詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか? 作:百男合
夏凛ちゃんの誕生日をみんなでお祝いしたよ。
夏凛「ちょっとあんた」
丹羽「はい、なんですか三好先輩」
夏凛「あんたが書いた、アレ…小説だけど」
丹羽「あ、読んでくれましたか?」
夏凛「一応ね。で、なんで最後にあたしが友奈とその…ちゅ、ちゅーしちゃってるのよ」
丹羽「俺の趣味です。非常にマイノリティな」
夏凛「ありえないでしょあんなの! それにあんな、あたしの思考をトレースしたような文章…」
丹羽「あ、ちなみに犬吠埼先輩ルートと犬吠埼さんルート、姉妹に挟まれるルートと東郷先輩と結城先輩の同学年ハーレムもありますけど読みます?」
夏凛「ふざけんな! 誰の許可を得てそんな…没収よ没収!」
丹羽「あ、了解です。じゃあデータ消しておきますので」
夏凛「待ちなさい。あんたの言葉だけじゃ信頼できないわ。ちゃんと消すとこ見せるまで納得しないわよ」
丹羽「はいはい」ニヤリ
その後結局言いくるめられて全ルートの小説データをもらい、家に帰ってその日のうちに全部読破した夏凛ちゃんでした。
6月も半ばを過ぎると気温はすっかり夏模様だ。
晴天なら最高気温が32℃を超える日も多く、梅雨独特の湿気が不快感を強く感じさせる。
もっとも神樹の恵みにより守られている四国に梅雨前線や地球温暖化などの影響があるかはわからないが、と丹羽は額の汗をぬぐう。
今は放課後。勇者部の部活中だ。
依頼は学校の体育教師から。プールに水を張る前に軽く掃除してほしいとのことだった。
というかこういうのは体育会系の部活全員か上級生がクラスの垣根を越えて全員でやる作業だったような気がするのだが、神世紀だと違うのだろうか?
依頼を受けた風と友奈、夏凛と丹羽は掃除道具を取り、配置についた。
プールに浮かんでいた藻や枯れ葉、虫の死骸などはすでに掃除されていて、風達はブラシで床や壁のぬめりをデッキブラシで洗い流せばいいだけらしい。
ちなみに東郷と樹は部室で別の依頼の猫の飼い主探しのビラを作ったりホームページで呼びかけたりしている。
「さあ、じゃあやるわよ!」
スクール水着に体操服を着た風が言う。マニアが見たらよだれものの格好だが、残念ながらここには女子と下にあるべきはずのものがない無性の男子生徒しかいなかった。
「はーい、風先輩。結城友奈いっきまーす」
声とともにブラシを持った友奈が「おりゃー」と声をかけながら床にブラシをかけていく。
「ちょっと友奈! 走ると転ぶから気をつけなさい!」
いつの間にか名前で呼ぶようになった夏凛が注意を促す。どうやら前回の誕生日あたりから急速に勇者部のみんなと打ち解けてきたようだ。
「きゃっ」
「危なっ!」
夏凛の注意通り足を滑らせて背中から頭を打ちそうになる友奈にヘッドスライディングで丹羽がつっこむ。ギリギリ間に合った。
「あ、ありがとう丹羽君」
「いえ、気を付けてくださいね。結城先輩」
本当は勇者には精霊がいるので命の危険になるようなことはないのだが、だからといって怪我をするのを黙ってみているわけにはいかない。
というか、こういうのは夏凛が受け止めて「ほら、言わんこっちゃない」「あはは、ごめんね夏凛ちゃん」というのが丹羽にとって理想的なのだが。
ちなみに友奈と夏凛も風と同じくスク水の上に体操服という恰好だったりする。もっとも丹羽の背中に感じるのは女性特有のプニプニボディの柔らかさではなく体操服のごわごわ感と重さだけだが。
「大丈夫、丹羽君? 怪我は?」
「ないです。ただ服がぬめりだらけになったのでちょっと洗ってきます」
本当は顔から突っ込んだので顔と髪もヌメヌメしていたのだが、言わないでおいた。今はとりあえず顔を洗わなければ。
「犬吠埼先輩、顔を洗いたいので水お願いします」
「りょうかーい。ほれほれ」
きゅっきゅとバルブをひねる音がして、風が持つホースから水が流れる。
少しひねりすぎたのか、ホースから大量の水が流れ丹羽の顔全体にぶち当たる。それだけにはとどまらず風のほうにも反射し、水が体操服を濡らした。
「うわっ、前が見えない」
「あ、ごめん丹羽。すぐ止めるわね」
キュッキュとバルブを閉める音が聞こえ、「大丈夫?」と心配する風の声が聞こえる。丹羽が目を開けるとそこには――
『ふんっ』
「目が、目がぁあああ!」
なぜかナツメに思いっきり目つぶしをされた。
「なにするんですかナツメさん!?」
『すまん主。今の風の格好を主に見せるわけにはいかない』
「え? え?」
風だけが何を言っているかわかっていないようだが、大体察した。
おそらくホースの水が風にかかっていわゆる濡れ透け状態になっているのだろう。しかも下がスクール水着なので男からしたらよだれものだ。
「犬吠埼先輩。できれば俺が持ってきた荷物の中にジャージの上があるのでそれ着てもらえませんか。多分今の格好、男にとって目に毒ですから」
丹羽の言葉に風は視線を下ろし、今の自分の状況に気づいたようだ。
「あ、ごめん。でももともと濡れてもいい格好なんだから、別にいいのに」
「よくない人がここにいるので。とりあえず隠してください。俺はその間掃除してますから」
ちなみにここで認識の
丹羽としてはナツメのことを言ったのだが、風は丹羽が恥ずかしがってそう言ったのだと解釈する。
なんだ、結構かわいいとこあるじゃない。
女として見られていたことをちょっぴり嬉しく感じながらも、風は飛び込み台の白いブロックの後ろにあるベンチに置かれた丹羽のバッグの元へ急いだ。
「ふー、視力戻って来た。ナツメさん、次からは一言くださいね」
『了解した』
ナツメはそう言うと丹羽の中へ引っ込んだ。丹羽は水で濡れた床をブラシでこすりながら友奈と夏凛はどうしているだろうと周囲を見る。
「見なさい! これが完成型勇者のブラシ捌きよ!」
「わー、夏凛ちゃんすごーい。よーし、私も負けないよー!」
2本のブラシを持った夏凛によって、床がすごい勢いで磨かれていた。友奈も負けじとブラシで床をこすっている。
これなら思ったよりも早く終わりそうだ。
「おまたせ。じゃあ1回水流すからみんな避けてねー」
ジャージの上を着て戻って来た風がみんなに声をかけ、ホースで放水を始める。
風が水を流すとどんどんブラシをかけた部分の汚れが落ちていき、ぬめりが落ちていく。
「ちょ、風! こっちに水かけるんじゃないわよ!」
「ほれほれ、完成型勇者なんでしょ。避けてみなさい!」
あらかた汚れを流し終わると、風がホースの水で遊び始めた。夏凛や友奈に向かって水をかけ、2人が避ける姿を見て笑っている。
もちろんじゃれあいだ。現に友奈はきゃっきゃと笑いながら自ら水を浴びに行っているし、夏凛もそれをわかっているのかあまり怒った表情ではない。
あら^~。ふうにぼゆう尊いんじゃ~。
思わず尊いモードになる丹羽。するとその胸が光り、1体の精霊が飛び出してきた。
「うわっ」
まだぬめりがとれていない部分にうっかり足を取られ、転びそうになった夏凛を誰かが支えてくれる。見るとそれは丹羽の精霊のセッカだった。
「あ、ありがとう」
『いやいや。いい感じで肩の力抜けてるじゃん。その調子その調子』
「余計なお世話よ! でも、ありがとう」
夏凛の様子ににっこり笑ってセッカは丹羽の中へ帰っていった。あれ? いまのひょっとしてせっかりんだった?
思わぬカップリングににっこりしていると、夏凛と目が合う。ん? なんか怒ってる?
「見るな! この変態!!」
「ウボアーっ!?」
顔を真っ赤にした夏凛が投げた2つのデッキブラシが丹羽の頭にクリーンヒットする。どうやら水を浴びてびしょ濡れになった自分と友奈を見てスケベなことを考えていると誤解したらしい。
違うんだ。俺はただ女の子がきゃっきゃうふふしてるところが見たいだけで、そんな下心は…あるかもしれないけど誤解だ!
という丹羽の弁解も言葉にならず、今度は丹羽の顔に風のホースから水が放出される。
「丹羽のすけべー。水でもかぶって反省しなさい」
「ごぼごぼごぼっ⁉」
「風先輩、丹羽君がかわいそうですよ」
と友奈。止めようと丹羽に向かって行こうとすると床のぬめりに足を取られ、転びそうになる。
「あ」
その時友奈が保有する主人公補正特有のラッキースケベが発生した。
足を滑らせた友奈はとっさに丹羽が履いている体操服のハーフパンツを掴んだ。しかし勢いを止めることができずそのまま滑り、ハーフパンツが下までずり下げられてしまう。
結果、丹羽の上半身体操服(濡れ透け)、下半身水着という誰得な姿が披露された。
無論無性で下の部分は作ってないから股間のふくらみはないのだが、初心な少女の集まりである勇者部の部員たちは顔を真っ赤にしている。
「ご、ごめん丹羽君!」
「友奈、早く元に戻しなさい!」
「あー、大丈夫ですよ結城先輩。ちょうど濡れてたんで着替えようと思ってたので」
手に持った丹羽のハーフパンツを返そうとする友奈から受け取ると、丹羽は上が体操服、下は水着の姿になる。
「じゃあ、掃除再開しましょうか」
「「いやいやいや!」」
なぜか風と夏凛の2人からツッコミを受けた。
「ちょっとは恥じらいってもんがないのあんた!」
「丹羽、あんたさっきアタシの格好を目の毒って言ったけどさぁ。今のアンタも結構危ういと思うわ」
2人の言葉に丹羽は首をかしげる。男の濡れ透け水着姿なんてどこに需要があるのだろう。
「みなさんみたいなきれいな人ならともかく、男の俺の格好なんて誰も気にしないでしょう」
「「気にするわ!」」
風と夏凛に強く言われ、結局この後丹羽はジャージの下を履いて作業することになった。解せぬ。
翌日、体育の時間。
2年生男子は運動場でサッカー。女子は水泳と讃州中学では男女別で水泳の時間を分けている。
中学までは男女混合で水泳の授業を行うところもあるのだが、讃州中学では違うらしい。女子のスクール水着がギリギリ最後まで見られる年齢である中学生の男子にとってはお気の毒としか言いようがない。
「それは丹羽くんが悪いわね」
「でしょ! あいつ変なところで無防備だから、こっちが気を遣うわよ」
昨日のプール清掃の話をしていた夏凛は、東郷の言葉に我が意を得たりというようにうなずく。
「うーん。丹羽君が女の子としてこっちに気を遣ってくれるのは悪い気はしないけど、本人が自分が男として女の子にどうみられているかまったく気にしていないのはいただけないわね」
夏凛の話から改めて丹羽の危うさを痛感した東郷は難しい顔をした。
丹羽明吾の評価は、実は結構高い。
それは勇者部唯一の男子メンバーということを除いても細かいところに気が付くし、女子の嫌がることはやらない。他の誰かが女子に意地悪しようとしているのを止める姿に感謝している女子も多い。
もちろんそれは丹羽の目の届く範囲内で行っていることだが、この間の幼稚園でのレクリエーションではそれが顕著に表れ男の子よりも女の子に群がられていた。好きという感情をいじわるという行為でしか表せない同い年の男の子よりよっぽど魅力的に見えたのだろう。
ちなみに讃州中学内では樹と風の姉妹2人と付き合ってるナンパ野郎というレッテルが一時期貼られていたが、丹羽本人が樹と風の名誉のため全力で生徒1人1人にそれを否定して回ったことで好感を持った人間も多い。
つまるところ、女子にとって丹羽は非常に都合がいい存在というか意地悪したり精神面がまだ子供な同級生の男子よりもちょっといいなと思えるような存在なのだ。
もっともそれは丹羽が普段行っているいい人ムーブのせいで、本命の男子生徒からアプローチされたら女子はそっちになびく程度の物なのでそれほど露骨な影響はない。
「下手にそんなところを見られて、誰かが丹羽君のこと好きになったら風先輩と樹ちゃんが悲しむかも」
「え? 風と樹が? あの子たちそうなの?」
意外な名前が挙がり夏凛は目を点にする。
「多分、勘だけどね。まだ2人も自覚してないと思うけど」
「でも、2人と付き合っているって噂を払拭するため丹羽は苦労して全校生徒に否定して回ったんじゃないの?」
「それが逆に決め手になったのよ。夏凛ちゃんにはわからないだろうけど」
「ちょっと! 何勝手に人が恋愛下手みたいに言ってるのよ失礼な」
東郷が言っていることは本当で、丹羽が自分達の名誉のために全校生徒に否定して回っているという事実を知った時、犬吠埼姉妹は戸惑っていたが決して嫌な顔はしていなかった。
むしろ、自分のためにそこまでしてくれている丹羽に対して好感度が上がったようだと東郷は見ている。
「じゃあ、恋愛の経験はあるの?」
「それは…ないけど。アンタはどうなのよ」
「私は友奈ちゃんがいるもの。絶賛恋愛中よ」
「あー、訊いたアタシが馬鹿だったわ」
東郷の答えに夏凛は半分呆れ顔だ。
「なになに? 何の話?」
プールサイドで足を浸しながら話していた夏凛と東郷の元に、泳いでいた友奈が合流する。
ちなみに体育には参加できない東郷もプールの授業にはみんなと同じようにスクール水着を着て参加していたりする。
飛び込みこそできないが上半身だけ使った古式泳法で見事に泳ぎ、結構いいタイムをたたき出していた。
もちろん水着を着ているということは普段制服に隠されているメガロポリスなボディーも人前にさらされているということでもある。
何人かの生徒がうらやましそうに東郷の胸部を見ていて、夏凛も最初見たときは「馬鹿な…」と同じ年齢とは思えない戦力差に絶望しかけたものだ。
「昨日のプール掃除の話をしてたのよ。丹羽は結構無防備だなって」
「あ、アレね。うん、ちょっとドキドキした」
夏凛の言葉に昨日のことを思い出したのか、友奈の顔が真っ赤になる。
ああ、純真な友奈ちゃんかわいい。
でもその顔を見せる対象が自分でないのは許せない。これはちょっとお仕置きが必要かしら。
丹羽が知らないうちに東郷の恨みを買い、昼休みに制裁が決定した瞬間だった。
「うん、それよりあんたたち。アレに対してツッコミはないの?」
授業が始まってからずっといる夏凛が言うアレに、友奈と東郷は顔を向ける。
そこには丹羽の精霊であるナツメがプールの水面に浮いていて、ご満悦といった表情でいる。
「「でもあれ、丹羽君の精霊だし」」
「いや、そんな一言で納得するほど思考停止してないわよあたしは⁉」
先日の密漁の件もそうだが、勇者部の面々は丹羽の精霊に対して妙に甘いところがある。
なにかおかしいことや考えられないことをしても「丹羽の精霊だし」で深く考えないようにしているふしがあった。
たしかに規格外の精霊だが、セッカの「北海道の勇者」という発言に対しても深くツッコむべきだと思うし、本当に何者かと調べる必要性は感じないのだろうか?
「まあまあ、夏凛ちゃん。そんなに細かいこと気にしていたら血圧が上がるわよ」
「細かいの⁉ あたしが言ったこと全然細かくないと思うんだけど?」
「夏凛ちゃんのそういうの、ツッコミっていうんだよね。セッちゃんに聞いたよ。さすが完成型ツッコミ勇者!」
「誰が完成型ツッコミ勇者かー!」
ガーッ! と友奈の発言に対して怒る夏凛。しかし彼女は気づいていない。
ここにナツメ以外の精霊がいることに。
友奈が泳ぐ姿をずっと防水カメラを持ってプールの中から追尾していた青坊主。
空から友奈と東郷の2ショットを狙いシャッターを切る不知火。だからお前どうやってカメラ使ってんのとツッコんではいけない。
そして姿を隠し、水面から息継ぎのために顔を出すちょっとエッチな表情をカメラに収める刑部狸。
皆東郷の精霊たちだった。
『首尾はどうだ?』
ハンドサインを人知れず東郷が行うと、精霊たちが返信する。
『録画完了』
『ワレ、制空権の確保完了。主と友奈様の写真を撮ったり』
『こんなの精霊の仕事の範囲外だよ…』
2体の精霊は成功を報告してくれたが、刑部狸だけは未だに自分の行動に疑問を持っていた。
洗脳が甘かったかと東郷は内心で舌打ちする。あとであの子はお仕置きね。
「東郷さん、どうかした?」
親友の一瞬の不機嫌な表情を見逃さず、友奈が声をかける。東郷はそれににっこりと笑顔で応え、「何でもないわ友奈ちゃん」と返す。
「まあ、その丹羽だけど。まさかまた盗撮録画とかしてるんじゃないでしょうね」
「大丈夫だと思うよ。ここは校舎から見えないし、さすがに丹羽君も前回怒られて懲りてるって」
夏凛の言葉に笑顔でそれはないと否定する友奈。
気づいて! 2人が気にしている覗き魔はすぐ隣にいるってことに⁉
「本当、丹羽君には困ったものね」
自身が犯している軽犯罪をおくびにも出さず東郷が言う。
こうして東郷秘蔵の友奈ちゃんコレクションが着実に増えていくのであった。
「ひぃ~! 星屑だよ~! 死ぬ、死んじゃう! 助けてメブ~!」
防人スーツを着て大きな盾を持った雀の声に、隊長の楠芽吹は素早く指示を出す。
「サンプルの採取作業を終了。みんな、撤退作戦に入るわよ」
現在芽吹たち防人たちがいるのは四国ではなく、壁の外の赤色がどこまでも広がっている世界。
そのなかでもかつて兵庫県と呼ばれていた大地があったはずの、今は溶岩と炎が絶えず押し寄せてくる場所だった。
今回もハズレだった。ここは人が住める土地ではない。
だが、こうやって土壌サンプルを持ち帰るのも防人としての重要な任務の1つ。そういう意味では敵の存在をいの1番に知らせてくれる加賀城雀という存在はこの防人隊にとって最も重要な存在ともいえるかもしれない。
「護盾隊は盾を展開! 撤退する部隊を守りつつ後退!」
「了解」
「りょ、了解。ぎゃー! くるくる来ちゃうよ~!」
「銃剣隊、護盾隊の後ろから射撃用意。大丈夫。いままで通り冷静にやれば今回も勝てるわ!」
「了解」
「この弥勒夕海子の射撃の技、お見せして差し上げますわ!」
「守ってばっかりなんて面倒くせぇ! なます斬りにしてやんぜ!」
「シズク、突撃はまだ! 今は射撃に専念してちょうだい」
銃剣隊の弥勒夕海子と山伏しずくのもう1人の人格、シズクの言葉に芽吹は注意を促す。
「ちっ、わーったよ」
防人は32人の集団での戦闘を軸にしている。もし1人が突出した戦闘をすればそこから全体が瓦解しかねない。
戦闘力の強い弥勒とシズクは頼もしくある半面、使いどころを間違うと隊から離れて戦闘で孤立しかねない性格なので芽吹としても慎重になる。
やがて、芽吹の目にもはっきりとそれは見えてきた。
赤一色の世界に点々と広がる白いドット。星屑と呼ばれるバーテックスでも最下級の存在。
だがそんな最弱の敵でも勇者と違いただの人間に毛が生えた程度の戦闘力しか持たない自分たちにとっては脅威だ。過去に何度もその襲撃を退けてはいるが、油断はできない。
「まだまだ、引き付けて……撃てー!」
芽吹の号令とともに銃剣隊の砲が火を噴く。星屑は銃撃を受け消滅していった。
「よし、殲滅完了。今のうちに撤退…」
「ダメ! ダメだよメブ! まだ危ないのが消えてない!」
雀の言葉に第2波を警戒する芽吹だが、その様子はない。
「雀? いったいどういう」
「ダメなんだよメブ、もう。囲まれてる! 怖いのがそこら中にいるんだよ!」
顔を上げた芽吹は、あまりの光景に自分の目を疑った。
上だ。数えきれないほどの星屑が上から自分たちを見ている。
それだけでなく防人隊が逃げようとした方向にも星屑発見の報告があり、すでに自分たちは雀の言うように囲まれているのだと知った。
唇を強く噛む。なんてことだ。もっと3次元的に戦況を見なければならなかったのに、どうして自分は。
「メブ~、どうしよう?」
「おい、芽吹! どうすりゃいい⁉」
「芽吹さん、ご指示を」
仲間たちの声に後悔している場合ではないと意識を戦闘に戻す。
そうだ。自分たちは防人。勇者ではない。
簡単に替えのきく存在。だが自分がリーダーである限り誰も欠けさせない。そう誓ったじゃないか!
「護盾隊、撤退方向へ。みんな、一点突破を試みます。シズク、弥勒さん。派手に暴れてもらうわよ」
「了解。弥勒家の名を上げるチャンスですわ!」
「やっとかよ。ようやく暴れられるぜ」
「
「あ、あの~メブ? 殿って、一番危ないところじゃ…」
「だからこその采配よ。頼りにしてるわ雀」
「いやー! 安全な真ん中がいいー! あ、でもメブが死んじゃったらどのみちみんな…うわーんやったるぜー!」
雀も覚悟を決めてくれたようだ。あとはタイミングを…。
その時、信じられないことが起こった。
「え?」
その光景を見て、声を上げたのは誰だったか。もしかして自分だったかもしれないと後に芽吹は語る。
なんと、星屑が星屑を食いだしたのだ。
共食い。同族食い。自然界では最も忌避される行為。
それを何の前触れもなく、当然のように突如現れた普通の星屑より大きい星屑が防人隊を囲んでいた星屑を食っていく。
それも1体や2体ではない。
複数の数の群れがすさまじい速さで飛んでくると防人隊を包囲していた星屑を食いだした。それでも飽き足らず今度は中空に突如現れた生まれたばかりの星屑も食っている。
なんなんだこいつらは。
理解不能な状況に、防人隊は恐れおののき金縛りにあったように動けない。
やがてあれだけいた大量の星屑を全て食べ終えてしまった普通の星屑より1回りも2回りも大きい星屑は、防人隊をじっと見つめていた。
あ、これ死んだな。
加賀城雀は自身の危険レーダーが振り切れて動作不良を起こしたのを感じた。あまりの絶体絶命に、何の反応もしなくなったのだ。
だが巨大な星屑たちは何もしてこない。防人隊を観察しているかのように、じっと見つめるだけで何もしようとしない。
あれ? これひょっとして安全なのでは?
雀は共食いをしていた星屑たちを見て思う。奇しくも防人隊で1番最初に冷静になったのはいつもパニックになっている彼女だった。
「め、メブ? 撤退しないの?」
雀の言葉にはっとした芽吹は急いで指示を出す。
「ぜ、全員撤退! 護盾隊と銃剣隊は星屑に注意を向けたまま! でも決して攻撃はするな! ゆっくりと、ゆっくりと後退!」
芽吹の言葉に金縛りにあっていた防人隊は慌てて陣形を組みなおし、じりじりと後退を開始する。
だが、そんな吹けば飛ぶような獲物を前にしても不気味なことに共食いをしていた星屑たちは動かず、中空に突如出現する新しい星屑を食うことはあっても決して防人たちに手を出すことはなかった。
あーあ、出会っちまったか。
というわけで防人隊に見つかっちゃいました。
まだアニメ本編3話終わったばかりだけど大丈夫か?
(+皿+)「大丈夫じゃない、問題だ。
まあ、共食いしてたところ見られただけだし、バレないバレない」