詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか?   作:百男合

21 / 105
 あらすじ
園子「大赦を、つぶす!」
風「2年早いしそれアタシの台詞⁉」


バッドエンドのその先へ

 どうも、星屑(人型)です。

 え、お前そのっちに滅多刺しにされてやられたんじゃないかって? 

 どっこい生きている!

 最近人型に意識を移してばっかりで忘れかけてたけど、俺視界と意識を8分割していたんだよな。

 人型が倒れると視界が7分割になった。どうやら完全に行動不能になったらしい。

 仕方なく残りの7体で人型を食い、勇者の武器の毒で3体ほど倒れた。まぁ、人型には神樹の体液が入っていたからそれが影響したのかもしれんが。

 この機会に他の星屑を共食いし、いざという時のバックアップ用を1体残して2体にする。

 サーバー星屑のおかげで御霊付近や四国の周囲にいる星屑を食う個体を自分自身で操る必要はなくなったからな。もっと早くこうしていればよかった。

 それからは銀ちゃんの腕を使って四国に侵入して英霊碑を削って勇者の力を手に入れたり、それを使って精霊型星屑を強化しようとしたり、強化版人間型星屑に勇者の力をコーティングしようと研究を重ねた。

 新しく生まれた精霊型星屑の中でコシンプを含め意思疎通ができるような能力を持つ精霊はいなかった。これがないと勇者と和解する難易度がけた違いに難しくなるのでもう1度生まれてきてほしいのだが、こればっかりは運任せなので完全にお手上げだ。

 神樹の体液の濃度を高めたり勇者の力を混ぜてみたりといろいろやってみたが駄目だった。この時生まれた精霊は後に役立つことになるのだが、わすゆの最後の決戦にまで実戦で使えるレベルに仕上げることはできなかった。

 そして時間はあっという間に流れ、ついにわすゆの最終決戦の日を迎える。

 

 

 

 レオ、アリエス、ピスケスが神樹の結界へと入ってくのを俺はサーバー星屑の中から見送る。

 前回会った時にそのっちに満開のことは話しておいた。だからそのっちなら須美ちゃんが記憶を失うことになる2度目の満開はさせないだろう。 

 おそらくそのっちが3回満開してレオ、アリエス、ピスケスの3体を倒すはずだ。

 壁の外から結界の中の様子はわからないが、きっとそうなると確信している。

 俺は物語に対する修正力を警戒し、手助けは最小限にすることにした。

 須美ちゃん、もとい東郷さんは車いす生活になるが、結城友奈と仲良くなるきっかけや仲良し要素の1つになるので記憶さえ失わなければ問題ないだろう。

 あとはできるだけそのっちを満開させず、全身不随にさせないようにしなければ。

 俺が介入するタイミングをうかがっていると、そのっちが壁の外へ出た。

 そこにいたのは12体の星座級バーテックス。太陽のように体躯が燃えて揺らめいているがおそらく御霊なしのモドキだ。彼女なら苦戦することはないだろう。

 そう思っていたが、様子がおかしい。

 そのっちは呆然と12体の星座級を見つめるだけで、一向に戦おうとしない。

 もしかして、この状況に絶望している?

 考えてみれば御霊なしの星座級が弱体化しているというのはこの世界ではまだ俺だけしか知らないのか。

 大赦は知っているだろうが、俺が御霊の周囲に星屑を配置して御霊持ちの十二星座が復活するのを阻止しているのは知らないだろう。

 ということは今まで3人で倒してきた星座級を1人で12体倒さなければならないと思っているわけか。それは戦意喪失するのもやむなしだ。

 とはいえこのまま放っておくと自暴自棄になって満開して突撃し、死なばもろともと無茶苦茶に戦いかねない。

 これ以上満開しないためにもそろそろ頃合いか。

 俺は武力介入を開始することにした。アタッカ・アルタを突っ込ませ、敵に注意を向けさせてサジタリウスの超遠距離射撃でアクエリアスとリブラ、キャンサー以外の敵を狙い撃つ。

 ヴァルゴ、カプリコンは殲滅できた。崩れた陣形にゆゆゆいバーテックスを潜り込ませ、防御特化のタチェット・アルタをジェミニの周りに展開させ、近づいてスコーピオンの猛毒を注ぎ込む。

 アクエリアスとリブラはアタカ・アルタの集団がとりあえず殴る。殴り続ける。こいつらは下手に能力を使うより単純な暴力のほうが効果的だ。タウラスはリブラの能力で周囲を真空状態にして攻撃の怪音波を無効化してスコーピオンの毒を流し込んで放置。

 レオ、アリエス、キャンサーはヴァルゴとカプリコンとスコーピオンの能力を複合した毒ガス爆弾を放り込んで周囲を水の壁で囲む。アリエスは切ったり爆発させたらその分増殖するから毒で一切傷つけず倒させてもらう。レオは攻撃が厄介だから水の壁で囲んで毒で弱らせることにした。トドメは多分俺が刺さないといけないな。

 残った奴らは俺が直接相手する。ピスケスは近づいてきたところをリブラの風の刃でなます斬りにし、スコーピオンはみずしゅりけんを6つ作ってワイヤーをつかって切断。

 弱ったジェミニとアリエスは顔を巨大化させて喰らう。あれ? なんかいつもと違うような…。体躯が燃えてるからかな?

 他のバーテックスも弱ってきたところを食らっていく。だが、レオだけは全然弱っている気がしない。何度も火球を繰り出し何重にも展開した水の壁を破壊し続けている。

 仕方ない、これだけは使いたくなかったが。

 俺はヴァルゴとアリエス、アクエリアスの力を使い、とあるものを作る。そして水の壁を解除するとピスケスとジェミニの突進力でレオを押し出し、そのっちに被害が及ばないようにかなり遠くまで運ぶことに成功した。

 水素爆弾。いわゆる水爆や原子爆弾と呼ばれる人類が作った最悪の殺傷兵器だ。

 二重水素、三重水素や重水素という物質もアクエリアスの能力を使えば簡単に作ることができた。これにヴァルゴの爆弾を作る能力を合わせれば思いのほか簡単に作れてしまう。

 こんな能力を持っていれば、そりゃあ簡単に人類も滅ぼせるわな。

 水の壁を何重にも作って爆発を閉じ込めて漏れないようにしたが、衝撃だけは押さえられなかった。

 ビリビリと空気を震わせ、水の防護壁が霧散する。

 クソ、防護壁が足らなかったか。

 リブラの能力で真空状態を作りそのっちや四国のほうに影響が及ばないようにする。バーテックスの身体だから俺は平気とはいえ、人間の彼女たちに後遺症が及ばないように気を付けなければ。

 できれば使いたくなかった兵器だったが、これで…おいおい、嘘だろ。

 レオは生きていた。身体はボロボロだけど、こちらに向かって熱光線を放とうとしている。

 防御、いや、アクエリアスや他の星座級の能力でレーザーを屈折させて…。

 だめだ、間に合わない。

 思わず身を固くした俺だったが、高速で横を通り過ぎた何者かがレオを瞬殺する。

 それは満開状態のそのっちだった。

 俺を助けてくれた?

「ねえ、あなた本当にミノさんを保護してくれてるの?」

 そのっちが武器を収め、こちらに近づいてくる。

「もし前に貴方が言ったことが本当なら、わたしをミノさんのところに連れて行って」

 小さな手が、人外の白い手を握る。

「あなたのことを、信じてみたいの」

 声はすがるようだった。表情には不安がにじみ出ていて、本当に信じていいのか迷っているのがありありとわかる。

 それを見て俺は――

 

 

 

 俺はそのっちをアジトであるデブリに連れていくことにした。

 意思疎通はできないが、水球で治療している銀ちゃんを見れば納得してくれるだろう。

 俺が敵でないことを。むしろ彼女を助けたいと思っていることに。

 そう思い、フェルマータに乗せて連れていく。デブリにつくと見たこともない場所に興味津々といった様子だ。

 そのっちが握る手を引き、銀ちゃんを治療している水球の元へ向かう。

「ミノさん!」

 銀ちゃんの姿を見ると、駆け寄り水球に触れていた。銀ちゃんはまだやけどが残っていたが、あともう少し経てば後遺症なく治療することができるだろう。

 さて、言葉を使わずどう説明しようかと俺が悩んでいると、胸に槍の穂先が生えた。

 あれ、これ一体?

「ありがとう。あなたが言ったことは本当だったんだね」

 そのっち? あの、なんで槍を持ってるんですかね?

 そしてなんでそのっちの持ってる槍が俺の胸に刺さっているの?

「でも、わたし信じないことにしてるんだ。大人のいうこととバーテックスの言うことは」

「満開」と告げ、船のような形をした武器の台座に乗り、俺に向けて無数の槍を放つ。

「どっちも、わたしにとって敵だから」

 ああ、そうか。彼女は最初から……。

 槍衾(やりぶすま)となった身体から力と意識が抜けていく。

 視界が暗転し、2分割だった画面が1つになる。

 その後もう1つの俺が意識を宿した星屑も倒され、サーバー星屑も破壊された。

 管理を失ったゆゆゆいバーテックス達は園子の敵ではない。四国へ帰った園子は満開の代償でいくつか身体の機能を失ったが、植物状態の銀が目覚めるまで同じ病院で幸せに暮らした。

 

 BADEND【これも1つのハッピーエンドでは?】

 

 ………

 ……

 …

 その時、不思議なことが起こった!

 

 はっ、なんだ今のイメージは⁉

 なんか胸がすっごい痛いんだけど。

 そのっちは俺の手を握ったまま、「どうしたの?」と聞いてくる。

 それを見て俺はフェルマータ・アルタを呼び逃げることにした。

 よく考えれば四国への脅威は去ったのだ。これ以上ここにいる理由はない。

 俺はそのっちの手をなるべく優しく振りほどき、その場から離脱しようとする。

「あーあ、やっぱりだめだったかぁ」

 するとそのっちは表情を一変させた。

 今までの不安そうな少女の仮面を脱ぎ捨てて、敵意をむき出しにしてこちらに攻撃を仕掛けてくる。

「満開!」

 巨大な船のような台座に乗り、天女のような可憐さで肉食動物が獲物を見つけたときのような凶悪な表情だった。

 嘘っ、今までの演技だったの⁉

 すっかり騙された。もしアジトのデブリに連れて行っていたらさっきのイメージ通り後ろから刺されていただろう。

 だが、馬鹿正直に戦う俺ではない。

 複数のフェルマータ・アルタにけん引され、ジェミニ並みのスピードでその場から離れる。

 あとは、彼女が四国へ帰ってくれれば。

 振り返ると、満開状態を維持してまだついて来ようとしていた。俺は振り切るためにリブラの能力を使いスピードアップする。

 だがどんなにスピードを上げてもそのっちは満開してついてきた。やばいな。これじゃあ満開の回数を減らすために御霊なしのバーテックスを倒したのに意味がない。

 仕方なく、俺は四国のほうへ引き返した。

 こうなったら前と同じように無理やりにでも神樹の結界に放り投げて人間の世界に返す。

 俺は見通しがいつも甘い。

 気づくのは、結局いつも全部終わった後だ。

 

 

 

 やっぱり、逃げようとしたね。

 事前に聞いていたとはいえ、獅子座、魚座、牡羊座を倒した後12体のバーテックスが現れたときは正直心がくじけかけた。

 わっしーが記憶をなくすとわかっていても、やはりつらかった。彼女に自分のリボンを託して結界内に避難させてきたが、いつか思い出してくれるだろうか。

 そんなことを考えていると、予想していた通り人型のバーテックスがやってきた。

 この前とは別の仮面をかぶってはいるが、間違いなくあのバーテックスだ。

 あいつはわたしたちが苦労して倒してきた十二星座をいとも簡単に倒すと、そのまま逃げようとする。あいつを信用しようとする勇者を演じてみたけど無駄だったようだ。

 逃すもんか。ミノさんの居場所を聞き出すまでは。

 2回満開(・・・・)して足が動けず、わたしとミノさんと一緒にいた日々の記憶を失ったわっしーを置いて、4回目の満開をして追いかける。

 すごいスピードで逃げているけど、絶対見失わない。5回目の満開を使い船のような武器に乗り、人型のバーテックスを追う。

 あの時言っていた言葉を信じるなら、あいつはわたしに満開を使わせたくないはずだ。そこに付け入る隙がある。

 6回目、7回目と満開をすると、人型のバーテックスは撒くのをあきらめて四国のほうへ引き返し始めた。

 この前みたいにわたしを神樹様の結界に押し込もうとしている? 甘いよ。

 8回目の満開を行い、人型のバーテックスに襲い掛かる。

 満開する度に自分の身体から何かが失われていく感覚がする。これが満開の副作用。あの人型バーテックスが言ってた代償か。

 あのバーテックスが言うにはこれによってわたしは身体の機能をほぼ失い、全身不随になるらしい。

 むしろ望むところだ。そうでなければ意味がない。

 わたしが放った槍は、太鼓みたいな形のバーテックスにはじかれた。どうやら防御特化のバーテックスみたいだ。

 あんなのも用意してたなんて、本当に底が知れない。

 そんなことを考えていると、神樹様の結界近くに戻ってきた。周囲には十二星座級や星屑とは違う、見たこともない形のバーテックスが複数いる。

 こいつら全員倒すのに、一体何回満開すればいいのかな?

 満開状態の船に似た武器から、複数の槍を使い攻撃する。だが太鼓のようなバーテックスが他の見たこともないバーテックスの前に立ちはだかり、攻撃を防いでいる。

 ただの群れではないらしい。どちらかというと統率された軍隊のようだ。

 満開が解け、また身体から何かが失われる感覚。これ、全然慣れないや。

 思わずうずくまっていると、あの巨大な早いスピードで動くバーテックスから降りてきて、人型のバーテックスがこちらに向かってくる。

 9回目の満開!

 わたしを捕まえようとしていた水のワイヤーを槍が切り裂く。そう簡単には捕まらないんだから。

 すると今度は爆弾をばらまいてきた。これは乙女座の能力⁉

 武器がわたしの意思とは関係なく、それを切り裂いてしまう。まずい。

 切断された爆弾から煙が出る。目くらましだ。

 これは多分時間稼ぎと次の攻撃への布石。煙が晴れるか、わたしの満開が解けた瞬間また襲い掛かってくるはず。

 だが、そのどちらとも違った。

 円錐のコマに赤いヒモが生えたようなバーテックスがわたしの周りに現れる。

 青い光が瞬き、身体を雷が襲う。

 あの目くらましは、このバーテックスが近づくのを気づかせないためだったのか。

 満開が解けたわたしを確認し、人型バーテックスがこちらに近づいてくる。

 身体からまた何かが抜け落ちていく感覚がする。だがまだ足りない。これから自分がしようとしていることを考えれば、もっと。

 いいよ。もっと。もっと近づいてこい。

 人型バーテックスが自分の身体を掴み、神樹様の結界へ戻そうとする瞬間を狙い、告げる。

「満開」

 10回目。いよいよ取り返せないところまで来てしまった。

 身体がしびれるという感覚も、もう感じない。さっきの攻撃は全くの無駄だったのだ。

 腕を切り落とし、次は身体を攻撃しようと槍を振るおうとしたら何者かに邪魔される。

 見るとそれは切り落としたはずの腕。それが再生し、別のバーテックスの形になろうとしていた。

 人型本体のほうも腕の肉が盛り上がり、再生し始めている。そんな能力も隠してたなんて。

 今度は水のワイヤーを腕や足に巻きつけ始めた。何をするつもりかと思っていると武器である船を丸ごと掴み、樹海に向かって押し出そうとしている。

 あれを巻き付けたのは防御と攻撃力アップのためだったんだ。突進力や足の素早さも先ほどとは比べものにならない。

 だけどそれじゃ、ボディががら空きだよ。舟をこぐ部分から大量の槍を放出し、人型バーテックスを貫く。

 やっぱり、こいつはわたしを傷つけまいとしている。

 最初は半信半疑だったが、この攻撃で確信した。樹海に押し込むだけならわたしを痛めつけて行動不能にして放り投げればいいのだ。

 だが、この人型バーテックスはそうしない。そうできない理由があるのだ。

 無論、わたしはあの人型バーテックスが言った言葉を信用しているわけではない。

 最悪の結末を変える? 無償の奉仕? そのために同族のバーテックスを倒した? 天敵である勇者の自分たちを助けるために?

 そんなことをするものが、この世界にいるはずはない。 みんな打算で行動し、敵は親切なふりをして近づいてくるものだ。

 大赦の大人や、乃木の家を訪れる人間がみんなそうであったように。

 このバーテックスがミノさんの居場所を教えない以上、信用できるはずがない。

 人型バーテックスとの攻防は続いた。満開も11,12と回数を重ね、気づけば20回を超えていた。

 その間も、決して人型バーテックスはわたしを傷つけようとしなかった。

 いくら自分の身体が槍で傷つき、倒れそうになっても。巨大バーテックスに放った攻撃をしてこようとしない。

 蠍座を切り刻んだ水の刃や獅子座をあと1歩まで追い詰めた爆弾を使われれば、わたしは手も足も出なかっただろうに。

 何度問いかけても結局最後まで一言もしゃべらなかった。ついに膝をついたバーテックスを目にして思う。

 なぜそこまでかたくななのか、理解できない。利用するためとはいえ、自分が死んでしまっては意味がないだろう。

 まあ、バーテックスの考えることなんか、わからなくてもいいけど。

 本当はこの戦いでミノさんの居場所を聞き出すつもりだったけど、できなかったなぁ。

 その後わたしは四国に帰り、神樹様に大量の供物を授けた現人神として大赦で信仰と権力を得ることができた。

 その権力で防人隊に指示を出し、あの人型バーテックスが隠しているはずのミノさんを探したけど、あまりいい報告はない。

 ひょっとしたらあの人型バーテックスのでまかせで、本当はもう…。

 時々浮かぶそんな考えを否定し、今度は別の場所へ派遣するため星屑との戦闘で離脱した防人の人員を補充するよう指示を出す。

 ミノさんは絶対にわたしが見つけるんだ。そのためにどんなに犠牲を出したとしても。

 

 BADEND【園子「やれ」くめゆ組「もう勘弁してください」】

 

 ………

 ……

 …

 その時、不思議なことが起こった!

 

 はっ⁉ なんかくめゆ組がひどい目に合いそうなイメージが頭の中に⁉

 今日は白昼夢をよく見るな。さっきもそのっちに後ろから刺されるイメージを見たし。

 そのそのっちから今全力で逃げてる最中なんだけどね。

 しかし、ずっと追いかけてくるな。あの様子だと諦めそうにない。

 仕方ない。俺は両手を出し、自分の体積3分の1ずつ使って星屑を2体生み出すと別々の方向に放つ。

 正直3分の1を切り捨てるのはもったいない気がするが、こうでもしないとそのっちを抑えきれるとは思えない。

 俺は水のワイヤーの縦糸と横糸を交差させて格子模様を進路上に作り、わざと身体を切断して細分化する。アリエスの能力を使い大量分裂と再生を繰り返して無数の俺がそのっちに襲い掛かった。

「くっ、この!」

 数の暴力に押され、そのっちの進行が止まる。よし、あとはジェミニとピスケスの突進力で結界まで押し返せば。

 …とはうまくいかないか。

 船のような武器から射出された槍に分裂した俺が次々とやられていく。だが、目くらましになれば十分だ。

 俺が星屑を射出したのは他の星屑に紛れて逃げるため。2方向に分けて打ち出したのも逃げた先を特定させないためだ。

 卑怯なようだが、これ以上彼女を相手にしていると、本編より満開の数が増えそうな気がする。

 さっきのイメージのせいもあるが、俺が死ぬまで満開してなぶり殺しそうなんだよなぁ。それほど憎まれてるのかな、俺。

「邪魔! くっ、どこに行ったの⁉」

 なのでここは戦略的撤退をさせてもらう。

「逃げるな! この……卑怯者ぉおおお!!」

 壁の外の赤い世界に、そのっちの慟哭(どうこく)が響く。 

 乃木園子が使った満開の数は9回。本編よりも11回以上少ない数だった。

 

 

 壁の外から四国へと戻った園子はすぐに大赦経営の病院へと運ばれた。

 満開によって供物として神樹に捧げられたのは右目、心臓、右足、左足、痛覚、胃などの内臓4つ。

 両腕以外動かせず、失った内臓によって日常生活も困難となった園子は現人神に近い存在として大赦で奉られ強い発言力を持つことになる。

 後に壁の外へ派遣される防人たちに人型バーテックスの捜索と、行方不明の三ノ輪銀の捜索を命じることができるほどに。

 もっともこの2つは大赦の最高責任者の命を救う代わりに約束させたものだが。

 戦いが終わった後、両足と右目を失った彼女を見舞いに来た安芸や大赦の要職にいる大人たちに、園子は言った。

「わたし、バーテックスを許さない。生きている限りこの世に生きることごとくを滅ぼすよ」

 それは、人間を守る勇者としては頼もしい言葉だっただろう。

 だが、子供が言うにはあまりに辛く、重い言葉だった。

「特にあの人型のバーテックスは許さないよ。防人が見つけてきたら、わたしも出撃するから」

 大赦で暴れた時よりも深く、静かな怒りを燃やす園子に大赦仮面はおののき平伏する。

 園子が大赦で暴れた件がトラウマになっていたのもあるが、人型のバーテックスの存在があまりに脅威的だった。

 なにしろ知性を持ち、見たこともない種類のバーテックスを操る。星座級の能力を使い、巨大バーテックスを食らう規格外の存在だ。

 アレを倒せるのは満開をして歴代でどの勇者より強い存在となった目の前の彼女しかいないだろう。

 こうして新たに確認された人型のバーテックスの件もあり、園子の大赦での地位は盤石なものとなる。

 

 

 

 そして時は過ぎ2年後、神暦300年四月。讃州中学校勇者部。

 結城友奈は勇者であるの物語が始まる。

 




 どの選択肢を選んでもそのっちに殺されるルートしかなくて詰みかけた。
 頭の回転が速くて抜け目がない上に覚悟を決めたそのっちを敵に回したときの厄介さよ。
 最良の選択が逃げの一手という時点で、ね。
 もう完全に治った銀ちゃんを差し出すしか人型バーテックスが助かる道はないかもしれない。
 差し出しても園子さまなら顔色ひとつ変えずに槍ぶっ刺しそうだけど。

【ゆゆゆ編に入る前のわかりやすい、原作と違う点】

 満開の数が本編より少ないので園子が全身不随から半身不随になった。
 三ノ輪銀は生きているが意識不明で人型バーテックスのもとで治療中。
 園子は大赦での発言力が強い現人神という地位につくため、自ら進んで満開を繰り返した。人型バーテックスを追わなければ満開は4回ですんでいた。
 園子は防人の調査地と行動を決定する権限を持っている。防人の配備が原作より少し前倒しになった。
 園子が人型のバーテックス絶対許さないウーマンになった。
 瀬戸大橋の大戦でバーテックスの進行はレオ、アリエス、ピスケスの3体のみだったので樹海の浸食は少なく死傷者も本編より少ない。大橋は破壊されず残った。
 人型バーテックスが十二星座級を食べるヤベー奴としてブラックリスト(大赦検閲項目)入りなど。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。