詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか?   作:百男合

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 読み飛ばした人のためのあらすじ
 丹羽が風先輩とデートして犬吠埼姉妹との信頼度が上がったよ



記憶喪失同士(あるいは別ベクトルの変態2人)

 5月も半ばの日曜日。

 空は絶好の運動日和の快晴で、まさに五月晴れといったところだ。

 讃州中学では5月に全校生徒参加の運動会をしている。

 西暦生まれの丹羽を操る人型バーテックスにとって運動会は秋の行事なのだが、神歴では5月に行うものらしい。

 勇者部もこの日に向けて助っ人としてテント張りを手伝ったり実行委員会の下請けみたいな仕事をしたりと大忙しだった。

 そして運動会当日。

 午前の部も終わり、今は昼休憩の時間だ。

「お疲れ様です。東郷先輩」

 熱中症で倒れた放送委員の生徒の代わりに進行役を買って出た東郷に、丹羽はスポーツドリンクを渡す。

 皆が体操服にハーフパンツという服の中、東郷だけが制服だった。

 まだ季節の上では春と言っても日差しは強く、熱中症で気分が悪くなった生徒も何人かいたのだ。保健委員に混ざって勇者部唯一の男手である丹羽も駆り出され、さっきまで倒れた女子の付き添いをしていた。

「丹羽君もお疲れ様。倒れた子は大丈夫だった?」

「はい。保健の先生によると、熱中症もあるけど貧血に近い症状だそうです。おそらく朝ご飯を食べてなかったんだろうって」

「そう。麦飯に味噌汁の一汁三菜。朝ご飯は大事よね」

 一体いつの時代の話だろう。いまは確か神歴のはずだが。

 見るとテントの中の机の上に、東郷は弁当を広げて食事中のようだった。涼しい教室に入って食べればいいのにと思ったが、そういえばいつもそばにいるはずの友奈の姿がない。

「結城先輩は? 一緒にいたんじゃ」

「友奈ちゃんは次の応援合戦に向けて風先輩と樹ちゃんと一緒に準備中。だからここには私だけ」

 なるほど。そういえば部室でもそういう話をしていたように思う。

「じゃあ、俺が保健室まで運びましょうか? ここより涼しいと思いますし。もちろん結城先輩じゃなくていいならですけど」

「大丈夫よ、私鍛えているから。そんな熱中症にはならないわ」

 と東郷。確かに車椅子の少女にしてはタフだし、勇者として身体能力は高いことは承知しているが。

「それより丹羽君お昼は? さっきの子を運んで帰った来たばかりだったらまだ食べていないと思うけど」

 ちらりと時計を見て東郷が言う。

 時刻は昼休みを半分ほど過ぎたころだ。予想より熱中症の人間が多くて少し手間取ってしまった。

 今から昼食を食べてギリギリ午後の競技に間に合うといったところだろう。

 本来バーテックスである丹羽は食べなくても平気なのだが、風が持たせてくれたお弁当がある。だがそれは今教室の中。

 教室まで戻って食べていたら、午後の競技に間に合わなくなるかもしれない。

「よかったらだけど、私のお弁当少し貰ってくれない? 実は多く作りすぎちゃって」

 それを察したのか、気を使って東郷が言ってくれる。

「いえいえ、それは結城先輩のために作ったんでしょ? だったら俺が貰うわけには」

 だが丹羽はそんな野暮ではない。東郷の愛情たっぷり弁当は友奈か自分以外の勇者部部員が食べるべきなのだ。

 丹羽の言葉に、東郷は顔を赤くする。どうやら図星だったらしい。

「えっと、その。わかっちゃう?」

「はい。もちろん」

 だってゆうみもは公式カプですし。

「……変だと思わないの? 女同士で、女の子が好きだなんて」

 いえ、むしろ尊いと思います。と言うとさすがにドン引かれるので別の言葉で肯定する。

「大事なのは2人の気持ちだと思います。2人が幸せなら、世間の常識や外野の言葉なんて聞くだけ無駄です」

「そう、ありがとう」

 丹羽の言葉にほっとした様子だ。少し嬉しそうにも見える。

「あ、ごめんなさい。引き止めちゃって。ご飯食べる時間が無くなっちゃうわよね」

「いえ、大丈夫です。俺、午前の競技で出場する種目全部終わったんで。あとでゆっくり教室で食べればいいだけだし」

「そうなの? だったら少しお話していかない?」

 あら珍しい。

 友奈ちゃんに近づく悪い虫! と目の敵にされていると思っていたが。

 風先輩とのデート大作戦から、ちょっと態度が軟化したように思う。軍オタの仲間だと思って親近感がわいたのだろうか?

 東郷に促されるまま、用意された椅子に座る。ちなみにこの椅子は熱中症で倒れた放送委員の子のもので、車椅子の東郷には必要のなかったものだ。

「今回は、いろいろありがとう」

 座ると同時に頭を下げられた。何のことかわからず丹羽は困惑する。

「その、友奈ちゃんのことを怒ってくれたでしょ? 本来は私が止めるべきだったのに、あなたに憎まれ役をさせてしまってごめんなさい」

 ああ、なんだそのことかと丹羽は納得する。

 勇者部はその活動上、いろいろなところに頼られる。

 特に風や友奈はその性格ゆえかいろいろな人間に頼られることが多く、1人では抱えきれない案件を持ってくることがあった。

 テント張りやグラウンドの整地くらいならまだいい。

 だが、運動会で使う備品のチェックや修理が必要な道具をリストアップして業者に発注。果てはテントをどこに張るか、OBOGから届いた電報の整理、医療品を保健室まで運ぶなど明らかに生徒の仕事ではない案件まで依頼として持ち込んだことに、丹羽がキレた。

「犬吠埼先輩と結城先輩は誰からでも依頼を受けすぎです!」

 それは本来教師や生徒会、運動会実行委員会の仕事で、自分たち勇者部の仕事ではないと。

「でも、勇者部はみんなのためになることを勇んでする部で」

 それでもなお食い下がろうとする友奈に、丹羽は言った。

「みんなのためになってもそのみんなが皆さんに頼り切りになってダメになったら本末転倒でしょ! がんばるのはいいけど、一方が楽をしてもう一方が苦労を背負う関係はダメダメです」

 その言葉に風と友奈はしゅんとなった。

 こんな事態を招いたのはなまじ勇者部が優秀だったせいもある。様々な依頼を任されそれをこなしてきたという実績も原因だろう。

 このままでは皆さんがいないと讃州中学はイベント行事ができない学校になってしまいますよと言われ、風と友奈は事の重大さに気づいたようだった。

「特に結城先輩! みんなが嫌々準備するくらいなら自分が2倍頑張って準備しようとか考えてませんか?」

「ソ、ソンナコトナイヨー」

 すごい棒読みだ。わかりやすい。

「そういうのは、協力してやるという一般生徒の思い出を奪っているとこもあるんですよ。嫌で面倒くさいことでも、後から思い出せばいい思い出になったりするんです。それに、それで結城先輩が倒れたら東郷先輩やみんなが悲しむんですよ!」

 丹羽の言葉にメンタル鋼の友奈が珍しくへこんでいた。その後さすがに言い過ぎたと思って丹羽はみんなに謝ったのだが。

 あれかぁと丹羽はその時のことを思い出す。

 あれは学校の教師と生徒会にいいように使われる勇者部が大赦に使われる彼女たちと重なって、つい感情的になってしまったのだ。

 百合を愛する丹羽としては彼女たちを無意味に傷つけてしまった出来事として後で猛省した案件ではあるのだが。

「私も、最近の友奈ちゃんはオーバーワーク気味だと思ってた。でも、止めても聞く子じゃないし。そこが友奈ちゃんらしいんだけど」

「はいはい。そういう自分の身を犠牲にしてでも誰かのために優しくする姿に惚れたんですね。ごちそうさまです」

 丹羽がそう言うと、「そんなことないわよ」と照れ隠しに叩かれた。結構力強いですね。

「だから、友奈ちゃんをちゃんと叱ってくれる存在って貴重なのよ。風先輩も1人で抱え込んじゃう事あるし」

「だからこその勇者部5ヶ条では?」

 讃州中学勇者部には勇者部5ヶ条というものがある。

 その中に、【悩んだら相談】という項目があるのだ。まぁ、本編中は誰もそれを守らなくて悪い事態に陥ってるんだが。

「そうね。悩んだら相談…簡単なようで難しいわ」

「ですね」

 目の前にいる東郷もそれを守らなくて四国の結界である壁を壊したわけだし。

「あのね、丹羽君。私、丹羽君に言っていなかったことがあるの。勇者部のみんなが知っていて、丹羽君だけが知らないこと」

 え、なんだろう? 実は手品が得意なことですか? それとも手からα波が出せること?

「丹羽君と同じように、私、2年以上前の記憶があまりないの」

 あ、そっちか。と原作視聴済みの丹羽は思う。

 東郷が変身した日、精霊が3体いたことからなんとなく察していた。そのっちは須美ちゃんの2回目の満開を止めなかったのだと。

 いや、ひょっとしたら止められない何かがあったのかもしれない。そのことは結界の中で戦っていた2人しか知りえないことだ。

 スミを見たときも無反応だったことからも、そうではないかと思っていた。だが、本人の口から言われると、やはりそうだったのかと苦いものが胸の奥に渦巻く。

 彼女が失った記憶を取り戻すすべは、今の丹羽にはない。

 ひょっとしたら壁の外のデブリでこれから記憶を呼び起こす能力を持つ精霊が生まれるかもしれないが、それはどれほどの確率だろう?

 この世界の彼女だけの鷲尾須美として過ごしていた記憶は、永遠に失われてしまったのだ。

「丹羽君が2年前の記憶がないってこと。話してもらった時、私と同じだと思った。でも、今まで言えなくてごめんなさい」

 風にデートで話した身の上話を勇者部のみんなに話していいかと訊かれた丹羽は、特に隠すこととは思わなかったので了承した。

 その反応は様々で、友奈は妙に優しくしてくれたし、樹は数日()れ物を扱うように距離を置いてきた。まあ数日後には元に戻ったが。

 東郷はその中で唯一態度を変えずに接してくれた存在だった。それは同じ境遇の丹羽に親近感を抱いたというのもあるのだろう。

「謝らないでくださいよ。別に東郷先輩だって好きで記憶喪失になったわけじゃないんでしょ」

「それは、そうだけど…」

 今まで黙っていたのが気まずかったのか、東郷は表情を曇らせたままだ。

「そんな顔しないでくださいよ。東郷先輩は結城先輩と一緒にいる時が1番輝いているんですから」

「友奈ちゃん…そうね。友奈ちゃんは私の太陽よ」

 友奈のことを話題にすると、表情が少し明るくなった。

「記憶もなく、足もこんなので不安になっていた私の元に現れた天使。そう、まさに神樹様が私のもとに遣わしてくれた存在だと思うわ」

 あ、いい感じに目が恋する乙女モードになってる。ゆうみもてぇてぇ。

 でも神樹が遣わした存在っていうのは実際その通りだから困る。

「本当に、東郷先輩は結城先輩のことが大好きなんですね」

「大好きだなんて…愛していると言っていいわ」

 あ、開き直った。どっかの悪魔になった魔法少女も愛って言ってたし問題ないか。

「でも、そんな友奈ちゃんに群がる虫どもは多いわ。もし丹羽君もそうなら」

「大丈夫です。俺、2人のこと応援していますから」

 丹羽の言葉に「あら、そう」と上機嫌で返事をする東郷。だからその黒いオーラはしまってください。

 そんな話をしているとチャイムが鳴り運動会午後の部が開始されることとなった。

 これから東郷は進行役の仕事があるだろう。丹羽も弁当を食べるために教室へ帰ることにしよう。

 だが、その前に。

 丹羽は運動場に向けて用意しておいたビデオカメラを構える。東郷もテントから同じようにバズーカのような望遠レンズをつけたデジタルカメラを用意した。

 よく見ると東郷の精霊である青坊主、刑部狸、不知火もカメラを取り付けられ方々に散ってこれから起こるであろう光景を写真に収めようと配置されている。青坊主や刑部狸はともかく手のない不知火はどうやってカメラを使うのだろう? 謎だ。

「次は、紅白応援合戦です。助っ人の勇者部によるチアリーディングにも注目してお楽しみください」

 東郷の言葉と共に入場門から赤組と白組の応援団、そしてチア服を着た風、友奈、樹の勇者部3人娘が登場する。

「「Fooo!」」

 その姿に残り2人の勇者部部員は歓声を上げながら激写し、ビデオにその勇姿を収める。

 東郷は主に友奈を。丹羽は恥ずかしがる樹とそれをフォローする友奈、風の勇姿を映像に収めていく。

 2人は勇者部の活動記録を残すためという名目でカメラを構えているが、もちろん真実は違う。

 東郷は秘蔵の友奈ちゃんコレクションを増やすため。

 丹羽は恥ずかしがりで不慣れな樹が頑張る姿をフォローする風と友奈に挟まれたふうゆういつというカップリングを楽しむため。

 応援合戦の光景をしっかりと写真とビデオ映像に収めているのだ。

「キャー! 友奈ちゃん! キャーキャー!!」

 ちなみに放送のマイクは入りっぱなしなので校舎中に東郷の奇声が響いていたりする。

「ふうゆういつてぇてぇ…てぇてぇ…」

 丹羽は顔を真っ赤にしながらポンポンを持った両手を揺らす樹と、それを中心としてアクロバティックに躍動する友奈と風を追っていた。恥ずかしがり縮まっている樹が邪魔に思われずむしろかわいさを引き立てる計算された演技に、思わず観客席からも拍手が起こる。

 応援合戦は大盛況のうちに終わり、退場門から風、友奈、樹が出てきた。

「あ、丹羽! どう、しっかり撮れてる?」

「ばっちりです!」

 親指を立てて風に向ける。

「丹羽君、顔。また変になってるよ」

 友奈が尊さのあまり緩んでいる顔を指摘した。おっと、戻さないと。

「うぅ…恥ずかしかったよぉ」

 顔を真っ赤にして短いチア服のスカートを抑える樹。下にスパッツを履いているとはいえ、恥ずかしいものは恥ずかしいらしい。

「大丈夫! ちゃんとかわいく撮れてるよ!」

「いやー! 消して! お願いだから消してー!」

 丹羽の言葉に樹がぽこぽこ叩いてくるが、東郷の一撃と比べると全然痛くない。むしろ心地いいくらいだ。

「じゃあ、俺はこれを東郷先輩に渡してくるので」

「了解。鑑賞会はうちでやりましょう!」

「あ、いいですねそれ」

「お姉ちゃーん⁉」

 姉の言葉に樹が顔を真っ赤にして声を上げる。

 丹羽は放送席のテントまで行くと、精霊たちが撮った友奈の写真をチェックしている東郷の元へ向かう。

「これも、ああ、これもいい! いいわ! さすがよ友奈ちゃん。あなたは私の天使だわ!」

 とても人様には見せられない顔の東郷がそこにいた。

 普段が美人なだけに、これを見たら何人かは失神するんじゃないだろうか?

 ああ、これさえなければいい娘なんだけどなぁ。

 なぜか「お前が言うな!」という声が聞こえた気がするが、丹羽は東郷に声をかける。

「東郷先輩。お約束のメモリーカードです」

「えへ、えへへへ」

 あ、ダメだ。夢中で気づいていない。

「結城先輩のチアスカートがめくれているパンモロの映像」

「なんですって!?」

 あ、戻ってきた。

「冗談です。ちゃんとスパッツ履いてますし。そんな不健全な映像は撮ってませんから」

「なんで撮ってくれなかったの⁉ 私は写真で我慢したのに!!」

 いや、さすがに児童ポルノが厳しい時代にJCのちょっとエッチな動画はちょっと…。

 と正論を言っても聞いてくれそうにないのでメモリーカードを押し付けて自分は教室に帰り弁当を食べることにする。

「じゃあ、渡しましたからね。東郷先輩」

「うう…やっぱり私が動画担当すればよかった…。でも、じゃんけんは絶対だし」

 ちなみに運動会の前、どちらが動画と写真担当かで丹羽と東郷が揉め、風の提案によりじゃんけんでどちらにするか決めたのだ。

 あの時チョキを出さなかったことを悔やむ。なぜグーを出してしまったのか。

 だが東郷がもし動画係だったら友奈しか映っていなかっただろうから、勇者部としてはこちらの方が正解だったりする。

 こうして午後の競技種目が終わるまで司会進行の東郷や勇者部は運動部実行委員会の手伝いをしてその日を終えた。

 結果は僅差で赤組の勝ち。盛り上がる生徒たちを見て、この日常を守りたいと改めて勇者たちは思う。

「さあ、あとはテントの片付けね。丹羽、頼んだわよ」

「はい。じゃあ皆さん、またあとで」

 風の言葉に去っていく丹羽を見て、東郷は「気を付けて」と声をかける。

 最初の頃は丹羽を目の敵のようにしていた東郷も、徐々に彼の存在を認め始めていた。

 

 

 

 園子付きの大赦仮面は憤慨していた。

 自分が命じたはずの犬吠埼姉妹を引き離す工作が、いつまで経っても実行される気配がなかったからである。

 再三にわたって命令を出して催促しているのだが、あまりにも行動が遅すぎる。

 仕方なく自ら動き、大赦の人事部所に出向いてきたのだ。

「おい、ワシが命じた犬吠埼姉妹の案件はどうした⁉」

 大赦仮面の言葉に一斉にその場にいた全員が振り向いた。

 なんだこいつらは?

 一瞬感じた不気味な違和感に、大赦仮面は知らず後ろに1歩足を引く。

「犬吠埼姉妹の案件というと…犬吠埼風様と樹様を別の場所に引き離せという命令ですか?」

「あ、ああそうだ! 命じてから何日経ったと思っている! さっさと」

「お断りいたします」

 何を言われたのか分からなかった。

 なにしろ自分は大赦の要職に就くもので、普通なら一般職員の元に出向くなどありえない。

 ましてやその一般職員に命じたことを断られるなど、あってはならないことだからだ。

「な、何?」

「だって、かわいそうじゃないですか。姉妹を離れ離れにするなんて」

 一般大赦職員の言葉に、同調する声があちこちから漏れる。その言葉に、大赦仮面は激怒した。

「何を言っているんだお前は! ワシの命令がきけないとは、クビにされたいのか!」

「でも、なんのために勇者様たちを離れ離れに? 勇者様のメンタル面によくない影響を与えると思われるのですが」

 なんなんだこいつらは? いったい何を言っている?

 こいつらは自分の命令を黙々とこなす手足のような存在のはずだ。

 それなのに反抗するなんて、何を考えている。

「そんなもの、ワシに逆らったからに決まっているだろう! 犬吠埼の娘は支援してやった恩も忘れ、樹海での戦闘の様子や正体不明の勇者もどきの調査報告を怠った。それだけで充分すぎるほどの失態なのだぞ」

「勇者様のお仕事はバーテックスから我らを守ってくださること。我々はそれをサポートしこそすれ、その生活を妨害したり侵害したりは致しません」

「こ、このっ」

「知りたいのであればご自身でお調べになってはいかがです?」

「ふざけるな! たかが道具(・・・・・)のために、なぜワシが動かねばならぬ! 貴様らがやれい!」

 大赦仮面の言葉に、座っていた大赦職員たちが一斉に立ち上がった。

 立っていた大赦職員も大赦仮面を囲むように移動し、大赦仮面は気づけば逃げ場のない状況に陥っていた。

「な、なんだお前ら。ふざけるのもいい加減に」

「イラナイ」

 大赦職員の1人が言葉を話すと、続いて別の大赦職員が声を上げる。

「イラナイ」「勇者様を道具として扱うのは」「子供を大切にしない大人は」「子供を利用する大人は」「勇者様を害する存在は」「イラナイ」「不要」「排除しなければ」

「な、何をする!? おい、やめっ」

 大赦仮面は複数の大赦職員に力づくで抑え込まれ、その耳に大赦職員の顔が近づく。

「あがっ」

 大赦職員の口から細長い寄生型バーテックスが耳の穴から脳に入り、大赦仮面は痙攣する。が、すぐに元に戻りすくっと立ち上がった。

「勇者様は」「守るべき存在」「我々が」「支えるべき存在」「ゆえに」「勇者様を」「道具扱いする人間は」「利用し、だます存在は」「排除せよ」

「そうだ。なぜわしは勇者様を困らせるようなことを。ああ、いままでワシは犬吠埼様になんと酷いことをしてきたのだ」

 大赦仮面の胸の中は罪悪感でいっぱいになる。すでに犬吠埼風に対する怒りや復讐じみた妄執など消え失せていた。

「すぐにいままで滞らせていた援助の再開を。いや、それよりもワシが直接謝りに行かなければ、行かなければ!」

 大赦仮面は走り出した。犬吠埼風に謝罪するため、いままでの非礼を詫びるために。

 こうしてバーテックス人間は、確実に大赦の中でもその勢力を増やしつつあった。

 




 大赦OTONA(真人間)化計画進行率45%くらい。
 ちなみに勇者を監視する不審者(大赦仮面)は丹羽が人知れず処理(寄生バーテックス埋め込み)しています。
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