詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか? 作:百男合
夏凛「完成型勇者参上! あたしの攻撃にひれ伏せバーテックス!」
丹羽「勝ったな。風呂入ってくる」
山羊座「毒ガスブシャー!」
風「え、あの娘まともに吸い込んだわよ」
友奈「助けなきゃ!」
東郷「神罰招来っ!」
樹「大丈夫ですか?」
夏凛「べ、べつにあんたたちの助けなんかなくても勝てたんだから!」
勇者部一同(ツンデレだ…)
丹羽「おかしい。原作と違う」
三好夏凛は完成型勇者である。
小学6年生の夏、勇者候補生として再び大赦に召集された数多くの勇者候補の中からたった1人の勇者の座を勝ち取った存在。
他の勇者候補との交流で磨き上げられた、先代勇者にも負けない完璧な存在。
ゆえに、完成型勇者なのである。
勇者として選ばれてからは大赦の訓練施設で毎日来るべき日に向けて訓練していた。
座学はもちろん勇者システムへの理解も深め、1人で封印の儀や結界を使えるほどの実力を得ることができた。
すべては自分とともに切磋琢磨して選ばれなかった彼女たちのために。
あの三好夏凛と競った存在なのだと誇れるように。
決して手は抜かず、自分に厳しく己という刀を磨き上げてきた。
そんなある日、いつものように大赦の訓練施設での訓練を終え、中休みしていた時のことだ。
「防人隊?」
「そう、ゴールドタワーにいる勇者になれなかった捨て石たちのことだよ」
大赦の仮面をかぶった大人たちの声が、偶然聞こえてきた。
「園子様の肝入りで、壁の外へ調査に行っているんだと」
「おいおい、勇者にもなれなかった捨て石の集まりだろ? しかも勇者システムのような能力を向上させるものもない。巫女がいるとはいえそんなものすぐ全滅するんじゃ」
さっきからなんなんだろう、この大人たちは捨て石捨て石と。
自分と一緒に訓練した勇者候補生たちがゴールドタワーに集められているという情報は夏凛も知っていた。だからこそ、その少女たちを捨て石という蔑称で呼ぶこの大人たちの言葉は許せなかった。
一言文句言ってやる。
決意し、怒鳴り込もうとした夏凛は次に聞こえてきた言葉に足を止めた。
「いやぁ、それがなかなかどうして。隊長の指揮がいいのか脱落者0。1人も星屑のエサになることなく全員帰還しているらしい」
「ほう、すごいじゃないか」
そうよ、すごいのよ。
大赦仮面の言葉に夏凛は自分が褒められたように嬉しくなる。
そういえば隊長は夏凛と最後まで勇者の座を競った楠芽吹がなったと聞いた。堅物で融通が利かない人間だと思っていたが、環境と隊長という立場が人を変えたのだろうか。
その後も防人の話を夏凛は大赦のいたるところで聞いた。彼女たちの働きを聞くたび、自分のことのように嬉しくなる。
あの言葉を聞くまでは。
「そこまで優秀な存在ならば、三好夏凛に代わり勇者とすべきでは?」
それは防人隊が何度目の壁の外の世界へ遠征に行って帰って来た時のことだっただろう。
星屑の群れを倒し、今度は御霊なしとはいえ巨大バーテックスをも倒したという報告に夏凛は戦慄した。
自分ですらまだ戦闘訓練中なのに、彼女たちはもう実戦を知っている。
しかも星屑だけではなく、脅威と言われている巨大バーテックスの戦闘まで。
正直悔しいと思った。まだ巻き藁に向かって2振りの刀を振るっている自分が歯がゆかった。
そこに、あの発言だ。
「星屑や巨大バーテックスとの戦闘経験もある。扱いにくい三好の娘などよりよっぽど使えるだろう」
「そうだな。讃州中学に集められたのは適性が高くとも戦闘に関しては素人同然。彼女の指揮の元なら安心して戦えるだろう」
「それに、三好は」
「ああ、しょせん
その言葉に夏凛は目の前が真っ暗になった。
もちろん根も葉もないうわさである。若くして大赦の要職についている優秀な春信をねたんで妹の夏凛が勇者に選ばれたのは春信の意思が働いたからだという証拠も何もない空言だ。
だが夏凛を傷つけるのには十分だった。
自分のできないことを何でもできる家族が自慢する兄。
いつからだろう。そんな兄と一緒にいることを息苦しいと思い始めたのは。
勇者候補として選ばれ、ようやく自分にしかできないことができると思った。どこか優秀な兄を見返してやろうという思いもあったのかもしれない。
だから、つらい訓練も耐えることができた。同じ目標の仲間たちと切磋琢磨するのも苦しくなかった。
なのに、それすらも…。自分は兄の手のひらの上で踊っていたに過ぎなかったのか?
それから夏凛の訓練は苛烈を極めた。訓練教官がオーバーワークだと止めようとしたほどの訓練も、こなして見せた。
認めさせなければ。自分の価値を。
ただ1人で御霊持ちの巨大バーテックスを倒してしまえば、誰もが認めるはずだ。
三好夏凛は集められた勇者候補の中で誰よりも強く、兄の贔屓などではなく勇者という地位を実力で勝ち取った存在。完成された勇者なのだと。
だが、初出撃の山羊座戦でその目的は達せられることなく終わり、三好夏凛は讃州中学に編入することになった。
「結城友奈、東郷美森、そして三好夏凛ちゃん入りまーす」
山羊座襲撃の翌日の昼休憩。勇者部部室の扉の前で友奈は告げ、部室へ3人連れ立って入る。
部室の中にはすでに部長の風と1年生の樹と丹羽がいた。友奈はいつもの場所に東郷の車椅子を押して机の前で止めると、まだ入り口にいる夏凛を引っ張ってくる。
「ほら、夏凛ちゃんも早くこっちへ」
「べ、別にいいわよ。というか、なんであんたそんなにグイグイくるの?!」
同じクラスに編入してからずっとこんな感じで話しかけてくる友奈に、夏凛は戸惑っていた。
さすが全肯定コミュ力モンスター。彼女の前ではパーソナルスペースという概念は意味をなさないらしい。
一方で友奈が夏凛に構いっぱなしなので東郷が少しご機嫌ななめだ。それを察してか丹羽の中からスミが出てこない。
「よく来てくれたわね。勇者部部長の犬吠埼風よ。よろしく」
「ふん、別にあたしはよろしくしたくないわ。ただあたしの足手まといにならなければそれでいいから」
風の言葉にツン要素満載で夏凛は返事する。
「丹羽くん、あれどういう意味なの? 通訳して」
「あれは『これからバーテックスとの戦いは私が精いっぱい頑張るから今まで戦っていたみんなは休んでて』って意味かな?」
「そこ! 勝手に人の発言を捏造するな!」
ツンデレ語の解説を依頼する樹に、丹羽がわかりやすく解説する。それに夏凛がツッコミを入れた。
さすが完成型ツッコミ勇者。お見事です。
「夏凛ちゃんはすごいんですよ。編入試験で満点とって。すごく頭がいいんです」
そして隙あらば褒める攻略王。さりげないボディータッチとの合わせ技で、もうゆうにぼというカップリングが成立しつつある。
「へぇ、やるじゃない。うちの編入試験って結構レベル高いらしいのに」
「べつに。あれくらい完成型勇者なら当然よ」
と言いつつ顔が赤くなっている。褒められるとすぐ照れるその態度。うん、チョロい。
「その完成型勇者っていうのは何なの?」
「ふん、あたしはあんたら第1世代の勇者たちとは違うのよ」
友奈の疑問に夏凛は答える。
「いままでの戦闘データからよりバーテックスとの戦いに特化した存在。そして特別な精霊と選りすぐりの勇者候補たちから選ばれた最強の勇者! まさにあたしこそ完成型勇者なのよ!」
ドーンと背景に文字が浮かびそうなドヤ顔で夏凛が言う。それに先日の戦闘を思い出し、勇者部メンバーたちは「お、おう」と微妙な顔をする。
「出てきなさい、義輝」
『諸行無常』
夏凛の言葉に、中空に烏帽子に甲冑を着た精霊が現れる。
「これが完成型勇者の完璧な精霊。あんたらの精霊と違って人型で言葉もしゃべる特別な…」
『おー、こいつが夏凛の精霊かー。私セッカ、よろしく』
『ナツメだ。好きなものは海と風の作る味噌汁だ。よろしく』
突如現れた人型で言葉をしゃべる精霊2体の登場に、夏凛は目を点にして言葉を止めざるを得なかった。
え、なにこの精霊? あたしこんなの聞いてないんだけど。
「あ、丹羽くんの精霊は人型で言葉をしゃべれるんだよ。夏凛ちゃんと一緒だね」
と友奈。いや、言葉をしゃべれるどころではない。
義輝は言葉をしゃべれるが、意思疎通のできるだけで会話になるレベルではない。
だが目の前の2体はどうだ。ちゃんと会話として言葉が成立している。
少なくともレベルでいえば義輝の何世代も後の完成された精霊だと思う。
あまりの出来事にしばし呆然としていた夏凛だが、丹羽の精霊という友奈の言葉に丹羽をにらみつける。
「さ、さすがイレギュラーの精霊ね。人の言葉をしゃべるなんて規格外の存在、大赦の歴史でもあたしの精霊の次ぐらいに珍しいんじゃないかしら」
明らかな負け惜しみだった。若干涙目になっているように見える。
「でも、あたしの義輝のほうがすごいんだからね! 八艘飛びだってできるし物理吸収もできるし!」
それはヨシテルじゃなくてヨシツネじゃないだろうか。しかもゲームちがうし。
なんとか丹羽の精霊より自分の精霊が優れていると証明しようと夏凛は義輝を指さそうとして…牛鬼に食われている姿に驚く。
「ギャー! なにしてるのよ!?」
『外道め!』
「外道じゃないよ。牛鬼だよ」
なんとか牛鬼と義輝を引き離そうとする夏凛に友奈が言う。
「くっ、精霊が精霊なら宿主も宿主ね。本当、緊張感がない!」
「緊張感って?」
何とか義経を回収した夏凛は勇者部一同を見渡して言う。
「あんたらも知ってるでしょ。バーテックスの出現の周期が不規則になっていること」
その言葉に勇者部一同の顔も真剣になる。
「大赦としても、問題視してる。巫女の予知を超えたバーテックスの出現。本来1体ずつ規則的に襲ってくるやつらが徒党を組んで襲ってきたこと。何が起こるかわからないんだから」
「そうね。今回は1匹だったけど、前回の3匹同時出現にはこっちも驚いたわ」
と風。友奈、東郷、樹もその時のことを思い出して表情を硬くしていた。
「だからこそ、あたしがここに派遣されたのよ!」
夏凛はない胸を張って高らかに宣言する。
「これからのバーテックス討伐はあたしの監督下で励むのよ。いいわね!」
その言葉に勇者部メンバーの頭には?マークが浮かぶ。
え、監督? 誰が?
「ふふん、あたしが来たからにはもう安心よ。大船に乗ったつもりで任せなさい」
「いや、昨日の戦いぶりを見るにむっちゃ不安なんだけど」
得意げな夏凛に、風が冷静にツッコむ。
本編通りなら夏凛が山羊座を1人で倒していたのでこの台詞はそのまま受け止められたのだろう。だが、前日の山羊座討伐戦はお世辞にも夏凛1人の手柄とはいいがたかった。
むしろ東郷や丹羽のサポートなしでは御霊の封印どころか無事でいたかも怪しい。
「き、昨日不覚をとったのはあたしとしても想定外だったわ。でもあたしは大赦から派遣された選ばれた勇者。適正だけで選ばれたあんたらトーシローとは違うのよ!」
夏凛の言葉に「うんうんそうだねー」とうなずいているのは友奈だけだ。他のメンバーはどこか白い目で見ている。
「とにかく夏凛ちゃん、ようこそ勇者部へ!」
友奈がギュッと夏凛の手を恋人握りして笑顔で言う。それによりまた東郷の機嫌が悪くなったのだが、気にした様子はない。
「勇者部って、あたしは慣れあうつもりはないわ。部員になるなんて言ってないし、あたしはあんたたちを監視するために」
「だったら同じ部に入って一緒にいたほうがいいよね?」
とコミュ力お化けの友奈がグイグイ入部を促す。気をつけろにぼっしー。君はもう攻略対象としてロックオンされているぞ!
「言われてみればそうですよね」
「友奈ちゃんがそれでいいなら」
友奈の言葉に樹と東郷も同意する。丹羽ももちろん異存はない。
「む…、まあそのほうが監視もしやすいし、しょうがないから入部してあげるわよ」
と夏凛。顔が若干赤くなっている。やはりチョロい。
「監視と言えば、三好先輩の勇者アプリは」
「ええ。あたしの勇者システムは最新式。今までの戦闘データとバーテックスのデータからアップデートされた…」
「時に夏凛ちゃん。あなたトイレに行くときはスマホを持っていく派?」
丹羽の言葉に得意げに自分の勇者システムの説明をしようとしていた夏凛は、東郷の言葉に固まった。
「は? 何をいきなり」
「お風呂にも持っていくの? 寝るときは目覚まし代わりに枕元に置くのかしら」
ニコニコしながら質問してくる東郷に若干引きつつも、夏凛は肯定する。
「それが何だって言うのよ」
「あの、夏凛さん。言いにくいんですけど」
樹が夏凛の耳元に顔を寄せ、こしょこしょと内緒話をするように言う。
「はぁ? 盗撮と盗聴アプリが勇者システムに組み込まれている⁉」
「そう。つまりあなたの恥ずかしい音や姿や寝言も全部大赦に筒抜けだったというわけよ」
東郷の言葉に夏凛は顔を真っ赤にする。思わずスマホを床にたたきつけようとして、理性がそれを止める。
「あ、あんたらなんでそんなこと知って」
「あ、気づいたのは丹羽ね。で、対策したのは東郷。夏凛のも東郷にお願いすれば盗聴、盗撮機能は消して今まで通り変身できるわよ」
風の言葉に東郷を見る。確かに盗撮、盗聴は嫌だが大赦の機密ともいえる最新式の勇者システムを渡すのは…。
「……おねがいします」
夏凛は悩んだ末、頭を下げて東郷にスマホを渡す。勇者としての責務より乙女心が勝利した瞬間だった。
こうして三好夏凛がめでたく勇者部に入部する運びとなり、そのまま昼食となった。
「そういえば今日はスミちゃん出てこないわね」
「東郷先輩が機嫌悪いから怯えているんですよ。そういうのに敏感なんですあいつ」
いつも部室に入ると丹羽の中から自分の胸に飛び込んでくる人型の精霊がいないことを不思議がる東郷に、丹羽が言う。
「不機嫌って、なんで?」
「さぁ。なんででしょうねー」
ちゃっかり夏凛の隣をキープして食事を始めている友奈に、「お前のせいじゃい!」と言うわけにはいかず丹羽は曖昧にごまかす。
「ちょっと待って。そこのイレギュラーにはそこにいる2体の精霊以外にもまだいるの?」
「うん、丹羽くんの精霊はスミちゃんとナツメさんと昨日増えたセッカちゃん。あ、東郷さんにも3体精霊がいるよ」
友奈の言葉に東郷の周囲に青坊主、刑部狸、不知火が現れる。夏凛はその光景に唖然としていた。
え、精霊が3体? なにそれあたし聞いてない。
大赦から事前に教えられていた情報との食い違いに混乱していると、弁当を広げた勇者部の面々が夏凛の昼食に注目する。
「夏凛ちゃんのお昼、変わってるね?」
「いや、友奈さん。変わっているってレベルじゃないですよ」
友奈と樹の言葉に風と東郷もそちらを見る。
そこには複数のサプリの瓶と煮干しが入った袋を開けた夏凛がいた。
「え、普通でしょ」
「普通じゃねー! なによその不健康な食事は⁉」
丹羽のカップ麺の食生活にも怒りを抱いた風である。怒るのは当然だった。
「なによ不健康って。栄養バランスはばっちりなのよ」
「栄養とかそういうレベルの話じゃなーい。ちゃんとしたご飯を食べなさいご飯を!」
「はぁ? 煮干しは完全栄養食なんですー。カルシウムも豊富で、身長も伸びるのよ!」
水銀の含有量も豊富ですけどね。と丹羽は心の中でだけ思うことにしておく。
「成長期なんだからしっかり食べなさーい! アタシのご飯分けてあげるから」
「あ、じゃあ私も」
「友奈ちゃんがするなら私も」
「あ、じゃあわたしからはこのおかずを」
「俺もおかずをどうぞ」
風の白飯を皮切りに友奈の肉団子、東郷のだし巻き卵、樹の野菜炒め、丹羽のコロッケと夏凛の前に置かれた弁当の蓋の上に置かれていく。
「ちょ、やめなさいよ。あたしは遠足でお弁当を忘れた子か⁉」
「まぁまぁ、遠慮しないで。東郷さんのだし巻き卵は絶品だよ」
「そんなことは聞いて…ん、ちょっと待って」
夏凛は自分に差し出された弁当を見比べて、3つの弁当が全く同じ内容なのにきづく。
「これ…あんたたち同じ弁当なのね。偶然?」
「いえ、これはお姉ちゃんが丹羽君のために作ってくれてるんですよ。毎朝早起きして」
樹の言葉に夏凛はにやりと笑う。なんだか嫌な予感が。
「ふーん、朝早く起きて弁当をねー。ふーん」
「な、なによ」
「あんたら、付き合ってるの?」
唐突に爆弾が放り投げられた。
「えっ、え? ええぇ⁉」
「なによ、隠すことないじゃない」
「風先輩、そうなんですか⁉」
「あらあら、これはおめでたいわね。おめでとうございます風先輩」
顔を真っ赤にする風に煽る夏凛。驚く友奈にお祝いの言葉を言う東郷。
というか東郷さんは絶対違うことをわかっていて言っていると思う。
「色ボケするのもいいけど、お役目に影響が出ない程度に頼むわよ」
「そうだったんだー。へー、丹羽君と風先輩が」
「すっごくお似合いだと思います。お2人とも」
『違う。風は主と付き合っていない』
ヒートアップする勇者部2年生組に待ったをかけたのは丹羽の精霊のナツメだった。
『風を
「ええっ!?」
突然の精霊からの告白に、勇者部全員が驚愕する。
『風、毎日私のために味噌汁を作ってくれ』
「え、あの。その。…はい」
「お姉ちゃん⁉」
ああ、やっぱり風先輩は押しに弱いなぁ。それにしても棗風てぇてぇ。
「丹羽君、顔」
「ああ、すみません」
尊さから緩んでいた顔を元に戻す。夏凛は「なんなのこれ…」といまいち今の状況が飲み込めていないようだ。
「三好先輩。俺と犬吠埼先輩は付き合ってません。ただ犬吠埼先輩が俺の食事事情を心配してご飯を作ってくれてるんです」
「へ?」
「寮暮らしだったけど今部屋が改修工事中で。しばらくの間犬吠埼先輩と犬吠埼さんの隣の部屋に住むことになったんですけど、俺の食生活を心配してくれた先輩がご飯を作ってくれてるんですよ」
「そ、そうよ。だから付き合うとか付き合ってないとかそういうのはないのよ! 部長として、ただ部員の体調を心配しているだけだから!」
ナツメの告白に雰囲気に流されかけていた風はどうにか正気に戻ると丹羽の説明を補足する。
「え、でも風先輩丹羽君とデートしたじゃないですか」
と友奈。いや、だからどうしてこの状況で爆弾を放り込むんですか貴女は。
「違っ、たしかにしたけどあれは…そりゃ、丹羽は悪い奴じゃないけど好きとかそういうのじゃ」
なんだか風が顔を赤くしてモジモジしだした。
「ふーん」
「なんですか三好先輩。言っておきますけど本当にご飯を作ってもらってるのは先輩の好意で俺はそれに甘えているだけ。先輩の名誉のために言いますけど付き合ってませんからね」
丹羽としては百合の間に挟まるなんてことはどうあっても回避したいので夏凛に説明する。
「そうねー。まあ、あたしにはどうでもいいことだけど」
夏凛は弁当の蓋の上に置かれたおかずとご飯を食べだした。時々「あ、美味しい」と思わず声を上げている。
「よかったよー。みんな仲良くなって」
「この状況を見てそう言えるのは結城先輩だけだと思いますよ」
どこか気まずい雰囲気の風とそれをほほえましく見る樹と友奈。東郷と夏凛は我関せずといった様子で昼食を食べていた。
『主よ』
「どうしましたナツメさん」
変なことになったなと丹羽が考えていると、精霊のナツメが目の前まで飛んで来た。
『私は海で魚や貝を獲れる』
「はい、知ってます」
よく勝手に海に行ってきては採ってきた魚や貝類がたまに犬吠埼家の食卓に並んでいるので、風も樹もそのことは知っている。
『主と違って風の作るご飯を毎日うまいと言っている』
「俺もうまいと思って感謝してますけど」
『違う。主は感謝するだけでうまいとは一言も言っていない。風はそれをとても気にしている』
「ちょ、ナツメ⁉」
突如暴露された自身の悩みに風が思わず弁当を食べる手を止めて立ち上がる。
「あー。それはすみませんでした。これからはちゃんとうまいって言います」
「あ、うん。ありがと」
『それに主は知らないだろうが、風の胸は柔らかくて寝心地がいい』
「ナツメー!?」
またもとんでもないことを暴露されたことに座りかけていた風がまた立ち上がる。
『頭をのせると、とても安心できるんだ。どうだ。すごいだろう。主はまだ触ったことはないだろう?』
「ちょ、ちょっと待って。なんでみんなのいる前でそんな」
『? 風がどれだけいい女かみんなに知ってほしかったからだ。その上で私は主へ風を娶ると宣言する』
棗風キマシタワー。
天然イケメンの棗と風のカップリング。ゆゆゆい時空でしかお目にかかれないと思っていたけど、まさかこんな形で見ることができるとは。
「えーっと、東郷さん、これってどういう」
「しっ、友奈ちゃん。今いいところだから」
「あわわ、精霊と人間。種族と主従を超えた三角関係の恋愛模様…すごい」
「なにやってんのよあんたら。ばっかみたい」
他の勇者部の面々も1人を除いてかたずをのんで見守っている。
『風。私はお前をずっと大事にする。主よりも幸せにしたい』
「え、えーっと、ナツメ? アタシたち女同士だし、それにほら、ナツメは精霊でアタシは人間」
「大丈夫です。犬吠埼先輩。恋の前では種族や性別なんて関係ありません。むしろもっとやって」
戸惑っている風に丹羽は親指を立ててナツメを応援する。
「アンタはどの立場からものを言ってるのよ!?」
『風、嫌か? やはり私よりも主のほうが好きなのか?』
「そういうわけじゃないけど…あーもう、どうすれば」
『まぁまぁナツメさん。落ち着いて』
そこへ昨日生まれたばかりの眼鏡をかけた人型精霊のセッカがやってきた。
『風さんもそんなに追い詰められたら返事しようとしてもできないですよ。女の子には考える時間も必要なんだにゃあ』
『セッカ。でも私は』
『気持ちは伝えたんですから、後は待ちましょう。それともナツメさんの想いは相手を困らせたうえでも訊きたいものなんですか?』
セッカの言葉にナツメは首を振る。
『違う。…すまない風。私は急ぎすぎていた』
『そうそう。乙女には考える時間も必要なんですよー』
「えっと、ありがとう。セッカだったっけ?」
助け舟を出してくれた丹羽の精霊に、風が礼を言う。
『そうそう。私は北海道の勇者、セッカちゃんです。お礼はラーメンでいいですよー。みなさんも以後お見知りおきを。…じゃあナツメさん、帰りましょうか』
『風。返事はいつかしてくれると信じている。主を選んでも私がお前を好きな気持ちは』
『ナツメさん、そういうのは重いから言わぬが花。はいはい、帰りましょ』
言葉とともに2体の精霊は丹羽の内へ吸収される。重いという言葉にナツメはショックを受けた様子だった。
「ごちそうさま。茶番は終わったかしら」
分けてもらった弁当を食べ終え、夏凛が言う。
関係ないって顔してますけど、あなたもそのうち風先輩とのカップリングに巻き込まれるんですよ。
今はゆうにぼに巻き込まれかけてますけど。と丹羽はサプリの瓶に興味津々の友奈に説明している夏凛を見る。
「それにしても、やっぱりあんたらはたるんでるわね」
昼食を全員が食べ終え、一息ついているとまた夏凛が言う。
「これはあたしが直々にシゴいてやらないとダメね。さっそくトレーニングのメニューを組んであげるわ」
あれ? たしか原作では夏凛が満開について話す流れだったはずだが。
なぜか本編とはあらぬ方向に話題が転換している夏凛の話に、丹羽は首をかしげる。
まあ、満開については後遺症も含め春信に説明してもらうつもりだったので問題はないが。
「えー、朝練とかする気?」
「あ、はいはーい。私賛成! いいじゃないですか風先輩。風先輩も身体動かしたいって言ってたし」
難色を示す風に友奈が手を挙げて賛成する。
「友奈ちゃん、朝起きられないでしょ?」
「あはは、そうだったー」
だが東郷からツッコミを受けて参ったなーというように笑っている。
誰も気づいていないようだが、今の発言は東郷がいつも友奈を起こしに行っているということだ。
しかももっというなら友奈が起きるまで傍らにいてずっと寝顔を見守っているという…。
想像してヒェッと丹羽は内心で悲鳴を上げる。重い! 愛が重い!
「だったら今日の放課後からでも始めて行くわよ。言っておくけど、あたしの指導は厳しいわ!」
「あ、ごめん。今日は無理。なぜなら今日の放課後は夏凛の歓迎会の予定だから」
「はあ⁉」
意気揚々と訓練開始を宣言しようとしていた夏凛は風の言葉に驚く。
というのも4日前に春信から新戦力の勇者が讃州中学に編入するという知らせを受けてから、勇者部では密かにこの日に向けて歓迎会の準備をしていたのだ。
「というわけで今日の放課後の予定は開けておくように。かめ屋でうどん食べてからうちで丹羽が撮った運動会の応援合戦の映像を見たり、東郷の絶品ぼたもち食べて勇者部がどういう部活か教えてあげるから」
「ちょっと、あたしそんなのに行くなんて一言も」
「部員なら強制参加! 勇者部に入部したなら部長であるアタシの言うことは聞いてもらうわよ。いいからしっかり歓迎されなさい」
「お姉ちゃん⁉ あれを夏凛さんに見せる気⁉」
「東郷さんのぼたもちは絶品なんだよー。ほっぺた落ちちゃうよー」
「もう、友奈ちゃん。そんなこと言ってもぼたもちしか出ないわよ」
平和ボケしているとしか思えない勇者部一行の発言に、夏凛は軽くめまいを覚える。
こいつら、わかっているんだろうか。自分が命を落とすかもしれない戦いに巻き込まれているということに。
「大丈夫、わかっていますよ」
声に顔を上げると、そこには件のイレギュラーがいた。
「わかったうえで、みんな三好先輩を歓迎しているんです。これから一緒に戦う仲間だから早く打ち解けたい。仲間になりたいって思っているんだと思います」
その言葉に夏凛は他の勇者部の面々を見る。
みんな顔が生き生きしていた。悲壮感がまるでない。
巨大バーテックス5体と対峙したのだ。もうこんなお役目やめたいと半狂乱になっている人間が1人か2人はいると思っていたのに、まるでそんな戦いがあったことすら感じさせないほど明るく仲の良いグループだった。
自分1人で強さを証明しようと奮闘し、山羊座戦で勝手に自滅した夏凛とは大違いだ。
「夏凛ちゃん、私完成型勇者の話、もっと聞きたいなー」
気が付けば自分の手を握ってきている友奈の手を見ていた。
そういえば山羊座の御霊から出た毒ガスを吸い意識がもうろうとしていた時、「助けないと」という彼女の声を聴いた気がする。
馬鹿かあたしは。
こんな少女たちに自分が何を教えるというのだ。なにを鍛えるというのだ。
彼女たちのほうが、よっぽど強いのに。
「っ、しょうがないわねー。あたしが勇者の何たるかを教えてやるわよ」
だがそんなネガティブな感情を飲み込んで、三好夏凛は胸を張る。
まだ挽回のチャンスはある。誰よりも完璧な、一緒にいて頼もしいと思える勇者になるためのチャンスが。
だから今は自分が思い描く完成型勇者として振る舞おう。そして次の戦いでは言葉の通り完成型勇者として完璧にバーテックスを倒してやる。
一緒に訓練したみんなが誇れるように。
そしてミスをした情けない自分を仲間として歓迎してくれている、この勇者部のみんなに認められ、頼りになる存在として見られるように。
まだ堕ちてない。(強がり)
ぐっと距離は縮まりましたが、完成型勇者のプライドのおかげでまだゆうにぼには至っていません。
まあ、時間の問題ですが。
知らなかったのか? 攻略王(コミュ力お化け)からは逃げられない。