詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか? 作:百男合
樹「家庭科の調理実習でクッキーを作ったよ!」
友奈「」(再起不能)
東郷「」(再起不能)
風「」(再起不能)
丹羽「いやぁ、樹ちゃん特製のクッキーはうま…食べられるなぁ」(味覚オフで完食)
「そういえば、丹羽君はまだ風先輩と樹ちゃんのことを名字で呼んでるの?」
樹の手作りクッキーというバイオハザードから数日後の放課後。
いつもの勇者部で友奈は丹羽にとっての爆弾を何の前触れもなくあっさりと放り投げてきた。
「そろそろ入部して1か月くらい経つし、私のことも友奈って呼んでほしいんだけど」
「いえ、それは東郷先輩に悪いので遠慮させていただきます」
「え、なんでそこで東郷さんの名前が?」
丹羽の言葉に不思議そうに友奈は東郷を見る。東郷としては「好き好き友奈ちゃん愛してる! だから私たちの間に入ってくる男は消滅しろ!」と言いたいのだが人前で言うわけにはいかず沈黙するしかない。
「ねえ丹羽君、なんで? なんで私の名前を呼ぶことが東郷さんに悪いの?」
それは東郷さんがあなたを大好きで、俺も百合の間に挟まる男になりたくないからです。
とは言えないので、別の言葉で友奈を納得させることにする。
「いや、東郷先輩だけ苗字呼びだと悪い気がして。先輩は敬うものですし、結城先輩とお呼びしているんですよ」
「でも、樹ちゃんは同学年で同じクラスだよね? 仲良しなら名前で呼ぶんじゃない?」
今度はそっちかぁ~。
突然流れ弾を受けて樹は「ぴっ」と声を上げて身体を固くしている。どうやら彼女にとっても丹羽に名前で呼ばれることは歓迎するところではないらしい。
「ほら、同学年で同じクラスだからこそですよ。変な噂が経って犬吠埼さんに迷惑がかかるといけないから」
「ふーん」と友奈は納得したかしてないかわからない様子だ。丹羽としてはこれ以上勇者部女子との距離を近づけたくないので次にどんな言葉が出てくるのか冷や冷やだが。
「でも、この前風先輩って呼んでたよね? 樹ちゃんと話しているときに」
ほら見たことか! 放り込んできやがったよ次の爆弾を⁉
おそらく風の誕生日パーティーの時のことだろう。風とのデートという性癖を曲げてまで行った一大イベントに疲れ果て、樹と話しているとき思わず油断して口から出てしまったのだ。
それを聞かれていたとはウカツだった。
「え、丹羽そんなこと言ってたの?」
「はい。私この耳でちゃんと聞きました」
「うん、お姉ちゃんのこと犬吠埼先輩じゃなくて、風先輩って呼んでたよ」
やめて! それ以上この話を広げないで!
東郷に助けを求めようと視線をやるが、ゆっくりと首を振られた。ちょっと、恋人の手綱ぐらい握ってくださいよ! と丹羽は焦る。
「じゃあ、もう今から風先輩のことは風先輩って呼んじゃおうよ。私も友奈さんでいいよ」
ああ、すごいいい笑顔だ。本人としては当たり前のことなんだろうなぁ。
だが、丹羽は根っからの百合男子だ。推しカプの本人を名前で呼ぶなんて百合の間に挟まる男みたいなことはできない。
なので今回は少し絡め手で言いくるめることにする。
「結城先輩。いいですか? 女性の皆さんが名前を呼びあうのと男の俺が先輩たちを名前で呼ぶのでは社会的に意味が違います」
「え? そうなの?」
「そうなんです。異性が名前を呼びあったらそれはとっても親しい間柄、世間一般でいう恋人というやつです」
「こ、恋人ぉ~⁉」
丹羽の言葉になぜか友奈ではなく風が驚いていた。
まあ、風先輩は男にも名前で呼ばさせて勘違いさせそうな罪深いタイプそうだけど。それほどショックだったのだろうか?
「そういうわけで、皆さんの名前は呼べません。ごめんなさい」
「ええ~でも」
「友奈ちゃん、あんまり言うと丹羽君がかわいそうよ」
と東郷が助け舟を出してくれる。よし、この話はこれで終わりそうだな。
だが友奈はまだ納得していないようで、何かを考えている。
なんだか嫌な予感が…。
「あ、じゃあ私が明吾君って呼べば問題ないよね。明吾君が名前を呼ぶのが問題なだけで、私が一方的に親しみを込めて後輩を名前で呼ぶのは」
「問題ありまくりですよ!」
現に今、東郷が般若のような顔で丹羽を見ている。
「ええ~、いいと思うけどな。明吾君。どうしてもダメ? 明吾君」
「ダメです。主に俺の命が危険で危ないからダメです」
友奈がかわいくおねだりするように言ってくるが、鋼の意思で突っぱねた。丹羽だって命が惜しい。
友奈はまだ納得がいかない様子だったが、一応諦めてくれた。すると東郷が車椅子の車輪を転がし丹羽の近くに来て、手を握ってくる。
「立派だわ丹羽君。初志貫徹するなんて。これからもそのままでいてね」
「はい。だからその万力のような力で握る手は放していただけませんか?」
「でももし、心変わりして私の知らないところで友奈ちゃんと名前で呼びあっていたら…わかってるわね?」
「わかりすぎるほどわかっているので手を放していただけませんでしょうか東郷先輩」
丹羽が懇願すると、ようやく放してくれた。
人間よりも強いはずの強化版人間型バーテックスの手が、結構なダメージを受けていた。鍛えているといったが、どれだけ鍛えているのか。
このように友奈の言動は予測できず、時として丹羽のピンチを招くことが多々ある。
結城友奈。この結城友奈は勇者であるの世界の物語の主人公であり、キーマン。
そんな彼女のことが、正直言って少し苦手だった。
丹羽やそれを操る人型バーテックスにとって、結城友奈は決して嫌いな人間ではない。
むしろ推しカプであるゆうみも、ゆうにぼの片方であることからわかるように、尊さを感じる対象でもある。
だが、結城友奈単体としてみると話は変わってくる。
アニメ本編の鋼メンタル。コミュ力お化け。誰にでも優しい全肯定少女。自分をだましていた風に対しても責めたりせず、逆に感謝の言葉を伝えるほどの聖人だ。
逆に言うと欠点らしいところがない。前向きすぎるというか、物語を進めるためだけにそんな性格にされた人間らしいマイナス要素のない少女。
それがアニメ本編を見ていた「俺」が彼女に抱いた第一印象だった。
私生活の描写がなかったり風や夏凛へのメールの温度差に何かの伏線かと怪しんだこともある。
ネットでは「友奈」の字を分解すると「大赦」になったり、ひらがなにして文字を一文字ずらして逆から読むと「贄よ食えよ」になったりと結城友奈黒幕説なんていうのもあった。
それに最終回で彼女だけどうして満開の後遺症が続き、突然治ったのか明確に描写されなかったのも視聴者の自分にとっては謎だった。
つまり最初から最後まで制作者が物語を進めるために作り出した存在としか映らなかったのだ。
その反動が勇者の章のあの仕打ちなんだろうが、極端すぎやしないかタカヒロ神?
もちろんゆゆゆいをプレイした今ではそんなことは思っていない。彼女の性格や欠点も深く知ることができたし、愛が重い同士のゆうみもカプは尊いと思う。
だが、彼女の異常ともいえる献身は正直苦手だ。他人を助けるためなら自分の身体を差し出すような彼女の生き方は、痛々しくて見ていられない。
子供なら、もっとわがままでいいのに。
同時に自分が傷ついても悲しむ者がいないという自己評価の低さとある種の傲慢さには腹が立つ。
つまるところ丹羽とそれを操る人型バーテックスにとって、結城友奈という存在は大赦が望む理想の勇者そのものであり、個人的に考え方が許せない存在だったのだ。
勇者部で依頼を選別した結果、今日の活動は迷子の猫探しとなった。
東郷は部室で留守番。猫探しには友奈、風、樹、丹羽の4人が出動することになる。
現在は目撃情報のあった商店街から住宅地のほうに向かって移動中だ。
聞き込みをしながら野良猫を探していくが、目当ての猫はなかなか見つからない。
「とりあえず人海戦術で探しましょう。みんな、東郷が送ってくれた猫の写真は持ったわね」
風がスマホをかざし、茶トラの猫の写真を皆で確認する。どこにでもいそうな猫だが、あえて言うならしっぽ付近にイチョウの葉のように見える模様があるのが特徴的だ。
「じゃあ、解散!」という風の言葉に4人はそれぞれ散る。
猫がいるところというと、やはり公園だろうか? それとも飲食店の裏手?
思いつく場所を探してみるが、目的の猫どころか猫の姿すら見つからない。
初心者の丹羽にとってこの依頼はレベルが高いようだ。
「あ、丹羽くーん」
猫1匹見つけられず途方に暮れていると、向こうから来た友奈と合流した。
「猫、見つかった?」
「いえ、野良1匹すら見当たりません」
「え、そうなの? 私は結構見つけたけど…ここら辺って野良猫スポットなんだよ」
そうなのか。それにしては1匹も見当たらないのだが。
「じゃあ、俺は別方向探してきます」
「あ、待って丹羽君。私と一緒に行かない?」
「いえ、効率を考えると別れた方がいいので。失礼します」
「まあまあ、待ってよ丹羽くん。少しお話しよ」
頭を下げてそのまま去ろうとする丹羽の肩を、友奈の手がしっかりと掴む。
「いえいえ。そんな話すことなんて。東郷先輩に悪いですし」
「だからなんで東郷さんに悪いの? それに今、東郷さんは部室だから少しくらい大丈夫だよ」
いえ、東郷さんのことだから多分勇者部みんなのスマホにGPSつけたり盗聴機能のあるアプリ仕込んだりしてそうだし、遠慮します。
とは言えないので、仕方なく一緒に歩くことになる。
「ねえ、丹羽君って私のこと避けてない?」
「そ、ソンナコトナイデスヨ」
急に核心をついてきた友奈の質問に、丹羽は目をそらしながら言う。自分でもわかるほどカタコトになっていた。
「えー、嘘だよ。風先輩や樹ちゃんとは普通に話すのに、私には東郷さんと一緒にいるところを遠くから見てくるだけであんまり話しかけてこないし」
それはゆうみもを遠くから眺めて尊いと思っているだけだ。
あと、友奈と一緒にいるところを話しかけると東郷が怖いというのもあるが。
「私って、そんなに頼りない? たしかに風先輩や東郷さんに比べたらできること少ないし、樹ちゃんみたいにかわいくないし」
「いやいや、結城先輩はかわいいでしょう。結城先輩の良さは結城先輩にしかないところで、他人と比べるのなんておかしいですよ」
あ、しまった。つい推しの悲しむ顔が見たくなくて本音が。
「え、私のいいところってどんなところ? 言ってみて言ってみて」
ほら、案の定ぐいぐい来る。さすがメンタル鋼のコミュ力お化け。
「えっと、誰にでも優しく接することができる懐の広さ。東郷先輩が全幅の信頼を寄せることができる友達想いの包容力。すぐに行動できる決断力。あと誰とでも仲良くなれるコミュ強。メンタルの強さ。あとは」
「ストップストップ! もういいから」
立て板に水のごとくつらつらといいところを言う丹羽に顔を真っ赤にして友奈が止める。
「普段結城先輩がしてることを言っただけですけど」
「うう、私そんな風に見られてたんだ。照れちゃうよ」
もちろん今言った以上の良さも挙げることができる。もっともそれはアニメ本編やゆゆゆいをプレイした丹羽を操る人型バーテックスだからこそ知る部分も多いのだが。
「じゃあ、私も! 今度は丹羽くんのいいところいっぱい言うね」
待て、なんでそうなる。
「えっと、他人行儀に見えていつも私たちのことを見守ってくれているところ。手先が不器用なのに頑張ってくれているところ。さりげなく車椅子の東郷さんをサポートしてくれているところ。あ、これは風先輩や樹ちゃんにもしてたね。勇者部みんなのサポートをしてくれるところって言い直さなきゃ。あとは」
やめて、こっちを攻略しようとしないで!
「結城先輩、やめてください。そういうのやられると男は勘違いするから、絶対他ではしないでくださいね」
「勘違いって何?」
そういうナチュラルなボディタッチとかですよ!
まったく、これは東郷さんが心労するわけだ。異性はおろか同性まで勘違いしかねない距離の近さにイケメンすぎる行動力。虜にした相手は数知れないだろう。
その時スマホの着信が鳴り、勇者部のラインアプリにメッセージが来たことを告げた。
「丹羽君、これって」
表示されたメッセージを見て友奈が丹羽を見ると、すでに駆け出した後だ。
メッセージは樹からでただ一言、「たすけて」と表示されていた。
「樹! 無事⁉ …って、なにこの状況」
かわいい妹からの助けを求めるメッセージに1番に駆けつけた風は、その異常な光景に目を点にする。
神社の境内で樹が猫に埋もれていた。
いや、もっと正確にいうなら神社中に集まった50は超える野良猫たちに囲まれ、猫の大群に埋もれている。
さながら猫によるおしくらまんじゅうの中心にいるといったところだろうか。
「おねえちゃーん、助けてー」
「樹、待ってて。今行くから」
猫を踏まないようにしながらも、何とか樹の元へ行こうとする風。
その時急に猫たちが顔を上げ、全身の毛を逆立たせる。
「樹ちゃん、無事か⁉」
声に振り向くと、そこにいたのは丹羽だった。後ろから追いかけてくる友奈の姿も見える。
丹羽の姿が見えると野良猫は蜘蛛の子を散らすようにそれぞれの方向に逃げていき、境内にいるのは樹だけになる。
え、なにこの状況?
風が呆然としていると、たどり着いた丹羽が周囲を見渡している。どうやら何が樹に危害を与えたか探っているのだろう。
「あー、大丈夫よ丹羽。たった今樹のピンチは解決したから」
理由はわからないが、ネコアレルギーの人間が見たら真っ青な状況は回避できたようだ。
というか、丹羽がこちらに近づいた瞬間猫たちが逃げたように見えたがあれはいったい…。
「本当ですか⁉ よかった」
風の言葉に丹羽は心底安心したようだ。友奈も合流し、樹の元へ向かう。
「樹ー、大丈夫?」
「うん、なんとかー」
そう言う樹の腕の中には猫が1匹いる。逃げ遅れたやつがいたらしい。
「あ、その猫⁉ それにしっぽのちかくにあるイチョウの模様は」
友奈の言葉に風はスマホを開き依頼のあった猫と見比べる。特徴はぴったりと一致していた。
「お手柄じゃない。樹、よくやったわ!」
「えへへ。でもわたしにもなにがなんだかわかんなくって」
樹の話によると、神社の境内で猫を探していたら、急にどこからともなく猫が集まり始めたらしい。
その中に依頼のあった猫を発見したので確保したが、次から次へと猫が集まってきて気が付けばもみくちゃにされてしまったそうだ。
「そういえば丹羽君、野良猫スポットを探したのに1匹も見なかったって言ってたね」
「え、ああ。はい」
友奈の言葉に丹羽はうなずく。
「で、丹羽君が近づくと猫が逃げて行ったって…」
友奈と風と樹が丹羽を見る。あれ? ひょっとして。
「丹羽くん。ちょっとこっち来てみて」
樹が猫をがっしりと固定して、手招きする。言われた通り丹羽が樹に近づくと猫は必死に逃げようとするが逃げられないとわかると観念したかのようにカチコチに固まっている。
「なるほど。つまり丹羽が探したところにいた猫がここに避難してきて、こうなったと」
「つまりわたしが猫に埋まったのは丹羽くんのせい」
「ええっ!?」
風と樹の言葉に丹羽は驚く。
丹羽の姿はほぼ人間とはいえ本質はバーテックスだ。野生動物に近い野良猫には感じるものがあったのだろう。
だから危険を察知して逃げ、ここへやってきたというのが真実のようだ。
「すごーい。つまり丹羽君のおかげでいっぱい猫が集まって目的の猫も捕まえることができたんだね」
と友奈。その言葉に首を傾げた犬吠埼姉妹だったが、すぐに同意する。
「そうね。友奈の言う通り。よくやったわ丹羽」
「う、うん。そうなるの…かな?」
「そういえばさっき、樹ちゃんのこと名前でよんでたよね丹羽君」
さすが全肯定コミュ力モンスターと丹羽が感心していると、また爆弾をぶっ込んできた。
「あれはその。焦っててつい」
「いいなー。私も友奈さんってよばれたいなー」
そうやってすぐ距離を詰めようとしてくる⁉ やばい、攻略されちゃう。
「いえいえ、先輩のことをそんな気安く名前でなんて…ねえ?」
「いいとおもうけどなー。ねえ、風先輩?」
「アタシ⁉ いや、まあ。同じ部に犬吠埼って苗字が2人いるから、名前で呼んだ方がいいとは思うけど」
「ですよね!」
やばい、周囲を味方にし始めた。このまま名前を呼ばざるをえない状況を作るつもりだ。
その後なんとか丹羽に名前を呼ばせようとする友奈の言動を時にいさめ、時に話題を転換し丹羽は躱した。
百合男子として女性と必要以上親しくなるのはご法度だからだ。
やはり勇者部で1番に警戒するべき対象は彼女だなと丹羽は改めて警戒することにする。
結城友奈。
推しカプの左側。勇者部の中で勇者適性が1番高く、バーテックスである自分にとって天敵である少女。
そう、結城友奈は丹羽にとって天敵である。
「丹羽君、そろそろ友奈さんって呼んでよー」
翌日の昼休み、懲りずに名前を呼ぶように言う友奈に丹羽は顔を蒼くする。
「丹羽君?」
「違うんです東郷先輩! 結城先輩、勘弁してください」
「やだよー。今日は名前を呼んでくれるまでこっちが明吾くんて呼ぶからね」
いや、天敵とはちょっと違うかもしれない。結城友奈は攻略厨である。
下手をすればバーテックスである自分もいつの間にか攻略されてしまいそうで怖い。
気を強く持たねばと決意を新たにする丹羽であった。
「以上が今週分の防人たちによる探索の結果です。別途で書類にしましたので、詳しいことはそちらに」
「ありがとう、安芸先生。防人の人たちもよくやってくれてるけど…やっぱり手掛かりはないか」
大赦仮面が差し出した書類を受け取り、園子は言う。その表情はいつもより幾分か優しい。
「園子様、その安芸先生と呼ぶのは…一応今は公務中なので」
「えー、いいでしょー。今は2人だけしかいないんだしー」
「外に人がいますので。どこに耳があるのかわかりません」
安芸の言葉に園子は頬を膨らます。表情豊かな様子は普段の彼女を知る大赦の人物が見れば信じられないと目を疑うだろう。
「勇者アプリみたいにこの部屋も盗聴されてると? 大赦の人は乙女を何だと思ってるんよー」
「まったくです。プライベートも何もありはしませんね。あのクソじじいどもめ」
公的だが幾分か砕けた言葉に、園子は笑う。安芸といる時だけは彼女も年相応の少女でいられた。
「防人隊の子は本当によくやってくれてるんよ。誰1人欠けることなく戦ってくれて。隊長の楠さんはそんなに優秀なの?」
「はい。少し頭は固いですが、周囲のサポートがあり日々成長しているといったところです。どこか鷲尾様を思い出させるところがありますね」
「わっしーか。元気かなぁ」
「報告が入っているのでは?」
「最近はなかなかね。巫女の神託によるバーテックス襲来の予言もないし、大赦の人も次の勇者のことで忙しいらしいし」
「次の勇者…三好夏凛のことですか」
安芸の言葉に園子は思い出す。勇者候補だったころ大橋まで遠征してきた双剣使いの少女のことを。
「あの子も一緒に戦ってくれるなら、心強いなぁ」
「園子様、面識がお有りで?」
「ちょっとねー。
彼女なら須美…いや、今は東郷さんか。仲良くやってくれるだろう。かつての自分と銀のように。
「それはそうとよくやってくれてる防人のみんなになにかご褒美を上げたいんよ。わたしの権限でできるだけのことはしてあげたいけど、どうしたらいいと思う?」
「防人は勇者様たちと違い大所帯ですし、賞与となるとどうしても予算が…。いっそどこかの施設を貸し切って休暇を与えるというのはいかがでしょう」
「あ、それいい! もうすぐ6月だし、ちょっと早いけどプール貸し切りとか」
「わかりました。そのように手配いたします」
頭を下げ、去ろうとする安芸に園子は声をかける。
「あ、ちょっと待って。防人って、みんな女子なんだよね」
「? はい。いずれも勇者候補だった娘ですから当然」
「だったら、その様子をちょっと録画してきてもらうって、できない?」
「……さきほど盗撮は乙女の敵だという話をしていたのでは?」
「それはそれ、これはこれなんよー」
相変わらずの性格の元教え子に、仮面の下で安芸はため息をつく。
「申し訳ありません。私としては大人としても教育者としてもそのようなことは許せません」
「そっか。残念」
「ただ…精霊が勝手にカメラを持ち出して、偶然映像が撮れてしまったらそれは我々の預かり知るところではありません」
安芸の言葉に沈んでいた園子の表情がパッと明るくなる。まったく、弱みがあるとはいえ自分は教え子に甘いなと安芸は自嘲する。
「もちろん防人の中には精霊を見ることができる資質を持つ子もいます。選ばれなかったといえど勇者適性のある子たちなので。バレたらどうなるかはわかりませんよ」
「だいじょーぶ! うちのセバスチャンは優秀な子なんよー」
言葉とともに園子の精霊である烏天狗が現れる。
天狗というがカラス要素のほうが強く、どこを見て何を考えているかわからない瞳をしている。なんというか不思議な精霊だ。
「では、私はゴールドタワーに戻りますので」
「うん、ありがとう安芸先生」
園子に一礼し、安芸は病室を去った。
防人の子たちは園子提案の休暇をどう思うだろうか? 隊長の芽吹はその時間を訓練に回すべきだと主張するかもしれない。
そういうところは本当にかつての教え子の1人に似ていると思う。
だが巫女の国土亜弥や同じ防人である加賀城雀、弥勒夕海子、山伏しずくに言い含められみんなと一緒に休暇を楽しむことになるだろう。そんな光景が安芸には容易に思い浮かべることができた。
「本当に、いいチームよね」
安芸はつぶやき、ゴールドタワー千景殿に戻る。かつて教え子にできなかったことを、今の防人にするために。
今度こそ、後悔しない自分であるように。
丹羽「結城友奈は〇〇である。この〇に入る言葉を入れてください」
東郷「はい! 『結城友奈は東郷美森と両想いである』」
風「これじゃない? 『結城友奈はうどんが大好きである』」
樹「こうかな? 『結城友奈は後輩想いの頼れる先輩である』」
園子「こうかなー? 『結城友奈はカップリングの左側である』」
神樹「こうだろ『結城友奈は我の嫁である』」
丹羽「東郷先輩、やっちゃってください」
東郷「了解」ズドン!