詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか?   作:百男合

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 あらすじ

園子「ミノさんをどこにやった? 答えてよバーテックス!」
(+皿+)「コシンプをそのっちが斬ったので、答えられません』(聞こえてない)
園子「答えなさい。質問はすでに、拷問に変わっているんだよー」
(+皿+)『ああ、やめて! 足を切ったりお腹刺したりしないで⁉」
園子「次は目だ! 耳だ! 鼻!!」
(+皿+)『どれもありません。星屑なので』
園子「返事しないってことはもっとやってほしいってことかな。じゃあ行くよー」
(+皿+)「やめて!」
 星屑(主人公)、再起不能


密約

 最近そのっちが近い。

 学校でも大赦でも、常に一緒にいるような気がする。

 この間なんて大好きなはずのお昼寝を辞めてまで昼休みにトイレにまでついてきて驚いた。

 学校の先生に所用を頼まれ何も言わず離れてしまった時など校舎中を探そうとして、さすがにやりすぎだと叱る。

 それほど、彼女にとって銀の死はショックだったのだろう。

 自分の目の届くところに須美がいないと不安になってしまうほどに。

 そんな園子の様子に、須美も努めて一緒にいようとした。

 学校の登下校はもちろん、大赦での訓練、園子の部屋での作戦会議、訓練の後に訪れた夏祭りなど。

 その時射的で手に入れた子犬のマスコットは、園子とおそろいで持ち物に着けている。

「じゃあ、わっしー。わたしはこの人たちと話があるから」

 かと思えば、急に大赦の大人たちに連れられてどこかに行ったりする。

 1度ついていこうとしたが、一緒にいた大人に断られてしまった。家柄の格が高いと色々付き合いがあるのだろう。

 あれからしばらくして勇者システムがアップグレードされ、須美と園子に精霊が与えられた。

 精霊は勇者をサポートする存在で、ゆるキャラのような見た目だ。須美の青坊主も割れ目から手と目を覗かせた卵のような姿で、園子の烏天狗はカラス要素が強い。というか、完全に2足歩行のカラスだ。

 たまに勝手に出てきて展示されている帽子をかぶったりと持ち主に似て気分屋というか何をするのかわからない。

 須美の武器も弓から銃へと変わった。今は次の決戦に向けて装填や狙いのつけ方など弓とは違う銃の扱いに四苦八苦しながら戦闘に組み込もうとしている。

「今日は遅くなりそうだけど、そのっち大丈夫かしら」

 大赦の大人に連れられた園子のことを考える。

 何をしているのかは知らないが、最近無理しているように感じる。

 どこがどう、とはっきり言えない。何かを隠しているときのような気まずさというか。

 笑顔もどこかぎこちないし、銀がいないせいか心から笑う機会が少なくなったせいか。

 だが自分に何ができるだろう。 

 銀のように人付き合いが得意なわけではない。どちらかというとまじめでつまらない人間だ。

 こういう時程いなくなってしまった親友の存在の大きさを痛感する。

 もし彼女が戻ってきてくれれば。

 考えて、意味のないことだと思いなおす。銀はもういないのだ。これからは彼女の分まで園子を支えていかないと。

「よーし、やるわよ!」

 須美はスマホをタップしてスカイブルーの勇者服に着替えて、銃を構える。

 意識はもう、目の前の標的へと切り替わっていた。

 

 

 

 

「お願いです乃木様。わたくしに貴方様のお手伝いをさせてください」

 しつこいなぁ本当に。

 目の前で頭を下げる自分の倍以上年の離れた大人に、園子は辟易する。

 銀が姿を消してから、こうやってなんとか勇者である須美や園子に取り入ろうとする手合いが増えてきた。どうやら現勇者の推薦があれば勇者になれると思っているらしい。

 それはかつて勇者候補の1人だった子供の血縁者であったり、大赦で要職に就こうと画策しているものであったりと様々だ。

 なかには神樹館小学校にいる自分の子供を通して接触して来ようとする輩もいるから園子の気は抜けない。下手に須美を1人にしていると付け込まれる可能性があった。

 今、大赦では新しい勇者が誰になるのかという話題で持ちきりだ。

 大赦の訓練施設にかつて勇者候補だった人間が再び集められ、勇者の1枠を巡って訓練をしているらしい。

 1度大赦の大人に連れられて見てみたが、目立っていたのは2人。

 かつて1度手合わせした三好夏凛と楠芽吹という少女だった。

 2人だけ、明らかに他とレベルが違う。おそらくあの2人のうちのどちらかが園子が持ち帰った銀のスマホを受け継ぎ次の勇者となるのだろう。

 しかしそれをわかっていない大人たちはしきりに実力不足の子供を指さし、「アレが自分の娘です。ぜひ乃木様にお口添えをいただければ」と言ってくる。

 この人たちはわかっているのだろうか。たとえ園子が口添えして勇者に選ばれたとしても、戦場から生きて帰ってくるとは限らないのに。

 いや、それでもかまわないのか。この人たちは自分たちが勇者に選ばれた子供の一族として家名を上げたいだけ。子供など自分が出世するための使い捨ての道具としか思っていないのだろう。

 だが、これは園子にとってむしろチャンスだった。

 壁の外の情報を集め、人型バーテックスにさらわれた三ノ輪銀を救出するための方法を探る、一筋の光明ともいえる。

 言い寄る大人に協力するふりをして、壁の外の情報をそれとなく探る。

 大半は大赦の教える歴史を信じているのか、あるいはとぼけているのか何の収穫もない。

 だが、人の口には戸は立てられないというのは本当だ。何人かの大人がつい自分の出世に目がくらみ、大赦でも極秘ともいえる情報を漏らしてくれた。

 防人計画。四国の外へ派遣される、勇者とは別の人類の希望。

 現在はかつて西暦で中国地方と呼ばれた場所への派遣が決まっているらしい。

 防人は1人1人は力が弱いが集団戦を軸として星屑と戦い、各地の土壌サンプルや壁の外の調査を主な任務としていると。

 彼女たちをうまく利用すれば、三ノ輪銀がとらわれている人型バーテックスの足取りやアジトを突き止められるかもしれない。

 そう考えあれこれ探っていると、安芸先生に大赦の偉い人から呼び出されたと告げられる。

 まずい、バレたか?

 しかしそんな心配をおくびにも出さず、園子は言われるままついていった。何も知らない無垢な子供の仮面をかぶったまま。

 たどり着いたのは大赦の奥の奥。最高責任者がいるという座敷だった。

 思わぬ大物が釣れたことに園子は驚愕するが、表情と雰囲気だけはいつものほんわかとしたまま対峙する。

「近頃、派手に動いているようですね」

 御簾の向こうから聞こえてきたのは、凛とした声だった。

 男とも女ともとれる中性的で、汚れを祓う鈴のような声だ。

「何か探っておられるようですが、収穫はありましたか?」

「探っているだなんてとんでもないですー。周りにいる大人が勝手に教えてくれてるだけなんですよー」

 一応目上の存在であるから敬語を使っているが、園子はいざとなれば勇者服に変身して御簾の奥にいる人間を人質に自分の要求を通そうと企んでいた。

「みんな聞いてもないのにいろいろ言ってきて、正直困ってるんよー。大赦の偉い人からも何とか言ってもらえます?」

「き、貴様。いったい誰に向かってそんな口を」

「よい」

 大赦の仮面をかぶった老人が園子のふてぶてしい態度に何か言おうとすると、御簾の向こうから聞こえた声がそれを制した。

「彼女たちは神樹様が選ばれた勇者様。本来ならこちらが敬わなければならぬ身。先ほどの無礼はお許しください」

 よく言うよ、そんなこと全然思っていないくせに。

「別に構わないんよー」とあえて挑発するようにこちらが許してやっているという態度をとると、大赦の仮面をかぶった老人が仮面の上からでもわかるほど顔を赤くしている。

「勇者様のお気をわずらわす存在はわたくしたちが処理しましょう。彼らに聞くよりわたくし共のほうが答えることができると思われますので、なにか気になることがあればぜひお尋ねください」

 なるほど。要はお前が探ろうとしていることをここで言わないと生きて帰れると思うなということか。

 園子は軽く深呼吸する。この答えによっては自分はおろか家族や同じ勇者である須美にまで累が及ぶ。

 できるだけ慎重に、かつ相手の弱点を突かなければ。

「わたしは、ただ壁の外にいるはずの友達を助けに行きたいだけなんです。それなのに誰も壁の外について教えてくれないから」

「壁の外は危険なウイルスが蔓延している場所です。人が住めなくなってどれほどの月日が過ぎたか…」

 へぇ、そういう態度でくるんだ。

 だったらこっちも、用意していた手札を切らせてもらおう。

「ですからお友達のことは残念ですが、あきらめていただきたく」

「あれ? あれあれ? でもおかしいんよー」

 自分でも芝居じみた言動だと思いながら、園子は告げる。

「この前、逃げる乙女座を追いかけて神樹様の結界から出たとき、四国の外は真っ赤な世界が広がっていただけだったんだけどなー」

 その言葉に、大赦の要職にいる人物たちがざわつきだす。

「あれって、わたしの見間違いだったのかなー? 大赦はウイルスが人類を滅ぼしたって言っていたけど、本当はバーテックスが」

「勇者様」

 真実を告げようとする園子の言葉を、御簾の声は静かに遮る。

「それはきっと見間違いでしょう。人類は間違いなく壁の外の未知のウイルスによって死滅したのです。もし、勇者様が壁の外へ行ったとなれば感染しているかもしれません。今すぐ病院を手配いたします」

「いやいや、そんなはずないんよ。わたし、裸眼で両目2,0だし」

「勇者様はお仲間である三ノ輪銀様がお隠れになられて混乱されていたのでしょう。そのような幻覚をみるなど」

 あくまで園子が見た壁の外のことは内緒にしたいらしい。だったらもう1枚のカードを切る。

「じゃあ、防人部隊は壁の外に何しに行くのかなー」

 園子の告げた言葉に、わかりやすく数人の大赦仮面が動揺した。

「壁の外に、人間が住める場所があるか探しに行くんでしょ。なのに銃剣とか盾とか、元勇者候補生とか集める必要はあるのかな?」

「貴様、無礼だぞ! 乃木の娘!」

 たまりかねたのか、大赦の仮面をかぶった老人が園子を恫喝する。

「わたしの名前は乃木園子です。いなくなった友達は三ノ輪銀。貴方たちは、使い捨てにしている子供の名前なんか気にしていないでしょうけど、わたしたちにとっては大事なことなんです」

 芯の通った声だった。子供とは思えない意志の強い瞳に射抜かれて、老人が思わず後ずさる。

「身内が失礼した。勇者様、わたくしどもはあなたたちを決して使い捨ての道具とは」

「あー、もうそういうのいいから」

 園子はついに最後のカードを切ることにした。

「あなたたち大人が子供に隠していることも、大体全部こっちは知ってるんだよ。満開の後遺症のこととか」

 園子が告げた言葉に、隠しきれないざわめきが起こる。

 あのバーテックスの言ったこと、本当だったんだ。だったらミノさんも。

「…それをどこでお知りに?」

 思わず銀のことを考えていた園子を、御簾の向こうの声が引き戻した。

 先ほどとは違い、明らかに不機嫌な声だ。相当まずいところをつつかれたのだろう。

「どこというか、誰というか。人の口に戸は立てられぬっていうし」

「情報管理は徹底しているはずです。漏れることはあり得ない」

 それって、わたしが言ったことが真実だって認めているようなものだよね。大人なのに頭悪いなぁ。

 まあいいや。だったらわたしが言うことは1つ。

「満開の副作用のこと、黙っていたなんてショックだなー。ショックのあまりわたし、次の戦いで満開した状態でうっかり壁を壊しちゃうかも」

 脅しともとれる言葉に、大赦仮面たちがざわめく。

「落ち着きなさい! 勇者様。満開の副作用は一時的なもので、すぐ治ります。わたくしやこの場にいる者すべてが保証いたします」

「信じられると思う? そんな言葉」

 スマホをタップし、蓮の花が舞う。

 そこには新しい白を基調とした勇者服を着た乃木園子の姿があった。

「いままでみんなをずっとだましてきて、申し訳ないとは思わないの? あなたたちを守っていなくなった子供たちに詫びる気持ちはある?」

 槍を構えると、要職にいる大赦仮面たちが我先にと逃げ出した。どうやらここにいる大赦の最高責任者にはその身に変えて守ろうとするほどの人望がないらしい。

「お待ちを! お待ちを勇者様! お怒りはごもっともです。しかし今大赦がなくなれば四国の秩序は、皆の生活が無茶苦茶に」

「あなたたちがいなくなったほうが、世界はきっともっと良くなるよ」

 御簾を切り裂くと、仮面をかぶった大人が情けなく後ずさりしていた。

 こんな奴らを守るために、今まで戦っていたなんて。

 園子は槍を振りかぶりその頭に下ろそうとして…割って入った安芸の目の前で止めた。

「どいて先生。そいつは守る価値がない人間だよ」

「乃木さん、そんなことをしてはだめ。戻れなくなるわ」

 残念ながら、もうとっくに戻るつもりはないんだよね。

 わっしーは怒るだろうけど。全部忘れてくれるならそのほうがいいか。

 園子は槍を突き付けたままにらみつけていたが、やがてそれをしまい変身を解いた。

「今回は先生に免じて引いてあげる。感謝したほうがいいと思うよ」

 大赦の最高責任者は、安芸の裾を掴み泣いている。どうやらよっぽど怖かったらしい。

「でも、見逃す代わりにお願いがあるんよー。もちろん聞いてくれるよね?」

 にっこりと笑う園子の言葉に、大赦の最高責任者は必死に首を縦に振った。

 

 

 

「いやー、先生、さすがの演技力だったんよー。みんな騙されてくれたね」

 大赦での一件から数日後。

 神樹館小学校、放課後のクラスで園子と安芸は向かい合っていた。

「演技って、乃木さんは本気であの人を斬るつもりだったでしょう」

「あ、バレた? さすが先生」

 さらりと殺人を犯す気だったと告げる教え子に、安芸はうすら寒いものを感じる。

「あの人がいなくなったほうが、世の中はよくなると思って」

「仮にそうなったとしてもそれは一時的なものよ。すぐに首が挿げ替えられるわ」

 そう、かつてそうだったように。

 今の最高責任者になって、安芸も今までの大赦とは違う健全な組織になると期待していた時期もあった。

 だが結局何も変わらなかった。子供を神樹に捧げ、自分たちが生き残るのに必死なところも、全部。

 今回園子に協力したのはそんな組織に嫌気がさしたのと、三ノ輪銀の葬儀の日に何もできなかった彼女たちへの負い目からだった。

「でもいいの? 大赦に勤めている私が言うことじゃないけど、あの連中約束守るとは限らないわよ」

「ううん。守るよ絶対」

 そこだけは自信をもって言える。

「何回も満開すれば、それだけ神樹様に近づくってことでしょう? つまり全身が神樹様のパーツになったわたしは神樹様そのもの。まさか神樹様を信仰する大赦がその言葉に従わないわけにはいかないでしょ?」

「乃木さん、あなた…」

 安芸は絶句する。

 これが、たった12歳の少女がする決意だろうか。

 あの場にいた誰よりも、この少女の心には強くて確固たる信念があった。

 安芸は思わずその小さな身体を抱きしめようとして、ためらった。自分のような汚れた存在がこんな尊い志を持った少女に触れていいのだろうか。

「じゃあ先生、わっしーが待ってるからまたね!」

「あっ」

 結局、触れることはできなかった。

 自分はひょっとして彼女にとって最悪な人生を歩ませてしまうのではないか。

 これから彼女がしようとしていることを考えれば、止めておけばよかったと思わない日はないだろう。

 だが、幕は上がってしまった。

 役者は舞台で決められた演目を演じるしかないのだ。

 




 学校での2人
園子「あ、わっしートイレ? わたしも行くー」
須美「ちょっとそのっち。ついてくるのはいいけどそんな大声で言わないで」
女子生徒「あ、鷲尾さん、ちょっとお話が」
園子「シャーッ!」(須美に見えないように威嚇)
女子生徒「ひっ⁉ すみませんでしたー!」
先生「鷲尾さーん、頼みたいことが」
園子「シャーッ!」
先生「…乃木さん、お役目で疲れているんだろうか」
ただの百合女子「乃木さーん、鷲尾さんと付き合ってるのー?」
園子「ビュォオオオオオ!」
百合女子「あら^~」
 だいたいこんな感じ

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