詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか? 作:百男合
三ノ輪銀が人型のバーテックスにさらわれ、3か月が経った。
樹海を出て壁の外へ捜索に行きたいと嘆願する須美と園子の訴えを、大赦は結局最後まで聞き届けなかった。
それどころか三ノ輪銀はバーテックスと戦って名誉の死を遂げたと公式に発表し、家族や親せきだけでなく神樹館小学校の生徒を集めて盛大な葬式を行い銀が死んだことを内外に喧伝した。
銀はまだ生きている。
そのことを大赦の連絡役である安芸先生にも伝えたが、何もしてくれなかった。
「結局先生もそっち側の大人だったんだね」
あの時、死人のような目をした園子が放った言葉に見せた彼女の顔を、須美は忘れることができない。
あれからいろいろあった。
葬式の帰りに襲来した、乙女座の撃退。
人型のバーテックスが渡してきた銀のスマホのデータをもとにした勇者システムのアップグレード。
精霊と呼ばれる存在が自分たちに与えられ、満開という今まで追い返すだけだったバーテックスを倒すことができる力を手に入れることができた。
そして、須美が見た神樹様の神託。
燃えるように赤い大きな球体の周囲を巡るようにして回る、3つの球体。
おそらく、敵のバーテックスが来るというイメージだろう。
大赦にこのことを伝えると、非常に驚かれた。大赦にいた巫女も同じものを見たという。
須美は勇者と巫女の能力を持った
だが須美は新しい実験動物を見るかのような大赦の要職にいる人間たちの視線に嫌悪しか感じなかった。
そして今日、10月11日。
複数の巫女の予言により、この日の瀬戸大橋からバーテックスはやってくるとされていた。
「いこっか、わっしー」
自分のリボンを須美に渡し、園子は言った。
神託によればこの戦いですべてが終わるという。
「ええ、そのっち」
だから、2人は神樹の結界の中へと足を踏み出す。
すべてを終わらせるために。
樹海の中に入ると、敵はすでに待ち構えていた。
牡羊座、魚座、双子座、牡牛座のバーテックス。
それを認めると2人はスマホのボタンをタップする。
アサガオと水連の花が咲き誇り、スカイブルーと白を基調とした勇者服にそれぞれ変身する。
以前の勇者服と細部が違っていて、アップグレードされたことがわかる。須美の武器も弓から銃へと変化していた。
さあ、これからが本番だ。
4体の星座級に向き直り、戦闘態勢に入ろうとした瞬間だった。
急に空が陰り、樹海に巨大な影を落とす。
見上げるとそこにいたのは、まるで西暦時代の軍艦を
星座級の巨大バーテックス4体と須美たちの間をまるで通せんぼするように現れ、停止した。
巨大星屑の口が開き、そこから現れた人型のバーテックスの姿を見て、須美と園子はいきり立った。
銀をさらったバーテックス。大切な親友を奪った、須美と園子が憎むべき最大の敵だ。
そいつに続き、別の何かが口から出てきた。遠くてよくわからないが、人間のようにも見えた。あの人型バーテックスの仲間だろうか。
いずれにしても自分たちの敵だ。須美と園子は大赦から教えられていた勇者の力を劇的に向上させるというシステムを早くも使うことを決めた。
「「満か」」
「その満開、ちょっと待ったー!」
突然聞こえた声に、2人はスマホをタップするボタンを止めた。
声の主はものすごい速さでこちらに突撃してきたバーテックスから降り、樹海に降り立つとバーテックスにありがとうと言って体躯を叩く。
すると突撃してきたバーテックスは踵を返し結界の外へ向かって一目散に移動しだした。
信じられない光景だった。バーテックスが樹海の中に侵入したのに引き返したことも、人間の指示を聞いたことも。
「よし、間に合った」
その声に、その姿に。
須美は知らず走り出していた。後ろから聞こえる園子が止める声も聞かず。
鍛えているはずなのに息が乱れる。心臓の音が早いのは走ったせいだけではないだろう。
「よっ、須美」
その女の子は、三ノ輪銀は記憶の中とちょっと違う白い髪と白い勇者服を着ていて。
でも記憶の中と一緒の表情で笑いかけてくれた。
「銀ーっ!」
「おわっ!?」
思わず感極まり、抱き着く須美を銀は受け止める。
「今までどこ行ってたの!? 体は大丈夫? ちゃんとご飯食べてた? その姿は? あの時私、間に合わなくて、あと、えっと」
「ちょいストップ。積もる話もあるんだろうけど今はアタシの話が先決」
そうだった。と須美は巨大な星屑と4体の巨大バーテックスを見る。
突然現れた奇妙なバーテックス達に、牡羊座、魚座、双子座、牡牛座のバーテックスたちは困惑していた。
まるで勇者たちを守るように自分たちの前に立ちはだかったのだから、当然と言えば当然だろう。
「聞いてほしい話もあるんだ。須美と、園子に」
いつの間に後ろにいたのか、園子が銀を見つめていた。
ただ、その瞳に須美のようないなくなった親友と出会えたことによる喜びはない。
あるのは疑念。そして
「ねえ、ミノさん。なんであいつと一緒にいたの?」
須美は園子の言葉でようやく気付くことができた。
銀と一緒に巨大な異形の星屑から降りてきたもの。
そいつはあの時、銀を連れ去った人型のバーテックス。
特徴的な仮面をつけているから間違いない。
自分をさらったはずの敵となぜ一緒にいるのか。さすがにおかしく思い、須美は銀から離れ武器に手をかける。
「それと、あなたは本当にわたしたちの知ってるミノさんなの?」
核心を突く質問に、三ノ輪銀の姿をしたものは苦笑いをした。
銀ちゃんが樹海へと降り立つのを確認し、俺は目の前にいる巨大バーテックスを見る。
ピスケスとアリエス。原作ではいなかったジェミニとタウラスもいるな。
レオは前回行動不能にしたからいない。登場したタイミングは最悪だったが、最後の戦いの前に無力化できたのは正直幸いともいえた。
さぁ、最終決戦だ。出し惜しみせずに行こう。
軍艦のような巨大な星屑…連れてきたサーバー星屑から、次々とゆゆゆいオリジナルの疑似バーテックスが吐き出される。
アタッカ・アルタ。フェルマータ・アルタ。コンフォーコ・アルタ。マストーソ・アルタ。カプリチオ・アルタ。グリッドサンド・アルタ。タチェット・アルタ。カデンツァ・アルタ。カノン・アルタ。カノン・デュオ・ロッソ。カノン・デュオ・ウェルデ。セプテット・アルタ。ポルタメント・アルタ。レクイエム・アルタ。スケルッツォ・アルタ。ペザンテ・アルタ。ロンド・アルタ。ジョコーソ・アルタ。ドルチェ・アルタ。
直接攻撃型、範囲攻撃型、遠距離攻撃型、自爆型、バフ要員、デバフ要因、防御特化型とそろい踏みだ。
あと季節限定のフェルマータ・プリモとカプリチオ・ズッカ、レクイエムノエルもいる。門松にハロウィンのカボチャ、クリスマスツリーとここだけなんか雰囲気が違う。
それにしても結構な数だな。圧縮した星屑30体ほど突っ込んだけど処理追いつくかな?
俺はサーバー星屑に手を触れ意識を移すと、飛び込んできた情報の多さに目を回した。
ちょっ、脳がパンクする?!
なんとか事前に考えてた作戦をするように念じ、あとはオートモードでバーテックスを管理してもらうようにする。
すると次から次へ画面が変わり、目を回しそうになる。なんとか人型に意識を戻すがまだちょっと酔いが…。
恐ろしい速さの情報処理速度だった。このサーバー星屑、そのうち俺より賢くなって反逆とかしないかな?
人間対AIみたいなどこかの映画みたいなことにならないように注意しよう。そう心に決めた。
さて、指示も出したしこっちも動きますか。
まずピスケス。こいつは見た目通りの魚型で、地中や海中を潜る能力がある。
本編通り樹海に潜って勇者たちを強襲しようとしているようだが、そこに俺はカプリコンの能力である地震を発動する。
すごいぞ、効果は抜群だ。
潜っていた樹海から姿を出し、ガチンコ漁で打ち上げられた仮死状態の魚みたいにピクピクしてる。
カプリコン、今まで散々悪口言って悪かったよ。お前の能力、結構役に立ったわ。
無防備な状態のピスケスの身体を近接攻撃型の疑似バーテックスが囲んでいく。後の展開は予測できるだろうから割愛。
俺は処理を任せ、次に本編ではいなかったジェミニとタウラスに向き直る。
こいつらへの対処は簡単だ。
まずジェミニは移動速度が早いことを除けばそんなに攻撃手段があるわけではない。
防御特化のバーテックスで囲んで動けなくした後、スコーピオン印の毒液を注入する。
あとは弱るのを待つだけ。常に走ってるから毒が回るのも早いだろう。
タウラスはレオと合体した姿しか印象にないが、こいつ実は結構固い。
硬くなるが得意な牛…タイバニかな?
まぁ、それは別として攻撃手段はその体躯にある鐘から放つ怪音波だ。
でもこっちはリブラの能力を持ってるから空気の振動ゼロにできるんだよな。よって無効化できる。
まずはリブラの能力でタウラスの周りに空気の壁を作る。次にデバフバーテックスで囲みひたすら防御を下げる。
あとは食べごろの硬さになるまで待つだけだ。はい、次。
最後はアリエス。牡羊座の名を冠してはいるが見た目はウミウシというか貝の中身みたいな姿をしている。
こいつの能力は厄介で、脅威の再生能力だ。攻撃を受けてもすぐ再生し、切断面から増殖したりとプラナリアみたいなやつだ。
こいつへの対処は増える前に食べる。
俺は頭を巨大化させ、突っ込んできたアリエスを丸呑みした。
バリバリムシャムシャモグモグゴックン。
なんか、アワビとかトコブシ、サザエみたいな貝類の味がしたんだが、こいつ本当に牡羊座なのか?
残りの星座級も弱ってきたので順番に食べていく。
ピスケスは刺身、焼き魚、アクアパッツァなどの見た目通り魚の味。
ジェミニはなぜか雪見大福とかポッキンアイスの味がした。2つで1組って意味かな?
タウラスはステーキとかしゃぶしゃぶ、すき焼きの味。うん、美味しい。
ヴァルゴは須美ちゃんとそのっちが本編通り倒して結界から出てきたのを強襲して食べたから、これで黄道12星座のバーテックスを全て食べたことになる。
あとは御霊なしの12体倒すだけだから楽勝だな。はっはっは。
と、この時は思っていたんだ。
後から思えば、これは油断以外の何物でもなかった。
この世界はそんなに優しいはずはないのに。
御霊持ちの12星座がやられたことを、天の神が感知していないはずがないのにと。
「なんていうか…すごいわね」
目の前で繰り広げられている光景に、須美は感想を漏らした。
バーテックスがバーテックスと戦っている。
あまりに異常な事態だったが、それ以上にショッキングな出来事が今の須美の頭の中の常識を麻痺させていた。
人型のバーテックスの頭が急に巨大化し、巨大バーテックスを食っていたのだ。
「おぅ、いっつくれいじー」
「話に聞いてたけど実際見るのとは大違いだわー」
隣で一緒に膝を抱えて三角座りしている園子と銀もそれぞれ感想を漏らす。
自分たちが苦労して戦ってきた巨大バーテックスをいとも簡単に無力化し、食っていく姿はどこか怪獣映画のようで現実感がなかった。
先ほど、銀は言った。自分は間違いなく三ノ輪銀で、勇者なのだと。
ただ、肉体がバーテックスになってしまったらしい。
そのことにショックを受けた須美だったが、銀が話し出した満開の秘密について聞くとさらに驚いた。
満開は勇者の能力を向上させるが、代償として身体の一部を供物として神樹様に捧げると。
だから絶対するなと言われ、須美と園子は顔を見合わせた。
なぜ、自分たちが知らないことを銀が知っているのか。なぜバーテックスの肉体になったのか。
聞きたいことは山ほどあった。だが、「信じてほしい」と言う銀の瞳は、記憶にあるものと一緒だった。
「満開の代償かぁ。大赦の大人が隠してそうなことだね」
と、園子は言った。
「でも、あなたが本当のことを言っている証拠は? わたしたちが知らない情報をなぜ知ってるの? バーテックスならあの人型のバーテックスがミノさんそっくりのバーテックスを作ってわたしたちをだまそうとしてるんじゃないの?」
矢継ぎ早に問いかける瞳は、親友に向けるものではなかった。
むしろ親友と似た、いや似過ぎているバーテックスに対して静かな怒りすらにじませ園子は銀に詰め寄る。
その時だ。あの人型のバーテックスの顔が巨大化して牡羊座を丸呑みしたのは。
あまりのことに、全員呆然としてその光景を見ていた。
銀がいなくなって1体のバーテックスが襲来したが、その時も死に物狂いで戦った。
仲間がいなくなった悲しみを抱えたまま2人で奮起し、ようやく樹海の外へ追い返したのだ。
それをあのバーテックスは、子供が描いた絵のような方法で巨大バーテックスを倒している。
なんだか、馬鹿らしくなってきた。あんなにデタラメなものが自分たちをだますために銀に似たバーテックスを送り込んだと疑うのも。
気が付けば3人並んでひざを抱えその光景を見ていた。
「わたしたちがやってきた戦いって、なんだったんでしょうね」
「もう、あいつ1人でいいんじゃないかな?」
「いや、アタシらだって頑張ってきたじゃん。ただ、アイツが異常なだけで」
満開がどうとかいう話題はもう全員の頭の中から消えていた。
ただ現実感のない光景に、脳が色々麻痺した状態が続く。
それが解消されたのは、4体いた巨大バーテックスを全て食べ終えた人型バーテックスがこちらに向かってきたときだった。
しばらくはぼーっとしていた3人だが今の光景が現実だといち早く理解した園子が武器を取り、戦闘態勢に入る。
その姿を見てやや遅れて須美も新しい武器の銃『
先ほどまで怪獣映画を見ていたようで現実感はなかったが、あれが自分たちが苦労してようやく倒せた巨大バーテックスをいとも簡単に倒してきたのは事実。
実力差は歴然だった。
だがそれでも、神樹様を守る勇者として、人類を守る勇者として自分たちは戦わないわけにはいけない。
ごくり、と固いつばを飲み込んで相手の動きを見る。たとえ敵わなくても足止めだけでも…そう考えていた2人は、
『すみませんでしたー!!』
緊迫した空気を破る頭に響く謝罪に、鳩が豆鉄砲を食ったような表情になってしまった。
『こんな状況になるまで追い込まれたのはみんな、みんな俺のせいです。ごめんなさい! ですがどうか、どうか俺の話を聞いてください」
見ると人型のバーテックスが正座して頭を地に伏せ、両手を前に差し出している。
いわゆるスライディングジャパニーズ・ドゲザ。見事なまでに五体投地している姿に須美も、園子も、一緒にいた銀も呆然としている。
よく見ると紫色の狐みたいなゆるキャラが人型バーテックスの近くを浮いている。
状況から判断するとさっきの言葉はこの人型バーテックスの言葉で、このゆるキャラが伝えているといったところか。
園子が分析していると宙空からもう1体ゆるキャラが出てきた。白い髪と眉に生えた角。烏帽子をかぶり和服を着ている子供みたいだ。
(この子たち、ひょっとして精霊?)
考え、ありえないとすぐ否定する。
精霊は神樹様の力から生まれるもので、自分たちもつい先日大赦から与えられたのだ。
そんな精霊をバーテックスが作れるはずが…。
園子が考えているとその和服の子供は、土下座している人型のバーテックスの頭を撫で、じっとこちらを見ている。
まるで「この人がこんなに謝っているのに許してくれないの?」と問いかけるように。
「「うぐっ」」
純粋な瞳に見つめられて、須美と園子はなぜか自分たちが悪いことをしているような気分になった。
こ、子供を使うのは卑怯だよー。
「と、とりあえず顔を上げろよ、な?」
銀が言うと人型のバーテックスは頭をさらに地面をこすりつけ、
『いえいえ、こんなことで自分がしたことが許されるとは思っていません! 誤解もあったでしょうが2人の前から銀ちゃんを拉致同然に連れ去ったのは事実だし、それに俺がスコーピオンを倒したせいで余計危険な目に合わせたのも』
「わ、わかりましたから顔を上げてください。話を聞きますから」
「ダメだよわっしー! それじゃこいつの思うつぼ」
『そうだよな…。俺の話なんて聞いてくれないよな。わかった、気が済むまで攻撃してくれ。ただそれが終わってからでもいいから話を聞いてほしい』
そう言ってさらにぐりぐりと、頭で地面を掘っているんじゃないかと思うくらい仮面をかぶった額をこすりつけている。
暴力だよー。これは土下座という名の一方的な暴力だよー。
頭が痛くなってきた園子だったが、さらにこの後困ることになる。
なんと和服の子供が人型のバーテックスをかばうように手を広げ、園子と須美の前に立ちはだかったのである。
どうやら人型バーテックスの言葉から須美と園子が攻撃してくると思ったらしい。
怖いのか若干震え、目も涙目だ。
(これじゃこっちが悪者みたいじゃない)
須美は手をかけていた銃を下し、園子もそれにならう。
「とりあえず、話を聞かせてもらえますか? 人型のバーテックスさん」
「つまり、あなたは銀の傷を治すためにあの水球に閉じ込めて私たちの前から連れ去ったと」
「ミノさんがそんな姿なのは早く治ると思ってたのに一向に目を覚まさないから、わたしたちとの和解のためにバーテックスの身体にミノさんの記憶を入れて連れてきたと」
『はい』
「ついでに言うならアタシをさらったときこの人間と話すための精霊忘れたんだってさ」
3人の小学生勇者に囲まれ、仮面をつけた人型バーテックスは正座していた。
傍から見たらちょっと引く光景だ。
「ま、アタシも説明を受けたときは疑ったんだけどな。で、しばらくこいつのところにいたんだけど、さっき星座級のバーテックスが神樹の結界に入ったって言ってきて急いで連れてこられたんだ」
「しばらく一緒にいたって、大丈夫だったの銀?」
「変なことされなかったミノさん?」
「いや、普通に良くしてくれたぞ。退屈な時はそこの白静と遊んでたし、満開の話を含めてアタシの知らない面白い話もしてくれたし。ただこの身体は食事も睡眠も必要ないから、それがちょっと辛かったかな。お風呂は用意してくれたけど」
「ん? もしかしてミノさん、この人とひとつ屋根の下で一緒に暮らしてたん?」
園子の言葉に、「え? そうだけど」と銀が同意すると2人の目が厳しくなった。
『誓って手は出していません』
「当たり前です! 銀をさらっただけでも十分犯罪なんですよ!」
と須美。バーテックスなんだから人間の法律が適用されるかはわからないのだが。
「じゃあ、あの時銀のスマホを投げて渡したのは」
『戦闘データをもとに須美ちゃんとそのっちの勇者システムがアップグレードされて精霊が与えられるようにするためでした。すみません』
「そのっちって…ミノさん教えたの?」
「いや? こいつ最初から須美やアタシの名前知ってたぞ」
「「ええ…」」
3人の目が、不審者を見るようなものになる。
「「「ストーカー?」」」
『いや、違っ…これは能力! そう、俺の能力で知ったんですー』
人型バーテックスはとっさに言った言葉は間違いではない。前世の知識だからある意味彼自身の能力だ。
「じゃあわたしたちが知らない満開したら身体の一部が供物として捧げられるのを知っていたのも?」
『俺の能力です』
「私たちの勇者システムがアップグレードされて精霊が与えられる未来を知っていたのも」
『俺の能力です』
「なんか変なお面をかぶってるのも」
『俺がただ不器用なだけですウワァアアアン!!』
手で顔を覆ってしくしく泣きだした。なんだか人間みたいに感情表現が豊かなバーテックスだ。
『いや、これは相手を怖がらせないように。ほら、俺の顔って完全に星屑だし』
「正直その仮面被ってるほうが怖いんだけど」
『ええっ!?』っと驚く人型バーテックス。銀の言葉に須美と園子もうなずく。
『そんなぁ』と落ち込む人型バーテックスを、白静という精霊が慰めるようになでなでしている。
なんだか和む光景だ。目の前にいるのが星座級を丸呑みして食ったバーテックスだとはとても信じられない。
人間のように考えるバーテックスがいるかもしれないとは考えていたが、まさか人間に味方してくれるバーテックスがいるとは思わなかった。
「ねえ、あなた名前は何て言うの?」
『名前? 名前は…ないかな』
誰も自分を呼ぶことがなかった。
周りにいたのは天の神が作ったシステムで、明確に自分を認識して接触してきた存在はいなかったのだ。
自分に名前というものがないのを、園子に訊かれて人型のバーテックスは初めて気づく。
「漱石?」
「それは猫でしょ、そのっち」
『必要なかったからな。個体名もないし。好きに読んでくれて構わないよ』
「お前、園子のネーミングセンス知ってて任せるなんて度胸あるな」
「じゃあ、体が白いからシロっち…は単純すぎるか」
『そのっちと被るしね』
「白露とかどうかしら? 西暦時代の軍艦の名前なんだけど」
「えー、かわいくないよー」
「この顔でかわいさを求める必要、あるか?」
3人の少女がたわいのない話で笑いあっている。
ああ、いいなぁ。
俺が守ろうとしたのはこういう光景なんだ。
人型のバーテックスの心は、この世界に来てから初めて穏やかな気持ちになっていた。
戦闘の最中に訪れた束の間の休息。
それを破ったのは、須美と園子のスマホから流れ出したアラーム音だった。
「何これ!?」
「全然鳴りやまないよ、わっしー、ミノさん!」
樹海の中でアラームが鳴るなんて、今までなかったことだ。2人は猛烈に嫌な予感がした。
「この数は何? どういうことなの」
スマホの画面には大量の文字が表示されていた。
どれも星座級の名前で、ところどころ文字が重なっている。
「嘘、でしょ」
須美の呆然とした言葉に、前を向く。
そこにいたのは、星座級の巨大バーテックスの群れ、群れ、群れ。
ざっと見ただけで50を超える、大群の星座級バーテックスの登場だった。
天の神「最後だからみんなで遊びにいくよ!」
十二星座バーテックス「四国に乗り込め―^^」×100
神樹「えっ、巫女に4体しか来ないってもう言っちゃったんだけど」