詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか?   作:百男合

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 前回のあらすじ
 (+皿+)マモレナカッタ…
 (+皿+)蟹座モグモグ。
 (+皿+)射手座モグモグ。
 レオビーム サラサラ:::::皿+)


怪奇! 大橋に現れる腕だけ幽霊

 危なかった。

 俺はどうにか結界内からレオを押し出し、須美ちゃんとそのっちの2人が四国へ戻るのを確認した時のことを思い出し、自分のうかつさを呪う。

 あの時2体いる星座級を倒したことで気が緩み、須美ちゃんの無事を確認するのは気が早すぎた。原作にはいなかったレオのことをもっと気にかけるべきだったのだ。

 おかげでレオの不意打ちの熱光線で身体半分蒸発し、回復するのに御霊付近にいた巨大化した星屑6体を消費する羽目になった。

 しかもサジタリウスとキャンサーの御霊も焼き尽くされて消滅したし、後から来たアタッカ・バッソとカデンツァはレオの火球で焼き尽くされるわ、レオ本体にも逃げられるわと踏んだり蹴ったり。

 考えてみれば勇者を巻き込まず最大戦力をぶつけられる好機をみすみす逃してしまったのだ。この痛手は大きい。

 なにしろレオはわすゆで最後に出てくる星座級の1体。この機会に倒しておけばどれだけ2人の生存率が高くなり満開する回数を抑えることができたか。

 悔やんでも悔やみきれない失敗だ。

 だが銀ちゃんをギリギリ回収できたのだけは幸いだった。

 俺は水球の中で胎児のように丸まりながら傷を癒す姿を見る。

 全身を覆うやけどは、かなりひどい。サジタリウスの矢傷やキャンサーが残した切り傷は何とかなりそうだが、こちらのほうは完全回復が難しいかもしれない。

 いっそのこと、精霊の完全変態のように1度ドロドロに溶かして、元の形に戻してしまえば…。

 一瞬思い浮かんだ恐ろしい考えを、すぐ否定する。

 ヤバいな。実験のせいで生命の尊厳とか倫理に関するハードルが低くなってきてる。

 たとえそれで新しく五体満足の銀ちゃんを作ったとしても、それは銀ちゃんの姿をしたなにかだ。

 何らかの方法で新しい肉体に銀ちゃんの記憶を移したとしても、それは元の銀ちゃんとはいえないと思う。

 できることならこの身体を元の状態に戻し、意識を取り戻してほしい。

 さっき考えた新しい身体に銀ちゃんの記憶を移すという方法は、最後の手段にしたい。

 

 ――いっそのこと、勇者である銀ちゃんを取り込めば四国へ入れるんじゃないか?

 

 一瞬思い浮かんだ悪魔のささやきのような考え。

 それはとても魅力的で効率的なものだった。

 四国に入ることができればバーテックスの戦いでしかできなかったサポートを日常まで行うことができる。

 わすゆにとっても続編の結城友奈は勇者であるにとっても、最大のネックはこの世界で最大の権力を持っている大赦だ。

 彼らがもっと勇者のバックアップや精神面でのサポートをしていれば防げた事態もあったはず。

 そのためにもいつかは四国の中へ入りたいと思っていたのだ。

 だが、そのために銀ちゃんを犠牲にするのは断じて違うと確信している。

 今の俺は完全にバーテックスなので四国に近づいただけで結界が発動してしまう。

 結界内の四国に入ろうとすれば樹海が侵食され、最悪世界が滅ぶかもしれない。

 ああ、せめて大橋の勇者の慰霊碑に行くことができれば。

 あそこに行けば、勇者の章最終回で出てきた歴代勇者の源である勇者の力を見つけることができる気がする。

 その力を体表にコーティングすれば神樹は俺を勇者と誤認して四国へ入れるかもしれない。

 実際はやってみなければわからない、希望的観測だが。

 しかしできることなら最終決戦は万全の状態で挑みたい。レオのこともある。

 あの時、最終決戦にしか出てこないはずのレオが出てきたのは物語に対する修正力だと俺は思っている。

 タイムリープものでよくあるどうやってもその出来事を回避できないというアレだ。

 それは物が壊れるという小さなことから、人の死や歴史的大事件であったり。どうやっても変えることができない事態というもの。

 シュタインズ・ゲートにおける椎名まゆりの死という結末を変えるために主人公の岡部倫太郎が何度もタイムリープをして奮闘する姿を思い浮かべてもらえばわかりやすいだろうか。

 岡部がどんなに違う選択肢を選んでも、椎名まゆりの死という決定は変えられない。彼女を救うために彼は何度もタイムリープし何度も選択を迫られるのだが、それはそれとして。

 スコーピオンの代わりにレオが出てきたのは、【三ノ輪銀の死】という物語における絶対の決定(強制イベント)を実行するためだと思っている。

 もし俺がキャンサーも倒していたらアリエスが出ていただろう。サジタリウスを倒していたらピスケスが。

 どうあっても三ノ輪銀を殺そうと、世界(物語)が彼女に襲い掛かってきただろう。

 それにあらがうための力は、俺にはまだない。

 今回の件でそれを思い知った。彼女たちを救うためにはもっともっと力が必要だ。

 それこそ、物語を根本から壊してしまうような。チートじみた力が。

 だから、手に入る力は全部持っておきたい。

 十二星座バーテックス全ての能力や、ことによっては神樹の力や勇者の力も。

 そうして物語の結末を変えなければ、あまりに彼女たちが救われないじゃないか。

 思い浮かんだのは結城友奈は勇者である2期で大橋の慰霊碑の前に焼きそばを備える中学生の乃木園子の姿。

 碑文には三ノ輪銀と刻まれていた。

 あんな未来には絶対にさせない。させるもんか。

 決意した俺は、銀ちゃんの切断された腕の入った水球に近づいた。

 

 

 

 その日の夜7時、南条光、小学6年生11歳はスーパーに夕飯の買い物に出かけていた。

 両親は共働きで今日は家にいない。だが別段ネグレクトをされているということではなかった。

 出勤時間が違うだけでいつもどちらかが家にいるし、休日には家族そろって出かけて外食などもする。どちらかといえば家庭仲は良好だ。

 ただ今日はたまたま両親そろって夜勤で、家には光しかいなかった。

 なんでも急に神樹様に仕えるお役目の偉い人が1人亡くなったので大赦は告別式の準備で忙しく、非番だった2人も駆り出されたらしい。

 何かあっては大変だと丸亀にある祖母の家に泊まりに行ってはどうかと言う心配性の母親に、もう11歳だから1人で留守番できるし大丈夫だと送り出した。

 ちなみに別世界で特撮好きのアイドルをしていそうな名前だが、そういうことはない。

 父親からはサイキョーにかわいいと言われるが顔はいたって普通だと思うし、運動はどちらかというとできないほうだ。光という名前も父親が四国の守護神にあやかってつけたもので、もし男の子だったら光太郎とつけたかったらしい。

 そんな光がスーパーのお惣菜が入ったビニール袋を提げて歩いていると、前方に何か見えた。

 光の家は大橋でも割と郊外のほうにある。車もあまり来ないし、夜すれ違う人もいない。

 ふわふわと何かが浮いている。まばらに立つ街灯の照明に照らされちらっと黒い影が見えたがコウモリではない。スピードや動きも違うし、大きさがまず違う。

 興味を持った光は近くで見ようとして…ぎょっとした。

 それは、人間の腕だった。

 人間の腕が宙を浮いて、何かを探すようにさまよっていたのだ。

 思わず夕飯が入っていたビニール袋を落とすと、音に気付いたのか人間の腕がこちらを向いたような気がした。

 こわい、こわい、こわい。

 慌てて背を向け逃げる光に、宙を浮かぶ腕が迫る。急ぐあまり足がもつれ、こけてしまった光はそれでも逃げようとして……いつの間にか目の前に現れた人の腕を見て意識を失った。

 

 

 

 銀ちゃんの腕に星屑の体躯を圧縮して注入し、四国へ入るという俺の試みは成功した。

 バーテックスの肉体は結界に入れないが、勇者の身体は入れる。ならば外側だけ勇者の身体をまとえばぎりぎりOKなのではないか。

 そう考えて試してみたが、大丈夫だったようだ。神樹の結界の判定って割とガバガバだな。

 勇者を取り込むのではなく、逆に自分が勇者の中に入る。逆転の発想だ。

 閃いたのは偶然。大橋の慰霊碑がある場所ってF〇4のクリスタルルームに似てるなぁという思いつきからだった。

 そこから手だけで動く敵役のゴルベーザーを連想し、銀ちゃんの切り飛ばされた腕を見て「あれ? これイケんじゃね?」と試してみた結果、見事成功した。

 この腕は後で銀ちゃん本体とくっつけようと思っていたのだが、ごめんね銀ちゃん。あとでどうにかして別の方法で再生させるから。

 しかしこうやって宙に浮く姿はゴルベーザーというよりむしろ仮面〇イダーオーズのアンクみたいだな。

 あちらと違ってメダルはもっていないし、アイスも別に好物というわけではないんだが。

 しかし、四国へ入ったはいいが俺は重要なことを見落としていたことに気づく。

 大橋の勇者の慰霊碑ってどこにあるんだっけ?

 考えてみれば人間世界の地理って全然わかんないや。ずっと壁の外にいたから当たり前なんだけど。

 どこかなー。どこにあるのかなーとさまよっていたら、すっかり夜になってしまった。

 人間に見つかる可能性を考えてなるべく隠れながら探していたんだけど、こうなるともう普通に浮いて地図のある場所探したほうがいいな。

 そう思って住宅地に入った瞬間だった。人に見つかったのは。

 見たところ小学生か中学生くらいの少女だった。俺を見て顔を蒼くしている。

 まぁ、普通そういう反応するよね。俺だって夜中に宙を浮く腕を見つけたらそうなると思う。

 手に持っていたビニール袋を置き去りにして逃げようとしているが、足がもつれてこけていた。

 その時履いていたスカートが派手にめくれて中身が見える。あ、パンツ白。

 大丈夫かなーと思わず近寄ると、俺を見て気絶してしまう。ごめん、今のトドメだったね。

 うーむ。どうすべきか。このまま放置はまずいよなぁ。

 引っ張って運ぼうにも片腕だし、そもそもこの娘の家知らないし。俺が一緒に行ったら家族が驚くよな。

 待てよ、今の俺はゴルベーザーというよりアンク。

 だったら、この娘の身体乗っとれるんじゃね?

 試してみたら、できてしまった。しかもこの娘の記憶もわかる。

 どうやらこの娘は南条光というらしい。どこかで特撮大好きなアイドルやってそうな名前だな。

 一人っ子で両親は大赦で働いているのか。で、今日は銀ちゃんの告別式の準備のために駆り出されたと。

 大赦め、ちゃんと死亡確認しようともしないで告別式しやがって…。まだ生きているっつーの。

 記憶を探ると、大橋の慰霊碑がある場所はすぐわかった。どうやらここからそう遠くない場所にあるらしい。

 腕だけの状態のまま行くより、この身体のほうが怪しまれにくいか。

 子供だけで夜に勇者の慰霊碑を訪れるのも相当怪しいとは思うが、腕だけよりましだろう。

 ごめんね、光ちゃん。この身体しばらく借りるよ。

 落とした夕飯が入ったビニール袋を拾い、大橋の慰霊碑へと向かう。

 警備は…いないな。門は閉じているがこれくらいなら。

 俺は光ちゃんから分離し、門を飛び越えて慰霊碑がある奥へ向かう。

 思った通り、勇者の力が満ち溢れているな。ここからでもピリピリするのを感じる。

 慰霊碑に勇者の力が満ちているという俺の推測は当たっていた。もし空気みたいに四国中に霧散していたら回収作業が大変だったから正直助かった。

 英霊碑にたどり着くと、そこには白鳥、赤嶺、土居、伊予島や高嶋などゆゆゆいで見知った苗字が刻み込まれた石碑があった。(こおり)と弥勒の名は…やはりないか。おのれ大赦。

 見ると1カ所だけ新しい場所があり、そこには【三ノ輪 銀】と彫られた石碑があった。

 これ、昨日今日で用意できるものじゃないよね? さては前々から用意してやがったな!

 おそらく須美ちゃんやそのっちの慰霊碑も用意してあるんだろう。大赦のこういう手回しの良さには怒りがわいてくる。

 決めた。もし身体が全身この世界に入れるようになったら、まず大赦の上層部は潰そう。

 光ちゃんの両親みたいに普通に大赦で働く人もいるから、線引きはしないといけないけどな。

 そう思いながらどの石碑を削って持ち帰ろうかと品定めしていると、突如光が俺を照らす。

「誰だ⁉」

 しまった。見張りはいなかったが警備員はいたのか。

 俺は急いで石碑に隠れるが、相手はこちらに近づいてくる。完全に見つかってしまったようだ。

 くそ、こうなったらやってやれだ。

 俺は近くまでやってきた警備員の顔に貼りつき、口をふさぐ。

 突如現れた腕だけの不審者に警備員は面喰らい、抵抗していたがやがて力を失い気絶した。

 ふぅ、危なかった。

 ついでだしこの警備員の身体を借りて石碑を削らせてもらおう。片腕だけだとどうしてもやりにくいし。

 こうして俺は英霊碑から勇者の力のかけらを手に入れ、壁の外へ持ち出すことに成功した。

 あ、もちろん警備員の人の身体は詰め所に戻したし、光ちゃんもちゃんと家へ帰したぞ。

 その時ついでにちょっと夕飯もごちそうになった。本編のアンクと同じくバーテックスは味覚がなくても身体が人間なら味を感じることができるらしい。久しぶりの人間らしい食事を楽しませてもらった。

 ちなみに俺は知らなかったがその後もちょくちょく勇者の力を宿した英霊碑を削るため警備員の身体を借りていたら仕事中に意識を失うことを気味悪がり、多数の警備員が辞めたそうだ。

 事態を重く見た大赦だったが場所が場所で自分たちも心当たりがあるだけに表立って動くことはできなかったらしい。

 結果、多くの警備員を配置しても辞める者が続出し、大橋の慰霊碑がある場所は大赦を含め一般にもいわくつきの場所と知られることになる。

 後にこのことが【自分の身体を求めさまよう腕】として大橋で語り継がれ、2年後おばけが苦手な勇者部部長の耳に入り恐怖のどん底に落とすことになるのだが。

 それはまた、別のお話。




 今回のモブ

 南条光
 父親は特撮好き。両親そろって大赦で働いているが、子供を神樹にいけにえとして差し出すような大赦のやり方には疑問を持っている。
 容姿は公式でレベルが高いと表記されている讃州中学モブレベル。夕飯のメニューは焼肉弁当と赤飯おにぎりでした。
 最初は自分の不思議体験を誰にも話せなかったが、後に自分以外も同じような体験をしたと知り、噂として尾ひれをちょっとつけた【自分の身体を求めさまよう腕】の怪談が女子を中心に四国中に広まることになる。
 ちなみに腕と出会った人間の共通点として、なぜか次目を覚ますと外にいたはずなのに自室で夕飯を食べ終えた後という共通点がある。

 警備員
 普通に働いていただけなのに職を失った可哀そうな人。
 大赦職員ではなく、一般の警備会社の社員だった。
 幽霊の腕が現れた後英霊碑が削られたと明確にわかってからは大赦職員が警備をすることになったが辞退するものが続出し、結局その後は警備を置くことなく無人となったという。


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