詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか?   作:百男合

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 あらすじこと前回の3つ。
【悲報】主人公、イキる。
 東郷さんのメンタルケア完了。本当なら大赦、お前の仕事やぞ。
 大赦仮面に寄生型バーテックスを植え付ける。これからどんどんバーテックス人間を増やそうぜ!



勇者部へようこそ!

 乙女座の襲撃の翌日。丹羽が登校してくると樹と目が合った。

「おはよう。犬吠埼さん」

「お、おはようごじゃい、ございます」

 と思ったらすぐ逸らされる。樹の席は丹羽の席までの通り道にあるので必然的に横を通ることになるのだが、横から見えた彼女の耳は真っ赤だった。

 風邪だろうか? 今日は蠍座と射手座と蟹座の襲撃があるのに心配だ。

 そう思いながら机に教科書やノートを入れていく。すると机の前に人の気配を感じた。

 顔を上げれば、そこには顔を真っ赤にした樹がいる。

「あの、丹羽くん。お昼休み時間ある? もしよかったら、昨日のことで少しお話があるんだけど」

 もじもじした樹が離れている丹羽の席までわざわざ行き、告げてきた。

 さて、問題だ。これを理由を知らない第3者が見たらどう思うだろう?

 答え。

 突 然 の 告 白 イ ベ ン ト 発 生 !

「じゃ、じゃあ伝えたから!」

 逃げるように自分の席へと戻った樹を、複数の女子が囲んで問い詰めている。丹羽も何人かの男子に囲まれ、妙になれなれしい態度でからかわれたりする。

 違う、そういうのじゃないからと伝えても誰も聞く耳を持たない。樹のほうは突然のことに目を回していて、時々キャー! っと黄色い悲鳴みたいなものも聞こえてきた。

 どうしてこうなった。俺はただ百合を眺めていたいだけなのに。

 掛け算の右や左になるのはノーセンキューだ。むしろ丹羽としてはイコールの位置で永遠に解けない掛け算を見守りたいというのが本音だ。

 結局昼休みになるまでこの状態は続き、昼休みを告げるチャイムが鳴ると丹羽は樹の手を引いて教室を出る。するとその姿を見た女子の黄色い悲鳴が追いかけてきた。

 いや、本当にそういうのじゃないから! と丹羽は無駄だとわかっても告げる。樹の名誉が失墜するのだけは防がなければ。

「ごめんね、犬吠埼さん。なんか変なことになっちゃって」

「い、いえ。わたしの言い方がわるかったんでしゅ」

 あ、噛んだ。かわいい。

「昨日のことって、あの樹海での戦いのことでしょ? 部室に集まるの?」

「はい。お姉ちゃんが伝えたいことがあるって。あと、丹羽君の検査結果も知りたいから」

 検査結果か。寄生させてデータを改ざんさせたけど。

 別にいいか。大赦には丹羽が指示した通りの報告書が送られているわけだし。

 風が伝えたいというのはおそらくバーテックスのことだろう。前日勇者部のみんなに伝えたことを、丹羽にも教えるつもりだと推測できる。

 本当に面倒見がいい人だよなぁ。こういうところはモテポイントだと思うのに、なぜ浮いた話がないのか。

 容姿も決して悪くない。間違いなく美人に分類される顔とスタイルだ。

 やはりあれかな。女子力。女子力がすべてのプラス要素をマイナスに落とし込んでいるとしか。

「…わくん、丹羽くん!」

 おっと、思考が別のところに行っていた。

 樹に向き直り、何かと問いかけると「手」と一言だけ言われた。

 なるほど。教室からずっと引っ張ったままだった。これは痛かっただろう。

「ごめんね、痛かったね」

 と謝り手を放すと、顔を真っ赤にして目をそらされてしまった。

 これは…相当お怒りですね。

 うーむ、どうしたものか。

 丹羽は嫌われても全然問題ない。むしろ嫌ってくれたほうがきがねなく百合イチャを観察できるからそっちのほうがいい。

 だが、今はまだ知り合ったばかり。信頼関係を築くためには重要な時期だ。

 これからのバーテックスとの戦闘で信頼と連携が必要な場面が多々あるだろう。そのためにはなるべく勇者部の面々と接触して信頼度を稼ぐ必要がある。

 そこで1番重要なのが彼女、犬吠埼樹だ。

 彼女は引っ込み思案で、趣味の占い以外ではあまり食いつく話題がない。東郷の軍艦や軍人、護国思想。風の女子力アップのような信頼度の稼ぎどころがあまりないキャラクターなのだ。

 え、友奈はどうなのかって? 彼女はコミュ力モンスターで主人公補正入っているからこっちが逆に口説かれかねないからそっちのほうが心配だ。

 そんなことを考えていると、部室棟まで来てしまった。打開策はまだ思いつかない。

 勇者部はどこにあるのかわからないので、樹に先導してもらう。が、途中で足が止まった。

「あ、あの丹羽くん!」

「ア、ハイ。何でしょう」

 振り向いた樹の顔は、すごく赤かった。

「わたしとお姉ちゃん、同じ名字でわかりにくいから。名前でえっと。樹って」

 え、何このかわいい生き物。

 危ない危ない。訓練された百合男子じゃなければ惚れていたところだ。

 おそらく勇者部には「犬吠埼」という苗字の人間は2人いるから名前で呼んでほしいと伝えようとしているのだろう。

 だが、彼女は丹羽に対して男女特有の特別な想いなど抱いてはいない。

 ただ、極度の恥ずかしがり屋なのだ。

 それを勘違いして馴れ馴れしく名前で呼ぼうものなら、そいつは間違いなく百合の間に入る害悪になってしまう。

 なので丹羽はこう答える。

「心配しなくても、同学年の犬吠埼さんはさん付けで。3年の犬吠埼先輩は先輩って呼び分けるから大丈夫だよ」

「ひぇ⁉ そうですか? それなら…おねがいしましゅ」

 ほら、やっぱり。

 安心した様子の樹を見て、丹羽は自分の考えが正しかったのを確信した。

 その後少しへこんでいたようだが、うまく話せなかったのを落ち込んでいるんだろう。

 やがて目指す場所にたどり着き、樹がドアを開けてくれた。

 そこは讃州中学勇者部。

 記憶の中の映像そのままの、何度も丹羽が見た部室がそこにあった。

 

 

 

「ようこそ勇者部へ。歓迎するわ、丹羽」

「丹羽君、ようこそ」

「ようこそ勇者部へ」

 部室に入ると、そこにはすでに風、友奈、東郷の3人がいる。どうやら1年生の自分たちが1番最後だったらしい。

 ふむ、美少女だけの空間。いいにおいがしそう。となればやることは1つ。

「すぅううううううううううう」

 部室に入った丹羽が突如息を吸いだした。深呼吸かと思ったが一向に息を吐く気配がない。

「ちょ、ちょっとアンタ! 何やってるのよ⁉」

「う、ごほっごほ。あ、すみません。お約束でやっておくべきかなと思いまして」

 お約束って何の? と勇者部一同が思っていると、丹羽は表情を引き締めまじめモードになる。

「それで、お話というのは昨日のことですか?」

 相変わらず奇行からの変わり身が早い。ひょっとしてこいつは2重人格じゃないだろうか。

 そんなことを思いながら、風は気になっていたことを尋ねる。

「その前に、昨日あれからどうなったか教えてくれない? こっちはあれから何の連絡もなくて、心配してたんだから」

「すみません。連絡しようにも皆さんのアドレスも電話番号も知らなかったので」

 と丹羽。完全な自分の落ち度に、風は顔を真っ赤にさせる。

「そ、そうだったわね。ごめん」

「いや、犬吠埼先輩が謝ることじゃ。むしろ俺は大赦から連絡が来ているものだと思ってました」

「あー。連絡は来たことは来たんだけど、内容が断片的すぎて、アンタが無事かどうかは参考にならなかったというか」

 風は丹羽に自分のスマホの画面を見せる。

 そこには『検査の結果、丹羽明吾は先天的に精霊と同化する能力の素質を持つ勇者もどきと判明。勇者に変身できたのはそのため。戦力に組み込むのは問題なし』という大変事務的なものだった。

 これではどんな検査をされ、今現在無事なのかはうかがい知ることはできないだろう。というか勇者もどきがなんなのかの説明すらない。

 相変わらず上から目線の文章だ。風が何度も質問のメールを送ったが、結局返信はなかったのだという。

「なるほど。これじゃなんのことかわかりませんね」

「この勇者もどきってなんのこと? 精霊って、アタシたちのこれと一緒? 一体化ってどういうこと?」

 風が自分の精霊である犬神を出して尋ねる。犬神に続き精霊の牛鬼が友奈の頭の上に出現し、樹の肩の上に木霊が現れた。

 精霊とは勇者のサポートをしてくれる存在だ。それと一体化とはどういうことなのか。

「俺も詳しくはわからないんですけど。皆さんみたいに精霊を外に出して力を借りるんじゃなくて、西暦時代の初代勇者のように精霊を身体の内に宿すことで人並外れた能力を発揮できるタイプの勇者だって説明されました。いわゆる先祖返りだって。大赦の認める正式な方法で変身した勇者じゃないから勇者もどきだそうです」

「先祖返り…なるほど、私たちとは別のタイプの勇者なのね」

「検査ってどんな事されたの? 危ないことされなかった?」

 丹羽の説明になんとなく理解できたのは東郷だけだったようだ。友奈は検査で丹羽がひどいことをされたのではと心配している。

「別に、普通の健康診断そのものでした。血を抜かれたり、レントゲン写真撮ったり。特に拷問みたいなひどい扱いはされなかったです」

「そう、よかった」

 丹羽の言葉に、勇者部全員が安堵していた。どうやら全員が丹羽の身を案じてくれていたらしい。

「え、心配してくれたんですか皆さん?」

「心配するわよ! あんた大赦の職員ぶんなぐってたじゃない!」

 そういえばそうだった。彼女たちが心配するのは当然かもしれない。

「私のために…本当にごめんなさい」

 東郷にいたっては深々と頭を下げている。え、東郷さんどうしたの? 陳謝ってハラキリ芸するのが君のキャラじゃなかったっけ?

「丹羽君が殴ってなかったら、私が怒ってたよ。私の大親友にあんなひどいこと言ったんだもん!」

 珍しく友奈が負の感情を隠そうともしないでぷんぷんと怒っている。それに「友奈ちゃん…」と東郷が意味深な視線を送っていた。

 やはりゆうみもは夫婦。ごちそうさまです。

「えっと、丹羽くん。顔が…」

 おっと、尊さのあまり顔が緩んでいたらしい。切り替えると樹が心配そうにこちらを見ていた。

「その、本当にひどいことされなかった? あの人、丹羽くんにもなにか嫌がらせしようとするんじゃないかってみんな心配してて」

「されなかったよ。こっちにあの時の会話データがあると思ってたから、逆におとなしすぎるくらいだった」

 むしろこちらの手駒として今は大赦にもぐりこませている、なんて言えない。

「そういえば東郷、昨日あんたらいつの間にあんな打ち合わせしたのよ」

「打ち合わせというか、なんとなく察しただけです。丹羽君の会話から、彼がやろうとしていることを」

 会話データを録音しているという丹羽のハッタリに付き合ってくれた東郷が言うと、「どうせアタシは察しが悪いですよ」と風がスネている。

「犬吠埼先輩はそれでいいんですよ。純真な女性って女子力高くて素敵だと思います。そういえば昨日で思い出したんですが、東郷先輩、例の件は」

「もちろん対処したわ。勇者部全員のアプリから盗聴、盗撮の機能は消去済みよ」

 親指を立ててこちらに向けてくれる。流石! 東郷さんが1晩でやってくれました。

 伊達にゆゆゆいで大赦のサーバーに何度もハッキングしてるだけのことはある。

「それにしても、信じられないよ。大赦の人が私たちのプライベートを盗み見てたなんて」

「本当にね。乙女の秘密を何だと思ってるのかしら」

「お姉ちゃん、乙女って…それ自分で言う?」

 友奈、風、樹がそれぞれ意見を述べる。彼女たちも大赦が盗撮や盗聴していたと知り少なからず憤慨しているようだ。

 これは大赦が信頼を取り戻すのは大変そうだな。

 まぁ、自分で蒔いた種だから仕方ないね。なんでそのしりぬぐいをしなければならないのかははなはだ疑問だが。

「それでこれが新しく改変した勇者システム。丹羽君のスマホにダウンロードすれば私たちのライングループに入れるから連絡も取れるわよ」

「いいんですか? 俺が皆さんと一緒になんて」

 丹羽が何の心配をしているかわからないというように、勇者部一同は首を傾げた。

「え、丹羽君勇者部に入るんじゃないの?」

「あ、ごめん友奈。アタシまだ勧誘してなかった」

「もう、ダメじゃないお姉ちゃん!」

「仕方ないですよ。昨日は勧誘する前に連れていかれてしまったわけですし」

 どうやら彼女たちは丹羽を勇者部に入れる気満々らしい。丹羽としてはもちろん戦いに参加するつもりだったが、勇者部とは距離を置いて見守る方向で行こうと思っていたのだ。

 だが、彼女たちの信頼を得るにはまたとないチャンスかもしれない。ここは話に乗っておこう。

「ごめん、丹羽。順番が逆になったけど、勇者部に入ってこれからもアタシたちを助けてくれない? 部員として一緒にいてくれたほうが何かと便利だと思うし」

「むしろこちらからお願いします。勇者部に入れてください」

 それはそれは見事な五体投地土下座だったと、後に樹は語る。

「お願いします女子力神様。かめ屋のタダ券10食分お付けいたしますので、なにとぞ、なにとぞー」

「ちょっ、そんなことしなくても大丈夫よ! 入部してほしいのはこっちだって一緒なんだから。あ、それは別としてタダ券は貰うわね」

「お姉ちゃん!」

「「風先輩!」」

 これにはさすがに勇者部全員からツッコミが入る。

「え、いやぁ冗談よ。うん、冗談冗談」

 と言いつつ、丹羽が差し出した勇者部もよく通ううどん屋のかめ屋のタダ券からは目を離さない。未練があるのが丸わかりだ。

 こうして丹羽明吾は讃州中学勇者部に入部することになったのだった。

 

 

 

 その後丹羽は風によるバーテックス講義を受けた。

 といってもどれも原作知識のある丹羽からしたら今更の情報だったし、12体星座級の巨大バーテックスを倒せば戦いは終わるという説明には思わず「間違ってるよ!」と突っ込みたくなったのだが、何とか我慢する。

「説明してる間に勇者システムのダウンロード終わったみたいね。確認してみて」

 東郷の言葉に、丹羽は自分のスマホの画面を見る。そこにはNARUKOという見慣れないアプリが新しく追加されていた。

 タップすると白い百合の花が咲いていた。これをもう1回押すと変身できるのだろう。

「そういえば、丹羽君の精霊はどんな姿なのかな?」

 と、牛鬼にビーフジャーキーを与えていた友奈が訊いてきた。精霊とはいえ牛に牛を食わせるのは共食いではないだろうか。

 まぁ、牛鬼の正体は■■さんという説もあるので丹羽はスルーするが。

「そうですね。呼び出してみましょうか」

 丹羽がそう言って、10秒ほどたった。

 時計の秒針がカチカチと鳴る音が部室に響き、窓の外からは昼食を食べ終えた生徒たちが遊んでいる声が聞こえる。

「なにも、出ないですね」

 一向に姿を現さない丹羽の精霊に、樹がつぶやく。

「しょーがないわねー。いい、精霊を呼び出すときはこう、眉間に意識を集中させて」

 得意げに精霊の出し方をレッスンしようとする風に、丹羽は言った。

「いや、もう出てきてますよ」

「へっ?」

「ほら、そこに」

 丹羽が指さす方向を見ると、車いすに座る東郷がいた。

 よくよく見ると、膝の上に何かいる。東郷が見下ろそうとすると、その精霊の目がキランと光った。

『ビバーク!』

「ひゃん」

 色っぽい声を上げ、東郷の巨乳がぶるるんと揺れた。

『エベレストへの登頂、成功!』

 その胸によじ登り、満足げな表情で言葉を話す精霊は告げた。

 真っ白い髪に桜の髪飾りをした少女のようだった。髪の毛を後ろで結んでいて、それが犬のしっぽのように感情に合わせてピコピコ揺れている。

 あまりの出来事に、誰も何も言えなかった。ただその精霊は満足げな表情で東郷の巨大な胸の谷間に挟まり、『まんぞく…』と夢心地といった様子だ。

「え? 精霊…これが?」

「どう見ても、小さい女の子の形をしたぬいぐるみだよね」

「というか、今はっきり喋ったんですけど」

 風と友奈、樹が自分たちの精霊とは全く違うその精霊をまじまじと見る。サイズは自分たちの精霊と同じだが、姿は動物ではなく人型だ。

 しかも言葉をしゃべる。ビバークという意味は分からなかったが。

「えっと、丹羽君。この子取ってくれないかしら」

「俺がそこに触れるのはちょっと…。犬吠埼先輩、お願いします」

「アタシぃ⁉」

 東郷が宿主である丹羽に頼むが、男の自分が女性のデリケートな部分に触るわけにはいかないだろう。なので同性であり部長の風に頼むことにした。

 しょうがないわねーと風がその精霊を掴もうとした瞬間だった。白い髪の女の子の精霊の瞳がまたキランと光る。

『ビバーク!』

「ぎゃぁあああ!」

 女子力の欠片もない悲鳴だった。

 先ほどの東郷と同じく、今度は風の胸に精霊が飛び込んでくる。そのままよじよじと頭頂部まで登り、ふぅ、と一息をついた。

『飛騨高山の登頂、成功』

「な、なんなのよこの子⁉」

 いきなりセクハラをかましてきた精霊に、風は顔を真っ赤にしてひっつかむ。胸から離れたことで精霊は若干不満げだ。

『スミー、スミー』

「あ、東郷先輩のところに行こうとしてます」

「こんにゃろ! アタシの胸より東郷のメガロポリスがいいってか!」

 犬吠埼姉妹の言うように、風の手から逃れると精霊は車椅子に乗った東郷の元へ行く。そこが自分の定位置だというかのように巨大な胸に頭をのせうっとりしている。

「すみません東郷先輩。うちの精霊がご迷惑を」

「え? あ、うん。別にいいのよ」

 東郷は不思議な感情に襲われていた。

 それはどこか懐かしいような、少し恥ずかしいけど嫌じゃない不思議な感覚。

 この精霊が一緒にいると、なぜか安心できた。

「丹羽君、その。迷惑じゃなければお昼休みが終わるまでこの子と一緒にいていいかしら」

「それは構いませんが、東郷先輩はいいんですか?」

 東郷が精霊の頭をなでる。すると精霊も「スミー」と言って甘えるように身を任せてくる。

「ええ。この子と居ると、なぜか安心できるのよ」

「東郷さん、すごい優しい顔してる」

「母性ですね。あれは完全に母親の顔です」

「女子力? これが女子力の差なの!?」

 精霊を胸に抱く東郷に、勇者部3人娘はそれぞれの感想を口にした。

「そういえばこの子の名前なんなんですか?」

「名前?」

 樹が訊くと丹羽に逆に質問される。

「えっと、精霊が出てきたときに名前が一緒に浮かばなかった?」

「あ、アタシの場合は姿を見て名前が浮かんだパターン」

「私は樹ちゃんと同じパターンです」

「うーん。別にそんなことはないですね。皆さんと違うタイプの勇者だからかもしれませんが」

 丹羽と友奈、風、樹は東郷の胸をクッションのようにしている精霊を見る。

「名前がないと不便ね。みんなで名前を付けてあげましょう」

「風先輩、私はシロちゃんがいいと思います!」

「友奈さん、仮にも神樹様の使いである精霊なんですから。そんなペットの名前みたいなのは」

「じゃあ白妙(しろたえ)、しろうねり、白蔵主(はくぞうす)とか」

「うーん。なんかイメージと違いますね」

「東郷先輩はどう思います?」

『スミー』

「そう、あなたはスミちゃんっていうの。いい名前ね」

 3人で名前を考えている間、東郷と精霊は会話に花を咲かせていた。どうやら名前ももう決定しているらしい。

「いいんじゃないですか。スミで」

「そうだね。本人が1番気に入っている名前で呼んであげるのが1番だよ」

 丹羽の言葉に、友奈が賛成する。

「まぁ、アンタの精霊だから本人がいいって言うならいいけど」

「スミちゃんか。いいなぁ。わたしも今度抱っこさせてもらおう」

 突如現れた勇者部の新たなマスコットに、東郷はメロメロだった。

 

 

「え? 変身した時に考えていたことを教えてほしい?」

 昼食を部室で食べ終えた後、東郷が他の勇者部部員にそう尋ねてきた。

「はい。まだ私だけ変身できないので何か参考になる意見が欲しいなと」

「うーん。そうねー、樹。アンタはどうだった?」

「えー! わたし⁉」

 突如姉から話題を振られ、樹は動揺する。

「大赦で訓練してたアタシよりも、あの時あの場で変身した人間の意見のほうが参考になるでしょ」

「それはそうかもだけど」

「お願い樹ちゃん、私なんでもいいから手掛かりが欲しいの」

 いつも頼りにしている先輩である東郷に頼まれると樹も弱い。少し恥ずかしいのを我慢してあの時のことを思い出す。

「えっと、あの時は無我夢中で。ただお姉ちゃんをこのままいかせちゃいけない。お姉ちゃんと一緒に戦う力が欲しいとしか」

「嬉しいこと言ってくれるじゃない妹よー!」

 赤面する樹を後ろから抱きしめ、風が顔を頭に乗せスリスリしている。樹は「こうなるから言いたくなかったのにー」と言っているが、どこか嬉しげだ。

「ふういつ、トウトイ…トウトイ…」

「丹羽くーん、戻ってきてー」

 丹羽の奇行に慣れてきたのか、友奈が肩を叩き現実に引き戻す。

「私は、とにかく2人を助けなきゃって。自分が何もできず他の人が傷つくのが嫌だった。だから2人を守るための力が欲しいと思った」

「友奈」

「友奈さん」

 友奈の言葉に、犬吠埼姉妹が言葉にならない感謝を抱いている。東郷はそれがよく分かった。

「丹羽君は?」

「俺ですか? 俺はただあの時身体が勝手に動いて。ただ東郷先輩を守らなきゃって強く思っただけで気づいたら変身してた感じですかね」

 丹羽の言葉に、東郷は改めてあの時のことを思い出す。

 丹羽が目の前に立ちはだかってくれなければ、間違いなく自分がやられていただろう。そして勇者に変身もできず犬死したただの女子生徒として人生に幕を下ろしていたかもしれない。

 そう考えると、感謝してもしきれない。

「丹羽君、あの時は本当にありがとう」

「いいですよ。俺が勝手にやったことなんですから」

「アタシからもお礼を言うわ、丹羽。東郷を守ってくれてありがとう」

「わ、わたしも! 丹羽くん、東郷先輩を助けてくれてありがとう」

「よしてくださいよ2人とも。あ、結城先輩は昨日聞いたからもういいですからね」

 丹羽の言葉に「えー」と友奈は不満げだ。もし止めなかったら言うつもりだったのか。

「つまりまとめると、みんな誰かのために戦いたい、守りたいと思ったから変身できたのね」

「あ、それなんですけど東郷先輩。先輩は何のために変身したいんですか?」

 丹羽の突然の質問に、東郷は「え?」と固まる。

「自分だけ変身できないからですか? みんなの役に立てないと思っているからですか? それともバーテックスと戦う手段が欲しいからですか?」

 次々と告げられる選択肢に、どれも答えられない。どれも正解のような気がするし、間違っているような気もする。

『ヤメロ、バカ!』

 東郷が答えられずにいると、東郷の胸元にいたスミが宿主である丹羽に向かって飛び掛かる。

『スミ、イジメんな! お前嫌い!』

「いや、いじめてないぞ。俺はただ、東郷先輩が何のために変身したいのか。変身して何をしたいのか確かめたかっただけだ」

 変身して何をしたいのか。

 そうか、自分は見落としていた。自分だけ変身できない現状に焦り、本来の目的を忘れていたのだ。

 そうだ。私がしたいことは。私が欲しいものは。

「私は、友奈ちゃんや風先輩、樹ちゃんや丹羽君を危険から守りたい。そのために一緒に戦うための力が欲しい」

 東郷がそう告げるとスマホの画面の花が開いた。

 タップすると朝顔の花が舞い光を東郷が包み、スカイブルーを基調とした勇者服へと変化する。

 コスチュームの1部である4本のリボンを使って車椅子から立ち上がり、手には銃を持っている。

「できたわ。私にも…変身」

「東郷さんおめでとう!」

「ありがとう、友奈ちゃん…きゃっ」

 感極まったのか思わず東郷に抱き着く友奈を支えきれず、抱き合ったまま倒れてしまう。

 それを見て丹羽が「ゆうみもキマシタワー」とまた変になっているし、樹はもらい泣きしている。

「よし、これで讃州中学勇者部全員戦闘準備完了ね。来るなら来なさい、バーテックス!」

 風が高らかに宣言するのと、樹海化警報のアラームが鳴ったのは同時だった。

「お姉ちゃん」

「風先輩」

「え、これアタシのせい? アタシのせいなの⁉」

 いえ、ただ単にタイミングが悪かっただけです。

 事情を知っているだけに丹羽はなんと声をかければいいのかわからなかった。

 




精霊「スミ」
モデル:静御前+三ノ輪銀
色:白(バーテックス専用)
レアリティ:SSR
アビリティ:「元気ハツラツ! 火の玉娘」
効果:ATK+15%。戦闘開始30秒間攻撃力アップ。必殺技発動時、ATK+10%
花:白百合「カサブランカ」(花言葉は祝福)

 髪が白いこと以外はまんまゆゆゆいに出てくるSD銀ちゃん。
 勇者の力の欠片である英霊碑のほかに銀ちゃんの片腕を取り込んで生まれた人型精霊。
 精霊型星屑30体分くらいの質量を持っており、丹羽と一体化すると爆発的な能力向上をさせることができる。
 変身した丹羽と一体化すると白い勇者服に赤いラインが入り、銀の忘れ形見である黒い斧とバーテックス製の白い斧(神樹の体液コーティング済)の2丁を武器とした勇者となる。
 好物であるお山のせいか、東郷さんにべったり。初対面の相手にはとりあえずビバークを試みる。
 必殺技はダイナミックチョップ…もとい2丁の斧を使った唐竹割り。シンプル・イズ・とても強い。
 精霊になったせいか、本来の性格より子供っぽくなっている。


次回、蠍座は2度死ぬ!
蠍座「え゛?」
 あ、もちろん射手座と蟹座も死ぬよ。
射手座・蟹座「ファッ⁉」
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