈が自ら進んで他人に喧嘩を売るなどありえない。そんなことをする子じゃないのは自分がよく知っている。
「調べてみたらこの2人、新興宗教団体を名乗って怪しい壷やお札を売りつける悪徳宗教の信者だったよ。どうやら両親がいないにわみんのことを聞きつけてしつこく訪問してたみたいだね」
「その2人と友奈ちゃんがなんで? ひょっとして丹羽君が騙されたとか?」
「まさか。にわみんはそこまで馬鹿じゃないよ。ただ、迷惑してただけ。ちなみにこの後この2人はこの地区の訪問もやめたし、なぜかその悪徳宗教団体もなくなったんだって」
園子の言葉にまさか、と東郷は冷や汗を流す。だが同時にいやいや、そんなわけはないと冷静に否定する。
「で、これが最近。これはネタ探しのために自分の精霊につけたカメラが偶然撮っちゃったものなんだけど」
「え? そのっち今なんて言ったの?」
なんだか聞き逃してはいけないことを言ったような気がするが目の前に流れた映像に東郷の意識はすぐ引き込まれた。
『結城さん。あなたと丹羽くんが付き合っているって嘘よね』
『違うよ、私と明吾君は付き合ってるよ』
声は聞き覚えがあった。勇者部に依頼に来てくれた女子生徒の1人だ。
自分たちと同じ学年で、確か珍しく丹羽に熱い視線を送っていたように思う。
場所は人通りの少ない体育館裏。いかにもな場所だ。
『へえ、おかしいわね。丹羽君、付き合っている女の子いるのって訊いたらそんな人いないって言ってたんだけど』
その言葉に思わず「え?」と声が出る。
友奈と丹羽が付き合っているのは勇者部では公然の事実だ。自分だって涙を呑んでそれを祝福したのに。
『私と明吾君は付き合ってるよ』
『そう思ってるの、あなただけじゃないの? 結城さんって思いこみ激しいし、本当はただの部活の先輩後輩なんでしょ』
『私と明吾君は付き合ってるよ』
壊れたレコードのように同じ言葉を繰り返している友奈を不気味に感じる。それに気付いていないのか、女子生徒は言葉をつづけた。
『ただの先輩後輩なら、私がもらってもいいわよね?』
『ダメ。明吾君は私の』
『そんなの、決めるのは本人でしょ? それとも本当に付き合っていないから焦ってる? 丹羽君もかわいそうね。こんな勘違い女に付きまとわれて』
この女、ぶっ■す!
大好きな友奈の悪口を言われて思わずガタッと立ち上がりかけた東郷の動きを封じたのは、友奈が放った轟音だった。
『な、な…っ」
目の前の光景が信じられず、女子生徒が腰を抜かす。
コンクリートの外壁が友奈の拳によって破壊されていた。
腰を抜かした女子生徒にゆっくりと友奈は歩み寄り、目線を合わせて言う。
『ねえ、私って明吾君に付きまとっている勘違い女なのかな?』
女子生徒は必死に首を振る。首がもげるのではないかと思うほど激しく。
『今回は、初めてだから見逃してあげる。でも、また明吾君に付きまとったら許さない。明吾君が一緒にいていい女の子は、私の他には勇者部の皆だけなんだから。わかる?』
友奈の問いかけに女子生徒はうなずく。
『じゃあ、もうこれ以上私を困らせないでね。また明吾君に近づいて私のこと困らせたら――嫌だよ?』
にっこりと笑う友奈に足をもつれさせながら女子生徒は去っていく。
映像はそこで終わっていた。
「これって」
「他にも間接的にもにわみんを『困らせる』ことをした相手には男女問わず…というか女性は特に、かな。ゆーゆにお仕置きされてる。今のような恫喝はかわいいものだよ」
衝撃的な事実に東郷は言葉も出せない。
なんてことだ。友奈が自分たちの知らないところでこんなことをしていたなんて。
「止めさせないと!」
「なんで? 別にゆーゆは悪い事はしてないよ?」
園子の言葉に思わず東郷はぎょっとして見返す。
「だって、これで逆恨みされて友奈ちゃんがひどい目にあったら! 友奈ちゃんはもう勇者じゃないのよ!」
「ゆーゆはそれも織り込み済みで行動してると思うけど。それにもしゆーゆがしなかったらわたしがやってたかもしれないし」
事も無げに言う親友に東郷は言葉も出ない。それに「あのねわっしー」と噛んで含めるように園子は説明する。
「にわみんは四国の人々にとって最重要人物なんだ。人型さんと人類をつなぐ唯一の存在。それを害そうとする存在は、誰であれ許されない。最悪大赦や勇者も動く事態になりかねないんだよ。だから、ある意味ではゆーゆの行動は称賛されるべき行為なんだ」
「でも、友奈ちゃんがあんなこと! あんなことするはずの子じゃないのに」
東郷の言葉に、それはわっしーが知らなかっただけなんじゃないかな? と園子は心の中でだけ言葉にする。
「とにかく、大赦やわたしとしてはその攻撃対象がにわみんに向かわない限りノータッチだから。わっしーからもそれとなくゆーゆを注意してあげて」
園子の言葉にごくりと固い唾を飲み、神妙な顔で東郷はうなずく。
「わかったわ。友奈ちゃんは私が守ってみせる! だから心配しないでそのっち」
その後も丹羽を『困らせる』案件を持って来た相手は本人のあずかり知らぬところで友奈によって葬られた。
そして勇者部クリスマスパーティーの後、友奈にとっては3か月と24日目に丹羽から告白を受ける。
丹羽にとっては初めての告白。友奈にとってはようやく言ってくれた相手からの愛しているという言葉。
こうして微妙なすれ違いがありつつも、2人は幸せに末永くお付き合いしていったとさ。
「まあ、本人たちが幸せならそれでいいんじゃないかな?」
とは園子様談である。
友奈ちゃんの愛は重い。東郷さんとはベクトルの違う方向で。
物理的には何もしないけど精神的拘束はしてきそう。あと目を離すと思考がネガティブに傾き過ぎて予期せぬ行動をとりそう。
そこ、メンヘラとか言わない! 友奈ちゃんは地雷女じゃありません!
ただ人より優しくてなにかあると自分を責めちゃうだけの娘なんです!
ちなみに東郷さんの奇声を全部聞きたい人は「修羅パンツ」、「空耳」で検索してみよう。