詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか? 作:百男合
安達としまむらがトウトイ・・・トウトイ・・・。
ストライクウィッチーズのシャーゲルッキーニ家族といい2020年秋アニメは百合の豊作だよー。神回しか作れなくて誇らしくないの?
提供のメトロノーム安達はアホかわいい。
ゆゆゆ編、はっじまるよー。
季節は春。4月の26日。新学期が始まり、新入生が慣れない教室の自分の席に愛着を抱き始めるころ。
授業中、突如鳴り始めた自分のスマホに、犬吠埼樹は心臓が口から飛び出さんばかりに驚いた。
「あわ、あわわわわっ⁉」
なんとかスマホのボタンをタップして止めようとするが、アラーム音は止まらない。画面は見たことのないもので【樹海化警報】という赤い文字が表示されている。
樹はどちらかといえばおとなしい性格で、引っ込み思案とよく言われる。事実小学校低学年までは2つ上の姉にべったりだったし、初対面の相手とは常に姉の陰に隠れて様子をうかがうような性格だった。
だから、日常に突然訪れたハプニングにとても慌てる。
笑われる。怒られる。叱られる。なにより人に注目されてしまう。
そのどれもが樹にとっては苦痛で恥ずかしかった。
「ごめんなさい、すぐ止めます! 止めますから」
他の生徒の笑い声が起こる前に、教師からお叱りの言葉を受ける前に必死に謝るが、一向に声は聞こえない。
「――え?」
顔を上げてみれば、世界が静止していた。
教師は黒板にチョークを走らせている最中で停止し、他の生徒たちも席についたまま瞬きひとつしない。
時計を見ると秒針も止まったままで、窓の外を見れば木の葉が動くことなく宙に浮いている。
なんなんだろうこれは?
わけがわからず、アラームを鳴らし続けるスマホを見る。この状況と関係あるのだろうか?
「犬吠埼さん?」
「ひゃいっ⁉」
考え事をしていた樹は、背中からかけられた声にびっくりして背筋を伸ばす。
振り向くと、そこにいたのは同級生の男子。
顔はどちらかというと中性的で、ひげを伸ばしている男子もいる中では珍しく清潔さがあった。
身長は樹より高く、隣に立つと見上げるようになってしまう。ちょっと威圧感があって怖い。
男子が苦手な樹とは面識があまりないはずだ。というか讃州中学に入学してから樹は男子と口をきいたことがない。
そのため目の前にいる男子の名前も知らなかった。向こうが自分を知っているという事実に驚愕していたところだ。
「な、なんでわたしの名前」
「いや、クラスメイトだから知ってるよ」
と男子生徒。ごめんなさい、わたしはあなたの名前がわかりません。
なんとか名前を思い出そうと脳細胞をフル回転させるが、思い出せない。今の座席が出席番号順だから、「た」よりは後の苗字のはずだが。
「ああ、ごめん。丹羽だよ。丹羽明吾」
一向に樹が名前を呼ばないことから察したのか、向こうから名乗ってくれた。
恥ずかしい。名前を思い出せなかったことも、相手に気を遣わせたことも。
「どうやら動けるのは俺たちだけみたいだね」
思わず赤面し、縮こまる樹に丹羽は言う。
「そ、そうみたいでしゅね」
噛んだ。なんだみたいでしゅねって。
「俺は心当たりないんだけど、犬吠埼さんは何か…て、そのスマホだよね」
気を使ったのか、スルーしてくれた。恥ずかしい。
樹のスマホは、こんな状況でもアラームを鳴らしていた。表示されている樹海化警報というのが何かわからないが、それが影響しているのかもしれない。
「そうだ、お姉ちゃん」
樹の頭に浮かんだのは勇者部というボランティア活動をする部の部長でもある頼れる姉の姿だ。もしかしたら姉ならこの状況がなんなのか説明してくれるかもしれない。
「犬吠埼さん、お姉さんがいるの?」
「はい、2つ上で3年生です。ひょっとしたら何か知ってるのかも」
よし、今度は噛まずに言えた。
「俺は他のクラスにも動ける奴がいないか見てくるよ。犬吠埼さんは心配だろうからお姉さんのクラスに行って」
「は、はい」
なんだかすごく冷静だ。他にも動ける人間がいるなんて樹には考えもしなかった。
ちょっと、いやすごく頼りになる人だな。わたしと同い年なのに。
とりあえず樹は丹羽と別れ、姉のいる3年生の教室へ向かうことにした。讃州中学の校舎は1階が1年生、2階が2年生、3階が3年生が使っているので、階段を上ることになる。
そういえば友奈さんと東郷先輩は大丈夫かな?
同じ部活で樹をかわいがってくれている底抜けに明るくて優しい先輩と何でもできる器用な先輩を思い浮かべる。思わず確認しようと2年生の教室に行こうとして、彼女たちのクラスを知らないことに気づく。
自分はなんてダメダメなんだ。姉の半分でもいいからコミュ力が欲しい。
こうなったら1つずつ教室を見ていくしか、と樹が心を決めたときだった。
「樹!」
「お姉ちゃん!」
階段から降りてきた姉の風と鉢合わせした。
「お姉ちゃん、急に周りの人が動かなくなって」
「わかってる。いい、樹。よく聞いて」
姉の様子が何かおかしい。樹の肩を掴み、目線を合わせてくる。
「選ばれたのは、アタシたちだった」
その言葉とともに犬吠埼姉妹は光に包まれた。
気が付けば周囲の風景は一変していた。
色紙を切り貼りしたような空間に、木の根のようなものがあちこちに見える。地面を見ると細い木の根のようで、さっきまで自分が踏んでいた廊下の床とはまるで違う。
「お姉ちゃん、ここは?」
「ここは樹海。神樹様の結界の中よ」
「結界? 神樹様ってどういうこと?」
「後で説明するわ。それよりまずは友奈と東郷と合流しましょう」
質問する樹の手を引き、スマホを片手に風はどこかへ向かい始めた。
やがて見知った3人の顔を見つけ、樹の顔は不安から喜びに変わる。
「友奈さん、東郷先輩、丹羽くん! 無事だったんですね」
「樹ちゃん! 風先輩も一緒だったんだ」
「風先輩、これは一体…ここはどこなんですか?」
底抜けに明るくて周囲を笑顔にする天才である結城友奈先輩。
冷静沈着で、ちょっぴり変なところもあるけど勇者部のお母さん的な存在の東郷美森先輩。
「やはりゆうみもは夫婦…トウトイ」
それを見つめる不審者がいた。
え、あれ丹羽くんだよね? 教室で見た冷静で頼りになる男子はどこに?
「友奈! 東郷! …と、誰よアンタ⁉」
友奈と東郷を見つけた風は一安心といった顔だったが、そこにいたもう1人の男子を見つけ驚いていた。
友奈と東郷も風の言葉で初めて気づいたのか、自分のすぐそばにいた男子にすごい驚いている。
えぇ、気配消して2人を見てたの? 何のために?
「あなた誰⁉ いつからそこに」
「あ、自分のことは気にしなくていいので。そこらへんに置いてある観葉植物だと思ってイチャイチャの続きをどうぞ」
「イチャイチャって…あなた本当にどこから見てたのよ!」
なんだか東郷と丹羽が険悪な雰囲気だ。もっとも敵意をむき出しにしているのは東郷だけだが。
「まあまあ、東郷さん」
「えっと、この人は丹羽明吾くんです。わたしのクラスメイトで、同じ1年生」
東郷を友奈がなだめ、樹がこの場にいる全員に紹介する。さっきの光景を見るまではすっごく頼りになる人って紹介したかったんだけどなぁ。
「丹羽ね。アタシはこの子の姉で3年の風。勇者部って部活の部長をやってるわ」
「結城友奈です。同じく勇者部部員で樹ちゃんの1つ上の2年生だよ」
「東郷美森、勇者部部員で友奈ちゃんと同じ2年生。同じクラスよ」
「丹羽明吾です。犬吠埼さんとは同じクラスで、1年です先輩方」
先ほどの奇行が嘘のようなまじめな挨拶だった。変わり身はやいなぁ。
姉である風を見ると「どうしてここに勇者部以外の人間が…」とぶつぶつ言っていた。どうやら丹羽がいるのは風にとって完全なイレギュラーだったらしい。
「風先輩、ここはどこなんでしょう。私たち、急にここに飛ばされたみたいで」
「あ、ごめん。今説明するわ」
風の説明によると、自分たちは神樹様に選ばれた勇者という存在であること。
部活を入部した時に登録したNARUKOというスマホのアプリで変身し、人類の敵であるバーテックスを倒さなければならないという事実だった。
「言いたいことはいくつかあります。なぜ私たちに黙ってたのかとか、なぜ私たちが選ばれたのか。風先輩はこの状況になることがわかって私たちを巻き込んだのかとか」
東郷が一言告げるごとに、風はグサッと言葉のトゲが刺さるように「うぐっ」とか声が漏れる。
「ですが、なぜ勇者部でもない、しかも男の! 関係ない男の子がここにいるんですか⁉」
なぜかいる無関係な丹羽を指さし、東郷が言う。先ほどの出来事もあるのか、なにやら敵視しているようだ。そんなのこっちが聞きたい。
「知らないわよそんなの! アタシだってこんなこと初めてで、聞いていた話とは全然違う状況に頭パンクしそうなんだから」
「聞いていたって、犬吠埼先輩は誰からそれを?」
「大赦よ大赦! 勇者は他の勇者適性の強いグループが選ばれるって聞いてたし、アタシたちはあくまで予備として備えろって言われてたのよ」
丹羽の言葉に風は愚痴り始めた。
「友奈や東郷を部活に誘ったのも大赦からの命令で、こんな事態になるってわかってたらアタシだけじゃなくてちゃんと2人にも大赦の訓練施設に通わせたわ! 樹も部活に入れなかった」
「なるほど、つまり犬吠埼先輩も大赦に騙されていたんですね」
親友である友奈を巻き込んだことを風に問い詰め怒りの矛先を向けようとしていた東郷は、話の流れが変わってきたので怒るに怒れずもやもやとした気分だ。
「いたいけな中学生をだまして戦わせるなんて、なんてひどい組織なんだ。おのれ大赦!」
「おのれ大赦ー!」
「お姉ちゃん、お父さんとお母さんも一応大赦の職員だったんだけど」
「樹、あいつら2人が亡くなった日になんて言ったと思う? 妹と離れ離れになりたくないだろう。一緒に両親と暮らした家を守りたいだろう。だったら勇者候補となって訓練し、来るべき日に備えて他の勇者候補を勧誘しろって」
樹に寂しい思いをさせながらも必死で家事を覚え、夜遅くまで勇者としての訓練を行ったこと。讃州中学に通えるよう大橋から引っ越して編入し、友奈と東郷が入学してからは大赦の命令を受け勇者部を作ってなんとか勧誘したりと日常で常に四苦八苦したことも。
「お姉ちゃん、そうだったんだ」
何も知らなかった。姉の苦労も、苦悩も。
自分が守られていただけの存在であることを知り、樹は胸の奥が重くなっていくのを感じる。
「苦労したんですね。しかも大赦はサポートするって言ったのに何もしてくれてないじゃないですか。でもこういう事態になる可能性があるなら、犬吠埼先輩に丸投げするんじゃなくて大赦の大人が直接説明すべきでは?」
「う、でも大赦って基本向こうが一方的に命令してくるだけだし。こっちが質問しても返事が来ないことも多いし。勇者の件だって絶対他の候補生が選ばれるから、心配しなくていいって言ってくれたし」
「報告、連絡、相談は組織の基本でしょうに。それすらできないって組織としてどうなんでしょう? ひょっとして犬吠埼先輩は最初から大赦に騙されていたのでは?」
「え、そんなことは…ある、かも」
丹羽の言葉に思い当たる点があるのか、風の顔が色を失っていく。
「きっとそうですよ。そうじゃなくちゃ人類を守るなんて大仕事、戦闘訓練もしていない子供に丸投げなんてしませんよ」
「アタシは、大赦に騙されて…なんてことを。友奈や、東郷、樹まで巻き込んで」
「しかも犬吠埼先輩に黙っているように口止めまでして。もし選ばれたときには自分たちに矛先が向かないようにする気満々じゃないですか」
「そっか、今まで友奈や東郷に黙ってるのは心苦しかったけど、大赦の大人がちゃんと説明してくれていればこんなことには」
打ちひしがれている風に、友奈と樹はなんと声をかけていいのかわからない。
大赦と言えば四国で暮らすものはその存在を知らないものがいないほどの大組織だ。
それが自分をだまし、大切な後輩や妹を危険にさらすように画策していたと知ったら、どれほどの絶望だろう。
やがて風は立ち上がると、決意に満ちた顔で部員たちを見る。
「友奈、東郷、樹。ごめん。この責任はアタシが取る」
「風先輩、何を?」
嫌な予感に、友奈が尋ねる。
「さっき言ったわよね。アタシは大赦で戦闘訓練を受けていたって。多分ここにいる誰より戦えると思う」
スマホをタップし、オキザリスの花が舞う。
風が光に包まれ、黄色をベースとした勇者服に大剣を持った勇ましい姿に変身していた。
髪の毛も茶色から黄色へと変わり、髪形もツーテールのおさげから2つに大きくまとめられて1部三つ編み状になっているものに変わっている。
「アタシが1人で、敵を倒してくる。友奈、勝手なお願いだけど東郷と樹を守ってほしい」
「風先輩! 無茶です、1人で行くなんて」
「お姉ちゃん、わたしも一緒に」
「だめよ樹! これはアタシが撒いた種なんだから」
必死の形相で止める姉に、樹は笑いかける。
「ううん、わたしがやりたいの。お姉ちゃんが背負ってきた重荷を、わたしにも背負わせて」
スマホからアプリを呼び出し、タップする。
鳴子百合の花が舞い、光が樹を包む。
緑を基調とした勇者服に、右腕に巻かれたツタのわっかに編み込まれた花から緑色のワイヤーが出し入れできるようだ。
風のような勇ましさはなく、むしろ魔法少女のようなひらひらした服装だった。
「これで、わたしも一緒に戦えるよ」
「樹、アンタ…」
「止めても、聞かない。ついていくよ、何があっても」
じっと2人の姉妹は見つめ合う。折れたのは姉のほうだった。
「わかった。でも危なくなったら、自分の命を守ることを優先すること。いいわね」
「うん!」
2人の姉妹が決意を新たにし、樹海の向こうからやってくる敵を見つめる。
それは星屑と呼ばれる複数の個体と巨大な白とピンク色をした天使のような体躯の乙女座のバーテックスだった。
大赦への批判誘導、ヨシ!
言ってることは全部事実だから、問題はないね。
東郷さんに風先輩を疑わせてギスギスさせた大赦の罪は重い。
【おわび】
そのこのにっき(大赦未検閲版)にて犬吠埼姉妹を金髪の姉妹として登場させましたが、公式設定を見ると変身前は茶髪でした。
修正をしておきましたが、この場をお借りして謝罪させていただきます。
変身後のイメージが強くて、素で間違えていました。ごめんなさい。