詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか? 作:百男合
夏凛「あたしの精霊は、最強なのよ!」
義輝『諸行無常…』
ナツメ『そうか、すごいな』(人型で海で魚獲ってくる)
セッカ『そうなんだ秋原』(喋れる)
牛鬼「」もぐもぐ(正体が■■で精霊を食うヤベー奴)
青坊主「」(ハンドサインで不法侵入に協力するヤベー奴)
犬神「」(満開バリアで宿主を天の神の呪いから守る有能)
コダマ「」(周囲を強制的にリラックスさせる効果のある空気を出せるヤベー奴)
烏天狗「」(いろいろと有能な行動が読めないヤベー奴)
夏凛「最、強?」
風「いやいや、アンタが疑問に思ってどうするのよ」
6月10日の金曜日である。
席替えで俗に主人公席とよばれる窓際の1番後の席を獲得した丹羽は、運動場で行われている2年生の体育を眺めていた。
運動場では徒競走をしているようで、男女別れて4人ずつ同じ位置からスタートし、タイムを測定している。
その中で特に目立つ2人の女子生徒がいた。言うまでもなく友奈と夏凛だ。
2人ともぶっちぎりで他の3人を追い抜き、トップでゴールしていた。
友奈は体力測定でその実力を示していたから生徒は驚いていないが、転校生の夏凛は違う。複数の同性の生徒に囲まれてまんざらでもない顔をしている。
おそらく「そんなに早いならぜひうちの陸上部に」「ごめんなさい、もう勇者部に入部してるから」とかいう会話が繰り広げられているのだろう。
それに後ろから夏凛に抱き着いた友奈が「そうだよー。夏凛ちゃんはもううちの子なんだから」と言い、顔を赤くした夏凛が「ちょ、ちょっと! 誰があんたのものになったって⁉」と焦っている。
うんうん。聞こえなくても大体わかる。さすがコミュ力おばけ。攻略に余念がない。
転校2日目でもうゆうにぼが始まってる。あら^~視力上がるわー。
「丹羽、丹羽明吾くん。ちょっといいかね?」
自分を呼ぶ古文教師に丹羽は観察を一時停止し、黒板のほうを見る。なぜかお怒りの様子だ。
「はい、『いとおかし』は現代語訳すると『大変おもむきがある』という意味です」
「正解だが…ちょっといいかね?」
古文教師は丹羽が他の生徒に質問しようとしていた問題を訊く前に答えたことに驚きながらも、その手に持っているものがどうしても看過できず質問する。
「丹羽、その手に持っている双眼鏡とビデオカメラはなんだ。窓の外を見ていったい何をしていたのかな?」
「はい、百合の花を愛でていました」
「そうかそうか。百合の花を…それは大変にいとをかしだな」
ニコニコ笑う古文教師。彼も百合を愛するものなのかと丹羽は感心する。
今度おすすめの百合小説を差し入れしてあげようと丹羽が1人決意していると、席まで来た古文教師に双眼鏡を奪われる。
「ばっかもーん! なんだその授業態度は⁉ 罰として『源氏物語』の書き写し全部するまで今日は帰さんからな!」
「え、源氏物語ってヘテロのハーレムものじゃないですかやだー。せめて清少納言の枕草子にしてくださいよ」
丹羽の言葉にお前はどこまで自分を馬鹿にしているんだと古文教師の怒りゲージはマックスになる。
それを見て同じ部活の仲間である樹はブレないなぁと感心するやら呆れるやら。少なくとも自分にはまねできないと思うのであった。
「ということがあって丹羽くんは職員室でお説教中なので来るのが遅れると思います」
「いや、何してんのあいつ」
妹の説明に風は頭を抱えながら呟く。
女の子がイチャイチャするのを見るのが大好きと本人も公言しているとはいえ授業中ぐらい自重しなさいよ。
「え、丹羽君に体育の授業見られてたの? 怒られたのって、私のせいかな」
「いや、自業自得でしょ。女子の体操着見てて怒られるなんて、変態じゃない」
自分のせいで丹羽が怒られたのかと心配する友奈に、ごくごく一般的な視点で丹羽の行為に嫌悪を抱く夏凛。
「友奈ちゃんの体育の授業風景…。丹羽君、いくらで譲ってくれるかしら」
一方で東郷は別視点で丹羽のことを心配していた。教師にビデオ映像が消されていないかとハラハラしている。
まあ、丹羽なら頼めば無料で友奈の映像を譲るのだが、交換条件として東郷と友奈の百合イチャを要求するだろう。
東郷としてはむしろそれは望むところで、双方にとってWINWINな取引となる。
「あ、そうだ。はいこれ入部届。言われた通りちゃんと書いてきたわよ」
「おお。ご苦労様。まあ、そういうことなら丹羽のことは置いといて。はい、夏凛」
「何よこれ」
風から渡された巾着袋を広げると、中にはおかずと白飯が入った2段重ねの弁当箱が入っていた。
「アンタ、またサプリとにぼしでお昼済ますつもりだったでしょ。だから先手を打ってアタシがお弁当作って来たわ」
「ちょ、ちょっと! そんなことあたし頼んでない…」
「あれ、風先輩も作って来たんですか?」
と友奈。その言葉に東郷が敏感に反応する。
「え、友奈ちゃん。まさか」
「私も今日は早起きしてお弁当2つ作って来たんですよ。被っちゃいましたね」
「友奈ちゃん、今日は早起きして寝顔が見られなかったと思っていたけど、まさかそんな理由で」
東郷がムンクの叫びみたいな表情になっている。友奈の手作りお弁当なんて東郷でさえ食べたことのないレアな存在だったのだ。
「おー、モテモテじゃない夏凛。で、どっち食べる?」
「うーん、風先輩のほうがおいしいとわかってるけど。私のを食べてほしいなー」
ニヤニヤしながら夏凛を見る風と少し困った顔で小悪魔チックに頼む友奈。
この場に丹羽がいたら「ふうにぼゆうサンドキマシタワー」と大興奮するだろうが、残念ながらいない。
百合男子一生の不覚案件である。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。誰も受け取るなんて」
「友奈ちゃんの手作りお弁当を断るなんて、そんな神樹様をも冒涜する行為、許されないわよ夏凛ちゃん」
夏凛が断ろうとすると東郷がすごい圧をかけてきた。いや、別に弁当を受け取る受け取らないで神樹様は怒ったりしないでしょと夏凛は冷静にツッコむ。
なぜだろう。東郷は車椅子に座って笑顔でいるだけなのにすごい怖い。
「本当なら、本当なら私が食べたいくらいなのに…」
「なにも泣かなくたっていいじゃない」
本当に涙を流して悔しがっている東郷にドン引きしながらも仕方なく夏凛は2つのお弁当を受け取ることにした。
「じゃあ、はいこれ」
夏凛は東郷の前に友奈から貰ったお弁当を差し出す。
「夏凛ちゃん?」
「さすがにあたしも弁当2つは食べられないし、欲しいんなら貰ってちょうだい」
「でも、これは友奈ちゃんが夏凛ちゃんのために作ったお弁当で…」
「貰ったあたしがどうしようとあたしの勝手でしょ。不満なら、あんたの弁当と交換ってことで」
「夏凛ちゃん!」
東郷は車椅子から身を乗り出し、対面にいる夏凛の手をぎゅっと握る。
「私、あなたのことを少し誤解していたわ。夏凛ちゃんいい人」
「お、おう。さすがに2個も食べられないから東郷のは夕食にいただくわ。弁当箱は明日返すから」
「でも明日は土曜日でお休みですよ、夏凛さん」
突然仲良しになった東郷と夏凛に、樹が発言する。神世紀の小、中学校は土日休みで部活参加の人間以外は学校には来ないのだ。
「あ、だったら2日後に幼稚園でレクリエーションがあるからその時返しなさいよ」
と風。レクリエーションという言葉に夏凛は首をひねる。
「ちょっと前から来てた依頼でね。アタシと友奈は人形劇。樹と東郷はナレーションと効果や演出を担当するから、夏凛は丹羽と一緒に元気いっぱいの子供とドッジボールや鬼ごっこしたりしててちょうだい」
「丹羽君はすごいんだよ。子供たちにすっごい人気なんだ」
「あれは丹羽君というより、丹羽君が出すアメとかお菓子が人気なのよ友奈ちゃん」
「でも、実際男手があって助かってますよね」
「まあね。重いものとか積極的に運んでくれるし、スカートをめくろうとしたり髪を引っ張ったりしようとする子を止めたりとか色々助かってるけど」
勇者部の面々が言う丹羽の評価に夏凛は1人納得する。
なるほど、ただの変態ってわけじゃないのね。
いや、そうじゃなくて。
「ちょっと、何勝手にあたしも頭数に入れてるのよ。あたしはそんなのには付き合わないわよ」
夏凛の言葉に今度は勇者部4人が不思議そうな顔をする。
「え、でも夏凛ちゃんさっき勇者部に正式に入部したよね」
「そうよー。入部した以上はこの部の活動方針。ひいては部長のアタシの言うことには服従してもらうわ」
「お姉ちゃん、それ職権乱用」
「ダメですよ風先輩、完成型勇者でも不得意なことの1つや2つあるんですから」
東郷の言葉に夏凛はカチンと来た。つい「できらぁ!」と返事してしまう。
「アタシは完成型勇者よ! 潜入任務だって完璧にこなしてやるわ。いいじゃない、やってやるわよそのレクリエーションとやら」
「そうなの? ありがとう。じゃあ詳しいことはこのプリントに書いてあるから。間違って部室に来ないようにね」
「遅くなりました」
夏凛がプリントを受け取ると同時に部室の扉を開けて丹羽が入ってくる。
『スミー!』
と同時に丹羽の胸元が光り、夏凛が見たことのない人型の精霊が東郷の胸元へ飛び込んできた。
「あら、スミちゃん。いらっしゃい」
『スミー、スミー。ふかふかー』
「これが精霊? ただのエロガキじゃない」
東郷の胸元に顔をうずめ、ぐりぐりしている白髪の人型精霊に夏凛は言う。
別に東郷のエベレスト級の胸がうらやましくて邪険な物言いになったわけではない。わけではないったらわけではない。
「スミちゃんは丹羽君が初めて呼んだ精霊で、とってもかわいい子なんだよ」
「東郷に特になついてるから、最近じゃ東郷の精霊じゃないかとアタシは思い始めているわ」
「まあ、なついている理由が理由ですからね」
と、樹がなぜか自分の胸元を見ていた。不審に思う夏凛の胸元を見て、スミの目がキランと光る。
『ビバーク!』
「きゃあ!?」
乙女らしいかわいい悲鳴だった。スミが夏凛の胸元に張り付き、登頂を目指してよじ登ろうとしたが…すぐに離れてしまった。
『日和山か。ハイキングにもならん』
その時、空気が死んだ。
日和山とは日本列島がまだ存在していたころ、それまで日本で1番低い山として有名だった天保山を抜いて日本一低い山の座に輝いた山である。
その名称と偶然同じ名前を持つ某アニメの胸が謙虚なキャラが「壁」とか「板」とか「エターナルぺったん」「もうひよりちゃんに失礼でしょ」とか言われているが今はそんなことは関係なく。
言葉から何か侮辱的なものを感じたのだろう。夏凛が無言で震えている。
「だ、大丈夫ですよ夏凛さん。わたしも讃岐平野って呼ばれたんですけど、それより全然大丈夫だと思います」
ちなみに言われた日、樹は姉の風が半狂乱になるほど深く暗く落ち込んだ。
それ以来スミを抱っこしようとすることはなくなり、いつもスミが頭をのせる東郷の胸をうらやましそうに見ている。
「そうよ、夏凛。なんだかんだ言って、あんたも樹も成長期なんだし」
「お姉ちゃんは黙ってて」
「アッ、ハイ」
妹の圧の強い言葉に風は黙った。スミから山認定されている風は持たざる者の樹にとって希望であると同時に敵なのだ。
「もん」
震えていた夏凛の口から言葉が漏れた。勇者部の面々は聞き逃すまいと耳を澄ませる。
「将来、絶対大きくなるもん」
あ、これマジな奴だ。東郷と風がなんと声をかけようかと迷っていると、樹が夏凛に抱き着いた。
「大丈夫ですよ、夏凛さん。わたしたちは成長期なんですからこれからいくらでも大きくなります!」
「樹、それさっきアタシが言ったやつ」
ぎゅーっと抱きしめあう2人に「にぼいつキマシタワー」と丹羽がまた変な顔をしている。
この野郎、こんな状況になったのは誰のせいだと…と風はちょっぴり殺意が沸いた。
「それに胸に脂肪がないほうが動きやすいし! あたしのこれは機能美なのよ」
「そうです! コンパクトボディ最高!」
勇者部部員2人が意気投合していた。
夏凛ちゃん、思ったより早くみんなと仲良くなれるかもしれない。そんな光景を見て友奈は思った。
日曜日、讃州中学勇者部に待ち合わせの30分前にたどり着いた夏凛はまだ誰もいないことに拍子抜けした。
てっきり風あたりが1時間前に来ていて、「遅いぞ完成型勇者!」と煽られるものと思っていたのだ。
それに対し、「はいはい、あたしにマウントとるためにこんなに朝早くからご苦労様」と嫌味たっぷりで言う気満々だったというのに肩透かしを食らった気分だ。
仕方なく職員室で鍵をもらってきて室内で待つ。だが集合時間の20分、15分前になっても誰も来ない。
あいつら、能天気なだけじゃなく時間にもルーズなのねと夏凛が1人呆れていると、スマホが着信を知らせてきた。
発信者を見ると樹からだった。遅れていることを謝るためにかけてきたのだろうか。
まあ自分は完成型勇者だから寛大な心で許そうと決め、夏凛は電話のマークをタップして上に持ち上げる。
「もしもし?」
「もしもし、夏凛さんですか? 今どこです?」
「どこって、部室だけど?」
夏凛の言葉に樹が「部室だって」という声が聞こえる。それと同時に風が「あー、やっぱり」という声も。
「夏凛さん、お姉ちゃんが渡したプリント持ってますか」
「ええ。ちゃんと書いてある通り部室に」
「それ、ミスプリントなんです」
え? と夏凛は目が点になる。するとスマホから聞こえてくる声が風に変わる。
「もしもし夏凛。アタシあの時間違って部室に来ないようにって言ったんだけど聞いてなかった?」
そういえば聞いたかもしれない。だが同時に丹羽が部室に入ってきたのとスミの登場にびっくりして聞き逃してしまったのだ。
あとその後起こった出来事が衝撃的すぎて記憶から消したというのもあるが。
「ごめん、アタシのミスだわ。昨日ラインで最終確認した時確かめるべきだった」
申し訳なさそうに言う風に夏凛の口から言葉は出なかった。
ちがうわよ。これは聞き逃したあたしのせい。なんであんたが謝ってるのよ。
そんな思いが胸の中で罪悪感とともにぐるぐる回り、結局言葉にならず沈んでいく。
「一応住所はそこに書いてある通りだからもしよかったら来てくれない? 今からならギリギリ間に合うかも」
「いいわよ。ごめん、準備中で忙しいのに。じゃあね」
夏凛は一方的に通話を切る。するとすぐ風から電話がかかってきたので今度はスマホの電源を落とした。
今回勇者部が依頼を受けた幼稚園は電車で40分ほどの場所にある。今から駅まで行って電車に乗り、徒歩でそこに向かった頃には撤収作業が始まっているだろう。
馬鹿みたいだ。勝手に1人で盛り上がって。結局またつまづいてしまった。
これでは先日の山羊座戦と同じだ。周囲に自分の存在を認めさせようと勝手に突っ走り、失敗したのと同じ。
「なにやってんのよあたしは」
猛烈に自分に腹が立った。なにがレクリエーションだ。そんなことをしている暇があったらもっと自分を磨き上げ、完璧な勇者とならなければ。
夏凛は部室を後にした。向かうのは風達がいる幼稚園ではない。讃州市に引っ越すにあたり下見した時に見つけた自己鍛錬にいいと思っていた人があまり来ない海辺の砂浜。
二振りの木刀を手に演武のような動きで敵を想定した攻撃のシュミレーションを開始する。
もっと早く、もっと鋭く。
いったいどれくらい時間が過ぎただろうか。
『いやー、部活サボって訓練とは夏凛はまじめだにゃー』
唐突に聞こえてきた声に振り向く。そこには丹羽の精霊のセッカがいた。
「何よ…。丹羽の精霊が何の用?」
『セッカだって。自己紹介したじゃんか。それよりいいの? みんな夏凛を待ってるよ』
なんだこいつは。精霊のくせに妙に気安い。
まるで夏凛のことを友達か何かのように語り掛けてくる。なぜだかそれが妙に
「うるさいわね! あたしは早く完璧な勇者にならないといけないことを思い出したのよ。勇者部なんてごっこ遊びで他人に関わっている暇なんてないの!」
『いやいや、それが約束ぶっちしていい理由にはならないでしょ。夏凛だってそれはわかってるでしょ』
精霊の言葉に夏凛は「うっ」と怯む。その通りだがどうしてそれを精霊なんかに指摘されなければならないのか。
「うるさいわね! あたしは早くみんなに認められなければいかないのよ! 兄貴なんかの贔屓じゃなくて、実力で勇者に選ばれたって認められなくちゃ、価値がないの!」
『そのみんなって誰さ? 勇者部のみんな? お兄さん? それとも大赦の大人たち?』
「みんなよ! あんたが言った他にも大赦で勇者の座を巡って競い合ってたみんな! あの子たちが捨て石なんて呼ばれずに、三好夏凛と一緒に勇者の座をかけて一緒に戦った1人の人間として認められるようにあたしが頑張らなきゃ」
『馬鹿みたい』
内心を吐露する夏凛に、セッカの冷たい言葉が響く。見るとさっきまでの柔和な表情は消え、どこか冷たい表情のセッカがいた。
『そんな風に頑張って、その子たちがあんたに感謝するとでも? 逆に妬んだりされるとか思わないわけ? 結局あんたがどんなに頑張って結果を出したとしてもその子たちが捨て石だって事実は大人たちにとって変わらないよ』
「な、なによあんた! 精霊のあんたに何がわかるっていうのよ!?」
『わかるんだにゃーこれが。こっちもいろいろ複雑な環境で戦ってきたからさあ』
冷たい表情の仮面をかぶったかと思ったらまた元の表情に戻りセッカは夏凛に言う。
『所詮大人なんてそんなもんよ。自分にとって有益か。役に立つか。最低な奴だと自分を守るための道具としか思ってないんだから」
「そんなこと! 精霊のアンタに何がわかる…わかるっていうのよ」
夏凛の言葉は後半消え入るようだった。
セッカの言葉に大赦の職員たちの会話を思い出したのだ。
「捨て石」「星屑に食われないで帰って来た」「使えるやつら」「三好の娘より扱いやすい」
そのどれもが1人の人間としてでなく、消耗品や便利な道具に対する評価ではなかっただろうか。
『こういうの、私の性分じゃないんだけどにゃー。あっちでいろいろ勇者部のみんなといたせいかな。こんなにお節介になったのは』
セッカは1人でぶつぶつと何事か喋っている。もっとも考え事をしている夏凛は気づかなかったが。
『ともかく、誰かに認めてもらいたいから戦うなんて命を縮める理由にはなっても生き残る理由にはならんのだよ。これ、人生の大先輩からの金言』
「人生って、あんた精霊でしょ」
『お、ツッコミが戻って来たね。さすが完成型ツッコミ勇者』
「誰が完成型ツッコミ勇者よ!」
にこにこ笑うセッカの言葉に、思わず夏凛がツッコむ。不思議と嫌なやり取りではなかった。
『まあ、私から言えるのは肩の力を抜いてほどほどに頑張りなさいってことよ。夏凛には5人も仲間がいる。私みたいに1人で頑張らなきゃいけないってわけでもないんだからもっと頼って頼って』
「1人でって、あんた一体…」
『あ、今の忘れて。まだ夏凛には関係ないことだから。それよりスマホ、電源入れてみなよ』
セッカの言葉に夏凛は懐に入れていたスマホを取り出して見る。電源はオフにしたままだ。
「でも」
もし電源を入れて、自分を責めるメッセージしかなかったらどうしよう。あるいはメッセージすらなく勇者部のみんなに呆れられていたら?
それが怖くて夏凛がスマホを持ったまま固まっていると、右手が優しく触れられ、親指がスマホの画面に触れた。
「あ」
『もー。なに怖がってんのさ。大丈夫だって』
右手を見ると、セッカがいた。優しい顔でしょうがないなぁといったように夏凛を見ている。
『だってあの勇者部だよ。夏凛を、仲間を見捨てるなんて天地がひっくり返ってもあり得ないでしょ』
セッカの言葉とともに電源が入り、画面が表示される。
そこには100を超える通知が入っていることを伝え、そのどれもが夏凛を心配する内容だった。
「どうしたの?」「体調悪い?」「怪我したんですか?」「連絡求む」「お願い、返事して」「部室に丹羽を向かわせたから、もうちょっと待ってて」
「なんなのよ、こいつら…」
どうして部員になってまだ数日の自分にこんなに優しくしてくれるんだろう。
自分は生意気で、勝手に仕切って、今まで一緒に戦ってきた仲間たちとは異物な存在で、ともすれば敵視されかねない存在なのに。
『ね。みんな夏凛のこと大好きな奴らしかいないのよ』
夏凛の疑問にセッカが答えた。そのままくるくると回るように飛ぶと、セッカは宙に浮く。
『じゃあ、私はご主人に夏凛が無事だって伝えてくるから。あ、それとも夏凛がみんなに返事するほうが早いかにゃー? 競争だ、よーい、ドン!』
「あ、ちょっと!?」
勝手に言うとセッカは飛んで行ってしまった。
夏凛はどうしようかと悩んでいたが、やがて決意し震える手で文章を打ちこんでいく。
「勝手に約束破ってごめん。体調は大丈夫。みんな心配しないで」
文章はできた。だが、送信ボタンがなかなか押せない。
もしこれを送ってみんなから見限られたらどうしよう。それが心配で怖いのだ。
『もー、まだ足踏みしてんの? これだからツンデレさんは』
「え?」
気が付けば丹羽の元へ行ったはずのセッカがまた横にいた。驚いている夏凛の右手をまた掴み、送信ボタンをタップさせる。
「あー⁉」
『大丈夫。みんないい子だから夏凛が心配することにはならないよ』
そう言い残しセッカはまた飛び立つ。今度こそ丹羽の元へ行くようだ。
「あ、あんたなんでそんなに」
そんなにあたしのことを構うのよと言う夏凛の言葉に、セッカは『それはこっちの台詞なんだけどにゃー』と内心でつぶやく。
そして1人になりたいときのために部屋の合い鍵をくれたり、ツッコミ型勇者として防人組の中から新しい人材を発掘したりと同じツッコミ型勇者の夏凛とは不思議と馬が合った。
いつからだろう。1人が楽から1人でいることが寂しくなったのは。
それもこれもみんな、勇者部のみんなのせいだ。だから別れの時までみんなには責任を取って今まで1人で戦ってきた自分を精一杯甘やかしてもらおうと雪花も勇者部のみんなを頼りにしてきた。
今の夏凛はあの夏凛になる前だとご主人に聞いてはいた。最初見たときはへぇ、夏凛にもこんな時があったんだと思ったものだ。
と同時に「あ、この娘このままじゃ死ぬな」と思い自分らしくもないお節介を焼いてしまった。
本当に、らしくない。勇者だったころの自分は最悪自分だけが生き残るための方法として山に立てこもろうと準備していたほどの人間だったのに。
あの娘もこれから自分みたいに変えられていくんだろうなと思いつつ、セッカが主である丹羽の元にたどり着くとスマホに文章を打ちこんでいるとこだった。
『ただいまー。どう、夏凛は』
「おかえり、セッカさん。どうやら心配ないみたいだよ」
丹羽の言葉にセッカはスマホの画面をのぞき込む。
そこには夏凛のメッセージに安堵する勇者部メンバーそれぞれのメッセージと、急に自分の誕生日パーティーが行われると聞き慌てている夏凛のメッセージが表示されていた。
「御用改めである!」
「ちょっと、なんであたしの部屋の合い鍵をあんたらが持ってるのよ!?」
部屋で勇者部が来るのを待っていた夏凛は、てっきりチャイムを鳴らしてから来るかと思っていた勇者部が堂々と鍵を開けて入って来たのに驚き思わず声を上げた。
「え? お兄さんに夏凛ちゃんの誕生日をお祝いしたいって相談したら快く4人分渡してくれたよ」
「あの馬鹿兄貴めぇ…」
友奈の言葉に夏凛は歯噛みする。個人情報流出の件といい、一体何を考えているのか。
「ちなみに俺はもらえませんでした」
「まあねー。さすがに年頃の男子に妹の部屋の合い鍵は渡せないでしょ」
「え、でもお姉ちゃん丹羽君の部屋の合い鍵持ってるじゃない。それはいいの?」
「アタシはいいの。部長だから! それより夏凛、台所借りるわよ」
というと風を先頭に勇者部のメンバー5人が夏凛の部屋に入り、ワンルームの部屋はすぐに狭く感じる状態となる。
「いいけど、うち調味料とか何もないわよ」
「ほんとだー。冷蔵庫の中にゼリーとサ〇ウのごはんしかないよ」
「勝手に人ん家の冷蔵庫開けるな!」
堂々と冷蔵庫を開ける友奈に思わずツッコむ。ちなみに他には勇者部メンバーが来ると聞いて急いで近くのコンビニで買ってきた2リットルのオレンジジュースとお茶が入っている。
『風。頼まれていたもの、持ってきたぞ』
「お、ナツメありがとう。どれどれ…今日も大漁ね!」
「トコブシにアワビとサザエ…あら、イシダイみたいなお魚もあるのね。これは腕の振るい甲斐がありそうね」
中空から現れた丹羽の精霊、ナツメが持ってきた海の幸を風と東郷に見せている。それを見て2人はこれから作る料理のメニューを考えているようだ。
「ねえ、あたし海辺で訓練してた時にあの精霊見たんだけど、あれって密漁」
「三好先輩。バレなきゃ犯罪じゃないんですよ」
夏凛の発言に丹羽が顔を寄せて小声で言う。
「いや、犯罪でしょ!」
「大丈夫です。最悪大赦がもみ消してくれますって」
悪い顔だ。というかこいつは大赦に罪を擦り付ける気満々のような気がする。
「あんたねぇ…」
「わーい、東郷さんと風先輩のお料理だ! 楽しみだなぁ」
「あ、じゃあわたしもお手伝いを」
「やめて!」
樹の発言に友奈と夏凛以外のメンバーが顔色を変えて必死に止めた。
「えー?」
「犬吠埼さん、三好先輩のお兄さんが誕生日ケーキを近くのお店で予約してくれてるみたいだから、それを取りに行こう」
「そうよ樹。丹羽と一緒に取りに行ってきて。その間に料理作っておくから」
丹羽と風が必死に樹の興味を別のほうへ向かせようとしている。なんなのこれ? と夏凛は不思議がる。
「友奈ちゃんも行ってくる?」
「あ、私はここで夏凛ちゃんとお話してるよ」
「……そう」
「東郷、なんか黒いオーラ出てるんだけど。今日は夏凛の誕生日なんだから、それを忘れないでね」
「大丈夫です風先輩。バレないようにヤりますから」
「大丈夫じゃねー⁉ 友奈、東郷になんか言ってやって!」
不穏な発言をする東郷に風は相方の友奈に救いを求めるが、当の友奈は夏凛の隣に陣取り部屋にあるトレーニング器具に興味津々の様子だ。
「え? んんーっと、東郷さん。ご飯楽しみにしてるね」
「もちろんよ友奈ちゃん。腕を振るうわ!」
友奈の言葉にすっかりご機嫌になった東郷はすごい包丁さばきを見せる。
こうして夏凛誕生日パーティーの準備が始まったのだった。
丹羽と樹が持ってきた誕生日ケーキと東郷と風が腕によりをかけて作った料理が机に並べられる。
誕生日を祝う歌が歌われ、夏凛がろうそくの灯を消すと拍手が起こった。
「夏凛ちゃん誕生日おめでとー」
友奈の言葉に他の勇者部メンバーも「おめでとう」と続ける。それに夏凛は顔を赤くし、「あ、ありがと」と返す。
「それじゃご飯食べよー。美味しそうだねー」
「ええ。やっぱり鮮度がいいとこっちも腕の振るい甲斐があるわ」
東郷の言葉に夏凛は料理を見る。なるほど、たしかに言うだけのことはあるようだ。
「犬吠埼先輩、大丈夫ですか? 疲れているみたいですけど」
「うん、東郷が変なことしないか隣で気使ってたから。まあ、取り越し苦労だったんだけどね」
「お料理、手伝いたかったなー」
少し憔悴している風を気遣う丹羽とそれに参加できなかったことを残念がる樹。
「い、樹ちゃんはもうちょっと練習してから…ねぇ風先輩」
「そ、そうね」
樹の発言に東郷と風は冷や汗を流しながら言う。特に東郷は風の誕生日会の前例があっただけに割と必死だ。
「あの…みんな。今日はありがとう。それとメールでも言ったけど、今日は約束破ってごめんなさい」
勇者部全員を前に、夏凛は頭を下げる。
「え、どうしたの急に⁉ 変なものでも食べた?」
「あんたらと同じものしか食べてないわよ! じゃなくて、今日のあたし、すっごく自分勝手だった。ごめん」
思わずツッコんでしまったが今日の出来事を振り返り、素直に反省の言葉を告げる。
「そうね。連絡はできればもっと早くほしかったわ。でももとはと言えばプリントミスしたのを言わなかったアタシが悪かったのもあるし」
風の言葉に友奈が待ったをかける。
「風先輩のせいじゃないですよ。私が夏凛ちゃんに昨日言っていれば」
「いいえ友奈ちゃん。プリントを作ったのは私なんだから、元を正せば私が」
「わたしももっと早く夏凛さんに電話していれば」
「それを言うなら犬吠埼先輩が話している時に部室に入って来た俺が」
「そうね。考えてみれば丹羽が悪い」
「うん、丹羽君が悪いかな」
「どう考えても丹羽君が悪いわね」
「丹羽くん、反省してね」
「ちょっと、ひどくないですか?」
手のひら返しをして丹羽を責める勇者部一行。それがコントのようでおかしくて、夏凛は吹き出していまう。
「…ぷっ、なんなのよあんたら。あははは」
「あ、夏凛ちゃんやっと笑ってくれた!」
「まったく。主役がずっと暗いままだとせっかくのパーティーなのに盛り上がらないわよ」
「そうですよ。じゃあ、そろそろプレゼントの出番ですかね」
「え、いいわよ別に」
樹の言葉に夏凛は構える。こんなに良くしてもらったのにプレゼントまでなんて贅沢が過ぎる。
「まあまあ、今回は夏凛に勇者部のみんなを知ってほしいという意味も込めてプレゼントを選んだのよ」
「私からはこれ! 押し花手帳。私、押し花が趣味なんだ」
「あ、ありがとう。大事にするわ」
正直夏凛にとっては微妙なセンスの物だったが、友奈がくれたものと考えるとすごく嬉しい。
「私は秘蔵の友奈ちゃん写真集。これを夏凛ちゃんに…夏凛ちゃんに」
「いや、血の涙を流すくらい嫌なら別に。それにそんなにいらないし」
本当に東郷は血の涙を流していた。夏凛に差し出した写真集も強く握り、渡すまいとしているのが見え見えだ。
「そんな! これは世界遺産に残すくらいの至宝なのに⁉」
「とりあえずあんたにとって友奈がどんなに大切なのか充分伝わったわ」
「アタシからはこれ。女子力アップグッズ!」
「なんか雑誌の一番後ろに乗ってそうな通販グッズね。大丈夫? 騙されてない?」
「あはは。私からはこれです。わたしとおそろいのタロットカード。占いの方法とか書かれた紙も入ってますからいつでも占えますよ」
「俺からはこの三好先輩をモデルにした小説を」
「えぇ…あんた、あたしにこれを読めって言うの?」
夏凛は微妙な顔をして受け取るだけ受け取る。素人の自作小説を読めだなんて、これは何の罰ゲームだろう。
ちなみに内容は部長の風と同級生の友奈、そして夏凛と友奈の仲に嫉妬する東郷、風の妹樹による夏凛中心の百合ハーレム小説なのだが、自分の心を読んだかのような的確な心理描写と友奈への告白シーンにその後顔を真っ赤にして丹羽に怒鳴り込むことになる。
「あとこれはお兄さんから…夏凛さんの好きな超高級煮干し」
「ええっ!」
最高級煮干しという言葉に夏凛の目が輝く。やはり離れて暮らしているとはいえ兄は兄。妹の喜ぶものを知っていたのだろう。
「の抱き枕です」
「なんでよ!?」
予想の斜め上を行くプレゼントに思わずツッコんだ。
「これ、完全オーダーメイドの限定品らしくて、入手には苦労したそうですよ」
「何考えてんのよあの兄貴は…って、これ臭っ! いりこ臭い⁉」
「どうやらその臭いが売りのようね。開発部でもその香りを再現するのに苦労したってネット記事に書いてあるわ」
東郷がスマホを開いて抱き枕の記事を見せてくれた。たしかに貴重な品だけども。
「こんなものをよこすなんて…嫌がらせかこの馬鹿兄貴ぃいいい!」
ちなみに臭いがなくなる1月以上経っても夏凛ちゃんは抱き枕を使い続けたそうな。
妹へのプレゼント使ってもらえてよかったね春信おにいさん。
ゆゆゆいによればテラの次の単位はペタだから悲観することはないぞにぼっしーと樹ちゃん。
ツッコミグループエピに隠れがちだけど、せっかりんはいいぞ。
お互いを信頼しあってる感じが好きだ…。