詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか? 作:百男合
天の神「私自身が星座級になることだ…」オフィウクス(へびつかい座)
(+皿+)「えぇ…(困惑)」
オフィウクス「お姉さんのこと本気で怒らせちゃったねぇ」(タタリ付与)
(+皿+)「ぐわぁあああ!!」(全身の骨が折れる音)
オフィウクス「お前らもいつまで寝てんだ。はい、エドテン!」
十二星座級「うちの職場ブラックすぎんだろ…」(蘇生)
「切り札?」
『そう、西暦勇者が使っていた必殺技だよ』
須美と園子と出会う前。最終決戦の日までデブリで人型精霊と過ごしていた時のことだ。
銀が人型バーテックスに精霊と勇者について何か知っているかと尋ねると、そんな話が出てきた。
『身体の中に精霊を取り込んで、一時的にすごいパワーアップする技だよ』
「それは満開とは違うのか?」
『満開は身体の一部を神樹に捧げるけど、切り札は使っても身体の一部が失われるわけじゃないんだ』
西暦時代に生まれた勇者システムだから神歴の満開とは威力や性能も違うけどね。と人型のバーテックスは言う。
『切り札を使うとその分心に影響が起こる。穢れが溜まって性格が急に攻撃的になったり人間不信になったり。どっちがマシかといえばどっちもひどいんだけどね』
「えっと、勇者システムを作った人は使った人間の安全性とか考えなかったのか?」
『うーん。バーテックスと戦う力優先で後遺症とか副作用度外視するマッドしかいなかったんだろうな』
もしくは勇者を使い捨ての道具としか思っていなかったか。
西暦時代から大赦はクソだったなぁと思いながら人型のバーテックスは銀の膝に乗ってきた白静を見つめる。
「で、その切り札がなんだって?」
白静の両手を持ってあやしながら、銀が言う。こうしてみると髪の色も一緒で姉妹のようだ。
『うん、それを銀ちゃんは何のデメリットもなく使える。理由はバーテックス自身が神樹にとって穢れの塊だから。心は人間でも身体がバーテックスだからこそできる裏技だね』
へー。とあんまり興味がなさそうだ。まぁ、人型バーテックスとしてもできれば使ってほしくない手段の説明だから話半分で聞いてもらっても問題ない。
『つまり今の銀ちゃんは精霊の数イコールパワーアップできる数だってこと。今は30体くらいいるから単純計算で大体今の30倍くらいパワーアップができる』
「マジで!?」
あ、食いついた。こういうわかりやすい話には興味があるようだ。
「30倍ってすげーな。無敵じゃん」
『まあ、普通のバーテックスなら星座級でも敵なしだろうね』
もとの戦闘力を考えれば御霊持ちのバーテックスでも無双できる強さだ。
「30倍かー。それだと余裕でアンタに勝てそうだな」
『はっはっは、こちとら星屑を万単位で食べてるうえに星座級の能力も使えるからね。多分苦戦するんじゃないかな』
まあ、もしそんな事態になるとしたら、それは彼女に彼女の秘密がバレたときだ。
その時は自分は潔く彼女に倒されよう。
人型バーテックスがそんなことを考えているとは知らず、ちぇーっと銀は口をとがらせる。
「それじゃあアンタが倒されるくらい強い奴が現れたらどうすんだよ」
『えー? そんなこと。まあ、ないとは思うけど、ないとは思うけどもしそうなったら人類は滅亡するしかないかなー』
「軽っ! アンタどんだけ自分に自信があるんだよ?」
この時人型バーテックスは最強の星座級バーテックスのレオを倒したことで調子に乗っていた。
いわゆる天狗状態というやつだ。
この後天の神がやってきてボッコボコのボロボロにされるなんてみじんも考えていなかった。
そんな人型バーテックスを見て、銀はふと思いついたことを尋ねてみる。
「なぁ、その満開ってやつ、アタシにも使えるのか?」
『うーん、一応精霊バリアも使えるようだし、理論上はできるかな。身体もバーテックスだから神樹に捧げて身体のどこかが欠損しても俺が後で補えばいいし』
だったら切り札と同じようにノーリスクじゃん。
ならば1度くらい試しにやってみようということになって――結果それは封印された。
『いい、銀ちゃん。アレは2度と使わないでくれ。今回は俺がいたからよかったけど、もしいなかったら身体が壊れてたかもしれない』
だけどもし使わなければならない事態になってしまったら?
『そんな事態はないとは思う。あっても俺がさせない。でももしキミがその力を使わなければならない時が来たら』
それは俺が倒れてどうしようもない状態になって、親友2人と人類を守らなければいけないときに限ってくれ。
そう、人型のバーテックスは言った。
今がまさにその時だな、と銀は思った。
人型のバーテックスは突如現れた巨大な人型に蛇が巻き付いているバーテックスに倒されてしまった。
彼の仲間であるバーテックスたちも倒しても倒しても何度も復活する敵の大群に押され始めている。
このままではそう時間がかからず瓦解するだろう。
だったらここはアタシがいかなきゃな。
銀は人型が渡した丸薬のように小さく丸まった肉塊を見て、残された精霊を呼び寄せる。
これと精霊を残していったってことは、こうなるかもしれないって思ったのかな。
あれだけ自分の強さに自信を持っていて、実際に強かった人型バーテックスのことを考える。
これからしようとすることは、しつこいぐらいに「戦うな」と言っていた彼が望むことではないだろう。
だが、ここにいる2人とこの結界の先にいる大切な人たちを守るためには必要なことだ。
銀は一歩踏み出そうとして……両肩に置かれた親友たちの手に足を止めざるを得なかった。
「銀、1人でどこに行こうとしてるの?」
「行くなら一緒に、だよ」
「須美、園子」
銀は迷った。あの世界で一緒に戦った2人なら喜んでついてきてくれと言っただろう。
だが、この2人はあの世界のことをおぼえていない。ということは3年近いバーテックスとの戦闘経験と造反神との最後の戦いの記憶もないということだ。
戦闘経験の差から戦力に大きな差があり、足手まといになるのではないか。
そう考えて苦悩する銀に、須美は言う。
「まさか、また1人で突っ込もうとしてたの? 最初の戦いのとき、そういうところを気を付けてって言ったじゃない」
そんなことを言われたっけ? アクエリアス・バーテックスとの戦いを思い出しなんとなく言われたような…と銀が思っていると、
「ミノさん」
真剣な顔の園子が言った。
「ミノさんがさらわれたあの時、わたしたち何もできなかった。敵と戦うミノさんを見送るしかできなかった」
園子の言葉に感じるものがあったのだろう。須美の表情に陰がさす。
「だけど、今は違う。一緒に戦える。精霊ももらって勇者システムもパワーアップした。ミノさんが考えるように足手まといには、絶対ならない」
考えていたことを見抜かれていた。
やっぱりすごいな園子は。普段はぽわぽわしているくせに妙に抜け目がなくて鋭い親友に、あの世界の記憶がなくてもそこは変わらないんだなと銀はどこか安心した。
「だからもう、わたし達を置いて1人で行かないで」
言葉は、すがるようだった。
銀は少し迷った後、彼女たちを傷つけないように置いていく言葉を考えて…やめた。
これから行おうとするのは、無謀な戦いだ。
正直生きて戻れるかどうかもわからない。
だけど、3人なら。この3人と一緒なら勝てそうな気がしてくる。
あの世界で絶対敵わないと思っていた造反神に立ち向かったときのように、仲間を信じてみようじゃないか。
「最初に言っておくけど、お前らの命が優先だからな」
銀は須美と園子に向き直り、目を見てしっかり言う。
「危ないと思ったら、すぐ逃げてくれ。満開は絶対するな。するくらいなら逃げろ。生きて次につないでくれ」
あの世界で知った勇者とは別の存在、防人のことを思い出していた。
彼女たちは誰1人欠けることなく生きて戻ることを信条としていた。それが彼女たちの戦いであり、今自分たちが見習うべき模範だと思う。
楠芽吹、加賀城雀、弥勒夕海子、山伏しずく。
今は結界の中、樹海になっている四国にいるであろう彼女たちのことを思う。
(帰ったら、しずくさんに会いに行かなくちゃな)
あの世界でした約束を思い出し、胸が熱くなる。
勝てなくても必ずバーテックスたちを退けて次につなぎ、大切な人たちがいる世界に帰ろう。
銀は須美と園子に感謝する。最初に抱いていた、自分の身を犠牲にしてでも2人を守ろうという考えは、すでに消えていた。
「アタシが突撃してできるだけかく乱する。園子と須美は援護を頼む」
3人は集まって作戦を立てたが、結局その一言に尽きた。
須美と園子に突っ走って敵軍深くには入らないように散々釘を刺されたが。
銀は樹海から飛び出すと、敵に向かって駆け出し精霊を呼び寄せる。
「行くぜみんな! 切り札解放!!」
銀が告げると人型のバーテックスが置いていった40体以上の精霊たちが銀と一体化し、身体が光を帯び始める。
「防人直伝、シズクさん仕込みの突撃を見せてやるぜ!」
言い放ち、王城の門のような姿になっているサーバー星屑に襲い掛かっているタウラスに向かって2丁の斧を振りかぶった。
「闘魂、星砕き!」
1撃で、タウラスの巨体が沈んだ。名前の通り星を砕くような衝撃に、空気が震える。
銀が持っている斧は人型のバーテックス
勇者の武器ほどではないが、バーテックスに対する特攻を持っている。
「まだまだ行くぜ! 双斧焔王舞、順風双斬斧、奮進双斬斧、タイラントアタック、マックス元気斬、花贈双心斧、双乱舞至頂斬、エターナルサマー斬!!」
そのままサーバー星屑に群がっていた巨大バーテックスを2丁の斧で倒していく。
突如現れた強力な勇者の出現に、赤く燃える体躯の星座級は泡を食ったように退き始める。
その時、チャージを終えた複数のレオが熱光線を放とうとしているのが見えた。
「技を借ります、球子さん! 大旋風炎刃!!」
西暦勇者、土居球子の武器を投げる必殺技をまねて、銀は2丁の斧のうち1つを投げる。
斧は手から離れると徐々に巨大になっていき、7体のアニマートを狙い遠距離攻撃をしようとしていたレオを含む巨大バーテックスの軍団をなぎ倒していく。
人型のバーテックスが質量を自在に変えられるように、銀の斧も念じるだけである程度大きさを変化させることができるのだ。
銀は投げた斧を回収するためバーテックスの大群の中に飛び込み、あの世界で何度も見た初代勇者の技を再現する。
「若葉さんの奥義、ひなたぁああああああ!!」
園子の先祖とは思えないくらい堅物で女子に人気があって、幼馴染の巫女に弱い人だった。
「風さんの女子力斬り!」
巨大化した斧が大群を分断するように樹海の大地を断ち、複数のバーテックスが切断される。
頼りになる勇者部部長。銀は長女だったが姉がいたらなこんな人がいいなと思える女子力(オカン力)が高い先輩だった。
「千景さんの紅凶冥府!」
炎をまとい、高温になった斧を振り回し敵を切り刻む。
ゲームをいっぱい持ってて、須美と東郷さんが西暦時代の戦争シミュレーションゲームで大騒ぎしたこともあったっけ。
本人は自分はいい先輩ではないと言っていたけどそんなことはない。少なくとも銀には背中を預けることができる頼れる盟友で先輩だった。
「夏凛さんの星煌回天舞!」
敵の真っただ中に入り、投げた斧を回収すると今度は2丁で敵を切り刻む。
夏凛さん。たまに暴走する勇者部の面々にツッコミをする完成型ツッコミ勇者。
素直になれなくて意地っ張りだけどおやつによく煮干しをくれる優しい先輩だった。
「すごいわ、銀!」
「ミノさんつよーい!」
次々と敵を倒していく人間離れした銀の攻撃に、2人は驚嘆の声を上げた。
もちろん援護するのも忘れない。須美は銀を後ろから襲おうとするバーテックスを攻撃し、園子はまだ息がある取りこぼしを始末したりと大忙しだ。
銀も油断なく戦況を見ていた。須美と園子もよくやってくれているが、どこか固さが目立つ。
やはりまだ新しい武器と新しい勇者システムに慣れていないのだろう。知らず自分の知っているあの世界で共に戦った2人とどこか比べてしまう。
戦闘経験の差は、大きいか。
死角から園子を襲おうとする巨大バーテックスに斧を投げ仕留める。
さらに遠距離攻撃しようとしていたバーテックスを発見し、
「友奈さんと高嶋さん直伝…勇者パーンチっ!!」
園子と東郷さんと一緒にやった子供達のためのアニメのキャラクターに扮したアイドルライブ。
その後東郷さんや樹さんと一緒に友奈さんと高嶋さんに教わった、いわばダブル友奈パンチだ。
そろそろ引き時か。
顔面を砕かれ、吹っ飛ばされたヴァルゴが他のバーテックスを巻き込みながら爆発するのを横目に見ながら、銀は園子と須美に撤退の合図を出す。
これだけ倒せば向こうも戦況を立て直すのに時間がかかるだろう。
そう思った瞬間だった。
へびが巻き付いた超巨大な人型のバーテックスが右手をかざそうとしているのが目に入った。
やばい、再生される!
銀は人型のバーテックスが倒した大群が、あの手をかざされた瞬間時を巻き戻したように復活するのを見ていた。
それによって形勢は逆転し、あの人型バーテックスも今はもう1つの手である左手に捕まってぐったりとしている。
銀は斧の回収は諦め急いで引き上げようとして…なかなか再生しない巨大バーテックス達の姿に違和感を抱いた。
「復活、しない?」
先ほどは30秒ほどで完全復活していたバーテックスの大群が、いくら待っても立ち上がらなかった。
不測の事態なのか、超大型の人型のバーテックスも何度か手をかざしなおしている。
そういえば銀の武器には神樹様の体液がコーティングされていると人型のバーテックスは言っていた。
もしかして、神樹様の力で倒したバーテックスは復活しないのだろうか。
そう思っていると超巨大人型バーテックスの右手の先の空間が歪み、ガラスのようにひびが入る。それが粉々に砕けると中から新しい星座級の巨大バーテックスの群れが登場してきた。
こいつ、治すだけじゃなくて新しく作ることもできるのかよ⁉
予想を超えた敵の能力に、銀は驚く。
やはりあいつを倒さないと、この戦いは終わらないらしい。
バーテックスの身体である自分は疲れないが、人間の須美と園子は違う。
現に自分のレベルを超えた戦闘に息が上がりかけているし、慣れない装備というのもそれに拍車をかけている。
ここで引いて立て直さなければならないのだ。
使うか、アレを。
一瞬よぎった考えに、先ほど園子が言っていた言葉を思い出す。
――だからもう、わたし達を置いて1人で行かないで。
「くそっ」
使うとしても、それは今じゃない。須美と園子と合流した後だ。
じゃないとあの2人は満開してでも自分について来ようとするだろう。
そうなったら、自分がここで戦っている意味がなくなってしまう。
銀は城門のようになったサーバー星屑のところまで行くと、そこで待っていた須美と園子と合流する。
「無事か、2人とも」
「銀!」
「ミノさーん、こっちこっち」
よかった。けがはないな。
1人安堵していると、2人に詰め寄られた。
「銀、いったいなんなのあの滅茶苦茶な力⁉」
「ミノさんいつの間にあんなにつよくなったのー? 精神と時の部屋にでも入ってた?」
精神と時の部屋か、ある意味あってるな。
こっちでは一瞬だったけど、あっちでは3年以上戦ってたわけだから。
「まあ、そんなところかなー。どうだー、これが三ノ輪銀様の実力よ」
胸を張ると、園子はキラキラした目で、須美には呆れられたような顔をされる。
「っていうのは冗談で、この身体だからこそできる芸当らしい。園子は切り札って知ってるか?」
「うーん、ご先祖様の記述にあったような。でも大赦の資料じゃ消されてた項目だよ」
「それって、危険なんじゃないの?」
「まぁ、人間の身体で使うと精神に影響して参ったり攻撃的になったりするらしい。でもバーテックスの身体は神樹様にとって穢れの塊だから影響はないんだって」
へーそうなんだーと納得する2人。得意げな銀は人型バーテックスに教わったことをそのまま伝えただけなのだが。
「で、実はアタシも満開を使えるんだ。2人と違って神樹様に供物として何かを捧げることなく、ノーリスクで」
嘘だ。本当はデメリットがある。
それも命に関わるような重大なデメリットが。
「だったらなんで最初からしなかったの?」
と園子。さすがに鋭いな。
「えっと、最初は切り札だけで十分かなーって。それに満開は力が強すぎるから下手するとお前らを巻き込んじゃうかもしれなかったし」
「本当? 嘘ついてない?」
今日は須美も鋭いな。というか自分のつまらない嘘は、いつも2人に見抜かれていたように思う。
しっかりしろ、三ノ輪銀。ここが一世一代の騙しどころだろ。
銀は新しく現れたバーテックスの大群を見る。
「結局のところ、大本を叩かないと終わらないんだ。アイツも捕まったままだし、できれば助けたい」
これは本当。
バーテックスの身体にされたときは恨みはしたが、今は逆に感謝している。
この身体じゃなかったらきっと2人を守ることはできなかっただろう。
「あのクソでかいバーテックスを倒して、これ以上でかいバーテックスがこっちに来ないようにしようぜ! アイツが作った神樹様の力をコーティングした斧で倒したらあいつら再生しないみたいだし、これはアタシにしかできない仕事だ」
銀の言葉に、2人は思案顔だ。銀の強さはわかっているし、言うこともわかる。
だが納得がいかない。そんな表情だ。
そんな時アルマート2体が銀がバーテックスに向かって
「ひっ」
須美はクモのような動きをするアルマートに生理的な嫌悪を感じたのか、園子の後ろに隠れている。
逆に園子はアルマートがどんな構造をしているのか気になるのか、興味津々と言った様子だ。
「ありがとよ、お前ら」
「ず、ずいぶん仲いいのね」
「須美と園子と合流するまでの間ずっと一緒だったからな。身体のこともあるけど、あの人型も悪い奴じゃなかったし」
でも、アイツは別だと銀は次々とバーテックスの大群を送り込んでくるへびが巻き付いた巨大な人型のバーテックスをにらみつける。
あれを倒さなければ、自分たちは全滅してしまう。
そうなれば、神樹様に守られた世界は、家族や友達もいなくなってしまうということだ。
だから、やるしかない。
「満開して、アレをやっつける。ついでにアイツも助けてくる。バーテックスでもアタシにとっちゃ恩人だし、この子も寂しがるしな」
中空から白静が出現し、銀を見つめてくる。まるでありがとうと言っているようだ。
銀は頭をなでながら、気にすんなと笑った。
「だけど、満開して追ってこようとは絶対するなよ。これは2人が満開しないための戦いなんだし、こういう言い方はしたくないけど…正直足手まといだ」
「銀」
「ミノさん」
先ほどの戦いで銀と自分の実力差を痛感したのだろう。2人は何も言えなかった。
それに2人が思っていたより身体は疲弊していて、しばらくの間動けそうにない。
「大丈夫。パパっと行ってパパっと帰ってくるから。あのデカブツさえ結界の外へ押し出せば須美と園子は四国に帰れるんだから、もしアタシが危なくなったらそこで改めて作戦を考えてくれ」
まあ、そんな事態はないけどなと笑う銀に、園子が鬼気迫る表情で掴みかかる。
「でもそう言って、ミノさん帰ってこなかったじゃない!」
「お、おう?」
どうやら地雷を踏んだらしい。やばい、今の発言の何が悪かったんだ?
「置いていかれるこっちのことなんか考えないで! ミノさんは勝手だよ! そんなところは大っ嫌い!!」
「そのっち…。銀、やっぱり私たちも一緒に」
「ダメだ」
それでも2人を連れて行くわけにはいかない。
「ついてきたら、絶交だからな。ズッ友やめるぞ。明日から他人だ」
嘘だ。本当はこんなこと言いたくない。
でも、こうでも言わないと優しい2人の親友はついてきてしまうだろう。
そんな2人に銀も甘えたくなってしまうのだ。
「どうして…どうしてそんなひどいこというの?」
「銀! 今のはさすがに」
「いいか、園子、須美。アタシはお前らを置いていくんじゃない」
2人を見つめ、真剣に言う。
「2人が先に行けるように、道を切り開きに行くんだ」
そう、2人が生きて帰れる
「園子は置いていかれるって言ったけどアタシが作った道を通って、いつか2人ならついてきてくれるって信じてるぜ」
さぁ、そろそろ時間かな。
新しくやってきたバーテックスの大群が大分近づいてきた。
「じゃあ、わたし連れ戻しに行くから! わっしーと一緒に、ミノさんが帰ってこれないくらい遠くに行っちゃいそうになったら! 絶対」
「そうね。前に進むのはいいけど、ちゃんと帰ってくることも考えなさいよ。銀」
「おう、わかってるよ」
銀はそう言うと人型のバーテックスから渡された丸薬のような肉塊を飲み込んだ。
切り札を解除して身体に取り込んだ精霊型星屑と分離し、再び融合する。
それは、神樹の力とバーテックスの力を合わせた本来の世界ではありえなかった力。
神を偽り神の力をその身に宿し、人外の圧倒的な暴力を振るうための姿。
「満開!」
銀の周囲が光り、爆発的な変化が起こった。
4つ足の巨大な獣。
それがまず見た印象だった。
本来首のある場所は台座になっており、そこに銀が鎮座していた。
白い髪に映える赤い花をあしらった髪飾り、羽衣をまとい勇者衣装の時にはなかった袖が風に揺れてはためいている。
背中には日輪を表すようなリングが浮いていた。
まるで物語に出てくる天女のようだ。
「きれい」
あまりの神々しさと普段の快活なイメージとは違う美しさに須美が見とれていると、同じことを思ったのか園子がつぶやいていた。
「そうね。すごくきれいよ、銀」
「き、きれいとか言うなよ。調子狂う」
そう言いながらもまんざらでもなさそうな様子にやっぱり銀は銀ね。と須美は思う。
「じゃあ、行ってくるよ。くれぐれもだけど、絶対満開は使うなよ」
そう言うと巨大な獣は銀を乗せて隊列を組んで迫ってきたバーテックスの大群へと向かう。
一瞬だった。
本当に一瞬でまるでボーリングのピンを蹴散らすボールのように、獣が前足を振るうだけで巨大なバーテックスたちが吹き飛び、消滅していく。
見ると爪の部分には銀の武器である斧が無数に生えており、それによって引き裂かれたのだろう。
あっという間に空間に空いた穴から出てきたバーテックスの大群を屠り、へびが巻き付いた超巨大な人型バーテックスに向けて進軍していた。
「帰ってきなさいよ、銀」
見送ることしかできない自分を歯がゆく思いながら、須美は祈る。
「ミノさん、帰ってきてね」
同じように、園子も祈っていた。
神樹様。どうかあなたの勇者の三ノ輪銀を守ってください。
わたしたちから2度もミノさんを奪わないでください。
本編で出なかった銀ちゃんの満開姿は2次創作ではマストだよね。
杏「銀ちゃんが私の技使ってくれなかったんですけど! タマっち先輩の技は使ってたのに!?」
だって君、遠距離武器じゃん。
杏「タマっち先輩の武器も遠距離武器じゃないですか!」
球子「まぁ、あれだ。銀はタマの舎弟だからな。弟子みたいなもんだ」
杏「ふーん、タマっち先輩は銀ちゃんのほうがかわいいんですね。いいですよね、小学生!」
球子「お、おいスネるなよあんず。お前が小学生いいって言うと、なんか別の意味に聞こえそうでちょっと」
杏「だれがロリコンですか! 私が好きなのはタマっち先輩みたいな人です!」
球子「え⁉」
杏「あっ」
あら^~。あんタマはいいぞ。
偽神満開
自身の内にある神樹の力と精霊型星屑と天の神の使いであるバーテックスの力を融合させ、劇的なパワーアップをする。
いわゆる闇と光が融合し、究極の力を使える状態。
人間が満開した場合供物として身体の一部を捧げるが、バーテックスなのでその心配はない。
だが人間の肉体と違いバーテックスの肉体にとって神樹の力は劇薬の毒である。
力を使えば使うほど肉体は神樹の毒に侵されていき、最後には崩壊する。
星屑の質量によるが、耐えられるのは星座級の巨大バーテックスの質量で大体10分。
果たして銀ちゃんは身体が崩壊する前に超巨大バーテックスを倒せるのか?