詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか?   作:百男合

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 あらすじ
東郷「いいぜぇ! 友奈ちゃん超いいぜぇ!」(激写)
丹羽「ゆうふういつトウトイ」●REC
青坊主『俺、何やってるんだろう』(激写)
刑部狸『宿主に逆らえないってつらいな』(激写)
不知火『俺、どうやって写真撮ってるんだろう?』(激写)
東郷・丹羽「Foooooo!」



スペシャルクッキー☆(ハザードレベル2)ヤベーイ!

 丹羽明吾が讃州中学の1年生として入学したのは、犬吠埼樹のそばにいるためだ。

 本編で満開の後遺症で声を失った彼女が原因で風は暴走し、止める友奈や夏凛の制止を振り切り大赦を潰そうとした。

 もっともそれは原因である樹によって止められたのだが、東郷による壁の破壊という事態がなければ園子によって風が捕らえ、大赦で処刑されるという最悪の事態が起こっていたかもしれない。

 それを避けるために満開をさせないのは当然だが、もし満開してしまった時のために声を失った樹がその後も普通に学校生活を送れるようにサポートする存在として同学年に編入したのだ。

 だが、今はこう思う。なぜ3年生に入学しなかったのかと。

 メンタルの強さでいえば東郷、風、夏凛、樹、友奈の順に弱い。つまり風の暴走を止めるためには原因となる樹を支えるよりも、暴走する風のメンタルのケアをクラスメイトとして行うべきではなかったのかと。

 なぜ今更そんなことを考えているかというと……失念していたからだ。

 同じ学年ということは、当然同じ授業を受けるということで。

 現代文、古文、英語、生物、科学、数学、歴史、公民、地理、体育、美術、工作。

 そして家庭科。

「はい、今日は皆さんにカレーライスとハンバーグとクッキーを作ってもらいまーす」

 家庭科担当の教師が明るく言う。それに答える生徒の声に、同じ班である樹の声もあった。

「がんばろうね、丹羽くん」

「お、おう」

 とびっきりの笑顔で言う樹に、丹羽はあいまいな笑顔を返す。

 樹の衣装は制服の上にエプロンを着て、三角巾を頭にかぶり髪をまとめている。

 本編では見ることのなかった姿だ。正直かわいいが、それを純粋に楽しむ気にはなれなかった。

 今は授業の3時間目。場所は家庭科室で目の前にはコンロや包丁やまな板を収納した机がある。

 その上には料理に使う材料である合い挽肉やニンジン、ジャガイモ、玉ねぎ、カレーのルウ、バターと小麦粉などが置かれていた。

 今日の家庭科は3、4時間目の2時間を使って男女混合の班で料理を作るいわゆる調理実習が行われる。

 そう、丹羽は失念していた。同じ授業を受けるということは、樹と一緒に家庭科の授業を受けるという事態を避けられないということを。

 丹羽の班は男子が2人と女子が3人。その女子3人の中に樹がいたのだ。

 これは……死んだかもしれん。

 丹羽は天を仰ぎ、くじ運の悪い自分を呪った。

 すまん壁の外にいる本体。潜入には成功したが、どうやら俺はここまでのようだ。

「おい、丹羽。どうしたんだこの世の終わりみたいな顔をして」

 声に顔を向けると同じ班のエプロンと三角巾をした男子が心配そうに見ていた。

「ああ、すまん。なんだって?」

「いや、お前料理できるほうかどうかって話だよ。それによって作る料理の当番決めようと思って」

 なるほど、合理的だ。

「一応切ったり皮を剥くのはできるが味付けには自信ない」

「じゃあ、材料切るのか米を研ぐの担当な。女子の方はどう?」

「あ、私結構料理できるよ」

「私もそこそこかな。いつも母さんの手伝いしてるし」

 なるほど、このメンバーなら大丈夫かもしれない。わずかに希望が見えてきた。

「わ、わたしも料理できるよ」

 と樹。え? なんて?

「そう、じゃあ丹羽は米をザルで洗ってくれ。炊く前に水加減見るから声かけてくれよ」

「じゃあ私たちはハンバーグとカレーの準備しちゃいましょう」

「仕込み時間的に、クッキーもやったほうが良くない?」

「確かに」

「うんうん。だよねー」

「ちょ、ちょっと待って犬吠埼さん」

 丹羽は料理できるグループにナチュラルに入ろうとしている樹の首根っこを掴み問い詰める。

「どういうつもりなの?」

「どういうつもりって、何が?」

 丹羽が目線を合わせると、綺麗な瞳があった。自分が料理ができると疑っていない綺麗な瞳が。

 この子、まさか本当に自分が料理できると思ってる⁉

 まずい、このままこの子をあの中に入れたら大惨事が起こる。

 ペルソナ4のムドオンカレー以上の惨劇が!

「犬吠埼さん。ショックかもしれないけど聞いてくれ」

 丹羽は樹の肩に手を置き、ゆっくりと相手に伝わるよう区切りながら言う。

「君は、料理が、できない子なんだ」

「え? あはは丹羽君ったら。冗談ばっかり」

 冗談なのは君が作るスペシャル料理だよ!

 叫びだしたくなる衝動を抑え、どう説明すべきか迷う。

 まさか風の誕生日ケーキを作れたことで変に自信をつけてしまったんじゃないだろうか。

 しかたない、こうなったら…。

「あのー、みんな。ちょっといいかな?」

 料理の段取りを話し合っている他の班員に、丹羽は告げる。

「実は俺、料理初心者で自信がないんだ。だからしばらく犬吠埼さんを借りたいんだけど」

 こうなったら自分の目の届くところに置いてどうにかするしかない。

 家庭科室でバイオハザードを起こさないためにも。

 丹羽の言葉に女子2人は何事か話し合っていたが、やがてにこりと笑うと丹羽に親指を突き出す。

「オッケー。丹羽君、樹ちゃんといっしょに頑張って」

「やっぱり2人は熱々だね! 邪魔するなんて野暮なことはしないから気にしないで」

 んん? なんか勘違いしてる?

 ちなみに忘れている方もいらっしゃるだろうが、乙女座襲来の翌日、樹は丹羽の席に行って告白をしたと他の生徒に誤解されたままだったりする。

 つまり、今の丹羽の言葉は恋人とイチャイチャしたいから2人きりにさせてくれと受け止められたのだ。

「じゃあお米を洗わないとね。まずは配られたお米をザルに移して」

 しかし樹はあまり気にしていなかった。というか料理を作るという作業にルンルンで、どこか周りの状況が見えていないように思う。

「洗うのは…石鹸? それとも食器用洗剤でいいのかな?」

「お水で! 普通にお水だけで洗うのがいいから!」

 粉せっけんと食器洗い用の洗剤を米にかけようとしていた樹の手からそれを奪う。

 危なかった。油断も隙も無い。

「とりあえず、俺がやってみるから犬吠埼さんは変なところがあったら教えてくれる?」

「うん、わかった。しっかり見るね」

 と言っても米を洗うのにそんなおかしいことになることもなく。

 ちゃっちゃと米をといだ丹羽は水の調子を同じ班の男子に見てもらい、炊飯器にセットして早炊きのスイッチを押す。

 ふう、これで米は最低限大丈夫…。

「じゃあ樹ちゃん、このにんじんとジャガイモ、切ってくれる?」

「よーし、がんばるぞー」

「刃物はらめぇえええ!」

 同じ班の女子に頼まれ両手で包丁を持った樹の腕をつかみ、振り下ろす寸前で止める。

 危なかった。下手すれば刃傷沙汰が起こるところだったぞ。

「丹羽くん、邪魔しないでほしいんだけど」

 樹は調理の邪魔をされたのでご機嫌ななめだ。隣にいた女子はあまりの出来事に口をあんぐり開けているが目に入らないらしい。

「犬吠埼さん。包丁は、右手で持って。左手は猫の手でこういう風に握って、抑える。いい?」

「えっと、丹羽君。樹ちゃんってひょっとして…」

 班の女子の言葉に、丹羽は無言でうなずく。あちゃーと女子生徒は額に手を当てていた。

「だったら最初からそう言ってくれたらいいのに」

「本人はできるつもりなんですよ。俺が言っても聞かないし」

 そう言って一瞬目を離した瞬間が命取りになる。

「あ」

 力を入れすぎたのか、皮をむかれたジャガイモがまな板の上から転がる。それを樹は牛刀の包丁の先で突き刺し、まな板の上に戻そうとした。

「あ、危なっ」

「い、樹ちゃん。材料切るのは私たちがやるから、クッキーのほう手伝ってくれない?」

 女子2人も樹の危険性に気づいたようだ。調理場から樹を離そうとする。

「クッキーって、何をすればいいの?」

「材料の重さを量ってて。私たちが行くまで、他には絶対何もしないでね!」

 小麦粉を渡し、念押しする。丹羽も粉塵爆発を避けるため、できるだけ火の遠くに樹を誘導する。

「クッキーってケーキの親戚みたいなものだよね。わたし、ケーキなら上手に作れるよ」

 樹の言葉に女子2人は丹羽を見る。丹羽は黙って首を振った。

 あの誕生日ケーキは東郷がいたから成功したのであって、樹が1人で作ったとは到底言えない。しかもあのゴミ袋に入っていた量を考えると、信頼度はかなり低い。

「う、うん。でもうちらが行くまでは何もしないでね」

「フリじゃないからね。絶対だからね」

 女子2人はそういうとカレーとハンバーグの調理を始めた。

「おい丹羽、お前も女子とくっついてないでこっち手伝ってくれよ」

 樹にかかりっきりだった丹羽に対し、同じ班の男子が言ってくる。

 馬鹿な! お前死にたいのか⁉

 深刻な状況に気づいてない男子に怒鳴ろうかと思ったが、彼に罪はない。

 罪があるとすれば、それは普通に食べられるもので生物兵器を作りかねない樹の料理の腕前だろう。

「すまん、こっちは手が離せん」

「手が離せないって、犬吠埼ちゃんと一緒にイチャイチャしてるだけじゃねーかてめー」

 ふざけんな。お前は料理作るだけかもしれないが、こっちはいつ爆発するかわからない不発弾の処理をしているようなものなんだぞ!

 と言いかけ、さすがにそれは大人げないなと思う。なので樹から一瞬離れ、同じ班の男子の元に近づく。

「馬鹿、俺はお前に協力してるんだぞ。最近は料理男子ってモテるらしいし、ここで仕切って料理できるアピールしとけばモテモテだぞ」

 実際は料理ができすぎる男は女に敬遠されるのだが、そこは黙っておく。

「とか言って、本当は彼女とイチャイチャしてーだけだろ」

「そんなことないって」

 くっ、やっぱり勇者部のみんなと違って一般人はあんまりチョロくない。

 風先輩や友奈だったらこの説明で納得してくれるのに。

「そうだよ高山君。私料理ができる男の人って素敵だと思うなー」

 あ、同じ班の女子が援護射撃してくれた。

「高山君が作るハンバーグとカレー、食べてみたいなー」

「そ、そう? じゃあ俺がんばっちゃおうかなー」

 あからさまに顔がにやけた男子…高山というらしい。が、腕をまくって炒めていた玉ねぎを皿に移し、粗熱を取り始めた。

 女子2人を見ると丹羽に向けてウインクしていた。こちらは任せておけということか。

 感謝する。丹羽は急いで樹のいるところへ向かう。

「あ、丹羽くん。もう準備終わったよ」

「遅かったかー!」

 すでに生地作りを終えた満面の笑みの樹がそこにいた。

「犬吠埼さん、みんなが来るまで量を量るだけって言われたよね? 言われたよね!? なんで作っちゃったの?」

「え、小麦粉とイースト粉を量って混ぜた後先生が来て作り方教えてくれたからその通りに」

 先生、なんて余計なことを…。

 先生は教師としての仕事をしたので文句は言えない。ただ、タイミングを考えてほしかった。

 せめてあと10秒戻ってくるのが早ければと丹羽は己の行動を悔やむ。

「お砂糖と塩、間違えなかった?」

「大丈夫だよー。そんな初心者みたいな間違えしないって」

 そうだね。そんな初心者みたいな間違えだったらどんなによかったことか。

「変な材料混ぜてない? 必要のない材料とか、ちゃんと小麦粉とバター、砂糖とバニラエッセンスだけしか入っていない?」

「どうしてそんなに疑うの⁉」

 いや、そりゃ疑いたくもなる。

 なにしろうどん玉からスペシャルな料理を作るこの娘のことだ。

 材料を指導通り入れたとしても、教科書通りの物ができるとは限らないのだ。

「丹羽君、大丈夫だって。先生がついててくれたんでしょ?」

「そうだよ。ひどいことにはならないって」

 と女子2人は言うが、油断はできない。

 その後、順調すぎるくらい調理は順調に進んだ。

 意外に料理男子だった高山と女子2人のおかげで、ハンバーグとカレーはおいしそうにできた。

 あとはクッキーを焼きあがるのを待つだけなのだが…。

「ね、ねえ? うちの班のオーブンだけなんか変なオーラみたいなの出てない?」

「き、気のせいだよ…ねぇ?」

 女子2人が不安そうな声でこちらに尋ねてくる。それに丹羽は何も言えない。

 生地を型抜きし、予熱して温度を上げたオーブンに入れるまでは何も問題はなかった。

 だが、オーブンに入れて数分後、なぜか紫の煙が出だした。クッキー生地はまだ焼き色すらついていないのにである。

 やはり樹の料理は物理法則とか科学の炎色反応とかいうのを無視した存在らしい。

「と、とりあえず先生に提出する分だけ用意して先にカレーライスとハンバーグ食べちゃおうぜ。クッキーは焼きあがって冷やすまで時間が掛かるし」

 料理上手の高山の言葉に、他の班員は賛成して先に食事をすることにした。

「あ、普通においしい」

「うん、普通においしいよね」

「高山、お前料理できるなんてすごいな。味は普通だけど」

「うん、普通においしいよ高山くん」

「普通普通って言うな! 特に丹羽、お前米といだだけだろ!」

 その時、チーンと音が鳴り、オーブンがクッキーが焼きあがったことを知らせてきた。

「あ、できたみたい。わたし持ってくるね!」

「待って犬吠埼さん。俺が持ってくるから座ってて!」

 もし持ってくる間に何かあっては大変だし、危険物のあるオーブンに近づけさせるわけにはいかない。

 丹羽はなんだか変なオーラが出ているオーブンに向かい、ごくりと唾を飲み込んで中の鉄板に並べられたクッキーを取り出す。

 見た目は…普通だ。ちゃんとクッキーの形をしている。

 奇跡だ。ちゃんと形を保っているというのは。

「よくできてるね。なんだ、樹ちゃんちゃんと料理できたんじゃん」

「もー、丹羽君が脅かすからどんなことになるかと思ったよー」

 同じ班の女子2人が丹羽の背中を遠慮ゼロでばんばん叩いてくる。

 そうだね。見た目は普通だ。

「じゃあ、粗熱を取って提出を…」

「その前に1個もらいー」

 なんとか穏便に済まそうと丹羽は皿の上にクッキーを置いたのだが、それを高山が1つ取り口に入れた。

 止める間もなかった。高山は最初は笑顔でいたが、だんだん顔が引きつっていき、急に机に突っ伏して倒れた。

「高山ぁあああ!」

「高山くーん⁉」

「保健委員! だれか保健室連れてって!」

 突如倒れた高山に丹羽が大声で叫び、2人の女子が大騒ぎしている。

 樹だけが何が起こったかわからないようで、「え? え?」と困惑している。

「やばい、やっぱりこのクッキーやばいよ!」

「樹ちゃんには悪いけど、私これはちょっと」

「え、あの…わたしのせい…なの?」

 あ、まずい。樹の顔が曇り始めている。

 ひょっとしたらこれがトラウマになって2度と料理を作らなくなるかもしれない。

 なにより彼女が悲しむ姿を見たくない。

 丹羽は覚悟を決め、皿の上でまだ熱を持っているクッキーを1つ手に取る。

「丹羽くん?」

「ちょ、丹羽君、あんたまさか」

 丹羽はクッキーを口の中に入れた。

 ジャリジャリというクッキーらしからぬ食感。断面を見るとなぜか紫で、普通なのは外側の見た目だけだと知る。

 味は…危険を感じる前にシャットダウンした。丹羽は強化版人間型バーテックスなので人型バーテックスのように味覚のない状態にすることもできるのだ。

 だが、人間より強度の高いはずの胃にすごい不快感を感じる。まだ噛み砕いて飲み込んだだけなのに。

「うん、大丈夫。うま…食べられるよこれ」

 さすがに嘘でもうまいとは言えなかった。

 丹羽の言葉に、女子2人は半信半疑といった様子だ。

「高山君はきっと寝不足とかじゃないかな? 後で俺が運んどくよ」

「そ、そう?」

「じゃあ、私も1口」

 手を伸ばそうとした女子生徒に、樹には見えないように×サインを送る。すると察してくれたのか、手を引っ込めた。

「じゃあ、提出用の奴は置いておいて、あとはみんなで分けようか」

「あ、ごめん。私ダイエット中で」

「あ、私も」

 よし、これで被害は最小限にとどめられたな。

 先生は犠牲になったのだ…。南無。

「じゃあわたしと丹羽くんで分けさせてもらうね。実はお姉ちゃんや友奈さん、東郷先輩にもわたしが作ったクッキー、渡したかったんだ」

 え、今なんて?

 その時ちょうどチャイムが鳴った。4時限目の終わりと昼休憩を告げるチャイムが。

「片付けも終わってるみたいだし、わたし、教室に戻らずに部室へ行って渡してくるね」

 待って樹ちゃん、と声をかけようとしたが丹羽は声を出せなかった。あのクッキーの副作用だろうか。

 女子2人は樹が家庭科室を出ると丹羽に駆け寄り「大丈夫、吐く?」と言ったり「あんた彼氏の鑑だよ」と言ってくれたが今はそれどころではない。

 はやくみんなと連絡しなければと丹羽はスマホのラインアプリを起動させた。

 

 

 

 一方昼休みの勇者部部室。

 室内には風と友奈、東郷の3人がいた。

「でね、なんか大赦の偉い人が急に家に来て謝ってくれたのよ。『いままでのことは申し訳なかった。これからは滞っていた支援を再開するし、自分たちにできることがあれば何でも言ってほしい』って」

「それはまた、なんとも」

「よかったじゃないですか、風先輩」

「ちっとも良くないわよ。近所の人間からは何事かと思われるし、こっちは顔も見たくないから帰ってくれって言ったのに全然聞かないし。結局アタシが許すっていうまで居座られていい迷惑よ」

 風はその時のことを思い出し、苦虫を嚙み潰したような顔をする。

「なんていうか、嘘くさいのよね。大橋の家もアタシの名義にした権利書とかの書類をすぐ送るって言ってたけど、あいつらのことだから多分口だけだろうし。それで何度騙されたか」

 ちなみに数日後、本当に書類は送られてくることになる。滞っていた分の援助資金も風の口座に入金されその金額に目を回すことになるのだが、それはもう少し先の話だ。

「勇者に選ばれる可能性があったのに黙っていたことも謝ってたわ。勇者適性の高い友奈と東郷がいる讃州中学勇者部が勇者として選ばれるのは、上の方ではほぼ確定だったらしい。それと、いまさらだけど判断能力のない子供の時に取引を持ち掛けたことも謝罪された」

「え、じゃあ風先輩や樹ちゃんは私たちのせいで」

「それは違うわよ、友奈、東郷」

 顔を曇らす友奈に、風は否定の言葉をかける。

「巻き込んだのはアタシ。勇者部に誘ったのもアタシ。2人はアタシに騙されたようなもんなんだから、むしろこっちが謝る立場なのよ」

「でも、風先輩」

「友奈ちゃん、風先輩の言う通りよ」

 なおも言いつのろうとする友奈に、東郷は言う。

「でも、そうやって風先輩が誘ってくれたおかげで私は友奈ちゃんと一緒に勇者部にいられた。樹ちゃんとも知り合えた。丹羽くんとも。感謝しています」

 本編では友奈が言うはずだった台詞を東郷が言う。それを聞いて風は申し訳ないやら嬉しいやら複雑な感情を抱く。

「そうだね。だったら勇者適性があるのって案外悪くないかも」

「ええ、私と友奈ちゃんが一緒にいられるのも勇者適性が高いおかげって考えると運命を感じるわ」

「うーん。まあ、あんたらがそれでいいならいいんだけど。ん? でも丹羽って勇者適性がどうとかいう存在じゃないのよね考えてみれば」

「はい、1人だけ変身手段も違いますしね」

「この前は記憶喪失って衝撃的な事実に聞きそびれたんだけど、アイツ巨大バーテックスの攻略法を知っているような素振りもあったのよ。ひょっとしたら」

「あ、今その丹羽君からラインが」

 と友奈。見ると東郷や風にもメッセージが来ていたようだ。

「なになに? 『犬吠埼さん クッキー 危険』?」

「急いで打ったみたいで文章になってませんね」

「私は、大体わかったわ」

 風、友奈がメールの内容に首をひねる中、東郷だけは意味を正確に理解したのか顔を蒼くしている。

「そういえば今日1年生は調理実習だったわね。樹と丹羽がお弁当いらないって言ってたわ」

「え、じゃあこのクッキー、危険って言うのは…」

 その時だった、部室の扉が開いたのは。

「お姉ちゃーん、友奈さん、東郷先輩。調理実習でクッキーを作ったんです。よろしかったらどうですか?」

 3人が声のした方を見ると、そこには満面の笑みの樹がいる。

 その後、勇者部5人中4人がダウンし、その日の活動は見送りになった。

 

※ちなみに残った樹ちゃんのクッキーは責任をもって丹羽が食べさせていただきました。




友奈「丹羽君、みんなをだましてたの!? 信じてたのに」
丹羽「信じてた? 俺の正体も見破れなかったくせによく言うよ」
東郷「友奈ちゃんを泣かせるな! このバーテックス!」
丹羽「たまに感動してうるっとしたし、騙して悪いなぁとも思ったよ」
樹「丹羽くん……そんな」
風「丹羽、アンタはアタシが止める。この身をかけても!」つハザードトリガー
『ハザードオン!』
『女子力!』
『うどん!』
『スーパーベストマッチ!』
『ガタガタゴットン!ズッタンズタン! ガタガタゴットン! ズッタンズタン!』
『Are you ready?』

風「変身」

『アンコントロールスイッチ! ブラックハザード!』
『ヤベーイ!』

 続かない。

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